リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

57 / 90
ワーカーホリック

 エ・ランテル騒動を切っ掛けに大きく変わった冒険者事情。

 

 王国の冒険者は大きく変わらざるを得なくなったが、帝国の冒険者もとある事情から変革期を迫られていた。

 

 前提として。人間国家で冒険者が一番幅を利かせているのはリ・エスティーゼ王国だ。次いでバハルス帝国。竜王国。聖王国と続く。スレイン法国では冒険者組合そのものが存在しないので、法国に関しては冒険者がいない。

 

 基本的に正規の軍隊が弱ければ弱いほど、冒険者が持つ力は強くなっていく。リ・エスティーゼのように平和ボケしてまともな軍事力がないと、民間の冒険者が強くなければモンスターに村や都市が襲われ壊滅するからだ。

 

 逆に正規軍が強く国が自前でモンスターを討伐できるなら、冒険者は経験値の都合上レベルアップの機会が少なく強くなることはない。そもそも依頼が市場に出回る数そのものが少なくなってしまう。

 

 ようするに各国の軍が軍事力としてまともに機能すると、モンスター討伐を主軸とする冒険者は割りを喰いやすいのだ。

 

 そして……バハルス帝国の冒険者は、現在これでもかととある事情から割を喰っていた。

 

「まともな依頼がねえな……」

「ゴブリン討伐の依頼もねえ。ドブ浚いに荷物運び。これじゃ稼ぎになんねえぞ」

「酒代にもなりゃしねえ!」

 

 帝都の冒険者組合では、このような会話が日常茶飯事になっていた。ただでさえバハルス帝国の冒険者は、以前から金級以下はあまり需要がなかった。金級以下で狩れるようなモンスターであれば、帝国騎士団で問題なく討伐出来てしまうからだ。

 

 モンスターの討伐依頼が無くとも仕事は確かにあるが、大抵は第2位階以上の魔法が使える魔法詠唱者と言った特殊な需要に限定される。あるいは白金級以上の実力者向けの難しい依頼か。

 

 しかしここ最近、白金級以上の需要も大幅に減ってしまった。原因は明白。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()常軌を逸した超高速パワーレベリングを施したせいで、帝都付近に常駐する第一騎士団には馬鹿げた猛者が大量に所属している。第一騎士団には約一万人の軍人がいるが、9割以上が以前は銀級冒険者以下の実力しかなかった。つまり白金級の冒険者達に比べると、遥かに下としか言えない弱者だったのだ。

 

 だが、今は違う。毎日行われる世界級な誰かによる地獄の訓練。訓練兵だけでなく、小隊長や大隊長まで巻き込んだ壮大な神の戯れ(実験)。それらは第一騎士団を驚異的な強者へと変えた。

 

 流石に一万人全員がその訓練を終えた訳ではないが、それでも。既に三千人以上が神様式経験値爆増実験を終えているのだ。

 

 結果として……最低でも白金級からミスリル級相当にまで強化。訓練を終えた三千人の内、二割ほどがそれ以上に伸びた。

 

 三千人の20%……冒険者換算でオリハルコン級以上が六百人ほどいるのだ。その内には無論、アダマンタイト級相当の猛者もいる。しかし……一番脅威なのはアダマンタイト級以上。英雄7名と、とんでも扱きにより遠い祖先の血───六大神の血を覚醒させた神人逸脱者1名。超人の領域に踏み込んだ者も第一騎士団に在籍していることだろう。

 

 彼らが巡回し周囲のモンスターを掃討するせいで、帝都付近の人類に仇名すモンスターの出現数が大幅に減ってしまった。凶悪なモンスターの代名詞ことギガント・バジリスクですら、ちょっと手古摺る程度の扱いでしかない。

 

 それだけに留まらず……秘密部隊である皇国騎士団も裏で動いているのだ。元都市守護者にして、現皇国騎士団団員の戦乙女(バルキリー)が、だ。彼女らの内、<完全不可視化>や<完全不可知化>の魔法を持つ者。野伏(レンジャー)としての技量により、隠匿スキルが非常に高い者は羽を使った高速移動と合わせて帝国圏内を絶えず巡回している。

 

 そして、不審なモンスターを発見したらズドン。野盗を見つけたら手配書と照らし合わせてからズドン。犯罪組織がいたらズドン。ワーカーがいて違法行為に手を染めていたらズドン。バルキリーの辞書に手加減の文字はない。とにかく容赦がなかった。

 

 ……正規軍が強くなり過ぎた煽りを喰らい、帝都の冒険者の仕事は激減。では王国の冒険者のようにワーカー墜ちして違法な依頼に手を染めようにも、著名なワーカーらや犯罪組織が次々と壊滅していることから二の足を踏まざるを得ない。特にワーカー墜ちを踏みとどまらせたのは、全盛期の頃にはオリハルコン級とまで謳われたワーカー───パルパトラ・オグリオン率いるチームが全滅したせいだろう。

 

 パルパトラは80歳ながらも、ワーカーチームのリーダーとして活動していた男だ。非常に慎重な男であり、同時に強いワーカーだった。彼が率いるチームは若いとは言え竜すら狩り殺した実績を持つ。そんなチームが原因は不明だが……何かと争い皆殺しにされた。

 

 その事実が冒険者達に違法な依頼を受ける事を躊躇させる。ワーカーにしてもそうだ。明らかに犯罪者を狙い撃ちにし、誰かが殺して回っている状況で依頼を受ける者は少ない。……違法だと一発で分かるモンスター討伐に出かける者も、またいない。罪なき一般市民は日常を謳歌しつつも……後ろめたいところがある者にとっては、現在の帝国は非常に住みにくい国へと変わりつつあった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 帝都には数多くの酒場がある。御一人様向けの小さな店舗から、大人数向けの巨大店舗まで様々な酒場がだ。

 

 客により求められる酒場は全く違う。秘密裏に話したい時に使う酒場。ただ騒ぎたい時に使う酒場。大小様々な理由があれど、万人向けの酒場とは非常に少ない。

 

 そして……その酒場はワーカー向けの酒場だった。酷く年季の入った店で、表にはこんな看板が揺らめいている。

 

 『歌う林檎亭』。

 

 従来であれば多くの客で賑わい、帝都を本拠地とするワーカーチームが酒を呑み飯をかっ喰らう宿屋も併設された酒場なのだが……全盛期の賑わいはこの店になかった。

 

 時間が悪いのもある。朝と言うには遅い時間で、昼と言うには早い時間。だから客が少ないのは当たり前なのだ。が。それでも立った一組───四人の客しかいないのは寂しい風景だった。

 

 値段はそれなりにするものの、美味いと評判の料理が喰える『歌う林檎亭』は、少し前まではこの時間帯でも人がいた。しかし今はいない……いなくなってしまった。

 

 『歌う林檎亭』のメイン層はワーカーだった。しかし多くのワーカーが竜狩り殺害事件以降臆したのか、ワーカーを引退。結果としてこの店の主要客が減ってしまったのだ。それを抜きにしても、そこそこ値の張る料理に金を出せなくなって来なくなったことも関係あったが……

 

「どうするよ」

 

 店にいた四人の一人───ヘッケラン・ターマイトが口を開く。金髪に碧眼、日に焼けた健康的な肌をした青年で、ワーカーチーム『フォーサイト』を率いる人物だった。

 

「どうするって……何がよ」

 

 それに返答したのは右隣りに座る年頃の女性───ハーフエルフなので、人間基準の年頃とは若干違うが───イミーナだった。

 

 紅色の長い髪を頭頂部でツインテールに纏めた女性で、ハーフエルフらしい人間よりちょっとだけ尖った耳をしたイミーナ。エルフ特有の薄い体つきをしており、レンジャーらしい革鎧を着ていることを考慮しても……マロさはなかった。

 

「分かるだろ。ワーカーを引退するかどうかを……決めなきゃならねえ」

「……そうね」

 

 別にイミーナはヘッケランの言葉の意味が分からなかった訳ではない。ただ、認めたくなかったのだ。ワーカーとして……フォーサイトとして数年活動してきた。永年に続くなどと、子供のように思ってはいなかった。それでも……こんな風に終わるなんて思ってもいなかったからこそ、どうにも認められなかった。

 

「ロバーはどうなの? ワーカー辞めたら、今までみたいにお金を稼げなくなるけど」

 

 イミーナにそう話しかけられたのは、ロバーデイク・ゴルトロンと言うチーム最年長の男だ。短い金髪の髪に、整えられた顎鬚。三十代らしい大人の顔には落ち着いた……諦めた笑みが浮かんでおり、神官らしい静寂な雰囲気が発せられていた。

 

「……仕方がないと思います。多くのワーカーは看板を下ろしました。あの『ヘビーマッシャー』すらもです。ワーカー殺しが何の目的で我らを狙っているのかは不明ですが、あの御老人率いるチームを殲滅してしまう何かがいる以上……危険は冒せません」

「ほんっとうに……それで良いの?」

「欲を言えば心残りはありますよ。何がきっかけで命を狙われるのか分からないなら、今までのように無償で治癒魔法を使う事も出来ない。……幸い、今までにコツコツ貯めて来た蓄えがあるので、神官らしく田舎に孤児院でも立てて、慎ましく暮らしていくだけならなんとかなりますが───」

「ロバー……」

 

 力なく笑うロバーデイクに、ヘッケランもイミーナも慰めの言葉をかけられない。ワーカーの中では良識派のロバーデイク。彼がワーカーになったのは、学んだ信仰系魔法を弱者に施すためだ。

 

 ……冒険者は無償で治癒魔法を施してはいけない。回復魔法は神殿勢力の預かるところであり、料金を取らずに他者を癒すことを法は禁じている。

 

 仮に、だ。仮に無料で治癒魔法を民衆に施す者がいたとしよう。彼が多くを無料で癒せば、次に怪我をした時。救われた多くは料金を快く払うだろうか。

 

 答えは否。次も無料で治して貰える。あるいは金がかかるとしても安く済ませたい。一度でも無料の味を覚えたら、それが基準となってしまう。しかし無料で治す誰かにも、魔力量や加齢による寿命と言った限度がある。そうなった時、救われた誰かは神殿勢力を頼らざるを得ない。

 

 そして……大抵揉めるのだ。やれ料金が高い。治りが悪い。怪我人なんだから優しくして欲しい。神殿勢力に治癒を頼めば確かに金はいる。だが、彼らは守銭奴ではない。無理難題な料金設定になどしていない。教義として広く救えと教えられている彼らは、馬鹿げた金額を取ろうなどとは一切考えていない。本音を言えば無料にしても良いと考えている神官だっている。

 

 しかし、彼らにだって自分の生活があるのだ。神殿の維持には金が必要で、日々の糧になる食料を調達するのにも金がいる。特殊な触媒がいる魔法であれば、それを手に入れる金だって必要だ。心意気で腹は膨れないし、何かをするには等価交換。

 

 それだけでなく、治癒魔法を覚えるために時間を削り勉強し、自分の人生を費やして位階魔法を習得する。

 

 だからこそ対価がいる。無償で、無料で、この世の歯車は回らないのだから。

 

 ……けれども。ロバーデイクは知っている。神殿が定めた金を用意できず死んでいく孤児がいる。親に捨てられたのか……それとも諸事情で失ったのか。それとも貧しい村だろうか。貧しい村では病気になれば切り捨てられて、翌日には狼の餌にでもなる弱者がいる。それを見捨てられなかった。人生をかけて学んだ神の教えでは救えない者がいる。だから冒険者を辞め、彼はワーカーになったのだ。ワーカーであれば、無償の奉仕が許されたから……

 

 しかしそんな時間も終わりだった。犯罪組織もワーカーも、等しく無価値として潰されている。このままワーカーを続けていても、以前のように金を手に入れる機会は少なく。何がトリガーとして滅ぼされるのかも分からないのだから……続けようもなかった。

 

 だからロバーデイクは納得している。ワーカーを引退し、フォーサイトとして稼ぎ貯金していた蓄えを切り崩しながら、少しでも弱者を拾い上げながら生きていくことに。

 

「そっか。あんたは納得してるんだ」

「イミーナは納得してねえのか?」

「全然納得なんかしてないわよ! どこの誰かさんかは知らないけど、これでもかと殺しまわってるのを納得なんか出来るかっての! ビビって、怖気づいて───そうじゃなきゃ、ワーカーは野垂れ死ぬのを見せつけられたみたいで……悔しいのよ」

「……………………」

 

 ワーカーは冒険者と違って、何をするのも自己責任。死んだところで誰も同情しない。骨すら拾ってくれない。受ける依頼が危険なのかも、全て自分で事前に調べ上げないといけない。違法依頼の大金に目が眩み、命を落としたワーカーなど星の数ほどいる。

 

 フォーサイトは決断を迫られているのだ。自分達が今、危険なのかどうかも判断できない。謎のワーカー殺しのリストに載っているのか。それともまだなのか。

 

 それでも、だ。ヘッケランもイミーナもロバーデイクも。まだ引き返せる。フォーサイトは違法な依頼を受けたりもしているが、拉致監禁や麻薬の運搬人などの完全に黒な依頼はロバーデイクが嫌がるので受けた事がない。ギリギリグレーゾーンな依頼だけを請け負っている。だから、まだ。この業界から足を洗える。

 

 今までのような稼ぎは無くなるが、ワーカーとして長年活動したおかげかヘッケランとイミーナの身体能力は非常に高く、冒険者ならミスリル級の強さがある。それを十全に活かせば、慎ましく過ごすなら暮らしていける。

 

 ……でも。一人だけ違う。フォーサイトの最年少。まだ10代半ばの、その少女だけはワーカー業から簡単に足を洗う訳には行かなかった。

 

「───皆は辞めると良い。命以上に大切な物なんてない」

「お前はどうすんだよ、アルシェ」

「私は辞められない…今辞めたら、借金が返せない」

 

 ギュッと拳を握り、静かに喋る少女───アルシェ・イーブ・リイル・フルトの言葉にロバーテイクが唸る。

 

 10代半ばにして第三位階魔法まで使いこなせる天才魔法詠唱者。それがアルシェだ。加えて彼女にはフールーダと同じ生まれながらの異能(タレント)───看過の魔眼も宿っており、ワーカーを辞めたとしても年齢から言えばどんな道でも選べてしまう。

 

 しかし、そんなアルシェには大金を稼げるワーカー業から離れられない事情があった。

 

 それは借金。

 

 ……彼女当人の借金ではない。アルシェは四つ名から分かる通り、元貴族の御令嬢だ。そう……元貴族。彼女は零落した貴族の娘なのだ。

 

 ジルクニフによる大粛清により爵位を剥奪された貴族が彼女の父親だった。大した結果も残していない無能な貴族。皇帝の嫌いな人種であり、無駄金を喰らう極潰しとして処理されたのだ。

 

 けれど、彼女の父はその結果を受け入れなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この結果は不当だと猛抗議したが、ジルクニフがそんな戯言を聞き入れるわけがない。

 

 皇城に赴いたところで、『平民』かつ『無能』が敷地内に入れるわけもない。そこで常人なら諦めるところを、アルシェの父は斜め上に思考が飛んだ。

 

「私は貴族である。皇帝に私の爵位を奪う権利などない。私がまだ貴族である事を見せつけるために、以前と同じ生活を続ける。そうすることで、フルト家がまだ健在であり、皇帝如きに屈していないことを誇示するのだ」

 

 馬鹿の発想だった。戯けた阿保の思考だが、付き合わされるアルシェとしては堪ったものではない。

 

 爵位を取り上げられたことで、国からの給金はとっくの昔にない。蓄えがあるが、父はこれこそ貴族らしい生活だと無駄な美術品や調度品に金を注ぎ込み……貯金はすぐに底を尽きた。ここで常人なら踏みとどまるかもしれないが、アルシェパパにブレーキなどない。アクセル全開(借金)だ。

 

 貴族の生活を維持するために金を借りる。それも大金を借りるとなれば、爵位を失った父では帝都の銀行も用意はしてくれない。となれば、闇金融に手を出すのが道理だった。

 

 膨れ上がる借金。溜まり続ける利子。誰が見ても破滅願望があるとしか思えない行動であり、アルシェにもそう見えてしまった。しかし彼女はそんな両親を見捨てられず……大事な二人の妹も見捨てられず。

 

 当時通っていた魔法学院を退学し、大金をすぐに稼げるワーカーに転職。以降フォーサイトの魔法詠唱者として金を返し、どうにか借金のやりくりをしてきた。

 

 けれどもそれも、ワーカー事情が悪化した事で崩壊。借金取りは利子を帰さないアルシェに業を煮やし歌う林檎亭にまで取り立てに来た。そこでフォーサイトの面々にもアルシェがどうしてワーカーになったのかが発覚して……今に至るのだった。

 

「ワーカー以外で、すぐにあれだけの大金を用意出来る仕事なんてない。借金が返せなければ、すぐにでも家が抵当として差し押さえられる。そうなったら───」

 

 終わりと〆られる。

 

「……一人で続ける気かよ」

「───多分そうなる。今更、帝国領内でワーカーを新たに始めようとする人も、新しく迎えてくれるチームもいない」

「馬鹿! それで魔法詠唱者がソロでワーカーをする? そんなの、私は死にますって宣言してんのと同じよ!!」

「アルシェさんの名はこの数年で売れましたが、それでもソロとなると新たな依頼を出してくれる人もいない筈です。ならばいっその事、妹さん二人を連れてカルサナス都市国家連合かリ・エスティーゼ王国で冒険者として一から───」

「───それは無理。あの子達はまだ幼い。都市国家連合を目指すにしろ、王国を目指すにしろ道中耐えられるとは思わない。それに辿り着けたとして、都市国家連合は亜人国家。クーデリカとウレイリカは上手くやっていけるほど、世慣れしていない」

「……王国も良い状況とは言えねえからな。エ・ランテルが堕ちたなら、今頃国事態が上に下に大騒ぎ。そんなところに幼い子供を連れて行っても、噂に聞く闇組織。『八本指』辺りに三姉妹揃って攫われるのがオチだろ」

 

 アルシェを除くフォーサイトの面々が顔を覆い天を仰ぐ。最初は金だけを目的として集まったフォーサイトだが、数年の間共に死線を潜り抜けて来たのだ。

 

 弱者を見捨てられないロバーだけでなく、ヘッケランもイミーナも、アルシェが良いと言うのだから見捨てようと出来るほど薄情ではない。

 

 かと言って、ワーカーを続けるにはあまりにもリスクが高い。アルシェの事を妹のように思っているが、現実として命がかかるほどのリスクを飲むには……そんな心境だった。

 

「せめてなぁ! 前までみたいに、カッツェ平野のアンデッド討伐で金を稼げたら何とかなったのによ」

「無茶言いなさんな。皇帝陛下直々に立ち入り禁止の御触れが出て、騎士様達が封鎖したんだから」

 

 エ・ランテルの騒動前までは、国家事業であるカッツェ平野のアンデッド狩りをフォーサイトは生計の主軸にしていた。人手が足りないが故に、ワーカーの手でも借りたかったおかげか、狩れば狩るほど儲かったのだ。

 

 それもエ・ランテルのアンデッド騒動以降は連動して凶悪なアンデッドが発生したら危険と判断されたのか、バハルス帝国は全面的に立ち入り禁止区画に認定。帝国の正規軍以外は入れなくなってしまった。

 

 帝国側からは無理でも、リ・エスティーゼ王国側からなら入れるが……生憎その方面には、カッツェ平野より危険地帯であるエ・ランテルがある。そもそも立ち入り禁止区域に勝手に侵入して狩ったところで、報酬金を払ってくれるところがない。だから国家事業であるカッツェ平野のアンデッド討伐は、全く旨味のないボランティア事業となってしまったのだ。

 

 ……一つだけこの情報に、一般には出回っていない情報を付け加えるなら。現在のカッツェ平野にはアンデッドが一体として存在しない。以前と同じく濃霧があるものの、不死者はとある事情───白銀の髪色をした小さな少女が、実験と称して己のスキルを解放し、灼眼の青年と手を繋いでお散歩した───から全滅している。それが立ち入り禁止にした理由。危険だからではなく、もはや国家事業がいらなくなったから。

 

 そんな事情を知る由もないフォーサイトは、アルシェをどうしたものかと悩みながら酒で口を湿らせる。

 

 答えの出ない難問に、ああでもない、こうでもないと悩んで───

 

「失礼。こちらの宿であれば、ワーカーの皆様がおられると伺ったのですが……どうやら一組しかおられないようですね」

「ん?」

 

 歌う林檎亭の扉が開かれて、一人の男が入室してきた。背はヘッケランより僅かに高く、浅黒い肌にオールバックの黒髪をした男。この辺りでは珍しい南方よりのスーツを着ており、高価そうな眼鏡をしている。

 

 男は店内を見渡すが、フォーサイトしかいない事を確認した後、カツカツと革靴の底を鳴らしながらヘッケラン達に近づいてきた。

 

「失礼。貴方がたはワーカーチームでしょうか?」

「そうだが……依頼の話か?」

 

 歌う林檎亭にワーカーを訪ねて来た。ならば依頼だと思うのが道理であり───

 

「ええ、その通りです。我々の依頼を受けてくれるワーカーチームを探して、ここまで来たのですが……残念ながら、一チームしかいないのですね」

 

 本当に、残念そうに語る男に、ヘッケランとイミーナは顔を見合わす。現在の帝国ではワーカー業は盛んではないので、どこを探してもこんなものだと思うが……この男は世間知らずなのだろうかと。

 

 しかしこの男が世間知らずそうなのと、依頼があるのは別だ。内容次第では断るが、ギリギリ合法と言えるレベルなら受けても良い。今時依頼を持ってくる相手も稀であり、同時にアルシェには金がいる。そんな算段からヘッケランは───

 

「依頼ねぇ……良いぜ、話して見ろよ」

 

 そう言って。眼鏡の男に話を促すのであった。





どっかの誰かさん達:石橋を叩いた余波で国が変革される
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。