リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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黄金竜

「私が来た」

 

 空恐ろしいほどの美形の魔法詠唱者が自分達を助けた。その事実を呑み込んだ後、フォーサイトは目の前の魔法詠唱者が誰なのかを理解する。

 

 依頼を受ける前に写真で見た青年。依頼人であるゴウン伯の御登場に───

 

「────────────」

 

 アルシェは言葉を発さずに絶叫を上げる。巨大トレントも恐ろしかった。すぐ傍にいる黄金の竜だって怪物だ。だが、ゴウン伯はその二体と比べても劣らぬほどの力を持っていた。

 

 体中から立ち上る絶大な大魔力。人に見えるが、人とは思えぬほど隔絶した力の奔流にアルシェの意識が一瞬で恐怖に塗りつぶされた。普通にゲロッた。

 

 言葉を発してはいけない。気を引いてはいけない。アルシェは過去の自分を殴りつけたくなる。これほどの怪物を、恐らく第五位階()()などと評した過去の自分をだ。

 

 ……アルシェは知らない。ここに来るのに辺り、アルシェの魔眼を想定してサトルは魔力の完全隠蔽は控えている。なぜならサトルは、フォーサイトからは魔法詠唱者だと認識されている。そんな状況で隠し立てすると不自然に見えてしまうと判断してのことだ。

 

 しかし以前フールーダが観測した全開時の世界級な魔力量は過剰過ぎる事から、<虚偽情報・魔力(フォールスデータ・マナ)>で、魔力量を一万分の一以下にまで落としている。それでもアルシェから見れば桁が違い過ぎたようだが……

 

「なぜここに!? 奥さんの看病をしてたんじゃ……」

 

 とヘッケランは思わず口にしてしまう。それを聞いたサトルは、事前に用意しておいた言い訳を述べる。

 

「───その通りだ。つい先ほどまで、私は妻の……アイリスの具合を見ていた。……君たちの動向を監視しながらな」

「監視!!」

 

 突如として依頼人が来たかと思えば、今度は監視していたと宣言する。その事実に顔を白黒させるフォーサイトに───

 

「何かおかしな理由があるか? 君たちが、無事に薬の元となる薬草を持ち帰られるかが、妻の容体に直結するのだ。ならば無事かどうかを確かめるのは必須。そうだろう?」

「そ、そりゃぁ、そうかもしれないが……」

「どうやって監視していたの?」

「私はこれでも高位の魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。遠方を見る魔法ぐらいは習得している。……アイリスの看病をしながらでも、君たちの様子を見る事ぐらいは訳もない」

 

 遠方……帝都からトブの大森林や地下空洞を詳細に把握するほどの魔法など、壮大過ぎてフォーサイトには検討もつかないが、ドラゴンの攻撃を難なく相殺したサトルの魔法を見た手前否定することも出来なかった。唯一魔法に詳しいアルシェは、脳の情報が完結しない状態になってフリーズしているので現状役に立たない。

 

「それで状況を観ていて……助けに来てくれたのですか?」

「そうだ。いきなりトレントが出現したかと思えば、君らが崩落する大地に呑まれるものだから大層驚いたよ。そこで地下に目を飛ばして見れば、今度はドラゴンに捕まっている。……ならば、助けに行くしかないだろう」

 

 助けに行くのが当然。そんな風に宣言したサトルに、アルシェを除くフォーサイトは目を丸くする。従来であれば、失敗しかけのワーカーなど普通は見捨てる。そもそもサトルが単独でここまでこれたのであれば、フォーサイトなんて必要ない。ゴウン伯が必要だったのは薬草である以上、この地下空洞に来てドラゴンと相対する必要もない。地上で薬草だけ回収して、ワーカーなど捨て置けばよかったのだ。そうすれば依頼報酬の金貨だって浮く。なのに、なぜ───

 

 だからだろうか。ヘッケランは思わず言葉を口にした。

 

「ど、うして? ───」

「───助けに来たのか、か? ふん……誰かが困っていたら助けるのは当たり前。それだけの話だ」

「誰かが……」

 

 それ以上の言葉を語る気はないのか、サトルはフォーサイトに背を向けてドラゴンと対峙する。

 

 サトルに殺意の籠った眼を向けられたドラゴンは……びっくりしていた。驚天動地の驚愕である。

 

 予定通りフォーサイトを抹殺しようとしたら、一番格上の上司が来て彼らを助けてしまった。混乱である。

 

「さ───」

 

 思わずサトル様と言いかけたところで、遥か遠方からサトルとは違う殺気をぶつけられてドラゴンの口が閉じる。同時に、念話で語り掛けられる。

 

『私の声が聞こえますね。計画に変更が生じました。フォーサイトの抹殺は禁じ、貴方には別の命を与えます。そこにオーナーが来られましたね?』

『は、はい!! サトル様がワーカーらを助けました!!!』

『ポジティブ。今から貴方には、良い感じにオーナーと死闘を演じて貰います。泣いた赤鬼作戦です。オーナーが赤鬼で、貴方が青鬼です』

『……アイリス様。泣いた赤鬼とは……なんですか?』

『八百長試合です。最初は強く当たって、あとは流れです。要するに、貴方は今からオーナーと闘います。プロレスです。勿論オーナーと貴方には実力差がありますが、今回オーナーはとても手加減して戦いますのでご安心を』

『え!? 僕がサトル様と闘うんですか!!!』

『ポジティブ。他に誰がいるのですか?』

 

 突如として投げ込まれる仕様変更。上司からの無茶ぶり。その上司より上にいる上司と八百長しろ。ドラゴンにしてみれば意味不明である。その通信を聞いていたサトルは───

 

(懐かしいなぁ。俺もあんな風に、上からの無茶な命令で振り回されたな。……頑張れ! その経験は必ず役に立つぞ)

 

 地球時代の記憶を思い出し、人知れずドラゴンを応援していた。

 

『今回、フォーサイトにはオーナーに好印象を抱いて貰います。そのためには、なんか良い感じにボロボロになりながらも決して弱者を見捨てず、ギリギリで勝利する。それが一番好感度が高くなります』

『そのために……死闘を演じるのですか?』

『ポジティブ。あと、悪役(ヒール)に相応しい言動もあると、一層ポジティブです』

 

 ───悪役(ヒール)に相応しい言動って何!?

 

 今回アイリスが用意した黄金竜。このドラゴン、実のところカルマ値+よりの中立属性であり、ヒールには全然向いていなかった。

 

『大丈夫です。台詞自体は、義兄さんやお兄ちゃんと即興で作りました。最悪、貴方の肉体は私が操縦します。なので安心してください』

『え? あ、はい……なら、安心……ですね?』

 

 何が安心なのか良く分からないが、ドラゴンは創造主であるアイリスの命に従う事にした。

 

『では今から私が教える台詞を復唱してください。リピートアフターミーです』

 

 ごにょごにょと念話越しに、ドラゴンは情報を頭に流し込まれる。それをドラゴンは命令通り、口にだして復唱する。

 

「ほう。我が吐息(ブレス)を防ぐとはやりおる。貴様はそこにいる矮小な者共の仲間のようだが、実力は雲泥の差か」

「……ふん。蜥蜴に褒められたところで何一つ嬉しくも無いな」

「───うぐぅ……」

 

 アイリスとドラゴンのやり取りを聞いていたサトルは、思いついた返しの言葉を適当に投げただけだが……アイリスに創られ、サトルに対し最大級の敬愛と忠義を誓っているドラゴンは、肝心の忠誠対象に蜥蜴呼びされて嬉しくもないと言われたのが刺さったのかメンタルにダメージを受けている。

 

 ───まさか……こんなやり取りがずっと続くの?

 

 いきなりメンタルブレイクされかけたせいか、初手からドラゴンの胃がチクチクする。でも諦めてはならない。サトルのために心身を尽くして頑張る。それがアイリス産ドラゴンの存在意義なのだ。

 

「ほ、ほう! この我を蜥蜴とは……随分と舐めた口を叩くな人間!! 少しばかり魔法に自信があるようだが、それで我に通じると思っているわけではあるまい……」

 

 ごめんなさいサトル様!舐めた口をきいてごめんなさい!と小さな声を呟くドラゴンだが、アイリスが遠方から「メッ!」したので、その声は耳が良いサトルにしか聞こえない。

 

 なんか可哀そうなので、サトルは舌戦は止めてとっとと戦端を開くことにした。

 

「少しばかり……か。私たちがここから脱出するのを黙って見逃すのであれば命だけは助けてやる。が、逃がさぬと言うなら……代償は命で払う事になるぞ」

「ぬかせ人間! 貴様こそ、その小さな身で我に挑むなど片腹痛いわ!!!」

 

 やるのです。……はい。

 

 ドラゴンの口から火の粉が漏れ、強烈な火球が吐き出される。サトルは自らも手加減に手加減を重ねた、最小威力の<火球>を使いそれを迎撃。

 

 ドラゴンとサトルの間で、地下空間全てを照らすほどの小さな太陽が発生する。

 

 黄金の竜が巨大な翼を広げ飛び上がる。サトルも<飛行>を使い、竜の後を追う。

 

 サトルの手から雷撃が撒き散らされ、数百を超える<魔法の矢>が射出される。竜の翼に魔法陣が描かれ、風が吹き荒れ地下世界なのに嵐が巻き起こる。

 

 フォーサイトが止める間もなく始まったドラゴンとの戦闘。目の前で行われる馬鹿げた頂上対決───フォーサイト基準では───に、4人全員が眼を奪われる。

 

「今の……<火球(ファイアーボール)>……なのか?」

「多分そう。……<火球>の魔法は、使い手の魔力によって威力が大幅に変わる」

 

 アルシェも<火球>の魔法が使えて、この地下空洞で行われたドラゴンの実験とやらで魔力が大幅に増したことで、威力や距離が大幅に強化された。それと比較してもなお、サトルの超手加減<火球>は規模が違い過ぎたのだ。

 

「ゴウン伯……どんだけ出鱈目なのよ」

「……別格。単純な魔力量なら、あのドラゴンの倍はある。……ふぅ……正直なところ、私には怪物にしか見えない。魔眼()で見る限りでは、八位階以上は……ある」

「八ですか。確かに……それぐらいはあっても、おかしくはないですね」

 

 ドラゴンと行われる、フォーサイト達どころか人類とは別格の魔法戦闘。アルシェが観てそう判断した以上疑いはしないが、それとは別に目の前で行われている怪物同士の戯れは、なるほど八位階だろうとしか思えなかった。

 

 サトルとドラゴンの戦いは続く……轟音、爆発、振動、地下空洞全体が揺れる神話の対決。

 

 フォーサイトは闘いに巻き込まれないよう、離れた岩場で陰から見守るが、それでも時折近くに流れ弾が飛んでくる。その流れ弾の威力から、自分達に出来る事は何一つないのだろうと4人は察した。

 

「戦いはゴウン伯優勢で進んでいますね」

「ああ。あのドラゴンもやべえが、ゴウン伯の方が格上みたいだな」

「それでもドラゴンの攻撃で傷ついているわね……お願いだから負けないでよ。あんなドラゴン、私たちじゃ勝てるわけないんだから」

 

 各々どうにか勝ってくれとサトルを応援する。サトルが優勢に進んではいるが、それでもドラゴンの攻撃を全て凌げるわけではない。時折防御しきれなかったのか、攻撃を受けてサトルの衣服がボロボロになり、素肌に血が滲む。

 

 優勢に見えるギリギリの死闘。参考にしたのは古きヒーローショー。アイリスがチマチマドラゴンを操作し、時折<完全時間停止>で現場に赴きサトルの怪我メイクを施していく。

 

 フォーサイトが本気で頑張ってくれ! 勝ってくれと祈り始めたのを見計らい、アイリスは最期の仕上げとして翼に攻撃を受けさせてから落下させる。

 

「これで最期だ! <爆裂(エクスプロージョン)>!!」

 

 サトルが放ったフォーサイト基準で特大の爆発に呑み込まれ、ドラゴンの肉体が消滅していく。

 

「ぐああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 断末魔の雄たけびと共に、黄金竜が消えた……ように見せかけただけで、実際にはアイリスが自分の元に転送させただけだが。

 

「アイリス様……全身が痛いです……」

「お疲れ様なのです。よく頑張りましたね」

 

 極限にまで手加減したとは言え、サトルから魔法を叩きつけられまくった事で全身がボロボロになったドラゴンだが……創造主であるアイリスに怪我を治療され、すぐに元気になった。

 

「あっちは大丈夫そうだな……あとはフォーサイトの面々だけか」

 

 岩場の陰に隠れて見守っていたフォーサイトの元に、サトルがゆっくりと降りてくる。サトルの体はボロボロに見えるよう、良い感じに服が破けたり皮膚や肉が削れたりしている。

 

 その姿を見て思わず───

 

「ゴウン伯……大丈夫なのですか!」

 

 と聞いてしまう。

 

「ああ…問題ない。多少手古摺ったが、私の敵と呼ぶには物足りない敵だ……ぐぅッ!!」

 

 まるで今まで無理をしていたかのように、地面に降りると同時にサトルの体が崩れ落ちて膝を付く。慌ててヘッケラン達はサトルに駆け寄った。

 

「心配するな。命に別状はない。それよりも、ここから脱出する。体は動くな?」

「あ、はい! 私たちは貴方のおかげで無事ですので、問題なく動けます」

「了解した。では……<上位転移>!!」

 

 サトルは転移魔法を使い、フォーサイトと共にトブの大森林にまで一気に移動する。いきなり周囲が変化し、外に出た事にアルシェらは驚く。

 

「これは……転移魔法!」

「その通りだ」

「……これがあるなら、私たちに依頼しなくともご自身で行けたのではないですか?」

「かもしれんな。しかし少し前の私は、アイリスの容体もあり冷静ではなかったんだ。判断ミスは誰にでもある。だろ?」

 

 ウインクしながらお茶目に語るサトルに、ヘッケランとイミーナは少し呆れるが……命を助けられたばかりなのだから、それ以上の追求は避ける。

 

「そう言えば!! あのトレントはどうなって───」

 

 ロバーデイクが辺りを見渡すが、謎のトレント───ザイトルクワエは見当たらない。倒れた木々や、荒らされた地面があるだけだ。

 

「あのトレントであれば、少し暴れた後、再び地面に潜っていったよ」

「そうですか……あんな恐ろしいモンスターがいるのは不安ですが───」

「なに、気にするな。仮にもう一度出現し、帝国に向かう素振りを見せるようであれば、あのドラゴンと同じように滅ぼすだけだ」

 

 明らかに人知を超えているとしか思えないモンスターの討伐を、なんてことがないかのように語るサトル。その姿と言動に、フォーサイトは疑問を持たない。

 

「はっきりと簡単みたいに言うわね……」

「ゴウン伯はあんなドラゴン相手に、単独で勝ちましたからね」

 

 どう見ても竜王としか言えないドラゴン相手に、単独で勝利を収める。これが皇帝直々に招集したと言われる魔法詠唱者なのだなと、ヘッケラン達から尊敬の眼差しが向けられた。

 

 それを受けて───

 

(茶番劇なんだけどなぁ……ザイトルクワエにしたって、俺がテイムしたモンスターだし)

 

 まぁ、目論見通り恩を売れたのだから良しとするかと気を取り直したサトルは、フォーサイトと共に予め植えておいた薬草を回収。四人と共に、帝都へと帰還するのだった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

「そんでもって、ゴウン様が、こう、ドカーン見たいな魔法を使ったらドラゴンは死んじゃったってわけ」

「そんな事があったのですね」

 

 サトル邸の応接室。薬を飲み全快した設定のアイリスが、フォーサイトやサトルに何があっ

たのかを、彼女はヘッケランやイミーナから直接聞いていた。

 

「この度は、オーナーの依頼で皆さまに迷惑をかけてしまったようですね。妻として、深く謝罪させて頂きます」

「その謝罪はけっこうです。私たちは結局、ゴウン様の助けが無ければ全滅していたので……ワーカーとしては失格です」

「それでもですよ。依頼を出したのはオーナーです。なら、一つぐらいはお詫びの言葉を受けてください」

「……かたじけないです」

 

 アイリスのわりと心の底からの謝罪を、なんとも言えない奇妙な顔でフォーサイトは受け取る。そんなアイリスとフォーサイトのやり取りを見届けた後───

 

「今回の依頼ですが……皆さまには申し訳ないですが、報酬金に関しては全額支払いとはいきません。それはお分かりですね?」

「……はい。それは承知しております」

 

 サトルが助けた時点で、フォーサイトの依頼は破綻している。命を助けられた以上、あんな目にあったのに……とごねる権利はないと、ヘッケランは承知していた。

 

「しかし……あのドラゴンの薬により、ヘッケランさん達は強くなられたのですよね?」

「そうみたいです。以前に比べて、全身に力が漲ると言うか……なんと言うか……」

 

 自分の手を開いては握りを繰り返し、ヘッケランは何度も体の調子を確かめる。恐らく十数倍から数十倍にまで跳ね上がった身体能力。それを確かめているのだ。

 

「……なるほど。その話を聞いて、一つ提案があるのです」

「どのような提案ですか?」

「私たち皇国騎士団の一員として、共に働きませんか?」

「───えっ?」

 

 フォーサイトは、サトルが帝国が立ち上げた特殊部隊───皇国騎士団の団長であると伺っている。それにスカウトされたことに目を丸くする。

 

「色々と調べてみたのですが、ワーカーは職業として下火になっていると聞きます。そしてフォーサイトの皆さまは、様々な事情でお金が必要なのですよね? ……そして、私たち皇国騎士団は、人員がまだまだ足りていません」

「それで……私どもを雇いたいと?」

「そうです。あのドラゴンが作った薬で強くなった貴方達であれば、皇国騎士団としては大歓迎です。……どうでしょうか?」

 

 サトルの言葉にヘッケランは頭を悩ませる。確かにワーカー業は下火であり、この依頼で手に入る金貨四千枚を手にフォーサイトは解散する予定だった。

 

 そのあと何かをする予定のなかったヘッケランとしては、自分達の命を救い───同時に絶対的な強者であるサトルの元で働くことに、それほどの抵抗はない。

 

「ちなみに、給料ですが───」

 

 サトルが提示した金額は悪くない。むしろ、一般的な相場からすれば好待遇だ。下手にワーカーを続けるよりも、長期的に見るならば収入が良いかもしれないほど。

 

 これが皇帝だの、普通の貴族だのが提示した条件であれば疑ったヘッケランだが───

 

 誰かが困っていたら助けるのは当たり前。

 

 そんな綺麗ごとを当然のように口にし、傷つきながらもドラゴンを打倒して自分達を助けてくれたサトルであれば……仕えてみても良いのかもしれない。

 

 ヘッケランは三人───アルシェ・イミーナ・ロバーデイクにアイコンタクトを取る。三人とも首を横には振らない。だから、ヘッケランの答えは決まっていた。

 

「そのスカウト……是非、受けさせてください!」

 

 ……こうして。フォーサイトは最期の大仕事を終えて……新たに、皇国騎士団の一員としての日々が幕を開けるのであった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 大陸の東側。ツァインドルクス=ヴァイシオンの本拠地がある場所であり、彼の腹心である竜王が治める地域。

 

 そこから一匹の竜が、西を目指して飛行する。白金の鱗を持つ竜───ツアーだった。

 

「は…………は…………は……───」

 

 ツアーの呼吸は乱れている。あまりにも乱れていた。

 

「ありえない……あんなの………………あれも父の間違───」

 

 ツアーはぶつぶつと言葉を漏らす。眼には光が無く、ただ焦燥だけがあった。

 

 ……ツアーの本拠地である東方の国。ギルド武器が消失した後、その行方を追っていた彼は腹心もいるこの国を目指したのだ。

 

 北西にある人間国家とは比べ物にならないほど、何もかもが発展していた国……発展()()()()。過去形だ。

 

 ツアーがその国に辿り着いた時には、全てが手遅れだった。……滅んでいたのだ。何もかもが灰塵と化し、ツアーの鱗の色に似た白いお伽の国は火の海に変えられていた。

 

 滅んだのはその国だけではない。東方にある国全てが……たった一体の怪物によって滅んだのだ。ツアーの本拠地には強力な竜王が複数体おり、その周辺国家にも多数の猛者がいた。それでも、なお。その怪物には届かなかった。

 

 その怪物の姿をツアーは見た。見た時点で、彼は戦う事を放棄した。世界の守護者の役目。それを捨て去ってしまえるほどの怪物。

 

 その怪物がツアーを追わなかったのは、眼中にすらなかったからだ。遠く離れた蚊一匹を認識すらしていなかった。それだけだ。

 

 それは金色の鱗を持つ竜。三つ首を持つ巨大な竜。……ユグドラシルⅡから零れ落ちた、セプテントリオンの一体。

 

 メラク。それがツアーの故郷を消し炭に変えた怪物の名前だった。





ツアー:故郷が世界級エネミーによりエンチャントファイア

メラク:地上世界に出ちゃった


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