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蘇生魔法を行使できる神官。それはンフィーレアに取って最後の希望だった。アンデッドになってしまったエ・ランテルの住民は元に戻らないらしいが、老衰や寿命死を除けば復活させられる。
低位階───低位階と言っても、蘇生魔法は第五位階魔法<
最強の国であり数多の神官を抱える宗教国家のスレイン法国ですら、とある大秘術を使ったうえで第七位階魔法<
そんな中、第九位階魔法<
そんな希望を胸に抱いて、二人と共にカルネ村までンフィーレアは来ていた。
「こちらです! こっちにみんなのお墓があります!!」
ずっと暗い表情をしていた少年だが、もしかしたらエンリや他のみんなも蘇るのかもしれない。そんな淡い期待が行動に出ており、彼は弾むように駆けてサトルとアイリスを先導する。むろん全員を蘇らせるわけではないと聞いている。コストの問題で駄目だと。しかし一人や二人ではなく、十人は蘇らせる予定だ。複数人数の方が当たりを引ける確率が大きくなる。
複数人数……つまりエンリも含めて、彼女の家族全員蘇らせて貰える確率が高い。だからこそンフィーレアは駆けていく。心の底から希望に縋り付くように。
そんな後ろ姿をサトルとアイリスは見守る。
「あの浮かれ様だと、多分エンリって子とその家族全員の復活を要求するだろうな」
「ポジティブ……理屈の面で言えば、一家族から一人のみに絞りたいのです。彼には悪いですが、従来であれば幼いネムなる少女は復活させるメリットがありません」
「……でもバレアレ君の機嫌は取っておきたいんだよな。あのタレントは将来絶対必要になるから」
帝国に対する損得を念頭にすると、エンリやネムと言う姉妹を蘇らせる意味は全くない。仮にエモット家から選別して蘇らせるなら父親だけだ。それ以外にメリットは一切存在しない。
しかしンフィーレアの……どんなマジックアイテムでも扱えるタレントを持つ彼の忠誠心は非常に重要な要素だ。もし本当にギルド武器も扱えるなら、帝国領に浮遊要塞を持ち帰られる。それだけでなくギルド武器をギルド長と同等に使いこなせたら、ギルド拠点のシステムを十全に扱える。それが帝国に齎す富を考えれば、少年に恩を売っておく意味は非常に大きい。
「ポジティブ。ンフィーレアの価値一つで、エモット家を全員蘇らせてもお釣りが来ます。それにエンリ・エモットやネム・エモットは若い少女と幼い少女です。ならば襲撃者の顔を見ている可能性が高い」
「そうなのか?」
「ポジティブ。襲撃者の性別はまだ分かりませんが、もしも男性であれば。とある事をしている可能性があります」
「……そういう事か。これから殺す予定の相手が若い女……なら、そんな可能性もあるか」
……相手が野盗のような気質であればあり得てしまう出来事。それに思い至ったサトルが言葉を吐き捨てる。
「行為の最中とあれば帝国兵に扮していても兜を脱ぐでしょう。そうなれば顔が晒される。少女二人がどんな顔かよく覚えていなくとも、アイリスとオーナーであれば記憶を閲覧できます」
最悪蘇らせた村人が知らなかったとしても、<記憶操作>で覗ける二人には関係がない。特にアイリスに顔を覚えられたら、もう逃げられない。彼女が怪しいと踏んでいる候補全員を周囲の人間も含めて監視して、顔のパターン識別さえ済ませてしまえば特定できる。誰かの特定さえ済ませてしまえば、あとは証拠固めをして終わりだ。
「分かった。ならエモット家は全員蘇生だな。バレアレ君の要求には出来る限り応えたい」
同情もあるが、それ以上にこの先ンフィーレアが帝国に齎す利益は大きい。彼の価値がエモット家の命を保障する。
ンフィーレアに案内されて墓場に付いた二人は、早速死体を掘り起こす作業に入る。普段であればサトルのアンデッド創造で何かしらを産み出して作業をさせるのだが、アンデッドに故郷を滅ぼされたばかりの少年の前でそれをするのはあまりにも惨い。
なので二人は権能を使う。召喚魔法に見せかけて呼び出すのは天使達。世界級エネミー『セフィラの十天使』の御供モンスターだ。
呼び出された
「この人! この人が村長さんです!!」
「分かりました。まずはこの人から蘇生させます」
最有力候補である村一番の知識人である村長。ンフィーレアを連れてきた事で、誰がそうなのかの判別を簡単に済ませる。
村長の遺体の傍にユグドラシル金貨を並べる。そして使われるのは一つの奇跡。この世界に二人が実体化してから一度だけ使われた魔法。それは一人の騎士をこの世に蘇らせた最高位の蘇生。
「<
金貨が溶け出し村長の体に吸収されていく。騎士を蘇らせた時と同じ現象が起きたので、次の瞬間には村長も蘇るとサトルは安堵する。
アイリスも安心する。ジルクニフの検証のおかげで蘇生魔法が機能している事は分かっていたが、それでもある日急に使えなくなる可能性もあるのだ。それが無い事に安心した。
安心したアイリスだが……この時。彼女はあまりにも迂闊だった。サトルは仕方がない。ンフィーレアも仕方がない。しかしアイリスだけは別だ。曲がりなりにも知恵持つ彼女は気づくべきだった。彼女はもっと蘇生魔法の検証をするべきだった。あるいはこの世界の生物の弱さを見誤っていた。もしも誰が悪いのかと言えば……蘇生魔法が機能したからと安堵していたアイリスだ。彼女は致命的に、それを間違えた。
金貨を吸収した村長の体は起き上が───らない。一瞬で灰になり消滅した。
それをサトルとンフィーレアは呆けた顔で見る。何が起きたのかを知覚出来なかった。しかし術者本人であり、分割思考と高速思考を併用するアイリスは即座に理解。
───デスペナルティによるレベルダウン! まさか! この世界の鍛えていない人間種は<真なる蘇生>にも耐えられないほどに!!!
……デスペナルティ。それは蘇生に絡む絶対の法則だ。この世界では生命力の消失と呼ばれる現象。
蘇生魔法は確かに強力だ。金貨や宝石などを消耗するとは言え、死んだ生物を蘇らせて死を無かった事にするのだから奇跡と呼んでも差し支えないだろう。だが蘇生にはもう一つ払わなければいけない代償がある。それが生命力……『ユグドラシル』で言えば経験値だ。
『ユグドラシル』プレイヤーは死亡しても、5レベルダウンするだけで蘇生魔法が無くとも復活できる。蘇生魔法を使えばこのペナルティは緩和される。<死者復活>なら4レベル、<蘇生>なら3レベル、<真なる蘇生>なら2レベルダウン。<真なる蘇生>の上である、特定職業専用の第十位階蘇生なら1レベルダウンで済む。
……この法則は5レベルダウンの自動復活を除けば、この世界の生物にも全て当てはまる。蘇るには必ず特定レベル分の経験値を……生命力をコストとして支払わなければならない。もしこれを払えなければ、かけられた対象はロスト。つまり灰となってこの世から完全に消え去る。
そしてアイリスが使えるのは<真なる蘇生>まで。つまり彼女が蘇らせることが出来る存在は3レベル以上無ければ駄目なのだ。2レベル以下は絶対に灰となって消える。サトルも特定のアイテムを使えば蘇生魔法が行使できるが、使えるのはアイリスと同じ<真なる蘇生>まで。
……二人でも3レベルにすら到達していない生物は復活させられない。そんなか弱過ぎる脆弱な存在を蘇生魔法は想定していない……結論から言おう。この世界の人間種。それもただの村人は……あまりにも脆過ぎたのだ。
世界級エネミーの権能にも蘇生絡みの能力はあるにはあるが、これが使える対象はエネミー本人が呼び出したモンスターのみ。村人には使えない。この状況を覆せない。
彼ら全員が2レベル以下だとするならば。復活させられる方法は限られる。
レベルダウンするほどの生命力損失を引き起こさせない貴重な課金蘇生アイテムを使用する。
超位魔法<星に願いを>で一時的に<真なる蘇生>のペナルティ効果を消去する。
世界級アイテムで道理や条理を蹴り飛ばす。
この世界にかつて存在した魔法『
第十位階蘇生を使えるプレイヤーを探し出す。
この五つしかない。現時点で例外は存在しない。
アイリスからレベルダウンペナルティ───生命力の損失による灰化が起きたのだと聞かされたサトルは、あまりにもこの世界の住民のレベルを高く見積もり過ぎていたと顔を押さえる。
ンフィーレアは……ただ茫然としていた。伸ばされた蜘蛛の糸はあっけなく千切れてしまった。
「嘘ですよね……蘇生できるって……」
「……ネガティブ。ごめんなさいンフィーレア。私やオーナーでもこの村は救えません……本当にごめんなさい」
目を伏せて、ボソボソと喋るアイリスの姿に二人は何も言えない。他の村人に蘇生を試そうにも、ンフィーレアですら何レベルと聞かれても答えられない。村長ですら2レベル以下だったのだ。これでは誰が3レベル以上なのか分からない。片っ端から<真なる蘇生>を使って行っても良いが、それをした結果全て灰の山になりましたでは洒落にならない。
最後の希望を断たれたンフィーレアは、脚を引きずるようにしてエモット家の死体傍に近づいていく。
並べられたエモット家はボロボロの姿だった。良く見知っているからこそ……ンフィーレアは目を覆いたくなる。
ンフィーレアは知っている。エンリの両親は素晴らしい人たちだった。両親を早くに亡くした少年が、時には二人の姉妹を羨ましく思ったほどに。自分の両親もこんな人たちだったのだろうかと思いを馳せるほど……素晴らしい人たちだった。そんな人たちには手足がない。
ンフィーレアは知っている。ネムは可愛らしい少女だった。我儘を言って良くご両親と姉であるエンリを困らせる天真爛漫な少女。でもエモット家はそんなネムを可愛がっていて……自分も色んなお土産をあげたりした。そんなネムは目が潰されていた。
そしてエンリは───
「ごめん……ごめんエンリ……守ってあげられなくて……ごめんね……。痛かったよね? 苦しかったよね? ……その場にいて上げられなくてごねん……ごめん……」
……首が半分しか繋がっていないエンリの死体を抱きしめながら、ンフィーレアは涙を流す。少年の生きる希望はこの瞬間無くなり……もはや復讐だけが彼を生かす動機になってしまった。しかしその姿を見て、アイリスはサトルに一つお願いをする。
「オーナー……私は一つ我儘を行いたいです」
「……どんな我儘かな?」
「これを彼に渡します」
アイリスがアイテムボックスから取り出した指輪を見て、サトルは唸る。それはあまりにも度を越えた我儘ではないかと。
「分かっているのかアイリス。それはもうこの世界で手に入るか分からないんだぞ? 言いたくはないが、バレアレ君の想い人とは言え、ただの村娘に使って良い様な代物じゃない」
「ポジティブ。だからただでは渡しません。超位魔法<星に願いを>で、タレントの奪取が行なえるのかを試したいのです」
「……バレアレ君のタレントか。確かに……あのタレントを俺かアイリスに移せたなら、戦力の強化にはなるが……」
サトルはアイリスの言葉に悩む。それは彼女が取り出したのが非常に貴重なアイテム───ペナルティを最小限に抑えて蘇生させる課金指輪だからだ。これを使えばレベルダウンは発生しない。村人でも復活させられる。
ただしこれは本当に貴重なアイテム。浮遊要塞でいくつか回収出来たとは言え、それでも無限にある訳ではない。こんなところで使うにはあまりにも希少過ぎる。しかしンフィーレアのタレントの価値はあまりにも魅力的過ぎる。彼が協力してくれるとは言え、それでもサトルかアイリスが持つ方が上手く運用できる。もしタレントと引換ならば……釣り合う。価値は同等になる。
「……バレアレ君が2個目を要求したらどうする?」
「ネガティブです。2個目は渡しません」
……無限に持っているならアイリスは渡してあげていた。だが数個しかない貴重アイテムを何個も渡せない。だから渡しても1個だけ。それ以上を要求するようであれば……悪いとは思うが、ンフィーレアの復讐はここで終わりだ。
「……分かった。タレントと引換に蘇生指輪を1個渡す。その条件なら構わない。どちらにしろ、村人を誰か一人復活させて情報を抜かないといけないからな」
サトルの了承を受けたアイリスはンフィーレアに近づいていく。
「ンフィーレア。少し大切なお話があります」
「……なんですか」
「……私では村人は救えません。ですがマジックアイテムなら別です。この指輪を使えば、生命力の損失を殆ど引き起こすことなく復活させられます」
「!!! 本当ですか!!!?」
差し出された最後の蜘蛛の糸にンフィーレアは強く反応する。アイリスの手に乗る指輪。それを見たンフィーレアは奪い取ろうとして……あっさりと避けられる。
「……この指輪はとても貴重な物です。まず二度と手に入らないほどに貴重な。それを渡すのですから、貴方は一つ見返りを差し出さないといけません」
「そ、それは何ですか!! 何を差し出せば頂けるんですか!! 教えてください!!!」
「タレントです。私たちは所有者の同意があれば、タレントを別の人物に移し替えられるかもしれない手段を保有しています。貴方が持つタレントをオーナーに譲ってください。それと引き換えに……この指輪を差し上げます」
アイリスの言葉にまたタレントかとンフィーレアは少しうんざりする。エ・ランテルが滅んだ原因が自分のタレントなら、今度もまたタレント。ンフィーレア個人ではなく、タレントだけが価値を見出される。しかし……そんなタレントを貨幣とする代わりに、エンリを蘇らせる手段が差し出された。ならばンフィーレアは迷わない。自分が持っていたせいでエ・ランテルが滅んだのだ。こんな忌まわしいタレント……誰かが背負ってくれるならばくれてやる。
「差し出します!! だからエンリを、彼女を蘇らせてください!!! お願いします!!!」
「───ポジティブ。タレントの移し替えは、エ・ランテルの証言が終わるまではお預けです。なのでこれは前払い」
ンフィーレアの手に指輪が渡される。
死体の指に嵌めるだけで効果があると教わった少年は、エンリの指に嵌めようとして……踏みとどまる。
「アイリスさん……この指輪を使えるのは、一度だけですか」
「一度だけです。辛い選択かもしれませんが、誰に使うのかはンフィーレアが選んでください。使えるのは一度だけ。復活させられるのは一人だけです」
念押しするように一人だけとアイリスは宣言する。一人……つまりエンリかネムしか選べない。姉妹の両親は手足がないのだから指輪を嵌められない。だから選べるのは本当に一人だけ。
村人の中でンフィーレアが一人だけ選んで蘇らせるなら、それはエンリしかいない。だがネムではなく、エンリを選んだと知ったら彼女は何と言うだろうか。エンリはネムの事を愛していた。自分の命よりも、妹であるネムを優先するような少女───きっと最後の時間は、命を捨ててでもネムを救おうとしただろう。それがンフィーレアが惚れ込んだエンリなのだから。
突きつけられた選択肢はあまりにも重い。本音を言えばこの指輪がもっと欲しい。だがアイリスは一人だけと念押しした。この指輪はとても貴重だと。もう二度と手に入らないほどに貴重なのだと。
それはそうだろう。死者を確実に復活させる指輪。そんなもの貴重に決まっている。誰だって欲しいと願うに決まっている。それを一つだけとは言え渡された。だからこれは唯一の機会。
後は自分がどちらを選ぶのか。エンリか。エンリの意思を継いでネムか……数分悩んだかも知れない。数時間かも知れない。ンフィーレアの決断をアイリスとサトルは待ってくれた。
少年は吐きそうな思考の中、震える手でエンリに指輪を嵌める。ネムを選べなかった。まだ幼いネムでは、この村で起きた出来事の証言者として不十分だと脳の何処かが冷静な決断を下した。あるいは復活するエンリに対する言い訳か。
何にしろンフィーレアは村人の中から、エンリを選んだ。他に選択肢があったかも知れない。証言だけに限定するなら他に候補がいる。それでも……エンリ以外ンフィーレアには選べなかった。
指輪は抵抗なく、骨が見える指に嵌る。すると指輪が割れて壊れる。最初は不発で壊れたのかと疑うンフィーレアだが違った。腐っていたエンリの体が瞬く間に修復されていくのだ。千切れかけの首も繋がる。服はボロボロで治らないが、そこにはすっかり綺麗な体に戻ったエンリ・エモットが存在していた。肉体には熱が戻り、浅い呼吸をし始める。
そんな出来事にンフィーレアは再び涙を流す。命にかけても守りたいと慕っていた想い人が、この世に戻って来たのだ。強く抱きしめようとするが───
「ネガティブ。戻ったばかりで体力はまだ全快しておりません。<大治癒>……これでマシにはなりましたが、まだ絶対安静の可能性もあります」
「わ、分かりました」
慌ててンフィーレアは力を抜く。せっかくこの世にエンリが戻って来たのに、自分のせいでまた亡くなったら笑えない。
「……蘇生は成功か。とは言え、課金アイテムによる蘇生が上手くいったのか経過を観察せねばならん。エモットさんを連れて帝都にまでまた戻るか」
サトルの言葉に頷く一同。村人の死体は再度墓に埋葬。<転移門>を通り、エンリを担いでまたもやサトル邸にまで全員は戻るのであった。
Q:<真なる蘇生>はレベルダウンする?
A:する。原作13巻でネイアがレベルダウンした
Q:エンリに<真なる蘇生>を使ったら灰になる?
A:なる。彼女のレベルはこの時点だとファーマー1レベルしかない
Q:ネムに課金指輪を使ったらどうなる?
A:ファーマー1レベルすらないので僅かなペナルティでも耐えられず灰になる。彼女を蘇生させられるのは以下の三つ
・星に願いを
・始原の魔法
・世界級アイテム
あるいは遠い未来で蘇生魔法の研究が進みペナルティ無しの蘇生が開発されたらなんとか