リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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終幕 乙

 プルトの使った<ツイン・バスター>。位階魔法ではなく、特殊技術(スキル)による一撃だ。サトル諸共爆発に巻き込まれたアイリス。これがこの世界出身の生物であるならば、二人纏めて蒸発するかバラバラになって死亡している。

 

「この程度で死ぬほど、ユグドラシルの出身者は弱くなかろう」

 

 自らのスキルで出来た大穴から、ゆったりとした足取りでプルトが歩き出てきた。彼の視線はもうもうと煙を立てる爆心地にあり、大したダメージでもないだろうと確信している。事実───

 

「転移魔法は駄目……<次元封鎖>系列のスキルも搭載済みか」

 

 パンパンと服の埃を払いながら、アイリスを前にサトルが煙の中から姿を現す。二人とも多少衣服に焦げ煤が付いているが、目立った外傷はない。

 

 その姿を見て、プルトは少しだけ眼を細めてから無詠唱で<生命の神髄(ライフ・エッセンス)>と<魔力の神髄(マナ・エッセンス)>を起動。敵対者2名のHPとMPを確認し始める。

 

 ───女の方は、HP量が膨大だがMPは少ないがある。さっきの一撃はかなり重かった。しかしMPがある以上は純粋モンクの可能性は低い。MPがそこそこで、素手攻撃が強いってことはモンクも混ぜつつ、筋力が伸ばしやすいクレリック系列が主体か? 男の方は、MP量からして純魔だな

 

 偽装している可能性も考慮するが、拳を受け止めた時の感触と、魔法攻撃力を参照する<ツイン・バスター>がそれほど効いてない事から、前衛も可能な信仰職と純魔で間違いないだろうと推測。

 

 ───それにアインズ様……か。あのような言動をするのは、プレイヤー同士ではありえない。RPの一環だとしても、こちらのスキルを受け止めようとするとき迄、やると言うのは考えにくい。男がプレイヤーで、女はNPCか?

 

 対プレイヤーの思考をしながら、プルトは二人組を前にここからどう戦闘を組み立てるのかを模索していく。

 

 その様子を観察しながら、サトルもサトルでPVP用の戦術を脳内でくみ上げる。

 

(今のアイリスは、100レベルの前衛信仰職相当にまで制限している。技術もそれ相応に制限しているらしいが、それでもこの世界では最上位のパンチ力。それを受け止め、あまつさえ反撃してくるか。指輪の副次効果でレベル上限の解放がされているのか?それとも、元が100レベルのプレイヤーで、指輪により5レベル増えている?)

 

 サトルが考えるべき事柄は多い。プルトがプレイヤーで、指輪を考慮しても105レベルに納まっているのか。それともこの世界出身の存在で、ワールドアイテム二つの相乗効果により、常識はずれの強さに変貌しているのか。

 

 なによりも───

 

(こいつが本気を出している保証がない。アイリスの拳を受け止めた様子だけなら、かなりギリギリに見えた。しかし見えただけなら、演技の可能性もある。こいつが仮にプレイヤーなら、PVP戦術としてそれぐらいは当たり前にしてくる)

 

 ユグドラシルのPVPにおいて、効いている演技は当たり前に行われていた。<虚偽情報・生命>でHPを減ったように見せかける事で欺くのも、高等テクニックではあるが戦術の一環として存在する。事実サトルは現在HPとMPの量を調整し、モモンガ時代と同等になるようにしていた。

 

 つまるところ、ユグドラシルプレイヤー同士のPVPとは情報戦ではなく騙し合いだ。サトルもそうだが、有名プレイヤーは大抵手の内がバレている。どんな手札を持っているのか、どんな戦術・戦略を好むのか。そう言った情報は当たり前に出回ってしまう。

 

 だから、基本は小技と演技の応酬になる。騙し、騙され。最後の最後まで、本当の切り札を秘匿した方が勝つ……ワールド・チャンピオンやアイリスは例外だが。この辺は反射神経や反応速度が違い過ぎて、一般プレイヤーだと分からん殺しされてしまう。サトルもたっち・みーには勝てていないし、アイリスには次世代AIの超反応で鴨られた。

 

 とにもかくにも、お互いが力を隠していると仮定して、それがどれだけ相手を上回っているのかが問題だ。プルトが想定レベル1000相当までなら、サトル達の方が遥かに上。2000を超えたら非常にまずい。

 

 さて、どういうふうにこいつの真の実力をひきだしてやろうかと思案するサトルの前で───

 

「<魔法抵抗難度強化持続時間延長・天罰の嵐(ストーム・オヴ・ヴェンジャンス)>!」

「第10位階ですか!」

 

 頭上数千mに巨大な黒い雲が広がる。日光を遮るほどの分厚い雲。突如として光が途切れた事で、巣から顔を出し、自分達のリーダーと敵対者の戦いを観察していたメタスパ達が巻き込まれ、次から次へと盲目状態に陥っていく。

 

「お前の手下が巻き込まれてるが、良いのか?」

「はっ! 時間経過で解除されるバステだぞ。心配する必要があるのか?」

「そうか。お前がそうなら、私が心配することでもないな」

 

 <天罰の嵐>にはいくつかの副次効果がある。雲が広がっている範囲のクリーチャ全員に対し、盲目などのバッドステータスが付与などだ。しかしそれらは、プレイヤーであれば当たり前に対策しているデバフであり、プルトもこれが通るとは思っていない。なので副次効果ではなく、これから起きる効果に期待しての魔法発動だ。

 

「アインズ様。御身は防御に専念してください。あれは私が仕留めます」

 

 サトルに伝えると同時に、アイリスが走り出す。100レベルの前衛職に相応しい速力であり、プルトとの間を瞬く間に詰めてしまう。が、完全に詰め切る前に、黒い雲から雷と巨大な雹がアイリス目掛けて降り注ぐ。

 

「舐めるな!」

 

 走りながらもアイリスは雹をバラバラに砕き、当たる直前に雷を避ける。それでも第十位階全てに対処するのは不可能なのか、いくつかの雹が頭にぶつかり、少しだけふらつく。体勢を崩したところに、雷が直撃し体が膠着。そこを続く雹と雷に滅多打ちにされた。

 

 対して、サトルは現在世界級相当の耐性の大部分をオフにし、元々持っていた死の支配者(オーバーロード)の冷気・電気に対する完全耐性で<天罰の嵐>の影響を遮断してしまう。

 

 その様子を見てプルトは思考する。

 

(アインズと名乗るあの男……二属性に対して完全耐性を持つのか? あのギルドの中で、その特性を持つ相手となると……試してみるか)

 

 かつてのアインズ・ウール・ゴウンは、ギルド定員の半分もメンバーがいなかった。それなのに悪名高い事もあり、多くのメンバーが手の内を晒されている。サトルに至っては、専用攻略wikiを作られる始末だ。

 

 だからこそ、それを確かめるためにプルトはアイリスが動けない内に、重ねて魔法を使用する。

 

「<集団・大治癒(マス・ヒール)>!」

「しまっ!」

 

 アイリスとサトルを対象とした回復魔法。人間種であるアイリスにとって、回復魔法の正エネルギーは<天罰の嵐>のダメージを癒してくれる。だが、アンデッドであるサトルにとっては───

 

「ぐぅう!!」

 

 ダメージになる。サトルのHPが減少したのを見て取ったプルトは、やはりと口元を歪めた。

 

「アインズ。お前の正体は大体分かったぞ。まさか、悪の親玉そのものが、この世界に来ていたとはな。たっちやウルベルトは息災か?」

「……どうだかな」

 

 あまりにも聞き知った名前が出てきたが、サトルは過剰な反応は控える。

 

 AIが果たしてプレイヤーの名前を知っているのか。これはかなり微妙なラインだ。例えばナザリックのNPCは、AOGに属するプレイヤー……すなわち至高の御方の名前は知っているが、それ以外のプレイヤーの名前は基本知らない。なのにプルトはAOGのメンバーの中でも、サトルに次いで知名度を持つ2名の名を挙げた。つまりこいつは───

 

(やはりプレイヤー……ん?)

 

 プレイヤーだと確信し、それに準ずる手札を使った戦闘手段を構築しようとしたサトルだったが、アイリスが踵を地面に叩きつけ、妙なステップを刻んでいるのを発見。計画にはない奇妙な行動に、サトルは首を傾げてしまう。

 

「貴様! 我が主に……アインズ様に、よくも下劣な回復魔法を! 殺す!!」

 

(あー……激昂するNPCを演じてるのか、あれは)

 

 サトルの正体を確認するための<大治癒>で回復した振りをし、ボクシングスタイルで左右にフェイントを入れながら、アイリスは今度こそ一気に肉薄。インファイトを仕掛け始める。

 

 無駄に演技派なアイリスの行動に呆れつつも、サトルは自分もここからは攻撃に参加し、プレイヤーらしく戦うべきだと魔法を発動。

 

「<魔法最強化・現断(リアリティ・スラッシュ)>!」

 

 こちらの正体を掴まれているのなら、下手に中途半端な魔法を使うべきではない。タイマンなら温存すべきだが、数が勝るなら一気呵成。これもPVPの基本戦術なので、サトルは通常のプレイヤーが使う中では最強の威力を誇る魔法───モモンガのアバターが習得していた中でも、最強の魔法でアイリスの援護をする。

 

「当たるか……うぉ!」

 

 <現断>は強力ではあるが、手元からの放射型の関係上慣れた者なら避けやすい。身を捻って回避しようとしたプルトだが、アイリスがレバーブローを叩き込んで阻害。<現断>が背中から生えているアームの一本に直撃した。

 

「硬いな」

 

 モモンガ時代と同等まで落としたサトルの魔法攻撃力は、同じ100レベルの火力型マジックキャスターに劣るとは言え、それでもそこそこの威力が出せるはず。なのに、プルトのアームは健在。切断すらされておらず、金属の外殻に僅かな切り傷が入っただけだ。

 

 アイリスも思ったより硬いと感じたのか、肝臓を殴った拳を少しプラプラさせていた。

 

 そこからの戦いを一言で言えば、チマチマした削り合いの持久戦だ。サトル側はセオリー通りの前衛・後衛に別れた戦術。暗黒儀式習熟を使い、上位アンデッド創造を2回分使用して、アイリスの補助をする80レベルの戦士───死の騎士(デス・ナイト)系列の上位種である、死の守護者(ブラック・ガード・ナイト)をタンクに、アイリスがアタッカー。サトルが後衛から火力補助をする。

 

 対してプルトは4本のアームを駆使し、信仰・魔力・精神全ての魔法を駆使する万能ファイター。通常はこの3つの第十位階全てを習得するのは不可能だが、指輪で得られる冥王のクラスでは自動で取得されるので十全に使用できる。

 

 召喚系は持っていないのか数では不利なプルトだが、推定105レベルの能力は凄まじく三者の連携をうまくいなしていた。

 

 それでもサトルが魔法攻撃、ブラック・ガード・ナイトがヘイト稼ぎ、アイリスがひたすら猛打。それは着実にプルトのHPを削る。サトル側でHPが減っていくのは、最悪倒れても問題のない召喚モンスターだけ。

 

 流石にこのまま小競り合いをしていたら不利と判断したのか、舌打ち一つし、プルトが後方に跳躍。それを追おうとしたアイリスだが───

 

「待て! 様子がおかしい!」

 

 サトルの指示を聞き、アイリスは停止。これがプレイヤーであれば悩む振りをしたかもしれないが、今のアイリスはNPCに徹している。なのでサトルの指示には全面肯定状態だ。

 

「全くもって鬱陶しい……不愉快ではあるが、先にこっちの奥の手を披露してやるよ」

「奥義か。先に切り札を切るのは、悪手だろ」

「それだけ、お前らを評価してやってるんだよ」

 

 奥の手。それはユグドラシルのプレイヤーであれば、大抵は持っている最終奥義だ。アインズ・ウール・ゴウンのメンバーであれば、ウルベルトの<大厄災>やたっち・みーの<次元断切>。サトルであればエクリプスのクラススキルであり、即死魔法を強化するあらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)。そう言った強力なスキルなり魔法なりを習得しているのだ。

 

 NPCにしても同じ。ナザリックのNPCであるマーレなら<大厄災>の劣化版である<小厄災>。シャルティアなら分身を創り出すエインヘリヤル。アイリスであれば自分のステータスやスキルを、バフ効果として一時的に他者に貸し出す『分霊』などが該当する。

 

 それは戦況をひっくり返す手段であり、同時にこれを出すと言う事はそれだけ追い詰められていると言う事。演技で出すにしては、あまりにもリスクがある。だから馬鹿正直に受け止めるのであれば、それだけプルトがまずい事態と言う事になるが───

 

(プレイヤーはすぐに嘘をつくからな)

 

 奥の手云々と言いながら、全然違う事をする。これもまたPVPでは普通のことなので、サトルは警戒の手を緩めない。

 

 相手の一挙一動を注視する中、プルトの気配が変化した。

 

制限解放・第一段階(リミットワン・リリース)

 

 変化はすぐに訪れた。戦闘中は常に相手のHPとMPを確認しているサトルの視界の中で、プルトの体から漏れ出す生命力と魔力が増大したのだ。

 

「これは!」

「久方ぶりの戦いで楽しんでんだ。死ぬなよ、アインズぅううう!!」

 

 プルトが吠えると同時、姿が掻き消え、次の瞬間にはブラック・ガード・ナイトの上半身が消滅。ギリギリ反応したように見えたアイリスは、両腕をクロスさせてガードするが、守り事貫かれる。彼女の両肩に大穴が空き、血が噴き出す。貫いたのは背中のアームだ。プルトがアームを動かすと、アイリスは宙にぶら下がり、もう一度アームを動かしたら投げ飛ばされる。

 

 投擲された先はサトルだ。これが刺突なら無効化できるが、アイリスを───肉体を投げつけるのは打撃扱い。サトル従来の耐性では無効化できない。受け止める事も出来ず、<ツイン・バスター>を喰らった時と同じように吹き飛ばされかけるサトルだが───

 

「余所見すんなよ」

「がぁ!!」

 

 投げたアイリスに追いつき、側面に回り込んでいたプルトの打撃がサトルの顔面にねじ込まれる。肉体ペナルティ耐性を持つサトルは、どれだけ殴られようが顔が変形したり、歯が折れる事はない。

 

 だが、ダメージは着実に蓄積する。転移阻害により転移できず、距離も離せないマジックキャスターは、同格からすればただのサンドバックだ。途中アイリスが復帰しようとしたが───

 

制限解放・第二段階(セカンドリミット・リリース)

 

 更にステータスを増したプルトに、今度は腹を貫かれて完全に行動不能に。盾を無くしたサトルは、恐ろしい勢いで殴られ続ける。

 

 プルトの眼には、HPをがりがり削られていくサトルがはっきりと映っている。あと10秒もすれば行動不能……死に追いやれる。

 

「ざまあねえなアインズ! いや、モモンガって呼ぶべきか!! お前をぶっ殺したら、お前の持つワールドアイテムを俺がきちんと使ってやるよ!!」

 

 サトルがモモンガだとバレた今、ここから逆転の眼はないと知られている。サトルの切り札であるイズデスも、発動されたところで蘇生効果があれば無効化可能だとwikiには記されていた。

 

 あと数%。ここから三下であれば最後の言葉とやらでも話させてやるかもしれないが、サトルはワールドアイテム持ち。逆転は無理にしても、もしかしたら最後っ屁はあるかもしれない。だから残り数%を削り切り、誰が見てもプルトの勝ちと言える状況になった。

 

 サトルが殴り飛ばされ、地面に倒れる。残HPは零。どう見ても死んでいるが、頭を潰して四肢を斬り落とすまでがPVPだ。サトルに近づき、勝ちを確信したプルトは───

 

(制限解放(リミット・リリース)の時間内に決め切れたか。こんなに体を動かしたのはいつぶりだ? まったく、プレイヤーってのは頑丈で腹が立つ)

 

 そう思いながらも、頭を潰そうと足を勢いよく振り下ろし───

 

「させると思うか!!」

「なに!」

 

 横から伸びて来た白い足に阻まれる。そこにいたのは、アイリスだ。今の今まで、貫かれ瀕死を演じていたアイリスは、これ以上死んだふりをするのはプレイヤー優先思考のNPCとしては相応しくないと判断し偽装を解除。攻撃を止めてみせた。

 

「な……なぜ!? お前のHPは零だった!」

「体力の偽装なんて、対人戦では基本だろうが!!」

「そんな事は知っている! しかし腹への一撃はクリティカルヒットだ! あれが入って、動くなどユグドラシルのNPCでも不可能だ!! まさか……自動治癒とそ、せ……なぜ、俺の足踏み(スタンプ)を止めて……」

 

 パッシブスキルによるオート回復と、回数制限はあるが自動蘇生スキル。両者を積んでいたなら、まだ動けてもおかしくはないと納得しようとし……まだ制限解放状態の自分の、蹴りを訳もなく止められた事実にプルトは眼を剥く。

 

 プルトの奥の手である制限解放。これは普段はステータスを0.9倍にする代わりに、解放するとステータスを一時的に1.1~1.5倍にするスキルだ。今のプルトは第二段階、1.25倍まで跳ね上がっている。これが弱者であれば大したこともないが、105レベルの1.25倍とは驚異的な数字だ。それを止めるなど、100レベルの戦士職でもまず不可能。何かしらのバフを利用したとしても、プルトも同じだ。

 

 言ってしまえば、今の強化状態のプルトをユグドラシルのNPCやプレイヤーが止めるのは無理であり───

 

「奥の手を隠し持つのは、ユグドラシルの定石。アインズ様から聞いているぞ。冥王の職業(クラス)が持つそれは、時間制限型のスキルだと」

「そこまで知って!? それよりもなぜ! お前はNPCだろうが!! 特殊なクラスは習得できない! そんな被造物が、なぜ俺の一撃をこうも簡単に……」

「そんなもの、教えるわけないだろうが!」

「まず───」

 

 プルトの蹴りを止めたアイリスは、軽やかな動作で彼の軸足を払う。見えているのに、反応できない足払い。流石にこうなってしまえば、今の今までアイリスが手を抜いていたのだと気づくプルトだが、それで簡単に崩れはしない。

 

 背のアームで瞬く間に体勢を整え、アイリスに掴みかかる。

 

「私に力比べで勝てると思うな!」

「ぐ、この!」

 

 今まで抑えていた腕力を解放し、レベル換算で150戦士職相当にまで引き上げているアイリス相手だと、流石に分が悪いのかプルトが押され始める。

 

 ───この、NPC! こいつも能力値を増幅するスキル持ちか! しかしこの上昇率! 何かしらのワールドアイテムを!!

 

 切り札は切りどころを間違えると不利になる。アイリスが指摘したように、制限解放は一定時間だけ使用可能であり、再使用まで200時間を要する。しかも第一段階、第二段階と進めるにつれ発動時間は短くなる。

 

 想定外に二人が強く切り札を切らなければ勝てない状況だったとは言え、発動させるタイミングが速過ぎた。それを後悔しても遅く、第二段階ではアイリスを抑えきれない。意を決したプルトは───

 

制限解放・第三段階(ラストリミット・リリース)!」

 

 賭けに出る。残り僅かな時間で、今度こそNPCを抹殺し、地面に伸びているモモンガ(サトル)を……

 

「貴様も死んだふりか! 打撃が弱点の筈が……<光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)>か! 無詠唱であれを!!」

 

 いつの間にか立上り、魔法を発動しようとしているサトルを見てプルトは吠える。攻略wiki情報によりスケルトン・メイジ系列のサトルは、打撃脆弱を保持しているとバレている。だからこそ近接主体で攻め立てたのだ。しかし弱点だからこそ、サトルは打撃ダメージ軽減魔法を習得している。それを使ったのだと推測するプルトだが……実態は違う。

 

(ただの物理耐久で凌いだんだよ。アイリスが組み込んだ、世界級(ワールド)エネミーのステータス舐めんな)

 

 105レベル+25%の物理攻撃力で、16体合体の防御値を崩せない。それだけの話だが、真相を話す気などサトルにはない。アイリスと力比べをしているプルトに、<現断>をこれでもかと当てていく。

 

「ぐ、がああああ!!」

 

 第三段階まで解放したのに、アイリス相手に力比べで圧勝できていない。ほぼ拮抗し、迂闊に動くことも不可能。そこに魔法を喰らいこのままではまずいと分かっているが、サトル側の<転移>阻害がいつの間にか発動しており容易に逃げる事も叶わない。

 

 そして……時間が訪れる。ガクンといきなり力が抜け、プルトの掌が力比べをしていたアイリスの握力により握り潰された。

 

「勝負ありだな」

 

 制限解放が終了したのだ。サトルが言うように、これ以上プルトに手札が無いのであればこれで終わり。しかし、彼はまだ諦めていなかった。

 

「ぬくぅ!!」

 

 自ら潰された手を引き千切り、アイリスから距離を取る。

 

「<大治癒(ヒール)>! まだだ。まだ終わってねえ!」

「ほう? 治癒魔法で腕を治したのは良いが、これ以上続けてお前に勝ち目があるとは思わんが?」

「……分かってねえな。そのNPCの能力値上昇。それはあとどれくらい使える? お前の魔力はどんだけ残ってる? 俺は今みたいにまだまだ治癒魔法が使えるが、そっちはかなりきつい筈だぜ」

 

 プルトの発言。これはあまり間違っていない。ここに至るまでに、アイリスは近接主体戦闘を披露し、サトルは純粋な後衛魔法詠唱者として振舞っている。通常アイリスが見せた能力値はスキルでも使わなければ……それも特化しなければ不可能な領域。それがあと何度も使えるなどあり得ないし、サトルはかなり高位階魔法を連打している。仮に魔力量に特化したマジックキャスターでも、高位階の魔法はあと10回も使えないだろう。

 

 だから、ここから長期戦となれば、普通はサトルの方が不利なのだが───

 

「……それは、まぁそうだな。しかし、私たちの弱体化に縋るなど……私たちがまだまだ万全だったら、どうするつもりだったんだ? まさか、まだ切り札があるとでも?」

「万全なわけねえだろうが! この世界の雑魚ならいざ知らず、100レベル同士の戦いなんざ消耗戦! 俺を相手にしてここまで食い下がったのは褒めてやるが、結局死ぬのは手前らなんだよ!!」

「……ふむ。言っている事に間違いはないな。二対一なのに、お前にはまだMPがあり、私は100レベルのマジックキャスターであれば、そろそろMPが切れるぐらいには、魔法を多用している。アヤメもかなり消耗し、これ以上前衛をやるにはまずいと思われる程度には疲労状態……そうか。お前には、そう見えるのか」

「あ?」

「それが演技であれば素晴らしいと言う他ないが、切り札がもうないのは本当だろう。わざわざ腕を潰される必要もないし、自壊させて切り離す必要もないからな。そうか……ならば、これ以上PVPとして拘ることもないな」

「……何の話だ?」

「答え合わせの話だ。お前には、私がMP切れ寸前のマジックキャスターに見えるのだろ? 今もそう見えているのか」

「当たり前───」

 

 <魔力の神髄(マナ・エッセンス)>を使用し、サトルのMPをプルトは確認。全く減っていない。最初の時から1%も変化していない。それを見て、<虚偽情報・魔力>による偽装だとプルトは思った。全く減っていないようにみせて、まるで万全であるかのように見せかける詐欺だと。

 

「くだらねえ騙しをしてんじゃ───うぉ!」

「<魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)>」

 

 いきなり無造作に飛んできた<現断>に慌てふためきながらプルトは回避。

 

「<魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)><魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)><魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)><魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)><魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)>───」

 

 壊れたレコードのように、燃費が非常に悪い魔法を連発するサトル。明らかに異常としか言えない魔力消費の筈なのに、サトルの魔法が途切れる様子はない。それらを躱し、当たり、徐々にHPを削られるプルト。<現断>の雨が収まった時には、途中途中で<大治癒>を使ったせいでプルトのMPは空になりかけていた。

 

「お、まえ……」

「これが答えだ。お前は私のMPが尽きかけていると思っているようだが……私はあと、何百でも同じことが出来るぞ」

「んな……まさかワールドアイテムで、MPの回復……」

「そんなところだ。ではそうだな。ふむ……アヤメ。止めは譲ろう。存分にやれ」

「御意」

 

 演技とは言え、アイリスを血みどろにしたプルトを、サトルは手ずから葬りたい。しかしそれをグッと堪え、当初の予定通りアイリスに譲る事にした。

 

 サトルが<現断>祭りをしている間、制止していたアイリスが動く。プルトはもはや反応すら出来ていない。

 

 それは左鉤突きから始まった 。肘打ち、両手突き、手刀、貫手、肘振り上げ、手刀、鉄槌 、中段膝蹴り、背足蹴り上げ、下段廻し蹴り、中段廻し蹴り、下段足刀、踏み砕き、上段足刀……

 

「ごぶ! ぶげ! があ! ぐおぇ!」

 

 ここまでの動きが子供の児戯に思える、アイリスの無呼吸連打。150レベルから200レベル相当にまで身体能力を解放したアイリスの手により、一瞬で四本のアームがバラバラになり、手足が千切れ、足に貫手が突き刺さり爆発する。

 

「あれ? ちょっとま───」

 

 いくら何でも殴り過ぎではと思ったのか、サトルが止めかけるが、打撃音に掻き消されてアイリスには届かない。

 

 ───回復魔法を使う暇すら与えません

 

 プルトは<大治癒>を使おうにも、攻撃されつづけることで呪文がキャンセルされる。<無詠唱>すら間に合わない。全身を砕かれている最中に使えるほど万能ではない。超高速ラッシュは考える暇も与えてくれない。

 

 回復魔法の使い手を殺すときのセオリーとは───

 

 ───スッと行ってドス。それでだめならスッと行ってボコボコにするべし! なのです!!!

 

「うわ……俺のアイリス殴り過ぎ……」

 

 特段することもなくなってしまったので、アイリスがプルトをラッシュでしばき倒しているのをサトルは観戦。途中途中HPを確認したところ、とっくの昔に死亡していたが、サトルとアイリスがやったように偽装の可能性も僅かにだが存在する。

 

 だからアイリスは手を止めない。プルトの体積が十分の一になっても、まだ殴る。彼女の手が止まったのは、『冥王の環』だけを残し、プルトの肉体が完全に塵になった時だった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 プルトの死亡確認後。二人は巣に残っていたメタル・スパイダー軍団を、全て捕縛してデミウルゴスに預けた。

 

「そいつらは全員、ワールドアイテムにより進化した種だ。『夢の砂跡』によるレベルアップが、この世界出身の生物にどのような影響を及ぼしたのかを確認する必要がある。あとは任せたぞ」

「承知いたしました」

 

 解剖観察や金属化した外殻の剥ぎ取り。多様な用途に使われる事になったメタスパ軍団だが、それはまた別の話だろう。

 

「ここが今日から、貴方がたが住まう場所だ」

「これは……村?」

 

 『冥王の環』を回収し、フィン達ハーフリングの元に戻ったサトルは、約束通り彼ら全員を自らの領に招いた。

 

 そこはかつてカルネ村と呼ばれた場所であり、法国の虐殺以降誰も住まなくなっていた土地だ。

 

「ここはモンスターが出現する可能性もある。念のために、熾天使(セラフ)を置いていこう。住むにあたり分からない点があれば、セラフに聞いてくれれば良い。生活環境が整うまでは、税なども免除しよう」

「ありがとうございます……ありがとうございます…………」

 

 元カルネ村跡地は、モンスターの生息地である大森林に近い。現在は帝国領の一部であり、かなりの数を皇国騎士団と帝国騎士団で間引き飛び地を作って境界線を敷いているが、それでも領民の生息場所に出ない保証はない。なので人間種に受けがいい、天使種族が大体の村に一体はガードとして置かれている。

 

 フィンからの感謝の言葉はそこそこに、一度居住まで戻り、アイリスがハーフリングのための手続きを全て済ませてしまう。それが終われば、今度はユグドラシルⅡまで赴き、浮遊要塞の宝物庫に回収したワールドアイテムを納めた。

 

「ふぅ。とりあえずは2個回収。幸先が良いのかねえ」

「ポジティブ。一粒で二度おいしいのです。とても良いスタートなのです」

 

 浮遊要塞から再度地上に戻り、夜も遅いと言う事で二人はせっかく旅なのだからやってみようと野宿していた。<要塞創造>や『グリーンシークレットハウス』などを使った方が快適だが、満点の星空の下、アイリスが焚火に鍋をかけ汁物をかき回すのを眺めるのも悪くないなと、サトルはちょっとだけキャンプ気分で楽しんでいた。

 

「暖かい羊汁とおにぎりなのです」

「お、これは美味そうだな」

 

 豚肉の代わりに羊肉を使った味噌煮込みと、小魚を煮詰め具として詰め込んだ白米───アイリスが一から栽培した───を受け取り、サトルは舌鼓を打つ。白米のほのかなデンプンの甘味と、味噌と羊の脂が産み出すコクは体の芯から温まる。

 

 夜食を綺麗に片付け、アイリスに膝枕をして貰いながら星空を眺めていたサトルは、そういえばとアイリスに話しかける。

 

「あのプルトだが、あいつは結局プレイヤーだったのかな?」

「ネガティブだと思います。プレイヤーにしては、切り札である制限解放を切るのがとても早かったのです。それにPVPに慣れ親しんでいたら、ユグドラシルの仕様で多対一をするのは危険だと、経験からすぐに判断できます。<ツイン・バスター>で吹き飛ばしたら、すぐに逃亡するのが鉄則かと。あとメタな話をすると、該当しそうな異形種プレイヤーに心当たりがないのです」

「そう言われてみるとそうだな。俺も、もし105レベルで転移していたとしても、100レベルのプレイヤーとNPCが訪ねてきて闘いになったら、命乞いをしながら油断を誘って、<上位転移>ですぐに逃亡するか。でも、そうだとしたら、なんであいつはアインズ・ウール・ゴウンのことや、俺の事を知っていたんだろうか」

 

 AIにしては知り過ぎている。それがどうにも気になるサトルだが、アイリスはひょっとしたらと語りだした。

 

「NPCは実体化する際、フレーバーテキストとカルマ値を参照して人格や記憶が決定されますよね?」

「それに加えて、作った人間の性格とか……だな。認めたくないが、アイリスから見たらパンドラは……パンドラ……あいつ俺に似てるんだよな?」

「ポジティブ! 似てるのです! ……あわわ、オーナーが過去一悲しい顔をしているのですよ!! この話は横に置いておくのです……こほん。『冥王の環』に搭載されていたAIには、特にフレーバーテキストは存在していません。カルマ値もです。そうなると、『冥王の環』が参照したのは、作成者の人格。つまり、運営のプログラマーです」

「そうなると……あのプルトは、ある意味運営そのものだと?」

「ポジティブ。そして作成されたプログラムは、誰かが取得条件を満たすまで、データの格納庫とでも呼べる場所に保管されます。人間さんの感覚で言えば、ゲームの全仕様が保管された書庫とでも言うのでしょうか。アイリスも、ユグドラシルのデータを調査する時には、そこを丸ごとコピーしていました。その時に、ある程度の情報が指輪に誤って転写されてしまった。それがアイリスの仮説です」

「そんなことがあるのかい?」

「普通はありません。データは0と1です。中途半端に、0.1や0.2になることはないです。でも、アイリスにしろ、オーナーの現在の肉体にしろ、普通ではありえない過程を得て、結果として現実になっています」

「結局のところ、始原の魔法(ワイルド・マジック)で起きた現象の一つだから、分からない事の方が多い……てことかな?」

「ポジティブ!」

 

 星空を眺めながら、不思議は不思議かとサトルは呟く。

 

「俺もアイリスも、ワールドエネミーとしての力を持っていて、権能で色々と出来るが……それでも、分からない事と不思議は多いな」

「ポジティブ。でも……多い方が、楽しいのですよ」

「だな」

 

 ちょっと旅しただけで、セプテントリオンを見つけたり、蜘蛛に家畜化されたハーフリングを見つけたり。そんなこともあるのかと思うようなことに、簡単に出会える。

 

 あくまでも、これはワールドアイテムを探索し確保する旅だが……その過程で、もっと不思議なことに会えるのかねえとサトルは眼を瞑る。

 

 本来はアンデッドである自分が就寝するのも中々不思議だなと、頭に感じるアイリスの熱と柔らかさを堪能しながら。ちょっとだけ、サトルは横になるのだった。




次回からオペレーションゲヘナに戻るよ

プルト:105レベルのAI。強さ的には準たっち・みー級。ユグドラシルの闘技大会に出たらトップ10には入るぐらい
メタル・スパイダー:全員デミの牧場送り

オペレーションゲヘナの流れ:マウラ(アイリス)ダークエルフ奴隷として捕まる→奴隷商から脱出後、ガガーランに助けて貰う→そのままだと八本指に追われるから蒼の薔薇全員で王都出ようぜ!→八本指と王都衛兵に見つかっちゃった!→王都から全力で逃亡だ!←いまここ
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