トブの大森林での騒動と、ゴウン夫婦との対談にスカウト。全てを終えたアルシェは一旦家に戻り一夜を過ごしていた。
「ん? もう朝……」
朝日が差し込む眩しさに、アルシェは目を覚ます。皇国騎士団にスカウトされ───通常特殊部隊の隊員を雇うかどうかは皇帝が決めるのだが、皇国騎士団に限り人事権は団長であるサトルに一任されている。それを抜きにしても、事前にジルクニフに相談していた。相談されたジルクニフは、サトルの部隊なので好きにすると良いと放任している───正式に帝国正規軍の一員として働くことになったアルシェ。
まずは身の回りの身辺整理をすると良いと、サトルから支度金として帝国金貨千枚をアルシェは頂いている。
これだけあれば借金を全て返済可能。むしろお釣りすら出る金額だ。
「思った未来図とは違うけど、幸運な未来は掴めたのかも」
鮮血帝の下で直接働くとなると少し抵抗はあるが、直接の上司は自分達フォーサイトへの最期の依頼人にして、救い主のサトルだ。これが中途半端な貴族であればジルクニフからの干渉もありそうだが、サトルに対して強い圧力をかけるのは無理だとフォーサイト全員が悟っている。一体だれが、あんな恐ろしいドラゴン相手に立ち向かい、単独で勝利する絶対的強者に対して強気に出れるのだろうか───
「違うか。父であれば、新興貴族の分際でと楯突くだろう」
はぁ……とアルシェはベッドの上で溜息を吐く。アルシェの父は貴族階級をジルクニフに剥奪された没落貴族なのに、未だに自分は貴族だと思い込んでいる。そして貴族とは着飾る者だと豪語し、借金をしては無駄な物を買い漁って家計を圧迫する。
そんな借金返済のために、まだ10代半ばのアルシェはワーカーとして金を稼ぐ羽目になったのだ。
では、未だに貴族だと思い込んでいる父に、ジルクニフから叙爵された伯爵の元で、皇帝陛下の軍の一員として尽くすと決めたと言えば───
「面倒な事になる」
今から両親と、とても煩わしい対談をしなければいけないと思うと……アルシェの気は重たかった。
気を取り直し、ベッドから出たアルシェは身支度を済ませる。今日着る服は以前と同じワーカーの時に来ていた皮で出来た丈夫な服……ではない。
「皇国騎士団には正式な服装はありません。オーナーも、アイリスも、本気で出張る時には専用の装備を纏います。今の貴方達が使っている装備は、はっきり言って───」
「───みすぼらしい。それでは、皇国騎士団の一員として相応しいとは言えない。君たち四人の専用装備は今後見繕うとして、今はこれで我慢して欲しい」
そう言って、雇い主であるゴウン夫婦から高価な鎧や衣服を支給されている。はっきり言ってあまりにも馬鹿げた高待遇な装備群であり、ヘッケラン達は顔を引き攣らせた。これ詐欺じゃね?っと。
しかし様子を見る限り、ゴウン夫婦からは騙しているような雰囲気もない。まぁ……貰えるならと四人全員がそれを受け取った。
アルシェは今までの分厚い皮の服ではなく、薄いのに魔法的防御によりアダマンタイトより物理的防御能力が高い薄手の服と、その上に竜の鱗を鞣して作ったマントを羽織る。
「やっぱり身の丈には合ってない……ふふ」
この衣服類だけで、小さな屋敷ぐらいなら普通に建つ。高価すぎるとはアルシェは思いつつも、人生で初めて身に付ける貴族ですら手に入らない超高級品に少し頬が緩む。鏡を見ていたアルシェは、いけないと頬を叩いて気を取り直す。
アルシェは私室を出て、両親がいる大広間へと向かった。
「おお。アルシェ。ようやく起きて来たのか……なんだその服は?」
アルシェに声を掛けたのは父親だった。年頃の娘がワーカーをしているのは知っていても、その収入に頼っている彼はワーカー業に対して口を挟まない。しかし、アルシェが見るからに高そうな衣服装備を着ていることに目敏く勘付く。
「これはワーカーを辞めて、新しい職場から支給された物。それがどうかしたの?」
「ワーカーを辞めた? そうか! ようやくあの馬鹿な連中とつるむ事を辞めたのだな。貴族としての自覚をようやく持てたのか」
「………………」
ヘッケラン達を馬鹿な連中と呼ばれた事にアルシェはムッとするが、フォーサイトの事をアルシェに付き纏う悪い蟲としか認識していない父に、道理を説いても無駄だと悟っているのでアルシェは何も言わない。
「それで。貴族の娘として相応しくない仕事から、どんな仕事に就くことにしたのだ?」
「……ふぅ……。皇国騎士団」
「皇国? ふむ……聞いたことが無いな。まさか、あのフォーサイトとか言うワーカーから、別のワーカーに移っただけではあるまいな?」
「違う。皇国騎士団はゴウン伯を長とした、帝国の諜報部隊」
「帝国の?」
ピクリと父の眉が動いたのを見て、アルシェはやはりかと顔を抑えたくなる。帝国の部隊となれば、それは皇帝ジルクニフが関わっていると誰でも勘付く。例えそれが、未だに自分を貴族だと思っている男であっても───
「それは、あの憎たらしく糞ったれな愚か者に媚びると言う事か!! フルト家の令嬢としての誇りすら捨てたか!!?」
机を強く叩き、立ち上がって唾を飛ばす父にアルシェは「ああ、やっぱり」と内心で顔をしかめる。
「あんな若輩の若造に媚びるのが、帝国に代々仕えし貴族の我が家の娘など……お前は何を考えている!!」
「───父様。うちは、もう、貴族ではない」
「違う!! 我が家はまだ、あの偽皇帝になど屈していない!! あの小僧が、勝手に私を貴族ではないなどと言っているだけだ!!」
「でも、爵位を剥奪されたのは事実」
「アルシェ!!!」
我慢ならなかったのか、アルシェの父は彼女へと近づき折檻のつもりなのか頬を引っ叩く。父として、貴族の矜持を持とうとしない娘を躾ける。そんなつもりでの暴行だが───
「ぐぅうううう!!」
「………………」
殴った方が手を抑えて蹲り、アルシェはそんな父を冷たい眼で見降ろす。
ただでさえ、フールーダの弟子として魔法を学び、ワーカーとして経験を積んだアルシェと父の間には10以上のレベル差があった。その時点で素手の殴り合いでもアルシェが余裕で補正値により、父を一方的に叩きのめすぐらいには実力差があったが……神人血清によりステータスとレベルが上昇し、支給された魔法装備により物理的防御力が大幅に上がっているアルシェはアダマンタイトより硬い。そんな彼女をレベル一桁台が不用意に叩けば、骨の一つや二つ罅ぐらいは入るだろう。
「お前は……親に逆らうのか?」
「私は何もしていない。手を出したお父様が、勝手に怪我をしただけ」
「……父親に向かって、なんて口をッ!!」
アルシェの物言いにプライドを刺激されたのか、彼は睨みつけるが……それ以上の行動には移らない。今の一幕で、娘との格を分からされたらしい。
「二人とも喧嘩はやめて頂戴!」
「お母さま……」
見るに見かねたのか、普段はのんびりとしたところのあるアルシェの母が間に割って入る。父のことは現実が見えていない愚か者だと内心見下しつつあるアルシェだが、母に関してはそこまで割り切れていない。少し罰が悪そうな顔になる。
「アルシェ? ワーカーを辞めてくれたのは嬉しいわ。けれど、貴女は良い貴族に見初められるべきなのよ? その皇国騎士団の長……ゴウン伯と言う方は、どんな人なの?」
母の言葉に内心、言えば父が反発するだろうとは思いつつも、隠したところでどうせいつか知るだろうとアルシェは情報をある程度開示する。
「あの、偽皇帝如きに叙勲された新興貴族に……我が由緒正しきフルト家の娘が……本当にお前に誇りはないのか……」
おいおい嘆く父にめんどくさいと思いながら、アルシェの一日は幕を開けた。
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「それは災難なのですよ」
あれから数日。フルト邸を出たアルシェは、サトル邸に居候している。
なぜここに住んでいるかと言えば、皇国騎士団の本部がサトル邸だからだ。小さいとは言え、それでも貴族の御屋敷なのでかなり広く、サトルとアイリスが防備を固めたここは帝都の中で一番防衛能力が高い。ゆえに本部はここに置くことにした。
「父は未だに自分を貴族だと思っている。もう、とっくの昔に爵位を剥奪されたのに───」
「失った物を数えるのは、人間さんの癖なのです。過去の栄光ほど美化されるものもありません。アルシェが気に病む必要はないのですよ」
「そう言って戴けると助かります」
「そんなに畏まらなくとも、別にタメ口で良いのですよ?」
「アイリス様は上司です」
ん~そんなに畏まられても困るのですよ……と唸るアイリスと共に、アルシェはサトル邸の廊下を歩く。今日も今日とてサトルは帝国騎士団のパワーレベリング。アイリスはその間、自宅で書類やらの整理だ。その補佐として、アルシェもいくつかの書類を手伝ったりしている。
と言っても、大半はアイリスが片付けてしまい、時折事務室に出現するパンドラやデミウルゴスも彼女を手伝うのでアルシェに出来る事は殆どない。初めてあった時と違い、尻尾が生えているデミウルゴスや、完全に異形な見た目のパンドラに多少ギョッと目を剥いたフォーサイトだが、サトル邸で人間なのはジルクニフが紹介した人物と、ギリギリアイリスぐらいなので気にするのを辞めた。
その日の内に片付けないといけない書類どころか、一週分の仕事を終わらせた二人は遅い昼食を取るために食堂を目指していた。
チラリとアルシェはアイリスを見やる。魔眼を通してみるアイリスは、サトルと同じ大魔力の怪物だ。アルシェ自身、自分がドラゴンの薬により英雄級や逸脱者の領域に踏み込んだ自覚はあるが……それでもサトルやアイリスは別格。
そんな二人には遥かに劣るが、それでも危険だと理解可能な怪物がサトル邸には多数生息している。それは執事&執事補佐として活動しているデミ&パンドラだったり、浮遊要塞から回収してきたバルキリーだったり、サトルかアイリスが呼びだした悪魔や天使やアンデッドだ。
サトルやアイリスで感覚が壊れたので慣れてしまったが、初めて屋敷を訪ねた時にはあまりの魔境ぶりにアルシェは上からも下からも色々と出した。
ともかく……サトル邸にある戦力は、5分もあれば帝国を焦土に変えてしまえる。フォーサイトの面々は、どこから皇帝はこんなとんでもない魔法詠唱者を連れて来たのだと考えたが……考えたところで意味もないと、詮索はしないことにしている。
「お姉さまー!!」
廊下を歩く二人に対し、小さな人影が二つ飛び込んでくる。片方はドスンとアルシェに強くぶつかる……前に───
極地点・零
アイリスが武技を使い衝突の衝撃を0にしてしまう。もう一つはアイリスに飛び込んで来たので、自身の肉体を極限にまで脱力させてから彼女は受け止めた。
「お姉さまかたーい!」
「アイリス姉さまはやわらかーい! お姉さまのよりおおきい!」
「……クーデも、ウレイも、廊下を走ってはいけない。それに、アイリス様に飛びつくのは迷惑だから止めなさい」
「別段迷惑ではないのです。子供はこれぐらい元気な方が、将来有望なのですよ」
アルシェとアイリス。二人めがけて飛び込んできたのは、アルシェの双子の妹───クーデリカとウレイリカだ。
アルシェを幼くした顔立ちをした6歳ぐらいの双子は、アルシェに良く懐いていてお姉さまと楽しそうにしている。アイリスもサトルが絡まない限りは柔らかい雰囲気の女性なので、それをかぎ取ったのか双子は彼女にも懐いていた。
アイリスが胸元に飛び込んできたクーデリカの背中を軽く叩くと、少女の体がふわりと浮き上がる。
無重力状態になったクーデリカを、アイリスはふわりとお姫様抱っこする。そんなアイリスの胸を───
「わー!」
と言いながら、クーデリカは掌で目の前の大きな山をポヨンポヨンと揺らす。それを見たアルシェはクーデリカを注意しようとするが───
たゆんたゆん。ゆっさゆっさ。
質量を感じさせる動きに、思わず言葉が止まる。そんな視線に気づいたアイリスは、少しだけ罰の悪い気持ちになる。
──私のこれは天然ものではないので、なんとも居心地が悪いですね。オーナー好みに肉体を改造しただけですし……
アイリスはある意味究極の全身改造人間ともで呼ぶべき存在なので、純粋な目で見られると少しだけ困ってしまう。なので、アルシェにぼそっと「凄い……」と言われたり、クーデリカに物珍しそうにポヨンポヨンされてもなんとも微妙な反応しかできない。
「クーデちゃんとウレイちゃんはお昼を食べましたか? まだなら、アイリス達と一緒に何か食べますか? 腕によりをかけて作っちゃうたのですよ!」
「たべる!ー」
「アイリスお姉さまの手料理たべたいです!」
「元気一杯の返答なのですよ」
サトル邸の食事関係は、大半をアイリスが担っている。一応ジルクニフから紹介されたコックもいるのだが、持ち前の学習能力で試行錯誤を試した結果アイリスの料理スキルは超一級にまで成長している。システム範囲外で色々なスキルを習得可能な、世界級エネミーの面目躍如だった。
アルシェの妹であるクーデリカとウレイリカ。彼女らがここにいるのは、アルシェが家出をするにあたり連れて来たからだ。
……アルシェはフルト家を捨てた。絶対に変わろうとしない両親に、借金を全返済可能な金額に色を付け手切れ金として渡し、今までフルト家で働いてくれた執事やメイド達に最後の給金を手渡して……
しかし、両親の元を出るとしても、アルシェは双子の姉妹のことが気がかりだった。
「貴女の御両親ですが、借金のかたに子供達を人身売買組織に売り渡そうとしていますよ」
どこから掴んで来たのかは知らないが、デミウルゴスがそう忠告したからだ。デミウルゴスとしてはクーデリカとウレイリカの身の安全など心底どうでもいいが、アイリスかサトルが動くかもしれないと考えた上での忖度だった。
「……そう言うのって、勝手に連れ出しても大丈夫なのか?」
「帝国の法律上、正規の手段に訴えられたら親元に戻されますね」
「ネガティブです! でも、法とはこの国ではとある人物の名前です。その人物に掛け合えば、正規の手段なんてお茶の子さいさいなのですよ」
と言う訳で、アイリスは
これこれこう言う訳で引き取りたい子供がいる。
ジルクニフはサトル一行のお願いには、よほどの無茶難題でない限り「はい」か「イエス」で応えてくれる。裁判所の正式な書類を使い、フルト三姉妹はゴウン家の養子となった。
「権力とは、こう使うのですよ!!」
ともあれ、これで三姉妹は完全に自由になった。その後、どこで暮らすかを悩んだアルシェはサトルの申し出を受け入れて、今はサトル邸の一室を借りて妹達と暮らしている。
アルシェはウレイリカを抱え、アイリスはクーデリカを連れて食堂に入る。小さいとは言え、それでも貴族の屋敷に相応しい広さの食堂には、様々な調度品が置かれている。
調度品の大半は、浮遊要塞から持ち帰りジルクニフから改めて下賜されたものだ。それらを何度見ても慣れないと、アルシェは心の中で一人呟く。
「お姉さま! この壺すごくきれい!!」
「椅子がふかふか!!」
「クーデもウレイもやめて……ほんとやめて?」
「別段、その壺や椅子ぐらいなら壊れても問題ないのですよ」
アルシェから見れば超高級品だが、アイリスから見ればただの壺でただの椅子だ。壊れたところで権能や<物体修復>の魔法で治せるので、大した問題ではない。
朝のうちに用意しておき、<保存>の魔法をかけておいた料理の数々をアイリスは机に並べていく。アルシェやこっそり控えていたメイドらが手伝おうとするが、武技やらで一度に運んだり、魔法で直接テーブル上に転移させるアイリスにしてみれば手伝いなど不要だ。
貴族の正妻が料理をして、下人のように手配までする。はっきり言えば貴族基準では下賤な行為であり、家格の沽券に関わる行為だが……ここでそれを指摘する者はいない。
だってアルシェにだって理解出来てしまう。そんな人間基準のくだらない理由に、アイリスやサトルは縛られていないのだと。
絶対的強者にとって、遥か格下が創ったルールなど些事に過ぎない。アイリスのように謎の病に倒れる事があるかもしれないが、それでもサトルが最終的に治してしまったようにやはり些事。
「では……頂きます」
「命に感謝を。頂きます」
『いただきます』
サトル家では必ず行われる、命を貰う感謝の言葉を述べてから四人で昼食を口にする。ふわりとした白パン。野菜たっぷりのサラダ。柔らかい肉の入ったビーフシチュー。
最近サトルとアイリスは『ユグドラシルⅡ』で牧畜や農産を始めており、そこで収穫した小麦や肉をふんだんに使った料理にアルシェは舌鼓を打つ。
「美味しい……」
「おいしいねー」
「ほっぺたがおちるー」
「喜んで貰えたなら、頑張ったかいがあるのですよ」
元貴族令嬢としてそれなりに豪勢な食事を摂って来たアルシェだが、この料理のレベルは帝国でも随一だと悟っている。
権能まで駆使された超一級の料理スキルと、<時間加速>で数世代に渡る品種改良を無理矢理重ねた食材の旨味は他の追随を許さない。
ただサトルのために、美味い料理を。そんな一念を、世界級エネミーが抱いたのだから当たり前だが……
「そーいえば、お姉さまのおともだちは何をしてるの?」
「ヘッケランやイミーナ、ロバーデイクの事なら、今は野盗退治に行ってるわ」
アルシェはアイリスの補佐として屋敷に残り、フォーサイトの他のメンバーは皇国騎士団としての実績積みだ。全員逸脱者級の実力者になったこともあり、この数日で大分野盗が捕まっている。……中にはフォーサイトが知っている元ワーカーもいたりするが、別に手を抜く理由にもならないので全員捕縛だ。
「御馳走様でした」
アイリスの言葉に倣い、三姉妹も祈りを捧げる。
「それじゃ、二人は遊んでおいで」
「今日は遊び相手に、デス・ナイトを用意しておいたのです。見た目がちょっと怖いのと、偶にすえた匂いがするのが傷ですが、オーナー製作のアンデッドなのでたっぷり遊んで貰うと良いのですよ」
『はーい!』
小さな幼女二人の遊び相手が、アダマンタイト級冒険者でも苦戦しかねないアンデッドなのはどうだろうとアルシェは思うが……この屋敷の召喚モンスターは、全てサトルかアイリスの完全支配下にある。最初はこの二人がエ・ランテルの騒動の元凶かと疑ったが、あの事件の真相───法国の神復活───を知らされたフォーサイトは、法国に対しての不信感を募らせた。
双子を見送ったアルシェは、アイリスと共にまた執務室を目指す。
アルシェはチラリとアイリスを見る。書類上は義母となったアイリスを……
アルシェ含め、フォーサイトはサトルとアイリスが見た目通りの年齢ではないと知らされている。魔法の力で不老になっているのだと。ちなみにサトルが31歳で、アイリスが33歳だ。
この数日の間に色々とあった。訳の分からない薬を打たれて強くなり、気が付けばとんでもない美形夫婦の義理の娘となり、そんな義父母の下で妹達と共に暮らす。
以前に思い描いていた未来図とは違うけど……本当の両親も見捨ててしまったけれど……妹二人の事を思えば、実に幸福な今。
これからの未来はきっと幸福。そう信じて、アルシェは白銀の義母と一緒に廊下を歩く。
アルシェが何を考えているのか。それを想像し、自分の頭の中で転がしたアイリスは柔和な笑顔を浮かべる。一番大切なのはサトルで、サトルの為であれば冷酷に無慈悲なAIとして何億でも殺せるが……それでも善人よりの誰かが笑顔になるのならば、アイリスはやはり嬉しかった。
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「ツアー……お前一体。その……どうしたんだ?」
蒼の薔薇と別れてから、エ・ランテルでの出来事を伝えるため評議国へと向かったイビルアイ。
彼女は当初の想定通り、白金の竜王には会えた……東方の国から逃げ戻って来た、ツアーにだ。
イビルアイが見たツアーは、はっきり言って荒れていた。彼の評議国での住居は、八つ当たりによりほぼ半壊している。暴れたツアーの足元には、ドラゴン用のサイズの酒樽がいくつも転がっていた。
「……久しぶり、だね。イビルアイ。……一体何をしに来たんだい」
流石に旧い友人の前でみっともない姿を晒す気はなかったのか、努めて冷静な声をツアーは出す。そんなツアーに疑問の目を向けながらも、イビルアイはスルシャーナの事を話す。それを聞いたツアーは───
「ふうん。そうなんだね」
と、どうでもいい事を聞いたかのように流してしまう。
「お前……一体どうしたんだ? 以前には、ぷれいやーとやらの事があれば伝えて欲しいと言ってただろ!? なのに、どうしてスルシャーナの事を聞いて、そんな態度なんだ……」
「───スルシャーナか。彼が復活したかどうかなんて、正直どうでもいいさ。あの……あの三つ首の………………………………………………ああああああああああああああああああああ!!!!!!! なんで!!! なんであんなのが出現する!!!! なんでぇえええええええええ!!!! 父上か!! 父上がやはり間違っていたんだ!!! あんな始原の魔法を使うべきじゃなかったんだ!!!! マザーだってそうだ!!! みんな間違ってる!!! みんな間違えたから、あんなのが出てくるんだ!!!!! どうして……どうして………………どうしてみんな、私も含めて間違えるんだ………………」
いきなり大声を出して発狂し、頭を抱えて蹲るツアーにイビルアイは目を丸くする。
ツアーが恐れる三つ首。セプテントリオン。その姿を見たツアーだけが、あの恐ろしさを誰よりも知っている。だから、まだイビルアイにはツアーが何かを恐れているのが分からない。
そう……まだ知らない。その脅威を知らない。
評議国と王国の国境付近に……新たなる脅威が迫っているのも知らない。一帯にクリスタルにも似た、謎の結晶体が生えつつあるのを……ツアーも含めて、誰も知らなかった。
倍プッシュだ!!
狂気の沙汰ほど面白い……!
もう一回遊べるドン!!
ツアー頑張れ! 超頑張れ!! 君が諦めたら試合終了だよ!?