ARMORED CORE Ⅵ /LOST RAVEN 作:この先生きのこマン
『傭兵支援システム・オールマインドへようこそ
貴方の登録を歓迎します。このまま傭兵登録画面にお進みください』
「さてと……」
レイヴンの手には古ぼけたPDA。画面にはRAVENS’ ARKという親の顔より見たエンブレムを塗り潰すかのように、ALLMIND自らの名を示すような名前とエンブレムが表示される。
その隣にはシーラとエドがレイヴンの左右に挟まるように横からその様を覗き込んでいた。
レイヴンはそれに構うことなくPDAの操作を進める。
「珍しいな。お前がその手の得体の知れない物に手を出すとは」
エドが少し怪訝な顔で操作されるPDAの画面を見ながら率直な感想を告げると、レイヴンはうんざりしたようにため息をついた。
「仕方ないだろう。なにぶん先日の依頼で貰えた報酬、支払いをオールマインドを介して支払うと言ってたんだ」
登録してなかったせいであちこちあちこちあちこち行ったり来たりを強制され、ヘリの燃料を無駄に失い、その辺に屯してたドーザーに絡まれるわ碌な事がなかった。
弾薬調達周りもそうだ。登録しなかったら失う物が多すぎる。今後も他社他勢力もオールマインドを介すると言われれば抵抗してもしょうがない。
「傭兵支援システム、オールマインド。こいつは
「至れり尽くせりね……」
シーラが何を思ったのか少し低い声で呟く。
誰がこれを作ったのかは分からない。さぞかし素晴らしく親切な妖精が作ってくれたのだろう。
そんな馬鹿な話がある訳が無いが。
『その識別名は登録出来ません』
澱みなく操作……していたはずだった。
だが突如としてオールマインドが拒絶の意を表した。
『その識別名は既に使われています』
「おい、一体何で登録した」
「何って……レイヴンだが?」
エドの質問にあっけらかんとレイヴンは答えた。そもそも本来の名前など誰にも明かしていない。名乗る必要もなかった。
まさかこの惑星にもレイヴンが居るとは思いもしなかったが。
──この惑星において傭兵はいてもレイヴンはいないと思っていた。
「アーク時代はレイヴン……そう登録していたのか」
「名前は登録していない。特に何も言われなかった」
「お前なぁ……」
頭を抱えるエドだが、実際問題エヴァンジェもバーテックス蜂起時のレイヴンの事をアーク時代の同期である事に終始気付きもしなかった。
そもそもアーク時代に旧世代兵器を止められなかった事で余計な誹りと恨み言を言われかねないアーク時代の実績を振り翳す気にもなれなかったし、それゆえに敢えてその辺の名無しの木っ端レイヴンとして振る舞っていた。
9割方キサラギのせいだと言いたいが先方からすれば知った事では無いのだ。
ジャックは──気付いていたようだが。
「レイ
『その識別名は受け付けられません』
「……ジョン・ドゥ*1」
『認められません』
「12345」
『駄目です』
「…………」
ミシ、と握り締められたPDAが悲鳴を上げる。
酷い投げやりじみたレイヴンのネーミングセンスにシーラは頭痛を覚え、エドは最早笑うしかないのか「はっ……ははっ」と渇いた笑いを浮かべている。
もしかしたらこのレイヴンとかいう奴は名前を持ってないのか、エドもシーラも下手したら思っているかも知れないが名前なら持っている。親から貰った名前ならある。
「…………」
話すことはきっと地獄に落ちるまでないのかもしれないが。
『差し出がましいようですが、登録名にお悩みでしたらオールマインドから提案をさせていただきましょうか』
流石のシステムも見兼ねたのか。それともここにいる雑な名前にしようとする男レベルのパッパラパーがいたのか。
それは分からない。
どんな名前を投げつけられるのか。期待と不安半々でレイヴン一行は息を呑んだ。
『リャノンで、いかがでしょうか』
「…………」
沈黙がこの場を支配した。
レイヴン当人が表情ひとつ変えていないこともあって、ああああよりマシだろそれにしろと言わんばかりの視線が痛かった。
レイヴンにはそれが耐えられなかった。
『ご不満でしたら他に候補を用意しますが』
「いや、問題ない」
『そうですか。──改めて登録番号:Rb-54。登録名:リャノン。貴方の登録を歓迎します』
かくして、このルビコンにレイヴン改めて独立傭兵、リャノンが生まれた訳である。
だが──
「よろしく頼むわねリャノン」
「よろしく頼むぞ。リャノン」
シーラがわざとらしくにこやかに。出会ったばかりの時に見た営業スマイルで挨拶をしてくるや否やエドまで便乗して豪快な笑みを見せて握手まで求めてくる。完全におちょくられている事に気付いたレイヴンは振り切るように首を横に振った。
「やめろ。レイヴンでいい」
「まぁそれでもいいけど……いずれレイヴンで登録した人と会ったら面倒な事になりそうね」
「う」
何も言い返せなかった。
確かにレイヴンを先に登録名とした誰かに敵にしろ味方にしろ戦場で出会ってろくな事にならないであろうことは、目に見えていた。色んな意味で、面倒な事になるのには違いなかった。
────────────────
登録番号: Rb54
識別名:リャノン
ランク:──/-
所属:独立
比較的最近に密航した独立傭兵。
通常のACとは異なる規格を持つ機体を駆り任務に臨み、堅実な動きと意表を突いた動きで相手を幻惑する。
独立傭兵レイヴンを自称するが定期的に似たようなドーザーが出現する。
────────────────
独立傭兵オペレーター
シーラ・コードウェル
音声記録、開始
彼と組んだ時の事?
随分と懐かしい事を聞くのね。
レイヴンズアークが機能を停止し、企業たちが死に体になってから私はミラージュを抜けた。
その時向こうもまともに給料を払える状況になかったわね。
一時期流れのオペレーターとして他の傭兵たちのアシストもしていたのだけれども、そこで担当した1人が彼ーーそう、私たちと今組んでいるレイヴンだった。
ブリーフィングで顔を見た時の最初の印象はそうね……まるでドブのように濁った目をしていると思ったわ。
情勢もあって目が死んでいたレイヴンはそこそこいたのだけれども、彼の場合は諦めていた。というよりはこの先生きのこる為に暗闇の中で次の手段を考えている。そんな風に見えたわ。
実際他のレイヴンが落ちていく中、その腕は凄まじく短時間で敵を撃破してみせた。
彼と組めばこの先生きのこれる。
その時、妙な確信めいたものがその時の私にはあった。
それからそのミッションでの縁もあってこうして専属オペレーターとして雇われる事になって今はこうしているわけね。
まぁ、彼のところの条件が良かったのもあるのだけども。ふふっ
所でこのインタビューのしゃれ……
音声記録、終了