まず第一に、実体化した年代と場所にズレがある。現在の法国から離れた地に、六大神が600年前に。法国から南方に数千キロ離れた砂漠地帯に、八欲王が500年前に。大陸中央から北西に数千キロ、今は滅んだ
そして、
プレイヤーだけでこの有様なのだ。当然、ワールドアイテムも世界中に散らばっている。そして第2に、ワールドアイテムは全てプレイヤーのアイテムボックスに収容可能なサイズ……つまり大して大きくない。一度展開すれば何億もの糸刃になる『幾億の刃』でも、待機状態では子供が使うような手毬程度のサイズだ。
それを世界中から探すのは困難を極める。何もない場所にポツンとあれば良いが、鬱蒼とした森の中にでもあれば通常では見つからない。
第三に、既にこの世界の住人、またはプレイヤーに回収されている。こうなると強奪するか、譲って貰うしか回収する方法がない。なお、この点に関してはサトルは気にしてない。交渉して譲って貰えそうなら交渉する。駄目そうなら盗るだけだからだ。
なので、難点なのは探す方法。広い世界からどうやって発見するかだ。二人は浮遊要塞の一角で超位魔法を使い、場所を調べようとしたが結果は徒労に終わった。
「<星に願いを>で直接場所を探る方法は駄目か」
「ワールドアイテムを、こちらに直接転送出来ないのと同じ理由でしょうね。アイテムにはそれぞれ格があります。神器級までなら、<星に願いを>の最大値である500%の願いでどうにかなっても、世界級が相手となると超位魔法では役者不足! 流石は! 世界級! ユグドラシルにおける最上位の輝き! ああ、それでこそワールドアイテム! 全盛期の、我らが神々ですら集め切れなか───」
「うるせえなこいつ。なんで後半になるにつれ、声がでかくなるんだよ。それと近いな、おい!」
「得意分野だと早口になるオタクさんなのです」
まずは手始めに、<星に願いを>を使って場所を特定しようとしたが不発。しかし、この結果にサトルは気落ちしていない。サトルのすぐ隣、距離1㎝も離れていない場所に座るパンドラが語るように、世界級は超位魔法の格上。例え使い手が同じ世界級のサトルと言えど、この法則は絶対だ。
「超位魔法による直接干渉は、相手が世界級だと不可能。これが判明しただけでも、試した甲斐があったと言う事にしておこう。それともう少しだけ離れろ、パンドラ」
超位魔法は一日に4回だけ。回数に制限がある以上、無駄打ちをしたくなかったので今までは試していなかったが、この機会に実験し、意味がないと言う事が分かっただけでも儲け物。
「ポジティブ。それでは直接干渉ではなく、間接的であれば可能なのかどうか。それを検証してみようなのです」
「ああ。では、パンドラ。準備をしろ」
「nach Deinem Willen」
サトルの命を受けたパンドラが椅子から立ち上がり、二人の前に立つ。帽子のつばに手をかけ、シュババと謎の動きを始める。その姿を見たサトルはげんなりし、アイリスは───
(オーナーがデータ端末の奥深くにパスワード付で封印し、存在すら忘れているオリジナル変身の動きですね)
もはや遠い過去、そう言う時期だったサトルがなぜか撮影していた黒歴史。なぜそれを撮ったのかはサトルすら覚えていない。なぜそんな事をしたのかも……なので目の前のパンドラのそれを、サトルはいつものやつだと思い、アイリスは二人ともそっくりなのですよとほっこりしていた。
100レベルNPCが行う無駄にキレッキレな変身ポーズが終わった時には、軍服の埴輪顔はおらず、サトルが良く知るとある姿があった。
「ブルー・プラネットさんのアバター体を見るのも久しぶりだな」
「こちらに来てからの年月も含めるなら、彼の引退は4年以上前なのです。オーナーにとって、かなり昔なのですよ」
中身がパンドラだとしても、かつての友の一人の姿が目の前にある。その事に少しだけ感慨深そうな目をサトルはする。
パンドラは種族としては
今まではその必要性が薄かったのでコピー能力を発揮させなかったが、今回に限り彼の───ブルー・プラネットの能力が必要となったので、御登場と相成った。
パンドラがブルー・プラネットになると同時に、サトルの周囲に多数の魔法陣───超位魔法の準備動作が始まる。アイリスは超位魔法の発動待機時間の間に、自分のインベントリからこの星を模した天球儀と地図を取り出して、パンドラとサトルの間に机と共にセットする。
「星よ、俺は願う! 目の前にいるパンドラズ・アクターが今から使う魔法の、効果範囲を限界まで拡大しろ!」
発動する超位魔法は言わずもがな<星に願いを>。超位魔法による強固なバフを受けたパンドラは、すぐさまとある魔法を発動する。
「<魔法効果範囲拡大化・
<地図発見>。効果は探している物品が地図上のどこにあるのかを、大雑把ではあるが赤い点で示してくれる魔法だ。位階自体は第六位階とあまり高くないが、効果範囲が1エリアと非常に広い。だが広いと言っても、流石に世界全体をカバーは不可能。なので、超位魔法による大幅な強化を行ったのだ。
三人がわざわざこの魔法を使った理由は───
「よし! 目論見通り、地図そのものは赤くなったぞ!」
「やりましたね父上! 素晴らしい慧眼だと、思わず目頭が熱くなってしまいました!」
「ポジティブ! ポジティブ!!!」
ワールドアイテムそのものを探す魔法は不可能だが、ワールドアイテムがある場所を探す。それなら可能ではないかとサトルが思いつき実行したのだ。仮に<物体発見>で同じことをしても、魔法がかけられる対象がワールドアイテムなら不可能かもしれない。しかし<地図発見>が働きかけるのはあくまでもただの地図。どこにでもある紙で出来ただけの地図相手ならば、通常位階魔法でも可能。それが推測であり、目の前の現実だった。
しかし───
「範囲が広すぎるな」
地図上にいくつも赤い点が出来たのは良いが、その点が大きすぎるのだ。<地図発見>は利便ではあるが万能ではなく、あくまでもこの辺としか教えてくれない。それに、探したい物品がどんな物であるかも知ってないといけない。今回はアイリスが全ワールドアイテムの姿かたちと効果を覚えているので問題ないが、仮にこの魔法で一般プレイヤーが探すとなると困難を極めるだろう。
赤点だけ探せば良いのでまだ楽ではあるが、それでも世界地図の縮尺を考慮すれば100キロ四方は当たり前にあるだろう。けれども、こうなる可能性を考慮し、パンドラに態々ブルー・プラネットになって貰ったのだ。
「あとはアイリスとお兄ちゃんの出番なのですよ」
アイリスとパンドラが天球儀にも映し出された赤点を記録。記録した赤点は天球儀、つまり球体に映し出されたものだ。それを頭の中で平面に変換し、今度は地図上に書き写していく。そうすると僅かにだが地図と天球儀の赤点にズレが生じる。そうしてズレた情報を再度頭の中にいれ、今度は頭の中に地上から見た時、天球儀に記された星と赤点がどのあたりに見えるのかを補正。
「この点はもう少し右なのです」
「ん~……少し右にズレ過ぎですね。あと1ミリほど私側に寄せられませんか?」
……これがブルー・プラネットのアバターを真似てまで<地図発見>を使った理由。現実では滅びてしまった美しく青い空と、今は無き星々が輝く夜空や自然に憧れていた彼は、ユグドラシル内でのスキルとして占星術を獲得していた。リアルに星を読む技術を問われる類の物を。
そんなスキルの一つに<地図発見>で赤点を地図以外の代物───星図などにもマッピング可能にすると言う、非常にニッチなスキルも取得していた。ユグドラシル内の星座や、いわゆる北極星代わりになる星などを正確に読み取れるなら、地図だけで見るよりもより高度に場所の詳細を知れる。一見利便なスキルだが、ゲーム内スキルだけでなく、リアルな技術も求められるこれを取得している人物は非常に少なかった。なお、その少ない一人がブルー・プラネットだ。
とは言え、かつてのギルメンを再現可能なパンドラがいても、サトルだけであれば無用の長物になったかもしれないが、再現役のパンドラとアイリスなら星読み程度訳もない。頭脳労働なので本当はデミウルゴスも来たがっていたが、彼にはゴウン領の宰相としての仕事が山ほどあるので留守番だ。
「完成なのです!」
天球儀と世界地図。星座の位置と赤点、それに対応する世界地図側の赤範囲。二つを比較参照することで、かなり正確に場所が絞り込まれたワールドアイテムマップをアイリスが高らかに掲げる。
「どれどれ……なるほど」
サトルが地図を見る。最初は100キロ四方だった赤点が、アイリスとパンドラが製作した地図では5キロ四方程度にまで絞り込まれていた。サトルは何度も頷き感心する。
「ユグドラシル時代にも、これぐらいのマップがあれば便利だったんだがな……」
「ゲーム時代ですと、入手条件が達成されるまで0のままですからね。
「父上のモモンガ玉のように、既に誰かが入手していてもですか?」
「ポジティブ。<地図発見>はあくまでも現時点での場所です。個人が所有している場合、その場所から動かされたら意味が無いのです。それにワールドアイテムの情報は、ゲーム中最大の秘密です。滅多な事では、市場に情報が出回らないのですよ」
「俺たちも、絶対にワールドアイテムに関しては漏らさなかったからな。アインズ・ウール・ゴウンが11個を所持していたのも、知っているのはギルドメンバーの皆と、ナザリックのNPCぐらいじゃないか?」
「ナザリックのNPCでも、私と参謀殿しか知らないでしょうね」
「そうなのか?」
「そうなんです。私や参謀殿は、可能性の海から引き上げられる際に、父上と妹からこちらでの情報や、ユグドラシルが元はデジタルデータであったり、リアルがどのような世界であったのかを知識として与えられています。しかし、そうでない場合、私たちNPCの記憶はフレーバーテキストとゲーム時代に実際に見聞きした情報に限られる……これは
「ポジティブ。<記憶操作>で消去する以前の彼女達には、それぞれ固有の記憶がありました」
NPCの性格や個性や記憶はプレイヤーが設定したフレーバーテキスト・種族・カルマ値に左右される。あとプレイヤー自身の性格も。これはバルキリーやデミウルゴスらの在り方で判明している情報だ。
「例えナザリックのNPCであっても、直接見聞きしていなかったら、ナザリックに何があるのかを把握はしていません。実際に、父上から知識をさずかっていなかったら、私は参謀殿の名も形も知らないのです」
「……ポジティブ。その例で言うならば、義兄さんはナザリック内のギミックや、宝物庫への入り方。そもそも宝物庫にお兄ちゃんがいることすら知らない事になるのです。ナザリックのNPCで、宝物庫に絡むフレーバーテキストが書き込まれていたのは、CZ2128・Δとお兄ちゃんぐらいですから」
「ふうん……実体化に絡むルールは、未だに不明瞭なことばかりだな。まぁ、今はこちらで物体として具現化したワールドアイテムに関してだな。地図上で赤くなっている範囲のどこかに、お目当ての物があるんだろ?」
「ポジティブ。とは言え、範囲を絞り込んでもやはりまだ広大です。今回の遠征だけで、全てを回収するとなると難しいと思われるのです」
「それに、誰かが所持していて動いているなら、この赤範囲は当てになりません。あくまでも目安にしかなりませんね」
「別に構わん。ユグドラシル時代に行われた、ニブルヘイムでガラス玉を探すイベントに比べたらよほど低難易度だ」
(あの糞イベントに比べたら、まだどこにあるのか分かるだけでもマシだっつうの)
ワールドアイテムほどではないが、ほぼ一点物と言っても過言ではないとあるアーティファクトが賞品だったイベント。最終的に誰も発見できず、運営の対応も杜撰だったせいでイベント参加者の大半がガチギレした事件を思い出し、サトルは遠い過去に思いを馳せる。
「どういったイベントだったのですか?」
「内容自体は単純なのです。広い広大なフィールドで、賞品の引換券になるガラス玉を探す。それだけだったのですが、少し問題があったのですよ」
「問題?」
「ガラス玉と言われて、お兄ちゃんなら何を想像しますか?」
「ガラス玉となると……小さくて透明で丸い物体ですね」
「ポジティブ。参加者もそう考えたのですが、そこはユグドラシル運営。一味違ったのです。彼らはあろうことか、そう言ったイメージされやすい物ではなく、ある物をガラス玉と呼んだのですよ」
「うわぁ……滅茶苦茶ですね。一体、ガラス玉の正体は何だったのですか?」
「これです」
そう言って、アイリスは<上位道具創造>で何かを手のひらの上に創り出す。それは───
「……将棋の玉を咥えた……鳥?」
「ポジティブ。玉を咥えたカラス。カラス玉なのです」
「……………………」
パンドラが絶句する。それは許されないだろうと。やっちゃあいけないだろうと。ガラス玉だからカラス玉。それは絶許案件だろうと……
「イベント日が4月1日だったので、騙される方が悪いと運営は発表したのですが……」
「…………許されたので?」
「エンチャント・ファイアーなのです! 本能寺や延暦寺より、良く燃えたのですよ!!」
暦上は休日だったので参加者も多く、いつも以上に燃えまくった忌まわしきイベント。指を角に見立てて、人間さんはみんな鬼になっちゃたのですよとアイリスは解説する。
パンドラはその光景を頭に思い浮かべてうわぁ……と声を漏らす。想像の中で在りし日の偉大なる神々が、全員怒り心頭になっている。とてもではないが、ナザリックの僕たちには見せられない。100%確実にイベントの立案者とやらをぶち殺しに行く。かくいうパンドラも、自らの神であるサトルを虚仮にした連中は全く許せない。殺しはしないまでも、骨の1本か2本は砕くだろう。
「あのイベントは、特にペロロンチーノさんがいつも以上に燃えていてな。ザッケンナコラー! スッゾコラー!なんて、あの人の口から聞けたのは、あれが最初で最後だな」
「なぜ、ペロロンチーノ様はそこまで?」
「その日ですが、とある声優のエイプリル・フールイベントがあったのですよ。非常に倍率が高いのですが、運よくペロロンチーノは当選しました。ですが、久しぶりに全員が集まれるイベントと言う事で、ペロロンチーノは、ユグドラシルを優先してくれたのです。その結果が……」
「……シャルティアが実体化したとして、聞かせられないだろうな」
今となってはサトルにとって懐かしく、これはこれで良い想い出と言えるかもしれない過去。当時の心境では糞運営がよぉ……と苛ついたイベントだが、もしもあのイベントをAOGのメンバーと振り返られるなら……やはり思い出の一つではある。
「今は思い出を振り返っている場合でもないな。ともかく、この地図を元にワールドアイテム探しと行こうじゃないか」
サトルは椅子から立ち上がり、黒い外套を身にまとう。目的地が決まったなら、まずは行ってみないと始まらない。サトルが旅用の服を纏ったので、アイリスも白色のフード付きパーカーを着用する。いそいそと瞬間着替えをする二人の傍ら、パンドラはと言うと───
「父上。御身に───」
「お前は留守番な」
「お待ちください! 私はまだ何も言っていません!!」
「どうせ探索に、お前も連れていけと言うお願いだろ」
「お兄ちゃんはアイテムコレクターですからね」
パンドラはフレーバーテキストとして、アイテムコレクターな気質がある。具体的には、一月に一日はレアアイテムの中で過ごさせないとストレスが溜まるぐらいの。
そんな彼にとって、ワールドアイテムは極上の品だ。例え自分の主が同じく世界級だとしても、それはそれ、これはこれ。ワールドアイテムを手に取り、眺め、物色したい。そんな欲望からちょっとだけ上申しようとしたが、あえなく却下された。
「ごめんなさいなのですよ。最悪うっかり癖のあるアイリスは抜けても問題ないのですが、お兄ちゃんまでいなくなると、義兄さん一人で領地を回す必要があるのです」
「デミウルゴスなら一人でも最悪どうとでもなるだろうが、それでもバックアップは欲しいからな」
「お兄ちゃんまで抜けると、現状では文官不足になっちゃうのですよ……」
「ぐぅ……」
ぐうの音だけは出したパンドラが撃沈。彼をユグドラシルⅡから地上に送り届けた後、二人は地図を見て最初に行く場所を決定。
そこは最初にメラクが出現した地。今はツアーが復興しようとしている場所であり、彼が集めたワールドアイテムが保管されていた国だ。
「メラクが暴れたせいで、かなりの財が行方知れずになったらしいからな」
「でもでも、ワールドアイテムは破壊不能属性持ち! 頑張って探せば、必ず見つかるのですよ!!」
長距離転移を使って東方の国に移動。東方の地に降り立った二人は、瓦礫だらけの国を見渡し、そして絶句した。
「…………ええぇ………………」
「でっかい亀さん……アルコルなのですよ…………」
いつ現れたのかは知らないが、そこにいた巨大な亀に驚くのだった
アイリス:うっかり癖はフレーバーテキストの影響。二人が悪ふざけで書き込んだやつなので自業自得