東方夢幻界鄕 ~有り得たもう一つの可能性の物語~   作:龍姫★サキ

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023話 人間と妖怪の境界 後

 

「神器『滅死神槍(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

「葉符『狂いの落葉』!!」

 

「秋符『オータムスカイ』!!」

 

私に向けて撃たれた攻撃が、当たると思った瞬間。頭上から降り注いだ声と弾幕によってかき消された。

 

 

 

「間に合ったわね…」

 

「もう…神綺さんの方向音痴のせいで間一髪だったじゃないの…」

 

「まぁまぁ、お姉ちゃん。間に合ったんだから別にいいんじゃない。…ね、さとり。お待たせ!」

 

上空から急降下するように二つの影が降りてくる。白銀と深紅色がベースであり母親と想われる服。その左右横には金髪と赤がベースの服…片方が紅葉。もう片方は秋の食材を連想させるような装飾品。

 

私と人間達の間に降り立った三人が人間達を軽く睨む。

 

「本来なら、私は貴方達人間達にも祝福を授けないといけない偉大なる存在。…でも、これはやり過ぎよ。よって、それ相応の罰を受けて貰います。…妖怪達が苦しんだ痛み…痛いだけで済むとは思わない事ね!!」

 

「私達の山でよくもまあ、暴れてくれたわね?…これはちょっとお仕置きが必要かしら~?」

 

「そうね。少なくともこれ以上は戦闘行為…いえ、これからも戦闘行為が出来ない体にしてあげるわ…。さぁ、これから痛い目をみせてあげる!後悔しながら泣き崩れなさいっ!!」

 

なかなかに迫力がある。この三人は基本的にほんわかな雰囲気を出しているのだが、その雰囲気は一体何処へいったのやら。

 

 

本来、季節を司る神(神綺さんは別だが)はその特殊性も相まって他の何処の神よりも多くの信仰心を集める。特に秋は収穫や景色など生活に欠かせない時期であるがゆえにかなりの力が得られるようだ。

 

力の最全盛期はもうちょっと後なのですが…まあ二人の強さは天狗公認ですし…20人ほど。

 

それも戦いで疲弊していることを考えれば、互角以上でしょう。

 

 

「全く…どこに行ってたんですか?」

 

 

 

この秋の神様の二人、妖怪の山が襲われてる合間、何もせずただ傍観していただけのようだ。

 

…これは、こいし達も見つけてくるのに苦労したことでしょう。

 

聞いていない神綺さんの理由も聞かされる。

 

「…私はただの方向音痴で…」

 

「そして、ここまで来るまでに神綺さんを誘導しなければ行けなかったの…」

 

「そのせいで今に至るまで遅れちゃったんだけどね?」

 

…いえ、神綺さんの方向音痴は今に始まった事じゃまりませんので、全く気にも止めなかったんですが。

じゃなくて本当に聞きたいのは貴女の方向音痴のせいで遅れたことじゃないです。

 

「…えーと?…ごめんなさい。本来ならば、今回の件に関して元から関わる気がなかったのよ…」

 

静葉が私の顔を見て状況を察し直ぐに別の理由を話してくれる。

 

 

…まあ、普通はそうでしょう。

今回の人間達の対象はあくまでも妖怪。神様ではない。

 

それに普通、こんな事で神が動くわけがない。

大体は傍観しているのが普通だ。

 

神綺さんも同じ神ではあり、たまに自分の種族の事を語る。

神綺さんはこんなだが、信条は抜けておらず本来なら貴方達の問題事は関わらないのが神様のルールなのだとか。

…ただ、神綺さんは本来なら魔界の神様。この世界の神様ではない為この世界の神様のルールには定まらないらしく、妖怪の一人と偽って暮らしているとか。気持ちはわからなくもないが。

 

 

 

「…その割には、こいしの頼みとして…来てくれたのですね?」

 

 

 

「えーと、まあ?こいしちゃんに同じ神様である神綺さんが頼んだとあればね?」

 

 

 

「…それに、こいしちゃんからさとりと幻月達を手伝って!お願いしますっ!って、泣きながらこう言われちゃあ断り辛いと思うけどね~」

 

 

 

そういえば、二人から私に対する嫉みや嫌悪の感情は見当たらない。

 

本性を隠してずっと接し続けていただけでも十分裏切りに近いというのに……それがさとり妖怪とあればなおさらのはずだ。

 

 

 

「つかぬことをお聞きしますけど……」

 

 

 

「ん?…ああ、こいしちゃんと同じさとり妖怪。ってことでしょ?…大丈夫よ。そんなもの気にする事でもないわよ。それに、夢月ちゃんだったかしら?付き添ってあげるその目は心から信頼していたし…大丈夫だと思ったのよ」

 

 

 

「そうそう、お姉ちゃんの言う通りよ。私だって気にしてなんか無いわ。まあ、強いて言うならば、貴女のその種族の事を早めに言って欲しかったなあ~って、思うけどね?ま、深く考えなくて良いわよ。私達は何時だって貴方の味方だからね」

 

 

 

ああ……そうか。

 

私自身、あまり怯えなくても…良かったじゃないですか。

 

 

 

「もし、もしですよ?…私が貴女方を騙そうと思って、近づいていたら…?みたいな事は…考えなかったのですか?」

 

 

 

「「え?さとりがそんなことするわけないじゃん」」

 

 

 

揃ってそう言われると…恥ずかしいです。しかも本心からそう思われた。

 

でも、なんででしょうか?

 

別に何をしたってわけでもないですし…ただ、普通に世間話したり、ご飯を作ったりしたくらいしか覚えがないのですが…?

 

 

「大体ね?私達が信頼している理由の一つにこいしちゃんが純粋だからってのがあるわ。どういうことかと言うと、純粋が故に気持ちが顔に出るの。だから、すぐに判ったわ。…こいしちゃんは紛れもなく嘘は吐かない良い子だってね?だからさとりだって心は嘘をついていないと同じって事になるでしょ??」

 

 

 

「…ん?あれれ?照れてる~??」

 

 

 

 

「……残念ですが、今はそれに対する返答は控えます」

 

 

 

兎も角にも三人が来てくれた事には感謝してます。

 

 

 

 

人間達も、まさか神が来るなんて想定外だったのかどうしていいかわからず混乱している。

 

 

 

攻撃するかしないか…下手をすれば祀っている神に喧嘩を売りかねない行為であるがゆえに、厳しそうにしている。

 

 

 

交渉するなら今がチャンスなのでしょう。ならもう一度…

 

 

 

「…それでは、再び聞きます。…撤退しますか?」

 

 

 

だが、返事はない。どれだけ諦めが悪いのでしょう。

 

ここまで自らの意思を押し通そうとするその強さは認めます。

 

…ですが、その強さの使い道が少なくとも正しくないです。

 

 

 

「…あら?お返事がないようですけど?」

 

 

「つまり、私達と戦ってまで目的を果たす。って解釈で良いかしら~?」

 

 

 

「…なるほどね~?神を信仰する人達が、自らの目的の為に神と戦う…。…うん!うん、凄い楽しそうっ♪」

 

 

 

 

 

え~と、あの…お三方?…あまり煽らないであげてください。向こうの皆さんだって、迷ってるんですから…

 

 

 

「妖怪の言うことは信じられない。…ってわけでもないですね」

 

 

 

撤退間際の攻撃で全滅するのが怖いと…。

 

まあ確かに戦力の半分はすでに損失。

 

壊滅状態と言っても過言ではないですからね。

その考えも分からなくはないです。

 

 

 

「…返事がありませんけど…。それでは、最終通告です。私が10を数える合間に急いで負傷者を集め、この場所からの撤退を開始してください。…もし、10数えてもこの場にいた場合、死んでも良いと解釈して容赦なくこの三人が襲います。…では、いきます…」

 

 

 

向こうが決められないというのなら、こちらから期限を付けてせめて行けばいい。

 

カウントを始める前から既に、一部の巫女達は負傷者を集め始めていた。

 

そうです…。

そのまま帰るのです。

 

生きているあなた達には、まだ帰る場所があるのですから…

 

 

 

 

 

一部の鬼や天狗は不満そうにしていますが…

 

…どちらかが滅ぶまで終わらない戦いになってしまうよりマシですよ。

 

文句があるなら私が全部聞きますから……

 

 

 

 

そうして戦闘の意思が全て消えたようなので、ようやく私は体から力を抜いた。

 

その瞬間に再生が殆んど止まっていた左足や背中辺りの傷口から湯気を上げて再生されていく。

 

そんな私の様子に気づいたのか『異質なものを見てしまった』…と、妖怪達が畏れを抱く。

 

予想していたことですし、私自身は別に気にすることでもないので何も言いませんけど…。

そもそもいったところでどうしようもないですし…

 

そうしていると殿を務めていた巫女が一瞬だけこちらを振り向く。

 

何か文句や恨みの一つでも言うのかと思って心を読むが、脳裏に入って来たのは予想外の言葉であった。

 

 

 

「(引き際を与えてくれて感謝してるわ。一応、礼を言葉を口にせず心で言うわ。……ありがと)」

 

 

 

上から目線ではあったが、それは紛れもなく感謝の意であった。

 

 

 

終始無言のままでしたが、心が読める私にはにわかに騒がしい人間達も消え少しだけ静寂が訪れる。

 

 

 

結界を解除し、肩の力を抜いた。

 

 

萃香さん達が駆け寄って来る。

 

怪我をしているならそんな無理に来なくていいのに…

 

私は全然大丈夫ですから…

 

 

幻月達も此方に向けて抱きついてくる。

 

「さとりぃいい!!無事でよかったぁ~!」

 

「幻月。もぅ、こう言うとき子供っぽいんですから…」

幻月の頭を優しく撫でた。

 

「もう、肝が冷えました。…無茶するなと…言われている身なのに…隙あればそうやって…もぅ!」

 

「エリス。…ごめんなさい。また、心配をかけてしまいましたね。…これからもそうやるかもしれませんけど…多めに見てほしいです」

 

「…はぁ。本当に世話をかけるのですから」

顔の頬を膨らませるエリス。その姿はまるで拗ねた彼女のよう…なんて思うのは野暮ですかね。

 

 

 

 

一方で私の方はと言うとほとんどの妖怪は私に近寄ろうとはしない。

 

困惑と気持ち悪さが混ざった目線を向けている。

 

ほとんどの妖怪の目線は、私のサードアイに注がれていた。

 

まさか、こんなところに嫌われ者が隠れて紛れ込んでいたなんて……とそう思ってるのでしょうか?

 

そう思っていた矢先、私はやってしまった。

 

 

「…っ!?あっ!?うう?!!ぅぅううっ!!」

 

 

急に大量の情報が脳に送り込まれる。

 

 

 

サードアイがいつの間にか彼らの方を視界に捉えていて…全ての妖怪から考えを全て読んでいた。

 

 

 

「あ…あぁ…。ぅう……」

 

そうだったのだ。ここは妖怪の山だったのだ。

 

さっきまでほとんどの思考が別の方向に向いていたからよかったものの…。

 

「さ…………!……ぇ…、……ぶ…の……っ!?」

 

それがなくなれば、人の興味が一番向くのは他でもない私であり…。

 

 

 

今までずっと見ないようにしていた。

…いえ、考えないようにしていたものが今になって追い討ちをかけて来た。

 

 

 

私が、本当はさとり妖怪であるという事実。

 

 

 

私の眼が、周辺にいる妖怪の心を読み取っていく。

 

負の感情が一気に流れ込んだ。

 

「………た……?……ぇ…?……し………て…!」

 

私の個など関係なしにかかるさとり妖怪へのヘイト……

 

言葉では表せないほどの感情が私の精神を破壊しにかかる。

 

「あ、ぁぁ……。ぅぁぁぁ…。うぅ…」

 

いやだ…いやだ…私はただ、平穏に過ごしていきたいだけなのに…

 

「………と…?……り!?」

 

 

それすら…この能力はさせてくれないのでしょうか。

 

 

 

「ねぇ!…大丈夫だから!…安心してよ…ねっ?」

 

 

「さとり、さとり!」

 

「……落ち着いて下さい。大丈夫ですから!」

 

「気をしっかりして!大丈夫よ!」

 

 

 

駆け寄って来た萃香さんと、秋姉妹が私の体を揺さぶってくれる。

 

幻月とエリスは元から近くにいた為、必死に声をかけていた。

 

その揺れと幻月の声でようやく私の心が正気を取り戻したようだ。

 

 

 

あぁ…。ついにやってしまった。

 

 

 

「…あの、すいません…もう、大丈夫になりました…」

 

 

 

本心から心配しているみんなに一瞬、申し訳なさを感じる。

 

…でも、これはさとり妖怪特有のものであって仕方がないものだったりする。

 

こればかりは、誰にも頼れない

 

…私の問題ってほどでもない…ちょっとしたジレンマ。

 

 

 

気づけば私は、頭を抑えて悶えていたらしい。

 

その様子に気が付いた幻月が呼び掛け続けてそれを聞いた萃香さんと秋姉妹が駆け寄って来て今に至るとか。

 

 

能力にかけていた力を緩めて、大衆の深層心理から離れる。

 

少しづつ、負の感情が薄れていく。

 

 

 

……いけない、いけない。

 

無意識の悪意に飲み込まれるところでした。

 

あれに呑まれると、普通じゃ精神が壊れちゃいます。

 

私の精神はあくまでも人間。

 

…実際には妖怪になりかけていますが、それでも脆いことには変わりない。

 

…普通のさとり妖怪のような特殊な精神を持っていないこの私では、深層心理にこびりついた無意識の悪意には到底耐えられない。

 

 

 

表層心理は、ほとんど私を嫌悪せず心配したりなにか考えていたりと様々です。

 

まあ、それでも私のことが怖くて近寄ってはこれませんが…まあ親しい仲でも無いですし、そんなもんでしょう。

 

 

 

一部は罪悪感まで感じてしまっているようです。

 

心が荒れてますね。

 

 

そこまで、強い負の感情が生まれなかったのはよかったのですけど……。

 

それでも、直ぐに眼を伏せた。

 

さとり妖怪という存在は、深層心理にまで深く差別対象として刻まれていたのですね。

 

まあ、それが常識であり、当たり前のことであったから仕方ないのでしょう。

 

勿論、それが悪いというわけでは無いです。

 

むしろ、心を読まれて不快に感じない人なんていないですし…

 

それに深層心理が外からの侵入を拒んでいる証拠ですから…

 

 

 

「おいおい、気をつけなよ?こんなところでおかしくなっちゃあ、助けられたこっちが浮かばれねえよ…」

 

 

 

萃香さん……

 

 

 

口調が荒っぽくなってますけど言ってることは正しい。

 

申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまい。意味もなくサードアイを後ろに隠そうとする。

 

 

 

「すいません…」

 

 

 

普段の私であれば、ここまで荒れることは無かっただろう。

 

ただ、精神的にきついことが多かったですから…その影響もあってなのでしょうね。

 

どこか他人事のように感じてしまうあたり、そうとうダメになってる。

 

一度、休んだ方が良いかもしれませんね。

 

「…それでは…私達はこれで…」

 

 

 

「え?ちょっと、待ちなさいさとり!」

 

 

 

「……何ですか?穣子さん…」

 

 

 

心が読めてしまう身としては次に出て来る言葉が何なのかもうわかってしまう。

 

それでも会話が成り立って欲しいので…私は一切口を挟まない。

 

 

 

「…その、やっぱり、他の人たちが怖いの?」

 

 

 

心配そうな目でこちらを見てくる。

 

きっと私は、相当ひどい顔をしているのでしょう。

 

それはなんのせいなのでしょうか。

 

私がさとりだとバレてしまったから?

守るべきであった人達を傷つけてしまったから?

 

 

 

でも、結局は自己満足に過ぎない。

 

そんな私が嫌で嫌で仕方なくて。

 

……あぁ、そうか。

 

この私自身が私に嫌悪していたのか。

 

心が読めてしまうから。

…ただそれが嫌で仕方ないのに。

勝手に相手の心を読んでしまう私自身が嫌だったのか…

 

 

 

「えぇ、怖いです。そして、大嫌いですよ」

 

 

 

正確にはこんなに私のことを心配してくれている人がいるのに、他の人からくる嫌悪に心が折れそうになっている今の私がですけど…

 

 

 

それにこれからの妖怪との接し方もいろいろ変わって来ちゃいますし…。

 

少なくともマイナス方向へ向かうのは確実…。

多分、妖怪の里には入れなくなるのではないでしょうかね。

 

結局、さとり妖怪なのに普通に生活をしようとした反動が来たって感じですね。

 

 

 

「やっぱり…心が読めるって怖いものなんだ…」

 

私は…他人の心を読むのが怖いんです。

 

心を読むのが怖いさとり妖怪…矛盾というか…なんというか。

 

幻月やエリス、神綺さんも私の事情は理解してくれており、特に幻月とはこれまでもこう言うことがあったとしても平等に見てくれる。ここまで信頼したことは多分無い。

 

…恐らく、人間の心を互いに持っていたから出来た芸当でしょうね。

 

 

 

矛盾が過ぎるさとり妖怪。それでも、妖怪より人間である事を選んだ私である。

 

とんだ皮肉ですね……

 

って、言っても穣子さん達にはわからないだけで結局弱虫で臆病なんだな~って思われて終わるだけ。

 

普通に考えれば相当怖がりで逃げたがりな変わった妖怪でしょう。

 

え?人間のようだ…ですか。まあ、当たらずとも遠からずです。

 

幻月達との接し方が良い例です。

 

 

ホント、なんて言えばいいかわからない。

 

そのくらい頭の中がぐるぐる回っている。

 

静葉さんもしきりに天狗達の方を睨む。

ああ…何となくわかってしまうのですか…

 

 

 

「静葉さん…良いんです。彼ら達は悪くないんです…。心が読めてしまうのが怖い、そんな私が悪いんです」

 

その言葉にバツが悪そうな顔をする。

 

 

 

嫌われ者の妖怪は、すぐに退散するべきとその場を去ろうとする。

 

あまり長く関わっても相手に嫌な気を持たせてしまうだけですし…。

 

みんなの気が落ち着いている今のうちに退散したほうがよさそうです。

 

 

 

「ちょいと待ちなっ!」

 

 

 

体が急に引き寄せられる。

 

振り返れば、勇儀さんが私の腕を掴んでいた。

 

その横には、片腕を失い柳君に肩を貸されている茨木さんが立っていた。

 

鬼の四天王と呼ばれる三人が揃っていてある意味すごい迫力である。

 

その上毒で体がやられ弱っているにもかかわらず、私の腕を掴んでいる腕は強い。

 

その隣には幻月、エリスがいた。

 

 

「…すぐに意識が変わるなんてことは無理なんだよ。…だから、お前さんを傷つけちゃって本気で悪いとは、思ってる。…でも、こっちも少しづつ、変わっていけるはずだから…な?」

 

 

 

「勇儀…さん…」

 

 

 

「そうそう、それにね?何かあったら私達を頼っていいんだからさ」

 

 

 

無言でいる柳君も同じこと考えている。その目がすごく凛々しくまっすぐで…一瞬吸い寄せられる。

 

幻月が近寄ってくる。

 

「…そんな訳だからさ?…私以外の事もこれから少しつづでいいから信用しようよ?…ね?」

 

そうでしたね。何を気落ちしていたのでしょうか。

 

誤解や偏見なんてこれから解いていけばいい。

 

そんな単純なこと…怖いってだけで、しようとしないなんて…

 

 

 

 

 

「あっちで治療が行われているよ。さとりさんも私達と一緒に行こ?」

 

エリスが笑みを溢しながら此方に近付き、右手を差し出す。

 

「……エリス。…ありがとうございます」

 

私はその右手を左手で受け止める。

 

エリスの純粋な気持ちに、思わず顔を伏せた。

 

…そうでもしていなければ…涙がこぼれちゃいそうですから。

 

 

 

「…おいおい、な~に独り占めしてるんだ?」

 

 

 

「え~?だって、萃香は何回も戦ったじゃないか。今回ぐらいは私でいいだろ?」

 

 

 

「仕方ねえなぁ…。まぁ、いいけどよ…」

 

 

 

…ん?なんかよくわからないこと言ってますね。

 

独り占めとか何とか…?

 

んー?よくわかりません。

 

心を読んでも『かわいいなあ…』という感情が混ざり込んでることくらいしかわかりません。

 

 

 

「それじゃあ、私達はこいしの方に行ってくるね」

 

「えぇ。さとりちゃんは無事よって伝えるわね?」

 

「そうね。って、神綺さん!?そっちは里の方角とは真逆よ~?!って聞いてないの~!?…もぅ!!」

 

そう言って、秋姉妹と神綺さんは、人間の里の方とは真逆の方角に飛んで行った。

 

…大丈夫だろうか?

 

 

…そういえば、こいし達はどこへ言ったのでしょう。

 

三人の言うことからして里の方みたいですけど…

まぁ、あの三人が向かったのであれば大丈夫ですね。

 

神綺さんの方向音痴のせいでまた遅れそうな気もしますけどね?

 

 

 

私はそう思いなおし、勇儀の腕とエリスの手に素直に引っ張られる。

 

きっと…私は幸せ者だったのでしょうね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前がさとりだな?」

 

 

 

勇儀に連れられて天狗の里に到着した私を迎えてくれたのは見知らぬ鴉天狗だった。

 

誰でしょうかね?この人たち。

 

 

とその中には見知った顔もいた。

 

「あらら?もしかして、さとりちゃん?」

 

「……紋さん?」

 

「さとりちゃんね?無事だったの?」

 

紋さんが心から心配をしてくれる。

 

「ええ。…かなり無茶をして死にかけましたけど」

 

「…聞いているわ。大分悲惨な状態だったそうね?…ごめんなさいね?私は娘である文を説得するのに必死で…手助け出来なかったの…」

 

そう言うことでしたか。

だから、射命丸親子は居なかったんですね。

 

「…そうでしたか。…いえ、大丈夫ですよ。終わりよければ全て良しって言葉もありますので…気にしないでください」

 

「そう?…悪いわね。…ところで今から貴方達は、治療しに行くのでしょう?…なら、さとりちゃんを頼むわね?」

 

 

 

「言われずともだ」

 

紋さんはこの場を名残惜しく去っていく。

残ったのは私たちを呼び止めた鴉天狗のみ。

 

「んで、なんのようだ?今から診療所にいかないといけないんだが?」

 

 

 

「……いや、急ぎではないんだ。天魔様が来て欲しいと言っていたのだが…。まぁ、落ち着いたらまた迎えにくるさ」

 

 

 

そう言って来た道を戻っていった一人と二人。

 

なんか、残念そうにしてますけど…。

 

あぁ、急ぎで呼ばれていたけど、気を使ってくれていたのですね。

 

 

 

「……ええと、待ってください。…天魔様が呼んでいるのでしたら行きます」

 

その言葉にいち早く反応したの紛れもなく紋さんであった。

 

「…あらら?本当にいいのかしら??」

 

 

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 

どうせろくな傷残ってないでしょうし、腕だってそのうち治りますから。

 

それよりも、あなた達は茨木さんを連れて行ってください。

 

…その傷、見ているだけで痛々しいです。

 

呪詛に侵食された傷口は既にボロボロになっている。もう、あれじゃあ腕は戻らない…

 

 

 

「ん?…あぁこれのこと?ううん。気にしないで、私がヘマしちゃっただけだからね」

 

 

 

そう言って力なく笑う茨木さん。

 

 

 

鬼の二人が気まずそうに目を逸らした。

 

何があったのかを素早く読み込んだ私は、気まずさに心を蝕まれる。

 

……お大事に…

 

 

 

「それじゃあ…紋さん。案内を…お願いします」

 

 

 

「えぇ。喜んでよ。…でも、その前に…本当に大丈夫なの?…その傷。かなり痛々しいわよ?…見てもらわなくて本当にいいの?…後日でも結構よ?そのときは改めて私が貴方を訪問する予定だったし…」

 

紋さんは心底から心配をする。

 

「…大丈夫ですから。この傷は見てもらってもどうこうなるものじゃ、ありませんから。私の自然治癒は凄いので。気にしないで下さい。それよりも案内を…」

 

 

「…判ったわ。…無理なら遠慮せず言いなさい。良いわね?」

 

「解りました」

 

紋さんをなんとか説得できた。

 

 

…鬼の四天王から無理やり引っこ抜いてきた。

…って思われなきゃいいのですが。

萃香さん達も優しいですから大丈夫ですよ。

 

 

 

……って、何で三人とも威圧してるんですか?!

 

紋さんが可哀想でしょ!?

 

 

 

 

 

その他の天狗の二人の気が楽になるよう、私達は早めにその場を退散した。

 

何であそこまで診療させたかったんですかね?

 

一瞬だけピンク色が萃香さんの頭に走りましたけど…。

 

私の髪の毛は紫ですし…もしかして茨木さんのこと考えての事でしょうか…?

 

そう思いつつ、エリス、幻月と共に紋さんに連れられて天魔様という者に会いに行くのだった…。

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