リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

14 / 90
少年の慟哭

 エ・ランテルの地下神殿に潜む謎の集団。都市を占領してしまったアンデッドの大半は、自我を持たないゾンビやグール。中位アンデッド以上であれば自我を持ち行動するが、別に徒党を組んだりはしない。しかし地下神殿のエルダーリッチとスケルトン・メイジは違う。傅いている事から上位者と下位者の関係になっているのだ。

 

「……どう思う?」

「とってもネガティブです。十中八九、彼らが今回の騒動に関わっているとしか思えないのです」

「だよな。あの……裸同然の少年だが、どう見ても<魅了>か何かで洗脳されていないか?」

「ポジティブ。一人だけ生き残った洗脳されているらしき生者と、上下関係が垣間見えるアンデッド。あの集団がエ・ランテルの騒動に関わっている可能性は高い……と言うよりも、関わっていなかったら手掛かりが無くなっちゃうのです」

 

 アイリスの言葉に頷いたサトルは、アイリスと共に偵察を続けるが……特に目立った動きは全くない。これ以上偵察をしても無意味と判断したサトルは、アイリスと共に地下神殿に強襲を仕掛けることにする。

 

「突入と同時に、俺のスキルであいつらを支配出来ないかを試す。支配できるようならそのまま情報を聞き出す」

「不可能であれば、アイリスの対アンデッドスキルで彼らの動きを停止させる……ですね」

 

 軽く打ち合わせをすませた二人は、念の為にいつでも権能を起動できるように準備を済ませておく。不測の事態に対しては出し惜しみはしない。

 

 地下神殿へ踏み込んだ二人に対しエルダーリッチ達は気づかない。<完全不可知化>を見破れていないのだ。サトルのアンデッド支配が発動して、その場にいたアンデッド全員に効果が及ぶ。サトルは支配が聞いた手応えに確信を覚える。

 

 アンデッド支配は攻撃行動に分類され、この手の行動を取ると<完全不可知化>が解除されるがアンデッド達はサトルを見ても攻撃などは仕掛けていない。むしろ恭しくお辞儀をしたりするだけだ。

 

「これはこれは……ようこそおいで下さいましたサトル様」

 

 エルダーリッチがまるで弟子が師匠でも相手をしているかのように、立ち上がりサトルを出迎えようとする。

 

「出迎えは結構。そこにそのまま座っていろ」

「? 承知仕りました」

 

 立ち上がろうとしたのを制すサトル。彼の言葉に疑問を抱いたように見えたが、アンデッドは従う。そんなエルダーリッチにアイリスが近づき、耐性貫通<記憶操作>でエルダーリッチの記憶を覗き込む。街に溢れていたグールやゾンビは脳機能が壊れて自我を失っていたせいで覗けなかったが、このエルダーリッチはしっかりとした自我を持つおかげが鮮明に閲覧できる。

 

「ポジティブ。アンデッド発生の原因は分かりました。このエルダーリッチが元凶です」

 

 瞬く間に情報を抜いたアイリスから、サトルはエ・ランテルで何が起きたのかを知る。

 

 このアンデッドは元人間で、ズーラーノーンと呼ばれるカルト集団の幹部であり、名をカジットと言う。

 彼は儀式を行い、人間からアンデッドになろうとしていた。

 その儀式を行う場所として、巨大墓地があるエ・ランテルを標的にした。

 クレマンティーヌと言う人間の女がスレイン法国の秘宝を持って来て、それを使えば目的の儀式『死の螺旋』を発生させられると踏んだ。

 その秘宝を使える人間は限られているが、唯一の生存者である少年───ンフィーレア・バレアレには『どんなマジックアイテムでも扱える』タレントがあったので拉致した。

 秘宝と少年を使って第七位階魔法<不死の軍勢(アンデス・アーミー)>で数千のアンデッドを召喚した。

 大量のアンデッドにより負のエネルギーが大量発生。アンデッドがアンデッドを呼び出す悪循環により数時間で街は滅んだ。

 カジットは負のエネルギーを『死の宝珠』と呼ばれるマジックアイテムに蓄え、アンデッド転生の儀を行い彼は人間からエルダーリッチになった。

 彼に傅いていたスケルトン・メイジは、カジットのおこぼれで意識のあるアンデッドになったズーラーノーンの門弟達だ。

 ンフィーレアだけが人間のままなのは、彼がアンデッド化するとタレントが消滅して法国の秘宝の扱える手駒が消えるのをカジットが嫌ったから。

 

「───以上がエ・ランテル壊滅の真相です」

「こいつのせいで数十万人が死んだのか……まぁいい。今回は原因の調査だけだから、こいつは一旦生かしておく。それよりも───」

 

 サトルの視線が、今も虚ろな顔で佇んでいるかなり衰弱したンフィーレアに向けられる。

 

「この少年が俺たちが探そうとしていたタレント持ちとはな」

「これだけは今回の件で唯一ポジティブなのです」

 

 アイリスの言葉にサトルは頷く。いずれギルド武器を探し出し、浮遊要塞を砂漠の真ん中から帝国領にまで持ち帰るつもりだった。その計画には唯一ギルド長以外でギルド武器を運用できるかもしれない貴重なタレント持ちの協力が必須。

 

 それが見つかった事だけが……本当に唯一の救いだった。

 

「ンフィーレアが頭に装備しているサークレットが法国の秘宝、叡者の額冠です。あれによって、彼は自我を奪われているようです。ンフィーレアはエ・ランテルの件とジルクニフが無関係である事を証明できる貴重な生存者。タレントを抜きにしても、彼は帝国で保護するべきかと」

「見たところ、バレアレ君は食事も取らされていないのか大分衰弱しているな。ここに放置したら餓死して死体になり、アンデッドになってしまうか。この叡者の額冠をとりあえず外せば良いのかい?」

「ネガティブ。普通に外すと装備者の精神が壊れるようなのです。外すなら破壊しかありません」

「分かった。貴重なアイテムっぽいから確保したかったが、今は証人である少年の確保が先決だな。<上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)>」

 

 サトルの魔法により叡者の額冠が砕けて壊れ、地面へと落下する。同時に自我を奪われていた少年が倒れそうになるが、アイリスがしっかりと抱きとめる。

 

「<大治癒>……これで体力は大丈夫だと思いますが、空腹による衰弱は健在です。まずは帝都の自宅に彼を運びましょう」

「分かった。ここを出る前に、一応このエルダーリッチ共の記憶を弄っておこうか」

 

 サトルの要望に応えて、アイリスは<記憶操作>でカジット達の頭から自分達の記憶を消しておく。ンフィーレアに関しては眼を離した隙に叡者の額冠が壊れて、逃げ出したと改竄。

 

 唯一の生存者とエ・ランテル壊滅の真相を携えて、アイリスとサトルは<転移門>を使い一度サトル邸へと帰還するのであった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 薄い微睡みの中。花の匂いがするお香の匂いに誘われて、ンフィーレアは眼を覚ます。

 

 ───あれ。ここはどこだろう……見た事もない天井だ

 

 エ・ランテルの自宅とは違う天井に、ぼんやりとした意識の中少年は疑問を抱く。なぜ知らない場所にいるのか思い出そうと、記憶を掘り起こす。

 

 少年はエ・ランテルで一番腕の良い薬師の孫として働いており、彼もまた天才と呼ばれる類いの薬師だった。非常に貴重なタレントを持つ天才薬師。それがンフィーレア・バレアレだ。

 

 彼はその日いつものようにバレアレ薬品店で働いていて、一緒に暮らしている祖母から食材の買い出しを頼まれた。

 

 街に出た彼は、都市の空気がいつもと違うと感じた。まるで葬式のような空気だと。その原因はすぐに判明した。

 

 王国戦士長ガゼフとその戦士団が帝国兵との争いに敗れ戦死して、エ・ランテルの兵に回収された死体が都市に運び込まれている最中だったのだ。

 

 周辺国家最強と呼ばれ、王国でも最強の戦士として名を馳せるガゼフの死亡。それは都市全体の空気が変わるだろうとンフィーレアは思い───ガゼフが死亡した土地の名を聞いて顔色を変えた。

 

 カルネ村。そこはンフィーレアの幼馴染で、彼が恋をしている少女───エンリ・エモットが住んでいる村なのだ。カルネ村が帝国兵に襲撃され、救援に駆け付けた戦士長が死亡した。つまり村の人間は……

 

 彼はすぐさま薬品店に帰り、すぐにカルネ村に向かいたいと祖母に事情を説明。ンフィーレアの頼みを承諾した祖母───リイジー・バレアレは村までの護衛として、冒険者を雇える資金を孫に渡し彼を送り出した。

 

 『漆黒の剣』と言う銀級冒険者を雇った彼はカルネ村に無事到着し……燃え尽きた家屋や地面に残る血の跡。そして誰一人としていない村が、ここで何があったのかを全てンフィーレアに教えてくれた。

 

 村の墓地には真新しい埋葬の跡があり、エ・ランテルから派遣された兵士がそれをしてくれたのだとンフィーレアには理解は出来る。出来たが、だからと言って少年の胸が張り裂けそうな哀しみが消えるわけではない。彼の想い人や、想い人の家族が埋められた墓の前で天にまで届きそうな慟哭が木霊した。

 

 ───帝国兵は絶対に許さない。必ず生涯の全てを賭けて殺し尽くしてやる

 

 魂に刻まんとするほどの叫びに『漆黒の剣』は何も言わなかった。言えるわけがなかった。反応から大切な誰かが死んだのだと察したから。特にニニャと言う冒険者は心から同情をした。

 

 エンリやその家族に必ず復讐をすると誓ったンフィーレアは、『漆黒の剣』と共にエ・ランテルへと戻った。彼は薬師としての知識を総動員し、毒薬や液体爆弾などを研究するつもりだった。けれど薬品店に帰った彼を出迎えてくれたのは祖母ではなく、見知らぬボブカットの女性と禿げ頭の老人。二人は自分を攫いに来たのだと言い、心配なのか家まで送ろうとしてくれたのかついて来ていて、謎の襲撃者二人組からこちらを守ろうとしてくれた『漆黒の剣』を殺し───

 

「───僕は攫われたのか! ならここはあの二人組の!!!……」

 

 寝かされていたベッドから飛び起きたンフィーレアは部屋を見渡す。見知らぬ場所なのは自分が誘拐されたからだと即座に理解。幸い見張りなどはいないようだが、ここがどこか分からない以上下手に動くわけにもいかない。

 窓から逃げるかを検討し始めたンフィーレア。そんな彼がいる部屋の扉が開き、メイドが一人顔を覗かせる。

 

「!!! ゴウン様!! 奥様!!! 少年が目を覚ましました!!!」

 

 メイドがすぐに誰かを呼びに行く。するとすぐさま二人組が部屋に入って来た。

 

 ゴウンと奥様と言うのがあの老人とボブカットかと身構えたンフィーレアだが、予想に反して入って来たのは人外かと見間違うほどの綺麗さを持つ女性と、同性のンフィーレアでも一瞬ドキリとするほど端麗な容姿の青年だった。

 

 二人は名前を名乗り、ンフィーレアは名前や体調が優れないかどうかなどを聞き出される。誘拐されたにしてはいやに優しい態度に少年は困惑。もしかして自分は誘拐犯から救い出されて、神殿かどこかで怪我がないかどうかを確認されたのだろうかと考察。

 

 だからンフィーレアは問いただした。ここはどこなのかと。自分に何があったのかを。夫婦は顔を見合してから、サトルが口を開く。

 

「バレアレ君。これを君に伝えるのは非常に酷だと私は考える。だが君には近い将来、真実を証言して貰わねばならない……バレアレ君は謎の二人組に、誘拐されたところまでは覚えているのだな」

「は、はい! 僕を守るためにペテルさんやダインさん、それにルクルットさんは戦ってくれて……負けて殺害されました。そこから先は意識を失ったので、何があったのかは……」

「───君が意識を失った後、エ・ランテルで何があったのか。これから語る事は君にとって嘘と思うかもしれないほど、残酷な現実だ。どうかそれだけは覚悟して欲しい」

 

 最初は妙に脅すような事を言うんだなとサトルを見つめていたンフィーレア。しかしサトルの口から語られた事実は、あまりにも少年の人生を歪めてしまう代物だった。

 

 まずサトルが伝えたのは、ここはバハルス帝国の帝都で、自分は特殊部隊を率いていると言う事だ。帝国の特殊部隊と聞いた瞬間は激高したンフィーレアだが、話を聞いている内に大人しくなっていった。

 

 王国の村を滅ぼしたのは帝国兵に扮した誰か。その帝国兵が誰なのかを特殊部隊隊長として調べるために、エ・ランテルへと赴いたらアンデッドによって壊滅していた。都市を調査して城塞都市で何があったのかを掴んだサトルとアイリスは、唯一の生存者であるンフィーレアを連れて帝都へと帰還した。

 

 それを聞いたンフィーレアは、何を言っているのか何一つ理解出来なかった。言葉の意味が分からない訳じゃない。でも理解出来ない。理解したくない。だって自分の故郷が数日で滅んだと聞いて誰が納得できる。自分の故郷を自分の手で滅ぼしてしまったと聞かされて、誰がそれを呑み込める。

 

 エ・ランテルにはンフィーレアの知り合いは多くいる。なにせあの都市で16年間生きて来たのだ。友達や知人がいるに決まっている。祖母のリイジーだっている。なのに……生き残ったのは利用されただけとは言え、エ・ランテル市民を皆殺しにしてしまった自分だけ。そんなのが真実など、誰が受け入れられようか。

 

「嘘だ! お前達は嘘をついている!! そんなの嘘だ!!! お前達はあの老人と金髪の女の仲間で……僕を騙そうとしている!!!」

「───そう思いたくなるのも無理はありません。ですが調査した限りでは、それが真実です」

「嘘だ……嘘だ……お祖母ちゃんが亡くなったなんて……街の皆が死んだなんて……………………そんなの嘘だ!!! 信じない!! お前達が……帝国が嘘をついてるんだ!! 村を滅ぼして、カルネ村を焼いて! エンリを……ネムを殺害して!! その上エ・ランテルを……」

「ネガティブ。バハルス帝国にエ・ランテルを滅ぼすメリットなどありません。民間人を大量虐殺すれば、自国の民すら付いては来ない。そもそも嘘だとして、貴方一人にこのような嘘をつくメリットとは何ですか?」

「それは……」

 

 アイリスの冷徹な言葉にンフィーレアはたじろぐ。澄んだ赤目に気圧される。確かに国民全員を騙すならまだしも、自分一人を騙すメリットなどない。無理矢理誘拐した二人組は、自分に第七位階魔法をどうと語っていた。つまりアイリスとサトルが語る言葉が真実であると補強してしまう。

 

 それでも───

 

「───エ・ランテルがどうなっているのか、自分の眼で見ない限り信じられません。僕を……貴方がたが敵じゃないと言うなら、僕を城塞都市にまで連れて行ってください」

「……アンデッドが蔓延る、滅んだ故郷など見ても心が折れるだけだぞ」

「見ないと分からないじゃないですか! そんなもの!!」

 

 ンフィーレアの叫びにサトルは「はぁ……」とサトルはため息を吐き、アイリスは目を瞑り「……貴方がそう決めたなら」と一応の了承のポーズを取る。

 

 サトルが用意した<転移門>に目を見開くンフィーレアだが、これを通るだけで城塞都市に行けると聞き飛び込もうとするが、アイリスに一旦止められる。

 

 <完全不可知化>やそれ以外にも大量の強化魔法をンフィーレアにかけてから、三人でエ・ランテルの城壁へと移動する。

 

 眼下を見下ろした少年は……ただ何も考えたくなかった。生まれ育った故郷───エ・ランテル。崩れた建物がある。美しいと思っていた広場は崩壊している。無数の、元は都市住民だったと思わしきアンデッドが通りをうろついている。

 

 ンフィーレアが知る街は、もはや既知の都市ではなかった。誰一人として生者のいない箱。死都となったここには、もはや希望の灯もない。そして……この光景を創り出してしまったのは誰なのか。カジットに……ズーラーノーンに利用されたとは言え、<不死の軍勢>により大量のアンデッドを召喚して『死の螺旋』を引き起こしたのは……天才薬師の少年だった。

 

「うっ……ふぐぅううう!! うぉげぇええええ!!!」

 

 胃の中身をぶちまける。長い間何も口にしていなかったせいか、胃液だけが城壁のレンガに染みこんでいく。ンフィーレアには耐えられなかった。自分がこの街を滅ぼす手助けをしてしまったことに。大量虐殺の一端を担ってしまった事に。数十万人の命を……奪い取ってしまった。

 

 アイリスとサトルはすぐに帝都のサトル邸へと引き返す。まだ吐き足りないのか屋敷の床が汚れるが、それを指摘したりはしない。

 

「どうして……どうして……どうして……どうして僕だけ生き残ってるんだ!! どうして!!! 何で死んでないんだよ!!! お前が……僕がみんなを殺してしまったんだぞ!!! パン屋のおばさんはおまけでよくパンをくれた!!! 露天商のおじさんはいつも気前よくしてくれた!!! お祖母ちゃんだって……お祖母ちゃんだって両親がいなくなってからも、僕の事を大切に育ててくれた!!! それをお前が全部殺したんだぞ!!! 死ねよ!! 今すぐ死ねよ!!!」

 

 地面に頭を打ち付け始めたンフィーレアを、すぐに二人は止める。額からは血が流れており、すぐにアイリスが回復魔法で治療する。

 

「離して!! 離してください!! 僕がみんなを……お祖母ちゃんを!!」

「それは違う。バレアレ君は利用されただけだ。悪いのはカジットとクレマンティーヌだ。君に落ち度は存在しない」

「でも!! 僕がこんなタレントを持って生れて来たから……このタレントが悪用されたら不味いんだって気づかないで、呑気に生きて来たから……エ・ランテルは滅んだんです!!!」

「ネガティブ。他者を利用し、己が欲望に数十万人の命を使い潰したのはカジットであって、あなたの意思ではありません。ンフィーレア、あなたは純然たる被害者です……生きてください。ここで自死を選んでも何も変わりません。貴方が自責に苦しむ必要はありません」

「バレアレ君……生きるんだ。生きてカジットとクレマンティーヌに復讐を果たせ。エ・ランテルの市民で生き残ったのは君だけなんだ。君がここで死ねば、誰があの二人に復讐の鉄槌を振り下ろせる」

 

 復讐を果たせ。その言葉にンフィーレアはハッとする。復讐……それはンフィーレアにとって大事な言葉だった。だって彼はカルネ村の墓で誓ったのだ。必ず村の敵を討つと。ここで自責の念から死ねば……それすら果たせなくなる。

 

 それに気づいたンフィーレアは数十分の間、声を押し殺して泣いた。それを二人は見守る。たった一人になってしまった少年の涙を邪魔してはいけない。

 

 全ての感情を押し出すように泣いたンフィーレアは顔を上げる。彼の眼には……何の光もなかった。伸ばした前髪から覗く青い目はどす黒く濁っている。感情の無い、復讐鬼の眼光だけが存在していた。

 

「ゴウンさん……カルネ村住民を殺害した帝国兵。それは本当に、皇帝の命ではないんですね」

「そうだ。アインズ・ウール・ゴウンの名に誓って、それは本当だと約束しよう」

「ポジティブ。もしジルクニフがオーナーにすら嘘をついていたりしたなら、私とオーナーは彼を許しません」

「……分かりました。エ・ランテルの件に帝国は関わっていないと証言させて頂きます。その代わり……必ずカジットとクレマンティーヌ。あの二人を殺してください」

「……ポジティブ。あの二人が行なった行為を鑑みれば、人類の敵でしかありません。必ず断頭台に送ると約束します」

「ありがとうございます。それと、一つお願いがあります。ゴウンさん達はカルネ村の襲撃者が誰なのかを探っているのですよね。それに協力させてください」

 

 ンフィーレアの申し出に意外そうな顔をするサトル。

 

「協力か……それはどうしてだ?」

「カルネ村には、僕の幼馴染がいたんです……昔から好きな子でした。ずっと好きで……いつかそれを伝えたいと思っていた女の子なんです。もう……伝えられなくなりましたが……」

「……復讐のためか」

 

 好きな子のために復讐したい。少し前のサトルなら、何を言っているんだろうと馬鹿にしたかもしれない概念だった。しかし今は違う。サトルはアイリスを見る。もし彼女が殺されたりしたなら、サトルは必ずそいつを見つけ出して復讐する。そんな風に心が変わったからこそ、ンフィーレアの気持ちが良く理解出来てしまった。

 

「分かった。しかし協力と言ってもどうするんだ?」

「……忌まわしいですが。僕のタレントは利用したいと思うほど、分かる人には魅力的なんですよね。それを帝国のために役立てます。僕は薬師としての腕もあります。帝国のためにポーション作成もします。その代わりに、エンリや村のみんなを殺害した人物が判明したら、僕にそいつを殺させてください」

「ふむ……流石に私の一存では決められん案件だな。それに関しては一度陛下に話を通させて貰う。一旦はそれで構わないか?」

「はい」

 

 迷いなく断言するンフィーレアの眼には、復讐の炎だけが灯っている。エ・ランテルを間接的とは言え、滅ぼしてしまった彼を生かしているのは、必ずどこかにいる敵を殺すと言う意思だけであった。

 

「オーナー。一つ提案があります」

「どうしたアイリス?」

「ンフィーレアがカルネ村に詳しいなら、彼も連れて行ってはどうでしょうか?」

「ん? ああ、なるほど。確かにバレアレ君に選んでもらう方が、色々と助かるか」

 

 いきなりカルネ村に連れていくや、選んでもらうと口にする夫婦にンフィーレアは疑問を抱く。

 

「僕をカルネ村に? 一体何の話ですか?」

「……どちらにしろ、君は当分の間表舞台には出れない。ならば話しても構わないか」

「ポジティブ。ンフィーレアには知る権利があります」

「権利?」

「……私の妻、アイリスだが。彼女は高位階魔法を扱える神官で、復活魔法を行使できる」

「……復活……復活! それって!!」

「そうだ。村人は襲撃者の顔などを見たかも知れん。だから復活させて、証言を聞き出す……村の誰が知識を持ってるかなどは、近くの都市であるエ・ランテルが滅んだ時点で、バレアレ君以外誰も知らない。だから……君に選んで欲しい。誰を復活させたら有効なのか? カルネ村で教えてはくれないだろうか」

 

 ……もしかしたらエンリを蘇生させられるかもしれない。そんな蜘蛛の糸が、ンフィーレアに伸びて来たのであった。





ンフィーレア:復讐鬼に。ユアマイスペシャル

カジット&クレマンティーヌ:(エ・ランテルを)無茶苦茶にした。クレマンはこれから夫婦に全力で追いかけられる羽目に
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。