リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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神人血清 (表)

「ぐっ……こ、こ……は」

 

 ワーカーチーム『フォーサイト』のリーダーであるヘッケランは、朦朧状態の重い頭を振りながら気絶状態から眼を覚ます。

 

「……どうして……ここは? 確か俺は───」

 

 どうして気を失っていたのか。その理由をヘッケランは思い起こそうとする。伯爵の依頼でトブの大森林に来て、そこで異常なトレントが出現して、そして───

 

「そう、か。俺たちは落ちたんだな」

 

 アルシェが危険だと判断し、ヘッケラン自身もまずいと一目で理解出来た怪物が地上に出て来た影響で地盤が緩み、大森林の空洞に落ちたのだと彼は状況を理解する。

 

 運よく生き残れた幸運に感謝し、地下空洞の暗闇の中体を動かそうとして───動かない。ヘッケランの腕には何かが絡みついている。鎖着のせいで感触が鈍いが、どうやら全身に何かが絡みついているようだ。

 

「なんだ? 何が腕に……」

 

 地下には明かりが無く、暗視能力のないヘッケランでは絡みつく何かを見れはしない。引き剥がそうにも全身を縛る何かは強固で、簡単には引き千切れない。

 

 その事にヘッケランはゾッとする。地下で何かに拘束されて動けない。あまりにも最悪の事態だ。

 

 外部からの栄養補給が無ければ、いずれヘッケランは餓死する。そうでなくとも、こんな地下で放置されて生き延びられるほど、人外な体力もしていない。

 

 端的に言って……現状は不味い状況だった。

 

「───つぅッ!!!」

 

 自分以外───イミーナやアルシェ、そしてロバーデイクが生き延びていないかを確かめるために、大声を出そうとしたが……ヘッケランは踏みとどまる。

 

 トブの地下空洞は未だに未調査な場所が多く、どのような脅威が潜んでいるのか全くの不明。そんな場所で拘束されたまま大声を出すなど、モンスターを引き寄せるようなものだ。ヘッケランは人間だから暗視能力を持っていないだけで、ゴブリンやアンデッドは暗闇の中でも昼のように見渡せる力を持っていることが多い。こちらからは見えないのに、向こうからは丸見えなだけでも圧倒的不利。なのに現状では拘束されて動けない。

 

 普段であれば大した脅威でなくとも、動けないままでは一方的に殺されてしまう。だからあらゆる意味でまずいとヘッケランは思い───

 

「なんだ?」

 

 ふと気づく。先ほどまで全く見えなかった地下空洞内部。しかし徐々にではあるが、少しずつ眼が慣れたのか見え始めたのだ。

 

 いや……とヘッケランは気づく。これは眼が慣れたなどと言う表現では似つかわしくないと。まるで暗視能力を与える支援系魔法を受けたかのように、急激に視界がクリアになっていく。

 

 ヘッケランの目に映ったのは狭い土の通路。恐らく地下水により、長い時間をかけて削られ出来た洞窟だろうとヘッケランは推測する。次に首を動かして己の体を見る。ヘッケランの体を縛り付けていたのは、植物の根だった。何の植物かは不明だが大量の根が絡みつき、先端をヘッケランの全身に差し込んでいる。そして───

 

「この根は……俺の体に何かをッ!!!!」

 

 痛みもなかったので気づかなかったが、根は虫のように脈動しながらヘッケランの体に何かを流し込んでいる。その事実にゾッとし、ヘッケランは手足に力を籠めて無理矢理引き剥がそうとする。例えビクともしなかろうとも、謎の植物に謎の液体を入れられている事実を無視する事など出来はしない。

 

「えっ!?」

 

 すると驚くことに、先ほどは全く動かなかった根が簡単に引き千切れてしまう。なぜ千切る事が出来たのかは分からないが、ヘッケランとしては好都合だった。拘束を振りほどいた右腕を使って左腕の根を千切り、両手を使って全て取り払う。

 

 拘束を解いた後、ヘッケランは己の両手を見る。

 

「なんだ……これ。体がめちゃくちゃ軽い───」

 

 ワーカーとして鍛えているとは言え、それでも体の重さや腰に差した二本の剣の重さぐらいはきちんと感じる。……感じていた。

 

 しかしなぜかは分からないが、今は全てが軽く感じる。全身に力が漲っている。まるで壁越えを何回も体験したかのように、今までとは何もかもが違う。その原因をヘッケランは考え───

 

「さっきの液体……か?」

 

 原因となりそうなのは、謎の根に注入された液体。千切れた根から零れ落ちている、謎の赤い液体が関係ありそうだとヘッケランは思うが、毒やポーションにそこまで詳しい訳ではない彼ではそれが要因だとは断定できない。

 

「今考えても仕方ねえか」

 

 考えるべきは命が助かった今、どうやってこの地下空洞から脱出するか。それに他の仲間───ロバーデイクやイミーナ、アルシェも探さなければならない。

 

 意を決したヘッケランは細い洞窟を進んでいく。どれだけ歩いても疲労しない体。暗所を見渡せる眼。今までと全く違う体に多少の恐怖と違和感を覚えながらも歩き───

 

「みんな!!」

 

 狭い通路が終わり、ドーム型の大空洞へとヘッケランは出る。そこには先ほどまでの自分と同じように、フォーサイトのメンバーが何かしらの根に捕まっていた。

 

 見たところ全員気を失っているのかぐったりしている。すぐさまヘッケランは近づき、全員の拘束を振りほどいていく。

 

「起きろ!! イミーナもアルシェもロバーも起きるんだよ!!」

 

 アルシェはゆっくり揺すり、残り二人は顔をバシバシ叩いて無理矢理叩き起こす。何が起こったのか分からないと言った三人に対し、ヘッケランは今の状況を説明。

 

「私たちの体にも、その変な液が入ってるわけ? うげぇ……気持ち悪い」

「言うなよ。俺だって考えないようにしてんだからな」

「……でも、見方を変えたら非常に有利。何を注入されたのかは分からないけれど、そのおかげか体が非常に軽い」

「そうですね。落下直前に出て来た恐ろしいトレント。あんなものがそう何匹もいるとは思いませんが、トブの森林下にあるアゼルリシア山脈の地下空洞……つまりここですね。ここは長い間調査もされていない未知の領域です。どのような恐ろしいモンスターが潜んでいるのか分からない以上───」

「───原因はわかんないけど、体が強くなったり暗視能力が手に入ったなら、結果オーライってわけね。今はそういう事にしておくわよ」

 

 若干納得がいかないのかイミーナは顔をしかめるが、そもそも大空洞に何の対策も無しで落下して生き延びただけでも御の字なのだ。

 

 その上液体なのか、それとも別の要因なのかは不明だが肉体の能力が大きく向上している。今のところ予想外のモンスター出現以外は、フォーサイトにとって不幸な事は起きていない。

 

 だからか、イミーナは数秒沈黙し深呼吸をした後───

 

「ここからどうやって脱出する?」

 

 と三人に聞いた。

 

「アルシェ。大森林の地下に関する知識とか、持っては───」

「いない。フールーダ様でも、恐らくは知らない。数百年……一番古い歴史を持つスレイン法国でも、調査は進んでいない筈。だから、ここからどうやって脱出すればいいのかは、手探りで調査するしかない」

「……そうか。そうなるとまずいな。荷物の大半は落下時に失くしたから、食料が心もとねえ。俺はこの───」

 

 ヘッケランが腰に下げていた袋を掲げる。

 

「干し肉や乾パン。水が少しだけだ」

「私もおんなじ。一食分の非常食しかないわ」

「私は水だけ」

「私なんて何もありませんよ」

「……マジでやべえな」

 

 落下死から助かったと思えば、今度は餓死の可能性が出て来た。フォーサイト全員が頭を抱える。

 

「リーダー。まずは水源を探しませんか? ここは恐らく地下水によって出来た巨大な洞窟です。なら、どこかにまだ水が残っているかもしれません」

「そうだな。ここでじっとしてても死ぬだけ、か。良し! とりあえず、あっちにある横穴に進んでみるか」

 

 とにもかくにも、なんとか地上まで脱出するしかないとフォーサイトの面々は移動を開始する。

 

 前衛であるヘッケランを先頭に、全身鎧とサーコートを着こんだロバーデイク、防御力が低く脆いアルシェ、後衛かつ殿を勤めるイミーナと続く。

 

 横穴は思ったよりも広く出来ており、横に25m、縦に30mはあり、移動するのに苦労は殆どない。……ように見えた。

 

「待って! 何かくるわ!!」

 

 野伏(レンジャー)のイミーナが敵の接近に気づく。背中に差していた弓を取り、矢を番えて構える。荷物を失った今、矢はあまり消費したくないが敵が近づいてくる以上贅沢は言えない。

 

「あれは……ゴブリンか?」

 

 フォーサイトの進路を防ぐように現れたのはゴブリンだった。しかしただのゴブリンではない。赤い頭巾が特徴的なゴブリンが4体。

 

「ゴブリンがたったの4体だけなら楽勝だな……とは言えねえよな」

 

 まるでフォーサイトを待ち構えるかのように、4体のゴブリンは武器を構えて立ち尽くしている。その振る舞いは強者のそれ。従来では見た事がないモンスターを、見た事があるモンスターの近似種だからと侮る者はすぐに死ぬ。

 

 フォーサイトは状況と合わせて最大限に警戒し……闘い……どうにか勝った。

 

「くそ……が。こんなゴブリン……聞いたことねえ」

 

 赤頭巾のゴブリン4体。これがただのゴブリンならフォーサイトの敵ではない。イミーナが矢で頭を吹き飛ばしたり、ロバーデイクがメイスで頭を砕いたりして終わりだ。なのに、赤頭巾たちは恐ろしく強かった。身体能力が大きく向上したフォーサイトの面々でも、一手ミスれば死ぬと理解できるほどの実力者だった。

 

 途中ロバーデイクの治癒魔法や、アルシェの支援魔法が無ければヘッケランは間違いなく死んでいた。そうとしか思えぬほどの激闘を、どうにか生き延びたのだ。

 

「唯一の救いは、こいつらが食料や水を持ってることだけね」

 

 赤頭巾たちと闘った場所から少し離れた場所に、彼らの拠点と思わしき野営地があった。そこにはイミーナが言う通り、何の肉かは分からないが肉や野野菜。水などがあった。

 

「……とりあえず……これ食うか?」

『…………………………』

 

 ゴブリンが持っていた食料など本当は嫌だが、背に腹は代えられないのか三人が嫌そうに縦に首を振る。提案者のヘッケランも嫌そうな顔だった。

 

「念のために、魔法で毒がないかだけ調べておいてくれ」

「了解」

 

 アルシェが調べたところ、特に毒なども見受けられない。

 

 ゴブリンの拠点には薪もあったので火を熾し、肉や野菜を直火で焼いてから4人は腹に納めていく。

 

「あっ、美味しい」

「……ほんとうだ。美味しい」

 

 ゴブリン飯は素材が良いのか、普通に美味しいとフォーサイトからは高評価だった。ともかく食事を終わらせ英気を養ってから、改めて地上を目指して移動する。

 

 その途中途中でモンスターとの戦闘が勃発する。そのどれもが地上に出るようなモンスターとは雲泥の実力差がある化物ばかり。全てが()()()()の戦闘であり、フォーサイトは死闘の連続に神経がすり減っていくのを感じ取っていた。

 

 身体能力の向上。及びそれに伴う魔力量の向上。武技を発動させるための許容量も大幅に増加しているのか、ヘッケランは複数の武技を組み合わせて前衛戦士として戦い抜いた。

 

 今までは出来なかった第三位階魔法の連打でアルシェも大活躍だ。<電撃>や<火球>と奥の手として使う強力な魔法を大量に使用し、スライムと言った物理攻撃があまり有効ではない相手を的確に撃破していった。

 

「腕力も反応速度も耐久力も、何もかもが上がっているのに……ここのモンスター共は異常に強い」

「そう……ね。さっきから何度も壁超えをしてる気さえするのに、まるで強くなった気がしないくらいに手強いわね」

 

 それでも……撃破してもしても次から次へと湧いてくるモンスターとの戦闘に疲労は溜まり、体中に疲れが溜まっていく。フォーサイトは自覚できるほどに実力が跳ね上がっている。なのに、一向に戦闘が楽にならない。まるで、ギリギリ撃破可能な敵を送り込まれ続けているかのような錯覚さえ覚えている。

 

 だとしても───

 

「地上を目指して戦うしかない」

「そうですね」

 

 アルシェの言葉にロバーデイクが同意する。そう……戦って戦って……地上に戻れるルートを探す選択肢しか、フォーサイトには残されていないのだ。

 

 そうやってどれだけ時間が経ったのだろうか。

 

 一行は巨大な空間に出る。恐ろしく巨大な空間であり、もしもプレイヤーがここを見れば絶対にボス戦が始まるだろうと思うほどに巨大な空間。

 

 その中心には……今まで出て来たモンスターとは比べ物にならない、恐ろしいモンスターが鎮座していた。

 

「なに……あれ……うぷっ……」

 

 アルシェがタレントでそのモンスターの魔力量を視認する。あまりにも馬鹿げた魔力量に、アルシェの神経が悲鳴を上げ急激なストレスを覚えたのか、彼女は吐きそうになっている。

 

 鎮座しているのはドラゴン。黄金の鱗を鎧とし、体よりも巨大な翼を湛える竜。アルシェが人生の中で見た巨大な魔力の持ち主は、地下空間に落下する要因となった謎のトレントだが、あれですらこのドラゴンの前では霞んでしまう。

 

 それだけの化物が……目の前にいた。

 

「ようこそ……とは言わぬ。小さきもの達よ。汝らの戦いぶり、見事であった」

 

 ドラゴンはフォーサイトを見た後、穏やかな顔で声をかけてくる。ドラゴンが放つ圧倒的強者の空気に呑まれかけていたヘッケラン達は、その反応に少しだけ奇妙だと感じる。ここに来るまでの戦闘を、まるで見ていたかのような物言いだと───

 

「失礼します。貴方様は……何者なのですか?」

 

 竜を見て、こんなのと戦うのかと一瞬怖気づいていたヘッケランだが、竜の物言いから知性を感じ取り、ひょっとすれば戦闘を回避できるかもと期待して話しかけた。

 

「我が何者か? ……そんなものはどうでもいい。汝らに施した処置が上手くいった。それだけで我としては満足なのだ」

「処置?」

「処置だ。……そうだな。せっかくだ。汝らには、己の身に何が起こったのかを教えておいてやろう」

 

 処置と言われてフォーサイトの面々は顔を見合わせ……まさかと気づく。自分達の体に起きた謎の現象。まるで超人にでもなったかのように、身体能力などが大きく向上した。その事を言っているのだろうか……

 

「汝らはこの地下に落下した時、矮小な身であった。それは自覚しているか?」

「……え……あ、はい!」

「そうだ。お前が答えた通り、汝らは弱く脆弱であった。しかし、我が長い時間を掛けて造り上げた薬品を投入したことで、汝らは強くなり、ここに墜ちた事で負っていた怪我も全て治った筈だ」

「!! まさか、貴方様が治してくれたのですか!?」

 

 地下にかなりの距離を落下したはずなのに、フォーサイトの面々が全員怪我もなく助かった要因。それがまさか、目の前の恐ろしいドラゴンにあるのだと知り、本気でヘッケランは驚愕の表情を浮かべる。それはヘッケランだけでなく、イミーナやアルシェやロバーデイクも同じなのか口をあんぐりと開けている。

 

「そうだ。地下で眠っていた木の魔物が、眼を覚まして地上に出たのは知っている。その騒音に目を覚まし、地下を這いずり回ってみれば汝らが空洞に転がっていた。そこで我は、汝らを使って実験をすることに決めてな」

「実験……ですか?」

「実験だ。我は薬を作るのが趣味でな。様々な薬品を作り、魔物を捕らえては投入して効能を確かめるのだが……生憎貴様ら人間に試したことはなくてな。そんな折に、貴様らを見つけたのだ。ならば、薬の効能用の実験台にするのは道理だろう?」

「そ……の通りですね!」

 

 道理だろうと言われても、良く分からない薬品の実験台にされて嬉しいとは到底思えない。しかし、傷が治ったのは良い事なので、曖昧な笑顔を浮かべながらヘッケランはドラゴンの言葉に同意する。よく見れば、イミーナも後ろで作り笑いを浮かべている。

 

「そうだろう! そして、薬の効果を確かめるために、今まで実験台にして来たモンスター共をけし掛けてみたのだが……実に素晴らしい。汝らに投入した薬品は、今までで最高の出来上がりだと思っていたが……我が眼に狂いはなかったのだ!!」

 

 目をキラキラとさせて語るドラゴンにばれない様、フォーサイトはこっそりと打ち合わせをする。

 

「なるほどな。俺たちが急激に強くなったのは、あのドラゴンのせいだったわけだ」

「……さっきまでの馬鹿みたいに強いモンスター達は、私達が強くなったように、あいつの薬品とやらで強化されたモンスターだったのね……」

「でも、そのおかげで大怪我を負っていたらしい私達は、命が助かった」

「終わりよければ万事ヨシとは言いますが……終わりが良くても、あまり嬉しいものではないですね」

 

 いきなり実験とやらに付き合わされたのは不本意だが、命があるだけ儲けもの。ワーカー生活で命の危機は何度でも潜り抜けているフォーサイトは、助かっただけでも良しとしようと無理矢理納得する。

 

「御身の話、良く分かりました。我々の命を救って頂き、誠に感謝いたします」

 

 別にそこまで感謝しているわけではないが、明らかに自分達より強者な相手の機嫌を損なうのは得策ではない。ヘッケランを始めとし、全員がドラゴンに頭を下げて───

 

「何を言っている? 別に、汝らの命を救った覚えはないぞ」

 

 ドラゴンの言葉に、急激に場の空気が冷える。

 

「……それは、どういう意味ですか」

「どうもこうも……我の薬の効能は本物だと証明された。ならば、汝らを生かしておく意味などない。そうだろう?」

 

 さきほどまで穏やかに話していたドラゴンの口から、僅かにだが小さな火が漏れ出したのを見て、ヘッケランは慌てて言葉を口にする。

 

「まっ! お待ちください!! 我々は、貴方様に敵対する気など───」

「敵対する、しないなどどうでも良いだろう。実験が終わったのなら、処分するか飼うかのどちらかだ。そして、今の私はお前達を欲しいとは思わない。だから、殺して処分するだけだ。そうだろう?」

「お待ちを───」

「ではな、矮小な者共よ」

 

 その言葉を最後に、ドラゴンの口に強烈な火炎が膨れ上がり放射される。その攻撃はあまりにも早かった。そのブレスはあまりにも強力だった。

 

 フォーサイト全員の視界がゆっくりとした動きになり、全てが火炎に包まれる。ヘッケラン達は強くなったが、これを防ぐ手段などない。火に呑まれたが最後、骨まで炭化して焼死する。それを理解した全員が、最期の時を迎えようとする。

 

 アルシェは家族に謝った。ごめんなさいと。クーデリカとウレイリカにごめんなさいとだけ……言葉を贈った。

 

 ロバーデイクは神に祈りを捧げた。私の魂はそちらに行きますと。どうか迎えてくださいと祈りを込めて……

 

 ヘッケランとイミーナは最後に手を握った。もう少しだけ、一緒に暮らしたかったねと。家族として……そう意味を籠めて、握ったのだ。

 

 フォーサイト全員が火に包まれる。そうして死ぬのだと理解して───

 

「<魔法三重最強化(トリプレッドマキシマイズマジック)骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)>!」

 

 そうなる前に……骸骨で出来た壁がフォーサイトの周囲を囲み、ドラゴンブレスを全て防ぎきってしまう。見た目はただの骨で脆く見えるのに、灼熱の業火に一切揺るがない。自分達を守り切った謎の壁を見て、フォーサイト全員が眼を丸くする。

 

 ドラゴンも目を丸くする。竜の視線は、フォーサイトの後ろに向けられていた。

 

 骨の壁が砕けて消え、フォーサイトの視界が露わになる。同時に、ヘッケラン達は竜の視線に気づいて後方に目を向ける。

 

 そこには1人の青年がいた。この辺りには珍しい黒髪で、燃え盛るような灼眼の青年。魔法詠唱者らしいローブに身を包んだ、奇跡の造形をした青年が……立っていたのだ。

 

「もう大丈夫だ」

 

 青年がゆっくりと足を動かし、ドラゴンから守るかのようにフォーサイトの前に立つ。

 

「私が来た」

 

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