リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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致命的な弱点

 <完全時間停止>がメラクの力により破壊された後、元フルト三姉妹は偽物のサトル&アイリスと共に闘技場を出て再び帝都を散策しようとしていた。

 

 アルシェのタレントを以てしても、二人が偽物とは見破れない。制限を課した二人と同等。つまり最上位の100レベルプレイヤー程度には、二人のコピーは強い。

 

 そんなゴウン一家だが───

 

「わ! 地面がゆれてる!!」

「地震?」

 

 ちょうど闘技場を出たところで、少し強い揺れに襲われる。揺れの原因は言うまでもなく、ビーストマンの国に墜落した世界級達だ。

 

 竜王国に比べると離れているとは言え、それでもビーストマンの国が……一国が滅ぶほどの勢いで地面へと衝突したのだ。その被害は帝国や法国にも多少とは言え及んでいる。

 

 とは言え、衝撃波により国土と都市が消滅した竜王国に比べれば大した被害でもない。いくつかの安い建物の窓に罅が入ったり、クーデリカやウレイリカのように足腰がしっかりしていない子供が、ちょっと倒れてしまう程度。だから大した事がないとアルシェは二人の手を取って起こしてあげて……次の瞬間に起きた出来事に驚く。

 

 キリィイイイイイイイイイイイィィィッ!!!!!!!!!

 

 音が聞こえた。空から降るような、何かが発する金属を擦るような音。それが聞こえると同時に、南東の方角に急速に黒い雲が広がっていく。

 

 その後に、本当の異常事態が連続する。鳴り響く轟音。揺れる大地。

 

 帝国から離れてるとは言え、それでも世界級達の対決は簡単に星を揺らす。……原因の大部分はメラクが落とす雷を、アイリスが地面に逃がしているせい。その度に大地が悲鳴を上げていく。メラクの重力制御を乗せて威力を増した尻尾の叩きつけを逸らしているのも原因だ。

 

 質量10数万トンのメラクが、数百倍にまで増やした質量から繰り出す物理攻撃。それは巨大隕石の衝突と言っても過言では無い。全て完璧に捌くアイリスは衝撃もある程度殺しているが、流石に発生する破壊力を0には仕切れていない。

 

 断続的に揺れる大地に、双子は泣きながらアルシェやアイリスに抱きついてしまう。そんな双子をあやしながら、偽物のアイリスとサトルはただ主人たちの心配を祈る。

 

 断続的な揺れに不安な顔をしているのは、何も三姉妹だけではない。帝都にいる全員……どころか帝国にいる全員が似たような思いを抱いている。

 

 それは例えば───

 

「ロウネ! <伝言>を使っても良い!! 爺に連絡を取って、すぐに各都市に影響がないかを調べさせよ!!」

 

 ジルクニフにしてもそうだ。謎の怪音と断続的な揺れ。それが南東の方角にある黒い雲に関係があると気づいた皇帝は、すぐさま各地の情報網を使って情報を手に入れようとする。

 

「最悪あの夫婦も呼ばねば。あの雲は何かが起きたとしか……」

 

 何が起きて、どんな事態が進行しているのか。嫌な汗が背中に吹き出てくる。もしもフールーダや帝国騎士団ではどうにもならない案件が進行しているなら、その時には帝国最大戦力である皇国騎士団を派遣しなければならない。

 

 そうこうしている内にも事態は進む。バルコニーから空を見ていたジルクニフは絶句した。

 

「なぁ!! 月が……動いている……だと!!!」

 

 空に浮かんでいた衛星。それがいきなり動き出し、粉々に砕けてこちらに近づきつつあるのだ。英才教育により天文学を学んでいるジルクニフは、小さく見える月が実際にはどれだけのサイズを誇るのかを良く知っている。

 

 もしもあんなものが降り注いだら……帝国どころか、大陸そのものが消し飛んでしまう。それに気づき顔色を真っ青にさせて……空に描かれた直径数千キロにも及ぶ虹色の曼陀羅に目を奪われる。

 

 虹の曼陀羅が降り注ぐ月と衝突。盾のように張り巡らされた曼陀羅を月は突破できず、徐々にその体積を削り取られていく。ついには月が消滅したのを見て、ジルクニフは今度こそ言葉を無くしてしまった。

 

 数分経った頃に、ようやく再起動した皇帝の口から言葉が漏れる。

 

「あり得ない。なんだ今のは……」

 

 月が落ちてくるのも非常識なら、それを削り壊す曼陀羅も非常識。今しがたみた曼陀羅を、ジルクニフは曼陀羅と呼ばれることは知らない。しかし、それに似た何かを一度だけ彼は見たことがある。

 

「御前試合の時に、ゴウン殿と奥方が似たような……似た……」

 

 まさか。そんなまさかと。今のを展開したのは、アイリスかサトルなのかと。恐ろしい予想がジルクニフの脳内を駆け巡る。

 

「そうだ……まさかそんな。幾ら何でも、あの夫婦でも月を壊すなど……」

 

 あり得ないと断言できるのだろうか。ジルクニフの脳内に、初めて会った時フールーダがなんとあの夫婦を称したのか。その時の台詞が思い起こされる。

 

 もはや私には巨大過ぎてまともな試算は出来ませぬ。それでもあえてというならば……数百倍から数万倍。ひょっとすれば数十万倍から数百万倍かもしれませぬ

 

 フールーダは二人の魔力を見て、こう評価した。帝国最強の魔法詠唱者、フールーダの数百万倍かもしれないと。

 

 そしてフールーダはこうも言ったのだ。

 

 力量が戦闘能力に直結するとは言えませぬが、それでもある程度の目安にはなるかと。陛下に私が覚えた恐怖を分かりやすく覚えて貰うならば……私が千人いると考えてください

 

 フールーダの見解なのだから、正しいのだろうとジルクニフは受け入れていた。彼が頼りとする爺の千倍の強さ。それは間違いなく、人類史上最強と呼んでも差しつかえない怪物だろう。御前試合でも、あんな規模の曼陀羅は出ていなかった。だからジルクニフも、サトルとアイリスの本気はあれだと信じていた。

 

 でも───

 

「あの夫婦は本気を……出していなかった?」

 

 ───馬鹿な……そんな馬鹿な。俺よ! 今すぐにこの思考は捨てろ!! ……しかし。しかしだ! 本当に爺が言うように、数百万倍の魔力の持ち主たちが、たったの千人分で収まるのか? 俺が最初爺に問うたように、本当は数百万倍相当の強さだとすれば…………

 

 ジルクニフの全身が悍ましさに震えだす。もしも……もしもこの考えが正しいとして。本当にあの夫婦が月すら消し飛ばせる怪物なのだとすれば……

 

「俺は一体……何をこの国に招き入れたのだ?」

 

 アイリスも知らない内に、ほぼ正解にたどり着いたジルクニフ。恐ろしい予想が何度も何度も脳内を駆け巡る。ああでもない、こうでもないと呟きながら、彼はただ月が消滅した空を眺めていた。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 各国の悲喜こもごもや皇帝の苦悩はさておき。

 

 世界級エネミー達の死闘は大地を削り、空をたたき割り、海を干上がらせる。メラクの斥力により元ビーストマンの国の南側にあった内海がめくれ上がり、海底を曝け出させる。

 

 サトルが地面に手をつくと、大地が膨れ上がり体長1キロはありそうな土の巨人が出来上がる。それがメラクめがけて拳を振り下ろして、幾億の刃に巻かれて動けなくなった黄金竜を勢いよく叩き潰す。

 

 それでも再生しようとするメラクに、アイリスも全開状態での武技を仕掛ける。

 

<全発勁><金剛打破><千手真拳><零閃>

 

 見えない千の手が、零秒間の間に無数と叩き込まれる。一撃一撃が浮遊要塞を砕くほどの拳。それを受けたメラクの比翼がボロボロになり、三つの内二つも首が千切れて飛んでいく。

 

 今までであればすぐさま再生していたメラクだが、目に見えて再生速度が落ちている。

 

「アイリス! あれがそうか!!」

「ポジティブ!! ようやく、あの弱点につけいれるチャンスが来たのです!!!」

 

 アイリスと運営だけが知っている、メラクに設定されている致命的な短所。それが機能するタイミングがようやくやってきた。

 

「アイリスがやつに近づきます! オーナー! 援護を!!」

「任せろ!!!」

 

 九曜の力が一部使えるほどにはジャミングが弱まったが、まだ転移が使えるほどではない。脱力のちに緊張。初回から最高速まで達する歩法を使い、アイリスの体が加速する。

 

 アイリスを迎撃せんと、残った首が雷撃にも似た光線を発射する。

 

「<黒盾(シュバルツシルト)>!!」

 

 アイリスを守るように漆黒の円が出現する。重力の渦に飲み込まれ、重力場を崩壊させる光線はアイリスに届かない。

 

 サトルの援護により自身の頭部にたどり着いたアイリスを、振り落とそうとする何度もメラクは頭を振るがアイリスは落ちない。しっかりと足を踏みしめ、アイリスは掌をメラクの頭に乗せる。この戦いを終わらせる、とある魔法をアイリスは一つ唱えた。

 

「<記憶操作(コントロール・アムネジア)>!!!」

 

 耐性貫通を付与したとしても、世界級相手には通じない。その筈なのに……メラクの動きが止まる。通常は通じない精神作用系の魔法。しかし、メラクは唯一……この手の魔法に弱い。もっと言えば、簡単に洗脳できるのだ。

 

 ただし、いつでも精神効果を受け付けるわけではない。ある一定以上のHP以下になると、急激に精神耐性が大幅に弱体化するのだ。

 

 その条件を満たしたことで、アイリスの<記憶操作>によってメラクの意識が上書きされていく。メラクがメラクであった記録は消え、変わりにサトルにとって都合の良い記録がねじ込まれる。再生しつつある首にも、上書きされた脳を通じて新たな情報が書き込まれる。

 

 数分経った頃には、メラクと呼ばれる怪物。セプテントリオンはこの世にいなくなった。代わりにいたのは───

 

「グルルッッッ! キュイイイィ!!」

 

 喉を鳴らしながら、サトルとアイリスに頭を擦りつける巨大なドラゴンだった。

 

「あー……しんど」

「疲れたのです。ネガティブです」

 

 雑草すら生えていない大地に、主従は本気で疲れたのか<上位道具創造>でソファーを作ってから座り込む。サトルの膝を枕代わりにアイリスは寝転がり、サトルはそんな彼女の頭を撫でる。

 

 疲れた主従はしばしの間、そうして一息つく。

 

「……こいつどうしようか?」

 

 サトルの言うこいつとは、二人が座るソファーの近くに陣取ったメラクだ。キュイキュイと鳴き声は可愛いのだが、とんでもない巨体なので可愛さは微塵のかけらもない。あまりにもデカい三つ首ドラゴンを見ながら、サトルは少し思案する。

 

「こちらにセプテントリオンが出現すると分かった以上、この子は地上世界に置いておいた方がいいと思うのです。アイリス達が向こうに行っている間、帝国を守ってもらうのですよ」

「んー……そうするか」

 

 一番良いのはユグドラシルⅡに戻すことだが、アイリスが言うように自分達がいない間にセプテントリオンがこちらに出た時の守りも欲しい。

 

 ならば向こうに戻すよりも、メラクはこちらに置いておく方が得策。同じセプテントリオンであるメラクであれば、セプテントリオンが出現しても互角に戦うことができる。

 

 ならそうしようと決め、いつまでもこんな殺風景な場所で休んでいるのも勿体ない。これから一帯を修復したり、アイリスが消し飛ばした月を元に戻したりと作業が幾らでもあるのだ。

 

 アイリスと共に、よいしょと立ち上がったサトルは、後方に立っている誰かに気づき溜息をつく。アイリスも「あー……」と呻いている。

 

(これだけ大暴れしたんだから、そりゃ気づくよな。……面倒くさいが、対応するしかないよな。面倒くさいが)

 

 このまま<完全時間停止>を使って、何事もなかったかのようにしても良いが……はっきりと顔を見られた以上、誤魔化すのも愚策。最悪本体の記憶を書き換えに行けばいいと決め、サトルはそちらに振り返る。

 

「何の用だ」

 

 サトル達の後ろに立っていた人物。それは白金の鎧……ツアーだった。

 

「君たちは……なんなんだ」

 

 己の故郷を滅ぼした三つ首の黄金竜。それを指さしながら、ツアーは二人に問いかけた。





メラク:精神耐性に脆弱性あり。セプテントリオンで唯一捕獲可能

ジルクニフ:気づいちゃった

ツアー:君らなんなの?
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