二人の肌と肌を合わせるコミュニケーションは、ベッドを破壊するまで続いた。サトルの腰から出る振動にベッドの脚は砕け、快楽に耐え難いアイリスがフレームを握り潰すせいでサトル邸にある家具の中でも、夫婦が使うベッドの損耗率は非常に高い。貴賓館にいた頃は、家具は借り物なので遠慮していたが、引越してからは欲望に任せているせいだ。今日もまた一台向こう側に逝ってしまった。
仕方ないので<上位道具創造>で新たなベッドが産み出される。14代目のベッドはどれくらい長持ちしてくれるのだろうか……
ともかく久方ぶりのアイリスとの色事に満足したサトルは、モコモコしたパジャマに着替えた彼女を抱き枕にして安眠した。柔らかい熱と鼻腔をくすぐる甘いスイートな香りは眠りによく効く。体温が死人のように低いサトルにとって、生者であるアイリスの温かみは麻薬に近い。……だからと言って他の女性とこうしたいかと言われたら、微塵の欠片も興味が無いが。アンデッドになって以来、特定人物以外への熱情が薄れつつあるサトルだった。
朝になれば起床し、アイリスお手製の朝食を口にする。メイド達はいつの間にか戻っていたアイリスに少し驚き、同時にこれ以上ないほど上機嫌なサトルの顔を見て察する。やはりサトルはどうしようもないほどの愛妻家な事を、だ。何があってもアイリスを侮辱してはならない。そんな事をすれば、いなくなったメイドと同じ道を辿る。
それを察してしまう一幕がサトル邸の朝にあった。
朝の時間が終わればサトルは仕事へと出勤する。皇国騎士団の仕事が無い間、家で一日中ゴロゴロしていても暇な彼は何か仕事がないかを探した。対法国用の仕込みは終わっているので暇だったのだ。それを長期出張に出る寸前のアイリスに相談したところ、ではジルクニフにこれを伝えてくださいと助言を貰った。
それをジルクニフに伝えたところ、少し考えた後上手くいけばメリットが大きいと皇帝は許可を出した。それはこの世界に来て、アイリスが編纂書を作成して以来いつか確かめないといけないと、疑問に感じていた事柄の一つを確かめるための実験だ
サトルの出勤先は帝国第一騎士団の訓練場だ。
「やってるな」
転移魔法で移動するサトルは、家から徒歩5秒で勤務先に到着する。まだ朝も早いと言うのに、既にウォーミングアップを始めている若き訓練兵を見ながら、ポツリとサトルは呟く。
訓練場は帝都から少し離れた、第一騎士団の本部がおかれた砦にある。帝国の専属軍人の集まりである帝国騎士団は第一から第八まであり、一団につき一万人。総計で八万人が所属している。
帝都アーウィンタールは広大だが、流石に八万人もの軍人全員を収容するには手狭過ぎる。軍事用の備蓄倉庫なども必要な以上、それだけ広大な敷地が必要になってしまう。
また一都市に集約させると、地方の統治に問題が出てしまう。そのような理由から騎士団の本部は八つの騎士団毎に分散させ、それぞれの砦を基地として運用している。
その砦の一つにサトルはお邪魔していた。
「ようこそお越しくださいましたゴウン殿! 全員最敬礼!!」
サトルの姿を見かけた教導官が慌てて駆けつけ、挨拶を交わす。上官の命令にウォーミングアップ中だった訓練兵も、すぐさま最敬礼をとる。その態度にはどうして最敬礼をしたのかに対する疑問は一つもない。なぜなら彼らは全員サトルが何者なのかを知っている。……どれだけ出鱈目な怪物なのかを、この数日の間に心身にまで刷り込まれていた。
「おはよう諸君」
自分で言いながら、諸君ってなんだよとサトルは自分に突っ込みたくなる。どんな目線からの挨拶だよと。
地球時代のサトルが挨拶するときには、「おはようございます」と深々と腰を折らないと上司に嫌な顔をされたものだが、ここではそんなことはない。
何しろ現在のサトルは、帝国の中でも最上位の立場にいる。伯爵の爵位を持ち、皇国騎士団の団長という地位を持っている。第一騎士団の将軍であり、全軍の統括を行う大将軍でも立場上はサトルより下だ。なのでその立場に相応しい振る舞いをしようと、少し横柄な挨拶をしてみている。
そんな挨拶を口にしたサトルは、ひらひらと手を振る。彼が気安い態度で楽にしてくれと伝えると、最敬礼から騎士達は立ち上がるがその顔には緊張がある。サトルとしては楽にしてくれと伝えたのだから、もっと体から力を抜いてほしいのだが───
(軍人なんだから、勤務中にラフな態度をとるのは不味いのかな?)
思うが、どう伝えたところで訓練兵全員は緊張を崩さないのでサトルは諦めている。何にしろ、今日も今日とてアイリスが提案しジルクニフが了承した実験を繰り返すだけだ。
「さっそくだが始めようか。今日の相手はこれだ」
サトルの言葉に騎士全員が身構える。それを確認したサトルが手を振ると、彼の背後の空間が歪み天使達が出現する。
弱い個体である最下位の
「何度見ても慣れねえ……」
誰かがひっそりと漏らした声に、教官も含めて同意する。
原則として、召喚魔法で呼び出せるモンスターは一体のみ。複数体を同時召喚することはできないと帝国では教えられている。よほど召喚魔法に特化していれば話は別だが、通常は不可能なのだ。それはフールーダにすら不可能な神域の御業。
そんな御業を手を振るだけで行うのがサトルである。帝国の兵は基礎知識として位階魔法を教えられるだけに、目の前のサトルが神域に到達した魔法詠唱者なのだと理解出来てしまう。
……召喚魔法ではなく権能による召喚なのだが、傍からだと無詠唱化させた召喚魔法にしか見えないだけだ。それらの説明が面倒なので、サトルはこれを召喚魔法と言い張っている。
「ではいつも通り、まずは私が天使達の体力を削る。君たちはそれに止めを刺していくんだ」
宣言通り呼び出した天使達を、サトルは
そうやって弱った天使に、サトルが<上位道具創造>で制作した武器を手にした訓練兵が群がり倒していく。彼らの動きは若手とは思えない程に俊敏だ。サトルから見ると恐ろしく遅いが。
(それでも初日に比べたら遥かに早くなっているな。やはりアイリスが立てた仮説……この世界の個体差はレベルや職業によるもの説……ユグドラシル理論は正しかったか?)
アイリスが提案し、ジルクニフが了承し、サトルが行っている実験。それは極端な個体差がどこから来ているかの検証だ。
この世界の生物は経験を積むと、肉体が急激に成長する壁越えなる現象を体験する。この壁越えはレベルアップなのではないかと睨んだのだ。
ではレベルは何に起因しているのか。どんな状況で壁越えを体験したか。壁越えを何回体験したか。それらを編纂書作成の際に、ジルクニフ経由で騎士団にアンケートを取りアイリスは纏め上げた。
そこから立てた仮説が『ユグドラシル理論』だ。類感理論と同じく、世界法則自体がユグドラシルに酷似しているなら、職業レベルや種族レベルが存在していて、行動なりで経験値を獲得しレベルアップしているのではないかと言う理論だ。
そこに体験した壁超えの数や年齢分布図から傾向を算出していくと、レベルキャップの存在が個体ごとに存在するのが見える……とサトルは説明された。
ユグドラシル理論が正しければ、職業構成の最適化やレベルが上がる条件を完全に判明させることで一気に人類全体のレベルを次の領域に上げられる。そうすれば帝国は更に盤石になるだろう。
そんな実験のために選ばれたのが、第一騎士団の訓練兵達だ。まだ騎士になって日が浅い分、職業構成が真っ白に近い。壁越えの回数が少ないので、レベルアップによる成長が眼に見えて分かりやすい。実験結果が得られやすい
ではレベルアップのためには何をすれば良いのかと考えた結果が、ユグドラシルと同じくモンスターを狩らせてみるだ。もしも経験値の法則もあるならば、モンスターを狩らせたらレベルアップし易いのではないか理論をアイリスは提唱した。
とは言え訓練兵に、野生のモンスターと戦わせるのは非常に危険。それにモンスターを無闇に狩ると、生態系が崩れて何が起きるのか分からない。そこでサトルとアイリスの権能の出番だ。
スキルや魔法による召喚モンスターを狩っても、経験値は取得できない。これがユグドラシルでの鉄則だ。仮にこれが成立してしまうと、仲間に召喚して貰ったモンスターを狩る事で簡単にレベル上げが出来てしまうからだ。ユグドラシルは簡単にレベル上げがし易いゲームだが、流石にノーリスクでのレベル上げは推奨されないのか召喚モンスターからは経験値が削除されていた。
それはこの世界も同じであり、召喚モンスターを殺して壁越えをした記録は見つからなかった。
だが……サトルとアイリスには例外が一つある。世界級エネミーの権能だ。権能による召喚はレイドボスが引き連れている御供モンスターの召喚である。そう……御供モンスターなのだ。レイドボスの御供なのだから、当然ボスと同じようにモンスターごとに規定の経験値が設定されている。
この世界ではモンスター退治を行う冒険者は比較的強者が多い。つまりレベルが高いのだ。ならばモンスターには経験値が存在するのではないか。もしもモンスターに経験値があり、それゆえに冒険者のレベルが高いなら……権能による御供モンスターを倒すとどうなるのか。
……答えは経験値を得られるだった。この実験を始めた直後は、一番実力のある訓練兵でもせいぜい鉄級冒険者程度しかなかったのに……訓練兵は全員、権能による養殖で金級冒険者以上にまで成長している。
(ユグドラシル理論によると、行動に伴って職業を獲得する。その後は行動に応じて経験値を取得するが……モンスターを倒した際の経験値を取得すると、倒した際の行動に応じて経験値が自動で降られてレベルが上がる可能性が高い……だったな)
サトルが見る限り、それは恐らく真実だ。仮に職業レベルの構成がユグドラシルに近いのなら、5・10・15と5レベル刻みで職業レベルが存在する事になる。訓練兵達が最初は戦士職の基礎職業レベル1しかないとしても、モンスターを狩らせていたら戦士職に経験値が蓄積してレベルが上がっていく。基礎職や下位職は大体15レベルまで成長する。仮に訓練兵が
しかしサトルが見る限り、全員が全員同じ強さにまで成長しているわけではない。<
(これもアイリスが事前に予想していた通り、個体ごとにレベルの成長限界があって、個体ごとに職業の会得し易さ……才能が存在する証明になる訳か)
レベルによる強さなど似通ったところの多い二つの世界だが、両者には決定的な違いが存在する。レベルキャップ───ようするに才能だ。
サトルが確認する限りでは、一番体力の低い訓練兵はレベル10台半ばの戦士職相当しかない。一方でレベル30台前半の戦士職相当の訓練兵もいる。やらせているのは同じ訓練なのに、レベル差が生じているのだ。これこそレベルキャップが存在する証拠に他ならない。
……余談になるが。サトルから見てレベル10も20も大して変わらないのであまり重視していないから仕方ないのだが……レベル30台前半とは、帝国において英雄と呼ばれ最強を名乗っても問題のない高レベル戦士職になる。この訓練兵達は1ヵ月もしない間に、銅級~鉄級から金~アダマンタイト、数名だが英雄級にまで成長した事になる。
恐ろしいまでのパワーレベリングだが、これにも理由がある。それはサトルが養殖用に召喚したモンスターに、90レベルや80レベルが多数含まれているせいだ。
帝国周辺に出現するモンスターは精々30レベルまで。それ以上のモンスターが出る事は滅多にない。出たら国家非常事態宣言が必要になる。……何が言いたいかと言えば、そこまで経験値の多いモンスターがいないのだ。
それに対して最上位のセラフである
通常であればセラフと訓練兵など戦いが成立しない実力差だが、極限まで弱体化させた上にスキルも全てオフにして、サトルは召喚したモンスターを全員無抵抗に殴らせている。つまり安全に養殖が出来るのだ。
結果として、僅かな時間で全員桁違いにレベルが跳ね上がってしまった。一番強い訓練兵に至っては、バジウッドら四騎士を超えて英雄級に到達しているのだ。それだけ出鱈目なパワーアップを果たした訓練兵達だが、彼らには慢心はない。
「そこまで! ではここからは実戦形式の訓練に入るぞ……全員準備はいいな?」
訓練教導官……サトルの養殖により、ミスリル級へと到達した彼の号令に全訓練兵の顔に緊張が走る。ここまでは経験値を取得するための養殖訓練。その次は技術を身につけるための実戦訓練だ。
全員が金級以上であり、英雄級にすら到達した者もいる彼らだが……実戦訓練の相手には勝った事がない。なぜならその相手とは───
「では行くぞ諸君……簡単に倒れてくれるなよ?」
いつの間にか漆黒の鎧に着替え、二刀大剣を構えたサトルがスタンバイしている。そう……彼らの実戦訓練相手とは、逸脱者を超え超越者を超えた世界級エネミー───サトルだ。しかもサトルだけではない。
彼の背後には
実戦訓練───またの名を世界級エネミーとのレイドボスバトル。多数の御供を引き連れた怪物とのバトルに全員の顔が引き攣っている。しかし訓練兵達に拒否権はない。なぜなら軍人だから。上の命に従えるかどうかが良い軍人なのだ。
やけくそ気味の訓練兵達は、今日も今日とて羽虫のように追い払われて蹴散らされる。彼らの心に慢心が産まれる事はない。なぜなら最上位の怪物を知っているから。自分達がどれだけ強くなろうが、絶対に届かない最頂点を心身にまで教え込まれている。
この実験結果を聞いたジルクニフは、短期間での超強化にドン引きした。帝国史の中で英雄級の人材が出たことは殆どない。なのにサトルに任せたら、すぐに英雄級が出現してしまった。夫婦の訓練方法があまりにも異質過ぎたのだ。
しかし騎士団が増強されることに関しては悪いことではない。その後帝国騎士団全員が、同じ訓練を施されたことで強化されていく。バハルス帝国帝国騎士団。そこは金級以上が当たり前。数多の英雄級を抱え、複数人の逸脱者まで抱えた専属軍人達の群れ。しかし彼らは絶対に皇帝に逆らわず、クーデターを起こしたりすることはなかった。
……皇帝のすぐ傍に皇国騎士団団長───自分達全員を片手であしらえる頂きがいたことは、その事実に大いに関係しているだろう。
ガチャでSR(ミスリル~オリハルコン)やSSR(アダマンタイト~英雄級)やUR(逸脱者)を引くコツは元手(八万人)を用意して出るまで回す
最低でもR(金級)ぐらいが保証されてるガチャ
王国冒険者が約三千人 その中で白金級以上は20% この確率をそのまま当てはめると……なお話でした
ジルクニフ:どういうことなの?(震え声)
帝国騎士団:パワーレベリングにより強化。強くなったと調子に乗る前に分からされた分強さの割に謙虚で大人しい騎士が多数
四騎士:純粋な強さでは帝国最強から一気に落ちた