リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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世界級・ふしぎ発見 中編2

<上位快復>(グレーター・レストレーション)。起きて……起きて下さい。起きて下さいです」

「………………うむ?」

 

 サトル達に連れ去られた、年配と思わしきハーフリング。アイリスの<昏睡>で眠らされていた彼は、状態異常解除系の魔法を使われた事で昏睡状態から復帰。何度も体を揺すられ、呼びかけられることで意識が覚醒する。

 

「…………………………は!!!?」

 

 最初は薄ぼんやりとした目つきだった老人だが、自分が寝ていた事と、誰かに起こされた事実を認識した瞬間目を見開き、慌てて飛び起きてから地面に頭を擦り付け平伏し始める。

 

「申し訳ございません!! 申し訳ございません!!!! 許して……許して───」

 

 ガタガタと震えながら、老人は何度も何度も頭を地面に叩きつけ許しを請う。その姿を見てサトルはふむと少し思考し、老人の方をゆっくりと叩く。

 

「御老人。何に謝罪しているのかは検討もつかないが、まずは少し落ち着け」

「───へ?」

 

 サトルに優しく声をかけられても、中々頭を上げなかったが、状況を理解し始めたのかゆっくりと頭を上げて周りを見渡し始める。怯え揺れていた黒目が、サトルとアイリスを捉える。見た事もない誰か。美的基準は人間種であるハーフリングにとって、非常に整っていると断言できる二人を見て目を丸くする。

 

「……誰?」

「私たちか? 私たちは、ここから西の方角にある国から、こちらに旅して来たもので、サトルとアイリスと言う」

「旅?」

「旅だ。まさか、単語の意味が分からないか?」

「いや、分かるが……分かるが、なぜ、俺はあんたたちに起こされて……」

 

 自分が寝ていた事は自覚しているようだが、どうしてそれが旅の人間に起こされたのか。状況が全く掴めず、老人は困惑した声しか出さない。その反応に、俺も同じ状況に立たされたなら同じになるだろうなと内心思いながら、サトルは努めて柔らかく聞こえるように声をかける。

 

「私たちは旅の途中、偶然あなた方が住まう場所を見つけました。少しの間観察してみると、巨大な金属の蜘蛛? と共存しているのかと思ったのですが……しかしそれにしては様子がおかしい。まるであなた方ハーフリングを、監視しているかのようだ。そう思い、気になったので、御老人をここまで運びました」

「ハーフリング達の中では、貴方が一番ご年配です。皆が集まれば、おのずと長やリーダーが決められる。私たちは、貴方が長だと思い、お話を聞きたかったのです。本当は連れ出すような真似をしたくはなかったのですが、あの蜘蛛からは邪悪な気配を感じ取りましたので……あの場で貴方を起こし、話を伺うのは危険と判断しました」

 

 自分を連れ出した理由と、自分たちが何者なのか。眠らせたのはアイリスなので事実とは若干違うが、概ね間違ってはいない情報を二人は開示する。それを聞いた老人はうぅむと唸り───

 

「話を聞きたい……いや、そもそもあの蜘蛛共の眼をどうやって逃れて……」

 

 旅人に起こされたのは分かった。それはそれとして、どうやってここまで自分を連れだしたのかを、老人は訝しむが……結論は出ない。結論がでないことを考えても仕方ないとばかりに首を振り、老人はサトルとアイリスに顔を向けた。

 

「話か……何の話が聞きたい?」

「そうだな……まず、あなたはハーフリング……と私どもは思っているが、あっているだろうか?」

「あっている」

「そうか。では、名前を伺っても良いだろうか」

「フィンだ」

「フィン殿か……なぜフィン殿は、あんな金属製らしき蜘蛛と暮らしていたのだ?」

「!! 暮らしてなどおらん!!!」 

 

 暮らすと表現された瞬間、フィンが目を見開き唾を飛ばす。その反応に、サトルとアイリスは一応驚いた風な表情をしておく。

 

「俺らは暮らして!! あんなやつらと暮らしてなど!! くら───」

「……すまない。あまり、良い聞き方ではなかったようだ……改めて聞かせてほしい。なぜ、あの蜘蛛共はフィン殿や、他のハーフリングと一緒にいた?」

 

 サトルの言葉に多少憤っていた風なフィンだが、冷静に聞こうとするサトルの言葉が効いたのか、少しずつ熱が下がっていく。少しは落ち着いたのか、ふぅと息をついてから、改めてフィンは言葉を紡ぐ。

 

「……俺たちは……そういえば、ここはまさか……」

 

 何かを語ろうとしたところで、自分達がどこにいるのか気づいたのか、フィンが周りを見渡し始める。三人がいたのは、最初にアイリスが落ちた空洞だ。そこに落ちていたレンガ状のブロックを見て、フィンは目を細めて懐かし気に眺める。

 

「ここがなんなのかを、知っているのか?」

「……ここか? ここはな……50年ほど前まで、俺たちが暮らしていた場所だよ」

「先ほどの、日が差す場所ではなくここが本来の住居なのか?」

「そうだ。俺たちは50年前までは、ここにいたんだ。50年前までは、な」

 

 50年前と何度も強調するフィン。ここと、フィンが先ほどまでいた空洞にそれほどの距離はない。それでも、フィンの目は故郷を見る目だった。失った何かを見る目だ。それはかつてサトルがしていた目でもあり、同時に彼が少しは共感出来てしまう輝きでもあった。

 

 どれほどの時間そうしていただろうか。懐かしむのを止めたフィンが小さな声で語りだす。

 

「……今から50年前。俺がまだ餓鬼だった頃、両親含めて、みんなあの日が差す場所ではなく、ここに住んでいたんだ」

「なぜだ? あの場所の方が明るく、ここよりも良好に思えるが」

「あそこは開けすぎているんだ。天井が開いている分、外敵に侵入されやすい。それに対して、ここはあそこの小さな入口……おかしいな。ここの入り口は、俺たちが進めるぐらいの広さしか、無かった筈なんだが……」

 

 アイリスがこれでもかと削ったせいで、ぽっかりと空いた穴を見てフィンが首を傾げる。なぜ穴が開いているのかに、心当たりしかない主従はと言うと───

 

「あそこの穴だが、元はもっと小さかったのか?」

「ああ、そうなんだが……?」

「50年経ったことで、自然風化したのかもしれないのですよ」

 

 知らぬふりをした。追及されると面倒な問題だと感じたら、すっとぼける。この主従は、大体いつもこんな感じであった。

 

 そんな短い時間で、こんなに穴が広がるだろうかと不思議がるフィンだが、話の本題にはそれほど関係ないかと首を振り、このことは頭の片隅におくことにした。

 

「昔は、あそこは本当に狭かったんだ。あとは、ここの上部に穴があるが、毒霧地帯を抜けなければならないから、外敵から身を守るには本当に……この場所は良いところだったんだよ」

「良いところだった……か」

「だった。過去形だよ……俺たちは、昔からこの辺りにいたんだ。毒草や毒霧、そ外敵が入りにくい地形を活用して、身を守って来た。そんな日々が終わったのが……50年前だ。あれは、まだ俺がガキだった時だ。俺を含めて、数人で洞窟の外に出て遊んでいた時に、いきなり巨大な蜘蛛に襲われてな。そう、あんたらも見た、あの金属の外骨格を持つやつだ。とは言っても、初めて見た時はあんなんじゃなく、ただデカいだけの蜘蛛だったけどな。それに、俺たちの一人が囚われて喰われちまった。あんときは、大層驚いて……今なら、絶対にしないミスをしちまった」

「どんなミスだ?」

「……まっすぐに、住処に向かって逃げちまった。人間を襲って喰うような蜘蛛がいるのに、まっすぐにな」

「それは……あってはならないミスだな」

「ああ。最悪の間違いだったよ」

 

 見つかりにくく、籠城に長けた天然の要塞で暮らしていたハーフリング達。しかし、それは前提として他種族に見つからないことが前提の住処だ。なにせ───

 

「まともな出入り口はあそこしかねえ。もしもあの前で出待ちされちまったら、俺たちにはどうしようもねえ」

「その口ぶりだと、蜘蛛に居座られたか」

「居座れてたよ……最初はそんなことがなかったんだ。俺たちガキの間では、不運にも仲間が一人喰われちまった。それを大人に話しても、あんたたちだけでも助かって良かった。そんな話ばかりで、みんなこの洞窟から逃げようとはしなかった。俺らガキ共も、自分らが喰われなくて良かったって……それから数日の間はなにもなく、平和だったんだ。なのに……あの蜘蛛はやってきた。それも一匹ではなく、何十もの仲間を連れて」

 

 その光景は今でもフィンは思い出す。いつものように小さな、けれどハーフリングの子供にとっては大きい穴から出ようとしたら、大量の巨大蜘蛛が待ち構えていたのを……

 

「俺たちはどこにも逃げられず、籠城したところで食料が目減りしていくばかり。あんときは、ただ腹が減ってな。ついにはみな耐えかねて、餓死したくないとここから出ちまったよ。俺の両親も、俺も、みんなも……全員、腹が減り過ぎて頭がおかしくなってたんだろうな。でたところで、喰われて死ぬだけなのに……」」

「しかし……フィン殿。あなたはまだ生きている。あの蜘蛛に囲まれて」

「そうだな。生きているな……家畜として飼われているのを、生きていると言えるならな」

「家畜ですか?」

「ふん……穴倉から出た俺たちは、全員蜘蛛に捕まったよ。そして喰われるのかと思ったら、あいつらは俺たちを生かした。俺たちを生かして、管理して、食料として扱い始めやがった!!」

 

 ……フィンは今でも思い出す。あの蜘蛛達のリーダー格と思わしき存在。そいつは言葉を喋り、ハーフリングを育て、食料にすると。

 

「子供を産めない、年を取った老人はその日に全員喰われた!! 子を作る能力が低い女は、すぐさま喰われた!!! 全員、いつ自分が喰われるのかに脅え、毎日を過ごしたよ!!! 俺は偶々選ばれず生き残って!! 当時を知る分、ハーフリングのまとめ役にぴったりだと……そうやって、何年も……」

 

 50年前を知るのは、フィンただ一人。彼以外は、皆既にこの世にいない。親も、子も、友も……みな喰われた。そんな彼を、蜘蛛はハーフリングのまとめ役として選んだ。それだけが、フィンが唯一生き残った理由。ただ偶然に活かされただけ。

 

 新たに生まれてくるハーフリングは、蜘蛛の食料として消費される生涯だけがある。それ以外の道は与えられなかった。

 

「産まれて来た子に、最初に教えるのが、この蜘蛛達に美味しく食べられる事だと聞かせて───」

「……ネガティブ。例え、無知に育てられても、生物の本能は死を簡単に選びません。なのに、選べる道はただの餌。それが、彼らの無気力の正体でしたか」

 

 なるほど、なるほどとアイリスは何度か首を縦に振る。同時に、少しばかり気になった疑問を、フィンに問いかけた。

 

「貴方達ハーフリングと、蜘蛛の関係性は理解しました。ですが、そうなると一つの疑問があります。なぜ、蜘蛛達は貴方達を家畜としたのでしょうか?」

「それは……抵抗する力が弱くて、狩りやすいから……とか?」

「ポジティブ。それは確かにあるかもしれません。ですが、ハーフリングは小柄で、足が速く、管理するとなると難しい種族の筈です。それをわざわざ家畜化までして、生かした理由。それが少し気になるのですよ。フィンは何か、今までに気づいたことはありませんか」

「……さあな。俺には皆目見当もつかん。俺に分かるのは、やつらが全てを……一族に伝わる、秘宝以外の全てを奪っただけだ」

「秘宝?」

 

 秘宝と聞いて、アイリスがきょとんとした顔をする。秘宝と言う響きには、どうあがいてもレア感が付きまとう。それが貴重な物であれば、普通は家畜から奪うだろう。それなのに、なぜかそれだけは奪わなかった。それが不思議だとでも言う顔だ。

 

「秘宝ですか。それはどういった物で?」

「……まあ、ここまで聞かせたんだ。あんたらには、見せてもいいかもな。俺が常に携帯を許されている、唯一の物品だよ。ほれ」

 

 フィンが首にぶら下げていた紐。今まではボロボロの服に隠れて見えなかったそれを見た瞬間、アイリスとサトルが───

 

「『夢の砂跡』!!」

 

 と驚きの声をあげた。

 

「へっ?」

 

 いきなり大きな声を出した二人に、フィンが目を丸くする。その反応はどう見ても、フィンが取り出した秘宝を見てのことだ。

 

「あんたら……これがなんなのか、知っているのか?」

「知っているもなにも、それは元々私たちの持ち物だったものだ」

「なんだと!!?」

「『夢の砂跡』。どこに紛失したかと探していましたが、ここにありましたか」

 

 アイリスがフィンの傍に行き、彼が持つ秘宝を……世界級(ワールド)アイテムを指でなぞる。

 

「あ、あんたらの持ち物って……これは100年以上前に、俺たちの御先祖様が近くの遺跡で見つけた物で、それがどう見たってあんたらみたいに若い男女の物なわけ」

「それは……仕方ない。フィン殿にしてみれば、蜘蛛共から唯一所有を許されている、思い出の品か。それなのに、いきなり所有権を主張されても困るだろう」

「ポジティブ。フィン、今から、どうして私たちが旅をしているのか。その理由を話します。それを聞いてどうするのかはフィン次第です。私たちは───」

 

 自分達は見た目通りの年齢ではないこと。元々この秘宝は自分達が所有していたものだが、悪い竜に他の秘宝と共に奪われてしまった事。それらを見つけ取り返すために旅しているのだと、フィンはアイリスから聞かされた。

 

「悪い竜自体は退治されました。ですが、彼が所持していた多くの財宝は離散してしまったのです」

「その行方を追っていたところだったのだが……まさか、フィン殿の一族の秘宝として伝わっていたとはな」

「……そうか。悪い竜に、なぁ……」

 

 フィンはこの話を聞いて、半信半疑といったところだ。秘宝と聞いたので奪い取ろうとしているのではないかと言う気持ちと、これを見た瞬間にフィン達ハーフリングすら知らない名称を呟いたことから、本当なのかもしれないという気持ちだ。

 

 仮にこの話が本当だとするなら、本来の所有権は目の前に立つ二人にあることになる。しかし───

 

「……あんたらは、これをどうしたいんだ?」

「むろん、取り戻すつもりだ。なにせ、それを探して旅しているのだからな」

「そう、だよな」

 

 フィンは二人の視線から隠すように、手で秘宝を覆ってしまう。彼の胸中にあるのは、この二人には見せるべきではなかったという思い。

 

 奪われる辛さは誰よりも知っている。だから、取り戻そうという二人の心情も理解出来てしまう。しかし……しかしだ。これは、本当に最後の形見。フィンとかつての同族との、最後の思い出。それをいきなり現れた旅人に返すなど、出来る訳がない。

 

 その様子を見て、サトルは───

 

「フィン殿。貴方の気持ちは良く分かる。誰かとの、大切な思い出。家畜の安寧しか許されない日々の中で、最後の最後まで残る黄金の輝き。それを初対面の誰かに渡すなど、自らの魂を譲り渡すのと同義だ。しかし、私どももそれを欲している。だから……一つ、約束をしないか?」

「……やく、そく?」

「約束だ。私の故郷には、かつて報労金と言う制度があった。遺失物を拾った人物に、遺失物の一割程度の報酬を払わなければならないという制度がな……『夢の砂跡』は貴方の過去だ。過去を譲り受けるならば、私はそれに該当する何かを差し出さなければならない。では、ここで過去の1割に該当する何かとは、なんだと思う?」

「過去の1割なのだから……あんたらの思い出……とか?」

 

 いきなり過去の1割と言われても、同じく過去とやらしか思い当たらない。そんなフィンの言葉だが、アイリスが否定した。

 

「ネガティブ。他人の過去を差し出されても、フィンにとって私たちの過去は何の価値もありません。だから、貴方の思い出に該当する1割はやはり貴方自身から発露するものでないといけない」

「……私どもが差し出すのはな。フィン殿の、未来だよ」

「み、らい?」

「ポジティブ。未来です……フィン。貴方の口ぶりから、今の状況に不満があるのは誰でもわかります。このまま進んでも、貴方達ハーフリングの未来は蜘蛛の餌。けれど、その未来が変わるなら……今とは違う、輝かしい未来になる可能性が提示されたなら、それはかつての思い出に匹敵する。そう、私とオーナーは考えます」

「端的に言えばだが……蜘蛛共から、フィン殿を含めて、ハーフリングを解放しよう。それと、このままここで暮らしても、いずれは似たような未来になるかもしれない。そうならないよう、私の持つ領地で暮らす権利も与える。それがフィン殿の思い出を、私どもに返還する際に、払われる報労金とする。それが私ができる約束だ」

 

 ……しばらくの間、フィンは固まっていた。彼は手の中で秘宝を弄ぶ。

 

 家畜の生活に辟易していた。多くの同胞を見送った。反乱を企てたところで、どうしようもないほどの地力差があった。自分達はただの餌なのだと……同族が何か間違いを起こさぬよう、自分が取り纏めていればいいのだと誤魔化して来た。

 

 それなのに……今目の前にいる二人は、違う道を与えるのだと宣言してくる。

 

「ど……どうやって? あいつらは……見た通り、金属で出来た怪物だ。それなのに、たかが二人でどうやって、俺たちを解放する……」

「確かに。あの蜘蛛共が、どの程度の脅威なのかは未知数だ。しかしな……俺は、今、フィン殿に約束した。その約束でも不十分ならば、もう一度宣言しよう。『夢の砂跡』を返還するならば、お前達の未来を解放すると、アインズ・ウール・ゴウンとアイリスの名に誓って約束しよう!!」

 

 サトルは力強く言葉を放つ。それはフィンにしてみれば分からない言葉だが、サトルにとってこの二つに誓うのは、絶対を意味する。例えどれだけのことがあろうとも、この二つだけは絶対に裏切らない。

 

 それが伝わったのかどうかは不明だが……フィンは再度、手の中で秘宝を転がしてから───

 

「俺たちを……助けてくれ」

 

 手を差し伸ばした。

  

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「……真実は伝えられないのですよ」

「だな。それでも……あのワールドアイテムは、フィンさんにとって、過去との繋がりなんだろ」

 

 ワールドアイテムを渡すのは、蜘蛛をどうにかしたのを確認してからで良い。そう告げてから、二人は改めてハーフリング達が管理されている場所に向かって歩を進めていた。

 

「オーナー? 事前に知っていたとしても、やはり面と向かって、多くを見送って来た誰かの言葉は響きますか?」

「思ったよりもね」

 

 フィンが語った言葉の数々。あれは、フィンが語るよりも前に二人は知っていた。記憶を読める二人にとって、本当は聞き出す必要もない。<記憶操作>を行った時点で、フィンがワールドアイテムを所持しているのは判明していた。

 

 その時点でワールドアイテムだけ強奪してから、フィンを元の場所にもどしておけばいい。それが一番合理的な解だ。だがそれをしなかった。

 

「たった一人……か」

 

 もはや戻らぬ過去に蓋をして、残された唯一の思い出と共に家畜の長として生涯を過ごす。

 

 それはまるで写し鏡。誰かの生涯を映し出したかのような光景。鈴木悟にとって、他人事とは思えない出来事だった。

 

 だから最善策を捨てて、次善策を取った。それでも、フィンが差し出した手を取らず、ワールドアイテムを譲らなかったなら……その限りではなかった。

 

「恩には恩がいる。フィンさん達の一族が回収していなかったら、ワールドアイテムはもっと面倒なところにあったかもしれない。だから、その恩には報いなければな」

「ポジティブ」

 

 ……記憶を読んだ時点で、二人は何のワールドアイテムなのかを掴んでいた。同時に、これこそが蜘蛛達にハーフリングの家畜化を行わせたアイテムなのだと。

 

 ワールドアイテム『夢の砂跡』。見た目は小さな小瓶で、中に金色の砂が詰まっている。そしてこのアイテムの効果は……装着者と、装着者の周囲にいる同一種族に経験値を設定する。

 

 経験値を与えるではなく、経験値を設定……これの従来の使い方は、通常では経験値が設定されていないユグドラシルの牛や豚といった家畜から経験値を得られるようにする、だ。このワールドアイテムにより、ただ食事をするだけで大量の経験値を獲得できるようになる。

 

 ではこれを仮にこの世界の住人が所持していた場合、どのような効果を発揮するのか……答えがハーフリングの家畜化だ。

 

 蜘蛛は子供を捕まえて食したことで大量の経験値を取得し、恐らくいっきに壁超えを体験。この事実から、このハーフリング達を喰う事で何かがあると踏んだ。

 

 これを仲間内で共有し、確認するために穴倉を襲撃。そして……アイリスが記憶を読んだことで、フィンの記憶から一匹の蜘蛛がワールドアイテムに感づいたと察した。

 

 つまり、ワールドアイテムさえなければ、蜘蛛は襲撃に来なかった。フィン達を家畜にもしなかった。フィンが思い出と言った秘宝は、全ての始まりだった。その考察を、決してフィンに聞かせる気はアイリスもサトルもない。

 

「……黄金の過去に、わざわざ泥を擦りつけるのもな」

「ポジティブ」

 

 二人は匍匐前進になり、着実に進み続ける。

 

 ハーフリングにとっての災厄だった蜘蛛。そんな蜘蛛にとって……厄災何て言葉で片付けられない災害が着実に歩み寄っていた。




夢の砂跡:オリジナルワールドアイテム。効果は二つ+副次効果あり
     
①着用者と周囲の同一種族の経験点量を増やす
②本来経験値がない存在にも経験点を付与する
     
これを使う事で召喚モンスターやその辺の石ころと言った無機物にも経験値を付与できるので安全なレベルアップが可能になる。
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