リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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森の賢王は見た

 洞穴の中で眠っているらしき巨大ハムスターな魔獣。この洞穴が彼の巣穴なのだろう。そこから鎧の反応がある事にサトルは「なんで?」となり、アイリスも少しだけ不思議がっていたがとある可能性に思い至り「あ~」となる。

 

「オーナーはハムスターの食性……何を食べるのかをご存じですか?」

「ハムスターの食べる物? ……あんまりは知らないな。あの人も可愛いとか、ちっちゃくて愛おしいとかは教えてくれたが」

 

 サトルが思い返すのはギルドメンバーの一人。ジャンガリアンハムスターをペットとして飼っていて、事あるごとにここが可愛いだったり写真を見せてくれた友人。ペットのジャンガリアンが亡くなったら、一週間はペットロスでゲームにログインしてこなかった人だ。

 

 確かその人が何度かご飯を食べてくれないとか言っていて、その際に口にしていたのが───

 

「ひまわりの種を食わないとか言っていたな。俺は実物を見たことないが、ひまわりって花の一種だろ? ならハムスターは草食なのか?」

「ネガティブ。ハムスターは草食よりの雑食なのです。穀物を好んで口にしますが、必要なら動物性タンパク質も摂取します」

「つまり肉も食える……ん? 鎧の反応があって、肉食でもあるってことは……」

「ポジティブ。ハムスターには餌を巣穴に持ち帰る習性があります。あの大きなジャンガリアンにその習性があるかは分かりませんが、もしその習性があるなら……」

「この森の中で襲撃者と遭遇して、食うために殺して持ち帰った! ならあの巣穴には襲撃者の死体があるのか!?」

「可能性は高いです。仮に死体が無くとも、あの魔獣の記憶には何か映っているかもしれません」

 

 集眼の屍(アイボール・コープス)の視界には死体などは移っていないが、ハムスターが陰になっていて見えないだけかもしれない。あるいは巣穴の中に隠し場所があるのか。

 

 何にしろ王国襲撃事件の大きな手掛かりを手に入れられるかもしれない。それを期待した二人は、ハムスターの巣穴に向かって<上位転移>で跳躍する。

 

 巣穴の前に立つ二人の耳に、獣の大きな地響きを伴ういびきの音が届く。

 

「……随分……無防備に寝ているみたいだな。野生の獣って、こんなに警戒心が無いもんなのか?」

「ん~……1900年代から2000年代前半にかけては、野生動物でも食物連鎖の頂点に近い種は無防備な姿を見せたそうなので……」

「……あのハムスターはあんな見た目だけど、このトブの大森林の頂点にいる側って事かよ。人は見た目によらないと言うが……魔獣も一緒なんだな」

「『ユグドラシル』の上位のモンスターは、分かりやすく強い見た目ですからね。ある意味オーナーの知る知識とは、真逆なのですよ」

 

 何にしろハムスターの巣穴から鎧の反応がしている以上、あの魔獣に<記憶操作>をかけたい。しかし記憶を覗くには生かしたまま、動きを拘束するしかない。だが魔獣の強さが分からない以上、慎重に動く必要がある。二人は予めかけられるだけ強化(バフ)をかける。更に念入りに、確実に捕らえられるように、権能で大量の熾天使(セラフ)を召喚。巣穴から出てきたところを集中砲火で叩けるように配置。入口兼出口には魔法陣をセットして、任意で起爆して吹き飛ばせるようにしておく。

 

 100レベルのプレイヤーパーティでも殺し切れる戦力を用意しきったところで、巣穴の入り口に骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を立たせる。骸骨戦士は円形のバックラーを片手に武装し、もう片方にシミターを握りしめている。

 

 このアンデッドが入口でバックラーにシミターを打ち付け始める。響く金属音。カンカンうるさい音がなり……その音は巣穴のハムスターにも良く聞こえたのかいびきが止む。覚醒した獣は自分の眠りを邪魔した闖入者に向かって、四足を動かし駆けだす。

 

 こちらの縄張りに入った挙句、分かりやすく挑発した何かがいる。ならば殺す。それが自然の掟だからだ。そうやってこのハムスターは生きて来た。自分を叩き起こした存在を発見。それは鎧を着た骨だった。ちょっと気持ち悪かったのか、少しだけハムスターは怯むが、それはそれとして叩き潰すと決めたのだから潰す。突撃の勢いを乗せて前脚を叩きつける。

 

 骨だけの何かは勢いよく飛んでいく。ハムスターは突撃した勢いそのままに巣穴から飛び出て───

 

「<戒めの鎖>」

 

 アイリスのデバフ魔法に拘束される。数多の魔法陣から鎖が飛び出し、ハムスターの全身を雁字搦めにしてしまう。

 

「なんでござるかぁ!! なんで御座るかぁこれは!!」

「……御座る? えっ、こいつ喋るの?」

「……珍しい魔獣なのです」

 

 じたばたと藻掻くハムスターが喋った事に二人は少し驚く。そんな魔獣もいるんだなぁ……と。そんな二人を余所にハムスターは鎖から逃れんとするが、アイリスの拘束(スタン)は簡単に外れない。今回用意した魔法陣は全部で41。それも全てアイリスの特殊ステータスが乗った拘束だ。相手がレイドボスのような相手でも、暫くの間動きを止めてしまえる拘束力から簡単に逃れられるわけがない。サトルでもこれだけの数を外すとなると、30秒は必要だ。

 

 そんなハムスターを見ていたアイリスが「そう言えば」と口を開く。

 

「トブの大森林には、数百年前から森の賢王なる魔獣が住み着いている伝説があります。ひょっとしたらこの子がそうかも知れません」

「え~……こいつが森の賢王? 喋るハムスターが賢王? ないだろそれは……」

 

 アイリスの言葉をサトルは否定。森の賢王なんて御大層な魔獣が、実はデカいジャンガリアンなハムスターなんて悪い夢でしかない。ないないと首を振る。

 

「まぁ、ハムスターが森の賢王なのかどうかはどうでもいいか……おい、そこのお前。その鎖から逃げたいなら、私達の質問に答えろ」

「……え? ひえぇ! なんでござるかこいつらは! それがしが倒したあの白い連中の親玉でござるのか!!? ゆ、許して欲しいでござる!! それがし悪い事なんてしてないでござるよ!!!」

「……白いのを倒した?」

 

 サトルが問いかけても聞こえていないのか、ハムスターは熾天使(セラフ)達に怯えるだけだ。そんなハムスターが発した言葉にサトルは疑問を抱く。ハムスターが言及している白い連中の親玉とは、巣穴を包囲するように配置した熾天使(セラフ)の事だ。それを指して親玉と呼んだ。つまりこのハムスターが指す白いのとはつまるところ───

 

「……こんな森の中で天使種族とこの魔獣は衝突……したのですか?」

 

 アイリスの言葉に、あり得ないだろとサトルは突っ込みそうになる。例えばゴブリンだのオーガだのなら分かる。あるいはスライムやトレント。その辺りなら森にでも出現するだろうが……森の中で天使は普通出てこない。

 

 しかし魔獣の言葉が気になるのも事実。天使種族のモンスターはみな一様に似たようなデザインをしているからだ。サトルとアイリスは転移した世界が位階魔法を除いても、非常に『ユグドラシル』に似ている事を確認している。最初は不思議がっていたサトルだが───

 

「───もしかすると存在Xは類感呪術……この世界が『ユグドラシル』に類似しているからこそ、干渉出来たような力を持つのかもしれません」

 

 データで見た時に非常に似通っているからこそ、その類似性から数多の並行世界や次元宇宙から『ユグドラシル』を探し出してデータを引き抜けた説がアイリスの仮説だった。あくまでも仮説。真実はどうなのかは存在Xにしか分からず、分かったところで今更どうしようもない訳だが。

 

 ともかくこの転移世界は『ユグドラシル』に非常に似ており、そんな世界の中で熾天使(セラフ)に似た何かをこのハムスターは見て退治したと宣う。非常に興味深い証言だった。

 

「……そこのハムスター。お前に聞きたいことがある!!」

「えっ? に、人間で御座るか? ……も、もしかしてこの連中はそなたらが召喚したのでござるか!! ひょっとしてあの人間達の仲間で、それがしに報復に!!! ごめんなさいでござるよ!!! 命だけは! 命だけは助けて欲しいでござる!!!」

 

 再度サトルが問いかけると、ようやく気付いたのかハムスターの目がこちらに向けられる。人間が二人いる事に驚き、今度は報復だなんだと口にする魔獣。その反応に、大当たりを引いたかもしれないとサトルは考える。

 

(森の中で天使を見たかもしれないに、人間からの報復。それと巣穴からする鎧の反応に、アイリスが教えてくれたハムスターの習性。やっぱりこいつ、村の襲撃者を殺してそれを持ち帰ったな。これは本当に大当たりかも知れないな)

 

「オーナー。アイリスは彼の頭を覗きますので、その間に巣穴の中に死体が無いかなどを確認して貰っても構わないですか?」

「了解。それじゃアイリスにはこいつの相手をお願いしようかな」

 

 サトルが巣穴の調査を。アイリスがハムスターの事情聴取を担当する事に。巣穴の中に死の騎士(デス・ナイト)を伴って入っていくサトルを見送った後、アイリスはハムスターに向かいあう。

 

「こんにちはですハムスターさん。その鎖はいますぐ解いてあげますよ」

 

 熾天使(セラフ)への反応から酷い怯えを感じ取り、またこっそりと<生命の精髄(ライフ・エッセンス)>なりで相手の情報を確認していたアイリスは、ハムスターの脅威度をデス・ナイト程度と見定めている。だから拘束を解いても問題ないと判断して<戒めの鎖>を解除する。

 

 自分を縛り付けていた鎖が無くなった事で、ハムスターは自由を取り戻すが逃げようとはしない。逃げようにも周囲を熾天使(セラフ)達に囲まれているのだから逃げられないのだろう……一応転移対策も施しているので絶対に逃げられないようにしているが。

 

「お、お主らは何者でござるか? 数日前にそれがしの縄張りに入った人間の仲間でござるのか?」

「人間の仲間ですか……それはネガティブ……違います。ハムスターさんが指す人間が誰なのかは分かりませんが、少なくとも私達の仲間ではない筈です」

「そうでござったか……で、ではそれがしに何の用なのでござろうか……それがしまだ死にたくないでござるよ!! なんでもするから命だけは見逃して欲しいでござる!!」

 

 ひっくり返り腹を見せて降伏のポーズをハムスターは取る。それを見たアイリスは少しだけ考えた後───

 

「なんでも……ですか。では少しだけハムスターさんの頭に手を置いても大丈夫ですか?」

「大丈夫でござるが……ところでハムスターさんとはそれがしの事でござろうか?」

「ポジティブ。私達の知る生き物にサイズは違いますが似ているので、便宜上そう呼ばせて貰っていますが……何か名前があるのですか?」

「……かなり前に、縄張りに入った人間がそれがしの事を森の賢王と呼んだでござる。それ以来森の賢王を名乗っているでござるよ」

「……やはり森の賢王でしたか」

 

 喋る事から森の賢王と呼ばれたのではないかとアイリスは考察するが、それは今すべき事でもないなと分割思考の片隅に置いておく。

 

「では森の賢王と私も呼ばせて貰います。今から頭に手を置きますが……動いたりはしないでくださいです」

 

 近づいてきたアイリスに少しだけ森の賢王はびくりとするが、それ以外には大人しいものだ。命の危機がすぐ傍にあるからだろう。

 

 アイリスの手が賢王の頭に乗せられ、<記憶操作>で情報を読み取っていく。

 

 抜き取った情報は数日前の記憶だ。賢王は自分の縄張りに誰かが侵入した事を感知して、現場に急行。無断で入ってきた侵入者を殺すべく向かったのだ。

 

 賢王がたどり着いた場所にいたのは二組の人間だ。一人は帝国騎士の鎧で全身を固めた人間。もう一人は衣服鎧に身を包んだ人間だ。二人組は何かを探すように森の中を探索している。そんな二人に対して賢王は20mも伸びる尻尾でいきなり攻撃。偽装帝国騎士の首から上が千切れてどこかに飛んでいく。即死だった。

 

 突如攻撃された事に衣服鎧は狼狽えたがすぐに応戦。その人物は<第三位階天使召喚>で炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を呼び出し賢王と相対する。

 

 実力自体は賢王の方が上なのか、衣服鎧は徐々に追い込まれていく。しかし衣服鎧も上手く天使を使って攻撃を凌ごうとする。天使種族は純粋物理攻撃に対して高い抵抗力を保有する。魔法攻撃か魔法を付与した攻撃でないと効き目が薄い。その特性を利用して賢王の鋭い爪による切り裂きや、馬並みのサイズから繰り出す体当たりをいなしていく。

 

 しかし衣服鎧の魔法や天使の攻撃で簡単に賢王は怯んだりしない。下手な金属よりも固い毛皮が全て弾いてしまうのだ。

 

 そうこうする内に、賢王は物理攻撃が効きにくい事を察したのか魔法を発動する。肉体そのものに無属性魔法を付与(エンチャント)。今度の叩きつけは今までと違い天使を一撃で潰し切る。天使を失った衣服鎧は再度天使を召喚しようとするが───

 

「遅いでござるよ!!」

 

 その前に賢王に押し倒されてマウントを取られる。叩きつける。叩きつける。何度も何度も前脚を叩きつける。衣服鎧は魔化が施されているのか、見た目以上に頑丈で賢王の攻撃に耐えようとするが……防御も出来ない状態で耐えきれるわけがない。

 

「おっ! ようやく死んだでござるか……いやはやなんとも頑丈な鎧でござるよ。それがしが戦ってきた中では、一番強いかも知れんでござるなぁ……」

 

 賢王の攻撃に耐えきれなかったのか衣服鎧の人間も事切れた。賢王はやれやれと首を振るが……すんすんと鼻を鳴らし辺りの匂いを嗅ぎだす。

 

「まだいるでござるか? しかもこちらに向かってきているでござるよ……仕方ないでござるか。それがしが全員返り討ちにしてやるでござるよ」

 

 待ち構える賢王の前に、倒された衣服鎧と同じ格好の人間が6人現れる。救援を呼んでいたのだ。その6人が召喚した天使相手に賢王は奮闘。倒してもすぐに天使が補充されるが、それでも賢王の方が上なのか徐々に押していく。

 

「退却だ! 全員退け!!」

「死体はどうしますか!!?」

「回収しろ!! 偽装部隊はまだしも、我らの死体が残るのはまずい!!」

 

 戦況が不利だと判断したのか、天使を囮にして賢王の注意を引いている間に死体を回収して衣服鎧の部隊は撤退していく。賢王も逃げていくならば、無理に追撃する必要もないと判断したのか後を追わない。

 

 縄張りから出ていくのを気配で察した賢王は巣穴に帰ろうとしたところで、地面に落ちていたそれに気づく。最初に攻撃されて即死した帝国騎士の頭だ。兜が珍しかったのかそれを巣穴まで戦利品として賢王は持ち帰る。

 

 そこまで覗いたところで、アイリスは熟考。森の賢王はこの世界の基準ではかなり強い。少なくとも記憶を閲覧した限りでは、帝国四騎士全員でも勝てないだろう。それほどの強さがある。それを相手に天使種族の特性を利用したとは言え、衣服鎧は一人でかなり善戦した。最終的には死んでしまったが。

 

 そして「偽装部隊はまだしも、我らの死体が残るのはまずい」。この発言から表には出てこない、あるいは出てはいけない部隊だと分かる。そして第三位階の天使召喚魔法を使いこなせる集団。これらは一つの答えをアイリスに教えてくれる。

 

「下手人はスレイン法国の『六色聖典』でしたか」

 

 ……六色聖典。それはスレイン法国が抱える特殊部隊の総称だ。

 

 スレイン法国はサトル達がいるバハルス帝国の南西にある宗教国家だ。かつて六大神と呼ばれたユグドラシルプレイヤー6名が、人間種を保護して起こされた国。プレイヤーが直接建国に関わっただけあり、人間種の国家では最大規模を誇る。

 

 そんなスレイン法国には六大神にちなんだ非合法の特殊部隊が存在する。それが『六色聖典』だ。あるとは言われているが、実在を知る者は少ない。しかし知識層であればそれは確実にあると確信している。アイリスも編纂書を書いた時に、六色聖典に関してはきちんと調べ上げている。だからこそ第三位階の天使召喚を使いこなせるような人間を、多数抱えているのはスレイン法国だと答えを導き出せたのだ。

 

「……森の賢王。あなたはこの周りに配置した、熾天使に似た何かを多数打ち倒した。それは事実ですか?」

「どうしてそれを知っているでござるか? ……そうでござるよ。それがしの縄張りに人間が入って来たので撃退しようとしたら、その人間が魔法を使って白いのを召喚したでござる」

「ポジティブ。ではあなたは森の中で人間と戦った。その内二人は殺したが、死体は回収された。けれど頭だけは残っていたので戦利品として頂戴した。それは事実ですか?」

「なんと! お主はそれがしの頭に手を置いただけで、それがしの事がわかるのでござるか!!! そうでござるよ! 二人は殺したでござるが、そいつらは新しい人間が回収していったでござるよ!! それがしが戦利品として手に入れたのは兜だけでござる!!」

「ポジティブ。ならその頭は巣穴の中にあるんですね」

 

 そうでござると賢王が頷いたので、アイリスはサトルが首を回収してくるのを待つ。3分ほどしたところで、サトルが巣穴から出て来た。

 

「お待たせアイリス。巣穴にはこれがあったよ!!」

 

 サトルが兜を……まだ頭が入ったままのそれをアイリスの前に置く。頭は腐っており酷い匂いを発しているが、それを二人は気にしない事にする。

 

 アイリスはサトルに<記憶操作>で手に入れた情報を開示。下手人は100%に近い確率でスレイン法国であると聞かされたサトルは「なるほどなぁ……」と頷く。

 

「それじゃあ……答えがあっているか、この頭を蘇らせて聞いてみるとするか」

「ポジティブ。手足が無いので課金指輪は使えません。<真なる蘇生>での復活を試みることになりますが……どちらにしろスレイン法国であると確証があるので、この首が灰になっても問題ありません」

 

 <死者復活>や<蘇生>であれば肉体が損傷していたり、体の大部分が欠損していると復活魔法は使えない。しかし<真なる蘇生>であれば首だけしか無くても復活させられる。この死体が灰になるリスクもあるにはあるが、スレイン法国が最有力候補に上がった以上それほど困ることも無い。<完全不可知化>や隠密系の職業を持っているバルキリーの力を借りて、後ほど法国を調べ上げればいいだけだ。

 

 だからこの首に対して気軽に<真なる蘇生>を試みる二人だが……不発。

 

 蘇生魔法には蘇る側に拒否する権利がある。どうやら死んだ騎士は蘇生を拒んだようだ。アイリスは特殊部隊らしく蘇生させる手合いが敵である可能性を考慮して、蘇生を拒否したのではないか。あるいはスレイン法国が回収した遺体から、アイリスより先に蘇生させたから不発なのかと考察する。何にしろこの首から蘇生は不可能だと判明した。

 

「……このハムスター……森の賢王だけがスレイン法国だと証言出来る存在になったのか」

「ポジティブ。魔獣の言葉をどこまで信じて貰えるかは分かりませんが……六色聖典が下手人だと証言出来る貴重な存在なのですよ」

「ふっ、そうだな。おい森の賢王。お前は命が助かるなら、なんでもするとアイリスに約束したらしいな」

「言ったでござる! 死にたくないでござるよ!!!」

「そうか。なら私達と一緒に来い。お前には色々と証言して貰わないといけないからな」

「……ついていけば助けてくれるでござるか?」

 

 恐る恐る聞く森の賢王に、サトルは「そうだ」と短く返答。

 

「ならばそれがしは御二方に……殿と姫についていくでござるよ!」

「……殿と姫? 誰だそれは……」

 

 サトルが呆れながら森の賢王に問いかける。森の賢王曰く、森の掟では強き者こそが絶対。敗れるような弱者は強者に従う事が自然の掟であり、負けた自分は命を奪わなかった二人に忠誠を誓わねばならないのだとか。

 

(……おきあがりなかまになりたそうにこちらをみている……だったか。そんなゲームがあると教えて貰ったことがあるが……自然の掟ってそんなもんなのか?)

 

 倒した相手に忠誠を誓う。サトルからすれば良く分からない理屈ではあるが、何にしろ証言者としてこのハムスターを連れて帰らないといけないのだから、どっちでも良いかと結論を出す。

 

 こうして二人は森の賢王と呼ばれる魔獣と、頭だけになった偽装兵を帝都まで持って帰る事になった。

 

 下手人の最有力候補に六色聖典が浮上した事を知らせるために、一度皇城まで出向くことにした二人。

 

 調査に出向いていた二人からの経過報告に、ジルクニフはすぐに応じた。

 

 エ・ランテルのアンデッド騒動が、ズーラーノーン幹部である高弟二人の手によること。ズーラーノーン高弟の一人は儀式によりアンデッドとなっていたので、サトルの死霊術により支配して詳細に聞き出したこと。唯一の生存者であるンフィーレアを保護したこと。カルネ村に赴きエンリを蘇生させたこと。エンリの証言からトブの大森林を捜索したら喋る魔獣を発見したこと。その魔獣───森の賢王と村の襲撃者の間に一悶着あり、魔獣の証言から天使召喚の魔法を扱う集団であると判明したこと。

 

 それらの報告を受けたジルクニフは「よりにもよって法国か……」と恨み言を漏らす。

 

 今回の戦士長暗殺事件の黒幕が本当に法国となると、帝国でもそんな簡単に手を出せないからだ。

 

 戦力の面では皇国騎士団を抱える帝国の方が遥かに上だ。仮に戦端が開くような事態になっても制圧は容易。だが神殿勢力との兼ね合いを考えると、法国相手に揉め事を起こすのはあまり得策ではない。帝国に根付いている宗教は、元々法国の六大神信仰から派生した物。ある意味帝国内の宗教の総本山が法国なのだ。そんな法国相手に真正面から糾弾するなら、より確かな物証が必要となる。

 

 現状では魔獣一匹の証言に過ぎず、法国はまともに取り扱わないだろう。だからこそサトルとアイリスは、引き続き情報収集に励まなければならない。

 

「御二方はこれからどちらに向かわれる予定で?」

「私とアイリスはクレマンティーヌを追います。奴はエ・ランテル事件の真犯人の一人。クレマンティーヌを捕らえてンフィーレアと面通させ、いつでも処刑出来るように手筈を整えます」

「───それにクレマンティーヌはカジットの情報が正しければ、元漆黒聖典の一人です。彼女であれば法国の内部事情にも詳しいかと」

「なるほどな。確かに今は、そのクレマンティーヌと言う女を追うのが先決か。良し分かった。御二方にはクレマンティーヌの捕縛と、法国の調査をお願いしたい。頼めるだろうか?」

 

 皇帝からの命令───と言うよりは頼みに二人は頷く。応接室を出ていく二人を見送った後、考える事が山のように出てくるとロウネに愚痴るジルクニフだが……彼を悩ませる問題はまだまだ湯水のように湧いてくる。

 

 二人が帝都から離れて数日後の事だ。またもや新たな報告が、王国に忍び込ませた間者からジルクニフの元へと上がって来た。

 

 それを見た瞬間皇帝は頭が痛くなった。その可能性自体は考慮していた。だが幾ら何でも早すぎるだろうと。

 

 ジルクニフの元に届けられた報告を簡潔に表せばこうなる。

 

【リ・エスティーゼ王国第一王子、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフがリ・エスティーゼ王国の国王に即位】

 

 それがジルクニフを……バハルス帝国を悩ませる新たなる問題の名前だった。





バルブロ:国王に

スレイン法国:ガゼフ暗殺の最有力候補に

森の賢王:大事な証人(証魔獣)に
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