リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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舞台の裏側2

 フォーサイトが大森林地下空洞に落下する少し前───

 

「冒険者をやってみないか?」

「冒険者ですか?」

 

 アイリスに友達を作る。自分といるだけで大満足らしい彼女だが、彼女の所有者(オーナー)としては……旦那様としては、アイリスにも友達の良さを知って欲しい。人間との共存を願い産み出されたアイリスのために、より多くの人間関係をサトルは作ってあげたいのだ。

 

 しかし友達作りと言っても、サトルにはどうすれば友達が出来るのか良く分からない。アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーを、サトルは全員素晴らしい仲間であり、同時に友だと思っている。しかし彼らと関係を作れた理由の大半は、サトル自身の人間性もあるが最大の要因はたっち・みーのリア充パワーから産み出されるコミュ力の高さだ。

 

(そもそも俺がナインズ・オウン・ゴールの一員になったのも、たっちさんに助けられたからだしな……)

 

 サトルの友達作りの原点はたっち・みーとの邂逅。それが始まりだ。だから過去の事例にならい、冒険者を始める。

 

(泣いた赤鬼だったか? 冒険者であれば命の危機に陥る人も多い筈だ。そこにたっちさんみたいに颯爽と現れて助けたりすれば、心の距離も近くなる。そこを足掛かりに仲良くなっていけば、いずれは……)

 

 アイリスにも友達が出来る……筈。それがサトルの考えた友達百人出来るかなの原案だったのだが───

 

「ん~……」

 

 なんだか反応が芳しくない。アイリスであればポジティブと言ってくれると思っていたので、サトルは少し意外そうな顔をする。

 

「何かまずかったか?」

「まずくはないのです。過去の御経験から冒険者を勧められたのでしょうが……正直なところ、冒険者稼業は下火でネガティブなのです」

「……あー……」

 

 言われてみれば確かにと、サトルも納得する。現在は帝国兵だけに限定した強化しかやっていないが、それでも以前と比べると遥かに極端な実力者が多数増えつつある。

 

 この先どうなるかはまだ不明だが、サトル達がいる以上帝国はこれから先もこの世界基準で強者と呼ばれるものが産まれ続ける。そうなれば、確実に現在の冒険者達は割りを喰らう。それは帝国に限った話でなく、その他の国も同じだろう。

 

 そんな状況で冒険者を続けるものは少なくなっていき、新たに冒険者になろうとするものもまた少ない。

 

 つまり───

 

「冒険者稼業でお友達作りは、とってもネガティブなのですよ……」

「ぐぬぬ……まさか……まさか、帝国騎士団強化計画が仇になるとは!───」

 

 後悔先に立たずとは言うが、いざその時が来てしまうとサトルは頭を抱えてしまう。アイリスお友達作戦が初っ端からとん挫してしまった。

 

「───ポジティブ。そんなに急がなくとも、アイリスは寂しかったりしないのですよ」

「しかしだな───」

「───アイリスも、オーナーも。不老なのです。これから先、何百、何千、何万もの歳月があります。それだけの時間があれば、たくさんの関係を築けて行けます。だから、急ぎ過ぎるのはネガティブですよ」

「……そうだな。急ぎ過ぎても、碌なことがない……ネガティブか」

 

 どうにも人間時代の感覚───寿命があって、もたもたしていると老いていくと言う感覚が抜けきっていないと、サトルは自らの頭を少し叩く。

 

 ふるふると首を振った後───

 

「冒険者どうこうに関しては、今はおいとこうか」

「ポジティブ!」

 

 友達計画に関しては一旦凍結し、現状は地盤作りを優先させる事にした。それと並行してユグドラシルⅡにいるセプテントリオンの捜索も並行する。

 

 サトルが捜索や軍団づくりをしている間、アイリスも色々とやる事がある。浮遊要塞のマスターソースシステムを、ユグドラシルⅡ全域に適用可能なようにリビルドしたりだ。

 

 加えて───

 

「さてと……ようやくプレイヤー因子の研究開始なのです」

 

 アイリスは浮遊要塞に捕らえていた、とある人物の元まで来ていた。

 

 デケム・ボウガン───だったものの前に。

 

 全ての記憶を消去され、手足も斬り落とされた彼は呼吸をするだけの肉塊だ。死なないように睡眠と食事が不要になるアイテム『維持する首輪(ネックレス・オブ・サステナンス)』を付けられたオブジェ。

 

 自分が何者なのかも……どんな知識を持っていたのかも。全てを喪失したエルフの王。そんな彼に向かいアイリスは───

 

「【血よ。我がもとに集え】」

 

 アイリスが手をかざすと、半開きになっていたデケムの顔にある穴全部から血が噴き出る。それは地面に落ちることなく宙に浮遊し、一塊となってからアイリスの掌の上で球体になる。

 

「血液の成分から調査なのですよ」

 

 調査に使う機材は既に作成している。あとはアイリスが知る地球人のデータと比較しながら、何がレベルや身体機能に作用しているのかを研究するだけだ。

 

 手順そのものはアイリスが良く知っている。だから上手くいく……筈だった。

 

「ぐぴょおおおおおおお!!」

 

 アイリスの作った未承認薬剤───神人血清。それを注射されたゴブリンが口から血の泡を吹き、奇声を上げて拘束を振りほどこうとする。全身を犯す、血清による肉体の激痛。成長痛を数十、数百……数千倍にしたほどの痛みに耐えかねて、ゴブリンが何度も体を揺すっている。

 

 数秒経ち───ゴブリンにとっては永遠に思えるほどの時間が流れ、地獄の時間も終わる。ゴブリンの肉体が突如として破裂したのだ。

 

 臓物・血・骨・肉。あらゆる肉体の部位が周囲に飛び散り、実験材料にされていたゴブリンが入れられていたカプセルの中がドロドロに汚れてしまう。

 

「どうしてですか? 理論は合っている筈なのに……」

 

 完全に失敗としか言えない実験結果に、白衣を着たアイリスは頭を抱えてしまう。マウスや牛を使った動物実験は成功し、ムキムキネズミや雷を撒き散らす牡牛が完成した。

 

 なので今度は、人型モンスターや死刑囚を使った実験だ。冒険者組合に依頼される筈だった、人里近くに巣を作ったゴブリンやオーガをバルキリーに命じて生きたまま回収。モンスターだけでなく人間のモルモットも必要だろうと、サトルはジルクニフにお願いして死刑囚を全部貰って来た。

 

 とは言え死刑囚だけではモルモットとしては数が心許ないので、野盗と言った数だけはいる連中をサトルはアイリスを連れて直接捕縛にいった。

 

「その女を置いていけばうんたらかんたら───」

「絶望のオーラV。<心臓掌握>。<死>。<嘆きの妖精の絶叫>」

 

 数が少なくなってしまったが、概ね百人ぐらいは都合出来た。

 

 それらを使ってデータを取り、度重なる改良を行っていたアイリスだが……ここに来て研究が行き詰っていた。

 

「どうして……肉体に変化が起きているから、作用する因子はこれで間違いはない。なのにどうして……」

 

 アイリスは色々とやった。エルフと人間の間にある寿命の差。どんな遺伝子が作用して生物としての限界を伸ばすのか。研究結果次第では、サトルにも適用できるかもしれない大研究。

 

 遺伝子工学分野の知識はあり、ネオナチの開発した後天的遺伝子改変による超人兵士製造のノウハウもある。だからいけると踏んでいたのだが───

 

 結果は御覧の通りだった。

 

 何度やっても失敗する。何をしても上手くいかない。理論も数式もあっている筈なのに、必ず破裂したり謎のキメラになったりしてしまう。

 

 人間種にしても、すでに4割近くも実験で使い潰してしまった。野盗にしろ死刑囚にしろ、犯罪者の在庫はどこかで尽きてしまう。

 

 ……どれだけ超人的頭脳を持っていても、アイリスはたった一人。協力者のいない研究など、何処かで停滞してしまう。それを彼女は、思う存分味わっていた。

 

「─……私はもう、全盛期の私ではない。計算式も合っている筈なのに……これが間違っているのか、正しいのかも───」

 

 ……アイリスの脳力は劣化したとはいえ、それでも最上級の計算能力を有している。この世界で彼女に匹敵するとなれば、今は亡き王国の怪物『ラナー第三王女』のみ。そんな彼女でも……アイリスだからこそ、外部から研究者を招いたとしても成功確率は上がらないと断言できてしまう。

 

 アイリスは助言が欲しい。自分の理論を見て理解し、その上で物申せる助言者が……しかしそんな都合の良い人物はそうそういない。

 

 必要なのは(AI)に匹敵する知見の持ち主。せめて一人……欲を言えば二人。万全を期すなら三人ほど助言者が欲しい。

 

「オーナーに<星に願いを>を使って頂いて、オーナーご自身のIQを高める? ……駄目です。人格と考える力は直結している。下手に弄ればオーナーの人格が歪みかねない」

 

 そもそもこの研究を最初に提案したのはアイリスなのだ。己の都合で愛しい絶対なる所有者(オーナー)の人格に、悪影響を及ぼしかねないお願いなど出来るわけがない。

 

「私が頼めば、オーナーはきっと己の脳を弄ってしまう」

 

 アイリスが頼めば、サトルは自分のIQを高めるぐらいやってしまうだろう。だからこそ、頼めない。

 

 ならば召喚モンスターの思考回路を弄れば……一山幾らの召喚モンスターや野良で捕まえたゴブリンの脳であれば、多少弄ったところで今更だ。そう考えたアイリスはサトルに頼んだ。

 

 アイリスが研究に行き詰って悩んでいたのを知っていたサトルは、この頼みを快諾。

 

 エルダーリッチの知能指数を<星に願いを>で大幅に弄ったものの───望むレベルには程遠かった。

 

「頭が良いと言っても、その在り方は多岐に渡ります。どの方向性に頭が良いのかを明確にしなければ、叶う願いが曖昧模糊になってしまうのです……」

「特化型なら作れても、万能型となると難しいか」

 

 アイリスが助言者として欲しいレベルとなると、<星に願いを>では難しい。叶うとしたら『永劫の蛇の指輪(ウロボロス)』でも無ければ不可能。ゆえに計画がとん挫するかと思われたが、そこでサトルがポツリと一言。

 

「モンスターで駄目なら、拠点NPCならどうだろうか? 確か転移前のフレーバーテキストって、NPCの在り方にかなり強く作用するんだろ? なら、戦乙女(バルキリー)達のフレーバーテキストを改変して、アイリスに匹敵する頭脳とか書き込んだら無理だろうか?」

「それです!」

 

 と言う訳でテキストに書き込んでみたが……不発。NPCを実体化させた力は世界級に匹敵するか、上回るかもしれないほどに強力な力であり、サトル達でも完全には触れない不可侵の領域だった。

 

「私は……無能なのです……」

「アイリス…………」

 

 ここまで上手くやって来ていたが、自分の脳力が大幅劣化した事実を突きつけられたアイリスは泣いた。

 

 普段は朗らかに振舞い楽しそうなアイリスだが、彼女の記憶を見た事でメンタル的に割と脆い部分があると知っているサトルは本当に心配そうになり───

 

「こんな時にナザリックがあればなぁ……」

 

 アイリスを抱きしめ背中を擦りながら、一言呟いた。

 

(ナザリックが一緒に転移してきていたら、NPCも実体化していた。そうすれば、デミウルゴスやアルベドに……あんまり認めたくないが、パンドラズ・アクターも実体化していた。デミウルゴスとアルベドは、確か頭が極限に良いみたいな設定があった筈だし……パンドラにも二人に匹敵する頭脳の持ち主みたいなテキストを書き込んでいたはず……たぶん)

 

 本当にポツリと呟いただけ。しかしその一言を聞いて、しゃくりあげていたアイリスの嗚咽が止まる。

 

「ナザリックが……それなら……私がオーナーを外に誘っていなかったパターンも……?」

 

 ぶつぶつと何事かを呟いた後───

 

「いける……これならポジティブ……です。可能性は高い。むしろそちらの方が自然。……オーナー! 閃きました!! とってもポジティブな事を閃いたのです!!」

「お、おお……どうしたんだい?」

「ナザリックを持ってこれるのかもしれないのですよ!!」

「……え? マジで?」

「ポジティブ! 確かに今、この世界にナザリックはありません! あの時のデータにはなかった。だから、無いとアイリスも思い込んでいました。でも、違います! ナザリックがこの世界に来ていた()()()はあるのです!!」

 

 この世界に転移したデータ群。それの共通点をアイリスは導き出している。世界級アイテムを所持していたプレイヤー。プレイヤーが内部にいて、かつ拠点内に世界級アイテムが会った時は拠点ごと。世界級アイテムを所持していたプレイヤーが外部にいても、そのプレイヤーがギルド武器を所持していた場合はプレイヤーに引っ張られるように拠点も引き抜かれていた。それ以外だと、誰の手にも渡っていない……つまり未発見の世界級アイテムもこちらの世界に来ている。

 

「以前にも考察しましたが、オーナー達プレイヤーをこの世界に転移させたのは始原の魔法(ワイルド・マジック)です。いくつかの文献を紐解いたところ、かの魔法は魂に干渉する術。それはオーナーもよくご存じですよね?」

「ああ。竜王国の女王様から生まれながらの異能(タレント)を強奪して、いくつか実験をしたからな。その辺りには詳しいつもりだ」

「ポジティブ。魂に干渉するのがワイルド・マジック。あの時の大規模転移は電子への干渉だと思っていましたが、実際にはプレイヤーの魂を媒介に世界級アイテムを己の世界へ引き込むための物と思われます。……そのせいで、プレイヤーまで転移してきたのは存在Xとしては不本意でしょうが」

「俺たちは、相手さんとしてはいらない不穏分子か……まぁいいか。今のところ、転移以外で干渉してきたわけでもないし。……それでだ。ナザリックが来ていた可能性とやらに、ワイルド・マジックが関係あると?」

「ポジティブ。ナザリックがこの世界に来れなかったのは、アイリスがオーナーを誘いPVNをお外でしたからです。……全身を第五元素(エーテル)製で揃えた事で、ギルド武器も使わないからとナザリックに置いてきちゃいました。だからこの世界に今はいない。でも、アイリスが誘わず、あのままナザリックでサービス終了を迎えていれば───オーナーの魂を媒介に、ナザリックはこの世界で実体化していたのですよ」

 

 その話を聞いて、ハッとサトルも気づく。彼の視線が向けられるのは周囲───ユグドラシルⅡの空だ。

 

 サトル達がいるアースガルズセクターは青空があるが、その外には宇宙ではなく未だに混沌───可能性の世界が広がっているのだ。

 

「来ていた可能性が僅かにでもあるなら……俺たちなら、可能性をくみ上げて形にできる!」

「ポジティブ!! 完全なる無からは流石に不可能です。でも、ナザリックとの縁があれば、オーナーとアイリスなら可能なのです!! そしてナザリックとの強固な縁はここに……ナザリックのNPC(アイリス)がいるのですよ!!!」

 

 足がかりになる存在がいるのならば、あとはスルシャーナを復活させた要領を適用するだけ。いくつか権能を試した二人は、ナザリックそのものは難しいと判断。しかしNPCを数名呼び出すだけなら……可能だった。

 

 しかしどんなNPCでも呼べるわけではない。サトルかアイリス、どちらかか、両方と非常に縁深いNPCでないといけない事も判明。

 

「なら……まずはパンドラズ・アクターか」

 

 サトルと一番縁が深いNPCとなれば、それはやはりパンドラだった。サトルは直接の創造主に当たるのだから、呼び出したり作成する際に何の支障もない。

 

 地面に魔法陣が描かれて、そこに一体のドッペルゲンガーが出現する。のっぺりとした埴輪顔に、オレンジ色のネオナチ軍服。パンドラズ・アクターの降臨だった。

 

「Oh! mein Gott! ! Meine süße kleine Schwester! ! Ich bin dankbar, dich so kennengelernt zu haben! ! Der unwürdige Pandora-Schauspieler! ! Ich werde auf jeden Fall deine Hände und Füße sein und dir mit ganzem Herzen und ganzer Seele antworten! ! !」

「なんて?」

「オーナー超格好いい。アイリスも超かわいい。呼び出してくれてサンキュー。貴方様の僕として精一杯働きます……と言ってるのです」

「え?こいつそんなキャラなの!?」

 

 ビシッと敬礼し、軍靴を打ち鳴らすパンドラに「選択ミスったわ……」とちょっとサトルは落ち込んだ。

 

「……私……歓迎されてない感じでしたか?」

 

 その様子を見て、パンドラも落ち込んだ。

 

「ぽ、ポジティブ! オーナーも、お兄ちゃんも元気を出して欲しいのですよ!!」

 

 わざわざチアガール姿になり、アイリスは二人を元気づけた。

 

「……その恰好……いいな」

「───今日はチアガールコスでしますか?」

「あー……妹であり、同時に義母上になってましたか」

 

 そんなこんなを済ませた後。もう一人、NPCで呼び出せる存在がいた。デミウルゴスだ。

 

 サトルとアイリス。両者と深い関係なウルベルト作であるデミウルゴスであれば可能だと判明したので、早速可能性の海から彼を呼び出した。

 

「お久しぶりですモモンガ様……とは言えぬ状況なのでしょうね。私からは久方ぶりでも、モモンガ様からは初めまして。ですよね?」

「そうなるな。……デミウルゴス。お前とパンドラには、この世界へと産み出した理由を含めて事前知識を与えている。その上で問うぞ。お前は……私の味方か?」

「勿論で御座います! ウルベルト様との友情!! アイリスを遣わした我が創造主の……そうぞう……申し訳ございませんモモンガ様。しばしお待ちください」

「あ……うん。ゆっくりでいいぞ」

 

 事前に知識を与えられていたとは言え、デミウルゴスにとってはアイリス誕生秘話やウルベルトとモモンガの友情話は涙腺に来たのか、眼鏡を取り静かに号泣し始める。

 

 暫し立った後

 

「───御見苦しいところを見せてしまい、申し訳ございません」

「義兄さんは泣き虫さんなのですよ!」

「!!!!」

「アイリス? 義兄さん呼びで、デミウルゴスがフリーズしてるからあとにしなさい。…………全然戻ってこねえなこいつ」

 

 突如としてアイリスから義兄さんと呼ばれたのが効いたのか、破顔したままデミウルゴスが機能停止する。

 

 暫し立った後

 

「お待たせいたしましたモモンガ様」

「……うん。デミウルゴスが俺の味方なのは良く分かったよ。言うまでもなく、味方なのが分かったよ」

「おお! 流石で御座いますモモンガ様。言葉が無くとも全てを見通し、知り得ている。聡明叡知としか言えませんが、モモンガ様であれば当然の事で御座いますね」

「すまん。やっぱりお前の事よく分からん。今の会話に賢い要素あったか?」

「大丈夫ですよ、父上。参謀殿は感極まっているだけです」

「お前はお前で、なに自然と父上って呼んでんだよ」

「そんなに怒らないで上げてください、パパ」

「アイリス!?」

 

 とにもかくにも、アイリスが欲した知恵者が二枚揃った。欲を言えばアルベドも欲しかったが、彼女とは縁が薄いのか非常に難しく、現状では無理だった。

 

 しかしデミウルゴスとパンドラの優秀さは相当な物で、アイリスの理論───サトルが聞いても理解不能だったそれを即座に理解し、こうすればどうか。ここを弄ればとアドバイスを出していく。

 

 そうして、アイリスの予想の数十倍の速度で神人血清は完成した。完成すれば、あとは臨床試験を行うだけ。

 

「効能を確かめるための実験台としては、普段から戦闘に準じる人間。かつ試験終了後、速やかに処分しても問題ない相手が望ましいですね」

 

 そうして候補者探しが始まった。とは言っても、デミウルゴスは既に候補者の選定を終了させている。今回作成した神人血清は、元はエルフ王から採取した血が原材料。人間に使えば寿命すら伸ばせる血清だが、仮にこれをエルフに投入すればどうなるのかもデータを取りたい。もっと言えば、人間とエルフの血を持つ相手にこれを使った時、どのように作用するのかも知っておきたい。

 

 そして───サトル達にとっては幸運な事に……選ばれる相手にとっては不幸なことに……帝国には、ハーフエルフを擁するワーカー(犯罪者)がいた。

 

「フォーサイト。ミスリル級相当の実力を持つワーカーで、イミーナと言うハーフエルフが在籍しています。彼女らであれば、今回の血清の実験体として存分に使えるでしょう」

 

 ……フォーサイトはグレーゾーンギリギリのワーカー。仮にジルクニフが今回の実験の詳細を知ったとしても、別に止めもしない。ワーカーがどこで死のうが、誰も気にもしない。

 

 ワーカーとは、どこまで行っても自己責任な仕事だった。

 

 ただ───

 

「処分……か」

 

 フォーサイトを依頼だと騙して、血清の実験場に誘い込む少し前。サトルは一言、寂しそうにそう呟いたのだった。

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