虹の陰陽師   作:サバ缶みそ味

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 だんだんと巻末に迫ってきてるから打ち切りになるんじゃないかとドキドキしてた……


6話 赤陽

 猩猩は生命の危機を体感していた。根のように伸ばした体毛による棘で抗っても、当たらぬ間合いへと逃れようとしても、己が消滅する姿が過ってしまう。

 

 棘を掻い潜り、逃さまいと迫ってくる()()が近付くたびに猩猩は死の予感が襲い掛かる。

 

 

「逃げんな!オランウータン野郎っ!!」

 

 足に黒雲を纏った七輝の飛び蹴りが猩猩の顔めがけて迫っていた。ヒュッと息をつまらせた猩猩が咄嗟に躱すと七輝の飛び蹴りは再び校舎へと突貫する。

 

(何なのだ、あの小僧は……⁉)

 

 猩猩は絶句する。急ぎ息の根を止めようと技を放つが七輝は物ともせずにがむしゃらに倒そうと襲い掛かっていく。

 気がつけば校舎は穴だらけ、半分以上が瓦礫の山、グラウンドには幾つもの大穴が。七輝の戦いは周りを全く気にしていない。

 

(小僧……あやつは本当に陰陽師か……⁉)

 

 無闇矢鱈に暴れ、所構わず破壊しただ只管に戦いを楽しんでいる姿は陰陽師でもなんでもない。感じるはずなかった恐怖を今は体感している……己は一体何と戦っているのか

 

(あれはまるで……)

 

「オラァ!!逃さねえぞ‼」

 

 断言する前に七輝が迫ってきているのに気づいた猩猩はすかさず体毛を集束した棘を七輝に向けて伸ばす。

 

「さっきからちょこまか逃げて棘ばっか伸ばしやがって……」

 

 七輝は迫りくる棘を躱すと猩猩の集束した体毛の上に乗り、体毛を傳って一気に駆け出す。

 

「傳っていけば大元にたどり着くってなぁ!」

 

「っ⁉」

 

 一気に駆ける七輝に向けてすぐさま他の体毛を集束させた棘を伸ばす。しかし、猩猩の判断よりも七輝が速かった。

 

「一式、『黒蹄』‼」

 

 七輝の黒い雷雲を纏った飛び蹴りが猩猩の顔面に炸裂する。バチバチと黒い稲光を発し、メキメキと猩猩の顔面に食い込む。

 

「――――っ⁉」

 

「こんのぉっ‼ぶっ飛びやがれ‼」

 

 更に力任せに押し込ませて猩猩をぶっ飛ばした。猩猩の大きな体は新校舎の壁に直撃し瓦礫の中へと埋もれていく。

 

「……ちっ、思うようにコントロールできてないなぁ」

 

 未だに力のコントロールがうまくできていないことにもどかしく感じていた。『黒蹄』は七咲の盡器を見様見真似で作った技(?)、今のところ貫通には長けているようだが相手を力技で倒すには決定打が乏しい。

 

「うーむ、蹴り技以外の技も使った方がいいのか……なあ、()()()はどう思う?」

 

________

 

 

 七輝が試行錯誤しながら猩猩と戦っているその間、七咲はようやく校舎前にたどり着く。

 

 

「副隊長っ!な、中の現状は!?」

 

 

 自分がたどり着く前に既に顧問と副隊長の他幾人かの陰陽師が集まっていた。副隊長である男性も冷や汗をかいている。

 

「早朝に結界が発動したおかげか中に生徒や民間人はいない。だが………」

 

 

 副隊長が話している最中に何かが崩れる大きな音と共に地響きが起きた。

 

「け、結界は大丈夫なんですよね……?」

 

「あ、ああたぶん……それで話の続きだが中では猿のような大型の幻妖と所属不明の陰陽師が戦っている」

 

 所属不明、思い浮かぶとしたら七輝しかいないと七咲は確信していた。

 

「幻妖は姿と動きからして恐らくレベル2、あるいはレベル3……先ほど隊長達が応援に駆けつけると知らせがきた」

 

 間もなく到着すると言ってはいるが七咲は待っていられなかった。急ぎ結界の中へと入り七輝を助けなければ、七咲は急ぎ結界の中へと入り込んだ。

 

「っ!?お、おい!?」

 

 顧問が七咲を制止させようとするが彼女はそれどころではなかった。

 

「彼を助けないと!今中で戦っている陰陽師……彼はまだ陰陽師じゃないんです!」

 

 いったい何を言ってるのか、彼らは困惑していたがそれにも構わず七咲は校舎へと駆けていった。

 

(!?校舎が半壊してる……!)

 

 

 七咲が思っている以上の惨状に更に焦りを募らせた。七輝はこんなに壊わす力を持つ幻妖をたった一人で相手をしていたのか、七咲は七輝の無事をひたすら祈り彼を探す。

 

 

 尚、校舎を半壊させたのが幻妖ではなく七輝本人であることを彼女は知らない。

 

 

 七輝を探す最中、轟音と振動と同時に土煙が上がるのが見えた。

 

「あそこか!」

 

 土煙が上がっている場所に七輝がいるはず。七咲は急ぎその場所へと向かった。彼の身に何かあったら…また身近の人を失ってしまったら、彼女の心に暗い感情が重くのしかかる。

 

(真田…!お願い、間に合って……!!)

 

 

 

 願いが通じたのか定かではないが、七咲は彼の後ろ姿を捉えることができた。かすり傷や土埃が目立つ姿ではあったが七輝が無事であることに安堵した。

 

「真田!」

 

 七咲の声に七輝はすぐさま反応し、振り向くやいなや明るい笑顔を見せた。

 

「あっ先輩!おはようございます!」

 

 挨拶をしている場合ではない。そうツッコミをいれたいのだが今は幻妖を退治しなければならないし聞かなければならないことがある。

 

「先輩!俺、ちょーカッコイイ必殺技を習得したんっすよ!それでオランウータンみたいな「小僧がぁっ!!図に乗るなよぉぉっ!!」お?」

 

 

 七輝の話を遮るように土煙から猩猩が飛び出し、大きな腕で七輝を殴り飛ばした。

 

 

「真田っ!?」

 

 殴り飛ばされた七輝は一部瓦礫の山となっていた校舎へと埋もれ、猩猩はすかさず追い討ちをかけようと毛の棘を伸ばす。

 

 

「させないっ!!」

 

 

 七咲は盡器に力を込めて加速。蹴りによる衝撃で猩猩の毛の棘を断ち切った。

 

「小娘が……邪魔をするなっ!!」

 

(この幻妖は何なの…?)

 

 七咲は襲いかかる幻妖を分析する。見た目からしてレベル2、あるいはレベル3になりかけだが、普段知る幻妖より饒舌に喋り、思考し、怒りといった感情がある。毛を伸ばすといった技を持ち、幻妖らしくない幻妖であった。

 

(いや、考えるのは後。退治に専念しなきゃ!)

 

 盡器を加速させ、一気に肉薄。猩猩の腹に蹴りの一撃を入れた。

 

「むぐぉっ!?」

 

 猩猩が苦悶の顔を浮かべるが決定打には至らない。七咲を捕らえようと3つの腕が伸ばすが七咲は避けて下がった。

 

 

「思った以上に硬い……」

 

 

 勢いで駆けつけてしまった故に七輝を守りながら一人で相手しなければならない。

 彼を救助して離れるのは難しい。応援が来るまで時間を稼ぐしかないと七咲は腹を括る。

 

「やれるだけやるしかないか!」

 

 猩猩が伸ばす毛の棘が目の前まで迫ってきていた。七咲は縫うように躱し、蹴りで断ち切っていく。

 

(毛を伸ばしている間は動けないみたい……だったら!)

 

 盡器に令力を込め加速し、迫りくる毛の棘を避けると猩猩の背後に回り込んだ。

 

(もらった!)

 

 七咲が蹴りの一撃を入れようとしたその時、背中の毛が盛り上がったかと思ったら大きな腕が現れ伸びていく。

 

「なっ、隠し腕っ!?」

 

 猩猩の腕は4つと背中の長く大きい隠し腕で計5本。不意を突かれた七咲は捕えられてしまった。

 

「小僧のみならず小娘もちょこまかと動き回りおって……」

 

 体を掴まれ逆さにされた七咲は逃れようと藻掻く。しかし猩猩が強く握りしめて苦痛に苦しめられた。

 

「……っ!」

 

 

「まあいい……小僧より先に喰うてやるか。女の肉は柔らかくて美味い」

 

「っ!?」

 

 

 猩猩が大口を開けて近づいてくる。必死に抜け出そうと足掻くが動けない。

 

(まだ……まだ死ぬわけには…っ!!)

 

 

 その時、バチバチと電気が迸る音が響いた。

 

 

「おらああああああっ!!」

 

 

 音速で駆けるが如くの速さで七輝が猩猩の腹に蹴りの一撃をお見舞いした。

 

「もぶごっ!?」

 

 同じ箇所にダメージを負ったようでより重い苦悶な顔に歪んだ猩猩は激痛で七咲を離し、吹っ飛んでいく。

 

 七咲はすぐに態勢を戻して着地。七輝の方へ視線を向けると無傷の七輝に思わず二度見した。

 

 

「さ、真田、怪我はしてないの!?」

 

「あんなもん、爺ちゃんの拳骨に比べたら屁でもねえっすよ!それよりも……おいオランウータン野郎!!」

 

 

 苦痛を伴いながら起き上がる猩猩に七輝はギロリと睨んだ。

 

「よくも先輩を痛めつけてくれたな…!!こっからは先輩に毛一本も触れさせねえ!覚悟しやがれ!」

 

 頼もしいのか勇ましいのかよくわからないが七輝の姿に七咲はくすりと笑う。

 

「その意気だよ真田!応援が来るまで私達で足止めしよう!」

 

「足止めどころかぶっ倒してやりましょう!今いい考えが思い浮かび上がりました!」

 

 たった今かと眉唾ではあるが今は七輝の考えに乗るしかない。

 

「もういい……小僧共、串刺しにしてくれるわ!!」

 

 

 怒り狂った猩猩は全身の毛を集束させて無数の棘を伸ばし七輝達に襲いかかる。

 

「それで真田の考えはっ!!」

「とりあえずオランウータン野郎を上へぶっ飛ばしてください!」

 

 

 合点と、返事と同時に迫りくる棘を躱していく。七咲は速度を上げて躱し進み、七輝も彼女の速度に並ぶように突き進んでいた。

 

(私の速さについてってる……真田、すごいよ!)

 

 七輝の潜在能力に驚かされている。このままいったら七輝はきっとすごい陰陽師になるに違いない、七咲は驚きと嬉しさに目を輝かす。

 

「ふんぬっ!」

 

 七輝の目の前に迫っていた棘を彼は殴って切った。よく見ると七輝の両手と両腕は真っ赤に輝き、断ち切った毛は一瞬にして黒焦げになり毛の焼ける臭いが鼻に過る。

 

 

「貫くよりもこっちのほうがいいよなぁ!()()()も楽しんでるか!」

 

(え、私!?い、いや独り言かな…?)

 

 

 きっと熱が入ると自分の世界に没頭する癖があるのだろうか。七咲はとりあえず気にしないことにした。

 

「いくよ真田!ちゃんと合わせてね!!」

「押忍!!」

 

 

 七咲が先に猩猩に肉薄した。目の前に迫られた猩猩は腕を振り下ろすが七咲が速かった。

 

「さっきのお返しっ!!」

 

 腕をすり抜け、上へと打ち上げるようにドロップキックをぶちかます。

 

「ゴガッ!!」

 

 猩猩は顔を歪ませ高々と打ち上げられた。そんな猩猩を追うように七輝が足に力を込めて大きく跳んだ。

 

 

「小僧がああああっ!!」

 

 

 迫る七輝に恐怖したか猩猩は毛の棘を伸ばして串刺しにしようとする。しかし、その攻撃は七輝には届かなかった。七輝の赤く輝く腕に振り払われると毛の棘は黒焦げになって朽ちていく。

 

 

「てめえの技はもう効かねえ。俺を怒らせちまったからな!」

 

「ひっ―――」

 

 

『一式――――」

 

 赤く輝く拳が猩猩に当たると衝撃と赤く熱い光が広がっていく。その赤い光はまるで真っ赤に燃える太陽の陽射しの如く。

 

 

「『赤陽』!!」

 

 

 直撃をした猩猩の身体に大穴が空くと同時に、ガラスが割れるような音が響いた。校内を覆っていた結界が弾け飛んだのであった。

 

 

「ば……ばかな……」

 

 

 猩猩の身体が黒く焦げて朽ちていった。

 

 

「さん……三百年も……三百年も待ってようやく抜け出したというのに……」

 

 怨み節を呟くように猩猩は消滅した。言ってる意味はよくわからなかったが七輝は中指を立てた。

 

「先輩に手ぇ出した時点でてめえは終わったんだコノヤロー」

 

 七輝は着地して今の技はどうだったかと七咲の反応を楽しみに視線を向けるが、七咲は目が点になっていた。

 

「あ、あのー、先輩?い、今のどうでした……?」

 

 

 まさかダメ出しがあったか…七輝はドギマギする。そんな七輝に

対して七咲はだんだんと目を輝かせ笑顔を見せた。

 

「すっごいじゃん真田!まさか手強そうな幻妖を倒しちゃうなんてやるじゃんか!!」

 

 七咲は興奮してバシバシと背中を叩く。褒められた七輝は照れながらドヤ顔をした。

 

「イヤー先輩のご教示のおかげっすよ!先輩もめちゃくちゃカッコイイっす!!」

「コノー、褒めても何も出ないぞー!」

 

 

 今年の後輩は頼もしい陰陽師になるに違いない。七咲は彼が入学してくるのが楽しみになってきた。

 

「楽しみにしてるぞ後輩!」

 

 

 

_________

 

 

 

「……で、件の幻妖はどうなった?」

 

 

 学校の異常事態により応援に駆けつけた討伐隊第4支部隊長である鶤狩 兵一(いがり へいいち)は不機嫌気味に報告を聞いた。

 

「それが……反応が消えたことにより消滅したかと……」

 

 なんて言えばいいか分からないようで陰陽師の一人がしどろもどろに告げた。

 

「はぁ?消滅?」

 

 

 兵一は眉間にシワを寄せる。学校に張られていた結界が消滅する異常事態だというのに暴れていた幻妖が消滅したことに納得がいかない。

 

「確か中に所属不明の陰陽師と中に入った陰陽師がいたよな?あいつらが退治したのか?」

 

 

 それなら納得はするが……学校が半壊するほどだ。ここに配属されている陰陽師では対処しきれないはず。

 

「映像は残ってるな?後で見せろ。それから対処したであろう陰陽師に事情を……」

 

 

 兵一は話の途中で七咲と談笑していた七輝を見つけた。

 

 

「………なぜだ。なぜあの()()()()()()()()…!!」

 

 

 七輝の姿を見て兵一はギョッとすると同時に怒気が込み上がった。

 

「おい、すぐに怪捜に知らせろ。いますぐにだ」

 

「か、怪捜……怪異捜査本部ですか」

 

「それから他の部隊長も知らせろ。『虹の蛇神』、『ニジカガチ』を宿したクソガキが抜け出したってな」

 

 

 

 

_______

 

 

 

「ふむ……彼がよさそうと思ったんだけどなぁ」

 

 

 猩猩との戦いの中で()()()()()()()()旧校舎の窓から七輝を眺めていた女性は呟いた。

 

「まさか先客が、しかも『蛇神』と契約を結んでいたなら仕方ないか」

 

 女性はニッコリと笑って頷く。

 

 

「ま、気長に待つとしようか!」

 

 

 

 

 

 

 




ブレーザーのウルトラ蛮族さは思わず吹いた
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