リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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新たなる大貴族

 バハルス帝国に八欲王の遺産を持ち帰ったサトルとアイリス。

 

 二人は大量のユグドラシル産のアイテムをジルクニフに献上して、帝国の金庫を潤した。しかし全てのアイテムを渡したわけではない。ジルクニフの許可を貰ったうえで、いくつかの強力なアイテムを自分達の物として頂いている。分かりやすいところで言えば世界級アイテムだ。『無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)』と言う、サトル達にとって無用の世界級アイテムは国に収めた。しかしそれ以外の世界級はサトルのアイテムボックスに入っている。

 

 八欲王が持っていた世界級アイテムは五つ。その内『五行相克』は既に使われて消滅。残り四つの内、一つは竜王との戦争に持ち出されたが戦いの最中紛失。三つの世界級アイテムだけが天空都市の宝物庫には残されていた。その内二つを頂いたのだ。

 

 その他にも素材なりをいくつか頂戴したが、その中でもサトルとアイリスが欲しかったアイテムが二人の前に佇んでいる。

 

「それじゃ……入れるぞ」

 

 そのアイテムの中に、中央市場で買ってきた野菜を一つ投入する。アイテムが作動して野菜がある物体に変換される。二人が取り出し口を開くと、そこには数枚のユグドラシル金貨が入っていた。

 

「ヨッシャアアアアアアア!! エクスチェンジ・ボックスは想定通りに動いてくれたぞ!!」

「ポジティブ! これで金貨入手の目途が立ったのです!!!」

 

 ハイタッチして喜ぶ二人。二人が使ったアイテムは、エクスチェンジ・ボックスと呼ばれるマジックアイテムだ。このアイテムはシュレッダー装置のような見た目をしていて上部に投入口が付いており、そこに物品を投入すると物品に使われていた素材の価値に応じて下部の取り出し口からユグドラシル金貨を輩出する機能がついている。

 

 つまりこれが上手く機能したことで、もう手に入らないと諦めていたユグドラシル金貨が入手できるようになったのだ。

 

 その事に二人は喜び、周りにいた戦乙女(バルキリー)は手を叩いて祝福している。そんなバルキリーの一人に、サトルがとある命を下す。

 

「ナデシコ、お前に命ずる。ここにある物品を───」

 

 サトルが指さすのは野菜以外にも多く購入してきた物品の数々だ。

 

「お前の商人系スキルで高額鑑定してから、エクスチェンジ・ボックスに入れるんだ」

「承知致しました。御身の御心のままに」

 

 ナデシコと呼ばれた白と赤がまだらに混じった不思議な髪色をしているバルキリーが、鉄の鎧や銅製の剣などを査定していく。エリュエンティウから連れ帰って来たバルキリー達には新たな名として、アイリスと同じように花の名前が授けられている。

 

 彼女達の種族や防具の見た目は統一されているが、職業構成は全員バラバラに作成されている。ナデシコであれば商人系の特殊技術持ちだ。エクスチェンジ・ボックスが吐き出す金貨の量は、投入された物品の素材の価値に左右される。鉄の鎧を投入しようが鉄の剣を投入しようが、あくまでも鉄のみを基準に判断されるのだ。名工が鍛えた剣も、盆暗が鍛えた剣も等しく鉄とボックスは判別する。

 

 だが事前に鉄の価値を高額だと詐欺るスキルを使っておくと、その価値を基準としてボックスは判定してくれる。それを利用して金貨の量をサトルは増やしていく。

 

「ふふふ、たんまりたんまり。これで当分は金貨消費系のアイテムやスキルを使っても困らないな」

 

 ニヤニヤ笑うサトルはアイリスの手を取り小躍りする。ちょっとだけテンションが高くなっているようだ。エリュエンティウに遠征して以来、基本引き籠っている二人の生活は大体こんな感じに呑気な物であった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 呑気な主従とは裏腹に。

 

 皇城では今日も今日とて様々な業務が行なわれている。魔法省から提出される魔法研究の経過報告や、騎士団から上がってくる野盗討伐やモンスター退治の報告書の整理。都市整備の予算振り分けや、公道整備事業の人員配置。ジルクニフが住む住居としての役割を持つ皇城だが、同時に行政機関や軍事拠点としての側面もあり帝国の明日を担う作業が数多く行われている。

 

 帝国は元々封建国家であったが、ジルクニフの祖父の世代から貴族の力を奪うために専制君主制の準備を推し進め、今の代になってようやくそれが実現し現皇帝は絶対の君主として国の頂点に立っている。

 

 しかし絶対とは言っても、一人で何でも決められるわけではない。ジルクニフは歴代の中でも最優の才を持つ皇帝だが、それでも単独で国を運営できるほどではない。なので文官である秘書官や、軍事方面の長達である将軍達。他にも有能かつジルクニフに忠誠を誓う貴族なりを招いて宮廷会議を開くのだが……今日の議題の一つに全員が頭を悩ませていた。

 

「これが本当に? 本当にリンウッド夫婦なる魔法詠唱者が、エリュエンティウから持ち帰った財の鑑定結果ですか……」

 

 今回の会議に呼ばれた貴族の一人───ジルクニフの遠縁に当たる人物で、公爵位を預かる大貴族が呻き声を漏らす。彼は帝国でも屈指の大貴族であり、一般庶民とは桁の違う資産を保有しているが……そんな彼でも信じられないような金額が配られた羊皮紙には記されている。

 

「事実だ。魔法省から派遣させたフールーダの弟子たちに<道具鑑定>で調べさせたから間違いはない。リンウッド殿が回収してきた八欲王の財宝はとんでもない代物ばかりと言う事だ……付け加えるならば、そこに書かれた数々の数字は財の一割にも満たない」

「なっ!!! この! これだけのマジックアイテムや財が……一割以下ですと!? 幾ら何でもご冗談が過ぎますぞ陛下!!!」

 

 将軍の一人が会議椅子から立ち上がり、ジルクニフに疑問を投げつける。君主に対する態度ではないが、その反応にジルクニフは共感しか覚えない。なにせ彼も興奮したフールーダから報告を受けた時、将軍と同じ反応をしたのだから。

 

「冗談などではない。この報告書を纏め上げたのは首席宮廷魔術師フールーダ・パラダインだ。フールーダ曰く、多過ぎてまだまだ時間がかかるらしい。この調査結果も途中経過の物に過ぎん」

「……そうでしたか。申し訳ございません陛下。私としたことが取り乱してしまったようです」

「気にするな。お前の反応は実に正しい。これを見て疑いもせず受け入れるような輩は信用できんからな」

「ははは、違いないですな。こんな……こんな……やっぱり嘘にしか見えませんね」

 

 バジウッドの言葉に、全員が全く同じ想いだった。鑑定はまだ一割も終わっていないのに、現時点で国家予算千年分以上の価値があるなどあまりにも馬鹿げている。

 

 ……八欲王が実在した人物で、彼らがかつて大陸を支配した事。それが事実なのだと彼らが遺した遺産が全てを語る。彼らはこの世の財を全て手に入れたのだ。そうとしか思えないほどの出鱈目な調査結果であった。

 

「……この……戦乙女(バルキリー)なる都市守護者がリンウッド殿に降ったのも事実なのですか?」

「それも事実だ。都市守護者達は魔法生物で、八欲王からリンウッド殿に鞍替えしたらしい……彼女達は背中から天使のような羽が生えているのと奇抜な髪色以外は美しい女性達にしか見えないが、手合わせしたリンウッド殿が申すには、一人一人がフールーダ百人分の力量を持つのだとさ」

 

 フールーダが百人。サトルの力量を知らぬ公爵やそれ以外の貴族からすればあまりにも馬鹿げた表現なので、陛下は頭がおかしくなったのだろうかと心配そうな表情をするが……彼らはすぐに気づく。将軍や四騎士がその言葉に神妙な顔をしている事にだ。

 

「フールーダ様百人分か……他の連中ならいざ知らず、リンウッド夫婦が口にされた以上事実なのだろうな」

「全員合わせたら、首席宮廷魔術師様三千人分の戦力かよ。そんなのが守ってたら、そりゃ誰もエリュエンティウから八欲王の財を強奪なんて出来ねえわな」

 

 軍事に関わる面々がジルクニフの言葉をすんなりと受け入れている事に貴族達は驚愕する。まさか……まさかそんな言葉が真実なのかと。

 

「すまない! あなた方と陛下はその……リンウッド殿の御言葉を信じられるのか! フールーダ殿の実力は我々も承知だ。それが百人分など……」

「……そうか。そなたらはリンウッド殿とアイリス殿の御前試合を知らぬのだったな。ならば無理もないか」

「御前試合? 陛下や皆さまはリンウッド殿の戦力を把握しておられると言う事ですかな?」

「そうだ。私達は夫婦に模擬戦を見せて貰った……聞いて驚くなよ。夫婦の戦力をフールーダで換算するなら、二人とも千人分以上だ。つまり我が国には、バルキリーと合わせてフールーダ五千人分の戦力があると言う訳だな……はぁ……」

 

 自分で言っておいて、あまりにも嘘くさいと思ったのかジルクニフが部下全員の前だと言うのに溜息を吐く。普段であればこんな弱気な姿を彼は見せない。国の主である彼は他者に強い姿を見せ続けないといけないからだ。上の人間が弱気を見せたりすれば、それだけで下の人間は不安を覚えてしまう。だから意図して常に強い皇帝の姿を演出できるように振舞ってきたのだが……サトルとアイリスが帝国に仕えて以来、常識が壊されまくった事で強い皇帝の仮面が剝がれつつあった。

 

 しかし将軍や四騎士は、ジルクニフのそんな姿を見て見ぬふりをする。御前試合を同じように目撃した彼らもまた、似たような気持ちを持っているからだ……レイナースだけはちょっと違う気持ちだが。彼女は早くアイリスと会わせろとジルクニフに毎日のように直談判している。しかしながらこれは会議の内容とは関係がないので割愛しよう。

 

 溜息を吐くジルクニフの姿や、よく見れば頷いている将軍達からようやく集められた貴族は皇帝が真実しか口にしていないと理解した。

 

「まぁいい。今考えるべきはリンウッド殿が超級としか言えぬ武力を保有しており、我らが帝国に多大な貢献を果たした事だ。これに対し、私はリンウッド殿の爵位を授けようと思っているが……さて。かの御仁に授ける位とは何が相応しいのだろうな。通常であれば、平民出は騎士階級となるが……」

 

 ジルクニフが口にした騎士階級。これはもっとも準貴族と呼ばれる一番下の爵位であり平民出身に授けるならば妥当な称号ではあるのだが、それに将軍が待ったをかける。

 

「今回のエリュエンティウ遠征が齎した富と、リンウッド殿が持つ武力に対して準貴族ではあまりに不足でしょう」

「そうですな。せめて貴族と認められる男爵から検討しなければ、他の者にも示しがつきませんな」

 

 ……バハルス帝国における貴族の順列は下から準貴族である騎士、準男爵。貴族である男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵と続いていく。この上に最上位の皇帝だ。

 

「男爵ですか……私は賛成できませんな」

「ほう……その理由を問うてもいいか?」

「一割だけでも国家予算千年分以上の財を陛下に献上したのですよ? これほどの功績につける値段が男爵程度では……そのリンウッド殿がどのような御仁かは知りませぬが、我が国の貴族社会にはまだ疎いのですよね? ならば今は不服には思わぬでしょうが……後から男爵がそれほど高い地位ではないと知ったら、まずいのではないか」

 

 発言主である侯爵の言葉に、全員が確かに唸る。サトルが持ち帰った財による莫大な利益は、帝国史上でも並ぶもの無き大偉業なのだ。

 

「リンウッド殿はあまり地位や名誉に拘る男ではないが、侯爵の発言にも考慮する価値があるな……では皆に改めて問おう。数百年の間十三英雄以外には門を閉ざし、秘匿され続けた砂漠の都から八欲王の財を持ち帰った御仁への相応しき社会的地位。それは何だ」

 

 ジルクニフの問いに少しばかり考えた後、公爵が手を上げる。

 

「……私と同じ公爵しかないかと。此度の功績とフールーダ様千人相当の武力。二つから導かれる答えはそれしかありません。リンウッド殿がその気ならば、八欲王の財を全て独占も出来た筈です。しかしそれをせず、陛下と帝国の未来のために献上して下さったのであれば……我々も報いなければなりません」

 

 公爵の言葉に「公爵か……」と何人かの貴族が少し顔をしかめる。転移により飛ばされてきた異邦人。帝国市民となってから、まだ一月も経っていない人物が最高位の貴族に名を連ねる事に感情の面で抵抗があるのだ。しかし帝国への貢献度で語るならば抜きんでていると理屈では分かっている。分かっているからこそ顔をしかめるだけで、反対意見は出さない。けれども……貴族は反対しないが、それ以外は意見が違うのか「待たれよ」と将軍が声を上げる。

 

「私は公爵を授けるのは時期尚早だと判断します。リンウッド殿と奥方であれば、この先も多くの偉業を成し遂げるはず。その時に授ける位が無いと、御二方の為だけに新たな称号がいくつも必要になります。それを防ぐためにも、公爵ではなくより下の爵位にしておく方が得策かと」

「ふむ。確かに将軍の言葉にも一理はあるな。それにいきなり公爵となると、ここにいる者は賛成してもそれ以外の馬鹿がどのような反応をするか分からぬか」

 

 ……そこからも会議は続く。最終的にサトルに授ける爵位は伯爵となった。ここより上は、通常皇帝の血筋でも無ければ上がる事は出来ない。つまり伯爵とは事実上の帝国貴族最上位に相当する地位だ。これは平民に与える爵位としては本当に別格。それだけサトルを重視していますとアピールする行為に他ならない。それに伯爵であればここにいない貴族の反対意見も封殺し易い。流石に侯爵や公爵となれば反対意見も出るだろうが、伯爵であればまだ何とかなるとジルクニフは踏んでいる。それに今後何かしらの功績を上げても、侯爵と公爵に陞爵する余地があると言うのが素晴らしい……もっともここにいる全員が何となく察していた。サトルであればまた功績を積み重ね、すぐにでも公爵になるだろうと。

 

 それと同時に、伯爵となるサトルに一つの役割が与えられる事となった。彼が連れ帰って来た30人のバルキリー。彼女達はあまりにも戦力として突出しすぎており、従来の帝国が持つ軍事力に捻じ込むには強大過ぎる。それにバルキリーはサトルを主とし、その上のジルクニフを上官として認識している。下手に帝国騎士団に参戦させるには難しかった。

 

 なのでサトルの為に新しい役職が作られた。彼を団長、妻であるアイリスを副長とし、その下にバルキリーが従う特殊部隊を結成したのだ。

 

 『皇国騎士団(インペリアル・ナイツ)』。総勢32名で構成されたバハルス帝国最強部隊の誕生である。そんな部隊の隊長に任命された事と、伯爵の地位が授けられる旨が記された羊皮紙がサトルの元に届けられた。

 

 サトルは「昇進した上に役職持ちになっちゃたよ」と困惑したが、アイリスやメイド達に拍手で祝福されて悪い気もしなかったのでジルクニフからの指令を快諾。受け入れて貰えたなら、略式ではあるが叙爵式を行うと言う事で明日皇城まで来て欲しいとサトルは説明を受ける。

 

 叙爵式と言われても、帝国の貴族文化など一切知らないサトルは少し不安を覚えたものの、それを踏まえた上での略式ですと羊皮紙を持ってきた文官から知らされてなんとか納得。

 

 式では同時に『皇国騎士団(インペリアル・ナイツ)』結成の正式発表も行うとの事。なので皇城にはサトルだけでなく、アイリスやバルキリーも伴っての登城となった。

 

「───以上の功績を以って、汝サトル・リンウッドをバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの名のもとに帝国伯爵と任ずる。今日から貴族として四つ名を名乗る事を許す」

「陛下の恩情、ありがたく頂戴いたします。では今日から私はサトル・リンウッドではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()を名乗らせて頂きます」

 

 本当はもっと細かい手順があるのだが、昨日の今日でサトルに正式な叙爵式の負担を背負わせるのは憚られたので恐ろしい早さで式が終了する。この式には会議に参加していたメンバーしか出ていない為、略式で終わらせても誰も文句を言わない。それよりもフールーダ千人分と言う魔法詠唱者の機嫌を損なう方が嫌だった。なお、この際に予め決めておいた通り、サトルの改名も終わらせた。

 

 なぜわざわざ改名したかと言えば、帝国や王国の貴族は三つ、あるいは称号を入れて四つの言葉で名前が構成されているからだ。仮にサトル・リンウッドの二つ名のままだと、恐ろしく馬鹿な元貴族が嘲笑するかもしれないらしい。サトルとしては自分は馬鹿にされてもそこまで怒りはしないが、甘く見る手合いが出てくると彼の身内まで嘲笑対象にしようと動くのだと聞かされた。

 

(アイリスが馬鹿にされるのは嫌だなぁ……)

 

 と言う理由から名前の変更である。その際何を名乗るかを悩んだサトルは、アインズ・ウール・ゴウンを自分の名前に組み込むことにした。かつてのギルド名を自分一人で独占して良いのかと悩みもしたが───

 

「とてもポジティブな名だと思うのです! オーナーはお一人であそこを維持しようとしました。その時点でオーナーがその名を名乗る権利は発生しています。だから一人占めしても良いのですよ!!」

 

 アイリスの言葉に後押しされたので、サトルの名の後ろにアインズ・ウール・ゴウンと付けることにした。リンウッドの名前はアイリスの方に残り、彼女の名前はアイリス・リンウッド・ウール・ゴウンとなる。

 

 帝国の貴族が名乗る称号名にウールは無いのだが、これも特例措置としてジルクニフは許した。これもまた、サトルが帝国にとって最重要人物であることを示すアピールだ。

 

 そんなこんなで叙爵式も終われば、今度は特殊部隊である皇国騎士団(インペリアル・ナイツ)の正式お披露目だ。と言っても、これまたお披露目する相手は会議参加メンバーしかいないので滞りなく進行する。

 

 ……若干本当にこの集団が、ジルクニフや帝国将軍が最大限の敬意を払えとまで恐れる存在達なのか疑問に思う人物がいないわけでもないが。そんな人間も、表立って発言はしない。彼が忠誠を誓っているジルクニフがそうするのであれば、粛々と従うだけだ。

 

 こうして皇国騎士団(インペリアル・ナイツ)発足と、大公と同等の権限を有する伯爵の誕生式は何の問題もなく終了したのであった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 貴族となったサトルだが、別段今までと何か生活が変わるわけでもない。変わった事と言えば、爵位を貰った日にお祝いとして細やかな祝賀会をメイドも巻き込んで開いたぐらいだ。彼女達は伯爵となったサトルと同じ席について食事をする事に大層恐縮していたが、爵位を貰ったぐらいで人格が変わるわけでもないとアイリスに諭されて参加。それなりに楽しい時間を過ごしたぐらいだ。

 

 サトルは皇国騎士団長なる役職に就いたが、皇国騎士団は早々動かせない大戦力。何かしらの有事が無い限りサトルは割と暇である。アイリスも重傷者や死人が出ない限り御呼ばれはしない立場だ……ジルクニフがアイリスの能力───文官や戦技教導官に高い適正を有していると知ればまた話も変わるが、この時点では皇帝はまだ超高位の神官としての側面しか知らない。

 

 なので暇な二人は街に繰り出して情報収集に勤しんだりしていた。流石に貴族となった二人がそのまま街に出るのは問題なので、幻術を使い顔を変えての諜報活動だ。

 

 今日はワーカーが集まると言う酒場に潜り込み、安酒と安い料理を突いていた二人の耳にそれは飛び込んできた。

 

「そういやよ……お前王国で飛び交ってる噂を知ってるか?」

「噂……ああ、あれか。なんでも王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが暗殺されたとかなんとか」

「それそれ。あれマジなんかね」

「んなもん嘘に決まってんだろ。周辺国家最強の戦士をどうやって暗殺すんだよ。我が国の四騎士様だって、二人もあの怪物にぶっ殺されてんだぞ」

「ん~……でもよ。もしかしたらあり得るかも知れないぜ。ほら、少し前に北の市場であった事件。エルヤーが近衛兵を連れた魔法詠唱者に一瞬で殺されたやつ。その魔法詠唱者はガゼフを殺すためにジルクニフが呼び寄せた凄腕なんだとよ」

「あの嘘くせぇ話か? エルヤーは嫌な奴だったが、あいつを一瞬で殺せる魔法詠唱者なんているわけねえだろ。フールーダの爺さんでも絶対に無理だね。しかもその魔法詠唱者は人外みてえに美しい姫様を連れていて、魔法詠唱者自身も馬鹿みてえに美しい青年……ハッ! んなもん嘘に決まってんだろ。市場にいた奴ら全員幻を見てたか、エルヤーを事故かなんかで殺しちまったから全員で嘘をでっち上げてんだよ」

 

 その話を聞いていたサトルの眼が少し泳ぐ。安い割に美味しいと食べていた料理の味が急に分からなくなる。アイリスも「あちゃぁ……」と額を抑えている。

 

「……ガゼフって人が暗殺されたのは本当なのかな?」

「本当に暗殺されたかはともかく、彼を亡き者にしたい勢力はいくつかあります。アイリスが調べた限りでは、同じ王国内の貴族は彼を疎ましく思っている筈なのです。機会さえあれば、失脚させたり命を奪ったりするぐらいはやると思うのです」

「政治に絡む権力闘争ってやつか……陛下がやった可能性は?」

「ネガティブ。未来ならまだしも、現時点でジルクニフにガゼフを暗殺するメリットは皆無です」

「そうか……まぁどちらにしろ、王国での話だから俺たちには何の関係もないかもな」

 

 アイリスの言葉に気を持ち直したサトルは、再び味が分かるようになった焼き魚を口に含む。塩だけの素朴な味だが、これはこれで美味いと顔を綻ばせる。そんなサトルを見ながら、アイリスもブドウっぽい粒が残っている安くて渋い酒を一口含む。皇城にお邪魔した際に飲んだり、自宅で口にする酒に比べると酷い味だが……むしろこの酷さもまた味わい深いとガブガブ飲み干す。毒に対する完全耐性を有する二人はどれだけ飲んでも酔う事はない。

 

 そんな感じの日々を、夫婦はのんびりと過ごすのであった。

 

 それから三日後。皇城にとある報告が正式に届けられた。

 

【リ・エスティーゼ王国辺境の地、カルネ村にて王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ討ち死に。殺害の実行犯はバハルス帝国兵】

 

 リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国。両国の関係を大いに揺るがす情報であった。





皇国騎士団長サトル・アインズ・ウール・ゴウン伯誕生。侯爵や公爵にはその内陞爵する

ガゼフ:暗殺された
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