東方夢幻界鄕 ~有り得たもう一つの可能性の物語~ 作:龍姫★サキ
私達が争いを始めるのにそう時間は掛からなかった。
先に先手を取ったのは向こうだった。
向こうは私達が手負い(幻月を除く)の妖怪と舐めているのか、霊力系の弾幕を大量に投与してして来た。
「ねぇ、舐めてる?舐めているよねぇ?」
と幻月は挑発をする。
「次から次へと……クズが…!此方は忙しいんだよっ!早く逝きなぁっ!!!」
「馬鹿なのっ?死ぬの?……アハハッ!!そんな舐め腐った攻撃…心が込もってなければ当たらないよ~♪」
幻月は次々と挑発をして相手を煽り散らかす。
そのせいなのか単純な弾幕を大量に投与まくる始末。
…普通の妖怪相手ならまずやらない手だ。少なくとも弾幕は別の攻撃と組み合わせて使うのが基本。…更に言えばこいつは煽り耐性が零に近い。そのせいで完璧に相手に見切られている。
…もしくは、こいつが熟練の妖怪を相手に戦ったことがない奴なのか…まあ定かではないが、今の現状からみるに完全に私達は舐められている。
と、幻月では相手に出来ないと踏んだのか今度は此方に標的を変えて攻撃してくる。
「狩れないとわかった途端に此方に攻撃を変えるのは最早、身の丈が知れてますよ?」
「煩い!!さっさと死ねっ!!」
と話すもまともに取り合ってくれるも無し。
その攻撃を後ろに飛び退いて初撃を回避。次に来る弾幕を幻月の様に左右に避ける。
ある程度躱し続けると唐突に攻撃がやんだ。
中々に攻撃が当たらない事にイラついたのでしょうか。相手の首筋には青筋がいくつも浮かんでいる。
「ふざけんなよっ!妖怪風情がっ!!さっさと当たれば痛い目にあわずに済むんだ!!だから、死ねっ!早く死ねぇっ!!!」
何かを叫んでいる様ですけど聞く気にならない。今の私はかなり怒っているのだ。
「ごちゃごちゃと煩いよ~?戯れ言発する気ならもう少し考えて攻撃をして見ることだね?…怒りに身を任せて攻撃をするなんて言語道断。武士道の恥さらしだよ」
「チィッ!武士道等と…妖怪が語ってんじゃねえぞぉッ!!!」
幻月は、私と違い冷静に相手の話を聞いて煽っている様だ。その言葉にキレたのか相手は途端に攻撃を再開し始める。
どちらにせよ私は能力を使わないが手加減は一切しない。
更に撃ち出された弾幕を躱す為、私は空へと飛び上がる。
それを追いかける様に弾幕が鞭のように追いかける。無誘導の弾幕じゃそう簡単には当たる訳ありませんよ。
幻月はその様子を観察するように様子を見る。…成る程そうですか。そう言う作戦なんですね。解りましたよ。
相手は私達と戦う前にルーミアさんとこいしとも戦っている為か疲労がたまっているのだろう。
だんだんと余裕が無くなって来ている。
攻撃をし始めて少し経つとようやく術者が疲れたのか隙を見せる。その瞬間を狙いは私は急降下して相手の懐に突っ込んだ。
カランカランッ!!
鈍い鉄の音が響き渡る。
その音を尻目に弾き飛ばされた術者がキレたのか、腰につけていた妖刀を抜こうとする。
ですが、それは無駄です。
腰に伸ばした手が空を切っているのに気付いて初めて動揺を見せる。
「ありゃ?…ご自慢の刀は無いの?……アハハッ!あぁ、そうだよねぇ?…もしかして、探し物って…これの事かな?」
と幻月は妖刀を見せる。
懐に突っ込んだ際に、回収をしようと思ったのだが、勢い誤って妖刀を吹き飛ばしてしまった。いや、どっちかと言えば幻月からの作戦である。
ぶっ飛ばすついでに幻月の方へと妖刀もぶっ飛ばして置けば怒り心頭で目の前が見えない状態のせいで無いことにも気付かないのでは?とのこと。
結果はご覧の通り。術者は気付いておらず、ぶっ飛ばした妖刀は、綺麗に幻月の手に吸い寄せられる様に収まったのだ。
「こうすれば…もう、奥の手が使えないよね…?」
…バキーンッ!!
幻月は妖刀を横に持ち、思い切り刀の刃先をまっぷたつにするように思い切り折り曲げる。
妖気がこもった得物だとしてもそれ所詮は刀。物だと言う事ならいずれ壊れるの必然。
儚く無残にも真っ二つに刀は折れ、割れる。
「……チィッ!!!!よくもまぁ、こんなにも抵抗をしてくれる!!なら、良い本当なら使いたくない手ではあったが…そんなにも死にたいなら良いだろうっ!俺を本気にさせた事、後悔しながら残酷に死に逝くが良い!!」
「それって振り?演技な訳??形勢逆転出来るとでも?」
「……目にもの見せてやる…っ!!」
何やら怒り狂って叫び散らかしたあげく、何をいっているか解らない。幻月の言葉は理解できますけど…いや、私自身が相手の言葉の意味を理解する気がないんでしょうね。
「…反撃と行きますか」
私は妖力で強化した足で地面を思い切り蹴る。
体が一瞬音を置き去りにして術者の元へと迫る。
お腹に狙いを定めて強引に殴り付ける。
キンッ!…ガシャーン!
何か固いものに当たった様な音がした後、今度はガラスの割れる音が響き、術者が後ろへぶっ飛ぶ。
咄嗟の判断で結界を張ったようです。
ですが、タイミングが合わずに守りきれなかった様ですね。
「さて、私も行くよっ!!」
幻月が私に続いて追撃を始める。
手には真っ黒く陽炎に似た霧状の剣が握られている。恐らく魔力で造られた剣だろう。
「…お前ら…調子に乗るなよぉ…っ!!絶対殺すっ!必ず殺す!!全員嬲り殺しにしてやる!!!」
また何か喚いていますが、無視。
幻月は追撃を開始する。
相手の首元を狙い剣を振りかざす。
だが、相手もそこまで鈍くはなかった。
すぐにお札と結界を利用し攻撃を防御してきた。
幻月は攻撃を続行する。流石にと思い私も参戦。
私は相手の隙を突こうとするも、攻撃をすれば撃ち出された誘導弾幕が邪魔をして右に弾かれる。
それを見た相手は私に向かって蹴りあげ。
後ろに間一髪で回避、同時にその隙を狙ってか大型のた弾幕がゼロ距離で発射される。それも体をひねって回避。
幻月は其処を狙って造り出した剣を振りかざす。
ガツッ!!!
なにかが幻月の剣を受け止める。
その刃先を見るとお札だった。
だが、お札から霊力が剣の様に伸びて刀を形成している。まるで幻月が今やっている剣の様に。
剣とお札で造られた刀が互いに打ち合い、霊力の流れが特殊な光を生む。
打ち合っており互角かと思われるが幻月の方がかなり優勢。
敵わないと判断したのか幻月の相手を突然とやめ此方に攻撃を振るってくる。
流石の私もそのままで受け止める訳にも行かず、咄嗟に持っていた刀を取り出し、鞘を投げ捨てる様に放り投げ受け止めた。
キンッ!
これも互角かと思いきや、少しずつ此方が押されている。
くっ…やはり接近戦は辛いです。
「……援護するよっ!!はぁっ!!」
「…なに!?…ぐはっ!?」
そう思っている否や相手は回し蹴りのフォームへと入る。防御しようと腕をクロスさせた。だが、予想とは違いすぐに幻月からのフォローの一撃が相手を襲う。
相手の攻撃の方向の衝撃波が後から来る。
それが私の予想とは別のところから来た。
あれは、フェイントだったのか…!?心を読めていたらわかったのに…
衝撃波だけだったので対してたダメージは貰わなかったが刀がどこかへと飛ばされてしまった。
フォローの一撃があったとしても相手はまだ私を諦めてなかったらしく、油断した私に密かに散りばめられていたお札が私の周りで爆発四散。
幻月もそこまで気が回っていなかったらしく、驚愕の表情を浮かべる。
爆発の影響で幻月とは少し離れてしまったが、それを利用して距離を取ろうとするもそれも読まれていたようで別の術式が発動。鋭い針が襲ってくる。
幻月の方でも同じ現象が起きたらしく私と同じく体を捻らせて被弾面積を最小限に抑えようと試みたらしい。
私の方でも同じく、咄嗟に体を捻って被弾面積を最小限に抑えるのだった。
コートごと身体が引き裂かれ、吹き出た血が裂けた服を染めていく。だが、そんなことよりも深刻な事態が発生した。
「…あ、まずっ!?」
コートで隠していたサードアイが裂け目から外に飛び出してしまった。
同時に周囲の声が一斉に私のなかに侵入してくる。
…酷い考えばかりで、一瞬心が折れそうになる。正直折れた方が楽かも知れない。
幻月の方でも同じく隠していたコートが裂かれ、純白の翼が現れた。
酷く動揺しているようで、翼も幻月の心情と同じように萎縮した感じで折り畳まれる。
ふとみれば、あの術者の姿がない。
あたりを見渡す。もう隠す場所が無くなったサードアイもフルで活用する。
幻月からの声が聞こえる。
うしろ…?後ろへ!?
蹴り!?くそっ?!
緊急回避を試みるもそれよりも先にお腹へと衝撃が走る。
内蔵が押し潰されそうになり少し遅れて体が後ろへと吹っ飛ばされる。
「お姉ちゃん!!」
「さとりぃっ!!」
「さとり様?!」
こいしがこっちに駆け寄って来ようとするも、夢月がそれを引き留める。
ちょっ!?ルーミアさんまで来ようとしないでください!あなたは動けないでしょ!?
エリスが此方へと動こうとするルーミアさんを必死に大人しくさせる。
幻月の方は…大丈夫な様ですけど…此方を助けられずに困ってる様子…。
とか思っていたら、木の幹に叩きつけられる。
「ごはっ!?」
鈍い痛みを堪えて立ち上がろうとするがそれよりも先に彼が思いっきり接近。なにをしようとしているのかを読むが体が反応する前に再び蹴りを入れられる。
「…ほう?まさかさとり妖怪だったとはな」
見上げれば術者が勝ち誇った下賎な笑みを浮かべて此方を見下ろしていた。
「……なにか文句でも?ああ、妖怪なら全部に文句があるんでしたね。すみません」
「ふん。安い挑発には乗らんぞ」
上手く注意を逸らせると思ったんですが…
そう思ったのも束の間、再び体が気に叩きつけられる。
地面にずり落ちそうになった体が何かに引っ掛かる。
「…!?…左腕が?!!」
見れば、左腕の傷口から下が結界により木に固定されていた。これでは動けない。
「其処で見ていろ。化け物退治は大事なものを消される苦しみを味わってからだ」
心まで同じことを考えて…最悪な人です。
いや、最低なのは元からか…。
少し離れた所にいる幻月、そして、こいし達四人にそれぞれアイコンタクトを取る。
「結界『模倣幻術守護陣』!」
「魔符『禁忌的な護神術』!」
エリスと夢月が二人を守るため自らの魔力を使いスペルカードを発動。
だが、それは強くても時間と共に消えてしまうのが定め。…だから早くしなければ…!
「…さとりっ…!…くそっ!!剣術『クロスソードスピアー』!!」
幻月はスペルカードを使い、見事な剣術を使いながら相手へと突っ込む。
「貴様は…先からさとり妖怪と組んで戦ってきた奴か。…剣の腕は見事な物だ。…だが、これも一興。暫く相手をしてやる。この攻撃の流れ弾にいつまで彼奴等は耐えられるかな?くははっ!!」
勝ち目がない筈の幻月を相手にまさかの流れ弾で守っている奴に当てる気なのでは…!?このままでは…!
「…くぅっ!!…こい…しぃ!!」
さっきの衝撃波で吹き飛ばされた刀を探す。
刀は運良く私の足元に転がっていた。右足を使って刀の柄を弾く。
空中に舞った刀をまだ動く右手で掴む。そのまま持ち方を変えて刃の方向を調整する。
「…間に合って!!」
結界で木に打ち付けられた左腕に刀を刺す。
「うぐっ……ぅう~!!」
痺れる様な痛みが腕全体に走る。だが、それもすぐに収まった。
それ以降は左腕の感覚が無くなる。
刀を強引に引っ張り結界で固定された部分を切り離す。鮮血が飛び散り私の服を汚していくがそんなモノに構っている暇はない。
悲鳴をあげる体を無理やり奮い立たせ術者が向けて突っ込む。ちょうどなんだか運が悪いんだが、スペルカード効果時間が切れ二人の結界が消え失せる。
それを狙った術者は、ニヤリと笑みを溢した後、幻月と撃ち合っていたをピタリと止め、突如、こいし達に向けて全速力で斬りかかる。
油断していた幻月は、隙を突かれ逃げられる。
その失態を取り戻すべく幻月は全速力で追いかける形で追うも間に合うはずもなく……
私は、妖力を展開した右手を握りしめ思いっきり殴りかかる。
「こいし達に……手を出すなぁぁぁ!!!」
何かが触れたみたいだが、手応えが無い。どうやら躱されたみたいだ。
体を勢いを殺すことが出来ずにオーバーシュート。術者に背後を取られてしまう。
「腕だけではなく、体ごと固定すべきだったな」
その直後、私に向けて巨大な弾幕が放たれる。どうみても人間が使える様なモノじゃない。
現に彼も体の血管が浮き出て破裂している。
私は咄嗟に刀を放り投げる。
刃の先が弾幕に触れた瞬間、轟音ともに弾幕が炸裂。刀を粉砕してしまう。
「ゲホッ!!」
爆風で私の体が地面に叩きつけられる。肺が圧迫され呼吸困難に陥る。
だが、休んでいる暇はない。
丁度、幻月と合流する。
直後、サードアイが素早く次の攻撃を読んで、警告を放った。
「『テリブルスーヴニール』!」
「魔符『極壊死線』!」
私は体を倒しながらスペルを発動する。
昔、都で使った時とは比べ物にならない位に精度も威力も上がっている。
幻月も同じくスペルを発動。同じく都で使った技であり、破壊する為だけに産み出された単純な弾幕である。勿論威力は桁が違う。ただ、精度はあまり変わっていないようだ。
当然、このような弾幕に慣れていない術者は回避に専念。あっさりと術にはまる。
一見回避できるように見えて実に追い詰められている…スペルカードの恐ろしい所です。
それ故、ましてや二人同時に発動となれば、原作でも回避は困難を極めている。
それが幻月の単純過ぎる威力重視の弾幕と私の織り成す複雑に特化したバランス型の弾幕の組み合わせなら絶望的に無理に等しい。
仕上げのレーザーを二人同時に撃ち込んだ。
「あがぁぁぁぁああああっ!???」
相手はあっさりと被弾し、断末魔が響く。
「やったの!?」
「ううん。まだだよ」
一瞬、こいしが期待してしまうがサードアイは正確に彼の思想を読み続けている。
それを読み取っていく度に気持ち悪くなりそうな嫌悪が私の脳内に流れる。
ズタボロで瀕死の状態にも関わらず動いてくる。
「貴様等あああぁぁぁっ!!!」
だいぶ、ご立腹ですね。まぁ、格下と侮っていた相手に大事な妖刀を壊されここまで追い詰めればそうなるか…
あぁーもう。さっきのスペルで意識を刈り取るもしくは殺しきる事が出来れば良かったのに……。まあ相手が術者なら心を読んでトラウマを植え付ける…なんてことも出来ませんし…いや、あれは安易に出来ないからなぁ…。
術者の腕に大型の術式が形成される。
「…?!…さとり!」
「分かっています!!」
サードアイがあの術式の内容を見て警報をならした。
幻月も同じく、あの魔力の量と質を見て段違いに顔を青ざめて此方に訴える。
「こ、これで、貴様等は…終わりだ…。はは、精々仲良く足掻くがいい…。まあ……お前らには、足掻く余裕も隙もぉぉお…与え、ないがなぁぁあっ……!!!!」
術者が何か叫んでいる様だがその声は術式から発せられる轟音にてかき消される。
唐突に轟音の中から金色の鎖が出現した。
「……っ!?…あ、あれ、あの禁術は…っ?!」
幻月はあれを見て、狼狽えるがそんな余裕は私達にはなかった。
思わず回避しようと思ったがそう言えば…と思い出して振り返った。
丁度あの辺りには夢月やこいし達がいた。
安易に回避する事は出来ないか…。
「幻月、あの鎖の事を知っているのですか!?」
「え、あ、うん!…あれは恐らく、人の身では扱えられない禁術の一つだよ。名前は…『エヌマ・エリシュ』…神をも縛り永劫拘束する封印の鎖の事。…別名、『神滅の鎖』だよ。…捕らわれたら最期。存在全てを滅するまで続く恐ろしい封印術だよ」
衝撃が私に走る。
あの黄金の鎖は永久封印をするモノらしい。
あれに当たれば存在ごと封印。即ち、妖怪にとっては即死を意味する。
…なんであの人はこんな禁忌を……。
そう言っている間に時間が進む。
「さとりちゃんっ!!」
「さとりぃっ!!!」
「さとりっ!!」
誰の叫びだったのだろう。
それは、誰もわからない。…気がつけば私はこいしを庇うように抱きしめていた。
同時にこいしが張った結界の上にもう一枚結界を追加させて展開、守りの陣に入る。正直あれを防げるとは思っていない。でも、こいしを見殺しには出来なかった。勿論、私だって死にたくない。最期まで抵抗させて貰う。
結界の外側に弾幕を展開させて乱射する。
何発かは当たったようだが、あれが衰える気配はない。
避難する時間すらないのだからあれを壊せる程度の量の弾幕など最初から撃てるわけ無いのだが……。
恐らく来るだろう衝撃に耐えるため私はこいしを強く抱きしめた。
バッ……
だが、いくら待っても衝撃がこない。
嫌な予感がして目を開ける。
「……神綺さん…幻月に……ルーミアさん…?!」
目の前には私を丁度囲むようにして神綺さんに幻月、そして、ルーミアさんの三人が私を守るように結界を張っていた。
しかし、事態は良くない。
神綺さんは巨大な結界を張った反動で左半分の翼が消えかけていた。
幻月は、苦痛の表情を浮かべながら身体から微量だが黄色い火花が飛び散っていた。
そして、ルーミアさんはと言うと大妖怪の力を行使したのだろう、大きく力を消耗しており幻月と同じく黄色い火花が僅かながら飛び散っていた。
それだけで全てを理解してしまった。…彼女達が、私達を護ってくれたの?
術者はルーミアさんと神綺さんが協力して攻撃をしてくれたのか、上半身が綺麗に消失し地面に赤い水たまりを作っていた。この場に静寂が訪れる。
でも、状況が最悪なのはかわりない。それを理解した私は直ぐに三人へと近寄って容体を見ようと右手を伸ばした。
「……さとり。…今は触れない方が身のためだよ…」
バチンッ!!!!
「あぐっ!?」
触れようとした瞬間、右手に激痛が走り思わず手を引っ込めてしまう。
右手の先から煙が出る。
「…これは、完全封印用の術式よ。貴方じゃ触れることすら出来ないわ…。でも、安心して。これに関してなら私の専門内だから。心配しないでさとりちゃん」
完全封印。これに関しては先程、幻月が説明した通り。相手から力を奪い続け存在そのものをこの世から消滅させ、封印する協力な術式らしい。
それに完全封印は一度封印されれば二度と封印は解けることは無い。また、魂を封印するため輪廻転生や魂の移動も出来ないという奴である。
それが今、三人を蝕んでいる。
「ルーミアさん!…幻月!!しっかりしてください!」
私の呼びかけに二人はしっかりと動いた。…どうやら神綺さんの言うことは本当のようで、この手の術式の解除はお手のもののようだ。ただ、時間がやはりかかるようで神綺さんは一生懸命に魔力の使用を自分を含めて使い続けていた。
「……う~。あ、さとりか…。いや~参ったわ~幻月からの話に聞いていた通りのエグい力だったわ~…。二人が援護してくれなかったら、今頃私の妖生が無かったわ…ホント、助かった~」
あんな傷で無茶するからですよ!!後傷に触るから喋っては駄目!
「無理しないで下さい。神綺さんが助けてくれる筈ですから。…それに、幻月!貴方もです!どれだけ心配させるのです?!」
「アハハ…まさか、ついに私を心配してくれる、まで好感度上がったか…。もしかして…私のこと…想ったりしてくれているの~?あっ!イツツ……」
…茶化す幻月を他所に特に痛んでいる腕を触る。
すると幻月はそれに反応して言葉を中断させ思い切り痛がった。
「…そんな訳無いです。ほら、こんなに傷が深いんですから、安静にしてください!」
強めに私が言うと幻月はハハハ…と苦笑いをして大人しくなる。
「……そう言えば、聞くのを忘れてたけど……。どう、どうしてそこまで、するの?……ただ…あの時、会っただけの…ただの居候な私なのに……」
神綺さんは力を行使して、神綺さん含む三人の封印術式を少しずつ紐解いて解呪しているようだ。
今は黙って見守っているしかない。
思い出したかのようにルーミアさんが訊ねてきた。
「どうしてでしょうね…?お節介と言えばお節介ですし…お人好しと言えばお人好しなのでしょうね。ただ…そうですね、このまま放ってはいけない気がしまして…多分ですけど、幻月も神綺さんも…その他、ルーミアさんの事を知っているヒトは皆そう言うと思いますよ」
私自身も何を言っているかわからなくなってくる。
それもそのはず。あまり深くまで考えて行動とかしませんから。…強いて言うなら、ただの偽善なのかもしれませんが、なにもしないよりは数倍マシ。
そんな考えからなのでしょうかね…?
「あはは……。さとり…それに幻月に神綺までも…私と違って妖怪らしくないよ…。まるで、人間みたいね…」
「…………」
人間みたい…ですか…。確かに私としては妖怪の心構えなんてモノはなく、人間として生きる事すらも出来ない中途半端な私達には丁度良い言葉かもしれませんね。
まあその中途半端な中でしか私達の生きる道が無いと言うのもまた事実なのですけどね。
急にルーミアさんから力が抜ける。
「…え、ルーミア…さん……??」
反応が無い。…まさか。
と思ったが、それを感じ取ったのか幻月が答えてくれる。
「……あぁ。心配しなくても大丈夫。…あれは、魔力切れを起こして疲れて寝ているだけだから…。ただ、起きるのは相当時間がかかりそうだけれども」
「…っ!」
良かった。本当に良かった…。
「……さとりちゃん。…幻月ちゃんの、呪術は解呪出来たわよ…」
神綺さんは疲れながらもそう呟いた。
「…ようやく……動ける…さとり」
ゆっくりと歩み寄る幻月。
「幻月……」
幻月は、ルーミアの元へと寄り添い心音と呼吸を確かめる。
「…うん。神綺さん。…そのまま続けて。…もう少しで解呪出来ると思う」
「……フフフ。良かったわ…さてと。ついでに、私の解呪も同時にやっちゃいましょうか♪」
空元気の笑顔を見せる神綺さん。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
こいしが私を心配して後ろから抱きしめてくれる。
「えぇ。大丈夫よ。おまけにルーミアさんも助かるそうよ」
「そう?!…良かった…」
私は、こいしの方を向いてから、抱きしめ返した。
…あぁ。良かった。これでなにもかも終われば平和に…
「さとり!!こいし!!幻月!!!」
安心してこいしを抱きしめていると、その後ろから見知った声が聞こえる。
振り向くとお燐が血で真っ赤になりながら、こっちに駆け寄って来た。
「どうしたの!?お燐ちゃん!そんな血で真っ赤に染まって…」
神綺さんは、解呪の作業をしながらお燐が真っ赤になっていることに驚きを隠せないままどうしたのかを尋ねる。
「神綺さん?!…いえ、大丈夫ですよ!返り血ですからっ!」
「…本当だ…これは白狼天狗の血だよ…でも…なんで…?」
エリスが血の匂いを嗅いで一発で当てる。
私の方も浅く記憶を見た所確かに白狼天狗の血である事が判った。
「……そ、そそ、それは…えと、そのっ!!」
お燐自身が混乱して上手く言葉に表せていない。
「…お燐。落ち着きなさい。……里で何かあったの?」
夢月がお燐に優しく静かに質問をする。
「……。私が天狗の里まで逃げた所、既に其処は戦場に……。白狼天狗、鴉天狗共々、陰陽師達が次々と草刈りの如く薙ぎ倒す様に殺し尽くしていました……。それは例外なく山の四天王達も鬼達も何故か為すすべ無く倒れていたんです…。そして、その人間の数は約40人程度だと思います……。人間達は様々な模様の書かれた旗を持っていまして…その全てが殺意に満ち溢れていました…私は、逃げる途中で何人かに気付かれてしまいました。白狼天狗達は身を犠牲にして私を逃がしてくれて…今に、至ります………」
…この場に居た全員が青ざめる。
私は更に詳しく情報を知るためにお燐の心の中を覗く。
…掲げられている旗は恐らく神紋の旗。
伊勢神宮に賀茂別雷神社、稲荷神社まで……物凄い顔触れですね。
一斉討伐?何のために?
まあそんな事態はどうでもいい。こんな状態では今すぐ逃げたしたい事態であるのに変わりないです。例えるなら此方側はマシンガンやショットガン、ピストルが大量にあるのに対して、向こう側は数は少ないが、悪くてスナイパーライフルかアサルトライフル、良くてグレネードランチャーやロケットランチャー、戦車と言った具合に、格段に絶望的なのがお分かりだろう。そんな所に私が行っても本当に意味があるのかどうかわからない。それこそ今の私だと相手にもならないかもしれない。
萃香さん達が完全に追い詰められていなければすぐに逃げ出していた事でしょう。
お燐が見た光景が正しければ何故か四天王を含めて鬼達半数が動けない状態でいたのだ。
その原因を考えるに……毒。前世記憶に頼れば酒呑童子や茨木は毒入りの酒を飲まされて不意を打たれた筈。…なら、その可能性は大か…。
見捨てて逃げる……なんて選択肢はとれませんね……。
まあ隠してはいたかったですけど…他人の命と比べれば安いものだ。
「こいし、寝ているルーミアさんを運べる?」
流石に置き去りは出来ない。
「まだ、足の感覚は鈍いけど大丈夫」
余り無理してほしくは無いのだが、この場合は仕方ない。
「神綺さん。ルーミアさんの解呪の方は…?」
「……えぇ。先程終わった所よ。今は私の解呪をしているわ」
なら、運んでも問題ないですね。
「お燐。それ、まだ動くわよね?」
「え。はい。まだ使っていませんから」
なら、大丈夫。行けるかどうかは運次第ですけども。
「幻月。言われずとも行けるわよね?」
「大丈夫。……夢月、こいしの事をお願いしても良い?」
「…良いですけど…エリスは?」
「今回はエリスは私と同行だよ。……夢月はこいしの事がよくわかっているからさ」
「………そうね。…判った。……姉さん。無事で帰って来てよね」
「うん。お姉ちゃんは今回も無事に帰ってくるんだから!」
「幻月様。…私も…というのは…?」
「それは、行ってから伝えるよ」
「……畏まりました」
幻月はテキパキと指示を出した。
夢月はこいしに寄り添い寝ているルーミアさんを運ぶ手伝いを。
エリスは、幻月の側へと寄り今までに見ない怖い顔をしていた。
「…私もこの解呪が終わったら急いで駆け付けるわ。だから、それまで、無事でね?」
「………判っていますよ」
神綺さんに一礼をした後、幻月、エリスにアイコンタクトを取って急いで妖怪の山へと向かうのだった…
どちらにせよ、逃げるという選択肢は絶った訳ですから、今さら成功率なんて気にするべきでは無いですからね。
私はさとり妖怪だ。
さとり妖怪という存在は、心が読めるが故に人間、はたまた同じ妖怪から妬み嫌われていた。
心が読める、その一点だけで……
では、なぜさとり妖怪がここまで回りから妬み嫌われてしまうのか。
相手の心が読める…ただそれだけ。ただそれだけで高度な知性は信用することをやめる。
だって、情報の全てが相手に筒抜けになるのだ。仕方無いと言えば仕方無い。
では、此方側の情報も全て提示してしまえば良い。という程の簡単なモノではない。
例え、此方側が情報を提示したとしても知性はそれが本物であるのかどうか?此方側を騙そうとしているのではないか?と判りもしないのに……いえ、解らないからこそ探ってしまう。その先にある答えなんて今も昔も……最悪、出会った時と全く変わらないというのに…
人間も妖怪も秘密も持ってある程度の距離感を保ちつつ関係を作っていくもので、私達のような存在はまず、知性そのものが否定をする。
私達の善悪に関わらずだ。
今の話で解らない?
なら例えばだが、ババ抜きを始めたとする。
ババ抜きとは、相手のカードが解らないから探りを入れて、相手が持つカードを予想しながら引いていく…。そんな遊びだ。
ただ、心を読めるモノは考えすらいらない。…なぜなら心を読めてしまうからである。
そんなモノが居たらまずゲームにすらならないから、結果的にハブられたり、嫌われたりする。
勿論、その人が心を読む能力を使わないと言われても信用はされない。寧ろ、疑われる。嘘を付いているのではないのか?と。その人の善悪も立場も関係無しにだ。
と解りやすく言ったモノではあるが、結論を言えば私達は存在自体が完全に否定されるものなのだ。
私達、さとり妖怪は妖怪カテゴリーの中でさえその存在を否定され続けている。…そういう存在……
だからこそ、親しい仲の結束は人一倍強い。
私が絶望的状況下でも萃香さん達を助けに行こうと考えたのもそれが原因かもしれない。
或いは、人間の心が寂しがっているだけなのかもしれない。
私やこいし、聞いた話によれば幻月にエリス、更には神綺さんやスターサファイアすらも元は人間だとか。
夢月も幻月の片割れ的な半身的なモノなので一応、元人間の記憶を有した妖怪としましょう。
どこかで線を引かれなければならない筈の妖怪と人間の線引きが出来ないイレギュラーな存在。
かたや人間としての魂を持つ者、かたや妖怪と人間のハーフ。……ましてや人間の魂を持つ悪魔達や神様、妖精。
どっち付かずの宙ぶらりん。悪いわけではありませんけどその分脆い。
人間は一人で生きていけるほど強くはない。かと言って妖怪の輪にも入ろうにも種族故に存在自体が否定される。だからと言って近付いて行かなければ結局孤独感に心を潰される。
ジレンマも良いところです。
だから、私は能力を封印し、人としての心で接し続けた。
他人を騙している様で良心はズタズタになってしまうが、知ったことじゃない。
それに、大切な家族に不自由な生活をさせるわけにもいかない。
だからこそ、私達の存在を許しあえる人達を助けようとしたのかもしれない。
気付けば、私達は妖怪と人間の合間に立っていた。
左腕は再生が追い付かずそのまま。滲んだ血で斑点模様になった服からサードアイが躍り出ている。
幻月、エリスと共に両者の間に割り込んだ。
突然の私達の登場に、人間側も妖怪側も唖然としている。まあそれはそうだ。さとり妖怪などこういった所にこれる筈もないのだから。
私の周りをフワフワと浮いているサードアイが全ての思考を読み取っていく。
膨大な量の情報が頭の中に流れてくる。全くもって煩い。そのほとんどがさとり妖怪に対する軽蔑、差別、忌避、嫉妬、どれもがマイナスなモノばかり。全て『嫌われ』として処理してしまいたい情報だ。
苦痛な表情になっていたらしく幻月から『やり過ぎないでよ?』と心配の一言。それに対して私は『大丈夫です。加減はしますから』と返した。
そうして得た情報の中には、今回の件に関する情報もいくつかあった。
重要な事実や相手の弱点が含まれており、その都度吐き気を催すような心を読み取っていかなければならないのだ。
こいしが体験したらさぞ耐えられないでしょう。私も耐えられそうに無いですけど……。
私が心を読み取っている間、幻月とエリスは不意打ちで攻撃されない様に見張っていた。
刹那の時間が過ぎた。
大江山……毒入りの酒、潜入、卑怯な手口……。
なるほど、大体は把握しました。
大江山で退治できなかった酒呑童子と茨木もろともここに妖怪を……
まとめれば…大江山にいるらしい酒呑童子達を昔に退治しに行ったが退治できなかった。しかし、最近、この妖怪の山に住んでいると知った。…ならば、目的の奴を退治するついでに、そのに住んでいる妖怪達全てをまとめて始末すれば…後が楽だし自分達の戦果も上げられて一石二鳥って所ですかね…。
此処まで向かうついでに各地の里を襲ってきたようですね。流石、妖怪退治のプロかと思いきや理由は複雑怪奇。中には蛮族如くの思考を持つ奴もいた。…簡単にまとめれば政治的なアドバンテージを求めて…だそうだ。…要は戦果が欲しかっただけのただの馬鹿ですね。
意味が解らない。いえ、解ることには解りますが…こんな思想に至るとは…。
…同じ人間として悲しくなります。
あの中で現在動けるのは白狼天狗…鴉天狗や鬼と言った主戦力は早々に無力化して行ったようだ。手際が良い……。
さて、私の知る、この場で共闘できそうな人は…幻月やエリスを除いて…犬走親子位でしょうかね。…射命丸親子は居ないようですし…。
私は幻月とエリスにハンドサインを出す。
幻月とエリスは、首を降った後人間が動かないように威嚇し始める。
その間、私はサードアイで犬走親子を探す。
……早めに発見。かなり前に居るようですね。
まあ負傷者の多いこの状況じゃ前にでないと巻き込んでしまうから仕方無いのでしょうけど……
「……想起『二重結界』」
引き続き幻月達が牽制するのを見届けながら私は神主……っぽい格好の人から結界を想起する。
それを私の後ろの……負傷した鬼や天狗との間に展開し、人間達の追撃を出来なくさせる。同時に白狼天狗同士で行うハンドサインを治ったばかりの左手で楓君に指示を出した。
此方がハンドサインを送ってきた事に驚いたようですけど、メッセージを見て直ぐに行動を開始してくれた。
後ろで驚きと困惑の感情が広がる。
自分達が嫌っていた相手に助けられたのだ。…まあ、そうなるでしょうとも。
私は別に嫌っているからどうとかって訳じゃありませんから。
「ほう?成る程。心を読んで技を再現するとは…噂には聞いていたが…流石だな」
それまで黙っていた神主が声をかけてくる。それは純粋な誉めであった。
噂とは……あ、そういう噂でしたか。
『さとり妖怪は心を読み同じ言動、行動を取ってくるから注意すべし……』
なんとも…酷い噂ですね。まあ、それが一般的なさとり妖怪への常識なのでしょうけど。
40人程居てもその半分は鬼や天狗との戦闘で疲弊し戦闘続行は不可能。あの状態からでも半数を無力化するとは…流石、鬼と天狗。
それにしても鬼と天狗以外の種族は見当たりませんね。
特に河童が参戦していたら戦況はもっと楽になったでしょうに。けど、天狗が変なプライドを持ったせいで河童は参加していませんし……
いえ、この人達がここまで来た主な原因は大江山の件だってことを考えれば他の種族を巻き込みたくないって感情が働いたのかもしれませんね。
どちらにせよ、今ある戦力でしか戦えない訳ですから、どうこう言っても意味ないんですけどね。
「ねぇ、そっちはさ半分以上の人が疲弊しているじゃん。出来たら帰って貰いたいんだけど…?」
「犠牲を覚悟の上にきた命知らずな連中だ。死んでも文句など無いだろう。…それにお前らの望む要求に私達が軽々と応じるとでも思っているのか?」
「いや、思ってないよ。…ただね?話を穏便に済ませられたら痛い目見なくて済むから、私として、警告として優しく伝えたつもりだったんだけど…ま、仕方無いか…死んでも文句言わないでね~!」
幻月の交渉が決裂。攻撃が来ると予測して私も幻月もエリスも同時に空中へと飛ぶ。
予想通り、周辺にいた20人近くから一斉に弾幕が発射される。まあ私を倒して結界を破壊しないと他の妖怪には手を出せませんからね。
私が想起した結界は相当頑丈なもの。直接壊そうとするのはお勧め出来ませんね。それを知ってか知らずか…私に攻撃をする人は居ても結界を壊そうとするモノは居ない。
数人は空に飛び上がって迎撃を行おうとしてくる。
それでも、妖怪と違って人間は空を飛ぶのが結構大変。弾幕で攻撃をしながら飛ぶだなんてものは博麗の巫女でない限り無理に等しい。…当然、残った選択肢である近接戦闘を仕掛けてこようと追いかけて来るわけです。
地上から上がる大量の弾幕。それらをひたすらに避け続ける。
空に飛び上がった数人は幻月に邪魔をされて私の側に近寄ることも出来ずに撃沈。
私の方は高度を上げて右にバンク。
直ぐに反撃を行いたいが、まだ情報を回収出来ていない。なるべく相手の術や技を思い起こさせたい。
そのためにこうして焦らしていくしか今の方法はない。
四方八方から迫り来る弾幕とお札。回避できないよう周囲を囲うように配置したようです。
接触まで数秒。とっさにレーザー弾幕を発射し前方の弾幕を迎撃する。
爆発、視界不良。
爆炎に飛び込んで一気に抜ける。
腕や足の所に煙や炎が纏わりついている。服に引火しなくて良かった…。
直ぐに左に旋回しながら高度をあげる。次第に弾幕の量が濃くなってきた。
焦ってきてますね…。そろそろ想起を始めますか。
回避に専念するために意識をほぼ離していたサードアイに再び光が戻る。
相変わらずの弾幕の量ですけど、これくらい距離を取っておけば想起には問題はない。
相変わらず、負の考えればかり入ってきますね。
おっと…そんな事はどうでもよくて…今はあの神主から色々と情報を……
……知らない人が多いですね。もうちょっと深く記憶を探れば私の知らない情報が出てくるのでしょうかね?ですが、それをやるのはこの場では困難。
実際、この神主が何かの情報を知っているとしか思えません。
突如目の前に弾幕が現れる。集中しすぎて気付くのが遅れた…。
とっさに体を上に持ち上げ反転する。
同時に世界も逆さまになり、体が急制動をもろにうけ悲鳴をあげる。
弾幕通過を確認して急加速。下から上がってくる弾幕に対応する。
さっきから攻撃が激しくなってきた。どうやら、散っていた他の人達が戻ってきたようです。
成る程、10人程が…そんなに分散していたのですね?
「………っ!?」
不意に後ろから殺気。
無意識が体を左に反らす。
私の本来左手がある位置に、月明かりを浴びて鈍く光る棒が突き出た。
後ろを振り返ると先ほど浮かび上がって追いかけて来ていた巫女が刀を私に突きだした所だった。
あの幻月を降りきるとは…仲間を身代わりに追いかけたのかそれとも巫女自身が幻月の隙を見て、ここまで全力で追ってきたのか…。
何もない場所を蹴飛ばして距離をとる。
「急に危ないじゃないですか」
「黙りなさい!!この妖怪!!!」
「…あの~?この山の妖怪達が貴方達に危害を加えたりしました?」
「……貴方達には自覚はないかもしれないけど、あんた達妖怪の食事や怖れの為に人間を襲った…ただそれだけの理由よ」
少なくともここの住人にはしていない気がするが…まさか、それたけの理由で!?
妖怪を手当たり次第に消そうとするその理由に呆気に取られる
その一瞬が命取り。
再び銀の刃が目の前に迫ってくる。
反応が遅れる。
直後、物凄い衝撃と共に剣がぶつかり合う音がする。
私はその衝撃波に耐えられず真下へと吹き飛ばされた。
ちょっと…衝撃波が強すぎません?背骨が折れそうなんですけど…加減をしてくださいよ…。
直ぐに体勢を立て直して上を見上げる其処には…
「…もう、追い付いてきたわけ…?!」
「残念だけどそれは、私じゃないよ。でも、同じ私。…それなりには楽しめると思うよ??フフフッ!」
…月明かりをバックに巫女の刀を正確に顕現させた黒い剣で幻月は受け止めていた。
「…ちぃ、小癪な…これでっ!!」
巫女は此方に向けて何十枚ものお札を飛ばしてくる。
これでは、飛び上がる事も出来ない。暫くは地上戦ですね。…なるべく、結界から意識をそらさないと…。
結界を隔てた向こう側では、負傷者の撤退が行われている。あまり彼女達の方に攻撃を向けさせる訳には、いけませんしね。
……って?!茨木さん!?右手を失うのは軽傷じゃ済みませんから!早く下がって!適切な治療を受けてください!!呪詛が進行しているからって、諦めちゃダメですよ!
二人がかりとは…ちょっとずるいです。
すぐに心を読み、振りかざされた刀の射線から体をそらす。
同時に右足で二人の刀を思いっきり蹴飛ばす。
急にとてつもない力で押されて刀が手から抜けおちる。
…だから、もうちょっとちゃんと持たないと……心を読まなくても構え方が下手だってわかっちゃいますよ。楓君に剣術の指導をお願いしましょうか?
そんなどうでもいいこと考えている余裕が、私にもあったのだなと変に自覚。
流石に牽制くらいはするべきでしたね。
反撃してこないのを反撃できないと勘違いしちゃってます。
応戦弾幕を発射。個別誘導。
なるべく痛くならないように弾幕ごっこ用の非殺傷系にしてあるが、そんなことは知る余地も無い人間達は一斉に弾幕から逃げようとする。
攻撃対象じゃなかった十数人が一斉に接近戦をかけて来ようとする。
一斉に接近できれば思考を読まれても対処する時間が無いとでも考えているのでしょうね。
実際、さとり妖怪の戦闘面での弱さでもありますし、間違ってはいません。
小想起した型の結界を展開し、突っ込んでくる三人の顔面にぶつける。
三人が倒れたのをきっかけに接近戦をしようとしていた人たちの動きが鈍る。
こんな機会ですし…では、こちらから攻めてみましょう。
下半身に力を流し、地面を思いっきり蹴飛ばす。
蹴飛ばされたところの土が固まりになって吹き飛ぶ。
当然、私の体は躊躇している彼らの元へすっ飛んでいく。
「ごばっ!?」
まずは一人目。左足を軸にした回し蹴りで吹っ飛ばす。これで無力化完了。
「隙あり…ですよ?」
「うがっ!?」
周りが対処する為に走るその前に、すぐ近くにいたもう一人に肘打ち。
後ろから攻撃をしようとしてきた巫女に後ろ蹴り。
「次は…くっ?!」
……だが、四人目に移ろうとしたところで左足の力がカクンと抜けた。
バランスが崩れ体が崩れ落ちる。
見ると太もものところにお札が一枚貼られていた。
サードアイが右からの攻撃を感知して知らせる。ですが間に合わない。
「……きゃぁぁあっ!!?」
結界を張って耐えようとするが攻撃の威力が強かった。
直撃は免れたものの衝撃波で吹き飛ばされる。
他の相手の対処をしていた二人が私の悲鳴を聞いて、こちらを向いた。
「さとり!?」
「さとりさん!」
余所見している場合じゃ…無いですから…。
私は、二人にハンドサインを送り、私よりも自分の心配をしてと伝える。
二人はそれを見るに渋々と了承し、頷く。その後、彼女達は次から次へとくる陰陽師と巫女の対処に専念し始める。
一方で私の方だが、身体を立たせようと奮闘するが、左足に貼られたお札が私の妖力を断ち切ってしまい、うまく動けない。
私が、あたふたしている合間にリーダーと思われる男が近寄ってきた。
どうやら陰陽師のようです。
先程の神主達とは、また服装も装備も違いますね。
「……哀れなものだな」
「……はい?」
急に心の中に同情が広がる。
なんか急に優しくなりましたけど……なんでしょうかね?…これ。
「お前が張った結界を大人しく解除すれば、少なくとも命だけは助けてやろう。…そう言ったらお前はどうする?」
「見え透いた嘘を突くのですね?…そのような条件は、易々と解除した後に、裏切られて結局始末される。そういうオチが見えているのですがね?」
「なんだ?私が嘘を言ってる。そう思っているのか?…なら、少し本心を話そう。貴様のその力は私らに取っても、使い勝手が良いんだ。素直に従えばお前は助かる。悪くない話だろう?」
私は疑い心を読んだ。
本当に全て本心のようですね。
…うん、こういうとき、一般的に見れば惹かれる条件ですし直ぐに解除したくなりますよね。
「…貴方の言うその条件。確かに美味しい話ですね。……悪くない話だとは正直、思います」
結界の反対側で、不安と怒りとなんかよくわからない負の感情が爆発する。
それらがドロドロと混ざり合って、ワタシの足に絡みつく。
ちょっとちょっと!?みなさんいくらなんでも短気すぎはしませんか!?
まだ、私が条件を飲むとは一言も言ってないじゃないですか!
さとり妖怪は信用出来ないと言えるこの状況。
…普通に捉えれば、私としてはこの場は居心地が悪くてこの人達に従いたくなりますね。
…少なくとも前の私ならば。
「…あのですね?……ホント、正直に言ってしまえば、生ゴミとして処理するレベルの条件です。…到底、飲む気にはなりませんよ。と言うより、話にすらならない案件ですね」
「…なぜだ?…お前の後ろにいるやつらは、皆お前を排除しようと企む側の筈だ。…そして、お前は妬み嫌われる妖怪。…こんな好条件、本来、飲まずにいられない筈なのだが…?…そもそも、我々はお前をそのような扱いにしようとすることは断じてしないと約束するぞ」
その言葉に、一瞬私の何かが切れる音がした。
こいつ…私の事をわかってもいないくせに…
何、適当言ってるのでしょうかね?
この馬鹿は…?
「…はぁー!もぅっ!ホント、ごちゃごちゃうるさいです!耳障りなんですよ!!私を排除したとしても…それでも、私を心の底から、大切に思ってくれている人が…家族がいるのですから!…あなたが提示する条件なんか微塵にも魅力的にも全く感じないんですよっ!!私の気持ち…いい加減にわかって欲しいものです!!このロリコンっ!!!」
私がつい本音を爆発させた時に躊躇していた言葉の一つのロリコンと言う意味は全く伝わって無かったようですけど、自身が貶されていると言うことだけは良くわかったようです。
一瞬にして心が切り替わる。
「……下手に出ていりゃ付け上がりやがって……貴様おとなしく従っておけば良かったと後悔させてやる。…悔しがりながら死ねっ!!」
絡みついていた負の感情が一斉に消失し、私が軽くなる。
相手は私に心底失望したようですけど…まだ能力に希望を見出そうとしている。
……へえ、人格を壊してただの操り人形にですか。気持ち悪…。
それこそ邪法…もしくは禁忌の方法。
…私を本気で殺そうとしていますね。
…肉体ではなく内側の精神の方を。
バコーンッ!!!!
突如として乾いた炸裂音が、喧騒な山肌に響き渡る。
「がっ、は…………」
突然の音に周囲が困惑する。それとは相対的に私と目の前の男は全く動じない。
と思いきや男の体が崩れ落ちるように地面に倒れた。
「……間に合ったみたいね」
私のつぶやきに答えるかのように再び炸裂音。今度は少し遠くにいた巫女の右肩に大穴が開く。
「……ぅぐっ!?」
甲高い悲鳴が上がり人間たちの合間に動揺が広がる。
そっとサードアイで後ろを確認する。
後方650メートルの位置で、高速回転する思考が一つ。
……お燐、そこまで深く考えなくても良いんですよ。
そんなに考えてしまったら逆に手元がぶれてしまいますよ?
お燐が持つSG550は、この百年の合間に私が相当手を加えている。
お燐の要望もあって、命中精度の高いのをいいことに長距離狙撃を行うためのものに改造したのだ。
まあ、実際に使うとなると前のままじゃ使いづらいですからね。
想定交戦距離がもともと300メートル、スコープをつければ600メートルまで行けるので、自動装填機能を撤廃し…部品同士の隙間を詰め…命中精度をさらに高めるくらいしか改造はしていないけど…
後は、手動操作で薬莢を排出するためにレバーをつけたり、長距離で照準を合わせやすいように照準器を別のものにしたりした……くらいですかね。
弾は、相変わらず残っていたものだけですので、凡そ15発だけ。
これが、撃ち尽くしたら先端につけた銃剣で戦うくらいしか出来ない無用の産物になりますけどね。
「…さて、今ならまだこの人の命も助かると思いますけど…どうします?帰りますか??」
そう言って、倒れている男に目線を向ける。
…返事はない。
『こうなったらとことんやってやる』ですか…
ホント、熱心なのはいいですけど…引き際も考えてくださいよ。
お燐が慌てて、他の人…返事はない。こうなったらとことんやってやるですか…熱心なのはいいですけど引き際も考えてくださいよ。
お燐が慌てて他の人に狙いを定めようとしますがそれを手で制する。
無闇に攻撃をするのは愚行です。
特に得体の知れない攻撃を続けてはしまっては、相手の余裕を奪い過ぎてしまいます。
もしそうなってしまえば、正確な判断など下せなくなります。
それだけは、せめて避けたいです。
お札や弾幕が展開され全ての照準が私に向く。
まあ、すでに正確な判断はくだせてないようですけど…どうみても半数以上が脱落しているのだから…
もういい加減撤退してもいいと思うのですけど…
…あ、そんなことしたらまた攻めてこられてしまいますね。
ですが、変に倒して憎悪を燃やされては困りますし…
憎悪は時に文明すら破壊しかねないとてつもなく恐ろしい感情。
そんなものを相手に作らせてしまっては余計にひどいことになる。
…やはり、最悪撤退して欲しいですね。
生と死の境界線は渡ってしまっていますが、まだギリギリ間に合いますよ。
お燐は再び狙いを定めようとしますが、それを手で制する。
もう回避しようにも、私の妖力の断ち切られた片足では逃げ出すことすらもできない。
だからと言って、結界を張る時間も余裕もないですし…一瞬だけ空に飛び上ろうと思いましたが、既に間に合いそうにない。
ちょっと悠長にし過ぎましたかね。
回避を取ろうとしない私を見て、結界の内側にいる天狗や鬼達の合間に絶望が広がる。
確かにここで私が負ければ次は彼らが標的になりますしね。
え?あ、ちょっ!?…柳君、いくらこっちに来たいからって結界を壊そうとしないでください。
大丈夫、私は自己犠牲で相手を悲しませるような事はしないですから……
私に向かって弾幕やお札が放たれる。
すごい数ですね。あれで、鬼や天狗と戦ってきて疲弊しているなんて到底思えません。
お燐が後ろで銃を発砲しようとしましたが、再び私がハンドサインで止める。
……焦っちゃダメですよ。
幻月はやっと片付いたようで此方を見た。
「え、なに、してるの…早まらないで!ちょっと?聞いているの!!ねぇ!やめてよっ!やめてっ!さとりぃぃいいいいっ!!」
幻月は叫び、急加速して私を助けようとする。
安心して下さいよ。私は幻月の隣にいないと落ち着きません。…こんなところで逝くわけにはいきませんから
…弾幕を避けることはできない。
まあ、避ける必要も無いのでしょうけど…
エリスもいつの間にか空中に浮かび、幻月と同じく私を見て叫んだ。
「…っ!…いやぁっ!!さとりさん!!!避けてぇえええ!!!!」
エリスさん。大丈夫です。死にはしません。恩を返せないと死にきれませんから…安心してください。この程度痛くも痒くもありませんから。
あの弾幕の何発が当たってその内何発かが私の致命傷となるのか…。
私はゼロに賭けますが…ホント、どうしましょうかね。
私は瞳を閉じて数を数える。
その間、周りの音も声も届かなくなる。
この数を数える事が、本当に命が尽きるまでのカウントダウンにならなきゃいいですけど…