エイヴァーシャー大森林。またの名を某人物命名『大樹海』。
スレイン法国の南方に広がる巨大森林地帯であり、その広さはリ・エスティーゼ王国全土よりも広大。飛行魔法の使い手や、飛行能力の持ち主が上空から森全体を確認しても、生い茂った木々が眼下にある地表全てを覆い隠してしまうほどに植物が密集している。
人間種の常人を含む、あまり強力な力を持たない種族にとっては険しい森であり踏破するとなると非常に困難を極めるだろう。
しかしある一定以上の実力を持つ者にとっては、深い森なだけで難所と呼ばれるような場所は一切ない。
深い森なせいで方角を見失いやすく、大森林の中には亜人種族や異形種族の集落があり、中には小規模ながら国家と呼べるような集落も存在する。そこに人間などが間違って迷い込めば、たちまちその日の内にご家庭の食卓に並べられるだろう。
あるいはモンスターの餌になるか。この大森林には、王国や帝国では見かけない多数の強力なモンスターが生息している。特に厄介なのが大樹海十五王の存在だろう。十五王は全て30レベルを超えた怪物であり、英雄級に到達した者でも討伐は困難。逸脱者級にまで行けば、単独でも可能だが決して油断はならない。そんなモンスターが十五体もうろついているのが、この大森林だった。
それでも強者にとっては何の問題もない場所だ。地形的に困難なのは弱者にとっては───と注釈が付く程度。30レベル───難度換算で90越えのモンスターに関しても、討伐が困難なだけであり、英雄級が地形を活かして逃げに徹すればどうとでもなる。
だからこの森で難所と呼ばれる場所が産み出されるのは、地形によるものではなく個人によるもの。大樹海十五王を含む英雄級以上の怪物こそが、この森での難所なのだ。
そこもまた難所と呼べる存在だった。森の中にぽっかりと開けた空間がある。そこには木々や草が生えておらず、直径100m程の広場が出来ている場所だ。
森の中ではありえない不自然な空間であり、そんな場所の中心には更にあり得ない存在が居座っている。
それは人間で言えば8歳から9歳程度の小さな少女。高さ3mほどの土塊に木製の椅子を置き、行儀よく座っているエルフの少女こそがこの場所の主だった。
見た目は幼く、外見だけで言えば可愛らしい小さな幼女としか言えない。しかしエルフは見た目と年齢が一切一致しない生物だ。見た目が8から9歳ならば、既に数十年は生きている。エルフ基準ならまだ幼いと言えるが、人間換算なら老齢と言っても良い。故に見た目に騙されたが最後、敵対者は命を落とす。それこそが長寿種族を相手にした時の怖さなのだ。
そしてこの幼く見える幼女もまた、見た目を裏切る一人。彼女は英雄級一歩手前の実力者であり、仮に帝国や王国の冒険者組合に属すればたちまちアダマンタイト級冒険者になる程の強者だ。
なぜそれだけの強さを、エルフとしては幼いと呼べる年齢で身に付けているかと言えば、彼女がエルフ王の子……つまり八欲王の系譜に連なるからだ。
この幼女は八欲王の孫にあたる子であり、プレイヤーの血を4分の1も受け継いでいる。だからこそ、人間種としてはこの年齢ではあり得ない程の強さを身に付けている……のだが。
この地域一帯でも上位の強さを持ち得ている、持つ側の存在の筈なのに……彼女の眼には光が一切ない。能面のような無表情を顔に貼り付け、死んだ目で周囲を観察していた。
幼女は死んだ目で周囲を知覚し、近づく相手がいないかを常に監視する。彼女の父から課せられた使命───戦って戦って……相手を殺し尽くすまで戦って、いつか父であるエルフ王と同じ領域に立つ。それだけを求められてこの世に生を受け、それだけがお前の存在意義だと教えられ……それだけしか知らない人生を、今日もまた浪費する。
父であるエルフ王が望むのは強者。自らに匹敵する強者だけが彼の望む全て。
幼女は何度もそう教えられて育てられた。父であるエルフ王にも……自分と同じ死んだ目をした母からも。それだけを教えられて育てられたのだから。
彼女がこんな開けた場所に陣取っているのは、強くなるために戦わされているからだ。現在エルフの国は法国と戦争中であり、エルフの国に向けて法国は多くの兵士を送り込んでいる。
森に開けたこの奇妙な場所は、法国軍が通るであろうルートの一つであり、ここに陣取っていればいつか多くの人間と戦う事になる。そうして戦い強くなれば、ようやくお前の価値は認められるのだと……だからここで彼女は敵を待つ。
それしか知らない人生を慰めるために……それしか教えられなかった価値を証明するために。
それでも戦いが楽しい訳ではない。もっと年頃の少女らしく遊びたい。しかしエルフ王はそんな事を認めてはくれない。自分の手が握るのを許されるのは、玩具ではなく武器だけだ。
その事が少しだけ悲しくて、だから幼女は死んだ目で武器を……弓を握り、矢を番える。それだけしか認められない人生がとても虚しすぎるから……それが虚しいと思い始めているからこそ、無感情で淡々と作業をこなす。……
知覚力を特殊能力で強化し、その上に知覚系強化の武技まで乗せた少女の感覚に何かが引っ掛かる。
それは足音。隠す気もない足音が広場に向かって近づいてくる。あまりにも隠す気の一切ない足音であり、遠慮会釈なく聞こえるせいで幼女は少し首を傾げる。
通常森に住む生物であれば、大半は自分の痕跡を消すように移動する。法国の兵士にしても、自分達の存在を気取られない様に細心の注意を払って歩くだろう。
隠さないとすれば、それは自分の力に自信があるモンスターか、あるいは無知な存在だけ。
しかし無知な存在であれば、幼女が陣取っている森深くまでは来れない。その前に野垂れ死にするはずだ。ならば強力なモンスターかと思いながらも、幼女は弓を握る手に力を籠める。母から最優先に戦えと念押しされているのは法国軍だが、それ以外───モンスターもまた、お前が強くなる糧になるのだから狩れと何度も口にされている。
モンスターだろうが、法国軍だろうが……それ以外でも、この広場に近づく相手は必ず殺す。それだけがエルフの幼女に許された、唯一の生き方なのだ。
「やぁ……」
気のない声と共に、幼女の手から矢が放たれる。声には一切の覇気がないが、それとは裏腹に空を飛ぶ矢は恐ろしく速い。矢は木々の間を鳥のように縫いながら飛び、途中で一本の矢が複数に分裂する。
矢は狙い通り、足音がしたエリアに降り注ぐ。これで動かなくなるなら良し。仮に動けたとしても、矢が自分に向かって飛んでくれば大抵は逃げ惑うか、その場に蹲ったりする。それがいつものパターンだと、幼女は今までの経験から学んでいる。
だからいつも通り、無力化された相手に止めを刺すための第二射を番えて……奇妙な事に幼女は気付く。広場に向かってくる足音に、ほんの少しの乱れもないのだ。まるで何事もなかったかのように、だ。
───どうして?
経験したことのない事態に少し戸惑うが、自分がする事に変わりはないと矢を再び放つ。先ほどと同じように矢は木々を縫い、別れた後に一定の領域に降り注ぐ。英雄に到達したものであっても、この幼子が放つ矢を浴びれば何かしらのリアクションをみせる。
なのに……足音は依然変わらない。草を踏む音も、土と砂が砂利付く音も、地面に落ちていた木を踏み折った音に淀みも乱れもない。一定のリズムを刻みながら、少しずつ広場へと近づいてくる。
ここに来て、幼女の警戒心に最大級の警報が鳴り響く。何かまずいのだと。何が不味いのかは分からないが……それでも常にない事が起きたのだと理解は出来る。
足音は止まらない。それを止めようと、次から次へと矢を放つ。1,3,5,10。持てる力全てを尽くして攻撃を繰り返すが無意味。バラバラに分裂する矢だけでなく、一撃を大幅に強化するスキルを発動して射ち放つ。
ゴォンッッツ!!
今までの矢が射手が複数いるように思わせる偽造攻撃であれば、こちらは矢を放った箇所を周囲に知らせてしまう攻撃。常では絶対に使わない手札だが、分裂矢では効果が望めない以上より強力な攻撃を仕掛けざるを得ないと、無理やり自分を納得させながらエルフの幼女は自分が持つ最強の一撃を使った。
矢は一度上空に飛んだ後、急降下しながら足音の位置に向けて墜落。轟音を響かせながら着弾。
───これなら……
これなら確実に死ぬ筈。一日に一回しか使えない攻撃だが、その分効果は絶大。幼女は足音の主は死んだだろうと安堵しようとして……
コツリ。
足音に淀みはない。今何かあったかと言わんばかりに、歩調に乱れはなかった。
───逃げなきゃ
父からも母からも、お前は死ぬまで戦えと言われている。逃げる事は許されないのだと。しかし生物としての本能が、そんな言いつけを全て抑えつけてしまう。
良く分からない何かが自分のいる場所を目指して前進してくるのだ。そんな異常事態を迎えられるほど、幼女の精神は成熟していない。
椅子から飛び降りて、魔法の矢筒を手に取りその場から逃走しようと試みる。彼女は見た目はとても幼いが、これでも英雄級一歩手前の実力者だ。彼女が全力で逃げに徹した時、そうそう簡単には捉えられない。
幼女は一歩目から全力を出して広場から逃げようとする。その時彼女の鋭敏は知覚は、その音を拾ってしまった。
───動くな
澄んだ綺麗な声、なのに冷たいと錯覚してしまう声だった。鋭敏で尖った氷のような声。それを聞いた途端、エルフ幼女の全身が強張り動かなくなってしまう。
どうして動かないのか皆目見当がつかない。それでも無理矢理動かそうとするが、肉体は彼女の言う事を聞いてはくれない。
自分の体に起きた異常事態。それに恐怖を覚えて震えようとしても、体はガチガチに強張り身じろぎすら出来ない。
心中がただ恐怖に満たされる中、広場に二つの人影が出てくる。
一つは大柄な全身鎧。漆黒の鎧に赤マントと派手な風貌をしている。もう一つは白い少女。尖ったエルフ耳に、セミロングの白銀の髪の毛。祭服に身を包んた小柄な少女だ。
二人組は未だに体が強張った幼女へと、ゆっくり近づいてくる。
謎の存在が自分に向かってくるのに、なぜか自分は指一本すら動かせない。動くなと言われた途端、意思を無視して肉体が動けなくなってしまった。理解を超えた現象に、エルフ幼女の脳はエラーを吐き続ける。
───逃げたい。逃げたい。早く逃げたい。動いて。動いてよ。お願いだから動いて!!!
心の中で自分の体に何度もお願いするが、その祈りは通じない。全身を鎖で雁字搦めにして拘束されたとしても、ここまで動かなくなることはないだろうと幼女は恐怖の精神で心中が一杯になってしまう。
その間にも小柄なエルフを連れた漆黒の鎧が近づいてくる。
同族を連れているからと、幼女は安心など出来ない。彼女の祖国であるエルフの国からは、多くのエルフが法国に連れ去られている。
そんな同胞達がどうなったのかなど、幼い身でも理解している。同胞たちは奴隷にされたのだと。
ならば彼女は奴隷なのではないだろうか。例えば洗脳されて連れてこられた奴隷である可能性もある……むしろその可能性の方が高いだろう。
だから安心など出来ないのだ。足音に向けてこちらが先に攻撃を仕掛けている。漆黒の鎧と奴隷らしき小柄なエルフに怪我はないが……無傷だからと言って、許される道理などこの世にはない。
死ぬ。殺されてしまう。そんな恐怖に怯える幼女の目の前に、漆黒の鎧が辿り着く。
「……………………」
鎧は何も言わない。動けなくなった幼女を見下ろすだけで、それ以上のリアクションを取ろうとはしない。
「……………………」
祭服を着た白いエルフも、赤い目を向けるだけで一言も発さない。沈黙を貫き通す。
それから数分経っただろうか。ようやく鎧が口を開く。
「お前はホウガンの子孫か?」
ホウガン。それは自分のラストネームだと伝えようとするが、未だに体と共に口が強張ったままで喋ることすら不可能。伝えたくても伝えられず───
「……今から解除しますが、攻撃行動に移るようであれば再度あなたを『威嚇』します。くれぐれも、弓に手を掛けるような真似はしないでください」
小柄な白いエルフが何かを口にする。威嚇と言われても幼女には何のことだがさっぱりだが、急激に体に力が戻り動くようになった。
それで白いエルフが自分に何かをしたから、動けなくなったのだと理解はした。同時に自分が逃げようとしたり、もう一度攻撃しようとすれば同じように動けなくさせられる事も……
「もう一度聞くぞ。お前はホウガンの子孫か?」
再度漆黒の鎧から質問される。なぜそんな事を聞くのか不明だが、自分を強制的に行動不能にさせる手段を持つ相手に逆らう気も起きないと、エルフの幼女は素直に返答する。
「…………そうです」
「ふむ……お前は……そうだな。お前の父はクロウ・ホウガンか?」
「ち、違います……私のお父さんは……デケム・ホウガン、です」
「そうか。ではお前の祖父はクロウか?」
「……分かりません。お父さんはお爺ちゃんの事を教えてはくれません」
「そうか。ではお前よりも、お前の父に尋ねる方が良さそうだ。先ほど私たちに対して攻撃を仕掛けた事を不問とする代わりに、一つお前の父であるデケムに伝言を頼もう。クロウ・ホウガンに、旧い友人が会いに来たと伝えるんだ……良いな?」
伝えるんだぞと、漆黒の鎧が念押しするように幼女に言葉を吹き込む。それにコクコクと頷いた後、鎧の「行け!」と言う言葉に押されて幼女はエルフの国に向かって駆けだす。
幼女は後ろを振り返らない。クロウなる聞いたことも無い名前の友人を名乗る、得たいの知れない漆黒の鎧から逃げるように。あるいはその隣にいた、恐ろしく澄んだ赤い眼をした白いエルフの視線から隠れるように、木々を縫って走り抜ける。
彼女は恐怖に駆られるまま、父に伝言を届けるメッセンジャーとして森を疾走する。伝えないと言う選択肢は、心中に一切存在しない。もしもそんな真似をすれば……鳥肌を立たせる悍ましい想像を振り払い、彼女は全速力を出し続けたのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
エルフ幼女が全力で逃走した後。
残された二人は、広場に来た時と同じ速度でゆっくりと歩き始める。
「……あの子はちゃんと、俺の言葉をデケムに伝えてくれるかな?」
「ポジティブ……だとは思います。怯えてはいましたが、受け答え自体はしっかりとしていましたので」
「まぁ、何にしろ会いに行けば分かる事か」
漆黒の鎧と小柄な白いエルフ───名前をモモンとアヤメ。サトルとアイリスが変装した姿である。
今回エルフの国訪問にあたり、サトルはどうやってデケムの元に行くかを少し悩んだ。デケムはエルフの王であり、エルフの国の最重要人物だ。そんな相手を実験材料として拉致するとなると、後々問題になるかもしれない。
それにエルフ王国は、スレイン法国と戦争中の国。戦争の原因は百年以上前に、デケムが当時の漆黒聖典に所属していた神人の女を、罠に嵌めてハメた事が発端だ。それ以来法国、特に現最高神官長と言った当時の情勢を知り得る面々はデケムに対して並々ならぬ憎悪を抱いており、そのせいで現在に至るまでの火種となってしまった。
(でも結局のところ、法国がエルフの国に対して戦争を仕掛ける原因の殆どは、神官長達の個人的な恨みなんだよな。……うん。やっぱり悪いのは法国だな。国民には戦争がどうして起こったのか一切知らせず、人間が絶対的に正しいって洗脳して前線に送り続けて、自分達は安全な場所で呑気に会議しやがるんだから……)
しかしながら、法国民を殺してくれるエルフ国にサトルとしては嫌悪感など殆どない。むしろ自宅では元奴隷のエルフを雇っているせいか、エルフに対してはそれなりの好感すら若干だが抱いている。
無関係なエルフ市民を捕らえては奴隷にする法国と、少しだけとは言え好感度が高いエルフの国。サトル個人がどちらに肩入れするかと言えば、それは勿論エルフの王国だ。
そんな国の王であるデケムに悪感情を抱いてはいない。彼が漆黒聖典の女を犯したのは確かに減点対象かもしれないが、アンデッドとなったサトルが会った事もない女に同情心を抱くわけもないので何も問題はない。なので電撃訪問からの拉致監禁は無しとし、真正面から普通に会いに行くことにしたのだが───
(アポなし訪問なんて追い返されるのが関の山だ)
相手は一国の主であり、それほどの相手にいきなり行ったとしても迷惑に思われるだけだと、地球時代の営業経験から嫌になるほどサトルは思い知らされている。
そこでアイリスが考案したのが───
「ではデケムのパパ、つまりクロウ・ホウガンの御友人として会いに行くのですよ!」
……サトルは八欲王の事をあまり知らないが、アイリスは『ユグドラシル』ユーザー全員のパーソナルデータを保持している。彼らがリアルではどんな人物であり、どんな職業に就き、どんな人生を歩んで来たのかすら市民管理データ諸々から熟知している。
つまり八欲王の友人として振舞う事すら可能なのだ。父の旧い友人が訪ねて来たとあれば、一国の王でも無碍には出来ない。そんな算段からサトルもこの提案を許可した。
しかし馬鹿正直にサトルは自分がサトルだと名乗るつもりはない。なので偽名として、クレマンティーヌ相手に使ったモモンを採用。アイリスもアヤメと名乗る事にしている。
その上でアイリスは、自分の見た目を変化させてまで変装している。
セプテントリオン『ドゥーベ』との闘いで権能の掌握が進んだことで、いくつかの仕様が判明。その内の一つ、色欲の大罪が使う肉体変化を応用すると外見がある程度弄れると分かった。
エルフの国を目指すにあたり、エルフが相方であればデケムの警戒心も解きやすいのではないかとサトルに相談した上で、アイリスは外装を変更。『ユグドラシル』時代の小柄な姿にした上で、耳をエルフ仕様に変えたのだ。
そうして意気揚々とエルフの王国を目指していたら、森の中でエルフの幼子を発見。あれはもしかしたらデケムの子ではないかと二人は話し合ったうえで、わざと居場所を大体的に教えて幼女に先制攻撃させた。
そうやって先に殴らせてから、君が悪いんだよと罪悪感を植え付けた上で、子供にメッセンジャーをさせる。そうすればアポの代わりになるだろうとやってみたのだが……結果は成功。案外上手くいくものだと、サトルは少し得意気になる。
一連のやり取りにあったのは罪悪感ではないと見抜いたアイリスは、「恐怖心 幼い心に 恐怖心」と小さく呟くが、サトルが楽しそうなので仕方ないかと見なかった事にする。彼が楽しそうであれば、それは全てにおいて優先されるのだ。アイリス自身思うところは無いでもないが、サトルの感情の前ではそれは些事だと押し殺しておく。
「あの子がエルフの国に辿り着いて、デケムに伝言を伝えたとして……今日尋ねるのは性急過ぎるか」
「ポジティブ。今日の今日では、向こうも対応しきれないと思われます」
「なら今日は帰って休む……そうだ。せっかくだから、あれを使ってみようか」
「あれ?」
「グリーンシークレットハウスだよ。あれがどんな効果なのか、こっちに来てからまだ使ってないだろ? 仕様検証を済ませておきたいんだ」
「ラージャ! ではお家ではなく、今日はコテージで一泊なのですよ」
アイリスがポジポジと相槌を打ったのを確かめてから、サトルは自分のインベントリから持ち運び式の拠点魔法具『グリーンシークレットハウス』を取り出す。
今日は二人でコテージデートなのですと、自分の周りをピョンピョン飛び跳ねるアイリスに少しほっこりしながら、サトルはアイリスを連れて森の中に建てたコテージへと入っていくのであった。
箸休め回 次回デケム登場
威嚇:リスタート本編でクレマンに使った奴。アイリスを認識し、かつアイリスが認識した相手であれば遠距離でもスタンさせる。上位版に武技バージョンの『威圧』がある
サトル:デケムが戦争大賛成な人物なのはまだ知らない。同時にエルフ王のスタンスもまだ知らない。どんな人物なのかを正確に把握していたら、アイリスにエルフの恰好なんてさせてないし連れて来ていない