ARMORED CORE Ⅵ /LOST RAVEN 作:この先生きのこマン
ACの調整。
それは操り手であるレイヴンにとっては欠かしてはならないものである。
アーマードコアという存在は数多くの企業が開発、生産したパーツを組み合わせて生み出される。故にその姿は多種多様。
意図して真似られたものや、量産品で無ければ概ね全く同じ姿は無いとされる。
だが、これには致命的欠陥がある。
組み合わせや調整を間違えれば機体が身動き取れなかったり*1、FCSが過負荷で機能がしなくなり最早目視で撃たざるを得ない状態*2になったり、ブーストを噴かしただけでブースタが燃え上がり、冷やそうと必死なラジエーターが悲鳴を上げジェネレータを酷使、最終的に火だるまとなって戦場で一人自壊してしまう*3ことがある。
そうして熱に殺されたAC乗りたちは何度か見てきた。
レイヴン当人のACもかなりギリギリの調整がされており整備は欠かせないのだ。
ちょっとの整備不良で死ぬなど、あってはならないことなのだから。
コックピットでパラメータを確認。
この冷えた殺風景なガレージの中で、ブースタを試験的に空噴かしをし、2歩3歩と歩き、頭部を右、左と動かす。
動作は良好。問題は無し。
慣れたテストだが、この瞬間こそが自分のACがこの世界に存在すると実感する。
狭っ苦しいコックピットの中、コンソールの光がレイヴンの顔を照らす。
光を反射するはずのその瞳はドブのように濁っている。
これは生まれつきだ。現状に絶望している訳ではない。かと言って希望を持っている訳でもないが。
子供の頃教師にその腐った目をやめろと言われたがどうやめろというのか今でも理解はできない。整形手術でもすればよかったのか。
ACのカメラが生体反応を捕まえる。
ガレージに足を踏み入れられるのは現時点で二人だけ。
下手な人間を鯖折り出来そうな筋骨隆々の男の姿をACのカメラが捉えるとレイヴンはコックピットハッチを開き這い出た。
「おい、レイヴン。あがったぞ」
「……ちょうどだ。こっちも上がりだ」
今日はエドが飯の当番だったか。
少しは鳴り散らす腹が膨れるといいが。些かひもじい気分のレイヴンは滑り落ちるようにACから降りた。
「メニューは?」
「──チンジャオロースだ」
◆◆◆◆◆
食、それは人が人である以上避けられないものだ。どういう形であれ栄養補給しなくては人間はその機能を失い活動を停止する。
それは強化人間だろうが、真人間だろうが変わりはしない事だ。
薄暗い食堂のような大部屋の片隅で、箸で痩せこけたピーマンのようなナニカとタケノコのようなナニカ細切りを摘み上げ、レイヴンはそれを凝視してから口に放り込む。
「ルビコン解放戦線。連中が今回の星外企業、ベイラムからの依頼で襲撃する相手だ」
エドがルビコン解放戦線の概要をレイヴンに見せている中、レイヴン当人は死んだ顔でチンジャオロースのようなナニカ咀嚼していた。
ぼり、ぼりぼり。
空虚な味がする。青椒肉絲ってこんな味だっけ。ただただ油の味しかしない。エドは一応料理は人並みにはできるはずだ。こんな悲惨な料理になるのはやはりあの痩せこけた野菜であるが故か。
それに、大切な事が一つある。
「──なぁ、エドさんよ」
「帥父と称される老人、サム・ドルマヤンを筆頭としたこの惑星ルビコン3の開拓民を祖とする土着民が武装をし、後からこのルビコンに進駐してきた企業勢力に対して反抗をしている組織だというが──」
「チンジャオロース、だったな?」
「サム・ドルマヤンだ。話を聞いていたか?」
話とは全く関係のない切り出しをしてくるレイヴンにあきれ混じりに返すエドに対して悪びれもせずに言葉を返した。
「トルティーヤだかサムギョプサルだか知らんが、この肉のねえチンジャオロース……これはチンジャオロースとは言わないんじゃあないかなぁ……?」
「いいや呼ぶね」
ふんぞり返るエド。
レイヴンは口の中にチンジャオロースのようなナニカを放り込み飲み込んでから言葉を吐き捨てた。
「言うかよ。ロース要素どこだ。ロースは。ロースをロスしてんじゃねえか」
「上手いことを言ったつもりか? 寒いぞ」
「サム・ドルマヤンだけにってか。冗談じゃない。大体、買い出しで市場あったろ。牛肉豚肉くらいあっただろ。通貨もCOAM*4で同じなんだからよ」
「そんなモンルビコン3のその辺の市場に置いてるはずがないだろう。それに代用品のミールワームを食うことをお前が拒否したんだからそらそうもなる。肉抜きだ」
「…………ぁぁ」
心底嫌そうに。それはもう心底、あまり思い出したくないものだった。
ミールワーム。レイヴンは喉から戻りそうになった細切りの野菜たちを押し込める。
ミールワーム、思い出せばすぐに出てくるあの悍ましい生き物。
大樹のように太く長い体躯、茶色いその身から浮き出た血管。まるで豚かゾウのように生えた無数の脚たちに、頭といえる頭はブラックホールのような大口を開き、無造作に生やした牙を出している。
悍ましいとしか言いようのないその生物は牛肉豚肉鶏肉あらゆる獣肉の代用品だという。そう、エド曰くこの
「キサラギの出した新手の生体兵器みたいなのを進んで食えるかよ……なんだよアレ」
キサラギの生体兵器。緑色の蟲のような化け物を思い出すが蟲というにはあまりにも大き過ぎ、口からパルス弾を吐き出す珍妙奇怪な化け物だった。
アレよりはマシなのか。
いや、マシだと思いたくない。
だが、シーラとエドの乗っていたヘリに積まれたレーションの数も限りがある。
この地球ならざる場所で生きていくには、やはりあのゲテモノを食べていくしか無いのか。
そう。
ここは惑星ルビコン3。
地球とは異なる惑星である。
「ルビコン3の特産品だ。あんなモン見れば食欲も失せるのもわからんでもないが……現状地球に戻る術も無い以上どうにもならん」
が、レイヴンの視線はエドの手元のテーブルに向く。
「そういうエドもお前、ワーム食ってないだろ」
エドの皿にはレイヴンと同じく痩せこけた細切りの野菜たち。肉らしきものはない。
盛り付けの際に避けたのか。
「俺は……」
「駄目だったのか」
言い淀むエドにレイヴンは無慈悲に問いかけると目を逸らした。
「キサラギの生物兵器みたいなガワをしているのが悪い」
「……同感だ」
言い訳じみた物言いだったがレイヴンとしては救いだった。
あんな化け物を見て食欲が失せるのは自分だけじゃなかったのだ、と。
そもそもどうしてそんなものを食べさせられるような場所に飛ばされたのか。
理由は認めたくないが、至極シンプルだ。
人工島のシステムが唐突として起動したに尽きる。いや、恐らく先遣隊や自分たちがあの人工島のシステムを刺激してしまったのかもしれない。
人工島とその周辺の空間を飲み込んでしまった。
そう、現場にいたレイヴンはおろか人工島上空で滞空していたエドとシーラの乗っていたヘリまで巻き込んで。
かくしてレイヴンもエドもシーラも未知の惑星にまで飛ばされて途方に暮れた訳だ。
幸いエドはリサーチャーであるが故に情報収集能力に長けており、自らが置かれた状況をある程度すぐ把握することは出来た。
とはいえ即適応出来るかどうかはまた別の話だ。
それが食糧という形で牙を剥いている訳だ。
そんな空気を打ち破るが如く、第3の声が耳朶を打った。
「不味いけど食べられなくも無いわ。ゴムみたいな食感で不味いけど」
「「え」」
エドとレイヴンが間抜けな声を上げながらその声の主を一斉に見る。
そこには黒のクールショートの怜悧な雰囲気を醸し出した女が一人。手元の皿には2人と同じ野菜たちと肉のようなナニカが乗っていた。
そしてそれを憮然と口に運んでいた。
シーラだ。
「食べられない訳ではないわ。おすすめをする訳でもないけれど」
ごくり、と唾を飲み込む。
食事にもバリエーションが必要だ。もしあのミールワームを食べるという選択肢が出来ればまだ食事面でのストレスは多少緩和出来るはずだ。
今食っている野菜も正直言って美味くないのだからどうせ一緒だ。
「食べてみる?」
と、レイヴンに差し出すがレイヴンは躊躇してその身の動きを止めた。
ミラージュ出身のオペレーターなだけあり、その容姿は端麗と言える。
美女に俗に言うあーんをされるのは望むところではあるが、飯が飯なせいで最早それどころではない。
だがシーラだけ食べてレイヴンが食べないと言うのも変な話でもあり。差し出されたそれをレイヴンは口にした。
舌触りだけならその辺の肉と変わりはなかった。だがそこからが問題だった。噛めばゴムのような食感とじゅわっと溢れる肉汁から古びたオイルのような味のダブルパンチがレイヴンを襲う。
眉間に皺寄せ、うっ、と自然に声を出た。声と言ってもうめき声に近い。
はっきり言って仕事柄普段食べている味気ないレーションより、酷かった。
「シーラ、どうして……平気なんだ……」
「大袈裟ね。不味いのはわかるわ」
ピーマンを嫌がる子供でも相手をしてるようにシーラが微笑みながら言うが、そんな余裕はレイヴンには一切ない。
「いや……大袈裟もクソもない……」
シーラやエドとはレイヴンとしてはそこそこ長い付き合いだが、時として分からないところがある。
だが現地民が食えている以上慣れの問題だろう。
慣れたくはない。故に少し前に一人でしたバーベキューが酷く恋しかった。
この地獄のような味をエドにもぜひ体感して欲しいの一心でエドを一瞥すると、その意図を読み取った彼は首を横に振った。
「いや……俺は遠慮しておこう」
──おのれエド・ワイズ
恨めしげにレイヴンがエドを睨め付けるが、当のエドは一切悪びれず途切れた解放戦線についての資料を再び広げた。
登場人物まとめ
・レイヴン
主人公。本名は開示していない。そのためシーラもエドも彼の名前を知らない。
男性、年齢は二十代半ば。
ナービスが発見した新資源を巡る争い(ACNX)から、バーテックスとアライアンスの騒乱(ACLR)まで生き残った人外。
ついでに青パルも始末した。
特攻兵器の雨を浴び、レイヴンという存在に固執する女に目をつけられたり、ドミナントに固執する男に粘着され、パルヴァライザーなどというインチキ一歩手前の存在と戦わされて、めげずに生き延びたもののアライアンスからの依頼で貧乏くじを引かされた挙句、謎のACもといエフェメラと戦わされ勝利したのも束の間、ルビコン3まで飛ばされた。
ミールワームは苦手らしい。
・シーラ・コードウェル
LRのオペレーター。
女性、年齢不詳。20代後半。多分恐らくきっと。
なおレイヴンは失礼にも年齢を聞こうとしたが給料の倍化を要求されたためあえなく断念。
元ミラージュのオペレーターで、見た目クールショートのキャリアウーマン風。
割とお金にがめつく、ミールワームを不味い程度で済ませている為味音痴の疑惑がある。
・エド・ワイズ
LRの情報屋。
男性。推定年齢30代〜40代。
筋骨隆々の男だが、ACに乗る適性は無かったらしい。
短時間で情報をまとめてみせるなど仕事は速い。ミールワームに対して(見た目のグロさから)警戒しており、レイヴンの反応を見て事なきを得た。
次回、解放戦線侵攻部隊襲撃