東方夢幻界鄕 ~有り得たもう一つの可能性の物語~   作:龍姫★サキ

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028話 急展開

 

「……やっぱり妙ね?」

 

「さとりもそう思う?」

 

静かな山のなかに私達の声が溶ける。

 

 

天魔の誘いで日がくれてから飲み明かすのに付き合っていた帰り。最近になって気になり始めたものが私達…主に二人の周りに纏わりついてくる。

それは実体も無く、でも確実に存在するものが出している視線である。

以前に、覚妖怪であることを言ったのだから、これは仕方ないとは思いますが…。

 

それにしても…感じるその視線は異質そのもの。

 

普通の視線なら突き刺さるような感覚なのだが、私達が感じている視線は突き刺さるというより…まとわりつくといった感じである。

 

わかりやすく言うと剣で刺されるのと蛇腹剣(じゃばらけん)でぐるぐる巻きにされている…みたいな感じですかね。

 

…最も簡単に説明するなら、360度ならぬ720度の普通なら酔いそうな視点から、私達の身体全体を舐め回すような…気持ち悪くなる感覚だ。

 

まぁ、視線伝々と言っても普通の感覚ではわからないのですけどね。心を読める私とこいし、勘が鋭い動物の他、例外として幻月の様な特殊体質を持った人物以外にはわからない様な特有なモノである。

それが山の中だけではなく、人間の里や家の中、更には部屋中までも感じられるようになってきたのだ。

 

 

 

幻月はさっさと出てくれば良いじゃんと多少イラつきながらも行き場のない怒りを忘れる為に酒を飲んで落ち着かせていた。……典型的な暴飲暴食の形ですね。幻月の為にも早く出てきて欲しいところです。私達に何のようがあってこんな回りくどい事を…。

…どっちしろ私も迷惑してますから早く話しかけてくれればいいものを…でも、話しかけろと直接本人に言いたくてもその本人が何処に居るのか検討もつきません。

 

幻月はどうせあの幻想の人でしょと言う。私も前世知識を応用すれば、この現象と幻想の人の言葉からでもいくつか思い当たる節はありますが…それか正しいのなら放置で大丈夫でしょう。

 

いつか直接会いに来ると信じて…今は早く帰らないと日が昇ってしまう。

 

今回は天魔のご指名で私や幻月の他、神綺さんや夢月も共に行ったのだ。

だから現在、あの家にはまともな朝食を作ってくれるヒトが誰一人も居ないことになる。

 

流石に朝食位は間に合わせないとお燐とかエリスとかが機嫌を悪くしそうですしね。

 

だとしたら何を作りましょうか…軽めのモノにするか…でもそしたらこいしとか神綺さんの方が心配になりますけど……

 

 

 

そんなことを考えていると既に家が目の前にあった。……あれ?いつの間に?考え込みすぎて気がつきませんでした。

 

 

神綺さんの夢月は先に家の中へと入っており、既に朝食の準備へと取りかかっている所だった。

 

遅れながら、私達も扉を開けて朝食を作ろうと意気込んでいたところなにやら奥の方が騒がしいですね。誰か来ているのでしょうか?

 

 

扉を開けた音に気がついたのかこいしとエリスが出迎えてくれる。

 

こいしの方はいつもの、寝巻きではなくフードを被り完全に正体を隠している。

エリスの方は天然なんだか忘れているんだか、寝巻きで出迎えてくれた。

 

「お帰り!お姉ちゃん達!!今ね、お客さんが来てるんだよ」

 

こんな朝からお客さん?まだ日が登ってないですし普通に考えればこっちも寝ている様な時間なのですが…

 

「お客さん?誰なの?」

 

 

「う~ん。確証がある訳じゃないから…まだ断言出来ないけど多分、あの人だと思う……」

 

「そう。ようやく姿を表したんだ」

 

「まだ、決まった訳じゃありませんからね?!」

 

 

 

今のエリスと見比べると別人の様に思えてしまう。人格が二つあるのかしら…?後で聞いてみましょう。

 

「お姉ちゃんも知らないヒト?」

 

「えぇ、そうね。少なくともこんな時間に訪ねてくるヒトなんて今までに居なかったから今回は初めましての方かもしれないわね」

 

「ふぅん。判った。…お姉ちゃん、こっちだよ」

 

幻月が先行して進む。こいしも私に近付いて手を握る。幻月の後ろをついていく様にこいしは私の手を引いて誘導してくれる。

 

…それにしても、人里によく赴いているこいしやたまに里まで行き自作のお菓子を配ったりしているエリスすらも知らないヒトですか。

 

でも、幻月やエリスはその正体に心当たりがあるようです。

…私も同じ大体の見当はついているのですが、エリスと同じ意見で、まだ確証が得られてないので断定する事が出来ずにいます。

…そんな訳でこいしに手を引かれながら、その人物がいるという部屋へと入る。

 

 

普段使っている大きい円卓のところには一人の女性が座っていたのだった。

 

 

「初めまして。勝手にお邪魔してごめんなさいね?」

 

 

長い金髪が紫を基調としたドレスと調和し違和感無く綺麗にまとまっている。

それでもって、白のナイトキャップのような帽子による幼げな感じと特有の気品さが相まって不思議な印象を与えてくる。

 

 

「……貴女よね?…前々からのぞ……むぅっ!?」

 

 

とっさに幻月の口を塞ぐ。このまま放置していたら余計な敵意を生みかねないと思ったからだ。

 

「…な、何をするのっ!」

 

「…言いたいことはわかりますが、ここで相手の名前をくちばしってしまったら余計な混乱と敵意を生み出しかねない。ここは初対面で通しましょう。…良いですね?」

 

「…ごめん」

 

しゅんとなり幻月は後ろへと下がる。必然的に私が前となり首を傾げている女性に私は向き直った。

 

「…え~と?…何かわからないけど…ごめんなさいね?失礼をしちゃったかしら?」

 

「あ、いえいえ、大丈夫です。私の相方は見ず知らずの人には容赦がないもので…」

 

「そうだったの。それはそれは…苦労しているわね」

 

「本当にですよ。…それはともかく貴女とは初めまして…ですよね?」

 

 

 

こう私は言うも私達にとって初めましてではない。

まあこの世界では初めて会うのですけど気持ち的には、初めて会った気がしないといえばそうなりますけど…

 

 

 

「貴女達の事は存じているわ。…人間と妖怪の狭間で生きる者、古明地さとり。その友人であり人間と友好を結ぶ規格外な悪魔…幻月。…この場には居ないけど、その妹で幻月とは対称的に真反対の性格を持つ悪魔の夢月。…好奇心旺盛でいつも笑っている子供の様で子供じゃない妹の古明地こいし。変幻自在の魔女娘として子供に大人気の悪魔のエリス。…敵対者の敵意を無くす程の圧倒的な母性力を持ち神様としても威厳がある神綺…最近の噂で特に有名な人物を上げたんだけど…大丈夫だったかしら?」

 

恐ろしい把握能力。ここに住む人物を前もって調べ上げ、その人物が何をしているのかを観察していたのでしょうね。

それよりも、なぜこんな方が私達の元へ?予め観察していたなら十分に私達の危険性が解りきっている筈。

こんな所へ来るのは自殺行為そのモノです。更に言えばそもそもこの方はいずれ幻想郷を創る人物ではありますが時期がまだ早すぎます。

…わざわざここへ来るという事は、何かしらの用事でもあるのでしょうか?

こんな嫌われものの妖怪達がひっそりと住む家に来る程、この方はお人好しな人物なのでしょうか?

 

 

「いえ、大丈夫です。慣れていますから」

 

「そう。なら、そろそろお話…いいかしら?」

 

「えぇ、構いませんよ。妖怪の賢者…八雲紫」

 

その瞬間、少しだけだが、彼女の目が驚きで開かれた。

 

幻月から私が話した事について良いの?と聞かれましたので、先程の私達を勝手に覗き見していたお返しだと思って下さい。と答えました。

幻月は…確かにね。と納得。

 

…納得してくれて助かりましたよ…あれやこれやと言い出して色々と揉め事を起こすかもしれないと心配してましたから…

 

 

「…あら?私の事を知っていて??」

 

 

紫の先程の表情はすぐに元に戻ってしまう。紫でもあんな表情出来るのですね?なんだか新発見です。

 

 

「…先程、貴女がやった事ですよ?…なら、咎められる筈無いでしょう?」

 

「………そうね」

 

 

 

紫の言葉が止まり、なにやら考え始める。どうやら、私がどうして妖怪の賢者なのかを見破ったのかが気になっているらしい。

 

「少々お待ち下さい。今、朝食を作りますので…」

 

「……えぇ。判ったわ」

 

 

紫の相手も大事だが、先ずはこいし達の朝食を作らないといけない。…多分、夢月や神綺さんが今に至るまで準備をしていた筈だからきっと大丈夫よね。それにお燐が私の事をみて悲しそうな顔をしていましたので…流石に放置は出来ませんよ…

 

「こいし、暫くの間だけ紫の相手をしていてくれるかしら?」

 

「え?…う~ん。……なんだか威圧があって怖いんだよなぁ…」

 

意外にもこいしが初対面の相手を前に萎縮して嫌々な顔をした。誰が相手でも気さくに接するあの娘が……

 

「大丈夫よ、こいし。あれでも悪い人ではないわ。敵対しなければ大丈夫よ」

 

「……わかった。…お姉ちゃんがそう言うなら、信じるから…」

 

私はその場を後にしようと台所へと向かう。

 

 

「エリス。慣れないとは思うけど、紫の相手をお願い出来るかな?私はさとりの手伝いをしてくるから」

 

「はい。承知しました幻月様!…ですけど、ちょっと相手をする方が偉いお方なので…そのぉ」

 

「なぁに、心配しないで。すぐ…とはいかないかも知れないけど早めに終わらせて戻るからさ」

 

「……約束、ですからね?」

 

「うん、判ったよ」

 

 

 

後ろから幻月とエリスがやりとりしている声が聞こえてくる。

 

丁度良く会話が途切れたところで小走りしてくる音が…

 

 

「…幻月、無理に手伝わなくても…」

 

「いいの、いいの。…私の勝手なんだから」

 

「そう。…なら、貴女にはお燐の補助を頼むわ。…あれだから」

 

そういい私は指を指した。そこには台所にてお燐が火の調節をしている最中ではあったのだが。

 

「…成る程。って、……あぁ!お燐!!火が強すぎ!!火事にぃ!火事になるから一先ず火を止めてよっ!」

 

幻月がお燐へ駆け寄り必死に火を止める様に促していた。

米を炊くのは一通り出来ているから良しとして、問題が火力ですね。…強すぎです。あれでは炊き上がる前に真っ黒に焦げる処か家が燃えますよ。…神綺さんが創った家なので心配しなくても良いですがね。

 

…幻月にお燐を任せても大丈夫でしょう。幻月はあれでも教え方が上手いので。

 

さてと、取りあえずはお燐と幻月にお米を炊いて貰いましょう。

…人数は…えー、今回は珍しい何時ものメンツで七人…に、一人追加で八人分かしら?

 

なら、予定も変更。八人分だから……幻月、引き続きお燐を頼みます。

 

 

「判ったよ~!お燐、火加減は…そうそう、いい感じだよ~。…吹きこぼれしそうなら…重石(これ)を乗せるだけ…。…後は火元が狂わない様に保ち続けるだけかな…」

 

「はいはーい。…色々とありがとさん幻月、助かったよ」

 

「……いいよいいよ。感謝するなら、さとりにしてよ…恥ずかしいし…」

 

「いやいや、こんなに教え上手なのはお前さんだけだよ。なんなら誇ってもいいんだよ?さとりにも自慢してもばちは当たらないものさ」

 

「………っ!??」

 

まさか、誉められるなんて思ってなかったのか幻月は、どう反応したらいいか解らずに戸惑って…いえ、違いますね。

 

赤面しているので見られたくないのでしょう。まあ、前半の部分も概ね間違ってはいないとは思いますが…幻月は誉められ慣れてないだけなんですよね。

 

お燐と幻月に後は任せて私は神綺さんや夢月の様子でも見に行きましょうか。

 

さてさて、この判断がどうなるのやら…これが下手だったら刺されるかもしれませんが…あの幻月が教えるんですし、下手な事にはならないでしょう。

私は私で作れるモノを安心して作りましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

どうして皆無言になっちゃうんでしょうか?

 

誰が原因なのかなんてわかりきっている。それでも話し出す事が出来ないのは……もう、どうしようもない。

 

 

「…所で、その紫さんはどのようなご用で此方にいらっしゃったのでしょう?どうやらさとりちゃんに用があるとお見受けしますが…?」

 

「………」

 

神綺さんが思いきって話の流れを作り出したみたいだ。

 

朝から重めのモノは胃に悪いですので軽めのモノにしたのですが…神綺さんや夢月はそんな事を承知の上で少しだけ量を重増ししたようで…正直言って現在の状況を

加えると途轍もなく重いです。

こうも黙って食事をされるとは…ちょっと怖いです。まさか、ああ見えて朝からガッツリ食べる系だったのでしょうか?

……失敗しましたかね。最初に要望を聞いておけば良かったなぁ…と思いますけども、紫(むこう)から勝手に押し掛けてくるなんて予想外です。

 

 

結局そのせいもあり話しかけ辛くなってしまいましたが……。

 

 

 

神綺さんの質問には紫は答えず、ただただ無言を貫くだけだった。

 

 

少し間が空き、神綺さんとのやり取りをみていたこいしが動き出した。

 

「どう?お姉ちゃんの料理は」

 

 

 

 

 

 

「…そうね。こっちではあまり見慣れないけど、美味しいじゃない」

 

目元が少しだけ和らいだ。どうやら口にあったらしい。

 

「へへーん♪お姉ちゃんの料理スキルは凄いのだよ!」

 

 

「なぜそこで貴女が自慢気なのかしら…?」

「いや、こいしが威張るなし…」

 

 

 

貴方のその、すぐに打ち解けるスキルが凄いのですよ。どんな手を使えば出来るんですか…?

 

 

「気に入ってくれましたか?」

 

「えぇ。初めてみる調理法だけど…あら?…これは、大陸の食べ物に似ているわね」

 

 

「…正解だね」

 

 

調理法なんかは前世知識の記憶通りなのでこの時代にはまだ確立されて無いのでしょう。と言うか、食べただけでよく解りましたね。調理法が違うと思…

 

 

「…調味料や材料の違いで判りづらいけれど…これ、貴女のアレンジよね?」

 

「もしかして、見てました?」

 

 

「あら?判らない様にはしていたのだけれども…」

 

 

隙間でこっそり覗いていたとしてもその視線だけは隠せてませんからね。

 

 

 

「あたいも含めて、皆迷惑していたんだよ。…落ち着かなかったから止めて欲しかったのだがねぇ…」

 

「ごめんなさいね。猫ちゃん」

 

「だから、あたいは猫って名前じゃなく、お燐って言う名前がある!……ってさっきから言っているんだけど…?」

 

ため息一つの後にお燐は半ばキレて突っかかろうとする。…お燐。気持ちは判るけど、下手に突っかかっては命の保証は無いわ。止めなさい。

 

 

そのあとも暫く無言になったりならなかったりと、何時もより少し長い朝食が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、本題に入りましょうか」

 

 

食事が終わり、部屋に残っているのは私と幻月、紫は当然残っており、その他で紫の希望により神綺さんが残った。と言う所で向こうから切り出して来た。

 

 

「良いですよ。貴女ほどの大妖怪が私達になんの用か知りませんけど……」

 

少しだけ皮肉を込める。皮肉というより事実確認に近いですが。

 

「そうね。…思えば、神綺も私の用について聞いて来たわね。…すぐに答えられずごめんなさい。決して無視していた訳ではありません。…その質問をされた時に少しだけ、質問の答えを作っていたの」

 

 

「成る程…。それじゃあ、紫さん?答えを聞いても?」

 

「えぇ。…そうね。単刀直入に言うわ。…さとり、私の式になってくれないかしら?」

 

 

 

 

 

軽く微笑みながら、でも、目が真剣になって…なにを言い出すかと思えばいきなりとんでもない事を言い出してくる。

 

流石、大妖怪ですね。私にはそんな事をする理由が…あ、いくつか思い当たる節が…イヤイヤ!…まさか、そんな……

 

 

 

「さとりが紫の式にぃっ!??」

 

「幻月が一番驚いてどうするんですか…まぁ、良いでしょう。…紫、私が式にされる。…その理由を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

幻月の驚愕の声に動揺してしまったが、それでも動揺は悟らせない様に無表情を貫く。

 

元から無表情ではありますが、相手が相手なだけあって僅かな隙も許されない。隙を突かれてしまえば後は向こうのペースに飲まれるのみ……。それだけはまずい。

 

それこそ、私の方も私の事を想っている幻月の方にも申し訳が立たないのだ。

 

 

「心を読めば分かるんじゃないのかしら?隠してないで」

 

 

そう言って紫は何処からか取り出した扇子で扇ぎ始める。

 

 

「まぁ…それも良いですけど、出来れば貴女の口から直接聞きたいのですよ」

 

「それじゃあ、私が本心を語っているとは限らないわよ?」

 

 

 

「それでも構いません。…今は、嘘でも真でも貴女の口から聞きたいのです」

 

元々本心なんて必要はない。相手が私をどうしたいのか…そのためにはどうすれば良いのか。…相手を引き寄せる為には結局の所、相手と話さないといけない。なら、たとえ本心じゃなくとも…確実に言わないと相手は動かない。

 

 

暫く沈黙していたものの、一息小さく吐いた紫は先程よりも柔らかい口調で呟いた。

 

「そうね。……私には叶えたい夢があるの」

 

先程までの威圧がどこかへと消える。

 

 

「…なるほど」

 

「紫さんは、それでさとりちゃんを式にしようと思って今日訪ねたのね?…善は急げ。…と言った感じに」

 

 

「…そうよ。私にはさとりの様な存在がいれば本当に夢が叶う気がするのよ。…だから、お願いできるかしら?」

 

同情を誘っているのかなんなのか…まあ別にそんな事は大した問題でもない。…たしか紫の夢と言えば、久しぶりに前世の知識が甦り、情報が溢れ出す。

 

 

 

「貴女が欲しいのは、妖怪と人間の両方共に立つ事が出来て尚且つ、平等に親しく付き合う事が出来る者……ですよね?」

 

相手が威圧を解いたのだから私も肩の力を抜く。

幻月達にもそれは伝わったらしく私と同じように肩の力を抜いた様だ。

 

「良くわかったわね。さとりの能力を使って心を読んだのかしら?」

 

 

「そんな事は無いですよ。ちょっと推理してまとめてみたモノを話してみただけです」

 

反則級の推理だろうけど本当の事等おいそれと言える訳ないので、ここは推理と言う事にしておきましょう。

 

 

パタッ!

 

「ここまで的確な推理をしてくれた名探偵さんには感無量ね。じゃあ、私の夢も名探偵さんになら言わずとも分かるんじゃないかしら?」

 

 

パタッ!っと扇子の閉じる軽い音が響き、周りの音が綺麗に止まる。いつの間にか名探偵と呼ばれている事に若干違和感を覚えますが…紫はこちらの返答を待っている様子。こちらをみるその目は……怒っている訳ではなく寧ろ、楽しんでいる様に見えますね。

 

 

その瞳に映っている私もその他、幻月や神綺さんも、いつの間にか表情が崩れており、笑みを溢していたり安心する様子が映っていた。

 

「貴女の夢は……人間と妖怪が共存する世界でしょうか?」

 

 

「流石ね、当たりよ。…一応、心が読めない様に細工をしていたのだけど……どうやって心を読んだのかしら?」

 

 

「本当に読んでませんよ。幻月も何か言ってください」

 

「ここで私に振るの?!…えーとね。まぁ、紫の会話がヒントになったんじゃないの?それを簡略化すればそうなるのも必然なんじゃない?」

 

 

幻月にもこうは答えさせたがやはり疑われていた様だ。まあ、それだけの事を言ったのだろう。

 

 

「それを、私が信じるとでも思っているのかしら?」

 

そうは言ってくるが本気で疑っている訳では無いみたいですね。あくまでも茶化しあいみたいなモノてしょうか?

 

 

「真偽は式になった後で確かめられます。それに、どちらにせよ紫さん。私を式にするのであれば、ここは貴女が私を信用するしかない」

 

 

「ちょっと、さとり!何考えて…」

 

「幻月ちゃん…ここはさとりちゃんに任せましょう。さとりちゃんにも何か考えがあっての事なのよ」

 

「……うぐぅ」

 

「幻月、大丈夫です。…信用してください」

 

 

少々唸る幻月だが、小声で判ったと言い引き下がった。

私の言葉なんて半分は言葉遊び、無茶苦茶な理論が半分。こう言う私もなにを言っているのか良くわかりませんし。まあ、そんなモノですよ。

 

言葉なんてただの音、そこに意味を見出すのは聞き手ですからね。

幻月や神綺さんの様な言葉通りのように感じたり、はたまた、紫の様に言葉遊びを理解しているモノには違う風に感じたりと…そんな感じです。

 

 

 

「…その言葉は、私の問いに対して肯定すると捉えても構わないのかしら?」

 

 

「そうですね。…メリットを考えればそうですかね。妖怪の賢者の式と言う事実があるならばそれなりに融通が聞きますし、下手に狙われることも無いですし」

 

 

「…なら」

 

 

私の返事を聞いた紫は嬉しそうに私に向かって手を伸ばしてくる。一方で幻月は衝撃を受けており今にも飛びかかりそうだが神綺さんが必死に止めている。…と、一瞬だけ紫の目の中に悲しさが垣間見える。なんで悲しさなのでしょうかね?思い当たる節……が無いわけではないのですがまだ推測の域を出ませんし…

 

どちらにせよ、今ここで私が言うべき言葉はただ一つ。

 

 

 

「…良い事だらけではありますが、お断りします」

 

 

散々肯定っぽいことを言っておきながらではあるけど…断らせて貰う。

私の返答を聞いた紫は一瞬動きが止まる。まあそうでしょうね。

幻月達も一安心し落ち着き漸く私の本題も話せますね。

 

 

 

 

「どうしてよ!?」

 

 

いや…どうしてよ!って、怒鳴られましてもねぇ…

 

 

 

「…簡単に言えば、私は誰かの小間使いなんてやりたくないんです。更に幻月達とはもう家族のようなモノなんです。もし、式になったら自由に出来ませんよね?…それに私は家族以外は混ざらず、ずっと気儘にいる気なんです」

 

 

 

式なんかになったら私の言った通りになります。そもそも、紫だって私が式になる事を心から望んではいませんよね?口と顔には嬉しいそうですが本心は真逆なようです。

私が肯定の言葉を言い放ったその一瞬だけ空気が変わったのを見逃してませんから。

 

それに私が否定した所で、否定されたことに対する怒りも威圧も全然してこない所をみれば、ほぼ確定で私が否定する事を寧ろ望んでいる様なものじゃないんですかね?

 

 

 

「折角、穏便に済まそうと思ったのにね…残念だわ」

 

紫が一言呟いたその瞬間、部屋の中に濃い妖気が充満する。私の妖気なんかよりも遥かに濃く。そして膨大な量。この場にいる幻月や神綺さんが本気を出せば同じ位……いや、それ以上は出せそうな気もするが…何かが足りない。

 

その中に殺意と言うか、なんというか…圧の様なとにかく勝負のときに感じる特有の気迫が感じられない。

 

これは以前妖怪の山での争いの際に神綺さんが出した戦意を失わせる妖気。端的に言えば殺意のない威圧。…なら、同じように考えればこれも脅しでしょうか?

こいしやお燐ならば、これだけで屈服するだろうが、何度も体験している私にしてみれば、既に慣れたモノだ。これだけじゃ…私には全く効きません。

 

なんたって死を感じられない脅しなんて…神綺さんの様に慈悲をかけている風にしか見えませんから。

 

 

「全く、早とちりし過ぎだよ?紫」

 

「……どういうことかしら?」

 

 

 

あんなに流れていた妖気が嘘のように消え去り、何事も無かったかのような空間が戻ってくる。

 

 

 

「さとりちゃんは、貴女の式にはならない様だけど、ちゃんと貴女の夢には協力するって言っているのよ」

 

「それは……」

 

幻月、神綺さんにも伝わったみたいで私の側に近寄ってくる。

 

 

「お二人の言う通りで、メリットとかデメリットではなく…純粋に協力させて下さい。勿論、私達の身内にも事情を話しますので大丈夫です。それに…貴女とは式と言う上下関係ではなく、もっと別の形で付き合いたいと思ってましたので」

 

「上下関係じゃない別の形??……それはどういう事かしら?」

 

 

「わかんないかなぁ…まぁいっか。まずは確かめだけど、その堅い口調は素じゃ無いんだよね?」

 

 

「………そうよ。それで?それがどうしたのよ?」

 

 

「フフフッ。…紫さん?…人付き合い、苦手なんじゃないかしら?」

 

 

いくら勘が悪い人でもこれだけは判る。

 

あの神綺さんにすら見破られているのだから確定である。

 

完全に人付き合いがダメなタイプですね。所謂、コミュ症的な…それこそ性格とか言動とか…。

 

多分、頑張っても本人の判らぬ不確定要因によって不完全に対応してしまう。……それが結果として式や、力で抑え込み圧制を行い、従わせる判断を下してしまう。それが生まれ育った環境からなのか隙間妖怪と言う種族なのか…

 

 

そして最初の時の口調と雰囲気は自ら周囲を拒否する為に出てしまう無意識なモノ。

…どうして判るか…そんなモノはただの感覚。ただそう思っただけで要因とかそういうのは判らない。

 

 

 

でも、途中からそれがなくなったと言う事は…紫自身に変化があったか…あるいは……いえ、こっちの可能性は無いですね。

 

 

「ふふふ…流石、さとり妖怪とその仲間達ね」

 

 

思考が元に戻る。さとり妖怪…ねえ…まあ、さとりらしくはないんですけどね…。

 

「やっぱり、貴女の所へ来て正解だったわ」

 

 

「それは……どう言ったら良いのやら…」

 

残念ですけど、私だって人と話すのは苦手なもので…

 

 

「誉めているのよ。誰に対しても上下関係なく接する不思議な妖怪達……羨ましいわ」

 

「ただ、単純に上下関係が嫌なだけですよ。私なんて吹けば消える木の葉みたいなもんですって……」

 

 

 

実際、鬼とか…味方内にいる夢月とかが本気で殺しにきたら数秒しか持たない。

 

 

勇義さんや幻月、神綺さんでしたら…あ~。

 

 

 

 

 

速さ的には同列でコンマ数秒?

 

 

神綺さんや幻月は存在ごと消し去るから測ろうにも測りきれませんね…。そもそも、そんな状況を考えたくないです。

 

 

 

「それなのに、強者の影に隠れて過ごすのではなく自ら前に進む。……そのような事が出来るのは異常とも言える事なのよ?…既にそんな強者が貴女の周りにいるけど、そんな強者さえも貴女と同じ目線で過ごす事なんて滅多に見ない事なのよ」

 

目が細まる。相変わらずの表情ですけど…ふむ、面白がっていると言うか…思考回路に興味がある…そう言いたげですね。

 

 

「……そうでしょうかね?案外当たり前だと思いますけど?」

 

 

だって、誰かの影にいるだけの人生なんて、生かされているだけ…意味を与えられただけのただの人形…悪く言えば屍じゃないですか。誰かに使われるだけの駒に成り下がる以外の選択があるならそれを選ぶと思いますけど……と言うか命があって意志があるならば、大体そうしますよね?

 

 

「ふふ、そう言う所。気に入ったわ」

 

笑いながらこちらに手を差し出してくる。

 

なにをすれば良いのか…それは単純明快。

 

その手を優しく包み込むように握る。

 

「よくわかりませんが……よろしくお願いしますね?…紫」

 

「さとりだけズルいよ。私の方こそこれからよろしくね~?紫~」

 

「紫さん。これからよろしくね。…何かあれば遠慮なく来て頂戴。…ただ、家族の皆には迷惑はかけない程度でお願いね?」

 

 

紫を握った私の手に覆い被さる様に幻月、神綺さんと順に握った。これじゃ、握手ではなく何処かのチームの鼓舞をしているみたいじゃないですか…。

 

 

当初の目的は達成出来なかった筈ですが…随分とまた嬉しそうで……

 

 

「こちらこそ、よろしく。…何気に初めて下の名前で呼ばれたわね…嬉しいわ」

 

 

「まぁ、それはなんとも……」

 

 

ああ、一人なのですね?…私は一人だなんて無理です。人間は孤独に生きる事は出来ないんです。妖怪だって孤独に生きるのは難しい事なのです……

 

 

 

「だから、純粋に嬉しいわ」

 

 

 

 

 

紫でもこんな表情をするんですね。と感慨にふける。

 

胡散臭いとか言われている割には意外と純粋な心を持っているんですね。

 

 

「それは、よかったです」

 

 

案外、ヒトって単純明快なモノかも知れない。

 

それは、私や幻月、神様である神綺さんにも通じる所があり、更には妖怪と呼ばれ恐れられている者達も例外はなく……複雑そうに見えているのは怖いから。

 

それはさておき、単純明快…って解読し辛いんですね。

 

 

今更な事を思いつつも、紫とで和解をした。

 

また、他の仲間である夢月やお燐にこいし達にも紫の事を紹介しようとしたのだが、いつの間にか居なくなっていた為、後日に改めて紹介することに決まった。

 

さて、こいし達は何処に行ったのやら…まぁ、あの娘達の事ですし放って置いても大丈夫でしょう。

 

私達は暇ですし、ちょっとふらついて時間を潰して来ましょうかね。

 

よっこいしょ…と心のなかで呟き、幻月と共に出掛けるのであった…。

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