リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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世界級・ふしぎ発見 後編

 途中からハーフリング仕様となる狭い穴を、匍匐前進でえっほえっほと進んだ主従。穴の抜ける直前まで進み、いつも通り<完全不可視化>を使用してから広い空間へと抜ける。

 

 そこにはハーフリング達と───

 

「あの爺はどこにいった!!!! 答えろ!!!」

「まずい……まずいぞ。あの爺に装備させないと意味無いから持たせていたのに、あいつがあれを持ったままいなくなったら……」

 

 これでもかと怒鳴る蜘蛛や、世界級(ワールド)アイテムが紛失したことに憔悴する蜘蛛がいた。その様子を見て、サトルはまあそうなるかと一人頷く。

 

(装備させないと意味がない……こいつらは、やはり推測通りあの砂が入った小瓶の価値に勘付いていた。それが所有者諸共紛失した。俺もユグドラシル時代に、宝物庫からワールドアイテムが消えていたら相当焦っただろうな)

 

 蜘蛛達の焦りにサトルは共感する。『夢の砂跡』こそ、ハーフリングを食料として育てていた事実の核だ。あれが無ければ、そもそも小さな人間種を管理・繁殖させる必要もない。これはまだサトル達の推測に過ぎないが、蜘蛛がハーフリングを選んだのは偶々ワールドアイテムを所持していたからだ。

 

(アイリスの纏めた辞典によれば、『夢の砂跡』は無機物や植物にも経験値を付与できる、が。付与される経験点量は微々たるもの。それに対して、元々経験値を持つ生物への加算量はかなり多い。この特性も知っていたからこそ、わざわざ繁殖を選んだんだろうな)

 

 ともあれ、フィンを連れ出したことがどうやら問題になっているようだと主従は確認を終える。あとは見張りの蜘蛛共をどうにかしてハーフリング達を連れ出し、ゴウン領に転移させたらおしまい。あくまでもフィンと約束したのは、ハーフリングを助けるだ。戦力が未知数のモンスターと、必要以上に争う理由もない。と言うのが理想だが───

 

(アイリスが見たフィンの記憶。それに寄れば、だが。こいつらの中に、ワールドアイテム持ちがいる。そいつがいる以上、あまり見逃す理由もないな)

 

 ワールドアイテムを所持するモンスター。フィンの記憶は掠れつつあったが、アイリスは蜘蛛の中に一匹だけそれを持つ個体がいるのを見てしまった。

 

 一度に2個も回収するチャンスがやってきた。もしもここでリスクから撤退してしまえば、また探すところから始めなければならない。

 

 故に撤退は本当に最後の選択肢。ハーフリングの解放はサトルにしては本当に珍しい純粋な善意だが、それとは別に蜘蛛を放置する気は毛頭ない。

 

「さて……さて。この蜘蛛共だが、どれほどのレベルだろうか」

生命の神髄(ライフ・エッセンス)。ポジ……HP量だけなら、死の騎士(デス・ナイト)並にあるのです」

「意外と多いな。デス・ナイトの防御面の能力は40レベル相当。この世界の基準だとかなり高い、か」

 

 デス・ナイト級。それは人間基準で見れば、英雄級から逸脱者級に匹敵する。そのレベル帯となると、帝国周辺のモンスターで該当するのは竜種ぐらいだ。あとはサトルが養殖した帝国騎士団の一部メンバーか。

 

 なので、この蜘蛛は非常にレベルが高いと言えよう。仮に帝国騎士団を派遣しても、確実に苦戦するだろうと断言できるほどに。

 

 とは言えそれは通常の話。デス・ナイトと同格程度、サトル達世界級どころかユグドラシルの100レベルなライトプレイヤーからしても雑魚でしかない。殴ったらなんか死んだ。それぐらいの扱いだ。

 

 けれども、油断して良い理由にはならない。ワールドアイテムによりレベルアップしたこの蜘蛛達には、とんでもないスキルが備わっている可能性もある。

 

(それこそ、生涯で一度だけだが耐性も復活も無視して、必ず即死させるスキルを持ってるかもしれない。相手との実力差があればあるほど、勝率が上がるタレントとかも考慮しないといけない。ユグドラシルとは勝手が違う部分もあるからこそ、油断してはいけないんだ)

 

 とにもかくにも、まずは威力偵察。相手の力量を見極め適切な対処を行う。これが対人戦における基本だ。仮にレベル差が千あろうが、万あろうが、慢心と油断は死に直結する。石橋を叩きそれでも不安なら、渡らない選択肢を取るぐらいの慎重さがPVPには重要不可欠なのだ。

 

「……一当てしてみるか。行こうか、アイリス」

 

 とてとてと付いてくるアイリスと共に、サトルは一度外にでる。入口から100m程離れた森の中に入り、察知されぬよう対抗魔法を使っておく。準備が出来たので、サトルはスキルを発動。

 

「中位アンデッド創造。デス・ナイト。デス・ウォリアー。デス・ファイター。デス・アサシン。デス・ウィザード。デス・レンジャー。デス・クレリック。このチームで良いだろう」

 

 レベル35アンデッド───デスシリーズだけで構成されたチームが出現する。

 

 デスシリーズの中で、プレイヤー召喚使用率が一番高いヘイトタンクのデス・ナイト。デス・ナイトが防御能力なら、こちらは二刀流で攻撃能力に特化したデス・ウォリアー。デス・ナイトとデス・ウォリアーの中間に位置する、ラウンドシールドと片手剣を装備したデス・ファイター。隠密と不意打ちに優れた能力を持ち、ヒット&ウェイに優れたデス・アサシン。スケルトン・メイジ系列のように多彩な魔法は捨て、ひたすら攻撃魔法に特化し第五位階魔法まで行使するデス・ウィザード。弓を装備し、探知と遠距離攻撃型のデス・レンジャー。回復魔法は使えないが、その代わりに支援魔法と負のエネルギー放射によりアンデッドのサポート向きのデス・クレリック。

 

 以上7体をご用意し、サトルはデスチームに命を降す。

 

「今からあの洞窟に攻め入り、中にいる金属蜘蛛共を殲滅しろ。その際に、中にいるハーフリングに被害が極力出ぬよう注意しろ」

 

 簡潔な命令を受けたデスチームは全員頷き、前衛三者が先頭を歩き、一番後ろがレンジャー、真ん中にクレリックとウィザードときっちりと隊列を組んでから洞窟へと入っていく。アサシンは隠密能力を発動。後方から追従する。

 

「オーナー。対抗魔法の使用はばっちしなのです」

「よし。それじゃ、脅威度の監視と洒落こもうか」

 

 逆探知されたり特定されないよう、複数の魔法を起動してからアイリスは空中に幻術で映像を映し出す。

 

 推定デス・ナイトレベルの蜘蛛共が、デスチーム相手にどれだけやり合えるのか。デスチームが勝つも良し、負けるも良し。蜘蛛が知らぬ内に、デス・マッチがワールドエネミーの手によって組まれてしまうのであった。

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 まずい。そうとしか言えない事態が起きてしまったと、蜘蛛達はこれ以上ないほどに狼狽していた。

 

「どうする……あの爺を探しに行くか?」

「駄目だ! こいつらの監視を放り出す気か!!」

「ならリーダーに報告───」

「あの爺がいなくなったから、探しに行きたい。そう馬鹿正直に報告する気か? え? そうなったら、探す前に俺たちは殺されるぞ」

 

 見た目が他種族から見て全く同じなので分かりにくいが、この蜘蛛達はこんなんでもきっちり個体があるし、群れを纏めるリーダーが存在する。

 

 そのリーダーはハーフリングの畜産にあたり、逃亡の恐れがないように監視体制を整え、三交代制として部下たちにローテーションさせていた。そんな中での、一番重要な人物の逃亡。

 

 とてもではないが報告など出来ない。しようものなら、監視役としてこの空洞にいた蜘蛛達は責を取れと惨殺されてしまう。仮にそれが理不尽だと反発しようにも、群れの中で一番強靭な力を持つのはリーダーだ。抗える術など、ここにいる監視者達は持ち合わせていない。

 

 ゆえにまずい。貴重なアイテムを持ち逃げされてしまった。あれが無ければハーフリングに産ませ増やす意味がない。

 

「こいつらが見てさえいれば……」

 

 ハーフリング共を詰問しても、誰一人としてフィンが出ていくのを見ていないと言う。事実、蜘蛛達も目撃していない。まるで神隠しにでもあったかのように、忽然と姿を消してしまったのだ。

 

「嘘を吐いている可能性もある。拷問して喋らせるか?」

「それは駄目だ! あれが紛失した以上、こいつらが最後の進化肉になるかもしれないんだ!!」

 

 進化肉。そう呼ばれたハーフリングの一人が、蜘蛛の怒鳴り声にビクリと体を震わせる。そちらには気づかず、怒鳴られた蜘蛛はむむぅ……と唸る。怒鳴った同僚の言葉は事実。もしもフィンが───あのアイテムが見つからなければ、ここにいる肉だけが最後の食料となる。それを傷つけ殺してしまえば、それこそ有無を言わさずこの場にいる見張り蜘蛛は全員、この場にはいない仲間達から袋叩きにされて殺されるだろう。

 

 ゆえにまずいと唸り───

「……こんな時に侵入者、だと?」

 

 蜘蛛の知覚力が、外から中に向かって突き進んでくる集団を察知する。集団……と言うのが気がかりではあるが、珍しいと言うほどではない。今までにも魔獣やゴブリン等が迷い込んでくることはあった。その度に殺し食い荒らして来たので、何が来ようとも大した脅威とは感じない。

 

 だが、状況がよろしくない。行方不明になった特殊なマジックアイテムが心のしこりになっている時に、外敵への対処などあまりしたくはない。したくはないが、着実にこちらに向かって歩を歩む振動や音がする以上、迎撃をしなければならない。

 

「虫の居所が悪りぃ時に、どこのどいつか知らねえが───」

 

 カチカチと金属で出来た歩脚を鳴らし、哀れな迷い子達を殺害しようとしたが……現れた集団に、さしもの蜘蛛達も黙ってしまう。

 

 ゴブリンや小型の魔獣とは比較にならない、トロールのような巨体達。人型ではあるが、決して人ではない集団。全員が漆黒の装備に包まれており、例外なく生者を憎む赤き眼光を携えた者ども。

 

 すなわち、武装したアンデッドの集団。サトルが産み出したデスチームの威容に、思わず先頭にいた蜘蛛が一歩後ろに下がる。

 

「アンデッドだと!」

 

 異形種、人間種、亜人種。これら三種全てから怨敵として忌み嫌われる存在、それも並のアンデッド等比較にならない威圧感を持つ者ども。

 

 そんな集団が蜘蛛を視界に捉えるや否や───

 

「オオオァァァアアアアアア――!!」

 

 咆哮を上げ、まずはデス・ウォリアーが突撃する。防御方面は25レベル相当だが、攻撃方面は40レベルにもなるウォリアーの刺突。40レベルと言うのは、何もステータスだけが高いと言う訳ではない。アンデッドも含めて、召喚や創造されたモンスターには相応の技術力が付与されている。

 

 例えばデス・ナイトであれば、タワーシールドの扱いが非常に上手い。歴戦のミスリル級冒険者から見ても、ステータス差を除いたとしてもつけ入る隙が早々ないと思うほどには。

 

 それの攻撃版がウォリアーの二刀流だ。繰り出した突きは恐ろしく鋭い。攻撃された相手が脆弱な相手であれば、立ちどころに体に大穴が空いて絶命するだろう。だがそうはならなかった。

 

「舐めるなゾンビがぁ!!」

 

 刺突が当たる直前。金属に覆われた前歩脚が突き出され、二刀流を弾いてしまう。硬質な岩石にでも当たったかのように、反動でウォリアーの体制が少しだけ崩れる。そこに向かって別の蜘蛛が跳躍し、突如として現れ襲撃してきたゾンビを殺さんと降下攻撃を仕掛ける。

 

「グォアアアアッオオオ─!」

 

 その攻撃に対してタンク職のナイトが割り込み、タワーシールドで防いでしまう。が。

 

 思いの外強力だったのか、デス・ナイトの下半身が足首まで沈んでしまう。デスチーム全員の眼窩がほの暗く赤色に輝く。

 

 推定デス・ナイト級と評価された蜘蛛達だが、それは間違いではなかった。蜘蛛とアンデッド。両者の間で戦端が開き、戦車の砲撃音染みた音を響かせる死闘に、ハーフリング達は巻き込まれまいと右往左往するのだった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「思ったより強いのですよ。オーナーの作成するアンデッドは、強化スキルの影響で、通常個体よりもステータスが高めです」

「概ね、5から8レベルは確実に上昇するからな。それを念頭に置くと……こいつらの強さは35ではなく40と言ったところか」

「ポジティブ。金属蜘蛛……メタル・スパイダー、略してメタスパと呼称しましょうか。メタスパはHPが低い代わりに、物理攻撃、物理防御、敏捷に優れているようなのです」

「魔法防御もな」

 

 アイリスが空中投影させる映像の中では、デス・ウィザードが<火球>や<雷撃>を仕掛けているが効果が薄い。従来金属に覆われたモンスターは、この手の属性ダメージに弱いものだがメタスパの体表で大部分が弾かれ、見ただけで威力が減衰していると見て取れる。

 

「ふむ。魔法を弾くときに、金属表面に僅かだが奇妙な紋様が浮かぶな。パッシブスキルによる一定の魔法ダメージカットだろうか」

 

 スキルによる魔法への防御は珍しくない。サトルがモモンガ時代に取得していた第六位階以下の魔法を無効化する上位魔法無効化Ⅲや、スケリトル・ドラゴンが保有する魔法無効化特性などがあるからだ。

 

「デス・ナイト達と、メタスパの実力はほぼほぼ互角と言ったところか。こっちの世界で、あれだけの戦力を保有するモンスターとなると、周囲にとってもかなりの脅威になるだろ」

「ワールドアイテムのブーストが恐ろしいのですよ」

 

 ワールドアイテム『夢の砂跡』によるレベルアップ。メタスパはどう見ても異形種なので、食すだけで恐ろしい早さで種族レベルがあがったのだろう。それにより、魔法に対する耐性などの種族スキルを獲得したのかとサトルはうんうん頷く。

 

 サトルとアイリスは、戦闘の映像を通じてメタスパの脅威度を修正していく。まだ何か隠し玉を残していないか。妙な特性を持っていないか。自分達と互角に渡り合うデスチーム相手に、メタスパ達も切り札を温存する余裕はない筈だとサトルとアイリスは睨んでいる。

 

 しかし……特に戦況をひっくり返すような手札は出てこない。

 

 最初はデスチーム相手に、一進一退の攻防をみせていたメタスパだが───

 

「おっ。デス・アサシンもようやく参戦か。良いタイミングを狙うものだ」

「いけーなのですよ!」

 

 潜伏スキルで隠れていたアサシンが、一匹のメタスパが完全にひっくり返ったタイミングで奇襲を仕掛ける。アサシンが短剣を突き刺したのは、ここを攻撃すれば急所攻撃になるとスキルで見つけた弱点だ。

 

 認識外からの不意打ち、それも装甲の薄い部分への一撃。強襲ボーナスの乗った短剣が腹部を貫いてしまう。

 

「がああア!!ッ」

「<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>」

 

 苦痛から完全にメタスパが動きを止めてしまった。その隙を見逃さず、MP量から今まで使用を控えていた第五位階魔法をウィザードがうち放つ。

 

 まばゆいばかりの輝きは、寸分違わずアサシンがつけた傷跡───魔法を弾く装甲が剥がれた箇所に直撃。

 

 元々体力が削れていたところに、アンブッシュからの致命。追い打ちとしての高威力魔法。一瞬で体力が零になり、<龍雷>を喰らったメタスパが沈黙した。

 

 そこからはデスチームの蹂躙劇だった。六対六で互角だったのに、アサシンが追加されたことでパワーバランスが崩れ、一匹斃れた事で戦線が崩壊したのだから仕方がない。

 

「<致死(リーサル)>」

 

 これでまだ、デスチームのHPが削れていたり疲労しているなら勝ち目があったかもしれない。しかし、デス・クレリックが負のエネルギーを味方に与える事でデスチームは全員がすぐに再生する。加えてアンデッドは疲労ダメージ無効特性持ち。長期戦となれば、最初から最後までパフォーマンスが落ちる事のないアンデッドに有利なのだ。

 

 一匹、また一匹と倒れていく。最後の一匹が残ったところで───

 

「そこまでだ。そいつだけは生かしておけ。だが、動けないように手足は砕け……蜘蛛だから足だけか?」

 

 情報を抜き取りたいサトルは一匹だけは生かす事にした。主の命を受けたデスチームは、残った一匹を取り囲み、各々剣や盾や杖で足の関節部を狙う。かなりの強度を誇るだろうメタスパの外装も、関節部を中心に狙われ続けたらダメだったらしい。

 

 機動力が殺されたのを確認し、もう大丈夫だろうと判断したサトルは改めて洞窟内に侵入。

 

 ……ちなみにだが。現在空洞にはハーフリングがいない。全員、フィンがいる故郷側の空洞ににげてしまったからだ。生きる気力のない眼をしていたハーフリング達も、流石にいきなり勃発した怪物の戦いには巻き込まれたくなかったようだ。

 

 途中それに気づいていた主従は、逃げていくハーフリング達に好都合だとか、なんだとか思っていたがそれは割愛しよう。

 

「デス・ナイトどもよ。ご苦労だった。では、そうだな。ここからは、アイリスに任せようか」

「ラージャ! <記憶操作>なのですよ」

 

 息も絶え絶えなのか、生き残りのメタスパは微かに震えて死を待つだけの状態だった。これの治癒をして聞き出すのも手間なので、サトルはさっさと記憶だけを読む事にしたらしい。

 

「───大体分かったのです。この空洞から、南西に3キロほどに、メタスパ達の生息地があるようです。そこにですが、います。このメタスパの記憶が確かならば、冥王の環(ロード・オブ・ザ・リング)を装備した、彼らの長が」

「ビンゴ、か。次の目的地はそこだな」

「ポジティブ……痛かったですね。いきなり襲撃されて、いきなり痛めつけられて。人間の視点からみれば貴方達メタスパは悪ですが、異形種全体の理念からみれば、ハーフリングを育てて食するぐらい当たり前のことです」

 

 記憶を読み終わったアイリスは、少しだけ金属を撫でる。<記憶操作>で記憶を読む時、必ず最新の記憶から読むことになる。最新の記憶は痛い、苦しい、どうして。ただ、()()()()()()()()()()()()()。それだけだった。

 

「フィンの視点から見れば、貴方は悪です。自分達を食物にする悪。でも、貴方からすれば、自分達が強くなるための糧。自然全体の観点から言えば、間違えたことはしていない。ただの食物連鎖です」

 

 いきなり無惨に殺される。その恐怖を読み取ってしまったアイリスは、これがただの偽善だと知っていても……そうしたかった。

 

「それでも……私は、フィンの、ハーフリングの味方をすると決めました。その時点で貴方の敵です……ハーフリングを家畜にして、晩餐とする。人間種が牛豚を育てるのと、同じ行為。その行為は果たして善なのか、悪なのか。どちらにカルマが傾くかは、天に任せます。貴方のカルマが善であるならば、向こうに導かれる事を期待するのです」

 

 そう締めくくると、これ以上苦痛を与える必要もないとばかりに、アイリスはメタスパの体を軽く撫でる。それだけで肉体が塵となり消滅した。

 

 塵の山にアイリスは手を合わせる。いつもの自己満足。ただの感傷。それでも誰かの味方をして、誰かの敵となり殺した。ならば、どうかやすらかにと願うのが、せめて自分に出来る事だと言うように。

 

 ……それを見てサトルも手を合わせる。別段そこまでメタスパに思い入れもないが、これからこいつらの本拠地に赴き、ワールドアイテム回収のために多くを殺す。それに対する謝罪程度ぐらいは……と。

 

 サトルは以前、これにそこまで意味があるのかをアイリスに問うた。その時、彼女はこう言ったのだ。

 

「こうやって、少しでも命を奪う事に意味を見出さないと、いつか本当に、心まで機械になってしまうのですよ。少しでも秩序と善側に立ちたいのです」

 

 あえて言うならば真なる中立。善でも悪でもなく、理屈の面で必要とあらばやってしまえるアイリスは、だからこそこう言った事を欠かしたくないのだと。良き行いと信じる事が、良き事に繋がると信じたいのです。

 

 それを思い出しながら、サトルは他の死体も同じように処分して拝むアイリスと共に少しだけ死を見送った後。

 

「行こうか」

「ポジティブ!」

 

 『冥王の環』を持つ者のところに向かうのであった。




次話でふしぎ発見は完結予定

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