リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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愚か者共の祭典

 エ・ランテル壊滅から数ヶ月。季節は秋から冬に差し掛かる時期であり、例年通りであれば帝国が王国に対して難癖をつけて戦争を仕掛ける頃だ。

 

 しかし帝国……ジルクニフは、今年戦争を仕掛ける気は一切ない。エ・ランテル騒動により王国の国力が大幅に低下している今、別に戦争をする理由もないからだ。そんな事よりも、メラクの嵐により甚大な被害が出た南東方面の都市復興に尽力する方が先決だった。

 

 例年通りの戦争がない。それは王国にとって福音だが、幸運と言う訳では決してない。未だに貴族からの重税は民に負担を敷き、圧迫した国庫は重くのしかかる。

 

 まだ息が白くなる程ではないが、農作物を収穫した農民は冷たい井戸水に手をかじかまさせる。農村で取れた収穫物の殆どは彼らの口に入らない。領主の元に運ばれ、彼らの懐を肥えさせるだけだ。

 

 着々と自滅の道を辿るリ・エスティーゼ王国。そんな国では今、とある軍事計画が立てられていた。

 

 エ・ランテル奪還作戦。

 

 アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』に依頼された、城塞都市の調査。イビルアイはツアーに会った後、改めてエ・ペスペルに帰還。法国が絡んだ計画に関しては情勢を考慮して伏せ、凶悪なアンデッドに関する報告書を提出した。

 

 エ・ランテルに出現したアンデッドは伝説に謳われる者達ばかり。蒼の薔薇単独での討伐は不可能。

 

 要約するとこんな内容の報告書だ。

 

 これはエ・ペスペルの組合を通じて、ぺスペア候にも伝えられた。アダマンタイト級冒険者チームで不可能。つまり王国戦力では討伐は難しいと言うことだ。

 

 朱の雫のリーダーであれば、時間を賭ければ討伐は可能かもしれないが……現在彼は王国におらず、連絡も取れないのでどうしようもない。

 

 この調査結果はヴァランシア宮殿での宮廷会議にも持ち込まれ、多くの貴族が知るところとなった。

 

「全く! 何が討伐不可能だ!!」

「然りですな。アダマンタイトと持て囃されても、所詮は平民……戦う前から諦めるなど、根性のない」

「そう言ってやるな。彼女らには高貴な血が流れていない。我らのように国を想い、尽力する尊い血がな」

「下賤な身に相応しい軟弱さか。なるほど。それであれば、このような意気地のない報告を上げられるのも無理はないか」

「彼女らのリーダーは、アインドラ家の娘であろう? ならば貴族ではないか?」

「元、な。貴族としての責務も果たさず出奔した小娘だ。剣だの魔法だのと腕はあるかもしれないが、貴族の娘に求められる技能ではなかろう」

 

 なにがアダマンタイトだと、宮廷会議に参加した貴族達は口々に蒼の薔薇を罵る。普段はモンスター退治をこなす冒険者相手なら、表面上は敬うかのような態度を取るが、貴族しかいないこの場では違う。

 

 所詮は平民の癖にと内心見下しており、特別扱いされている冒険者が嫌いな貴族は多い。彼らを頼らないといけない場面が多いので、依頼時には相応の対応をするが……本音は、なぜ貴族の自分達がこんな平民共に頭を下げねばならんのだが主流だった。

 

「それで。エ・ランテル奪還に向けた、徴兵はどうなっている?」

 

 貴族達の罵りを黙って聞いていたバルブロが口を開く。エ・ランテルの奪還。これを命じたのは、誰あろう国王であるバルブロだ。

 

 王となったバルブロにとって、本来であればランポッサから引き継いでいた筈の直轄領地。それがエ・ランテルだ。それがあろうことか、アンデッド如きに墜とされた。彼にしてみれば憤懣やるかたないとしか言えなかった。

 

 エ・ランテルの一件があったからこそ、バルブロはなし崩しに王となった。それぐらいは彼にも理解できるが、だからと言って、いつまでも自分の領地を薄汚い連中に占有などされっぱなしにするつもりもない。

 

 幸いにも、今年は帝国が仕掛けてこなかった。ゆえに、今こそが奪還の時なのだと息を荒くしている。

 

 そんなバルブロに、ボウロロープ侯が進言する。

 

「申し訳ございません。当初は20万を集める予定でしたが、遅々として進んではおりません。エ・ぺスペルに招集をかけてはいますが、まだ5万ほどしか都合出来ておりません」

「むぅ……」

 

 これがただの貴族であれば、なぜ集まっていないのだとバルブロは声を荒げたかもしれないが、相手は義理の父であるボウロロープ侯。自分の権力基盤の一つでもある候に対しては、そこまでバルブロも強くは出られない。

 

「なぜ進んでいない?」

「王も知っての通り、現在は収穫期です。例年の戦争と違い緊急性は低く、多くの領地から民を動かすことが難しいのです。エ・ランテルからアンデッドが溢れだし、王国方面に向かっているなら国家緊急事態を宣言もできましたが……現状では困難かと」

「そうか……それは、ここに集まった全員の総意か?」

 

 領地をもったことのないバルブロは、収穫期の大切さを実感として知らない。知識としてはあるのだが、物心ついて以来飢えを経験していない現王では、それを体験していないのだから知りようもない。

 

 自らの領地を持つ貴族は、頷きはしないが否定もしない。彼らも飢えなど知らないが、民に収穫させ、税として納めさせなければ自らの懐が潤わないことは実感している。

 

「……しかしながら、王が言うようにこの時期を逃しては、エ・ランテルの奪還は叶わぬでしょう」

 

 ボウロロープ侯の言葉はある種の真実だ。これから本格的な冬が到来すれば、進軍そのものが難しくなる。それに気温が低くなれば、アンデッドに有利に働く。

 

 多くのアンデッドは冷気に耐性を持つ。どれだけ極寒の地帯でも、問題なく活動可能な種類が多い。対して人間種は寒さに弱く、魔法の鎧で無ければ金属に凍え、厚着をしなければ動きが鈍る。冬の寒さの中、アンデッドに挑むのは悪手なのだ。

 

 そのことは知っているが、宮廷会議に参加している貴族の反応は鈍い。……正直なところ、彼らはエ・ランテルの奪還に乗り気ではない。バルブロ王の土地を奪還したところで、自分達の旨味が少ないからだ。皆無とまでは言わないが、払う労力に見合うほどではない。

 

 しかし、エ・ランテルの奪還を真っ向から否定するのもよろしくない。バルブロはお飾りの王とは言え、それでも王なのだ。それに彼の後見人はボウロロープ侯。六大貴族相手にやりあいたいと思うほど、気合いの入った貴族は殆どいない。それにここで不参加を表明すれば、敵対貴族に付け入られる隙になるかもしれない。王派閥と貴族派閥の争いは無くなったが、貴族同士の足の引っ張り合いは未だ健在。そもそも同じ派閥の中ですら内輪もめをしていたのだ。今更、本当の意味で全員で手を繋いで王国のために尽力など真っ平ごめん。そんな思惑の数々から、やる気が無い事自体は全員上手く隠していた。

 

「平民共の集まりが悪いのであれば、当初の予定通り冒険者を集めるしかありますまい」

 

 貴族の一人が口を開くが、「冒険者なぁ……」と言葉を漏らす貴族達。例年の戦争では組合の規定により冒険者を戦場に駆り出すことは出来ないが、エ・ランテルに巣食うのは悪しきアンデッド。戦争と違い冒険者を駆り出すことは出来るが……王国中の組合が今回の奪還作戦に否定的な立場だ。

 

「それは難しいでしょう。御存じの通り、エ・ランテルの現状は蒼の薔薇により報告されました。国一番の冒険者が、討伐は不可能だと断言したのです。これを受けて、多くの冒険者組合が我々の要請や依頼を断ってきています」

「……どうにか意見を変えさせることは出来んか?」

「組合が断る以上、我々貴族の特権で意見を変えさせることも難しいです。組合と揉めたりすれば、今後のモンスター討伐に支障が出ます。それを抜きにしても、アダマンタイト級冒険者チームが不可能と断定したことが尾を引いている。確実に死ぬと分かっている死地に、彼らは飛び込んだりしません」

「……結局のところ、蒼の薔薇に全責任があるということだな」

 

 バルブロの言葉に進言していた貴族───レエブンは表情を変えないが、心の中では失望する。ぺスペア候も隠しているが、内心では自らの顔をバルブロの言葉で潰されたと若干憤慨していた。

 

 ぺスペア候が蒼の薔薇に依頼したのは、あくまでも調査のみ。どの規模の脅威が出現しているのかを知るための威力偵察なのだ。

 

 アダマンタイト級が討伐は不可能。これ以上なく分かりやすい評価だ。ぺスペア候としてはこの情報だけでも十分。イビルアイにより、出現しているアンデッドの名称や、どの程度の難度なのかも判明済み。なので、蒼の薔薇はきっちりとぺスペア候の依頼をこなしてくれたのだ。

 

 なのに、バルブロは蒼の薔薇が軟弱な意見をしたせいで、他の冒険者もそれに同調したのだと批判する。それは依頼主であるぺスペア候も侮辱する行為に他ならないが……この場に集まった全員は口を開かない。バルブロと言う傀儡王は、できればずっと愚かであってくれたらそれで良い。そう言う発言はよろしくないと、誰も教えようとはしない。

 

 この場にはそんな思惑しかなかった。

 

 そんな思惑の中、今度はリットン伯が口を開く。

 

「そうですな。多くの冒険者や組合が賛意を示さないのは、最高位の冒険者が不参加を表明したからでしょう」

「その通りだ!! ラキュースの奴が首を縦に振ればそれで済むのに、あろう事か俺の要望に応えぬのだ!! 組合に不満はあるが、あいつらの拠り所は蒼の薔薇なのだろ! 全く忌々しい……」

「……ええ、実に忌々しいですね。ですが、逆に言えば蒼の薔薇が今回の奪還計画に参加すれば……他の冒険者共は、参加せざるを得ない立場になるのではないですかな」

「それはそうだろう。しかし彼女らは不参加を、最初から明言しているのだろ? それでどうやって参加させるのだ。強権を行使して、他国に逃げられでもしたらそれこそ大惨事ではないかな?」

「……強権など行使しませんよ。ただ、バルブロ王からこう説得して貰えれば、彼女らはうんと言わざるを得ない。それだけの話です」

 

 リットン伯の言葉に全員が顔を見合わせる。説得なぞどうやると言うのだと……

 

「王よ。蒼の薔薇……特にリーダーである、アインドラの娘の件ですが……」

 

 リットン伯が示した蒼の薔薇の説得方法。それを聞いた一同は、確かにそれなら確実だと───本当はレエブン含めて一部は心の中で苦虫を噛み潰し───アダマンタイト級冒険者チームを参加させる事が決定した。

 





王国貴族:奪還できるできないじゃない! (平民が)命を賭けてやるんだよ!!
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