リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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FFFF

 デミウルゴスの朝は早い。早いと言うか寝ていない。主であるサトルと義妹であるアイリスが就寝している間も、二人に代わって雑事を担う。

 

「ふむ……私の方で手配しておきますか」

 

 アイリスが纏めていた書類を読んだデミウルゴスは、サトルが召喚していた魔将達に命じて案件を片付けていく。

 

 現在のデミウルゴスは、皇国騎士団参謀兼ゴウン家の執事を担当している。フレーバーテキストとして、軍略、内政、外政などの国家作用すべてに極限の才能を持つ彼は優秀だ。アイリスも近い領域にいるが、彼女はうっかり属性持ちなので若干頼りない。

 

 寝ずに仕事をこなすデミウルゴスからは、疲れた様子も見えない。サトルのために働けることこそが最大の栄誉。ならば疲労など覚えようもない。

 

 ……アイリスも24時間働けますかなところがあるが、彼女にはサトルの安眠を促す抱き枕な役目がある。あとオスの本能を満たしたり。なのでサトルと共に就寝していた。

 

 パンドラはセプテントリオンが他に出現していないかを、バルキリーを引き連れて探索中だ。

 

「セプテントリオン……私では何の役にも立たないのは、些か……非常に悔しいですね」

 

 アイリスが知るセプテントリオンの情報を記した書類。眼を通したデミウルゴスは、改めて悔しさを滲ませながらため息をつく。

 

 世界級エネミー(ワールドエネミー)については、デミウルゴスも知識としては知っている。36人の廃人プレイヤーが専用対策を練った上で、敵AIが強行動を取らないように祈る運ゲー。ナザリックのNPCとしては信じたくないが、全盛期のAOGですら手数と火力が足りずに討伐は不可能。それがワールドエネミーなのだ。

 

 ただのワールドエネミー相手ですら、デミウルゴスがあと100人いたところで何の役にも立たない。一方的に蹂躙されて殺されるだけ。そんな有様なのに、セプテントリオンは輪をかけて酷い。

 

 かのワールドエネミー達は単純なステータス的な強さだけでも、100レベルプレイヤーのそれとは桁が違う。100レベルのプレイヤー───例えばユグドラシル時代のサトルは、全ステータスを合計して700程度。異形種なのでこれでもステータスがかなり高い。同じ100レベルかつステータスが低い人間種のアイリスは599。デミウルゴスは浪漫構成なので600強と言ったところだ。これに装備による補正値やパッシブスキルやアクティブスキル、バフの効果などが加算されて最終ステータスが計算される。

 

 ではセプテントリオンがどのレベルのステータスかと言えば……FFFF。一つ一つのステータスが65535で、MPに至っては無限。MPを除く総計ステータスは約53万。これに専用パッシブやフィールド効果、ドゥーベのように覚醒形態などの補正値が加算される。

 

 バフやスキルを考慮しない数値だけであれば、サトルやアイリスすら遥かに上回っている。二人の場合、スキルや世界級装備による上昇率が凄まじい分、最終計算でとんでもない跳ね方をするが。

 

 53万対600強。デミウルゴスが仮にセプテントリオンとの戦いに参戦したところで、一撃でも直撃すれば消滅する。ナザリック全兵力が揃っていても、10秒足止め出来れば御の字だ。

 

「モモンガ様と義妹でなければ、倒せない相手、か……」

 

 一般的なプレイヤーを凌駕する領域に立つ二人だけしか、セプテントリオンの前に立つ資格がない。嫌なものだとデミウルゴスは首を横にふる。

 

 ナザリックのしもべにとって、AOGのメンバー41人は神だった。最後まで残ったサトルも偉大な神だ。そんな神に相応しい絶対的な力を得たサトルのために、役立つことこそが召喚されたデミウルゴスにとっての最大の意義。なのに、サトルにとって唯一と言える敵相手では、ご自慢の頭脳すら役に立たない。

 

 出来ない。これがデミウルゴスには本当に辛い。

 

「モモンガ様。御身のために役立てない私に、何の意味があるのでしょうか……」

 

 窓の外を見ながら大悪魔は肩を落とす。サトルが観て喜んだ満点の星空。41人がここにいれば、全員が感嘆の声を漏らした光景の下には、今もどこかにセプテントリオンがいるのかもしれない。

 

 結局のところ、偉大な主と、創造主が託した希望が帰る場所を、執事として切り盛りするのが自らの役目なのだと呑み込み、デミウルゴスはペンを走らせるのだった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「───たいちょう……」

「無限魔力……今は何も言わないで下さい」

 

 カッツェ平野を三人の影が歩く。一人はボブカットの金髪で、クレマンティーヌによく似た顔立ちの男性。もう一人は巨大なとんがり帽子を被った下着姿の女性。そして、女性に隊長と呼ばれた男性。射干玉の長髪に中性的な顔立ちをしている。

 

 彼らこそが法国最大戦力。北西人類最大最強の集団。漆黒聖典……の生き残りだ。

 

 生き残り。そう、生き残りだ。

 

 破滅の竜王復活に備え待機していた彼らは、最高神官長の命を受けて出撃。人類存亡を賭けた闘いに赴いた。

 

 目標はカッツェ平野に復活した破滅の竜王。三つ首の黄金竜。それを討伐……討伐が困難であれば、六大神が遺した最大の秘宝を使い、破滅の竜王を洗脳する。幸いにも、伝承によれば破滅の竜王は始原の魔法が使えない。つまり、法国の大秘宝『ケイ・セケ・コゥク』が通用するのだ。

 

 ただ人類の明日を守るために。

 

 そう願いカッツェ平野に向かった漆黒聖典は、それと相対した。

 

 伝承によれば、破滅の竜王は巨大だと伝えられている。なるほど、確かに巨大だと全員が感じ取った。同時に恐ろしく強大だと。

 

 しかし、漆黒聖典に諦める選択肢などない。なにせ彼らは、自分達より強い相手と幾らでも戦った経験がある。法国の宝物庫を守る、半森妖精(ハーフエルフ)の神人と、だ。例え格上でも、早々負けはしないと言う自負が彼らにはあった。

 

「使え!! 各人はケイ・セケ・コゥクが作用するまでの間、なんとしても守り切れ!!」

 

 隊長の言葉を皮切りに、白いチャイナドレスを着た老婆が前に出る。チャイナ服には天に登る竜が金糸で刺繍されており、その竜が光始める。

 

 それらを見ながら破滅の竜王……と間違われたメラクは、なんだろうこいつらと眺めていた。アイリスに記憶を弄られた事で、彼らが人間種だと言う事は分かる。構えているのが武器と呼ばれる代物で、他者を害したりすることに使う物だと言うことも分かる。

 

 ただ分からないのは、どうして武器を構えているのかだ。

 

 右の首は興味深そうに武器を眺める。全く、これっぽっちも脅威を感じないが、珍しいのか興味津々だ。

 

 左の首は害意を示す集団に、少しばかり敵意を見せ始めた。アイリスからカッツェ平野に人が立ち入ったとしても、極力殺したりしないように言い含められているので攻撃は仕掛けないが、若干不満気だ。

 

 真ん中の首は、チャイナドレスが精神作用効果を及ぼすアイテムである事に気づく。

 

 チャイナドレス───『傾城傾国』。精神作用に対する完全耐性すら貫通し、対象者を100%支配下に置ける別格のアイテムだが……メラクには効かない。

 

 メラク含めて、ワールドエネミーには世界級アイテムでも通用しないからだ。精神耐性に脆弱性のあるメラクだが、それもHPを赤色になるまで削られた時のみ。それ以外では盤石である。

 

 そもそも精神脆弱Vまで追い込んだとしても、アイリスがやったようにメラクを支配するのは実のところ難しい。確かに脆弱性を持つが、ステータスの総耐や魔防まで下がるわけではない。メラクを支配下に置くには、FFFFの壁を超える必要があった。

 

 明確な害意を以て接してくる敵。それに遠慮をそこまでする気はメラクにない。とは言え、アイリスから極力殺すなとは命じられている。なので牽制程度の軽い一撃で脅し、この場から撤退させれば良いかと権能を発動。

 

 メラクからすれば、そよ風程度の重力場が発生。主人であるサトルやアイリスであれば、片手でいなせる程度のお遊び。

 

 ……並の100レベルプレイヤーからすれば、ゲーム中最高峰の攻撃力を持つ最強攻撃魔法<大厄災(グランドカタストロフ)>クラスの大火力。

 

 まず老婆が弾けて死んだ。続いてレイピアを持つ緑服の男───第二席次が挽肉になった。魔術師風のローブを着た第三席次は、上半身と下半身に分かれた。金髪の女性は右半身が消滅。第五席次クアイエッセは連れていた10体のモンスターが壁となったのか、全身に罅が入る程度で助かった。

 

 第六席次は青と白の鎧ごと拉げ、全身から鮮血を噴き出す噴水になった。第八席次は両手に盾を持つタンク職だが、盾ごと砕け散った。第九席次は体に巻いていた長いチェーンが勢いよく締まり、胃を口から吐き出して絶命した。第十席次『人間最強』は最強さを魅せる暇もなく、縦方向に圧し潰された。

 

 第十一席次『無限魔力』は近くにいた第一席次に引っ張られて、ギリギリ一緒に重力場の効果範囲外に逃れられた。

 

 第十二席次ははるか後方に吹き飛ばされた。水平に5キロ、垂直に2キロ飛ばされた彼は途中で意識がブラックアウト。気を失ったまま墜落し、死んだメンバーの中では一番人の形を保ったままこの世を去った。

 

 漆黒聖典隊長第一席次『漆黒聖典』は、無限魔力を腕に抱いたまま、呆然とした表情でメラクを見上げる。格上だとか、格下だとか……そんな話ではなかった。遥か頭上で三つの首が潰れた人間達を見下ろしている。

 

 その目を見た瞬間……第一席次と第十一席次は心が折れた。まだ生きていたクアイエッセを回収し、その場から全力で逃走。その場に傾城傾国や、まだ壊れていない神々の武装を残す羽目になったが、そんな事に意識を割いている余裕は二人にはなかった。

 

 時折第一席次は振り返り、後ろから恐ろしい怪物が追って来ていないかを確認する。その場からメラクは動いていない。

 

 ……メラクは呆然としていた。軽い牽制をしたら、なぜか10体の内7体が簡単に潰れてしまった。

 

「殺しはメッ! なのですよ!!」

 

 主人から怒られると、メラクは意気消沈したのだった。

 

 その後───

 

「……アイリス。こいつらって……」

「ネガティブ。漆黒聖典なのです……」

 

 メラクが権能を行使したのを感じ取った二人はすぐに飛び起き、カッツェ平野に参上した。そこで見たのは、死屍累々の屍たちだった。装備や傾城傾国からすぐに身元が判明。あちゃぁ……と主従は手のひらで頭を抑える。

 

「メラクを人類の脅威と判断して派遣したのだと思います」

「それで傾城傾国を使い、メラクにしっぺ返しされたか……なんて不運な」

「とりあえず傾城傾国だけ回収しとくのですよ」

「死体は……その辺に埋めとくか」

「キュアァア……」

「メラク? そんなにネガティブに脅えなくていいのですよ。彼らは貴方を害しに来た。

貴方は反撃で殺した。そこに罪も罰もありません……メラクの想定以上に、彼らが()()()()。それだけですよ」

 

 頭を伏せて反省のポーズを取っていたメラクの頭を、アイリスは何度も撫でる。この件に良いも悪いもない。屈服させに来た。反撃で殺された。それだけだ。

 

 何はともあれ。元人類最強集団漆黒聖典。英雄級以上だけで構成された法国の切り札の一枚は、この日をもって壊滅した。




セプテントリオンのステータス回。ステータスだけに限定するなら世界意思進化前黄昏アイリスの10倍以上

隊長&無限魔力:今回の一件が完全にトラウマになった

クアイエッセ:ダイスでクリティカル判定を出した。一人だけ気絶していたおかげで精神ダメージは低い。肉体ダメージもポーションで治った

占星千里:法都から漆黒聖典のバックアップをしていた。あまりの惨事にsan値直葬

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