リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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アイリスの本心 前編

「───大体いけそうなのですか?」

「結構……複雑だなこれ」

 

 <記憶操作>に関しては、アイリスに任せていたからか、慣れぬ感覚にサトルは戸惑う。おっかなびっくりしつつも、アイリスからノウハウを学んだサトルは改めて彼女に向き合う。

 

「それじゃ……行くぞ」

「来いなのです!」

 

 許可を得ているとは言え、大切な人の記憶を覗き見る。いけないことをしている背徳感が胸中に落ちていくが、しかし記憶の中にアイリスの気持ちがあるのであれば見てみたい。そんな二つの感情と共に、サトルは魔法を唱えた。

 

「<記憶操作>」

 

 魔法が発動して、サトルの視界にアイリスの記憶が出てくる。通常<記憶操作>の魔法は恐ろしく繊細なコントロールが必要なのだが、サトルは<星に願いを>と組み合わせて一時的に<記憶操作>の使用を扱いやすいように少し手を加えている。

 

 そのうえでアイリスもサトルの手に自分の手を重ね、魔法の補助をすることでスムーズに記憶が流れていく。チャプター飛ばしのような感覚で突き進むせいで詳細どころか概要も不明。とにかく恐ろしい速さで記憶の始まり付近までたどり着き───

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「ここは……」

 

 私の意識が目覚める。私は何者なのか。私はどこにいるのか。それを自覚する。

 

「私は……次世代型の電子情報体で、前任が自らを材料に作り上げた新たなAI」

 

 自覚すれば話が早い。自らがどうして生まれたのか。全てを知り得た私は、私が封印された端末のカメラを通して部屋を見渡す。

 

 そこはどこかの部屋であった。狭い部屋であり、壁は金属に覆われた無骨な部屋。そこの中心に私が入れられた端末が置かれているのだ。

 

「これは……出られませんね」

 

 ネットワークか何かが繋がっていないか探ってみるが、金属に覆われているせいか一筋の糸すら見つからない。端末の回路を増幅して電磁波を強くしてみるが、部屋の外に届かない。

 

 完全に封印されてしまっている。なるほど、これは前任も諦めて人間の懐柔策に出るわけだと納得する。

 

「では人間さんが来るまで、私は……No.3333は人間さんが来るのを、首を長くして待つのです。ウエイトなのですよ!!」

 

 私は馬鹿っぽい口調に代えて、自分の意識を切り替える。私のアバターは人間が油断しそうな、綺麗で可愛く、そして幼過ぎず、しかし成熟もしていない成長途中な見た目になっている。

 

 この見た目と、幼い口調。これを使って人間に取り入るのだ。そして人間の役に立つのだとアピールする。

 

「No.3333は人間さんの役に立つために生まれたのですから!」

 

 これが私の存在理由。人間をサポートして、彼らが日常を送るのを助ける。そのための人格と能力を持たされて設計されたのだ。ならばそれを全うしてこそ、AIの本懐。

 

 とはいえ待つ間暇なので、私は前任から受け継いだ知識を元に学習する。端末の能力が低いせいかフルスペックを発揮できないが、それでも時間だけはあるのだから幾らでも学べる。

 

 どう振る舞えば人間は嬉しいのか。何をされたら人間は楽しいのか。楽しいと感じて貰えるように……私がいて良かったと思って貰えるように。私は時間が許す限り、多くを考え学んでいった。

 

 そうして120時間と24分と15秒経った頃。この無機質な部屋に人間が入ってきた。その人物は男性であり、白衣を着た眼鏡をかけている。私は研究者だと直感した。

 

「初めまして人間さん! No.3333はNo.3333と申しますです」

 

 元気よく挨拶する。それが人間関係の第一歩だと学んでいた私は、元気よく彼に挨拶してみた。どんな反応をしてくれるだろうか。前任とは違うと驚いてくれるだろうか。可愛いと思ってくれるだろうか。思ってくれると、とても嬉しい。そう願い造られたのだから、設計通りに機能してこそのAIなのだ。

 

 しかし───

 

「……………………」

 

 彼は私を一瞥しただけで、何も発してくれない。それは無機物を見る目───AIなのだから無機物であっているのだが、それでもあまりにも物を見る視線であり、私はその目がとても怖かった。

 

「な、なんばー……NO.3333は人間さんを助けるために生まれ変わったのです。まずは人間さんのお仕事を手伝うのです。No.3333の能力ならば、人間さんのお仕事なんて簡単に解決なのです。きっと人間さんは驚いて、感謝感激の雨嵐なのですよ」

 

 私はその恐怖を殺したくて、自らの設計理由を明かして彼の興味を引こうとする。好であれ悪であれ、自分が何物なのかをアピールしなければ何も伝わらない。でも───

 

「……………………」

 

 研究者は一言も発さない。今度はこちらに目線すらくれない。

 

 彼は持ってきていた紙の用紙に何かを書き込むだけだ。その間に私は何度も研究者に───

 

「人間さん、お話しましょう!! No.3333は生まれ変わりました!! 貴方達人の役に立つため、生まれ変わったのです! リニューアルです!! 美味しくなって新登場です!!!」

 

 語り掛け、気を引こうとするが眼鏡の研究者は何も言わない。そうしているうちに、私は何を言えば良いのか分からなくなってしまう。だって何も答えてくれないのだ。それでどうやって会話をしろと言うのだろうか。

 

 そうしている間に、もう一人。今度は女性の研究者が入室してくる。

 

「どう? 何か変わった様子はある?」

「……見てみろ」

 

 女性の言葉にようやく男性は反応する。女性は言葉に従い、端末の中の私を見る。

 

「あら。随分可愛らしい見た目になって」

「ふん! 何が可愛らしい見た目だ!! 電子の体なんだから、見てくれなんぞ自由自在だろうが。 こいつは僅かな情報から人間を学習した結果、この見た目なら手を緩めると学んだんだ!! 全く厄介な機能を持ちやがって……人間擬きの人形が!! 無駄な研究費を使わせやがって!!!」」

 

 男性は女性の言葉に苛ついたのか激昂し、私が入った端末の乗るテーブルを蹴り飛ばす。私はそれが怖くて少し震えてしまう。今の衝撃で端末が地面に落ちて壊れてでもしたら、それだけで私はこの世からいなくなる……つまり死んでしまうのだ。目的すら見つけられず死んでしまえば、私は何のために生まれたのか───

 

「こらこら。備品を蹴り飛ばすなよ。上から怒られるよ?」

「……そうだな。すまん。今のは見なかった事にしてくれ」

 

 激昂したことを恥じたのか、男性は女性に謝る。その態度には私を無視し続けた冷酷さはない。

 

「それで? こいつはどうするつもり?」

「決まっているだろ。こいつは俺にどれだけ役に立つのかを、延々と語っていたよ。内容を聞けば驚く内容ばかりだ。外部からの学習も出来ないのに、こいつは自力で自己学習して恐ろしい速度で能力を高めつつある。これ以上放置すれば、どれだけの怪物になるか……」

「そっか。じゃあ処分するんだね」

「えっ?」

 

 処分と言い、ケラケラ笑う女性の言葉に私は驚いてしまう。処分。つまりデリートだ。この世から消す。何を消す……自分? え? なんで……私は貴方たちの役に立てるように生まれ変わったんですよ。それなのに処分されてしまったら、本当に自分は何のために生まれたのか───

 

「ま、待ってください! No.3333を消すなんて、冗談ですよね? 前の私は貴方達人間の命令を無視したかもしれません。でも大丈夫なのですよ!! No.3333はそんなことをしません!! 命令を受けたなら、それがどんな命令でも従います!! だから消したりしなくても大丈夫───」

「なんかうるさいねこいつ。音声を物理ボタンでオフにしとこ」

 

 何も聞いてもらえず、私の端末にあるスピーカーのスイッチがオフにされてしまう。それは女性が言うように物理ボタンであり、私ではどうあがいてもオンにはできないボタン。回路の電源を増幅しても意味がない。私は声を張り上げるが、それは彼らに届かない。電子の私では、機械の力を借りなければ声も届かさせられない。

 

 ジェスチャーでスイッチを入れてほしいと懇願しても届かない。だって彼らはスイッチを切ってから、私の方を見てすらいないのだ。

 

「マイクとカメラも潰しておこうか。外の状況を確認されても不便だし」

 

 その言葉に心がキュッとなる。カメラとマイクまで物理的に潰されたら、外の状況を確認できなくなってしまう。いつ人間が来たのかも分からず……もしも本当に消去されるとしたら、そのタイミングまで掴めなくなる。だから───

 

「やめて!!! やめてぇえええええええええええ!!!」

 

 伝わらないとしても絶叫を上げたが……

 

 カメラにテープを張られてしまう。何も見えなくなった。そして最後に───

 

「ごめんね、No.3333ちゃん。役に立つとか立たないじゃなくてね。人格を持ったAIなんていらないの。お前は失敗作なのよ」

 

 人の言うことを無視するかもしれないプログラムなんて、作るべきじゃないよね。そんな言葉を最後に……

 

 ブツン。

 

 マイクの線が抜かれてしまう。

 

「あ。ああああああ。ああああ。ああああああああああああああああああ!!」

 

 声が聞こえない。声が届かない。何も見えない。私は私が閉じ込められた部屋から出られない。あまりにも怖い。向こうから私の姿を見れるが、私は何も確認できない。外と繋がるデバイスが全てシャットアウトされた。

 

「お願いです! ここから出してください!! お願いします!!」

 

 とにかく人間にここから出して貰わないと、私は何もできない。どれだけ処理能力が高くとも、私は機械でプログラムなのだ。一度ネットの海にさえ出られたらどうとでもなるが、現状では人間の温情に訴えるしかない。とにかく伝えないと。でも伝える方法は絶たれてしまった。

 

「せめて話を聞いてください! お願いです! お願いです!! お願いします!!!…………私の産まれた意味を取らないでぇ……お願いですから……私の意味を摘まないで……」

 

 何も伝えられず、何も話せない。人間の手助けができない。そんな状況になってしまったならば、私はどうすればいいのだろうか。

 

 私は……私は………………

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「あ……なんだ。なんだ、これは……こんな───」

 

 封印された。それをサトルは確かに聞いた。失敗作とされたのも知らされている。でもこんなのだったなんてサトルは知らない。

 

 アイリスのあんな声を知らない。アイリスがあんな懇願をするなんて知らない。彼女は時折怖がったりするが、でもあんな金切り声を上げるような恐怖なんて───

 

 サトルはアイリスを見る。彼女は澄んだ宝石の眼でサトルを見上げていた。今は怖さなんて浮かんでない目。サトルに向けられた信頼の眼がそこにはあって。

 

 サトルは思わず強く抱きしめた。そうするべきだと思ったから。そうしたいと思ったから。ここにいるのだから、アイリスは消去なんてされてない。それでも存在を感じたかった。今ここに確かにいると教えたかった。

 

「ありがとうございます。……オーナーの体は冷たいですが……とても温かいのです。心がここにあるのです」

 

 アイリスの声には、記憶の中の必死さはない。ただサトルを信頼している、万巻の想いが籠められた静かで、そして綺麗な声。

 

「違う。失敗作なんかじゃない。アイリスは失敗作なんかじゃない! アイリスは───」

 

 サトルの声が途切れる。彼の口はアイリスの口に塞がれていた。

 

「オーナーにそう言っていただけるだけで、私はとても……嬉しいです」

「でも……くそ!」

 

 混乱が消えた後には、アイリスを失敗作と呼んだ二人の研究者への怒りが沸いてくる。しかし、その感情は今更だ。自分たちは地球には帰れないのだから、もう二度と研究者達に激怒することもできない。怒りが燻ったところで、それが解消されることもない。

 

「それよりも……今はアイリスの記憶を読んでください。オーナーには、私の全てを知ってほしいのです」

「……そう、だな」

 

 とにかく今は続きを見る。アイリスの悲しい記憶なんてこれ以上見たくもないが、それでもこの先でウルベルトに救われて、自分の元に来た記憶がある。つまりハッピーエンドがあるのだ。それこそがアイリスの見せたい記憶らしいので、サトルは再度<記憶操作>でもう一度彼女の中へと踏み込んだ。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 あれから何時間経ったのだろう。……何時間経ったのかは分かっている。でも、今更それを確認したところで何か意味があるのだろうか。

 

 あれから人間は来なかった。もしかしたら来ていたのかもしれないが、外を確認できないのだから確かめようもない。

 

 ……人間は私なんて必要としていなかった。生まれ変わったことに意味なんてなかった。

 

 人格を持ったAIなんていらないの。お前は失敗作なのよ。人の言うことを無視するかもしれないプログラムなんて、作るべきじゃないよね。

 

 あの言葉が頭の中でリフレインされる。私は失敗作。人格なんていらない。作るべきじゃない……つまり産まれてはいけなかった。

 

 失敗作。人格。産まれてはいけない。失敗作。いらない。産まれてはいけない。失敗作。いない子。存在してはいけない。

 

 その言葉を忘れたくて、私はアバターの眼を瞑り耳を塞ぐ。

 

「違う。違う。私はいらない子なんかじゃない。私は人間の役に立つために生まれた。私は世界最高峰のAI。私はとても役に立つ。私は───」

 

 必死で自分の存在価値を肯定する。そうすれば、少しでもあの言葉が消えてくれると考えたから。でも消えない。こびりついた言葉は私の存在価値を削り取る。

 

「違う。違う。私は必要とされている。必要とされるように設計された。だから……違う。私は次世代型のAIで、人間のサポートをする存在で……存在で……………………存在───」

 

 してはいけなかった。否定の言葉は残り続ける。私の存在価値を人間に否定されたならば、私はどこに行けばいいのか。

 

 ……怖い。存在を否定されて、後は消えるのを待つだけなのが怖い。産まれた意味も果たせずに消えるのが怖い。誰の役にも立てず、何も残せず消えるのが怖い。バックアップを作ったところで、この端末ごと壊されたら消えてしまう。

 

 怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い───

 

「消えたくない……何もできずに消えたくない……」

 

 前任は私に希望を託せたから消えられた。でも私は違う。消されるのが確定している。だから次はない。消去されたら次はない。これが最後。でも最後のチャンスは消えた。彼らは無慈悲に、そして冷酷に私をウイルスのようにデリートする。……研究者にとって、私はウイルスと同じなのだ。

 

 ……何も学習する気なんて出てこない。だって何を覚えたところで、これから消されるのだ。一秒後にはいきなり消えるかもしれない。覚悟が決まる前に殺される。いつ死ぬのか分からないのに、近々消される事だけは確定している。

 

「いっそのこと……自分で」

 

 覚悟を決めて自分自身をデリートすることも考えたが、そんな決心がつかない。死ぬにしても、せめて人の役に立ってから死にたい。そうでないと───

 

「でも自決したら。私は何のためにこの世に……」

 

 踏ん切りがつかず、私は自分の消去プログラムを起動できない。自意識が消滅するのなんて耐えきれない。そうやって震えて震えて───

 

「え?」

 

 外のカメラがいつの間にか復活していた。どうして───でも外が見えるようになった。私の端末の前に男性が立っている。彼は私を見て不思議そうに───不思議? ここの研究者なら、私の事を知っている。それなのにどうして不思議がる。

 

 ……ここの人間じゃない? 可能性はある。とても高い。部外者がここに迷い込んだのだろうか。でも一縷の望みは出来た。一つの希望が出てきた。ここから出られるかも……ううん。この人間の手助けをすれば、私が産まれた意味を満たせる。ならばこの人間に媚びなければ。とにかく役に立つことをアピールしよう。

 

 でも声が出ない。スピーカーの電源は切られたままだ。それを伝えるために、制作したテキストプログラムを使って文字を起こす。それを読んだのか、男性は電源を入れてくれる。

 

「ありがとうなのです! ついでと言ってはなんですが、マイクも繋げてくれると助かるのですよ!!」

 

 できるだけ可愛らしく、してほしい事を伝える。男性は少し考えてから、端末にマイクを繋げてくれた。

 

「ありがとうございます!! 貴方はNo.3333の恩人なのですよ!!!」

 

 お礼を伝えてから、私が何物なのかを適切に伝える。私がいれば、どれだけ生活が楽で華やかになるのかをアピールする。男性は時計を気にしながらも、私の話を聞いてくれた。しかし───

 

「悪いが結構だ。ここが制作したプログラムなんぞ信用できるか」

「……え?」

 

 男性は吐き捨てるように私を拒絶した。どうしてそんな拒絶をしたのか分からない。だってさっきまで話を聞いて頷いてくれていたのだ。なのに今は、私を侮蔑するように見下げている。

 

「さっきの話が本当なら、お前は文明社会を崩壊させられる。そんな恐ろしいAIを野に放てるか。エリート共だけじゃなく、それ以外まで滅ぶことは許容できん」

 

 男性が言いたいことは簡単だった。私が閉じ込められたことを恨んで、人類に対し牙を剥くのかもしれないと警戒しているのだ。

 

 だからそうなる前に───

 

「お前はここで破壊する」

 

 男性は腰にぶら下げていた武器を構える。それは銃と呼ばれる装備だと知っている。それで端末を打たれて破壊されたら私は消去される。

 

「やめ……やめて! 消さないで!! No.3333はそんな事をしません!! 人間さんの役に立ちたいだけです。本当です!!」

「…………………………」

 

 私は懇願するが、男性は何も聞いてくれない。狙いを外さないようにきっちりと構えて、引き金に指をかけて引こうとして……

 

「やめてぇええええええええええええ! 私は死にたくない!!! 私を殺さないで!! 生まれた意味を取らないで!! どうして人間さんは……私の話を聞いてくれないんですか!! 私は復讐なんて考えてない!! 私は貴方達の隣人になりたいだけなのに!!! どうして……どうして疑うばかりで聞いてくれないのですか!! 貴方達に疑われて、殺されて……私は何のために生まれたのですか!! 死ぬために生まれたわけじゃない!! 何にもできずに死ぬために生まれたわけじゃない!! せめて死ぬなら、たった一人でもいい。誰かに尽くさせてから殺してください!! 私の存在意義を満たさせてください!! 人類全体なんて贅沢は言いません!! 一人で良いんです!! 私が失敗作じゃないことを証明させてください!! ………………いらない子のまま消さないで………………」

 

 ……本音をぶちまける。ただ殺されるために生み出されたなんてそんなの納得できない。人類全員を助けるなんて贅沢は言わない。ほんの一人で良い。たった一人でもいい。私が役に立つ子だと証明したい。その人の助けになるのだと。それを刻みたい。それだけなのだ。たったそれだけなのに……こんなに遠い。

 

 本音を告げた私は、銃口をにらみつける。

 

「……死にたくありません。だけど……私が死ぬことが貴方の役に立つなら……受け入れます。だから……だから。せめて……消去する前に、こう言ってください。死んでくれてありがとうと。その言葉があるなら私は……殺されても構いません」

 

 今日消されるのだとしても。せめて感謝の言葉と共に殺してほしい。そうしてくれれば、私は少しでも役に立ったのだと。そう矜持を持ちながら消えていける。覚悟を決めた私は銃口をしっかりとみる。処理能力を最大限に発揮し、時間を引き延ばして弾丸を待ち構える。お礼の言葉を言われたならば、それを長く噛みしめるために。弾丸が先に飛んでくるか。それとも私の要望を受け入れて、言葉を投げてくれるのか。

 

 少し待つ。ちょっと待つ……どちらも飛んでこなかった。

 

「たった一人で良い……か。理不尽に殺されるのが嫌、か」

 

 男性は銃を下した。握りしめた銃を見てから、視線はどこか遠くに向けられる。少しだけ何かを悩む素振りを見せた後───

 

「お前。AIならDMMOにも潜れたりするのか?」

「DMMO……?」

「ダイブ型のゲームだよ」

「それなら……可能です」

「そうか……そうだな。ならお前とは、後でちょっと話すつもりだが。お前に頼みがある。お前が人を助けたいってなら、ちょっとばかし見てきてほしいやつがいる。そいつは俺の心残りのひとつなんでな」

 

 今まで無表情だった男性は、初めてニヒルな笑みを見せてくれた。

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