猫趙はギロリと睨みながら拳を構える七輝へとじりじり間合いを詰めていく。
(―――さっきの拳、どういう原理だにゃ)
七輝をよく見ると霊衣を纏っているが盡器は無い。恐らく力はあるが中途半端で未熟。やたら滅多ら力任せでどうにかする脳筋なのだろうと猫趙は高を括る。
「威勢はいいが、調子に乗ったこと後悔させてやるにゃ」
「ごちゃごちゃうるせぇ!後悔すんのはてめぇだ!」
最初に踏み込んだのは七輝だった。一瞬で間合いを詰めて再び赤熱化した拳をお見舞いする。
しかし猫趙は腹部を横へと反らして拳を躱し、長い腕を伸ばして七輝に向けて鉤爪で切裂こうとした。
「ふんっ!」
七輝は踏み込んだ足を軸に回転し上段回し蹴りを放ち鉤爪を弾き返す。弾き返した勢いで猫趙の顔面へと跳び蹴りを放つが猫趙は体を反らして躱す。
「―――
起き上がる勢いで両手の鉤爪で交差に切裂いてきた。当たる寸前、七輝は足に令力を込めて黒雲を纏わせ跳び蹴りをし両鉤爪とぶつかり合わせた。攻撃を防げたが衝撃を抑えきれずに七輝はふっ飛ばされた。
「にゃーん、所詮はガキ。殴る蹴るでニャーを倒せると思っ―――」
ふっ飛ばされ七輝を嘲笑うが七輝が体を翻して受け身を取っり、バチッと雷が弾ける音がした瞬間には猫趙の真正面まで迫っていた。
「にゃっ速「黒蹄っ!!」に゛ゃっ!?」
黒雲と黒雷を纏わた蹴りが猫趙の顔面に炸裂する。猫趙はふっ飛ばされ、七輝は直ぐ様追いかけていった。
____
「は、速い……」
猫趙を圧倒するような七輝の動きに結城は目を丸くしていた。以前月詠と戦っていた時よりも速いのではと結城は予感する。
「レベル3の幻妖はバカに任せて……さっさと残りの群れを一掃するわよ」
結城が七輝の戦いを見ている最中、愛蓮が前へ出てレベル2の幻妖の群れと戦っている彩葉へ向かおうとしていた。
「鮫島さん!?け、怪我の方は……」
「結城達が時間を稼いだおかげ応急処置も済んだし。それにあたしは簡単にくたばんないから。後はあたし達に任せて」
キッと幻妖の群れを睨み戦闘モードへと移った愛蓮は駆け、勢いよく跳んで裁ち鋏の形をした盡器を振り下ろして彩葉の正面にいた幻妖を両断する。
「鮫島殿っ!助太刀感謝でござるよ!」
愛蓮と彩葉は背中合わせになって取り囲むように蠢く幻妖の群れと対峙する。
「彩葉、まだ余裕?」
「もちのろん!余裕でござる!」
令力はボロボロになっているが余裕の笑みを見せる彩葉に愛蓮はフッと笑って頷く。
「じゃあ……まとめて片付けようっか!」
愛蓮は裁ち鋏の形をした盡器を片手で回転させる。
「
彩葉が刀を鞘に収めて低く屈んで構え、そのタイミングに合わせて愛蓮は大きく薙いだ。
「―――
薙いだ瞬間、裁ち鋏の盡器の刃から鮫の影の群れが現れ、一斉に竜巻のように泳いで幻妖の群れを斬り刻みながら舞い上がった。
「彩葉、今っ!」
愛蓮の合図と同時に彩葉が影の鮫を踏みながら駆け上がり、上空へと飛ばされた幻妖の群れへと迫る。
「
鞘から刀を抜くと刀身は黒いオーラに纏われ、彩葉は力強く握りしめて刀を振るう。その刀を振るう速さは刹那の瞬きの如く、幻妖の間を縫うように駆け上がりながら刻む。
「―――
彩葉が着地し刀を鞘に収めたと同時に幻妖の群れは黒墨のような飛沫を上げながら刻まれ両断されて消滅していった。
「……彩葉、あんたもやるじゃん」
「鮫島殿もナイスでござる!」
愛蓮と彩葉は両手でハイタッチし、結城は二人のコンビネーションに目を丸くしていた。
「鮫島さん達も結構強いんだね……」
「まああのバカほどじゃないけど」
「よーし!拙者達も真田殿の助太刀にいくでござるよ!」
ふんすと張り切って七輝のもとへと向かおうとした彩葉を愛蓮は首根っこを掴んで止めさせた。
「ふぎゃっ!?さ、鮫島殿、なんでぇ!?」
「あたし達が行ってもあのバカの邪魔になるし……今は真田に任せるしかない」
愛蓮の言う通り、七輝が奮闘しており自分達が割って出ても邪魔になるかもしれない。
「そうだよね。僕達は急いで救援を呼ぼう」
「あ、その信号弾は使えないみたいよ?どこのバカが渡したか知らないけど」
「ええっ!?じゃあどうするでござるか!?」
慌てふためく結城と彩葉に対して愛蓮はしばらく考えたがため息をこぼす。
「……とりあえず、真田がピンチになったら借りを作ってあげよっか……」
「要は当たって砕けろってことだね!覚悟はできてるでござる!」
「な、七輝くん……負けないで……!」
_____
「おらあああっ!」
七輝が威勢よく駆けて拳を振るうが猫趙は長い体を柳のように反らして躱し、鉤爪で切裂こうと振り下ろす。
「っ!あぶねっ!」
七輝は寸のところを回避し蹴りを放つがそれも猫趙はひらりと躱す。体を反らしながらバク転して着地した勢いで飛びかかり両鉤爪を振り下ろした。
「ふっ!」
迫る鉤爪に七輝は一歩踏み込み、赤熱化した拳の正拳を放って振りかかる凶刃とぶつかり合わせて防ぐ。
「この野郎、ちょこまか避けやがって…!」
悉く攻撃が当たらないことに苛立つ七輝に対して猫趙はニヤリとギザギザの歯を見せて嘲笑う。
「お前の攻撃は単調すぎて分かりやすいにゃ」
猫趙は駆けると正面に迫ると見せかけて横へと回り込み横腹目がけて鉤爪で切裂こうとする。七輝は躱して猫趙の腕を掴み背負投げをするが猫趙は体を翻し着地する。
「いい動きにゃんだが――」
正面に迫る七輝の跳び蹴りを猫趙はすっと体を反らしながら躱す。
「実に単純」
鉤爪の薙ぎ払いを七輝は赤熱化した両腕で防ぐが腕に切り傷を負ってしまった。七輝は後ろへ跳んで猫趙から間合いをとって構え直す。
(ちっ、不意打ちは効いていたが……それ以外はてんでダメだな)
油断している間の不意打ちは効果はあったが相手が警戒してからはまったく攻撃が当たらなくなった。長く靭やかに柳のように動く体は黒蹄も赤陽も効果がない。
「ほれほれ!余所見する余裕はあるかにゃ!」
猫趙が鉤爪で切裂こうと七輝に迫る。七輝は凶刃を躱し、防ぎながら考え始めた。猫趙に効く一撃は何か、思考を張り巡らせる。
「にゃははは!さっきまでの威勢はどうした!」
猫趙が嘲笑いながら鉤爪を振るうも七輝は相手にしないかのように只管防ぎ、躱していく。
「猫齧!」
勢いよく振り下ろされた両鉤爪の斬撃を七輝はギリギリのところを回避するも、体に浅く交差する切り傷を負った。七輝はポカンとしなが切り傷をなぞり、血がついた手をまじまじと見つめた。
「にゃははは!どうだ、恐怖で声も出ないかにゃ!お前は生きたまま刻まれニャーの餌にしてやるにゃ!」
高々と嘲笑う猫趙に対して七輝は納得したように頷いた。
「やっぱ斬撃が欲しいなぁ……」
「………は?」
突拍子もない七輝の発現に今度は猫趙がポカンとした。
「殴る蹴るだけじゃなくて、斬撃も習得した方がいいよなぁ……うーん……なあ、俺にもできるか?……え、俺にもできる!?よっしゃぁ!」
「な、なんだこいつ……?」
突然1人で会話をしだした七輝に猫趙は恐怖で頭がおかしくなったのか、現実逃避をしだしたのか不可解な行動に少し引いた。
「そうだなー……かっこいいのもいいけど、基礎を疎かにしちゃいけねぇ……効率よく……よし、こんな感じでやってみるか」
七輝は
「まあいい……現実逃避したままあの世に送ってやるにゃ!」
猫趙は嘲笑いながら一気に七輝へと迫り、勢いよく鉤爪を振り下ろした。
「猫殺!!」
七輝の首を裂こうと鉤爪を力強く振り下ろす。だが一向に鉤爪の凶刃が見えない。寧ろ右腕が急に軽くなった感覚がした。
「……にゃ?」
腕の方へ視線を向けると右腕はバッサリと斬られ、斬られた右腕は宙を舞ってドサリと地面に落ちた。
「……にゃ?にゃ!?にゃにぃ!?」
腕を斬られたことを認識した途端、斬られた腕から激痛が走り、猫趙は悶えた。
「き、きさまぁ!!な、な、何をしたぁ!?」
「うーん……ちょっとずれたか……」
睨む猫趙を気にする事なく七輝は難しい顔しながら首を傾げた。
(な、なんだ……ま、まさか斬撃!?ニャーには見えなかったぞ……!?)
「しっかり……狙いを定めて……」
七輝が猫趙に向けて指をさす。その瞬間、猫趙は死をぞわりと感じた。その場を直ぐ様離れた直後、背後の先にある木が横に切断された。
「………!?」
猫趙は絶句した。七輝が放ったのは高速に放った斬撃ではなく不可視の斬撃だった。
「なんだ……何なんだお前は……!?」
突然斬撃を放てる力を得た七輝に猫趙は恐怖する。だが七輝は睨んだま指をさす。
「てめえは知る必要はねぇ……ただてめえは俺を怒らせた」
「……っ!?」
このままではやられる。猫趙は踵を返してこの場から逃げようと駆けた。しかし、七輝は逃さず指先に令力を込めた。
「逃さねぇよ。一式――」
放たれるは闇夜を照らす月の光の如く。
「――『
令力を飛ばしたと同時に放たれた不可視の斬撃は猫趙を縦に両断した。
「にゃぎぃやぁっ……!?」
断末魔を上げて両断された猫趙の体はチリチリと消滅してく。
「ニャーが……こんな餌風情に……あのエセ僧侶……め……こんなヤバイ奴……がいるって聞いて……ないの……にゃ」
猫趙は恨み節をこぼしながら体が朽ちていき、完全に消滅した。
「……?エセ僧侶?何言ってんだこいつ?」
猫趙が最期によく分からないことを言っていたが七輝は気にすることを止めた。
「まあいっか、てめぇの敗因は俺を怒らせたことだ……あ、そうだユッキー達の所へ戻らねえと」
七輝は振り返ると結城達の所へと歩いていった。
_____
「ユッキー!大丈夫かー?」
手を振りながら戻るとそこには伏見と月詠、そして服部がいて結城達を手当てしていた。
「七輝くん!無事でしたか……!」
「真田も無事でよかった。レベル3の幻妖は…?」
伏見が安堵して、月詠が駆けつけると七輝はエッヘンと胸を張る。
「俺が片付けてやりましたよ!新技習得してチョチョイのチョイっす!」
ドヤる七輝に月詠は驚くが、ボロボロに傷だらけになっている七輝の姿を見てふっと微笑んだ。
「レベル3を……まったく、無茶をして。だが、仲間を守りぬいた。よくやったな真田」
「はっはー!褒めてもなんも出ないっすよツッキー先輩!」
「あのバカ、すぐ調子に乗るんだから……」
「真田殿、鼻の下が伸びてるでござるよ……」
「でも七輝くんらしいや」
明るく振る舞う七輝に結城達は苦笑いをする。そんな中、服部がバツが悪そうな顔して七輝に歩み寄る。
「真田……」
「ん?服部パイセン、どうしたんすか?」
キョトンとする七輝に向かって服部は土下座をした。
「すまなかった……!お前を妬んで、懲らしめようと小細工して、そのせいでお前やお前のチームを危険な目に遭わしてしまった…!」
一歩間違えていたら死人がでていた。自分のした事は実に愚かだったと打ちのめされた。
土下座する服部に七輝は無言のまま近づき屈む。服部は仲間を危険な目に合わせた、怒りに殴られると覚悟し目を瞑る。しかし怒りの拳は無く、七輝は優しく肩を叩いた。
「パイセン、顔を上げてくだせぇ。俺はこんな事で怒らねぇっすよ」
「真田……?」
「村にいた頃は……妬み妬まれ住民から殺されそうになったり、同い年から崖に突き落とされたり色んな目に遭ってるから、慣れてるっすよ。それに……」
七輝はチラッと結城達の方へ視線を向ける。
「今回は俺がユッキー達を危ない目に遭わしてしまったんすよ。パイセンは何も悪くない。せっかくできた親友を失わずにすんでよかった……ただそれだけで十分」
「……!」
七輝の言葉に服部は言葉を失い、俯いた。自分がやったことがどれだけ小さく愚かだっか、服部は己を恥じた。
「真田……すまなry」
「あ、でもその代わり飯をみんなに奢ってくださいっすね!」
「やっぱりお前って奴は!!」
さっきまでの態度が一変しドッと笑う七輝に服部はずっこけそうになった。飄々としている七輝の姿に月詠はくすりと笑った。
「本当に面白い奴だな真田は……」
「ほんと……スマホ壊されて怒ったり、調子に乗ってたりと元気すぎる奴ね……」
ため息をこぼして愚痴った愛蓮の言葉に、七輝は思い出したかのように膝をついて落ち込みだした。
「な、七輝くん!?どうしましたか!?」
突然膝を崩れてこの世の終わりかのように絶望しだした七輝に伏見はギョッとした。
「フシミン……俺のスマホ、壊れた……七咲先輩とお話できねぇ……もうダメだ、おしまいだぁ……」
「いや、ちょ、えぇっ!?」
ころころと表情が変わる七輝に結城達は苦笑いをした。
その日以降、七輝は七咲と連絡できないことですごく落ち込み、彩葉が『手紙を出してみては?』と提案するまでしばらく部屋に引き込もっていたのは別の話。
黄月……宿儺の『解』みたいに通常の斬撃
七輝「俺も斬撃やりたいなぁ。できる?」
ニジカガチ『できるで』
七輝「すんごい斬撃……例えば見えない斬撃とかできる?」
ニジカガチ『できるで。基本を教えたるからやってみい』
てなかんじ