リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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死の神降臨 

「オーバーロード? ……」

 

 聞いたことも無い種族名にイビルアイは疑問の声を漏らす。長い時を生きぬき、その時間を研鑽や研究に打ち込んだだけあって彼女の知識量は冒険者の中でも群を抜く。特にアンデッドに関しては、故郷に関する研究やとある老婆のおかげで非常に詳しい。

 

 そんな彼女でもオーバーロードなる種族は知識の中になかった。

 

「ふむ? その反応から察するに、知らぬか……嘆かわしい事だ。数百年が経つ間に、我が名はそこまで地に堕ちたのか」

 

 自らの顔を掌で覆い隠しながら、実に残念だとオーバーロードは首を振る。骸骨の見た目を裏切るあまりにも人間臭い振る舞いに、イビルアイの中で警戒度合いが上がる。人間のような振る舞いが出来るアンデッドは、それだけ強力な個体が多いからだ。その考えを裏付けるように、イビルアイが感じ取れる目の前の骸骨の脅威度は恐ろしく高い。かつて魔神戦争にも参戦したイビルアイは魔神と争った事もあるが……それと比較してもなお遥か上にこのオーバーロードなるアンデッドはいる。彼女の長い歴史の中で、比較対象に成りえるのは評議国で眠りこけている竜王ぐらいだ。

 

 もしも汗が流れるような体であれば、体中がびっしょりとした冷や汗で濡れていたかもしれない。そう感じさせるほど別格のオーラを持つアンデッドだった。

 

「数百年が経ったとは、どういう意味……ですか?」

 

 下手に出るのが正解なのか、いつも通りの口調で行くのが正解なのか不明。ただ強大さから考慮しても、オーバーロードの方がイビルアイより上位種なのは明確。故にいつもの尊大さは鳴りを潜ませる。相手はドラゴンだと思ったうえで、イビルアイは会話に挑むことにした。

 

「数百年は数百年だ。私が一度この世界を去ってから、それだけの年月が流れたと……ああ、そうか。死の支配者(オーバーロード)だと告げられても分からぬなら、我が名にすぐには思い至らぬか。失敬失敬。これは私のミスだな」

 

 何かを一人で納得したのか、オーバーロードは一人うんうんと頷く。

 

「では改めて名乗ろうか。我が名は()()()()()()。かつてこの地に降臨し、人間を助けた神の一人だ」

「スルシャーナだと!!」

 

 イビルアイの驚愕の声に「そうだ」ともう一度頷くスルシャーナ。

 

 スルシャーナ。それはスレイン法国を建国した六大神の一人の名だ。法国では闇の神として崇拝されており、諸説によれば死を司る神であったと言われている。イビルアイは六大神信仰に関しても、しっかり知識として持っているためすぐにその名に思い至る。

 

 しかし───

 

「……死の神スルシャーナは八欲王に弑されたと謳われている! それがなぜこんな場所にいるんだ!! ……ですか……」

「なぜこんな場所に……か。長い話しになるが、聞くつもりはあるか?」

 

 どうすると首を傾げながら尋ねるスルシャーナに、イビルアイは黙考する。エランテルの調査に訪れたら超級のアンデッドが溢れていて、アンデッド達は生者のように協力していて、挙げ句の果てには六大神を名乗る怪物を超えた怪物としか言えないオーバーロードなる、初めて見るアンデッド。

 

 あらゆる現象が不可解だが、その中心には間違いなくこの自称スルシャーナがいる。こちらの質問に答えてくれると言うならば、怪しかろうが聞くべきだと直感する。

 

 こくりと頷いたイビルアイによかろうとスルシャーナは返す。

 

「ではそちらのソファーに座ると良い。立ち話では辛かろう」

 

 よっこいせと立ち上がったスルシャーナは、応接用らしきソファーへと向かう。彼は机を挟んで置かれた二つのソファーの片方に移動し座りこむ。

 

 座ってしまうといざという時に動きにくくなるので困るのだが、格上の申し出を断るのはあまり上手い手ではない。

 

 イビルアイも同じようにソファーへと座り込んだ。

 

「さて。貴女が人間なのであれば、茶の一つでも出すのが礼儀なのだろうが……一応尋ねておくが、イビルアイ殿は飲食が可能なアンデッドか?」

「違います。紅茶ぐらいなら頂けますが、味は分かりません」

「そうか。なら出したところであまり意味のない行為だな」

 

 どこか楽しそうなスルシャーナにイビルアイは胡乱げな目を向ける。なんと言うか……どこまでも人間のような振る舞いをするおかしな骸骨だった。

 

「……前提として尋ねておくが、冒険者であるイビルアイ殿は、エ・ランテルの調査依頼のためにこの都市に訪れた。私はそう認識しているのだが……合っているか?」

 

 スルシャーナからの素朴な問いかけに、少しだけイビルアイは躊躇ったが……ここで誤魔化すと嘘をつくなとでも言われそうな雰囲気なため、そうですと返す。

 

「そうかそうか。ならばここに呼んだ甲斐があった」

「呼んだ甲斐……ですか」

 

 楽し気なスルシャーナとは裏腹に、イビルアイの脳には疑問しかない。自分が依頼のために訪れた冒険者だとして、それを呼び出す意味とは何なのか。

 

「そんなに不思議そうな顔をしないでくれ……と言われても良く分からないか。そうだな……まずどうして貴女をここに呼んだのか。それを説明しようか。……ここに呼んだ理由。それは褒美だよ。見事にゲームをクリアした事に対する報酬だ」

 

 ゲームクリアに対する褒美と言われても、イビルアイには思い当たる節がない。いつの間に自分はゲームとやらに参加していたのだろうか。

 

「申し訳ないスルシャーナ様。一体私は何のゲームに参加していたのでしょうか?」

「死都となったエ・ランテルに、門番を突破して侵入できるのか……そんな遊びだよ。カードゲーム……テーブルゲーム……世の中には様々なゲームがあるが、勝利者には相応の特典や報酬がある。イビルアイ殿は私が城門に配備した死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)を、自分の特性を活かして見事に掻い潜って見せた。以前にも複数人の冒険者らしき者共が門番を突破しようとしたが……あれは駄目だな。正面から挑むばかりで歯ごたえがあまりにもなかった」

 

 やれやれと首を横にふる姿に、イビルアイは少し合点がいく。

 

 ───城門のデス・ナイトにソウルイーター……どうしてソウルイーターの上にデス・ナイトが騎乗しているのだと思ったが、このスルシャーナが用意したアンデッドだったからか……

 

「……あの恐ろしいアンデッドのコンビを相手にオリハルコン級冒険者達が死ななかったのは、スルシャーナ様が手加減させたからですか?」

「いかにも。私はゲームのための手駒として門番を用意したが、あれらを使って殺しがしたいわけではない。デス・ゲームは私の趣味ではないからな。しかし彼らが撤退して以降誰も来ず、このゲームの駒にあれらを用いたのはまずかったのではないかと危惧していたが……アンデッドである特性を活かして、貴女は裏をかいた。実に見事な手腕だよ。……イビルアイ殿。ゲームを用意したGM(ゲームマスター)に取って、一番困る事態は何だと思う?」

「GM…なる意味は分かりかねますが……主催者にとって困るのは誰も解決できない……ですか?」

「その通りだよ! せっかく舞台を整えても、誰もクリアできないならクソゲーにも程がある! 何かミスをしたかもしれない……難易度設定を間違えてしまったかも……そんな不安が募るばかりだったが、貴女は見事に私の不安を払拭してくれた! ……私にとって貴女は素晴らしい参加者であり、同時に達成者になってくれた。ではそんな貴女に相応しい特典とは何か……今貴女が欲しい物はこの都市の情報……だろう? だからここに呼んだのだ。この私自らがここで何があったのか……それを教授してあげようと思ってな」

 

 スルシャーナの上ずった声と勝手な物言いに、少しばかりイビルアイは不愉快な気持ちを抱くが……彼の言う通りこの都市で何があったのかを調べに来た都合上、勝手に話してくれるならば好都合だった。

 

「有難い申し出です」

「そうだろう……さてと。教えてあげると言っても、貴女がどのような情報が欲しいのかはさっぱりな上に、私が一方的に語りかけるのも些かつまらないな。そこでだ。私に尋ねたいことがあるなら聞きなさい。答えられる範囲であればクリア特典として答えよう。ああ、それと敬語は必要ない。周り回った物言いは好みでなくてな。率直に思った言葉を話してくれて構わない」

「……なぜ神話に謳われる神が私のことを知っている?」

「なるほど。まずはそこから気になるわけか。なに、私が君のことを知っているのは、我が配下であるカジットに王国の事を聞いたからだ」

「カジット?」

「聞いたことがないか? ふぅむ……ズーラーノーンと言えば分かるか?」

「……アンデッドを使役するカルト集団だな。カジットなる人物はズーラーノーンと関係があるのか?」

「大有りだ。カジットはズーラーノーン高弟の一人だ」

「そうですか……」

 

 ズーラーノーン高弟の名が出てきたことに、一人イビルアイは納得する。アンデッドの騒動を起こした犯人候補の一人が、ズーラーノーンだからだ。20年前に小都市を滅ぼした時と同じで、あの組織の名前が出て来たことに違和感はない。

 

 しかしズーラーノーン高弟が、どうしてスレイン法国の神の配下なのか。疑問に答えて貰ったと思えば、すぐに新しい疑問が湧いてくる。分からない事があまりにも多すぎた。

 

「なんでも貴女は、このリ・エスティーゼ王国でも随一の有名人だとカジットからは聞いている。もしこのエ・ランテルを王国の誰かが調査しに来るとしたら、アダマンタイト級冒険者である『蒼の薔薇』か『朱の雫』だとも。……その予想は外れて、最初に来たのは非常につまらない無名の冒険者共だったが」

 

 本当につまらなさそうなスルシャーナの言葉に、オリハルコンは無名では無いと言いかけて……すぐにイビルアイはその言葉を引っ込めた。無闇に否定して機嫌を損ねてもまずく、デス・ナイトを使役する存在にしてみれば大した実力者ではないのは明白だからだ。

 

「貴殿を含む『蒼の薔薇』は、全員女性で構成された冒険者チーム。その中でも一番小柄な女性がイビルアイ殿……貴女だろう? このエ・ランテルは私の支配下にある。この都市に誰かが侵入すれば、すぐに私の知るところとなるのだよ」

「だから……外見と事前情報から、来たのが私だとすぐに分かったのか?」

「そうだ。それに首からアダマンタイトのプレートをぶら下げていれば、誰でも貴女がイビルアイだと気づくものだ……もっとも『蒼の薔薇』全員ではなく、イビルアイ殿だけだったのは意外だったがな。それと貴女がアンデッドなのもな」

 

 本当に意外そうにスルシャーナは笑う。その笑い声は馬鹿にしたそれでなく、自分の予想が外れたのが面白いと言わんばかりの態度だった。神と呼ぶには剽軽で、イビルアイを遥かに超越したアンデッドと認識するには軽薄な笑い方である。

 

「まさかとは思うが……蒼の薔薇は皆アンデッドなのか?」

「……違う。私以外は人間種だ」

「そうだったのか。ならば一人で来たのも頷ける。下手に生者を連れてくるよりも、不死者である貴女だけの方が動きやすい……実に合理的な判断だ」

「お褒めに預かり光栄だ」

 

 スレイン法国ではスルシャーナの名前は有名だが、王国ではイビルアイの方がよほど著名だ。ズーラーノーンの高弟が知っていても、なんら不思議ではない。どうして自分を呼んだのかと、どうして自分を知っていたのか。この二つには説明が付いた。だからここからが本番。どうしてエ・ランテルにアンデッドが溢れたのか。どうしてこの都市が死都になったのか。その全てを知るであろうスルシャーナに、本命の質問を叩きつける。

 

「スルシャーナ殿……どうして。どうしてエ・ランテルは滅んだ。何がここであった。それを知るなら……教えて頂きたい」

「……いいとも。その質問はクリア特典の範囲内だ。……しかしどこから話をしたものか………………ふむ、そうだな。まずは私の話と……ズーラーノーンと法国の関係から語ろうか……」

 

「かつて私は五人の仲間と共に『ユグドラシル』からこの地へと舞い降りた。そこで人間を見つけ保護し、彼らが平穏に暮らせる国を興した。これは法国の建国神話にも残っている事実だ

「人間達は魔法を繰り、数多のスキルで奇跡を起こす我らを神と信奉したが……これはおいておこうか。何にしろ重要なのは、六大神と呼ばれた我らは実在した。それだけだ

「人間を助け国を興した我ら六人は、近隣の竜王と不可侵条約を結んだ。竜王達は強大な力を秘めていたが、我らもまた力の持ち主。竜王達は争うよりも、手を取り合う方が有意義だと認めてくれた

「そうして力の無かった人間達を守りながら、数を増やし国は大きくなっていったが……ある日を境に周辺との力の均衡は崩れてしまった

「死と闇を司る私以外は亡くなってしまったのだ。……今では強大なる神として崇められているが、残念ながら彼らにはどうしようもない弱点があった……寿命だよ

「一人残った私は法国を守護するために出来る限りの力を尽くした。彼らが遺した従属神や私が創り出した者共と共に、異形なる存在や亜人の侵攻を止めたりな

「……私は人間より強大な力を有していた。比較にならんほどの力を。だが……かつて全員揃っていた頃ならまだしも、私一人では困難を極めた。竜王達も私一人なら御しやすいと仲間が遺した遺産を虎視眈々と狙っていたかな

「その頃になると、六大神信仰の大部分は私に向けられるようになっていた。亡くなってしまった神よりも、今も守ってくれる守護神の方が分かりやすい。大方そんなところだろうが……私が直接人間に聞いた訳ではない故に、この辺りは憶測も混じっている

「人間から崇められ、仲間の血を継いだ人間の中から強力な個体が出現し始めていた頃……私の日々も終わりを告げた

「八欲王と呼ばれる集団がこの世界に降臨した

「彼らもまた人間種を守ろうとする集団だった。だが私と彼らの間にはすれ違いがあり、私は彼らの手で殺された

「……恨んでいないかと言えば嘘になる。しかしだ。その後八欲王が何をしたのかは、カジットから聞いている。彼らが当時多くの異形や亜人を殺していなければ、今頃人間種は残っていない。彼らが竜王相手に戦いを挑んだのは、自らの欲望もあるだろうが……人間を守るためでもある。彼らは私や仲間が愛したスレイン法国には全く手を付けず、竜王やそれ以外だけを殺した。これらの事実が、彼らもまた人間を愛していたことを示す証拠だ

「あのまま私一人で尽力していたとしても、どこかで国は滅んでいた。だから……そうだな。すれ違いにより抹殺された事は後悔しているが、今更彼らに恨みをぶつけるつもりもない

「うん? ……そうだ。イビルアイ殿が言う通りだ。私は死んでいたのだよ

「その後も法国には数多の困難があったそうだが……ここからは私もカジットに教えられた分しか知らぬ

「……私が亡くなった後、八欲王との戦端が開くのを恐れた法国は私が大罪を犯した者達によって放逐されたと伝えたそうだ

「これは実に正しい判断だ。私の敵討ちだと彼らと争えば……法国は現在まで名を残していない

「とは言え当時の私は先ほども言ったが、六大神の中でも最大規模の一派だった。中には私が放逐されたと伝えられても、納得しなかった者も大勢いる

「……当時私に仕えていた闇の神官長もその一人だった。彼は放逐された云々が嘘であると知っており、実際には八欲王に討たれたと知る者なのだから、それはそれは反発したそうだ

「反発した神官長は偉大なる神無くして、法国は存続できないと絶望していた。そんな彼は一つの組織を立ち上げる

「ズーラーノーンと呼ばれる事になる組織の前身だ

「この組織が立ち上げられた目的はたった一つ。私をこの世に蘇らせる

「私が司る力は負の力。負の力を制御出来れば、私の蘇生が叶うと考えたわけだ。そして負の力の発生源にして、それらのエネルギーを最大限に活用できる存在はアンデッド。つまり負の力の研究のために、アンデッドを研究していた組織がズーラーノーンと言う訳だ

「法国内で研究するには危険すぎる。だからこそズーラーノーンは外部組織として運営された

「ズーラーノーンの盟主は代々引退した闇の神官長が勤める。今の盟主も元神官長だった人間だ

「彼らは長い研究と開発の末に、一つの儀式を完成させた。『死の螺旋』と呼ばれる大儀式だ

「イビルアイ殿は20年前にズーラーノーンが小都市を滅ぼしたのを知っているかな? あれは『死の螺旋』の実験結果だよ

「ズーラーノーンの目論見通り『死の螺旋』は膨大な負の力を発生させた。当時の盟主であり、現盟主が人間からアンデッドに転生できるほどの負の力がな……

「更に強大な負の力があれば、私の復活すら容易い。それが実験により判明した……そうだ。私もこの辺りに関しては又聞きなため、あまり詳しくはない

「何であれ私を復活させる算段がついた法国は、ズーラーノーンを通してカジットに命を下した。エ・ランテルで『死の螺旋』を行えとな

「そのために漆黒聖典……なんでも私の名を冠した法国の特殊部隊らしい。ここの隊員もズーラーノーンの構成員らしくてな。その中の一人に法国の至宝を国外に持ち出させて儀式の補助をさせたらしいが……先ほど伝えたように詳しくはない。この辺りの話がどうなっているのかは、後日法国にでも赴いて改めて聞いてくれると助かる

「……ああ。イビルアイ殿の疑問に対する答えは……『はい』だ。ズーラーノーンの構成メンバー……特に高弟には法国の人間が多い。カジットも法国生まれだ

「そしてエ・ランテルで『死の螺旋』が行われて……私はこうして復活した。これがイビルアイ殿が調査して得ようとした答えであり……ここに私がいる理由や、この都市で何が行われたのかの真実だ。少しは納得して頂けたかな?」





スレイン法国って怖い国だなぁ……
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