ARMORED CORE Ⅵ /LOST RAVEN 作:この先生きのこマン
破壊したMTの屍でも踏み越えるようにレイヴンのACは引き続き施設内を走り出す。
突き当たりにたどり着いたところで閉じられた電子ゲートがレイヴンのACの行手を阻んでいた。
これもハッキングする必要がありそうだ。
レイヴンはふとACのカメラを扉の隅に配置されたゲートロック操作用のコンパネに視線をやると、レイヴンはその眉を顰めた。
『壊れている……わね』
壊されて間もないようだ。
おそらく先行した調査隊が強引に壊しでもしたか。
壊れていてもアクセスは効く。簡単なアクセス程度でものの1秒で動く扉にセキュリティなぞあったものではない。
再び埃を擦り潰しながら開く扉を潜る。
殺風景な基地内が一転して暖かいアットホームな空間に。などという阿呆なことになるはずもなく。
大部屋の冷え切った壁と柱がレイヴンを出迎えた。訂正しよう。お出迎えしてくれる素晴らしい住民が居たらしい。
中心に差し掛かったところでACのマイクが音を拾った。
がしゃん、がしゃん、と。
「…………T字頭がぞろぞろと」
先程破壊したMTのお仲間だろう。先程のと同じタイプが3体ときた。
ここに至るまで気付かなかったのはレーダーが完全に死んでいたためだ。ここに来てからやはり調子が悪い。シーラの声も心なしか遠く聞こえる。
敵のMTは先ほど倒したものと武器は違えどボディは同じ。レーザーライフルを構えてレイヴンのACに狙いをつける。
先に動き出したのはレイヴンのACだった。即座にFCSが捉えた1機をリニアライフルを叩き込み反動でその動きを一瞬封じた隙に通常ライフルを叩き込む。
──浅い。
だが、これ以上の深追いは十字砲火をまともに受けるであろうことは明白だった。MTたちの位置を自身の背後にならないように機体を走らせ、咄嗟にレイヴンは機体のアクセルを踏み、柱を盾にレーザーをやり過ごしながら外に飛び込むようにして躍り出る。
そこで浴びせるリニアライフルの衝撃は次々とMTの装甲を抉り大きく怯ませ、そのレーザーライフルの照準を揺らす。
そして別のMTの射線の上になるように半壊したMTを盾にして位置どりそのレーザーを受け止める。
「ひとつ」
フレンドリーファイアで味方を壊してしまったと判断したMTが次に頭部についたいくつものハッチを解放する。そして放たれ、曲線を描く青白い光にレイヴンのACはバックステップで距離を取った。
ミサイルだ。
一か所に集めるように機体をステップさせ、着弾寸前に切り返す。命中はすまい。ミサイルが最後に触れたのは施設の床だった。
が──
バチッ、機体の装甲が焦げ付き機体の異常を機体のUIが告げる。
爆風か。否、今の不穏当な音はそんな生易しいものではない。グレネードレベルの爆発でなければACの装甲にダメージが入ることはそうそうはない。あのミサイルの大きさからしてグレネードレベルの爆薬が仕込まれているとは考えにくい。
それこそあの24時間の無茶な簡易整備が祟って状態で壊したMTの爆発で装甲にダメージが入ることはあった*1今はそんなことは起こりはしない。
機体の装甲表面に熱量はそこまで溜まっていない。ラジエータにかかっている負荷も小さい。少し離れた位置で弾ける他のミサイルたちはドーム状に紫電を散らす。
「そういうのもあるのか」
旧ミラージュの技術開発局にでも残骸を押し付けてパーツを作らせ、ACに積んでみたいところだがまずは残り2機をスクラップにする必要がある。
ミサイルを撃ち切るまで先ほどと同じようにミサイル誘導からの切り返しと遮蔽物で耐えきって見せる。そして躍り出た瞬間にリニアライフルを叩き込む。
が、次の瞬間MTがレフトアームについた3本のツメを開く。
水面のような光がうねり、リニアライフルの弾をゼリーで受け止めるように減衰させ命中したMTの装甲を軽く凹ませた。
「エネルギーシールドか」
ACの装備カテゴリには存在するそれは、読んで字の通り己の身を守るための装備だ。
MTに装備されているのは珍しいが何もおかしな話ではない。……しかしレーザーライフルに珍妙なミサイル。エネルギーシールドとは随分と大袈裟だ。
機体をそのままMTに向かって前進させ、MTの頭上を通り過ぎるようにジャンプする。そして真上に位置取った所でリニアライフルを叩き込んだ。
「ふたつ」
バリアは前方にしか展開されていない。ならばされていない所を狙ってしまえば終わりという事だ。
頭上からゲンコツでも貰ったようなMTの頭部がへしゃげ、朽ちかけた脚部が折れてその動きを止める。もう一機はシールドを展開していない。ならばと、壊れたMTを盾にしながら2つのライフルを叩き込んだ。
「みっつ」
これで敵は全て壊した。
MTの残骸を踏み越えるようにレイヴンは再びACを施設奥へと前進させる。あまり悠長にしていれば余計な戦闘まで増えかねない。レイヴンにはそんな気がしていた。これで無駄弾が増えようならこちらの取り分が減る。
ゲートは頭部のハッキング性能でも問題なく開いていく。いや、先遣隊が解除を済ませたのか。ゲートを潜ればまた次のゲート。十重二十重に待ち構えるゲート達はまるでキャベツの皮でも剥いているかのようだった。
『ここが……さ……し……部のようね』
──ここが『最深部』か
ノイズが酷くなったシーラのノイズで欠損した声を頭の中で補完しながらカメラで部屋の中を見回す。
ここで打ち止めと言わんばかりに先遣隊のMTの残骸たちが足元で転がっていた。
ある機体はコックピットブロックをぶち抜かれている。パイロットは言わずもがな消し炭にされたに違いない。
もう一つの残骸は真っ二つに上半身と下半身が綺麗に両断されている。その他はどんな壊され方をしたのか想像もつかないほどにバラバラに壊され、肉食鳥に食い荒らされた残骸のようにあたり一面に転がっている。
下手人は──
「……あれか」
レイヴンの駆るACのカメラは足元から、前方へと移す。
施設のコアブロックだろうか、奥に配置され天井まで伸びる巨大な装置が緑色の光を湛えている。
そして、それを守るかのように人型が──ひとつ。
「AC?」
確証が持てなかった。
2本の手脚に、頭部の人型機動兵器。俗に言う中量二脚とカテゴライズされるACそのもののような外見。だがレイヴンの記憶にあのようなパーツはない。乗り手の人間性を示すカラーリングも無く、灰色の装甲が冷たく装置から発する光を反射していた。
ライトアームにはライフルと思しきもの。レフトアームには三日月状のナニカが腕についていた。──あれはきっと、ブレードだ。
明らかに歓迎の姿勢ではなかった。三日月状のそれを振り上げ──
【侵入者感知、排除せよ】
そして──先に仕掛けたのは謎の機体だった。
この手のシステムボイスは散々聞いた。この手のものが手心を加えた試しなどない。袈裟懸けに一振りされたその一閃は緑色の閃光を発してレイヴンのACに飛来した。光波ブレードだ!
機体を横にスライドさせるように移動させて被弾を防ぐ。幸い自機のスピードも幸いして避け切ってみせたが、背後で壁に命中するや否や大きくその灰色の壁を小さく抉り焦げ付かせた。
あれに当たればタダでは済まない。そう思い知らせるには十分過ぎる光景だった。
【高エネルギー反応を確認、識別不能。該当データはありません】
ACがカメラで捉えた敵機から照合をしていたCOMがACと判定すらしていない。そしてシーラたちの見解を伺おうにも通信機から聞こえてくる音はノイズ音だけ。完全に死んでいる。
COMは膨大なデータベースを待っており過去レイヴンズアークどころか企業お抱えのACすら瞬時に誰のものか判別してみせるだけの高性能なものだ。疑う余地などない、あれはACではない。──そう、普通なら判断するはずだ。
活動期間だけでいうなら当のレイヴンも20代の若造故に短いがあんな形の装甲は見たことがない。
だが、レイヴンの勘が語りかけるのだ。
あれはACだ、と。
反撃に通常ライフルの引き鉄を引く。
数発の弾丸が、謎のACを襲う。この射線、距離、かわせまい。そう確信したのも束の間。謎のACはフッとその場からかき消えた。
──消えた!?
標的を見失ったライフル弾は空を切り壁に突き刺さる。違う、消えたんじゃない。横に動いたのだ。ACの頭部カメラの死角まで。
そう理解した時にはすでに紫色の閃光が斜め横からレイヴンの装甲に命中していた。機体の表面温度が瞬時に上昇してラジエーターが緊急冷却を始める。装甲の損傷度は──軽微か。
──補助ブースターによる高速移動か?
腕部パーツの肩左右に取り付ける追加ブースターの存在がレイヴンの脳裏に浮かぶ。だが、あのACにはそれらしきものがついていない。だが現実現在進行形で左右に高速移動をしながらライトアームのライフル改めプラズマライフルが火を噴く。
飛び交うプラズマを左右に機体を振るように動かしながら避ける。単純速度はこちらと互角──いや、こちらの方がやや上だろう。
だが、対するACは瞬時的にこちらの速度を一回り上回る速度で機動してくる。100m先にいたと思えば一瞬で500m離れていた。やや大袈裟な表現だがそういうことを平気でしてくるのが今眼前にいる相手だ。
既存の常識を凌駕する相手など今更慣れている。
それにまだこいつは
機体を後退させると敵ACはそれを追うように背中のブースタから赤い光を放ちながら迫る。キラキラと弾ける粒子はまるで線香花火のようにも見える。不思議と綺麗だという感想は生まれなかった。
代わりに抱いた感想を言葉に変えるよりも先に距離を取るべく機体を後退させる。壁に突き当たるのであくまで部屋の中で円を描くように。
通常ライフルを敢えて撃つとそれに反応したACが左右に例の高速移動で回避をする。だがこれは何度でも行えるわけではないらしい。短時間で撃ちすぎると冷却期間のようなものが発生して一定時間その動きをしなくなる。……チャージングだ。ACはブースタを利用した高速移動が出来るが、その代償として短時間にそのキャパシティを上回る高速移動をし過ぎると息切れを起こす。そのタイミングこそがつけ込むチャンスだ。
1回、2回、3回、4回、5回と短時間で瞬間的にオーバードブースト並みかそれ以上の速度を出して避けるその行為は人間のパイロットならミンチになっても不思議ではない。
5回にわたる連続高速移動を済ませると途端に回避をしなくなったACめがけて、レイヴンのACはリニアライフルのトリガーを引いた。
「──命中」
仕掛けさえ分かってしまえば対処は出来る。リニアライフルの威力と反動は下手なACの機能を瞬間的に停止させるほどのものだ。が、見た所安定性能が高いのかあまり怯んでいる様子はない。反動で動けなくしてタコ殴りに出来るという甘い考えは秒で消し飛んだ。しかもチャージングしたACというものは本来光学兵器は使えたものじゃないはずだ*2。
ならやるべきことは単純だ。相手の攻撃を避けつつこちらの最低限の射撃によるジャブを敢えて避けさせて、チャージングさせた隙に本命を叩き込む。ただそれを繰り返すだけ。チリチリと掠めたプラズマで焼けていく自機の装甲に、レイヴンの頬に汗が伝う。
自機が落ちるのが先か、相手のACが壊れるのが先か。
命中した弾数だけで言うならばレイヴンのACの方が至って有利なはずだが思った程敵ACの損傷度は少ない。どうやら、瞬時に敵ACは小刻みに姿勢を変えて直撃を防いでいるようだ。
「……ダメージコントロール用の機能が備わっているのか。こちらに欲しい機能だ」
ここまで来たら無敵じゃないか。募る苛立ちを込めて一心不乱にリニアライフルの弾丸を叩き込み続ける。
【AP50%、機体ダメージが増大しています】
自機の損傷が拡大していることを告げるCOMの警告にレイヴンは舌打ちしながらも思案する。
守って良しの素早いAC。そんな完璧かつ究極の存在があるものなのか。
否、断じて否。そんな夢物語など存在などしない。
守りを得れば素早さを失い、素早さを手に入れられれば守りを失う。アーマードコアというものは概ねそういうものだ。故に乗り手の手に馴染むようにチューニング、カスタマイズを施して最善を目指すのだ。
少なくともその例には──あのACも漏れなかったらしい。
数発目のリニア弾が命中した途端、大きく敵ACがよろけその動きを止めた、
あのダメージコントロールシステムにも限界があるらしい。ならばこの瞬間泣きっ面にもう1発だ。
かちり。
引かれた引き金にリニアライフルも通常ライフルも応えはしなかった。あの雑魚とACとの戦闘で完全に弾が切れたらしい。
無駄弾を撃ちすぎた。だが──まだ武器ならある。
リニアライフルと通常ライフルを投げ捨て、胴体ことコアパーツに格納*3された二つの武器を取り出す。
ライトアームのリニアライフルの代わりに、リボルバー状のハンドガンCR-WH01HP*4を。
レフトアームの通常ライフルの代わりに、腕部パーツに取り付けられたブレード発振器、CR-WL79LB2*5を。
先程の引き撃ちとは打って変わって動きを止めたACのすぐ目の前まで距離を詰めた所でコアパーツ目掛けて執拗にハンドガンを叩き込む。ダメージコントロール機能が死んでいるからか、目に見える勢いで装甲がへしゃげていく。
当然相手もカカシではない。システムが復旧した所でプラズマライフルを返す刀でレイヴンのACに注ぎ込むように撃ちまくる。
「この……!」
レフトアームのブレードを発振させて、捩じ込むように敵ACに振るう。
最早ダメージコントロールもクソもない我慢勝負だ。敵ACのレフトアームの光波ブレード発振器から緑色の光が溢れ出す。ここであの斬撃を至近距離で叩き込まれたら死あるのみだ。
そしてレフトアームの光波ブレード発振器の先端がレイヴンのACに向いた時──その動きを、止めた。
「…………」
それは決着と言うにはあまりにも暴力的な幕引きだった。
ダメージレースを制したのは、レイヴンのACだったらしい。後方にバックした所で敵ACは糸の切れた人形のように膝をつき、頽れた。
そのコアパーツには風穴が開いており、中枢部を撃ち抜いて機能停止に追い込めた──と言うことだろう。
感慨に耽る暇もなく、ノイズに飲み込まれ誰の声すらも聞こえなかったはずの通信機から懐かしい声がレイヴンの耳朶を打つ。
『…………える? レイ……ン!! 聞こえる!?』
その声色は落ち着きのおの字すらもなく、荒げたその声色を通信機に叩き込んでいる。
『施設が動き始めたわ! 中心から高エネルギー反応……?! 早く逃げて!』
早く逃げろと言われても施設最深部にいるのにそう簡単に逃げられるものか。とはいえ何もしないよりはマシとは言える。
言われるがままにレイヴンは機体を走らせる。オーバードブーストのスイッチに手を伸ばそうとしたその矢先だった。
目眩が──した。たかだか1時間もかからない戦闘で疲れるなんて冗談もいい所だ。この手の仕事をしている以上レイヴンもヤワではない。
故に。世界が歪んでいるのだと気付いた時には世界が白に呑まれた。
Researchers report
mission:変異域調査
client:アライアンス
アライアンス先遣隊の全滅を確認
全滅させた兵器を破壊したものの
施設の正体は依然として掴めず
戦況報告:
この手の施設の調査は散々っぱらしてきたが今回のものはとんだ食わせ物だったようだ。
謎のMTにお前曰くACだという謎の機体。
またもや厄介ごとに巻き込まれるとはな。まぁなんであれ、潜り抜けるしかないのは確かだろう。
未知の状況に対しては情報が命運を分けると言っても過言ではない。
引き続き情報は俺が用意する。確認を忘れるなよ。
エド・ワイズ