リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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舞台の裏側 1

「感動の再会だなぁ……」

「感動の再会なのです……」

 

 今日は仕事が休みなので、朝から『ユグドラシルⅡ』に赴き私事をしている最中にエ・ランテルの動向を把握していた主従は、呑気にシュークリームを頬張りながらコメントを残す。

 

「これ美味いな!」

「オーナーの御口にあったのなら、アイリスとしては幸いなのです」

「写真では見た事あったが、シュークリームなんて高級品食った事なかったからな……これどうやって作ったんだ?」

「パイ生地には、帝国内で広く愛されているレシピを使い、カスタードにはコカトリスの卵の卵黄。エノックス牛のミルク。カブラキの煮汁を煮詰めた砂糖。あとは薄力粉とハチミツを使ってあるのです……この世界にバニラビーンズがないのでハチミツで代用したので、本当のシュークリームかと言われると、自信がないのです。帝国内の代表的な高級菓子であるプリンにしても、基本は卵黄とミルクと砂糖だけ。地球の菓子と同じ味かと言われると……なのです」

「ふぅむ……つまり、まだまだ向上の余地があると?」

「……そうですね。ポジティブに言えば、そうなります」

 

 ハムハムと両手で持ちチマチマ食べるアイリス。片手で大口を開けて頬張るサトル。対照的な食い方の二人は、アイリス製のシュークリームに対する寸評を済ませた後、改めて動画へ視線を向ける。

 

「……ルーファスは……嬉しそうだな」

「───嬉しいと思いますよ。数百年ぶりの主との再会。その気持ちは良く分かります。もしアイリスが、オーナーと死に別れたとしたら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから彼女の気持ちが、少しは分かります。きっと……とても嬉しいのでしょう」

「───なら、スルシャーナを()()()()()()()()()甲斐は多少……あったのかもな」

 

 それは少し前の話。あのエ・ランテルにいるスルシャーナを、どうやって用意したのか。その時の事を、サトルは振り返り思い出すのだった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 対法国への戦略。端的に言えば、エ・ランテルの件を全部被って貰おう。それが基本骨子だ。

 

 幸いにも首謀者共がどちらも法国関係者だったので、法国のせいに非常にし易い環境は整っていた。ならあとはどんなストーリーにするかだが───

 

「スルシャーナを復活させようとした。これが一番無理のないストーリーなのです」

「神様を復活させるために、他国の都市を生贄にする。……まぁ、帝国に罪を被せようとしたり、王国の戦士長を暗殺するような連中なんだから、それぐらいはしてもおかしくはないわけか」

「ポジティブ。幸いにも、ズーラーノーンの盟主は、法国の元神官長にして神人。とっても都合が良いのですよ」

 

 ならあとは、スルシャーナ代わりのオーバーロードを召喚して、それの記憶を操作し代役をやらせるかとサトルは考えていた。しかしそれにアイリスが待ったをかけた。

 

「オーナー。もし可能ならば……の話ですが。本物のスルシャーナを用意することは出来ないでしょうか?」

「本物を? ……アイリス。スルシャーナは500年前、あの八人に自動蘇生が亡くなるまで殺されたんだろ? なら、本物を用意するなんて不可能だろ」

 

 どうしてアイリスがそんな事を言い出したのか。意味が分からないサトルだったが、意味が分からないなりに理屈の面からアイリスを諭そうとした。

 

「ポジティブ。確かにオーナーの言う通り、スルシャーナは完全に滅されました。それは戦乙女(バルキリー)の記憶からも確定しています。でも、そうなると。アイリスには一つ、疑念があります」

「疑念?」

「疑念です。───オーナーは自動蘇生の仕様を覚えていますか?」

「5レベルダウンする代わりに、アイテムも魔法もスキルも無しで蘇生できる……だろ? それぐらいはプレイヤーなら、当たり前の情報だが……」

「ポジティブ。その通りです。そしてレベルダウンし続ければいつかレベルが0になり……消滅する。とフレーバーテキストでは設定されていましたが、実際にはセーフティ機能が搭載されており、必ず1レベルでストップするようになっていました」

「そうだな。それが一体どうした───ん?」

 

 自動蘇生に関する基本情報。それのお浚いに『ユグドラシル』の常識で返したサトルは、何かがおかしいと気づく。

 

「……自動蘇生は機能した。なのに……セーフティが機能していない? この世界に来てから、いくつか仕様が変更されていたから……その一つ……なのか?」

「ネガティブ。確かに仕様が変更されたものはいくつもあります。<要塞創造>で製作される要塞の扉が、術者にしか開けない。フレンドリーファイアがONになった。色々とありますが、あくまでも変更。仕様そのものが消去された事例は、無かった筈なのです」

「つまり───セーフティが働いていて、本当はスルシャーナはまだ……生きている?」

「あるいは仕様が変更されていて、最大レベルダウンした時。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()

「───権能か」

 

 世界級エネミーの力。それならば、もしかしたらスルシャーナの復活は叶うかもしれない。だが───

 

「それをすることに、何か意味があるのかい?」

 

 どうにもサトルには、そんな事をする必要があるのか理解できない。わざわざ本物を用意などしなくとも、こちらが使役する死の支配者(オーバーロード)を使う方が有益。あえてそんなリスクを取る必要などない。そう考えての発言だった。

 

「ポジティブ。メリットは殆どありません。あえて言えば、とある少女が一人。心の底から喜ぶだけでしょうか」

「……その少女ってのは、まさか……アイリス?」

 

 スルシャーナがサトル───モモンガのファンボーイなのは、アイリスから教えて貰ったので重々承知している。そんなファンボーイだから、アイリスなりに蘇らせてあげたいのかとサトルは考察するが───

 

「ネガティブ。オーナーのファンであるスルシャーナに思うところが無い訳ではありませんが、それだけで蘇生させようとは思わないのです」

「? なら、誰が喜ぶんだ」

「ルーファスなのです!」

「……法国の宝物庫に引き籠ってる、スルシャーナのNPCか……」

 

 ルーファスの名を聞いてサトルは少し思案する。この世で唯一世界級アイテムにより産み出された事により、ギルドに縛られず、ただ主のみに仕えるNPC。他の拠点NPCや傭兵NPCと違い、特殊な出自ゆえに魔神にならず法国を守護し続けた最後のしもべ。

 

 サトルとしても、彼女に思うところがないわけではない。たった一人で何かを維持しようとする。その気持ちは良く分かるからだ。なので、感情の面ではちょっとぐらいなら手助けしても良いかなーとは思うのだが───

 

「メリットがないな」

 

 としかならない。感傷だけでプレイヤーを蘇生させる。とてもではないが、サトルとしては到底受け入れられない。

 

「権能で蘇生出来るかもしれない。だがそれは、こちらの手札を一つ晒す行為だ。対法国とはつまるところGVG。相手に塩を送るも同然の行為は認められん……例え、君のお願いでもね」

 

 最悪蘇生させても、アイリスに<記憶操作>をして貰う手もあるが……それでも、リスク管理の観点からサトルは許可を出せない。アイリスのお願いは極力叶えてあげたくとも、デメリットの大きさを考慮すると、とてもではないが───

 

「───ポジティブ。理屈の面ではそうです。なので、アイリスはオーナーの感情に訴えます」

「えっ?」

 

 サトルは少し狼狽する。

 

(いや感情に訴えるって何!? なにすんの!!? ……土下座とか、上目遣いとか……か?アイリスにそれをされたら、何か頷いてしまいそうな自分がいそうだ)

 

「別に土下座も上目遣いもしないのですよ?」

「こら! 人の心を読心するんじゃありません!」

「オーナーのサポートをすると言う事は、御心も知らなければいけないのですよ! ……と言うのは置いといてですね。アイリスは、たった一つの情報をオーナーに教えるだけです。たったそれだけで、オーナーの御心を変えてみせるのですよ」

 

 自信満々に、ドヤ顔で宣言するアイリスにサトルは胡乱げな目を向ける。どんな情報があれば、自分の基本思考を変えられるのだと───

 

「面白い。どんな情報なのか、聞かせて貰おうじゃないか」

「では……こほん。ルーファスは世界級アイテムで産み出された。これはオーナーも御知りですよね?」

「ああ。アイリスがそれを教えてくれたからな」

「ポジティブ。ルーファスの基本情報ですからね。ではでは……世界級アイテムを使い産み出されたルーファス。彼女は何をコンセプトとして産み出されたのか。オーナーには分かりますか?」

「コンセプト……ようするに、俺が……あー……ナザリックで作ったパンドラみたいに、方向性があるってことだよな……」

 

 もうこの世にはいない、電子の海に還ったサトルの黒歴史。ドイツ軍服なNPCを思い出し、ちょっとブルーな気持ちになったサトル。すぐに気を取り直して、ルーファスのコンセプトに思いを馳せる。

 

「目立つ要素としたら……体格が小柄。変に古風な喋り。赤いゴシックドレス。長いサイドテールかな?」

「ポジティブ。加えると()()()()()なのに、可愛らしいと言える見た目をしていて、()()()()()()()()()()()()()()ですね」

「結構珍しい要素……ん?」

 

 見た目が可愛らしい小柄な少女。変な喋り。赤いドレス。長いサイドテール。アンデッドかつガチ構成の信仰系魔法戦士。非常に引っかかる。まるでどこかで見た構成だと、サトルの脳が唸りを上げる。

 

「どこだ? どこで見たんだ……」

 

 どこかで見た。あまりにも似た何かをサトルは知っている。どこで───

 

「ナザリック第三階層……えっ? いや……えっ!? まさかそうなのか!!」

「ポジティブ。そのまさかです。スルシャーナはオーナーをリスペクトして、人間種から現在の死霊特化ビルドへと組みなおしました。そんな彼は一体何をリスペクトして、NPCを製作したのでしょうか? 答えはナザリックのとあるNPCです」

「……()()()()()()……」

 

 サトルの口から一つの名が零れる。それはサトルの親友がこの世に産み出したNPCの名前。エロゲーマイスターが最高のエロゲーヒロインとまで豪語した少女だ。

 

「当時1500人返り討ちの動画を見て、スルシャーナはオーナーに憧れた。同時にとあるNPCを見て、非常に気に入ったのです。ナザリック侵攻動画の最初の方に録画された、階層守護者を見て、気に入ったのです。当時のスルシャーナはまだ10代前半でしたからね。年恰好の近いキャラの方が気に入りやすい年頃なのですよ

「彼は世界級アイテムを手に入れた後、どんなNPCを作成するのか悩みました。そこで思い出したのが、当時気に入っていたシャルティアです。彼女のようなNPCを作成する。そう決めたスルシャーナは友人たちの助けを借りて、シャルティアの情報を集めました。そしてエロゲー同好会を探し、ペロロンチーノに接触したのです」

 

 唖然。ルーファスの製作にペロロンチーノが関わっていたと聞いて、サトルの開いた口が塞がらなくなる。アイリスが教えてくれた、たった一つの情報。それは確かに、サトルの心に衝撃を叩き込むには、非常に力強い言葉だった。

 

「そんな……ペロロンチーノさんが……ならルーファスは、ある意味あの人のNPCと言ってもいいんじゃ───」

「───ポジティブ。ルーファスの作成には、エロゲーマイスターバードマンが貢献しました。それに、AOGのイラストレーターも関わっています。彼女を優遇するのは、オーナーの性格を考慮した時、非常にメリットになるとアイリスは具申しますが……どうですか?」

 

 悪戯っぽくウインクするアイリス。彼女の茶目っ気たっぷりな眼に見られながら、サトルは今聞いた情報を整理する。

 

 ルーファスはペロロンチーノの義理の娘にも等しい存在。そんな子のために、主人であるプレイヤーを蘇生させる。それは……確かにメリットとしては大きい。物理的には何の得もないが、サトルの心情としてはして上げたい気持ちが湧いてくる。

 

 なにせあのペロロンチーノが関わっているのだ。サトルはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは一人(るし☆ふぁー)を除いて全員好きだ。るし☆ふぁー? 彼に関しては、ギルドメンバー大好きっ子なサトルも、なんだあいつぐらいには思っている。

 

 ともかく。サトルはAOGメンバーを友達であり仲間だと思っているが、その中でも誰が親友だったかと言われたら……たっち・みーやウルベルト。そしてペロロンチーノになるだろう。

 

 ともに無課金同盟を結成した大親友の一人。彼の系譜に連なるNPCともなれば、それはサトルとしても何かをして上げたい。しかもそのNPCは、たった一人残されて数百年寂しい思いをしてきた。なるほど、確かにこの情報を出されてしまっては、サトルとしては見過ごせないが───

 

(良いのか? この計画は、ジルクニフのために建てた計画。それを現場判断で変えてしまって……)

 

 最高責任者に許可を取らない計画変更。あまり良い事ではないと、社会人生活の常識が鎌首をもたげる。そんな自分達の判断だけで、国を巻き込んだ事情を捻じ曲げたりして───

 

「良いのですよ」

「え?」

「良いのです。この案件の最高責任者はジルクニフですが、どうするのかに関しては全権をオーナーとアイリスに皇帝は任せています。過程をどれだけ変えようとも、結果さえ出れば構わないのです」

「手順を変えても……大丈夫なのか?」

「問題ないのですよ! そもそも国墜としにマニュアルなんてないのです! ならどんな手法を使おうが、結果的に法国さえ傾ければ……オールオッケーなのですよ!!」

 

 えっへんと胸を張るアイリスをサトルは少しだけ眺めて

 

「アイリスは、さ。どうして、ルーファスにスルシャーナを帰してあげたいんだ?」

 

 仮にサトルがルーファスの境遇と身の上を最初から知っていれば、彼からこの提案をしただろう。だがアイリスは違う。ペロロンチーノとアイリスには、何の関係もない。だから、どうしてルーファスに救いの手を差し伸べるのかと───

 

「……きっとオーナーなら、そうすると思ったからです」

「!? ……そう、か。見透かされてるな、俺は」

 

 サトルならそうすると思ったから、そうした。そんな言葉が少し嬉しくて……アイリスが自分の事を知ってくれているのだと、胸が熱くなる。

 

「それに───」

「それに?」

「自分を知ってくれる誰かのいない孤独は……ネガティブは、()()()()()()()()()()

 

 ……それを聞いて、サトルは決意した。スルシャーナをこの世に戻す。そのために不利になるとしても、権能を……カードを一枚切る。それがアイリスに……そして、自分と無課金同盟を結んでくれた、もう会えぬ親友への恩返しになると信じて───

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 そして二人は権能を使い。九曜の力で混沌の世界に旅立てる事を知り。そこで一つの奇跡を起こした。

 

 後に使う大権能『創世記(ジェネシス)』に匹敵する権能『鎮魂歌(レクイエム)』を使い、魂だけになったスルシャーナを『まだ生きていた可能性』から引っ張り上げ、可能性から現実へと書き換えた。そして───

 

「お前がルーファスだな」

「! なんじゃ貴様らは!! どうやってここに忍び込ん───

「『動くな』」

「かっ……は…………」

 

 いきなり宝物庫に出現した謎の二人組に対処しようとしたルーファスだが、アイリスの『支配の言霊』によりあっさりとスタンさせられる。

 

 100レベルを簡単に制圧する二人。手も足もでないどころか、相手にさえならない実力差に、さしものルーファスも怯えたのか目が泳いでいる。

 

 謎の二人組ことサトルとアイリスは、いつもの変装スタイルだ。サトルは漆黒の鎧を着たモモンに。アイリスは白無垢に着替えた上で、顔を白い狐の面で隠している。

 

 白と黒。対象的な二人にルーファスは詰められた。

 

「こんにちはルーファス。今日は良い天気……とは言えないか。ここでは空が見えないからな」

「な……ん……………………」

「おおっと。我が従属神の力により、喋る事も出来なくなっていたのだな。アヤメ。口だけでも解いてあげなさい」

「ラージャ。『喋っていいですよ』」

 

 わざとらしいやり取りの後、白い女が何かをしたのかルーファスの口が動くようになる。

 

「おんしら……プレイヤーか?」

 

 100レベルの自分を簡単に制圧する相手。そんな化物がいるとすれば、それはプレイヤーだけだろうと推測したのか、ルーファスは問う。

 

「プレイヤー? ……まぁ、プレイヤーと言えば、プレイヤーではあるな」

「どういう……意味じゃ」

「ルーファス。私は君を知っている。君の能力も、良く知っている。仮に私がプレイヤーだとして、100レベルの君を簡単に制圧可能だと思うかい?」

「……思わん」

 

 それは『ユグドラシル』の常識だ。どれだけ装備やプレイスキルに差があろうとも、最高レベルである100レベルNPCに何もさせずに制圧させるなどあり得ない。それではゲームがゲームとして成立しない。

 

「思わん、か。その通りだ。通常ではあり得ない。ならばあり得るとすれば、それが何かは分かるかな? ……我々は運営だよ。『ユグドラシル』の運営。それが私たちの正体だ」

 

 手を広げて、自らに力があるようにサトルは誇示する。運営。それは『ユグドラシル』プレイヤーにとっての天敵。ある意味神の如き力の持ち主。ならばこんな風に、ルーファスをスタンさせるぐらいは当たり前だと思い知らせ───

 

「うん、えい?」

「……うん。これは知らない反応だな」

 

(プレイヤーならまだしも、NPCに運営って言っても伝わらないのかよ! ……実体化時に、どんな風に人格や記憶が形成されるのかの傾向はバルキリーから分かっていても、知識量には差ができるのか)

 

 この経験は次に活かそうと決め、気を取り直したサトルは改めて言葉を続ける。

 

「ルーファス。私たち運営は、我らの味方になる『ユグドラシル』由来の存在を求めている。……仲間になれ。そうすれば、お前に一つ、良い願いを叶えてやろう」

「願い……のぅ。わっちには願いなど───」

「あるでしょう。とっても叶えたい、大きな願いが」

 

 ルーファスに近づいたアイリスが、彼女の耳元に囁く。それを聞いて……ルーファスの頭が怒りに呑まれる。

 

「ふ、ふざけるな! スルシャーナ様に会えるなど……お前らが運営か何かは知らぬが、あの方は……あの御方は亡くなられた!! わっちの前でその死を侮辱するなぞ!!」

 

 アイリスを殺さんとばかりにルーファスは睨みつけるが、それ以外には未だに『支配の言霊』が効いているので何も出来ない。

 

「嘘ではありませんよ。私たちなら、貴女の御主人様をこの世に連れてこれます」

「おんし! いい加減に───

「須藤昌義」

「────────────」

 

 アイリスが一つの名を口にした途端。ルーファスが信じられない物を見る目で、アイリスを見やる

 

「……なぜ。なぜその名をしって……」

「私たちが運営だからです。もう一度聞きますよ。私達なら、貴女の御主人様をこの世に連れてこれます。その代わりに、私たちの仲間になってください」

「ありえん。そんなことは……じゃがその名前は……おんしらは───」

 

 もしもルーファスがアンデッドではなく、普通の人間種であったならば。呼吸は千切れ千切れになり、動悸は乱れて、瞳孔は何度も縮小と拡大を繰り返していただろう。それだけ……アイリスが出した名前は、ルーファスにとって特別だった。

 

 動揺を隠せないルーファスの頭に手を乗せて、アイリスはゆっくりと、かみ砕くように言葉を紡ぐ。

 

「ねぇルーファス。貴方は大事な大事なご主人様に、もう一度会いたくはありませんか?

「貴方は頭を、スルシャーナに撫でられた事はありますか? ……ああ、言わなくても良いですよ。その表情が、全部教えてくれますので

「気持ち良いですよね。全幅の信頼をおく主人に、優しく撫でて貰うのは。体の奥から熱くなって、全能感に全部任せたくなって、顔が綻びますよね……その感覚を、貴女は何年味わっていないのですか?

「最後に貴女の名前を、敬意ではなく親しみで呼んでくれたのは何時ですか? 誰がその名を呼んでくれましたか。寂しくはなかったですか?

「貴女を讃える信徒達は、貴女に安らぎをくれましたか? ……だ~れもくれませんでしたよね。神様万歳とは言ってくれても、ありがとうとは言って貰えなかったんじゃありませんか?

「最後に、貴方の髪を触ってくれたのは誰ですか?

「綺麗な金色の髪です……自分か、信頼する誰かにしか触らせませんよね? 私もそうです。私も、信頼している誰かにしか触らせません。……オーナー以外には、小指の先すら触れさせない

「最後に抱き締められたのはいつですか? スルシャーナはきっと、貴女を大事そうに全身で包んでくれませんでしたか? とっても嬉しいですよね。大事な大事なご主人様に、宝物のように扱って貰うのは」

 

 そこで言葉が途切れ、アイリスはサトルの傍に戻る。そんな彼女を後ろから首に手を回して、サトルは優しく、抱え込むように抱き締める。そこで数秒、ルーファスに見せつけるようにそれをした後、アイリスは再度ルーファスの耳元まで近づく。

 

「もう一度。こんな風にスルシャーナにして貰いたくはありませんか? ……貴女がうんと頷くだけで、それは簡単に手に入る。さぁ……どうします?」

 

 ……数分の間。ルーファスは沈黙し続けた。何を言うべきなのか。それとも疑うべきなのか。答えに見えぬ問いを自問した後───

 

「おんしらは……わっちに何をさせたいんじゃ」

 

 とだけ聞いた。その問いに、二人は穏やかな口調で応えて───

 

「───それをすれば、わっちは……もう一度。スルシャーナ様に……再会出来るのかえ?」

「約束しよう。私の仲間になるならば、絶対にこの約束だけは裏切らない」

「私も約束します。貴女を幸せに導くと、断言しましょう」

 

 ……そこからも数十分の間、ルーファスは悩んだ後。

 

「わっちは……ぬしらに助力する」

 

 スルシャーナとの再会。それをぶら下げられてしまっては……NPCであるルーファスに、断る選択肢など。最初から無かったのだった。

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