リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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短め



闘技大会

「二人とも、闘技場は見えるですか?」

「見えるよ!」

「おっきな人がぶつかり合ってる!!」

「片方は見た事がある。元ワーカーで、実力はミスリル級相当。かなりの腕前」

「そうなので御座るか? 某には、どちらもあまり強くは見えないで御座るが……」

「お前は見た目そんなんでも、冒険者換算したらアダマンタイト級以上だからな」

 

 一般席とは違い、部屋として作られた高位貴族用の貴賓室からサトル一行は闘技場の試合を観戦する。

 

 片方はフルプレートを着て、斧を振るう男。アルシェ曰く、ミスリル級相当の実力を持つ元ワーカーだ。もう片方は人間に見えるが、青い鱗が全身を覆っている亜人。ブレードソードとバックラーを使い攻め立てている。

 

 こうした戦いを見るのは初めてなのか、双子は興味深そうに試合風景を見つめる。時折血が飛び散ったりしていて、とてもではないが子供に見せるには業の深い試合風景だが……その辺はアイリスがうまい具合に検閲していた。

 

 初めての血沸き肉躍る戦いに興奮する双子とは違い、ヒマワリはあまり興味が無さそうだ。彼女にしてみれば、自分が片手間で殺せるような者同士の戦いなど大した興味も沸かないだろう。

 

(ヒマワリは興味無さそうだな……まぁ、俺もそこまで面白いとは思わないが)

 

 微妙だなぁ……と思っているのはサトルも同じだった。遥か格下の戦いを見ても得られる物なんてあまりない。ステータス的な強さを抜きにしても、アイリスと言う技量のお化けが近くにいるので、その面で楽しむ事も出来ない。

 

 それはサトルだけでなく、アルシェも似たような感じだ。神人血清の影響で逸脱者の領域に立った彼女からすれば、帝国の闘技場では格が低すぎる。以前と今。自分の感覚が遥かに跳ね上がってしまった事に、少し寂しい気持ちになるぐらいであった。

 

 アイリスは……なんかニコニコしている。オーナーがつまらなさそうにしているのに気付いているが、彼が休日サービスをするお父さんに徹してくれているのでそれを尊重し、どう思っているのかを聞くような無粋な事はしない。クーデリカとウレイリカがキャッキャはしゃいでいるのを、本当のお母さんのような気持ちで頭を撫でたりするだけだ。

 

 そうこうしている内に試合も終わる。

 

「どうでしたか?」

「……凄かったです! こう、なんかバーンてなったりしてました!」

「うん! あのおじさん達は、凄く強いんですか?」

「ポジティブ。闘技大会に出てくるぐらいですし、帝国でも屈指の実力者なのですよ」

 

 クーデリカにしろウレイリカにしろ、少女ながらも強いと言うのが貴重だとは分かっているのか「わぁああ!!」と反応する。

 

「じゃあ……お姉さま達より強いんですか!!?」

「それはないのですよ」

「絶対にない」

「あり得ないで御座るな」

「ないな」

 

 四者四様に双子の言葉を否定する。一番弱いヒマワリですら、タイイチでやるなら英雄級でなければ相手にならない。アルシェは伝説の吸血鬼『国墜とし』クラス。ゴウン夫婦に至っては言うまでもない。

 

 双子はアルシェお姉さまにすら否定されたことに目を丸くし、「じゃあ───」と言葉を紡ぐ。

 

「お姉さまやお兄様やヒマワリが参加したら、あのおじさん達にもかてる?」

「相手にもならんで御座るよ」

「───殺さないように手加減するのが大変」

「オーナーが負けるわけないのですよ」

「アイリス相手に、あんな雑魚が指一本触れられるわけねえ」

 

 全員楽勝と断言する。自分達の身内がさらっと言い放つものだから、クーデリカとウレイリカは更に「わぁああ!!」と目を輝かせる。その反応に、これはまさかとアルシェは気づくが遅かった。

 

「お姉さま達の戦ってる姿もみてみたいー!」

「サトルお兄様も剣をぶんぶんふりまわすの!?」

 

 その言葉に三人+一匹はちょっと顔を抑える。ヒマワリは単純に生存競争の絡まない戦いに、一切の興味が無いから。残り三人は、自分達が参戦するとただの虐殺にしかならないと理解しているから。

 

 悩む三人だが、今まで双子がアルシェに迷惑をかけてはいけないと我儘を言わなかったと知っている。度を過ぎた我儘には駄目だと言うが、このぐらいならと思うところもある。

 

「どうする? 飛び入り参戦して見せてあげるか?」

「───出場するにしても、闘技大会の枠は全て埋まっていると思います」

「そこは侯爵の権限を使えばどうとでもなります。それよりも、出るにしても誰が出るかなのですよ」

 

 双子が見たいと思うなら、出てもいい。しかし、いざ出るなら誰が出るのかは悩む。

 

「───私は身体能力は上がったけど、近接技能はない。下手に殴ったら殺してしまう」

「俺もその点は若干不安だな。力加減を間違えたら、絶対にプチってなる」

 

 アルシェは魔法詠唱者。異形種並の腕力はあるが、それでも後衛なので闘技大会には向いてない。

 

 サトルはどれだけ手加減しても、40レベル強の戦士職相当に強い。加減を間違えると、この大会の参加者の大半を普通に殺してしまえる。

 

 アルシェとサトルはアイリスを見る。

 

「……ポジティブ。出るなら、アイリスが一番良さそうなのです」

 

 三人の中で一番近接技能が高く、大量の活人・殺法を習得している武神なアイリスが一番適任。双子が見たいと言うなら、お義母さんが一肌脱ごうとアイリスは貴賓席から立ち上がった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「参加ですか。確かに飛び入り参加用の枠はありますが、しかし……」

 

 ゴウン侯爵一家からの飛び入り参加。それを打診されたオスクは、アイリスに視線を向ける。闘いとは無縁にしか見えない、超が付く美人な箱入り娘。手足は細く、オスクが好むような筋骨がしっかりとついた戦士とは真逆の姿。指は柔らかく見え、とてもではないが武技を握って戦う姿など想像も出来ない。

 

「ゴウン候には申し訳ないですが、参加されるのであれば奥方よりも旦那様の方がよろしいかと具申します」

 

 対して、サトルは服の上からでも鍛えていると分かる体つきをしている。少々オスクの好みからは外れるが、それでもがっしりとした体格のサトル。アイリスと同じく柔らかく見える手指だが、それでもアイリスと比べたらよほど戦士に見える。

 

「それに、私としましては侯爵様が闘技大会に参加されるのはお勧め致しかねます。大怪我を負われても、責任は取れませんゆえ」

 

 ……そもそも、貴族が闘技大会に参加するなど前代未聞の行為であり、興行主としてオスクはあまり賛成していない。

 

「それは大丈夫だ。アイリスに何があろうとも、私どもはオスク殿に責任を問うつもりはない」

「は、はぁ……奥方様が参加されるとして、申し訳ないのですが闘えるのですかな? 闘技場では、魔法の使用は禁止です。先ほど、奥様は信仰系魔法詠唱者と仰られましたね。魔法詠唱者が一人でとなると……」

 

 責任が取れないのもあるが、オスクが持つ飛び入り参加の枠を使って出た人物があっけなく敗北すれば、観客の熱も冷めてしまう。

 

 その点から説得しようとするオスク。しかし───

 

「ネガティブ。私は前衛を勤める信仰者です。オスクが知っていそうな人物であれば、王国のアダマンタイト級冒険者ラキュースに近いです。魔法が無くとも、それなりに武芸には達者ですよ」

 

 その言葉にオスクは考え込む。彼はラキュースの仲間であるガガーランの大ファンであり、ラキュースに関しても詳しい。武芸者には見えない見た目だが、その実力はガガーランに近い事も承知している。そんなアダマンタイト級冒険者に近いとアイリスは豪語した。

 

 通常であれば、貴族の正妻───それも深窓の令嬢としか言えない女性が、アダマンタイト級などと言えば馬鹿としか言えない。だが───

 

「………………」

 

 今もなお、護衛として傍にいる首狩り兎を見て熟考する。夫婦を決して直視しようとせず、神にでもそうするかのように頭を垂れ震える彼をだ。

 

 『あの二人は駄目だ』

 

 やばいではなく駄目。オリハルコン冒険者相当の実力者で、帝国四騎士にすら勝てる首狩り兎がそう評価した夫婦。

 

 何が駄目なのかはオスクには分からない。ただ、その評価がやばいと言う言葉すら超えていることぐらいは分かる。何がどう駄目なのか。それを見れる機会なのかもしれないとオスクは考慮する。

 

 ───もしかすると、ようやく武王のやつとの約束を果たしてやれるのかもしれない。

 

 10年前に武者修行中だったウォー・トロール。彼を見つけたオスクは、闘いの場を用意し強敵との仕合の場をセッティングすると約束してスカウトした。それ以来、無敗の戦士として武王は王者への道を突き進み、当時の武王『クレルヴォ・パランタイネン』に勝利し現武王となった。

 

 その戦い以降、武王が満足できるほどの強者は現れなかった。その事にオスクは申し訳ない気持ちを抱いていたのだが……ひょっとすれば、首狩り兎がやばいを超えて駄目とまで評するこの二人であれば。彼も満足できるのかもしれない。

 

 オスクは熟考の末───

 

「承知しました。奥様が闘技大会に参加できるよう手配いたします」

 

 オスクはサトルとアイリスに深々と礼をする。その言葉が聞こえた首狩り兎は、こう思っていた

 

「参加者全員死んだとしか思えなかった。武王のやつも絶対に死んだと思った。あんなのが参戦して生き残るやつがいるかよ」

 

 とにもかくにも。双子の我儘を叶えたいと、世界級なお義母さんの飛び入りエントリーだった。





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