虹の陰陽師   作:サバ缶みそ味

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 伊達巻をもっと食べたい


5話 黒蹄

 

 

「どしたー?もうくたばっちまったか?」

 

 どう相手が動くか見極めるよりも先に七輝は相手を煽っていく。崩れた壁から猩猩が飛び出し、片腕を伸ばして力強く叩きつけた。

 

「小僧がっ!!自惚れるなぁっ!!」

 

 怒声を上げるが七輝は軽々と躱し迫ると今度は蹴りを入れる。しかし二度目の急襲は通じず猩猩の3つの腕に防がれた。

 

「む……?」

 

 何か違和感を感じたのか戦闘の最中にも関わらず七輝は不思議そうに眉を顰めた。

 

「ふんっ!!」

 

 そんな隙を見せた七輝に猩猩の拳が迫る。七輝はすぐさま防ぐが吹っ飛ばされ黒板のある壁に当たり壁が崩れた。

 

 瓦礫から直ぐに出てきた七輝は痛みを感じていないのか気にしていないのか難しい顔をして首を傾げる。

 

「んー……なんか違うなぁ……」

 

 痛みよりもさっき蹴りに違和感を感じていた。

 

(初手は意表を突いたがさっきの蹴りに手応えはなかった……)

 

 弱い幻妖なら殴る蹴るで簡単に倒すことができたが、猩猩のような幻妖には吹っ飛ばすことはできるがダメージを与えたような手応えを感じなかった。

 

(先輩が言っていたレベル2の幻妖には力任せはあまり通じないか……)

 

 七咲のアドバイスっある『令力を込めるイメージ』を思い出す。昨日でだいたいコツは掴んだ。後は慣れるために実戦を行うのみ。

 

「うっし、やってみるか!」

 

 気合を入れるのも束の間、相手を叩き潰さんと振り降ろした猩猩の両手の拳が真上に迫っていた。

 

「っと!」

 

 軽々と後ろへ下がって躱して、更に迫るもうふたつの拳を片手で弾かせる。攻め込めるチャンスを得ると足に力を入れて相手の懐に飛び込んだ。

 

(力を込めて―――)

 

 令力を拳に注ぎ込むイメージをしながら拳を握りしめた。

 

(――――ぶん殴るっ!!)

 

 力を込めた拳の一撃が猩猩の腹部に直撃する。

 

ふぐおぉっ!?

 

 強烈な一撃をくらった猩猩の顔が激痛で歪み、衝撃で巨躯が壁という壁をぶち抜きながらぶっ飛ぶ。

 倒すことは未だできてはいないが手応えはあった。七輝は拳を見つめ満足して頷く。

 

「この調子でいけばやれる……」

 

 後は力の調整をすれば恐らくレベル2の幻妖であろうあの猩猩を倒すことができるだろう。

 

「これなら楽勝だな!」

 

 猩猩の攻撃は至って単純。躱して殴り続けば楽勝すぎると高を括る。

 

 

「小僧……図に乗るでないわ……!!」

 

 殴られた腹を擦り怒声をあげながら起き上がる。しかし七輝は猩猩の怒りにより高まる令力よりもこのまま戦いながら旧校舎を壊して大丈夫なのかと気になっていた。

 

「もう出し惜しみはせん―――」

 

 すると猩猩は両手の十指を互いに組み入れた手印を組み、残りの両手を床につけた。

 

「―――『結怪・毛有毛剣(けうけけん)』」

 

 猩猩の身体や腕の毛が天井や床へと一気に伸びたその瞬間、毛が束になってできた鋭利な棘が天井や床や壁から突き出してきた。

 

「おおっ!?」

 

 上から下から横から突き出しこちらに迫りくる毛の棘に七輝はギョッとする。痛いじゃすまないし臭そうだしと絶対に刺さりたくない、七輝は何が何でも避ける覚悟をする。

 

 そんなことを考えていたら真下から毛の棘が突き出してきた。

 

「うおっと!」

 

 串刺しになりたくないと必死に避ける。ほっと安堵したその時突き出した毛が枝毛となって伸び、七輝の顔に迫る。

 

「まじか!!」

 

 寸のところを躱し棘が頬を掠めた。棘の伸びはそれで終わりではなく、伸びた毛が更に数多の枝毛へと分かれ棘となって一気に伸びていく。

 無数の棘を躱すが横腹、腕、脹脛、肩とあらゆる箇所に掠り傷が増えてしまう。一箇所に留まり避け続けても毛の棘で埋め尽くされて串刺しにされてしまう。

 

「こうなりゃ……突っ走るしかねぇっ!」

 

 教室の壁を突き破り広い場所へ脱出を図る。しかし毛の棘は逃さんと言わんばかりに天井、床、壁から七輝を追い詰めるように突き出しながら迫っていく。

 

(いくら離れようが意味がねぇか……)

 

 この状況をどう打破するか壁を突き破りながら思考する。猩猩が印を結び残りの両手で床に手を付けた直後に毛が伸びて棘が突き出した。

 ならば印を解かせる一撃をぶちかましてふっ飛ばせばいいか、と思いつくがそのためにら迫りくる毛の棘を突き抜けなければならない。

 

(突き抜ける、か……いや貫くってところか?)

 

 貫くという言葉でふと思い出す。

 

(たしか……先輩は蹴りで幻妖を貫いてたな……)

 

 七輝が見惚れていた先輩のロングブーツ。かっこいいと感動したロングブーツでの蹴り。

 

「見様見真似になるが……かっこいいからいいよな!」

 

 

 足全体に令力を込めるイメージをして力を溜める。毛の棘がもう間近に迫ってきているが恐れることはない。

 

 

『――――――‼‼‼』

 

 

 脳裏に甲高い咆哮が聴こえた。それは()()()()()()()()()()だと直ぐに理解した。

 

 

「そうだよな!()()()も楽しくなってきたよな!」

 

 

 

 大きく息を吸い、足に令力を更に注ぎ込ませていく。足元から黒雲が現れ、足元からふとももまで包みこみバチバチと黒い雷が迸る。

 

 

 最大火力で貫く。七輝は力強く足を踏み入れた。

 

「っしゃあ‼」

 

 『バチッ‼』と弾けた音を響かせ飛び蹴りで一気に迫りきていた棘を貫いていく。バキバキと毛の棘をぶち折り、猩猩に迫った。

 

 

「な……速――――」

 

 目の前に迫った七輝に猩猩が驚くが言葉を続けさせる暇も与えない。七輝は黒雲を纏った足に力を入れる。

 

 

「『一式―――」

 

 足が腹部に当たった直後、烙印でプレスされたような身体が焼ける激痛と熱さで猩猩の顔が更に歪む。

 

 

「――――黒蹄(こくてい)』‼」

 

ぶがごっ!?

 

 

 バチバチと黒い雷が激しく迸る蹴りで猩猩を思い切り蹴り飛ばした。ふっ飛ばされた猩猩は壁を突き抜け校庭へと落ちていく。

 

 

「ぐぬ……げはっ……」

 

 

 強烈な一撃を受けた猩猩に焦りが募る。先ほどまで殴りか蹴るしかできなかった陰陽師(?)がいきなり強くなった。

 

(――ありえん……)

 

 実力を隠していた、と思わせる素振りはみられなかった。

 

 

「んー……毛の棘を貫くことしか考えてなかったから火力が足んなかったか?」

 

(まさか……戦いの中で成長する輩か――!?)

 

 このままダラダラと戦い続ければいずれこちらが負けてしまう。

 

(――力に慣れる前に急ぎ始末せねば!)

 

「次は仕留める――」

 

 印を結んで再び毛の棘を伸ばそうとしたが、いつの間に足に黒い雷雲を纏わせた七輝が迫っていた。

 

「『一式・黒蹄』」

 

 その時猩猩は死を感じた。避けなれば着実に消滅する。本能に従い猩猩は避けた。

 

 バチバチと音を響かせ黒い稲光が過ぎった瞬間、猩猩の上の右腕が消し飛んだ。

 

「ガッ―――⁉」

 

 激痛に堪えつつ残りの3つの腕で傷を抑えながら振り向く。新校舎の三階に大穴が空いていた。

 

 

「あれれ……出力を間違えちったか」

 

 テヘッと笑う七輝に猩猩は背中に冷や汗が流れたのを感じた。

 

 逃げてはいけない、急ぎあの小僧を殺さなければ確実にこちらが死ぬ。

 

 猩猩は覚悟を決めた。

 

 

_______

 

 

 

 学校の警備を任せられている陰陽師、七咲は急ぎ学校に向かっていた。

 

「まさか緊急の知らせが来るなんて――」

 

 学校に設置されてある人払いと防壁の結界の式が発動されたと知らせがあった。

 自動で発動される術ではあるがそれが発動されるのは学校に何か校舎が壊されるほどの緊急事態が起きた時のみである。

 

「周防っ!」

 

 学校へ向かっている最中、自分より小柄な女子学生と合流した。

 

「古賀!状況はわかる!?」

 

 古賀と呼ばれた少女、七咲と同じく学校の警備を任せられている陰陽師の一人である。彼女も同様、いきなり起きた事態に焦っていた。

 

「なんか学校がヤバイってのはわかる!」

 

 七咲は心配でたまらなかった。なにせ寮で寝泊まりしている七輝に朝練を付き合う約束をしている。彼のことだから張り切って自分よりはやく学校に来ているはずだ。

 

「あ、あと結界の状態と中の状況を確かめてる他の陰陽師の情報によると――」

 

 七咲に嫌な予感が過る。

「校内にレベル2らしき大型の幻妖と()()()()()()()()が一人で戦ってるって!」

 

「やばっ」

 

 七咲は霊衣を纏うと速度を上げて学校へ向かった。古賀が止めようとする声が聞こえたがそれどころではない。

 

 所属不明の陰陽師、間違いなく七輝のことだと確信した。

 

 

「真田、無事でいて――!」

 

 

 

 

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