「あー、ミホノブルボン凄えー!ターボ推せるー!スカイマジ策士!」
俺はウマ娘に嵌っている一人の大学生オタクだ。正直言って競馬なんて興味なかったが、ウマ娘をやり始めてその意識は完全に変わった。ウマ娘のキャラは、一人一人個性が掘り下げられていて、誰を推しても行ける。そんな中で俺が一番好きなのは、逃げ脚質の子だ。先頭で気持ちよく走り抜ける、その思い切りの良さ、スピード感が良い。もし生まれ変わったら、逃げ脚質の誰かが言いと思うくらいには。
その思いが、とんでもない形で叶えられるとは知らずに…。
◇
「一卵性双生児か…。」
「どちらかは助かりませんね。」
「くっ、こんなに発達した医学でも、ウマ娘の双子は救えないとは…。」
ウマ娘の双子は極めて少ない。いないわけではないのだが、母体が重篤な状態になりやすく、母子ともに死の危険があるため、大抵は片方が犠牲になる。希に両方生まれてくることもあるが、その場合虚弱体質になりやすい。
「せ、先生、これを見てください!」
「どうした…、何!?」
「双子が示す生命エネルギーが増大中です!」
「これはもしかするともしかするぞ!帝王切開で両方を生かすんだ!」
「はい!」
だが、その常識を覆す存在が生まれたのである。
◇
まさかの夢が叶ってウマ娘に転生した件について。
いや、確かに妄想はしていましたよ。けど、本当にそうなるなんて、夢にも思わないじゃないですか。しかも母親もウマ娘ですし。
いや、そんな事より、レースです、レース。
ミラベ「ねーねー、お母さーん、レース見に行きたーい!」
ベガ「そうね、じゃあ3人で行きましょう。」
私は世界的にも珍しい双子のウマ娘です。しかも、姉に当たるウマ娘はアドマイヤベガ、母は、ティアラ路線で二冠達成したベガ。ならば私は、馬としては生まれることのなかった、ベガの1996-2でしょう。ウマ娘においても双子はとても珍しく、双方が病弱でないのはさらに珍しいです。私の名前がミラクルベガなのも、そうした奇跡を表しているに違いありません。
ワーッ ワーッ
レース場で見たレースは、想像していた以上に凄かったです。走っているウマ娘の迫力が、熱意が、想いが、間近に伝わってきました。これは確かに、テイオーさんがルドルフさんに憧れるのも分かります。
ミラベ「凄い凄い!私もこんなレースで走りたーい!」
アヤベ「全く、はしゃぎ過ぎよ。」
ミラベ「えー、お姉ちゃんは冷静過ぎるよー。」
ベガ「はいはい、2人ともそこまで。レースを走るにしろ走らないにしろ、貴方達は自分の人生を全うしてほしいわ。」
ミラベ「お母さん、もしかして、それが出来なくなった人を知っているの?」
勿論実際は知っています。お母さんの同期のホクトベガさんです。ネットで調べた結果、レース結果は元いた世界の結果と大体同じでした。但し幾つか違いもあり、その一つが予後不良の扱いです。馬はレース中の骨折が致命的なため安楽死させられますが、ウマ娘の場合は基本的に入院で済みます。人型生物であることに感謝ですね。
ミラベ「ねえ、お母さん、私、その人励ましたい。」
アヤベ「ミラクル!?」
ミラベ「私とお姉ちゃんは、奇跡にも等しいウマ娘の双子として生まれた。奇跡は待つものじゃなくて起こすもの。例え子供の励ましでも、何かが変わる。」
ベガ「そうね、分かったわ。」
◇
アヤベ「ねえ、本当に良いの?幾ら子供だからって、無責任な発言は後で自分を苦しめるわよ。」
ミラベ「うーん、私はそういうの余り気にしないかな。むしろ、何もせずに状況が悪化するのを見ているしかない方が問題だと思うよ。お姉ちゃんがそうだから。」
アヤベ「私が?そんなことあるわけないでしょ。」
そう来るのは予想済みです。ここで、前世の知識持ちという転生チートが火を噴きます。
ミラベ「ううん、そうなるよ。だってお姉ちゃん、もし奇跡が起きなかったら、私の事をずっと気にかけて、自分の為の走りが出来なくなっちゃう。そして無理な練習をして、怪我をして、引退するよ。」
アヤベ「ミラクル、貴方もしかして未来が見えているの!?」
ミラベ「ううん、お姉ちゃんの性格から推察しただけ。でも、かなり確度は高いと思うよ。どうしても疑うなら、お母さんに聞いてみたら?」
◇
ベガ「ミラクルの言う通りよ。アドマイヤ、貴方は思いつめる傾向にあるわ。それにしても、良く気付いたわね。」
ミラベ「えへへ、お姉ちゃんには幸せになってほしいから。もし私がいない世界だと、私に縛られて、しまいには悪霊的存在にまでなっている。そんなこと、私は望んでいないよ。」
アヤベ「…。分かったわ。それにしても、ミラクルの見通しの良さは凄いわね。これなら、レースでも活かせるんじゃない?」
ミラベ「うん、私は逃げをやるつもりだから猶更ね。レースコントロールが出来れば、思う壺だから。」
ベガ「そうね。でも、その能力は、きちんと使いなさい。」
ミラベ「うん。だって、能力を誤用・悪用すれば、他人が悲しむし、自分にも降りかかるから。」
◇
ホクトベガ「久し振りにお客さんかと思ったら、アンタかい。」
ベガ「いえ、正確には私じゃなくてこの子達よ。」
アヤベ「アドマイヤベガ。よろしくお願いします。」
ミラベ「ミラクルベガです。ホクトベガさんの事は、お母さんから聞いています。」
ホクトベガ「フン、聞いているなら帰って貰おうかい。」
ミラベ「確かに、子供の私達が、ホクトベガさんの気持ちを理解するのは難しいです。でも、見ていてください。私達姉妹がレースで活躍するところを。」
ホクトベガ「そうかい。」
アタシはあの時全く期待していなかった。精々が子供の見せる強がりかなんかだって思ってね。だから、あの2人が奇跡を起こしたときはもうひっくり返ったよ。
◇
アヤベ「ミラクル、話があるわ。」
ミラベ「なーに、お姉ちゃん?」
アヤベ「ミラクル、貴方も危ういところがあるわ。後先考えずに、善意だけで行動してしまうところよ。」
ミラクル「うーん、でも私からそれ取っちゃったり、他の動機が混ざったりすると、存在意義がなくなっちゃうよー。」
前世では、ウマ娘を知るまで、自分の人生に悩んでいました。正直、ターボ師匠がいなかったら、生きることも死ぬことも出来ない生殺しの状態だったでしょう。
アヤベ「そうね。だから、私がミラクルを守るわ。」
ミラベ「エヘヘ、嬉しいな、お姉ちゃんがそんなにも私の事を思ってくれるなんて。」
アヤベ「もう…。」
ミラベ「あ、でも約束だよ。もしどちらかが不合格になっても、恨んだり妬んだりは禁止!それともう一つ、2人共合格しても、チームは分ける!私達一緒だと馴れ合っちゃうでしょ?」
アヤベ「そうね、あの熱を生み出すには、それくらいしないとね。」
ミラベ「じゃ、明日から早速練習しよう。」