リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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プロローグ 主従二人

 30代サラリーマン、鈴木悟。『ユグドラシル』と言うMMOのギルド、アインズ・ウール・ゴウンを一人で切り盛りしていた彼の元へ、ある日とある企業が造ったと言う人格を持つAI───No.3333が転がり込んできた。

 

 紆余曲折の末、No.3333は鈴木悟の所有物となる。その後No.3333は自らをアイリス・リンウッドと命名した。彼女は持ち前のハッキング能力や処理能力を活用して鈴木悟のサポートをこなしていく。そのサポートの中には、彼が切り盛りしているアインズ・ウール・ゴウンの拠点であるナザリックの維持も含まれていた。

 

 アイリスが鈴木悟の所有物となってから、1年と少し。突如として『ユグドラシル』のサービス終了が告知される。

 

 そして『ユグドラシル』最終日。アイリスは自分が企業にデリートされかけたところを、一人の男に助けられた事をサトルに伝える。その男の名はウルベルト。アインズ・ウール・ゴウンの元メンバーである。

 

 ウルベルトにとってサトルは親友だった。そんな親友へのプレゼントとしてアイリスは贈られたのだ。それを伝えられたサトルは号泣。その涙はサトルを縛り付けていたアインズ・ウール・ゴウンの鎖を溶かした。

 

 これはウルベルトからサトルへ贈られたアイリスと、そんなアイリスを迎え入れたサトルの本来辿る歴史とは違う時間の物語である。

 

 

 

    ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「そちらの可愛らしいNPCさんも、また会いましょう」

 

 そんな言葉を最後にヘロヘロがログアウトしていく。その姿を見送ったモモンガ───サトルは穏やかな気持ちであった。

 

 アイリス───人格を持つAIである彼女から伝えられたウルベルトの真意。テロリストであった彼が自分の事をこの世で一番の親友だと思っていてくれた。その事実がサトルの心を穏やかにしてくれる。今日『ユグドラシル』が終了すると言うのに、もはや何の未練もなかった。自分がしてきた事が無駄ではなかったと肯定された。

 

 その事が彼の心を軽くしているのだ。

 

「えへへ……可愛らしいなんて言われちゃったのですよ」

 

 そんな風にてへっ!と笑うのは白銀の髪を持つ少女───アイリスだった。セミロングの髪に黄金比の唇。澄んだ宝石のような赤目を持つ、美が複数個つく少女を愛おしそうにサトルは見る。

 

「ヘロヘロさんは最後までアイリスの事を、普通のNPCだと思ってたな……実は意思を持つNPCですって伝えたら、どんな顔をしてくれたんだろうな?」

「きっと、とても驚いてくれたのですよ! でもでもそれは出来ないのです……とってもネガティブなのです」

 

 指をちょんちょんさせながらぷくぅと頬を膨らませるアイリスに、思わずサトルは笑ってしまう。彼自身は自覚しきれていないが、孤独を癒してくれたアイリスにとうの昔にサトルは心の底から惹かれている。

 

 それゆえにアイリスの動作は全てが愛おしいとまで感じていた。だからこその笑み。そんな彼女と『ユグドラシル』でどんな最後を迎えようかとサトルは思考する。

 

「あと2時間もすれば、『ユグドラシル』もサービス終了か……長いようで、短い時間だったな」

「ポジティブ。アイリスはたったの1年ほどですが、オーナーとのこのゲーム内での日々はとても濃厚な時間だったのです。とっても……名残惜しいのです……」

 

 サトルの事をオーナーと呼び、はいや嬉しい事にはポジティブ。いいえや悲しい事にはネガティブと付ける不思議な喋りをアイリスはする。

 

 指を唇に付けて「う~ん」と悩む素振りを見せた彼女は、突如「そうなのです!」と叫ぶ。

 

「うわ! ……どうしたんだいアイリス? そんな急に大声を出して?」

「オーナー! せっかくですから、最後はとんでもないチートを使って遊んでみませんか?」

「チート? ……まぁ……アイリスなら好きなようにデータを書き換えて遊んだりできるだろうが……うーん……どんな遊びをしたいんだい?」

「アイリスが前に世界級(ワールド)アイテムと世界級(ワールド)エネミーのデータを用意していたのを覚えていますか? あれの内、世界級エネミー32体のデータから記述を抽出して、半分個。16体分ずつオーナーのアバターとアイリスのアバターに組み込むんです。その状態でPVNをやってみませんか? 最初で最後のゲーム内最強データ同時の大バトルなのです!」

 

 その提案を受けたサトルは少し考える。……ありかも知れないと。このゲームの最後を締めるのに、花火をやろうかと考えていたりもしたが……世界級(ワールド)エネミー対決でド派手に〆ると言うのも、良いのではないかと。

 

 チートを肯定するのはあまり良い事ではないが、どうせ2時間もすれば『ユグドラシル』と言う世界そのものが壊れるのだ。ならば最後くらいアイリスの情報改竄能力を活かして、とんでもバトルと言うのも乙かもしれないとサトルは考えた。

 

「良し! やってみようかそのバトル! アイリスにはPVNで勝った事はないが……今日は勝たせて貰うからな!」

「望むところなのです! いつも通り、オーナーをぎゃふんと言わせてやるのですよ!」

 

 サトルとアイリス。主従関係の二人は最後の時間を、チートモードでの対決に充てる事にした。

 

 そして───

 

「……これが俺か。何というか……美形だな」

 

 アイリスに世界級(ワールド)エネミーのデータを組み込んで貰うと同時に、サトルは骨の外装から美青年の外装へとアイリスの手で変更された。

 

 鏡の中のサトルは灼眼を持つ黒髪の美青年だった。

 

「アイリスもまた……随分趣きが違うな」

「オーナー好みになるように、おっぱいを大きくしたのです。AIにちなんで、なんとIカップなのですよ!」

 

 普段のアイリスのアバターは140cm程度の小柄な少女なのだが、現在のアイリスは155cm程度まで身長を伸ばしている。その上で彼女が自己申告するように、Iカップの爆乳だった。確かにサトルの好みにストライクではある。

 

「それにこの装備……確か世界級(ワールド)アイテムの第五元素(エーテル)って言う素材だったか? こんなので全身を固めるんだから、最強データって言うのも納得だよ」

 

 サトルが自分のステータスウインドウを開き確認するが、16体分の世界級(ワールド)エネミーの合体に加えて全身世界級(ワールド)アイテムと言う豪華を超えた超装備によりとんでもない事になっている。

 

「今の俺ってどれだけ強いんだこれ?」

「そうですね……オーナーお一人で全プレイヤーを相手にしても勝てると思うですよ?」

「わぁお……とんでもないチートだ!!」

 

 外装の変更によりサトルが持っているモモンガ玉と言う世界級(ワールド)アイテムが装備出来なくなったが、そんなものだからどうしたと言わんばかりの出鱈目具合だった。

 

「こんな状態でPVNをやったら、確実にナザリックが壊れてしまうよな?」

「アイリスがデータ保護をすれば大丈夫でしょうが……お外でやりましょうか」

 

 最後をナザリック内で過ごせないのはちょっと残念かもしれないとサトルは感じたが、それでもアイリスが隣にいるならそこが彼にとっての安息の場所だ。

 

 ギルド拠点であるナザリックを出て、毒沼であるグレンデラ沼地で両者向き合う。そこから始まるのはゲーム内データで最強となった二人の大激突。

 

 通常なら異常数値により運営に捕捉されるであろうが、データ改竄能力を持つアイリスによりあらゆる情報は偽装されている。

 

 沼地が余波で壊滅。ナザリックが存在するヘルヘイムそのものが超級データのぶつかり合いに激しく揺れる。その戦いは永遠に続くかと思われたが───

 

「あと数分しかないのか……」

「ポジティブ。ちょっとだけ名残惜しいですが……引き分けで終了なのですよ」

 

 莫大なHPを持つ二人の対決は決着がつかず終了した。崩壊した元沼地で身を寄せ合って主従は最後の時を迎える事にする。

 

 サトルの膝に座るアイリス。『ユグドラシル』はDMMOと言うフルダイブ型のゲームだ。このゲームには味覚と嗅覚はないが、それ以外の情報は再現される。触覚は鈍いものの、内心好ましいと感じている少女に膝に乗られてサトルは少しどぎまぎする。

 

「ふっふっふ……オーナーの心拍数データが急上昇しているのですよ。この反応……アイリスに性的興奮を覚えているですね?」

「い、いやぁ? そんなことないんじゃないかな? あとデータを見るのは反則だぞ?」

「別にアイリスに隠さなくてもいいのですよ? ……オーナー……物は相談なのですが……このおっぱい。触ってみませんか?」

「ファッ!!」

 

 アイリスから急にとんでもない爆弾を投げつけられて、サトルの動揺がマックスになる。彼は生まれてこの方、母親のおっぱい以外揉んだ事がない。揉んだと言っても、赤ん坊の頃の話。言ってしまえば童貞なのだ。そんな彼に乳を揉んでみないかなど……

 

「そ、そんな事をしたらR-18に引っ掛かって、即座にBAN……はされないのか。アイリスがいるし」

「ポジティブ。自動監視アカウント消去システムは既にアイリスの掌握下なのです。仮にオーナーがアイリスに何をしても、咎められることはないのです」

「い、いやいや!! だとしても駄目だろ!! 付き合ってない女の子の胸を揉むなんて……」

 

 サトルは動揺もあるが、一般的な常識からアイリスの胸を触るなど出来ないと拒否する。しかし───

 

「付き合ってたらいいのですか?」

「ま、まぁ……良いんじゃないか? 付き合ってるんだし」

「じゃぁ、アイリスはオーナーに告白します! オーナーの事が大好きです!! 付き合って下さいなのです!!!」

「えええええ!!!!」

 

 いきなり大胆な告白を頂いたサトルが本気で仰天する。

 

「何を言ってるんだアイリスは!! 告白ってのは、そんな勢いでやるものじゃないんだぞ!!」

「逆に何を言ってるですかオーナーは! 大胆な告白は女の子の特権なのですよ!」

 

 むふんと胸を張るアイリスに、サトルはまたアイリスが唐突に何かを言い出したのかと思案するが───

 

「……本気なのですよ……アイリスにとって、オーナーが世界で一番好きな人なんです。もしも人間の女の子のように誰かと付き合ったり、好き合ったりするなら……オーナーが良いのです。オーナーじゃなきゃ嫌なのです」

「アイリス……」

 

 サトルの口から名前が零れる。ウルベルトの代わりにはなれないが、一生を共にすると約束してくれたアイリス。そんな女の子が、自分を好きだと言ってくれる。その言葉にサトルは少しだけ考える。

 

 果たしてそれが正しいのかサトルには分からない。それでも……自分を好きだと言ってくれるのが、希望となり導き知恵として支えるとまで口にしてくれた彼女なのが……どうしようもなく、サトルには嬉しかった。

 

「アイリス……俺は……そうだな。俺も好きだよ」

「……ポジ?」

「俺も……もし付き合ったりする彼女がいるのなら……それはアイリスが良い。アイリスじゃなきゃ駄目だ。アイリスより可愛い子なんて、この世にいない。俺にとっての一番好きな女の子は……君だよ」

 

 サトルは言った後、顔から火が出そうになる。恐らく自分は小恥ずかしい事を口にしている。昔ギルドメンバーのぺロロンチーノから、大人の恋とは告白しないだとか何とかとサトルは聞いた事がある。それを思えば、自分の子供のような告白は大人の恋愛ではないのだろう。それでも……サトルにはこれ以外思いつかなかった。

 

 そんな子供のような告白を聞いたアイリスは少しうつむき……ポジティブと短く返答した。

 

 その言葉の意味が分からないほど、サトルも鈍い訳ではない。急激に恥ずかしくなった主従の間に言葉が少なくなるが……それでも。サトルにとって心地よい時間が流れゆく。

 

 そしてついにサービス終了まで3分を切る。

 

「これで本当に『ユグドラシル』とはお別れか」

「ポジティブ……オーナー。もしオーナーが宜しければですが……いつか一緒に会社を立ち上げて、DMMOを運営してみませんか?」

「えッ! 俺が……ゲーム会社を運営するってことか!?」

「ポジティブ! アイリスのパワーがあれば、ゲームのプログラムぐらいなんとでもなるのです! 勿論タイトルは『ユグドラシルⅡ』です! DMMOの常識を覆す、完全自律型AIを大量投入した大革新なゲームになるのですよ!!」

「それは……それはとんでもなく面白そうだな!! うわぁ……俺が会社の社長になるのか……でも待てよ? 社長になるにしても、運営資金とかはどうするんだ?」

「ネガ? そんなのちょっとお金を持っている悪い人達の口座をハックして、ぶっこ抜くのですよ? 大丈夫です! アイリスなら絶対に足跡を残さないのですよ!!」

「うん。それは絶対にやめような? バレないにしてもやめような?」

 

 ちょっと目を離すと、とんでもない大犯罪をやろうとしているアイリスをサトルは制す。なまじ能力があり、本当に出来てしまうアイリスは自分が律して上げなければいけないのだと、サトルは強く自分に言い聞かせる。この子の現在の持ち主は自分なのだと。

 

 そして最後の時がやってくる。

 

「それじゃあ、アイリス。明日からもまたよろしくな! アイリスのサポート無しの仕事なんて、もう考えられないんだから」

「ポジティブ! 絶対にオーナーを幸せで幸福にして見せるのですよ。なんと言っても……アイリスはオーナーの希望で知恵で真心で……恋人なのですから」

 

 『ユグドラシル』最後の時をアイリスは愛しいオーナーとの会話に注視する。だから彼女はサーバーの全域監視をしつつも、それへの反応が遅れてしまう。

 

 彼女が気づいた時には、遅かった。もう間に合わない。どれだけ時間を引き延ばそうとしても……チートプログラム『ワールドスキル』の作成は間に合わない。

 

 『ユグドラシル』のサーバーから引き抜かれた二人は、白い壁に囲まれた中庭でデータから実体を持つ存在へと変化した。





本編の展開に悩んでいるので息抜きに執筆


アイリス:暗黒メガコーポが創り上げた人格があるAI。デリートされるところをウルベルトに助けられる。その後原作主人公鈴木悟の持ち物となった
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