リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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オペレーションゲヘナⅣ

「保護するべき! 絶対に保護するべき!! この子は私たちで保護するべき!!!」

 

 路地で八本指の三下共からダークエルフの少女───マウラを保護したガガーランは、事情を伝えるべく一度宿に戻った。

 

 幸い三人ともまだ宿にいたので、何があったのかを説明。ガガーランの後ろに隠れていたマウラがひょっこり顔を出した瞬間、ティア(レズ忍者)に電流が走った。

 

 小柄な体躯に保護欲を誘う自信なさげな表情。ピンと伸びた耳以外は、どこまでも人間の美少女な顔付き。ほっそりとしたエルフらしい体つきなのに、将来豊満な肉体になるダークエルフの要素が出始めているのか服の上からでも分かるしっかりとした腰つき。

 

「ひゃあああ!!!」

 

 忍者のスキルを駆使して少女の背後に忍び寄り、体をしっかりとホールドしたティアはマウラの体をまさぐる。

 

「……パーフェクト。匂いも凄く良い」

 

 ティアの好みに全てが合致する。そんなダークエルフ少女に満点を出したティアは、ひたすら匂いと体温を堪能しようとして───

 

「なにやってんだこのドアホ!!」

 

 とガガーランに殴られたのだった。そして前述の台詞に繋がる。見た目が好みのロリだから助けようと言うティアは無視して、ラキュースはガガーランに改めて問う。

 

「……ガガーランは冒険者を辞めるのね」

「別に辞める訳じゃねえよ。王国でこれ以上続ける気が無くなっただけだ。この先王都で冒険者稼業をやっていても、いつあのアホを筆頭としてお偉いさん共の無茶ぶりに付き合わされるのかわかったもんじゃねえ」

「それには同感する。貴族や馬鹿王の暴走は非常に危険。八本指が捕縛される事は無くなり、お姫様がいなくなったことで黒粉の流通は未だに止まらず、麻薬の猛威は健在。それだけに留まらず、人攫いに人身売買。暗殺に窃盗、賭博、金融。あらゆる裏稼業にあいつらの影があって、冒険者をこれ以上続けるのはかなり危険になってきてた」

 

 ガガーランの言葉にティナが同意する。蒼の薔薇はラナーがまだ健在だった頃、彼女から八本指に関する依頼を組合を通さず請け負っていた。はっきりと言えば、ワーカーと同じことを蒼の薔薇はしていたのだ。その過程で麻薬栽培をさせられていた村の畑を焼き払ったり、暗殺稼業の人間を暗殺したりと暗躍していた。しかしラナー亡き後、蒼の薔薇はその活動を停止。

 

 スポンサーのいない仕事を続けるには危険であり、また蒼の薔薇にしか出来ない仕事は山ほどあって、いつまでも八本指関連に構っている暇はなかったからだ。

 

 それにバルブロが王になった事で、どうあがいても八本指を止めるのは不可能。国を想うラキュースなどはその事に歯噛みしていたが……彼女に国を相手に出来るほどの実力はなかった。

 

 しかし───

 

「これで俺は本格的にあいつらに喧嘩を売った事になる。いつまでも王都にいれば、どこから命を狙われるのか分かったもんじゃねえ」

「だから……その子を連れて出ていくの?」

「ああ。つっても、マウラちゃんだけじゃねえぞ。ラキュース。お前も一緒に来るんだ」

 

 ガガーランの目はまっすぐにラキュースを見据えている。

 

「……どうして?」

「どうしてもこうしてもねえだろ。喧嘩を売ったのは俺だが、あいつらが俺だけを目標にするって保証がない。下手すれば、お前の命だって狙うかもしれねえんだ。それに王都に残れば、その内あの馬鹿に徴兵されて、エ・ランテル(死地)に送られる。ただ死ぬためだけに戦場に行っても、お前さんの両親も悲しむだけだ。だからお前も一緒に来るんだ」

 

 ガガーランの言葉にラキュースは顔を俯かせる。行けば死ぬだけ。そんな事はラキュースにだって分かっている。相手はイビルアイを亡き者にした可能性が高い法国の神。蒼の薔薇の四人全員よりも、イビルアイ一人の方が実力は上。その彼女を敗北させる相手に挑んだところで、ラキュースも命を墜とすだけだろう。それでも───

 

「嫌よ。私は王都に残って、奪還作戦に参加するわ」

「鬼リーダー。それは馬鹿な行為だよ。無駄死にするために行くなんて、ただの馬鹿でしかない」

「……もう一度言うわ。嫌よ!! ここで逃げたりすれば、パパとママに迷惑がかかる。下手をすれば投獄されるのよ!! それなのに逃げるなんて!! そんな薄情な真似……」

 

 両親が人質に取られた以上、ラキュースに選択肢はない。バルブロに逆らえば、待っているのは悲惨な未来だ。爵位の元に生きて来た両親が、今更別の道を見つけられるとは思えない。

 

 ラキュースから見て両親は善人だ。……普通の善人が生きられるほど、王都リ・エスティーゼとは優しくない。誰かを蹴落とす悪人か、ラキュース達のように実力のある善人だけがまともに暮らせる。それが今の王都なのだ。そんな場所で貴族の権利を失えば、次の日には奴隷として市場に並んでもおかしくない。だからラキュースは納得なんて───

 

「あ、あの!! すみません!!! あたしが、その、ひょっとしてここに来たから……皆さんは喧嘩……してるんですか?」

 

 マウラがおっかなびっくりしながら声を上げる。その反応に、そう言えばこの子は事情を知らないんだったなと一同は思い至る。

 

「違うよ。鬼リーダーと筋肉ダルマの話し合いは、マウラとは関係ない」

「あ、そうなんですか……それじゃ、その、どうしてラキュースさんは、その、ガガーランさんに怒鳴ったんですか?」

 

 マウラは意味が分からないと言いたげにティアを見る。その視線を受けて、ティアはラキュースとガガーランに目配せする。

 

 説明しても良い?と視線をやったティアに、ガガーランは頷き、ラキュースは少し悩んだ後コクンと首を縦に振る。

 

「───今から話すのは極秘事項。他の人には説明したら駄目なやつだよ」

「は、はい!!」

 

 ティアの口からマウラは何があったのかを聞いていく。それを全て聞いたマウラは「うーん……」と言いながら、何かを悩みだした。

 

「どうしたの? そんな難しい顔をして」

「……ちょっと……ううん。凄く気になった事があるんです」

「気になる事?」

「はい!! 今回ラキュースさん達を従軍させたいのは、そうしないと戦力がないから……なんですよね?」

「その筈。そうしないと、今の王国にはまともな軍事力がないからね」

「あ、えと。その。その場合なんですけど、ラキュースさん達がいるから、その、バルブロさんって王様は勝てると踏んでるんですよね?」

「だろうな。俺たちがどれだけ無理だって言っても、聞く耳もっちゃいねえだろ。あと、あんなアホにさんづけなんていらねえ」

「その……無理ってことは、つまり蒼の薔薇の皆さんだと勝てないんですよね?」

「そうだよ。イビルアイが帰ってこれないほどの強敵相手に、私たちだけじゃどうしようもない」

「そうですよね。ならですね………ラキュースさんが着いていって負けました。この時、誰が敗戦の責任を負うんですか?」

「───あ?」

 

 マウラの言葉に全員が首を傾げる。

 

「どういう意味?」

「ひゅぅっ!!!」

 

 四人からいきなり注目を浴びたマウラは、びっくりしたのかガガーランの後ろに隠れようとして……その前にティアに捕まった。

 

「逃げる先はあの筋肉ダルマじゃなくてこっち。良いね?」

「あ、はい?」

 

 ティアの奇行に今度はマウラが首を傾げる。レズの波動に若干顔を引き攣らせているが、逃げる素振りは見せない。その事に機嫌を良くしたティアにマウラはまたもやわしゃわしゃされる。

 

 閑話休題

 

「えとですね……今回バルブロさんは、街を奪還するために、ラキュースさんを脅してでも参加させたいんですよね? そんな脅迫までしたのに、いざ蒼の薔薇が参戦した奪還軍が街まで行きました。それで敗北しました。これってバルブロさんには屈辱ですよね? 自分が招集した軍が無惨に蹴散らされたんですから」

「そりゃぁ……あのアホなら顔を真っ赤にして怒るだろうな」

「あ、あたしは直接、その、バルブロさんにはあったことないですが、話を聞いた限りでは凄くプライドが高い人だなって印象なんです……そんな人が敗軍の将になったとして、負けた責任を取ったりされますか?」

「絶対しない。悪いのは自分じゃなく、無能な周りだって押し付け───」

 

 ティナの言葉が止まる。マウラが何を言いたいのか。それに気が付いたから、言葉が止まった。ティナだけでなく、ガガーランも「その可能性があったか」と呟き、ラキュースも口を押えて「そんな……」と少し顔を蒼くさせる。

 

「そ、そうです。押し付けると思うんです。でも、その、今回ラキュースさんを脅した人たちって、すっごく偉い人達なんですよね? そんな人達が、バルブロさんに押し付けられたからって、素直に責任を取るんですか?」

「…………しない。絶対にあり得ない」

「───絶対にあり得ない。なら、きっと押し付けられた人も、別の人が悪いんだって言いますよね。じゃ、じゃあ、最後には誰にその責任が行きますか。今回の奪還作戦で戦力として期待されているのは───」

 

 マウラが四人全員と一度だけ目線を合わす。

 

「ここにいるラキュースさん達。ですよね? 折角戦力として徴兵したのに、負けてしまったなら……戦力にならなかった冒険者が悪いんだって言い出すような気がするんです……でも、でもですよ。悪いんだって言っても、その時点で、その、神様? に負けてガガーランさん達が亡くなっていたら、その責任は誰に行くんですか。バルブロさんや貴族さん達は、えっと……死人に配慮して無罪放免!? してくれる人たちなんですか?」

 

 ……マウラの言葉にラキュース含め、蒼の薔薇は言葉を返せない。敗戦の責任とは誰かが負わねばならない。今回の奪還作戦には、推定で10万人が徴兵される。イビルアイの予想では、その10万人全員が間違いなく抹殺される。10万もの人間が死ぬツケを、誰かが払わないといけない。では、バルブロがそれをするかと言えば……だろう。

 

 その他の貴族にしてもそうだ。元々乗り気ではなく、現王の我儘に少しだけ付き合ってやろうとお義理で参戦するだけ。そんな彼らが、わざわざ火中の栗を拾う訳がない。上位の貴族達は必死で、押し付けやすい相手を探すだろう。では押し付けやすい相手とは誰か。言うまでもなく、今回の奪還作戦の要を担う最大戦力───蒼の薔薇。彼女らが『無能』だから失敗したのだと押し付けるだろう。

 

 しかし押し付けようにも、奪還作戦失敗後に、ラキュース含めて蒼の薔薇は死亡している。ではそれを禊としてくれるかと言えば、バルブロにそこまで期待は出来ない。そこで誰が責に問われるかなど言うまでもない。

 

「バルブロさんは、うーんと……ラキュースさんのお母さんとお父さんを通して、ラキュースさんに要望を出した。ラキュースさんは要望に応えて従軍した。なのに敗北した。ラキュースさんにどうするつもりだと問いたいけど、当のラキュースさんは死亡している。だったら、えっと、そのですね。ラキュースさんの御両親を問い詰めると……その、あたしは思うんですが……」

「───子の責任は……親の責任…………」

 

 ラキュースが顔を青褪めさせながら、その言葉を口にしてしまった。誰も責任を取ろうとしないなら、確実にそこに話が行くだろう。

 

 お前の娘のせいで軍事計画は失敗した、と。

 

 とんでもない言いがかりだが、相手は王国の法である王と上位貴族達。対してアインドラ家は貴族とは言え、彼らに対抗できるほどの権力がない。つまり言いがかりであろうとも、難癖をつけられたらそれで終わり。両親を助けようにも、この想定では既にラキュースは死亡済み。

 

 マウラが言いたい事を全て要約するなら───

 

「ラキュースさんが参加しようが、しなかろうが、お父さんもお母さんも詰んでいる……んじゃないでしょうか。それどころか、ラキュースさんが参加して敗北したら、あの、です……冒険者組合って組織も、ろくな冒険者がいないからだ!! とか言われるんじゃないでしょう、か……」

 

 マウラの言葉が小さくなっていく。最後は自信なさげに言葉を切った彼女の言葉を、ラキュース含めて全員が咀嚼する。敗戦の責任は誰が取るのか。取らされるのはアインドラ家じゃないのか。ラキュースはその言葉を否定したいのに、どうやっても否定できなかった。王の権力を手にしたバルブロは明らかに暴走している。その暴走を利用して、貴族達は自分の要求や欲望を満たそうとしている。そんな連中が誰を人身御供にするのかを考えた時に……マウラの言葉は真実にしか聞こえなかった。

 

 数分経った頃。ようやくラキュースが口を開いた。

 

「………………私が何をしても……パパもママも……酷い目にあう?」

「……マウラちゃんの言葉は否定できない。あの脳筋王が誰を生贄にするかと言えば、ラキュースの両親は格好の餌」

「周りの貴族共も止めねえだろうな。なんせ下手な事を言えば、自分に不幸が降りかかるかもしれねえんだから」

 

 ティナとガガーランの発言に、ラキュースは口を引き絞ってしまう。何をしたところでラキュースの両親は助からない……いや。一つだけ助かる方法がある。蒼の薔薇がエ・ランテル奪還作戦において、スルシャーナを打倒すれば良いのだ。難度200を超える怪物を打倒して城塞都市を奪い返す。そうすれば全てが丸く収まるのだ……そんな事が不可能だと言うことに目を瞑れば、だが。

 

「鬼リーダー。どうするの?」

「……?」

「マウラちゃんが言ったように、従軍したところで両親は助けられない。だったら、こんな無茶な軍事作戦に参加する必要もない。大人しく、ガガーランと一緒に王都から逃げるべき」

「───無理よ。そんなの無理よ!! 私に見捨てろなんて───。そんなのって───」

 

 両親を救いたければ、エ・ランテルを占領しているらしいスルシャーナを滅ぼすしかない。しかし難度200を超えるような怪物を打倒する手段なんてない。両立できない矛盾にラキュースは頭を抱えて───

 

「だったら、えーと……ラキュースさんのお父さんもお母さんも連れて逃げれば良いんじゃないですか?」

「え?」

「今の話を全部伝えて、ラキュースさんから一緒に逃げようって伝えたら、駄目なんですか?」

 

 両親と一緒に逃亡すればいい。マウラの提案にラキュースは一瞬呆気に取られ……その可能性を考慮してしまう。

 

「そ、そんなの……」

「その手もあるのか!!」

 

 無理だと言おうとしたところで、ラキュースの言はガガーランに遮られる。

 

「ラキュース!! マウラちゃんの言う通りだ!! 両親と一緒に逃げるんだよ!!! お前さんの家族を救える手段はこれしかねえ!!!」

「え、でも、そんなの……」

「鬼リーダーは家族に生きていて欲しい。だったら鬼リーダーが家族を説得して、一緒に逃げて欲しいとお願いするしかない」

 

 両親に貴族としての地位を捨てさせる。あまりにも馬鹿げた行為であり、説得であり……一縷の可能性のある行為。それをラキュースは心の底から拒めず。一度家に帰り、両親と話してみると、その場では言葉を絞りだしたのだった。

 

 そんなやり取りを、マウラはただじっと見ていた。





バルブロ&貴族:あの人たち責任は取ってくれなさそう。多分誰かに擦りつける

ザナック:押し付けられそうな候補その2
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