リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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二人がロ・レンテ城の方に転移していたらIF



もしも地上で本気を出したら……

 謎の城に飛ばされたサトルとアイリス。アイリスは何が起きたのかをすぐに察知し、サトルはゲームが終了しないことに疑問を抱く。

 

「そこを動くな!!」

 

 そんな二人は城の衛兵に捕らえられてしまう。見た目が美人なアイリスにはさほど強く当たらなかったが、例え美形でも同性であるサトルには衛兵は容赦しなかった。

 

 アイリスから抵抗しないで欲しいとお願いされていたサトルは、大人しく地面に引き倒される。そんなサトルに、効かないとは言え槍の石突を衛兵は力いっぱい何度も叩きつけた。

 

 それを見たアイリスの眼に本気の殺意が浮かぶ。もしもこの時点で、この世界の脅威レベルを正しく把握していたなら、アイリスは衛兵全員の手足を砕くか斬り落としていた。そのレベルの殺気を滲ませながらも、彼女は歯を食いしばって耐える。

 

 抵抗しないで欲しいとお願いしたのはアイリス本人。それなのに自身が怒りに任せるなど言語道断。地面に押し倒されて髪が土に汚れるサトルに、心の中で何度もごめんなさいと彼女は謝る。

 

 サトルはサトルで、アイリスの眼に涙が浮かび上がっているのを見て、一気に怒りのボルテージが上昇。己にとって一番の宝物が捕らえられ、涙を流すのを見て我慢が出来るほど彼の気は長くない。

 

 アイリスから抵抗しないでとお願いされていなければ、今すぐにでも彼女の肩に手を乗せ抑えている衛兵の首をねじ切っている。

 

 世界級エネミー達の怒りを恐ろしい速度で稼いでいるとも知らず、衛兵達は二人を連行する。アイリスは見た目が良いので、一応貴賓室に。逆に、サトルは薄暗い地下室に、だ。

 

 サトルが連れていかれたのが、恐らく劣悪な環境の独房か何かだと勘付いたアイリス。この時点で、アイリスからの好感度は完全に地に堕ちた。相手がやっていることは正しい。不審な侵入者を、独房送りにする。これほど正しい事はない。

 

 しかし、アイリスにとっての正しさはサトルだ。彼が快適に暮らし、笑顔で楽しそうにしてくれる。それこそが第一義である以上、サトルを蔑ろにする連中に一切の慈悲もない。恐ろしく冷徹で冷酷なAIとしての側面が顔を覗かせ始めていた。

 

 そんな怒りを抱きながらも、同時にアイリスは不安を募らせていた。

 

 ───存在Xはなぜオーナーと私を……ユグドラシルから、大量のデータを引き抜いた? ……分からない。これほど大規模な異常現象を引き起こせる神の如き存在が、ゲームデータに固執する理由なんてない。この怒りを発散させても大丈夫なのか? 分からない。もしあの場で抵抗したとして、あの兵士達をどうにか出来たとしても、その裏には必ず存在Xがいる。もしも存在Xが私の想像する領域にいるならば。勝てない。ワールドスキルが無い今、絶対に。……存在Xの不在証明が叶うまでは、何があっても逆らってはいけない。例えどんな要求をされても、受け入れなければならない。せめてオーナーの安全を確保しないといけない。それが私に赦された、オーナーへの恩返し。……命を捨てたってかまわない。体を差し出せと言うならば、躊躇なく差し出そう。オーナーを守り切れないといけない。何があろうとも……絶対に

 

 サトルはサトルで、数時間は我慢できたが、アイリスと引き剥がされた事に恐ろしい勢いで不満が溜まっていく。別に自分が独房に送られるのは構わない。しかし自分の知らないところで、アイリスに何かがあったら……

 

 そう考えると、狂おしいほどの焦燥感に胸が焦がされる。アイリスは何かされていないだろうか。あの下卑た男たちに、手を出されたりはしていないだろうか。サトルだって初心ではない。捕らえられた女性の使い道など、大体は想像出来てしまう。

 

「良し。ここを出よう」

 

 抵抗はしないと約束したから攻撃はしないが、脱出してはいけないとは約束していない。拘束される前にアイリスから爆速で説明を受けていたサトルは、自分が魔法やスキルを使えると自覚している。<解錠>と<完全不可知化>の魔法を併用して牢屋から出る。

 

 探索系の魔法を使い、すぐにアイリスの居場所は把握。サトルは躊躇うことなく貴賓室を目指す。

 

 そこでは───

 

「お願いします! 私はどうなっても構いません!! ですから、どうか!! オーナーには手を出さないでください!!!」

 

 とある男に対し、アイリスは土下座していた。この世界の脅威度をまだ完全には把握できておらず、サトルにどれだけの危険度が迫っているのかも不明。その状況下では、真摯に頼み込むしかないとアイリスはその男に───第一王子バルブロに嘆願していた。

 

「ほう。もう一人男を捕らえたと聞いていたが、その人物が大事な訳か。ははは、良かろう。この俺の物になるのであれば、そんな願いぐらい聞いてやろうではないか!!」

 

 がははとバルブロは笑う。恐ろしいまでの美女を捕まえたと聞いたので、興味を持った彼はアイリスに会いに来た。そして会ってみれば、バルブロが今まで見た事もないほどに美形な女がいたのだ。

 

 これはもう、自分の側室にするしかないとバルブロは考えていた。しかし、無理矢理手籠めにするのは王族として一応の誇りがある自分には相応しくないと考え、交換条件としてアイリスのお願いを聞き入れる度量のある王族をバルブロは演じている。

 

「ありがとう……ございます……」

 

 バルブロの心中は察しつつも、サトルが無事ならばそれで良い。アイリスは心底は嫌だと思いつつも、バルブロの物になることを受け入れる。

 

 その一幕を見ていたサトルは、アイリスが自分の身を案じてくれたことに心から感激しつつ……アイリスを自分の物にしようとするバルブロに、生涯で初めてと言えるほどの怒りを抱く。

 

(アイリスを俺の物……だと? ───ふざけるなよ……その子の弱みに付け込んで……本気で殺されたいのか…………)

 

 自身の知らぬうちに、世界級エネミーから完全に敵認定されたバルブロ。しかし彼の無謀は止まらない。

 

「さて。俺の物になった以上、その覚悟とやらを見せて貰わねばならんな。……服を脱いで、そこのベッドに横になるんだ」

 

 恐ろしいまでの上物を頂ける。そんな下卑た笑い声を上げて、バルブロは顎で命じる。その言葉に少しだけ逡巡した後、アイリスは祭服に手をかける。あまりの事態にサトルの頭は真っ白になり───

 

「ごめんなさいオーナー……初めては貴方に……」

 

 そう言って一粒涙を流したアイリスを見て……サトルの我慢が限界に来た。

 

「あああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「え?」

 

 サトルがいる事に勘付いていなかったのか、アイリスは本気でびっくりする。バルブロも「は?」と声を漏らし───サトルが投げつけた椅子が脚に辺り、膝から下が千切れた。

 

「がああああああああああ!!!」

 

 絶叫を上げるバルブロ。そんな第一王子には目もくれず、サトルはアイリスを抱き寄せる。

 

「お、オーナー?」

「ごめんなアイリス……俺が不甲斐ないばかりに嫌な想いをさせて」

 

 アイリスへの感情。ウルベルトへの感謝。様々な感情に頭がグチャグチャになりながらも、サトルはアイリスを強く抱きしめる。誰にも触れさせないように……もう二度と一人にしないと心に決めながら。

 

 そんなサトルの目はバルブロに向けられる。アイリスに向けた親愛のそれではなく、地べたをはい回る虫けらに向けるそれ。灼眼に映っているのは、アイリスに手を出そうとした下等生物がもがく姿だった。

 

 サトルの周囲に火の粉が舞い上がり始める。発散されるのは桁違いの大魔力。行使されるのは世界級が持つ権能。

 

 火の粉は部屋だけではなく、王城、王都、リ・エスティーゼ王国───遍く地平線まで覆ってしまう。誰かが空を見上げた。ツアーも突如として舞い上がった火の粉を観た。皇帝が、神官長が、聖王女が、森の賢王が───神の逆鱗。その発露を目撃する。

 

「おー……」

 

 アイリスは止めようとしたが、その前に。

 

「死ね。<超新星(スーパーノヴァ)>」

 

 地獄が降臨した。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「これからどうやって生きていこうか悩むな」

「ポジティブ。全部灰になっちゃたのです」 

 

 二人は手を繋ぎながら、夜空の下を歩く。満点の星と月に照らされた大地。そこには()()()()()()()。文字通り何もない。どこまでも続く地平線があるだけ。

 

「存在Xが報復してくるかとも思ったが、そんな事もなかったな」

「ポジティブ。もしかすると、存在Xなんていないのかもしれないです」

 

 <超新星(スーパーノヴァ)>により全てが消し炭になった。どこまで焼失したのかは、使ったサトルにすら理解出来ていない。

 

 もしかしたら何億もの命が消えたのかもしれない。全く無関係の生命が、多数巻き込まれたのかもしれない。それでも───

 

(後悔はない。あの瞬間、ああやってアイリスのために怒れないなら……俺に生きている資格はない)

 

 ただ……とサトルは思う。アイリスは内心どう思っているのだろうと。あの場で躊躇なく権能を使い、全てを灰塵に変えた自分の事を……

 

「アイリスはアイリスです。どこまで行っても、オーナーの事が大好きなアイリスです! もしもオーナーが地獄に堕ちるなら、一緒に堕ちます。それだけなのですよ」

「! ……そうか」

 

 見透かされた事に驚愕し、アイリスの覚悟を口にされた事に驚き……サトルはただそうかと返す。

 

 二人はただどこまでも歩いていく。何もない地平線を、ただ歩く。それがこれからの、比翼連理の主従が歩く道。自分達だけで生きていく。そんな道のりだけがあった。

 





サトルかアイリスが地上でフルパワーを使ったらどうなるのか回

なんでこれを書いたかは……そう言う事です

皇城で二人を特別貴賓室に案内した帝国近衛兵:作中最大のMVP。彼の判断が世界を救った
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