リスタート外伝 バハルス帝国二人旅   作:リセット

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オペレーションゲヘナⅧ

 かくかくしかじか。あれこれこうこう。なのですなのです。

 

 マウラがいた場所は高度に発達した地域であり、魔法技術が盛んだった。そのせいか高位魔法使いも多く、魔法詠唱者を名乗るなら最低でも第八位階以上。一人前の魔法詠唱者なら第十位階が当たり前な国だった。

 

 マウラの知人である鈴木悟も魔法詠唱者であり、彼から特別なマジックアイテムを誕生日プレゼントとして貰っている。それが盗られた荷物の中に紛れ込んでおり、取り返せたらこの状況を打破できるかもしれない。

 

 非常に疑わしい話だと蒼の薔薇は思った。彼女らが知る魔法の最高位階は帝国最強の魔法詠唱者───フールーダの第六位階。そもそも第十位階なんて聞いたことすらない位階だ。

 

 ここにイビルアイがいれば、第十位階がどれだけあり得ない領域なのかを熱く語ってくれただろう。

 

 第十位階。それは根本的に、そんな領域の魔法があることすら王国では殆ど知られていない。帝国でサトル達が降臨時に、第十位階と聞いて全員が戦慄したのも、大半はフールーダの蘊蓄故だ。第十位階と聞いてピンと来るのは、法国の六大神の逸話に詳しいものくらい。あとは……イビルアイのように、天空都市に納められていた世界級アイテム『無銘なる呪文書』の存在を知る者。大陸中央部に存在する、第八位階にまで到達したこの世界でも最上位の魔法詠唱者。非常に限られている。

 

 ともあれ、マウラは王国基準ではあり得ないほど強力なマジックアイテムを持っていたと語る。それを受け、蒼の薔薇一同は悩んだ。

 

 はっきり言って疑わしい。しかし、この状況でマウラが嘘をつく理由がかなり薄い。これが普通の子供であれば、自分の荷物を取り返したくて嘘をついたのだと疑ったかもしれない。

 

 けれども、マウラは僅かな情報からバルブロであればどう動くか。イビルアイならどう振舞うか。それを洞察できる利発な子だ。自分がお荷物な状況で、これ以上我儘を言う利は無いと理解している。それを抜きにしても、彼女は転移のような何かで王国に突如として現れた。10位階かどうかは疑わしいが、高位階魔法文化の出身である可能性。それは高い。

 

 だから一同は悩んだ。本当に第十位階かどうかは置いておき、状況を打破可能なアイテムが手に入るかもしれない。それが本当なら回収する利点は大きいからだ。

 

「それだけ強力なアイテムなら、八本指は厳重に保管しない?」

「あ、その。それは大丈夫だと思い? 思います! あれはあたし以外起動出来ないよう、設定されていますし、見た目からマジックアイテムとは分からない筈……です。なので、普通にただの盗難品として扱われ……てる?」

「曖昧過ぎる。どこにあるのか分からない。もしかしたら既に売り払われてるかもしれない。価値の高さから厳重に保管されてるかもしれない。追われてる状況で賭けるには、かもしれないが多すぎる」

 

 ティナの冷静な言葉に、マウラは反論する言葉を持たないのか項垂れてしまう。確かにティナが言うように、不確かな可能性に賭けるには状況が悪い。

 

 そう、状況が悪い。このまま全員で固まっていてもじり貧。現在の戦力で無事に王都を切り抜けられるかと言うと、確率は非常に低い。

 

 蒼の薔薇視点では、未だにワーカー達も健在なのだ。索敵に特化した彼らの目を掻い潜り、都市外部に出るには……だろう。もっとも、彼女らが知らないだけでかのワーカー達は凶悪な呪い(権能)に侵されている。第十位階……それを超える超位魔法ですら癒す事も解呪する事も不可能な邪悪な呪いに、だ。死亡、即蘇生によるリセットすら許さない世界級の呪い。仮に解呪したいならば、永劫の蛇の指輪(ウロボロス)でも用意するか、呪いの大元自体を抹殺しなければならない。その呪いにより、彼らの視覚と聴覚は永遠に閉ざされ、他者への意思疎通すら無理。

 

 なので戦力としては役立たずになっているが、それを知らないのだから警戒せざるを得ない。

 

 むうぅと唸るマウラを前に、ラキュースも再度説得しようとして───

 

「なら、私とこの子二人で別行動をとる。それならどう?」

「ティア!?」

 

 ティアの言葉にラキュースは少し目を剥く。彼女が重度のレズビアンなのはラキュースも承知で、さらに言えば幼い少女が好みなのも重々承知だが、だからと言ってこの状況で別行動をとるのはリスクがある。だからこそ驚いたのだが───

 

「どちらにしろ、全員で動けば目立つ。なら、二手に分かれるのが良策。違う?」

「違くはないけれど……でも、マウラちゃんの荷物を探すのは、やはり反対よ」

「えっと……な、なら! なら、せめて二手に分かれてから、途中! 途中で、ここかも知れない場所を探す! それなら……駄目ですか? あたし、その、記憶力は良いので、自分が連れていかれた場所は、その、全部、覚えて、ます」

 

 チームリーダーであるラキュースは、ティアの要望とマウラの願望。二つを天秤の片方に乗せ、もう片方にリスクを乗せる。伸るか反るか。数瞬だけラキュースは思考し───

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「その……ありがとうございます。ティアさんがああ言ってくれなかったら、あたし───」

「別に良いよ。二手に分かれるのは想定内。その場合、マウラちゃんを背負う私が、単独行動するのが一番無難だよ」

 

 マウラとティアは別ルートを辿りながら、盗られた荷物を探す。それを不承不承ながらも受け入れたラキュースらに見送られ、ティアはマウラを背負いながら裏道を走り抜けていた。

 

 ティアが言うように、二手に分かれるなら彼女の単独行動が最善だ。神官職と戦士職のラキュースとガガーランは、あまり逃亡向きのスキルや魔法を保有していない。それに対し、ニンジャを習得している双子が本気で逃げに徹すると、人類圏最強国家の法国ですら補足はかなり難しくなる。ニンジャは速い。絶対に速い。

 

 なので、従来であればニンジャの双子とガガーランか、ラキュースのペアに分かれての逃亡だが……マウラがいる以上、速力のあるティアとティナのどちらかが背負う必要がある。つまるところ、ティアとマウラがセットで動くのは元々想定内なのだ。

 

 背負われているマウラが心配しているのが伝わったのか、努めて笑顔を浮かべながらティアは優しく語り掛ける。

 

「安心して。何があっても、絶対にマウラちゃんは私が守り切るから」

「ティアさん…………な、なら。あたしも! あたしが、ティアさんの背中を守り切ります!!」

「ふふ、ありがと」

 

 幼い子の何の効力もない言葉に聞こえるそれに、ティアは朗らかに笑う。一層自分が頑張らないといけないなと。

 

 そうやって二人が進む方向は、運が良いのか追っ手に出くわさない。……と言うよりも、出くわせない。なにせティアが背負うのは最強装備(マウラ)。持っているだけで幸運値が最大まで上がり、自動迎撃により追手はいつの間にか感覚が狂い、来た道をすぐに引き返していく。あとは───

 

「――別に俺に関しての話ならば、どうでも良いんだ。別に俺自身は大した者だとは思っていない。だから何をされてもそうなのかなと思うし、奴隷紛いの扱いをされても我慢できる。───しかしだ。お前達は、俺の親友が託してくれた、大切な宝物をどう扱った? 同じような扱いを、散々、今まで、多くの、弱者に、やってきたんだよな……糞共がぁ…………死すら生ぬるい。多くの奴隷にしたことを、自分達も味わえ」

 

 マウラの知らないところで、殺戮者(マウラアンチスレイヤー)がエントリーしたり。

 

 運悪く殺戮者とエンカウントした追手は、この先生涯忘れられない恐怖と衝撃を刷り込まれていた。この先があるのかはともかく。

 

 ようするに、二手に分かれた内、この二人に関してはマウラアンチスレイヤーがある程度暴れたところで納得し、途中でサラバダ! するのを天に願う様相となっている。

 

 二人が荷物を見つけるまでの間、果たして何人死ぬのか。……そもそもマウラアンチスレイヤーの動向次第では、(慈悲)すら与えられるのか。それは誰も知らない事だった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「見つかったか?」

「こっちにはいねえ。向こうはどうだった?」

「浮浪児が数人いただけだ」

 

 蒼の薔薇を捜索しているのだろう。数人の男が表通りの一角に集まり、アダマンタイト級冒険者達がどこに潜伏したのかを報告し合っている。

 

 話し合う一同だが、彼らの口から有力な情報は出てこない。というのも───

 

「クソ! あのワーカー共が。無駄飯ぐらいで何の役にも立たねえ」

「言うな。俺らの目や耳が、同じ目に遭わなかっただけでも御の字だ」

 

 肝心のワーカー(レーダー役)が、全員世界を侵すほどの呪いにより潰れたせいだ。蒼の薔薇が逃走後、煙が晴れたのでゼロやスタッファンはすぐさま追跡するようにワーカーに命令を出した。

 

「………………───!!」

 

 が、そこにいたのは二度と視界に何も映らず、耳は何も聞こえず、話す事も出来ない木偶の坊たち。半永久的な盲ろうデバフを与えられ、その上意思疎通の手段すら奪われたのだ。ワーカー達は辺りを見ようと首を振ったり、自分の体に起きた異常を伝えようとするが不発。

 

 様子のおかしい彼らを見て、その場にいた大半は不気味がったが、ブレインや六腕といった強者は何があったのかを察した。

 

「そいつら……眼が見えてねえ。恐らく耳も聞こえてないな」

「口をパクパクさせてんのに、喋らないのは言葉を奪われた……のか?」

 

 ブレインとゼロは目を見開き、自分達の考えを口にする。それを聞いた一同は、意味を理解した瞬間背筋に怖気が走った。いつそうなったのか。あの煙の中、蒼の薔薇に何かされたのか。

 

 自分達もそうなっていたかもしれない。恐怖と動揺が一同に伝播しかけ───

 

「狼狽えるな! 特殊技術(スキル)にしろ、魔法にしろ、強力であればあるほど連発は出来ねえ!! 今俺たちは無事だ! なら、こいつらと同じ目に、今日は遭わない!」

 

 ブレインが全員に向かって、一斉に怒鳴りつける。

 

「確かか?」

「ああ。相手の動きを止めたり、行動不能にするような能力は大抵回数制限がある。位階魔法にしたって、そんなのを連発するようなやつを見た事がねえ。それはお前達だって承知のはずだ」

「ブレイン・アングラウスの言葉に賛成だ。どうやったのかすら分からない能力が何度も使えるなら、ここにいる全員を同じ目に合わせているだろう」

「それか雑魚にしか使えないかだ。俺たちのように、同じアダマンタイト級相手なら効果が薄いのかもな」

 

 六腕のメンバーからも、ブレインの言葉に納得だと同意があがる。六腕は全員、ブレインほどではないが相応の修羅場は潜ってきている。過去の経験が、今は安全だと教えてくれる。だから同じ手は早々飛んでこないと確信していたのだ。

 

 とにもかくにも、このために雇ったと言ってもいいワーカー達の内、索敵能力に優れた連中は率先して潰された。

 

「しゃあねえ。お前ら! 全員散れ! 手分けして、餓鬼と女共を探せ! だが、見つけてもすぐには手を出すな! 俺ら以外が挑んだところで返り討ちだ!!」

 

 ゼロの発破を受け、慌てて王都の巡回兵と八本指の下っ端が広間から掃けていく。それを見送り、六腕も独自の行動に移りだす。敵はアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』。数では圧倒的に有利だが、それでも今回のスキルのようにどんな手札を隠しているのか不明。

 

 それでも負けるわけがないと高をくくり、獲物を追い詰める面をしながら……

 

 それから数十分。裏道や、増改築されて迷路の如き有様となっている浮浪者が住む建物なども捜索するが不発。『蒼の薔薇』捜索隊は、苛立たし気に誰もいない建物のドアを蹴りで閉め去っていく。

 

 その姿を遠目に確認しながら、ティナはついてくる二人に声をかける。

 

「クリア。この先は安全だよ」

「あいつら、あんな大声出しながらとかアホじゃねえか。ティナじゃなく、俺にも聞こえるぐらいの声とか追う側には向いてねえな」

「そのおかげで助かってるんだから、今は良い事よ」

 

 ゆっくりと進むティナの後ろを、ラキュースとガガーランはついていく。声は多少軽い三人だが、声の軽さとは裏腹に足取りはかなり遅い。

 

 と言うのも、追っ手が感覚を狂わされたり世界最強のセコムが顔を真っ赤にしながら猛威を奮うマウラ・ティア組と違い、ティナが斥候を務める片方の歩みは遅々として進まないからだ。

 

 理由は言わずもがな、純戦士職のガガーランと前衛信仰職なラキュースだ。

 

 二人は潜伏系のスキルも無ければ、幻影や洗脳などの逃亡に有利な魔法を有していない。この手の状況にはまるで向いていないのだ。なので、ティナは必要以上に進行先の安全確保に細心の注意を払いながら、絶対にみつからないように警戒していた。

 

 そのかいあってか、今のところ三人はみつかっていない。

 

「……ふぅ。とりあえずは、安全ってところか」

「うん。だけど、あまり音は立てないで。特にガガーランの鎧は、音が大きい。向こうには、元レンジャーのワーカーもいるから、金属音には敏感だから感づかれる」

「分かってるよ。普通なら、見つかってもどうにか出来る自信はあるが、今、下手に殺したりしちまったら、マジで言い訳が利かない犯罪者になっちまうからな。まぁ、それ抜きにしてもブレイン・アングラウスを含めた連中を相手にして、切り抜けられるかは五分五分だがな」

「……強敵?」

「ああ。あの場にいた中で、一番やばいのはブレインだろうぜ。数年前の時点で、あのガゼフのおっさんと互角だったんだ。あの頃のままなら、俺でもどうにかなるが……もしも、ガゼフのおっさんみてえに訓練を積んでいて、同じぐらいの強さだとしたら、真正面からやりあえば十中八九死ぬだろうな」

「ガガーランが無理なら、私やティナでも駄目ね」

 

 この三人の中で、正面戦闘がもっとも強いのはガガーランだ。レベル的な強さはラキュースが一番上だが、彼女の職業(ビルド)は治癒や蘇生などに振られている分、純戦士職と比較すると少しだけ劣る。

 

「それよりも、ティア達の方は大丈夫かしら」

 

 単体であれば、ティアの能力なら王都から脱出可能だと信じているが、今はマウラというお荷物を背負っている。二手に分かれるのは戦略上織り込み済みだが、それでも回復魔法が使えるラキュースが向こうに付いた方が良かったのではないだろうか。そんな心配をラキュースはするが───

 

「今は大丈夫だって信じるしかねえ。ティアの脚や索敵能力なら、早々簡単には捕捉されねえだろ」

「それはそうだけども……」

 

 ラキュースの表情から陰りは簡単に消えないが、不安がってばかりではいられない。ガガーランが口にしたように、自分達アダマンタイトとて今回の相手は容易に切り抜けられる相手ではない。気持ちを無理矢理切替、再びティナの先導で王城を目指す三人。

 

 呪いにより人数を減らされた王都側戦力だが、それでも人数は圧倒的に有利。いつまでも隠れて逃げられるほど……敵とて無能ではなかった。

 

「止まって! そこの曲がり路。待ち伏せされてる」

 

 ティナの索敵に引っ掛かったのか、不意打ち狙いの相手が潜んでいると看破。その反応に舌打ち一つだけ返し、暗がりから男が一人ゆったりとした足取りで出てくる。

 

「流石はアダマンタイトか。気配を消しているつもりだったが、こうもあっさりと見破られるとはな」

「てめえは……あの場にいたな。誰だ」

「俺は六腕のサキュロントだ。ああ、あんた達の自己紹介はいらねえよ。有名人だからな」

「……みんな気を付けて。そいつ一人じゃない。あそことあそこの窓。それと後方の屋根にも一人ずついる」

「おいおい、とんでもねえ感知力だな。アダマンタイトってのは化け物だねえ」

 

 にやにやと笑う六腕の一人、サキュロント。六腕と聞いて、『蒼の薔薇』三人は警戒する。六腕は一人一人がアダマンタイト級冒険者に匹敵すると言われ、それが事実ならガガーラン達に並ぶ実力と言う事。これが一人だけであれば数が多い『蒼の薔薇』の方が上回るが、ティナが言うように回りを見渡してみれば、窓や屋根の上に杖と弓を構えた男が三人いる。

 

 つまり三対四。それも場所のイニシアチブは取られている。三人の中で高所への攻撃手段を持つのは、<魔法の矢>を習得しているラキュースと、苦無などを使えば投擲攻撃が可能なティアになるが、それでも専門の遠距離攻撃使いと比べると非常に劣る。

 

 この状況だと目の前のサキュロントを殴るぐらいしか出来ないガガーランは、状況の不利に内心歯噛みしつつも、それは表に出さず───

 

「へぇ。お前が六腕の一人か。俺たちは行きたい所があるから、道を塞がず、端に退いてくれたら助かるんだがな」

「馬鹿言うなよ。お前ら全員、絶賛指名手配中の犯罪者だぞ。善良な一市民として、見逃すわけにはいかねえな」

「ワーカー共と同じこと言いやがって。そうかい、それじゃ、俺の邪魔をするんだ。ぶっ潰されても文句は、ねえよな!!」

 

 押し問答など不要。ここで時間をかければ不利なのは、誰がどう見ても『蒼の薔薇』だ。サキュロントの実力は不明だが、ここでもたもたしていたら他の追手も追いついてくるだろう。

 

 躊躇も躊躇いもなく、ガガーランは大槌を手にサキュロントに接近。そんなガガーランに向かって、狙いを付けていた魔法詠唱者(マジック・キャスター)弓兵(アーチャー)二人が攻撃を開始。矢と<魔法の矢>がガガーランにまっすぐ飛ぶ。しかしそれを、ティアとラキュースが許さない。

 

「<魔法の盾(マジック・シールド)>!」

「させない!」

 

 二本の矢は、建物の壁を蹴り跳躍したティナが撃墜。ついでに苦無を投擲し、アーチャー二人を攻撃する。彼らは反撃されるぐらいは考慮していたのか、レベルとしては10以上も上のティナの攻撃を避ける。しかしそれで体勢を崩したのか、窓の中へと姿を消す。

 

 ラキュースは盾の呪文で<魔法の矢>を防ぐ。必中効果を持つ<魔法の矢>だが、ラキュースのように魔法による防御を行えば防ぐことが出来る。

 

 必中の矢は、ガガーランに届く前に防がれ消失。その様子を振り返って見たりなどガガーランはしない。自分の仲間であれば、たとえ有利な場所を取られていたとしても、遠距離からの攻撃を妨害してくれると信じているから。

 

「そこ退けぇ!」

 

 サキュロントとの距離を0にし、ガガーランの鉄槌がサキュロントへと叩き込まれ───すり抜ける。

 

「なっ!」

「ッ! 違う! それは幻!!」

「おたくの斥候は優秀みたいだが……気づくのが遅いな」

 

 アーチャーが引っ込んだのを確認したティナはガガーラン達の方を振り返り、ニンジャのスキルで攻撃されたサキュロントが幻術で産み出された虚像なのを見破り警告するが……サキュロントが言うように、一手遅い。大槌を振り抜き隙が出来たガガーランに対し、何もない所からいきなり剣が突き出される。鎧のない顔狙いの突きを、ガガーランは首を捻って避けるが、避けきれなかったのか耳が持っていかれる。

 

「ッ! いってえな!!」

 

 耳から鮮血を吹き出しながらも、ガガーランは槌を手首で返して反撃。剣が突き出された所を攻撃するが、これは空振りする。とは言え反撃は想定よりも早かったのか、幻術で姿を隠しているサキュロントは少し肝を冷やす。

 

 ───おいおい。耳が切り裂かれてるのに、一つも怖気ずに反撃してくるかよ。怖い怖い。これがアダマンタイト級冒険者か

 

 サキュロント───彼は幻術師(イリュージョナリスト)軽戦士(フェンサー)を修める魔法戦士。純粋な戦士としての実力は金級~白金級程度の実力しかないが、幻術を組み合わせる脅威度を大幅に増している。これが単純な殴り合いであれば、ガガーラン相手にサキュロントは勝ち目は一切ない。が。ガガーラン側もマジックアイテムを使わないとこの手の小細工を見抜く手段を持っていない純戦士職なので、やりづらい事この上ない強敵となる。

 

 とは言え───

 

 ───あの小娘。ティアかティナのどっちかは知らねえが、あいつは俺の幻術が見えているのか。これは厄介だな。このまま俺一人でやったとしても、押さえられるかどうかは運しだいだな

 

 幻術師は冷静に状況を観察する。看破手段を持つ相手にこれ以上やりあうのは得策ではないと。八本指は同一の組織だが、それぞれの部門は独立しており、警備部門の六腕は金さえもらえば他部門の荒仕事をこなすが、それとて命を賭けるほどではない。このまま粘ればガガーラン一人を行動不能には出来るかもしれないが、その代わりに自分が死んではただの損。今回の依頼は、奴隷制度の復活により最大規模となった奴隷売買部門の仕事であり、相応の金を約束されているが……やはり命ほど高くはない。

 

 ───退くか。こいつらがどこを目指しているのかは、この道を通ったことで大体分かった。こいつらとやり合うにしても、ゼロ達と合流して叩き潰す方が確実だな

 

 サキュロントはここでどうにかするよりも、安全策を選ぶ方が良いと判断し、幻術を残して撤退。後方でラキュースとティナに、マジックキャスターとアーチャーがのされているのは確認できたが、それを助けるほどの義理はないと容赦なく見捨てた。

 

 サキュロントが去った後。敵三人を片付けた『蒼の薔薇』は、ティナがサキュロントは去った事を確認してから、すぐに行動に移る。

 

「俺たちの居場所はほぼ相手にバレた。それで確定か?」

「確実に。あの幻術使いは、一人で私達とやるよりも撤退を選んだ。たぶん、応援を呼びに行っている」

「なら、俺たちのこっからは更に苦しくなるな……へ、腕が鳴るぜ。殺さない縛りに、敵さんの方が数が上。おもしれえじゃねえか」

「そうね。でも、私達が暴れればその分、ティアやマウラちゃんへの追手も減る筈。結果オーライと言う事にしておきましょうか」

 

 王都を目指して三人は走る。場所が割れた以上、必要以上に身を隠す必要もないと、今度は全速力での疾走だ。隠れるよりもこっちの方がらしいと言わんばかりに、『蒼の薔薇』は大通りを走り抜けるのだった。




マウラアンチスレイヤー:ドーモはじめまして八本指さん。俳句を詠め

次話で蒼の薔薇逃亡編は終了予定(これ以上長々と書いてもあれだし)
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