リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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死の神()

 とぼとぼとした足取りでイビルアイさんが部屋を出ていく。彼女にとって法国の話はかなりショッキングだったのか、顔には覇気がなく体中から力が抜けてしまったようだ。

 

 最後にした会話もショックの要因だったのかな?

 

 

 

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「……スルシャーナ殿は……これからどうするのだ?」

「まずはこの都市をどうにかしなければならないな。……私が門番を潜り抜けられるかどうかのゲームを設定したのは、何も私自身の趣味だけではない。あの門番をどうこう出来ぬ実力でこの都市に侵入すれば、場合によっては命を落としかねんからだ」

「……エ・ランテルは貴方が支配しているのではないのか?」

「そうだ。この都市に湧いているアンデッドの大部分は私の支配下にあり、都市全体を掌握していると言っても過言ではない。だが、確実な事はこの世にない。蘇ってまもないせいかな。まだまだ全盛期の掌握能力には及ばないんだ」

「……制御下から外れたアンデッドは、生者にとって危険。だから都市に誰も入れないように封じた?」

「正解だ。この都市全体を真の意味で掌握するまでは、私はここから動けん。出来得るならば今すぐにスレイン法国に帰参したいが……そうもいかん」

 

 やれやれと肩をすくめるジェスチャーには人間臭さがある。もし今回の騒動で唯一の救いがあるとすれば、復活したスルシャーナが死を撒き散らす神と言う割には話しやすく意外と冷静な神なことぐらいだろう。そうイビルアイは思う。

 

 もしもスルシャーナが、かつて滅ぼされた事例から生者を恨んでいて不和や混沌を齎す存在だったならば……イビルアイは彼の話を大人しく聞いてはいない。

 

「都市のアンデッドを掌握して……その後法国に戻りどうなされるおつもりですか?」

「人類守護の神として舞い戻ったのだから、法国の異形種狩りや亜人狩りを手伝う事になるだろうな。そのためには戦力も必要になるか……この都市のアンデッドは、アダマンタイト級冒険者のイビルアイ殿から見てもお強いかな?」

「強いさ。500年前はどうかは存じないが、現代では貴方が門番として用意した死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)は伝説のアンデッドだ。どちらか片方が出現しただけでも、エ・ランテル規模の都市が壊滅に追い込まれる」

「……そうか。ではこの都市でイビルアイ殿が見たアンデッド達であれば、現代の他種族に対して、十分な戦力になるかな?」

「……はっ……」

 

 思わずイビルアイは鼻で笑ってしまった。戦力になるかどうかなど聞くまでもない。街中でみた超級のアンデッド達がこの都市から放たれたならば、人間国家は全て滅び周りの亜人や異形の国家も大半が地獄と化すだろう。

 

 無秩序に暴れさせてもそれだけの被害を出せるのだ。そんな絶対の戦力をスルシャーナが使役し、上手く運用するならば……それは最強の軍隊の誕生を意味する。

 

 外部からの補給を一切必要とせず、どんな行軍を科しても疲れない無敵の軍団。一体一体が人間の英雄級から逸脱者級だけで構成された集団など悪夢でしかない。

 

「十分? いいや……過剰だよ……」

 

 なぜイビルアイが鼻で笑ったのかを、その言葉から読んだスルシャーナは「……そうか」とだけ返す。

 

 イビルアイは心の中で乾いた笑いをし続ける。スレイン法国が目論んだ大儀式『死の螺旋』は成就された。最強の竜王である白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)こと、ツァインドルクス=ヴァイシオンに匹敵する力の波動を持つ神が復活して人類守護を約束した。

 

 復活した神は自分の蘇生の際に誕生した怪物達を支配し傘下において、法国へと凱旋する。生者を憎むアンデッドは、神の手により生者を守る盾となり……亜人を滅ぼす矛へと変わった。

 

 きっと多くが死ぬ。亜人や異形は殺し尽くされるだろう。止められるのは竜王ぐらいだが、竜王に対しては同格(スルシャーナ)がいる。

 

 エ・ランテル住民数十万とガゼフ達王国戦士団を代償に、人間種は強大な保護者を手に入れた。法国がやった事は王国からすれば悪だ。しかし……種全体から見ればこれ以上ないほどの善を成し遂げた。

 

 ───私は……これをどう報告すればいいんだ……

 

 エ・ペスペルに戻り組合に真実を告げればどうなるのか……イビルアイには話が大きすぎて、想像しきれない。王都の組合にしても同じだ。

 

 なによりもこの真実に対して、貴族や王族がどんな反応をするのか分かったものではない。報復で戦争するにはスルシャーナを擁する法国は強大過ぎる。神を除いたとしても、強力な聖典部隊を多数抱える法国の方が遥かに上だ。なにせ王国最強のガゼフですら、陽光聖典の前に儚く散るほどの実力差がある。

 

 あまりにも抱えた真実が大き過ぎるがゆえに、イビルアイは途方に暮れてしまう。そんな彼女はふらりと立ち上がり、幽鬼のような有様で部屋を出ていく。

 

「さらばだイビルアイ殿。今度会う時には、私は法国の法都にいるはずだ……今度遊びに来るときには、蒼の薔薇全員で来ると良い。人間種である貴女の仲間のために、茶菓子をたくさん用意しておこう」

 

 そんな言葉を背に受けながら、とんでもない真相を胸に秘めて。イビルアイは都市長宅を後にして、エ・ランテルからエ・ペスペルへと帰るのであった。 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「やっぱりショックだよな、普通……」

 

 彼女がいなくなった都市長宅の執務室で一人、僕は天井を見上げながらため息をつく。500年前にはこんな近世建築の建物は一切なく、もっと原始的な様式だった。これだけきちんとした邸宅を建てられる文明の都市が一つ滅んでしまったのだ。しかも滅ぼしたのは、仲間と呼んでも差し支えのない国家。

 

「誰だってショックを受けるよなぁ……」

 

 ……僕だってそうだ。この話をカジットから聞いた時には、あまりの事に驚きまくった。驚いても感情はすぐに抑制されるんだけどね。オーバーロードの体はこういう時便利だ。どんな状況におかれても、すぐに頭が冷静になる。

 

「イビルアイさんには、ああ説明したけど……僕自身がまだまだ信じられないんだよなぁ……」

 

 本物の神のように彼女には語ったけども、僕自身が500年の歳月を超えて復活させられたことをあまり信じてはいない。実は異世界に転移したのも含めて、長すぎる夢を見ていると誰かに教えられた方が、よほどまともだ。

 

 とは言え現実として僕はまだここにいて、法国は国家として現存している……らしい。らしいと言うのも、僕の情報源は全て人伝いに過ぎない。

 

「あの時……彼らを呼び出したのは間違いだったのかな……」

 

 ……僕の主観ではあの八人を止めようとしてから大した時間は経っていない。ねこにゃんさんのギルド拠点に呼び出したら交渉が決裂。ルーファスだけは逃がせたけど、僕は自動復活のストックが亡くなるまでリク達の手で殺され続けた。

 

 ワールドチャンピオン八人対ロマン型ビルド一人なんて糞PVP成立しない。一方的にぶっ殺されるしかなかったんだ。

 

 そうやって死んだはずなのに、気が付けばこのエ・ランテルにいた。目の前にはカジットと名乗るエルダーリッチがいて、何が起きたのかを全て教えてくれた。

 

 その時の僕は何が何やらだ。500年の歳月が過ぎていたことに大層驚き、スレイン法国が人間以外ぶっころ国家になっていたことにも大層驚き、あの八人が竜王その他を絶滅寸前まで追い込んだ事にも驚いた。

 

「世界征服を一度は実現させる。ワールドチャンピオンはどこに行っても、世界王者になる運命なのかな……」

 

 ……今考えるにはどうでも良い話だね。八欲王なんて呼ばれた彼らはすでにこの世にいない。僕が考えるべきなのはこれからどうするかだ。

 

 欲を言えばすぐにでも法国に戻りたいが、僕を復活させるために死都とやらに変えてしまったこのエ・ランテルの後始末をしないといけない。

 

「法都は随分と変わったらしいけど……数百年の間にどれだけ変わったのか楽しみだな」

 

 僕が死んでからも法国はねこにゃんさん達の子孫と共に、他種族の侵攻を防いで来た。その間に技術を磨き、牙と爪を研ぐのを忘れなかった。

 

 技術が発展しているなら、それだけ建築関連の技法も随分と様変わりしている筈だ。

 

「ああ……それとルーファスにも早く会いたいな」

 

 彼女に会うのなら、おめかしした方が良いのだろうか。なにせ500年の間真に法国を守り続けたのは彼女……僕が世界級アイテムで産み出したNPCだと聞いている。僕の時間では分かれたのはついこの間だけど、彼女からすれば数百年ぶりの再会だ。

 

 ねこにゃんさんのNPCや他の4人が呼んだ傭兵NPCなどは、200年前に魔神なる存在になってしまったらしいが……僕のNPCだけは魔神にならなかったのだとか。

 

 他のNPCはもう主人が帰らないと絶望した末に、思考が狂ってしまった。けどルーファスは違った。彼女は僕を蘇らせる算段があったからこそ、狂わずに目的のために自らを律し続けた……らしい。さっきかららしいしか言ってないな僕は。又聞きばっかりだから仕方ないけれども。

 

「そう言えば。イビルアイさんにはその辺りを話すのを忘れていたな。……まぁいいか。彼女が知りたかったのは、エ・ランテルで何があったのか。それだけっぽいし」

 

 僕はイビルアイさんとの会話を思い出し、内容を反芻する。色々と伝えたけども、割と肝心な話もし忘れていたなと気づいてしまった。同時に別の事にも気づいてしまった。

 

「あああああああああ!! なんで僕はまたモモンガさんみたいな喋り方をしちゃったんだ!! せっかく500年経って誰も知らなく成ったんだから、矯正するチャンスだったのに!!」

 

 やってしまった。普通に一人称僕で話せばいいのに、この世界に転移したての頃と同じ話し方を───そのまま染みついてしまった悲しい習性が表に出てしまった。

 

 ……それは僕がユグドラシルを本格的に始めた原因に起因する。まだ地球にいた頃の話だ。当時の僕は、ちょうど誰でもそうなってしまう時期に差し掛かった頃だった。意味も無く刀とかが格好いいと感じてしまう年頃。

 

 そんな時にとある動画を見てしまった。ナザリックへの大侵攻なる内容だった。当時からDQNギルドとして有名だったアインズ・ウール・ゴウンだけど、この動画があのギルドをトップギルドへと押し上げた。

 

 たった41人で1500人を返り討ちにする。1500人の大部分は傭兵NPCも含めるが、それでもゲーム始まって以来の大討伐隊が壊滅した事件はすぐに有名になった。

 

 特に凄まじかったのが、ギルド拠点の八階での攻防だろう。ギルド長のモモンガさんが世界級アイテムの力を解放し、とんでもない連中を使役した戦い。あれを見た人達はチートをしていると運営に通報したらしいが、仕様ですと返されてしまったらしい。

 

 けれど僕が感じたのはそれではない。

 

『我が名はモモンガ! ───』ナントカカントカパトローナム

 

 いわゆる魔王ロールで遊ぶ狂人に憧れてしまったのだ。アインズ・ウール・ゴウンのモモンガと言えば、非公式ラスボスだの、本気で演じてる異常者だのと言われていたが……僕にとっては違う。彼の在り方がちょうどよくぶっ刺さってしまったのだ。

 

 僕はすぐに自分のキャラを作り直した。彼と同じオーバーロードに造り替えて、ビルド───職業や種族構成も全く同じ仕様に変更だ。DQNギルドの長として認知されていたモモンガさんはよく研究されており、どんな構成なのか広く認知されていた。流石にエクリプスの情報は知られていなかったようだが。

 

 ……そんな感じで遊んでいたある日、サービス終了が告知されて。サ終日にこっちの世界に来てしまった。

 

 そこで人間を見つけて保護して国を興して寿命を迎えた皆を見送って……自分も亡くなって、気が付いたら数十万人を犠牲にして蘇生させられた。

 

 今の自分は文字通り大多数の犠牲の上に成り立っている。足元には死体が埋まっているんだ。それを聞かされても驚きはすれど、さほど心は動かない。オーバーロードとなった体と心は、地球の頃とは違い生者に対する意識が軽薄になった。

 

 皆がまだ生きていた頃は大分違ったが、皆が亡くなってから僕は生きる事にすら飽き始めていた。だから彼ら八人に殺される事を受け入れた部分もある。

 

 でも受け入れられなかった人たちがいたんだ。それはルーファスだったり神官長だったり……文字通り腐るほどいたのだろう。

 

「でもなぁ……人間至上主義を拗らせた結果、他民族全殺害思考はまずいだろ……でもそれぐらいしないと、守り切れないのか? ……分からん!!」

 

 分からないことだらけだ。蘇生以来エ・ランテルのアンデッドを制御しつつ、弱いアンデッドは殺してアンデッド創造で中位アンデッドに造り替えて戦力を増強する傍ら、カジットからこの世界がどうなったのかを教えて貰っているが……分からない事は多くある。それを分かるためにも───

 

「早くここでの作業を終わらせてから……法国に戻らなくちゃいけないか」

 

 それより先に迎えとやらの方が法国から先にくるか。何にしろエ・ランテルの後始末は僕がやらなければいけない仕事だ。

 

 とにかく頑張るぞと気合をいれる。蘇生されてしまったのは仕方がない。多くが亡くなってしまったなら、それ以上を守るしかない。僕の主観では1ヵ月も経っていないが、実際には500年も眠っていたんだ。みんなが遺した資産や子孫を守るためにも……寿命のない僕が頑張らなきゃいけない。

 

 だって自分を死の神と奉じる人達がいる。彼らに人類の未来のために、今の多くを捨てさせたのは……無責任に死んだ僕の責任なのだから。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 それはエ・ランテルの外にいた。それは常にエ・ランテルを監視していた。それはイビルアイが都市内に入るのを見守った。それはイビルアイが都市外に出てくるのを見届けた。

 

 イビルアイの力なき足取りから全てが順調に進んでいるのを確認したそれは、久方ぶりに愛しい主の元に戻れると非常に、とても、心の底からホッとする。無邪気にすら見える笑顔には、表から見る分には邪悪さも悪意もない。

 

 確認作業を他者に任せるには不安だったそれは、ずっと遠距離から自分で監視していたのだ。そのせいで長い間主に寂しい思いをさせたかもしれないと自分を恥じる。

 

「どちらかと言えば、寂しいのは私の方かも知れないですが……違いますね。寂しくて寂しいのは私の方ですね。これを間違えたらダメなのですよ……さてさてこれで第一フェイズは終了なのです。ここさえ乗り切れば、あとは勝手に転がり落ちる。なのですよ」

 

 白い花が怪しくも朗らかに哂う。このために愛しい主にもかなり手間をかけて貰ったのだ。上手くいって貰わねば困ってしまう。だから良かった良かったとニコニコ笑顔で彼女は嗤う。

 

「ではでは頑張ってくださいですよスルシャーナ……楽しみにしてるですよ?」

 

 白い希望花……アイリスが一度だけ、死の神にエールを送りつけた。





スルシャーナ:頑張るぞ!

イビルアイ:法国の事をどう報告すればいいんだ……

アイリス&サトル:やったのです!(生産者表示)
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