リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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東方から来たる 後編

 武王対東方からの刺客。

 

 現武王であるゴ・ギンは、歴代武王の中でも最強と誉れ高き戦士である。彼がウォートロールであり亜人な事を闘技場のファンは知っている。人間種ではない……そんなものは強さの前では不要。ただ、強い。それだけが剣闘士には重要なのだ。

 

「ぶ・お・う! ぶ・お・う!! ぶ・お・う!!!───」

 

 入口から鎧を着た巨漢が姿を現す。恐ろしく巨大で、雄々しい姿。当時のオスクが資産の2割も投じて作成した専用の魔法鎧の上からでも、強大な圧が放たれている。

 

 未だ敗北を知らぬ闘技場の王者。前武王ですら、彼が放つこん棒の前に倒れ伏した。誰も勝てぬと思えるほどに強大無比なゴ・ギンだが……白い花びらと共に、小さな戦士が登場すると同時に彼の喉が干上がりかける。

 

「これほど……か」

 

 戦士は戦士を知る。ミノタウロスは気づかなかったが、ゴ・ギンには自分の膝ぐらいまでしかないアイリスが、ドラゴンより巨大に見えるほどには……別格だった。

 

 その視線と動作に気づいたのか、狐面の下で「おや?」とアイリスは目敏く気づく。

 

「武王。今までの対戦相手は、ミノタウロスとの試合後でも、どこか私を見て侮るところがありました。でも、貴方からはそれを感じませんね」

「他の連中が節穴なのだろう。貴殿ほどの戦士を見て、その強大さに気づかぬようなら俺の前に立つ資格もない」

「……ぽ……なるほど。貴方は戦士なのですね。くだらない事を聞きました」

「構わん。他の不甲斐ない連中を見た後では、そんな風に思えても仕方がないだろう」

 

 鉄扇を地面に差し、闘技場に来てから初めてぺこりと頭を下げるアイリスに武王は改めて唸る。

 

 見た目は華奢に見えるのに、一挙一動に力強さが垣間見える。そこでまさかと武王は気づく。

 

 ───マスクドAI殿はひょっとして……

 

 それは戦士の勘。武者修行時代も含めれば、20年近く闘いの場に身を置いたからこその直感だった。

 

「マスクドAI殿。一つだけ尋ねたい」

「なんですか?」

「貴殿は……まさかとは思うが、この闘技大会において、手を抜いてはないだろうか?」

「ポッ!!?」

 

 狐面の下でアイリスは本気で驚く。20レベルの戦士職相当にまで身体能力を制限しているのを見抜かれた。

 

 武王の声は観客席にも届いており、アイリスが手加減をしていたのかと問うたことにどよめきが上がる。

 

「おぉ! 姫が自らに制限をかけていたことに、あの御仁は気づいたようでござる」

「───さすがは武王。歴代最強と呼ばれるだけのことはある」

「ええぇ!! アイリスお姉さま手をぬいてたの!!?」

「それで、あんなに強いの!?」

「……まぁ。めちゃくちゃ舐めプで遊んでたな」

 

(うっそだろおい!! どんな眼力してたら、アイリスのあれが縛りプレイって気づくんだよ!!! あいつを試合後暗殺するか?)

 

 武王がアイリスの実力をある程度見抜いたことに、サトルは戦士の眼力って怖いと感じ……いつもの慎重さから、シレっと抹殺を検討し始める。

 

 それらのざわめきを無視して、アイリスは困ったのですと内心頭を抱えていた。

 

「俺の言葉が真実ならば、どうか、頼む! 手を抜かないでくれ。俺が勝つにしろ、負けるにしろ。貴殿が真に戦士なら、戦士らしく全力を出して欲しい。そうでなければ───」

 

 納得がいかない。

 

 その言葉を聞いて、アイリスは少しだけ悩み……貴賓室を見て……お義母さんではなく、力加減をしていると見抜いた武王への敬意として……一介の戦士として相対すると決めた。

 

「良いでしょう。武王。貴方も強さを求めた真なる戦士なのですね。その事に敬意を表し、貴方だけには、ほんの少しだけ……本気で行きましょう」

 

 <能力向上><能力超向上><能力二重向上><能力二重超向上><能力覚醒><能力超解放>───

 

 20レベル相当にまで制限していたアイリスは、今まで一度も使っていなかったバフ系の武技を大量に重ね掛けしていく。

 

 突如として膨れ上がるアイリスの気配。ざわついていた闘技場全体が、強烈な圧に静まり返る。

 

「だから言ったんだよ。あれは駄目だって……」

 

 オスクと共に観戦していた首狩り兎は、自分の直感は決して間違っていなかったと述懐する。彼の隣にいたオスクも、竜の如き威圧感を放つアイリスを見て口の中がカラカラに乾いていく。

 

 格が違う。立っている領域が違う。今の今まででも、マスクドAIが武王に匹敵するかもしれないと観客は全員が思っていた。……違った。武王が挑戦者なのだ。東方から来た怪物に挑む勇者なのだと。

 

「ひぇえ……姫が本気になったでござるよ……」

「なんてプレッシャー! これがアイリス様の本気!!!」

「なんだか息苦しいのは、アイリスお姉さまの?」

「そうなのかな……」

「ほーら二人とも。俺の膝の上で見ような」

 

 双子が胸を押さえて少し苦しそうだったので、サトルは双子を膝に抱え込む。アイリスを超える絶対強者の懐に入った事を本能が察したのか、クーデリカとウレイリカの顔色が戻った。

 

(アイリスの本気ねぇ……武技のバフを使ってるだけだから、全開にはまだほど遠いが。それは黙っとくか)

 

 唯一世界級の領域を知るサトルだけが、アイリスはまだまだ遊んでるなぁと呑気だった。

 

「……これが私のちょっと本気です。お気に召しましたか?」

「上等だ。それでこそ、乗り越えるべき壁だとも」

「進行役さん。貴方は下がっていてください」

「え、あ、ああ、はい……」

 

 アイリスに促されて、進行役がすごすごと闘技場内から姿を消す。残されたのは頂点と挑戦者。

 

 武王がこん棒を上段に構える。

 

「初手は譲ってあげます」

「感謝する」

 

 貴方の方が弱いから、先に攻撃させてあげます。その意図を籠めた挑発だったが、武王の心には一切の淀み無し。誰の目から見ても……武王からしても、それは事実なのだから、怒りを抱く理由などない。

 

「せい、はああああああああああ!!」

 

 力と技が籠められた振り下ろし。数多の敵を屠って来た、闘技場王者の一撃はしかし───

 

 カァアアン!!

 

 鉄扇に弾かれる。傍目には軽く振っただけ。けれど、その無造作な一撃で武王は悟る。技術どころか、腕力すらもマスクドAIが遥かに上なのだと……

 

「───このままでは試合になりませんね。なので、ハンデです。ここから1分以内に動かせたら、私の負けで良いですよ」

 

 アイリスは鉄扇を使い、小さな円を周囲の砂の上に描く。それは本当に小さな円。一歩でも動けば、足が外に出てしまうような大きさだった。

 

「それと───」

 

 右手の鉄扇を地面に突き刺す。

 

「左手だけで相手をして上げます」

「舐めるなぁ!!」

 

 あまりにも馬鹿げたハンデ。さしもの武王も怒る───ように見せかけただけ。実際には、このハンデをしてくれている間に決着を付けなければ、勝ち目がないと理解していた。

 

 <剛撃><神技一閃><流水加速>

 

 このチャンスを逃せば最期。いっきにアクセルを踏んで、武王は猛攻を仕掛ける。

 

 カァアアン!!

 

 最初と同じように、金属音と共に弾かれる。だがすぐに体勢を立て直し。もう一度。更にもう一度。

 

 連続で金属音が鳴り響く。

 

「勝て武王!!! 負けるなぁあああ!!!」

「いけえええええ!!!」

「がんばえー!!」

「……勝つんだ。勝つんだ武王。お前は誰にも負けない。お前は私の……夢を託した憧れなんだ」

 

 無数の声援が武王に飛ぶ。お前なら勝てると。現闘技場王者相手に、舐めた真似をする狐面を倒せると。

 

 一歩で良い。一歩でも動かせたら、お前の勝利なんだ。

 

 そんな大応援を聞いたサトル達はと言うと───

 

「無理でござろう。最初の一手で動かせぬなら、姫には通じんでござるよ」

「一度技を受けたら、もう同じ手は通用しない」

「……アウェーなのはわかるが、少しぐらいアイリスを応援しろっつうの」

 

 どれだけ応援し、声援を送ろうが無駄だと冷めた眼で見ていた。

 

 闘いに偶然なんてない。実力が近いならまだ目はあるが、離れすぎた相手に対してのジャイアントキリングなんてありえない。弱い方が絶対に負ける。それが現実なのだ。

 

 最初は連続していた金属音。それが徐々に減っていく。鉄扇と魔法金属のこん棒が接触しているのに、音が減少する。

 

「ばかな……ここまでの差が……」

 

 左の鉄扇で受け続けていたアイリス。最初は力任せに受けていただけだが、彼女は徐々に防御に技を混ぜていく。衝撃が殺され、死んで、その結果として金属音が消えつつあるのだ。

 

 その音も完全に消える。武王は全力で叩きつけているのに、まるで空気でも叩いているかのようにこん棒を振り回す音しか聞こえなくなる。

 

 ……アイリスは武王の手癖をこれですべて覚えた。もう彼の打撃は通じない。ただ勢いを全て消去されるのみ。

 

 振り下ろしを鉄扇で受け流し、手のひらを添えてアイリスはこん棒を固定した。武王は力ずくで動かそうとするが、こん棒は少しも動かない。

 

「一分が経ちました。ハンデはここまでです」

 

 ……場内は静まり返る。客席からは、武王のファンなのか啜り泣きすら聞こえてくる。

 

 武王ゴ・ギンは歴代最強の戦士。それが彼らの常識であり……今日常識ではなくなった。左手一本かつその場から動かない。そこまでハンデを付けて貰ったのに、結果として動かすことすら敵わない。

 

 歓声が完全に消え失せた闘技場。そこに、武王の声が響く。

 

「一つだけ教えてくれ。俺は……俺は弱いのか?」

 

 武王の静かに吐き出す声に、アイリスは短く返答する。

 

「中堅ぐらいです」

 

 弱いではなく中堅。それは残酷な言葉だった。

 

 アイリスやサトルと言った世界級。二人が産み出した多数のモンスター。100レベルのバルキリーや、デミウルゴスとパンドラ。その辺りを除外して考えても、武王は帝国の中では一番ではない。

 

 種族としての強さやレベルで言えば英雄級に到達している武王。しかし、サトル達が転移してくる前から帝国最強の名はフールーダの物だった。

 

 現在では、神人血清によるブーストでフォーサイトがこの世界出身の中では一位で、二位には逸脱者に覚醒した帝国騎士の誰かがランクインする。武王は良くて30番目辺りだろう。

 

 それらを抜きにしてすら、武王ゴ・ギンは強い方ではない。ツアーを始めとした真なる竜王には手も足も出ず、通常の成体ドラゴン相手でも確実に死ぬ。最強種である竜を省いても、ナイトリッチのようなアンデッドには敵わない。

 

 トロールの中で比較しても、大陸中央で覇を競い合う六大列強国にいる英雄や逸脱者級のトロールの方が上。

 

 だから……中堅。別段弱くもないが、強くもない。ただ純然たる現実をアイリスは突きつける。

 

 特筆するほどでもないと言われた事で、武王は項垂れ───

 

「ならば、今日。改めて宣言しよう! 俺は王者ではなく、挑戦者として頂点に挑むだけだ」

 

 しかし闘志は消えていない。まだまだ挑むべき壁が幾らでもあった。武者修行をし、オスクの誘いを受けて剣闘士となり、闘技場の王者に上がりつめたと思いあがっていたと武王は己を叱咤する。

 

 だから───

 

「一つお願いがある。貴殿はまだ……余裕があるように見受けられる。まだ手加減をしているならやめてくれ。武の頂きを、俺に魅せてくれ! そうでなければ、負けたとしても納得できん!!」

 

 武王は己が勝てるとは微塵も思っていない。目の前の小さな狐面が真なる頂点だと認めている。次元が違うと、認めているからこそ、本気を見せて欲しかった。己が辿り着きたいと願う場所。その世界級(領域)を少しでも覗きたい。そんな我儘を口にした。

 

「ポジティブ」

 

 例え届かなくとも、頂を見たい。その在り方をアイリスは好ましいと感じ───()()()()()()()()()()

 

 貴賓室にいたサトル以外が、心臓を鷲掴みにされたと錯覚するほどの威圧感。それが急激に消える。今までが荒れ狂う海なら、これは凪。静寂だけが全てを満たす。

 

「うわ……アイリスがマジになった」

 

 サトルの漏らした声にアルシェはそちらを見る。今までのでも本気じゃなかったんだと、彼女の目には驚愕が浮かび上がっていた。

 

 ポイッとアイリスは左手の鉄扇も捨てる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なぜ武器を捨てたのか真意に武王は気づくが……その時には水平線に体が飛んでいた。

 

「がぁッッツ!!」

 

 激突音と破壊音。武王の鎧がバラバラに砕け散る。砕けたのは鎧だけでなく、武王の全身の骨300のうち、215本が砕けて内蔵の8割が破裂した。

 

 武王の体を飛ばしたのは、アイリスの掌底。たった一打で瀕死に追い込まれた武王だが、トロール特有の再生能力によりすぐさま肉体は修復される。

 

「加減は……するなと言ったのだが……」

 

 一見は武王の耐久性で助かったように見えるが違う。彼はギリギリで死なないように打たれたと気づいていた。

 

 口から血を吐き出しながら、闘技場の中心に立つアイリスを見やる。見て───

 

「加減はしてないですよ。殺さずの縛りを課しているだけです」

 

 武王は懐に潜り込まれていた。アイリスが武王を殺さなかったのは、双子に自分が誰かを抹殺する姿を見せないと己に誓ったから。たった、それだけ。

 

「おおおおおおっっっっっっ!!!」

 

 <剛撃>

 

 魔法金属で出来たこん棒を振り下ろし、武王は武技でアイリスを叩きつぶそうとする。

 

 <全反射>

 

 こん棒はアイリスの掌に止められる。全衝撃が跳ね返り、こん棒を握っていた武王の右手がおかしな方向に捻じ曲がった。

 

「ぬぅああああああ!!」

 

 腕の痛みを無視して、左手で殴りつけ───

 

 <威圧>

 

 その前に強制的に動きを停止させられる。

 

 <金剛>

 

 渾身の正拳突きを膝に喰らい、武王の左足が千切れる。彼の体がぐらりと傾き、倒れて───

 

 <金剛四連>

 

 正中線に沿って四連撃。武王の意識が千切れ飛ぶ。通常なら即死する連撃。それでも、アイリスは殺さずのギリギリを完全に見極めていた。

 

 トロールの再生能力が武王を生かす。

 

 <聖花崩拳>

 

 再生した胃が、アイリスの打撃により再び弾ける。闘技場の端から端まで吹き飛んだ武王の口から、大量の血と内蔵の破片が零れ落ちる。

 

 <神速二連>

 

 立った一歩でアイリスは距離を詰める。武王はもはや反応すら出来ていない。

 

 <煉獄>

 

 肝臓の位置に蹴りが刺さる。脇腹が弾け飛ぶ。それでもトロールの再生能力がすぐさま傷を治し───

 

「まだだぁ!!」

 

 こん棒を拾い、最後の力を振り絞り反撃を試み

 

 <零閃>

 

 過程のない打撃がこん棒を砕き、腕を破壊し、肩を壊し、肋骨を粉々にする。トロールの再生能力が止まる。物理的な肉体の破壊に、とうとう種族特性が根を上げてしまった。

 

 左足は再生の途中。両手は砕けた。右足にも罅が入っている。全身で折れていない骨の方が少ない。内蔵は大部分が破裂するか、致命傷寸前のダメージ。

 

 武王の体から力が抜け、彼は地面に倒れ伏す。観客席から悲鳴が上がるが、まだ彼は死んでいない。()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分がまだ生きていることに、武王は軽く笑う。

 

「そう……か。これがちょうてん、か。……とお、な……」

「ネガティブ。私は頂点ではなく、二番目ですよ」

 

 倒れた武王の傍に近づいたアイリスは、彼の体に手を添えて傷を癒す。

 

「これは?」

「生命活性の武技で、貴方の傷を癒しているのですよ。不満ですか?」

「まだ試合中だぞ?」

「ポジティブ。ですが、私は殺さずの誓いの身。見たところ、貴方の再生能力は停止しています。このまま死なれると、私にとって不都合なのですよ」

「随分と……我儘だな」

「ポジティブ。私は傲慢で我儘ですよ」

 

 アイリスの武技……と嘘をついた無詠唱治癒により、武王の肉体は再生していく。手足はすっかり元通りとなり、体中の骨も治ってしまう。

 

「これでポジティブなのですよ。では……私は降参します!!!」

「なに!!?」

 

 そう宣言したアイリスに対し武王は声を張り上げる。座り込んだまま、自分より遥かに小さい彼女を見るだけだ。

 

 いきなり降参宣言したマスクドAIに、観客席からも「え?」や「はぁ!?」と言った声が上がる。

 

「な、なぜ? なぜ降参する?」

「私は別に、優勝目的で参加したわけではありません。お義母さんとして参戦したのです。なのに、貴方の誘いにのって戦士として戦った。ならば、この時点で私は負けています。だから降参なのですよ」

「???」

 

 あまりにも意味不明なアイリスの言葉に、武王は混乱気味だ。しかしアイリスとしては、真意は言葉のままだ。お義母さんとして、双子に義母大暴れを見せてあげたかっただけ。その目的は当に果たしている。

 

 ───それに、武王は恐らく殺されない限り諦めないタイプ。今回の大会では、私は殺さずの縛りをしている。気絶させても良いのですが……別に彼に勝ちたいわけでもない

 

 だから降参だ。これ以上武王と戦う意味もない。

 

「それではみなさん。アデューですよ!!」

「待───」

 

 武王が何かを言い切る前に。花びらが無数に舞い……治まった時には、マスクドAIの姿は闘技場になかった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「不肖アイリス。ただいま戻ったのです!!」

 

 着替えを済ませたアイリスが、貴賓室へと戻って来た。

 

「姫は自由でござるなぁ……生死がかかっていないとは言え、とんでもないムーブでござるよ」

「ヒマワリ。あれが強者だけに許された特権だよ」

「アイリスお姉さま凄かったけど……」

「最後はこわかった」

「あわわ! ごめんなさいなのですよ!! お義母さんを辞めた、戦士ムーブはするべきじゃなかったのです!! 怖がらせてごめんなさいなのです!!!」

 

 アイリスを見た双子がちょっと怖がっていたので、彼女は慌てて双子を抱きしめてあやす。

 

「あの武王ってやつも哀れな。進行役から優勝おめでとうって言われてるけど、全然嬉しくなさそうだな」

 

 マスクドAIがどこかに行ってしまった以上、残った武王が今闘技大会の優勝者だ。出資者代表のオスクからトロフィーを受け取っているが、その表情には苦渋しかない。

 

「ほんとにあれで良かったのか?」

「ポジティブ。最初の誓いを破り、ちょっぴり本気を出した時点でアイリスの負けです。武王はそれに納得はしていないかもしれませんが、アイリスが負けたと思ったなら負けなのです」

 

 憮然とした表情の武王は、あとでオスクにマスクドAIを紹介して貰おうと決める。その表情から、納得はしてないようなのですとアイリスは呟く。

 

 ……何はともあれ。これで闘技大会は終わった。さああとは帰るだけだと、ゴウン一家は席から立ち上がり───

 

「!!!!!! アイリス!!! これは……まさか!!!」

 

 最初に気づいたのはサトルだった。その一秒後にアイリスも気づく。二人は貴賓室から上空を見て……即座に臨戦態勢に入った。

 

「<完全時間停止>!」

「幾億の刃よ!」

 

 二人以外の全てが停止する。止まった時間の中、<無限の背負い袋>にショートカット登録しておいたエーテル装備を二人は瞬時に装着。

 

 アイリスの意思に応えて世界級アイテムが起動。即座にばらけた幾億の糸が、帝都全域を覆い尽くす。

 

「<慈母神の聖域>!! 曼陀羅よ!! 遍く障碍から我らを守り給え!!! オーナー!!!!」

「分かってる!! イージス展開!!」

 

 一秒でも早く防備を固めろ。そんな意思に突き動かされて、二人は大防御用権能を使う。

 

 幾億の刃の上に、曼陀羅とオーロラのベールが張られる。更にその上に、サトルが産み出した透明な盾が、何かから守るように空に張り巡らされ……直後。

 

 宇宙から墜ちて来た、光線の如き雷撃が帝都を呑み込んだ。





クーデリカもウレイリカもお義母さんの手加減バトル見れてよかったね!
じゃ、次は二人の本気(ガチ)を見ようね
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