青い光に満ちた部屋にヴァルキュアはいた。長方形や三角形、正方形、台形といった分厚い石板が配置されている。それも幾何学的整然を無視するかのように、長方形の石板の一端に、二等辺三角形が、それも一端だけを接触させて微妙なバランスを保ち、円形に配置された正方形の石板を、わずか一枚の菱形が支えている。
床の上で、ヴァルキュアは立ち止まり、右方を向いた。青い光を浴びて、黒衣の若者と白銀の少女が立っていた。その姿からは、ヴァルキュア以外なら面をそむけずにはいられないほどの殺気が立ち昇っていた。
「━━━来い」
"絶対貴族"を確認したメル・ゼナとDは走り寄ってきた。ヴァルキュアは"グレンキャリバー"から鞘鳴りの音をたてつつ迎撃しようとした。
美しい死を体現したような二人の攻撃をヴァルキュアはかわすことはできなかった。メル・ゼナが放った衝撃は肘まで届いた。それをDは押しのけて、肩口へ斬り込んでヴァルキュアを一刀両断する勢いで斬ろうとした。冷たいものを背すじに感じながら、ヴァルキュアはDの刀身をそのまま肉体にはさみ込んだ。ヴァルキュアは独楽のように身体を回転させた。手を離す暇もなく、Dも同心円を描くが、一八〇度回った瞬間にヴァルキュアの肉体が食い込んでいたDの剣を再生によって弾き飛ばした。
不動の剣士もこれには耐え切れなかった。吹きとんだ姿は、あらゆるバランスを失っていた。そして吹き飛んでくるDは弧を描いてかわしつつ突きを放とうとしたメル・ゼナごと"グレンキャリバー"の刀身はその心臓を貫いて壁に縫いつけた。
死体となったDとメル・ゼナの全身を青白い光が包み、呑み込んだ光が消えたと思ったら、二人の姿はなくなっていた。ヴァルキュアは憮然たる表情を崩さず近づき、壁に突き刺さった愛刀の柄を掴んで引き抜いた。"絶対貴族"ならではの肉体と反射神経のみが可能にした技である。
そしてヴァルキュアは間を置かず
「キマよ」
と呼んだ。
「ここにございます」
背後で朱色の長衣が応じた。ふり向きもせず、
「あれが、先刻わしと戦った二人か?」
ヴァルキュアは明らかに怒りをこらえていた。
「ご冗談を」
とキマは一礼した。
「あれでまず両者共に三分の一程度の実力かと。しかしながら━━」
「ふむ」
ヴァルキュアはうなずいて、先を促した。
「この世に、あの二人の実力を知悉しておるものは唯ひとり━━いえ、特にDは、その御方さえ、本当のところはどうか。つまり、いまのまがいものの実力も測り切れないのでございます」
「奴らの力はじきにわかる。そうしたら、わしは奴らに勝てる。"神祖"がこの世に残した――」
「ヴァルキュアさま」
「わかっておる」
と"絶対貴族"は重々しく言った。
「それを口にすると、この身にもロクなことが起こらぬでな。"神祖"め、またどこかでわしを監視しておるか。━━それよりも、人間どもは何をしておる?」
「大公さまのお言葉どおり、待機中でございます」
「待てとは言ったが、何もせぬとは口にしてはおらん。スーラとカラスに命じよ。二人の子孫を即刻、わしのもとへ連れて参れ、と」
キマは深々と首肯して消えた。
「さてと」
ヴァルキュアは空中に眼をやった。Dとメル・ゼナが現われた。その前方に奇妙な通路が広がっていた。空中のスクリーンは、三次元CGに変わり、その構造を描き出した。すぐに消えた。
「描写不可能」
の文字が浮かび上がり、ヴァルキュアの顔を悪鬼の笑いに変えた。
「それでも、おまえ達は行かねばならぬ。戻るとも戻れぬとも、その中で、おまえ達は正体をさらけ出し、わしはおまえ達に勝ることを証明しよう」
彼は哄笑した。少しして、そのような高笑いは何年ぶりかと思った。このような中味のない虚ろな高笑いは。
「"ミノス王の迷路"じゃな」
嗄れ声には、やれやれという苦渋が溢れていた。
「あのギリシア神話の伝説の迷路ですか!」
迷宮の正体にメル・ゼナが驚いた。
「そうじゃ。しかし、あの"グレンキャリバー"とかいう剣、空間を切るのはともかくとして、思いの場所へつなぐことができると見える。かつて、歴史が語られる以前、ミノタウロスという人獣を封じ込めたという"ミノス王の迷路"━━先史時代の伝説の名工ダイダロスの手になるそれを、忠実に再現できたのか」
「行くぞ」
とDが言った。
「ここで待つが得策だぞ」
と左手が言い返した。
「あの迷路へ入って脱出できた者はおらん。わしの方向感覚も、ちと自信がないわ。四次元以外の方角が封入されておる」
「ここにいても同じだ」
Dの眼は、前方に広がる通路の異常さを看破していた。生きもののごとく、こちらへ近づいてくる。
「この"ミノス王の迷路"攻略の手助けになった糸巻きの糸みたいなアイテムがなくてもD様は大丈夫なのですか?」
と聞いたメル・ゼナの疑問をDは
「出口は分かる。問題ない」
と返した。
「わかるのですか!?」
「何とかな。道は刻々と様相を変える。寸秒の猶予もなく新たな通路が形成され、組み込まれていく。これが、ダイダロス工法の秘密だった。それでも、出口とそれにつながる通路はある。そうでなくては、ミノタウロスも生け贄の娘と会えなかったろう」
ミノス王の迷路とは、彼の妃が生んだ人間と牛の混血児ミノタウロスを封じるための、果てしない牢獄であった。
ミノタウロスは月にひとり、妙齢美女を食料として要求し、最後は、勇気ある美女の隠し持った糸巻きの糸を辿った勇者テシアスの剣の前に斃れたという。糸巻きの糸がなくても、出口とその通路がわかるとDは告げたのであった。
そして通路が接触するのを待たず、D達は歩き出した。それはただの路ではなかった。右へ折れると、いつの間にか重力と垂直に移動しており、右下方に床と化した壁面が見えた。石段を下りれば、それはどこまでも上がっていくのであり、昇り階段は真っ逆さまに地下へと下りていくのだった。並の人間はもちろん、貴族や方向感覚に傑出したものを持つ妖物といえど、三半規管に狂いが生じ、破壊されてしまい、自らの占める位置や姿勢すら識別不可能の状態に陥るであろう。
「どうじゃな?」
しばらくして嗄れ声が訊いた。
「情けない話だが、吐きそうじゃ。」
「こちらはまだ大丈夫ですが使い魔が駄目になりました。」
メル・ゼナのキュリアは迷路にやられたようで主人の服から続々と溢れ落ちていった
「敵が来るぞ」
あらゆるモノを消滅させてその力で迷宮を消して構造を目茶苦茶にする通路消しと呼ばれる球体型の消却型ロボットが突然、目の前に現れる前にDは不意に言った。
「第一関門突破――通常達成可能率〇パーセント。複製に数値と"現実"とを加えます」
コンピュータの声に、ヴァルキュア大公の身体は激しく痙攣した。巨大な蜘蛛の巣に絡め取られた人型の虫が。ヴァルキュアは全裸であった。その身体に巻きついたと思しい銀色の糸は、すべてコードであり、先端はことごとく〝絶対貴族〟の体内に直接もぐり込んでいるのだった。
「複製製作開始━━被験体への強化措置開始」
声と同時に、大公の口から獣のような叫びが迸った。コードから注がれるものは何なのか。彼の身体は血の気を失い、白と化し、さらに暗紫色に変わった。貴族が苦しむ。あの"絶対貴族"が。
それはもはや人間が考え、感知し得るレベルの痛みではなかったであろう。そのもたらす苦痛を語るには、新たな概念を必要とする。ヴァルキュアは耐えた。腕のひとふりで、あらゆるコードは外すことができる。それでも耐え抜いた。報酬は与えられねばならない。
痛みにかすむ視界の奥で、いま、二人の人間の形が整いつつあった。青白い放電を空中に送り込みながら、輪郭が、腕が、肩が、腰が、下半身ができてゆく。はためくコートの裾、鍔広の旅人帽、右手に長剣が握りしめている男が出来た、赤と金の装飾を纏い、翼みたいな青いマントをして、黒と白銀のゴスロリ服を着ている女も出来た。作り出されたそれは殺戮のときを待っている。作り出されたのはDとメル・ゼナだ。複製とはこれか。彼はここで、想像を絶する苦痛に耐える求道者のごとく、何かを成し遂げようとしているのか。
「複製完成━━強化措置完了」
ヴァルキュアは凄まじい響きを上げてうつ伏せに床へ倒れた。コードは一斉に抜けたのである。その身を支える余裕もなく疲れ切った顔を、彼はぐいと持ち上げた。見よ。その口から鼻孔から両耳から眼から、否、肛門からさえも紫煙が噴き上がっている。彼の内臓は無残に焼け爛れているに違いない。それでも彼は立った。左手で上体を起こし、右膝を上げ、右手をそれにかけて力を加え、そして、立ち上がったときにはもう、床に置いた妖剣"グレンキャリバー"が手中にあった。
ヴァルキュアに音もなく複製体が歩み寄る。疾走に移ったとき、すれ違いざまにDは腰の位置に跳んで横殴りにヴァルキュアの脇腹を切り裂き、メル・ゼナは頭の位置に跳んで首を切り裂いた。
二人はそのまま進んだ。首のない胴と足だけが。
切り裂かれる寸前にヴァルキュアが切り落としたのである。
崩れ落ちる寸前に消滅したそれをふり返りもせず、ヴァルキュアは負傷部分へ手を当てた。ひと撫でで、傷は跡形もなく消えた。
「勝ったとはいえぬか」
と彼は苦笑混じりに言った。
「このわしを心底怯えさせた存在を、ヴァルキュアは越えてみせるぞ。おまえ達が関門を突破するたびに明らかになる力が、わしをさらに強化する」
彼は両腕を頭上に広げた。天井と床からおびただしい銀色のコードが草の芽か蛇のように生え出して、全身に食い込んだ。
すでに六体の敵を斃していた。地球をテラフォーミングすることができて、武器として熱戦を吐く大怪獣、貴族の科学力で魔改造されて蘇った伝説の黒龍、OSBと呼ばれた侵略者が貴族に対抗するために外宇宙から連れてきた一兆度の熱を操って攻撃してくるアンバランスゾーンの具現化みたいな生物兵器、より強力な装甲をまとって復活する寄生生物、まやかしの通路をこしらえ、自分の口の中へ導こうとする幻覚獣、獲物の体内━━DNAへと入り込み、遺伝子レベルから食らい尽くそうと企む人食いヴィールス。━━ことごとくがDとメル・ゼナの前に敗北した。だが迷宮の刺客達はDとメル・ゼナを分断させるという戦果は出した。
「あれで最後だろう」
と嗄れ声が、飽き飽きした風に言った。こちらもどんな神経か、手のひらに小さな口が浮かんで欠伸まで洩らした。
「いよいよ出口じゃが、ひとつ気になることがある」
小さな眼が、思わせぶりにDの方を見上げたが、こちらは冷やかに無視して歩を進めていく。聞こえないようけっと吐き捨て、左手は半ば意地でつづけた。
「これまでに斃した奴らから、こと切れる寸前、一種の〝通信〟が送られておるのじゃ。あいつらが、おまえ達に関して送信する情報といえば、まずはその実力━━つまり、奴らは自らの身を投げ出して、おまえの腕の冴えをヴァルキュアに伝えているということになるな」
それでもDが無視しっ放しなので、ついに不貞腐れたか、
「ふん」
と押し黙ってしまった。
「・・・・鍛え直しか」
とDが口にしても、
「小賢しい予定調和はよさんか」
と完全にひねくれている。
「さっきのあいつなら勝てる」
このひとことが、Dの罠であった。
「わはは、莫迦をぬかせ」
嘲笑とともに左手は甦った。
「あれは〝絶対貴族〟じゃぞ。いかなおまえやメル・ゼナ嬢でも単体では勝てるかどうかわかるものか。それに、わしの見立てが確かなら━━」
「精進は怠りなし、か」
「そうとも。あの妖剣〝グレンキャリバー〟に、おまえと同等の剣技が加われば、おまえが殺られる。まして、おまえとメル・ゼナ嬢の二人の戦力を越えるそれ以上の力を持つにいたれば、完全にアウトじゃ。さっさと〝迷路〟を抜けて、ヴァルキュアの隠れ家とはぐれたメル・ゼナ嬢を捜し出せ。取り返しのつかんことになるぞ」
Dは角を曲がった。光が黒衣を包んだ。
「夜明け、か」
と左手がまぶしそうに言った。
「さあて、ヴァルキュア捜しじゃ」
Dは四方を見廻した。広い奇妙な部屋であった。三角形、長方形━━様々な形の石板がところ構わず配置されている。
「その必要はなさそうだ」
「何ィ?」
Dは、左前方を見つめていた。黄金のガウン姿が立っている。左手には赤黒く染まった貴族メル・ゼナの死体、右手は〝グレンキャリバー〟がその血を吸って不気味な光沢を放っていた。
なんとヴァルキュアは本気を出して形態変化をしたメル・ゼナを無傷で葬ったのであろう。これが"絶対貴族"か。
もはや言葉は要らぬ。音もなく、Dは滑り出した。ヴァルキュアが長剣をふりかぶる。
「用心せい━━あの構え、一撃で決めるつもりじゃぞ」
声は宙を飛んだ。動かぬヴァルキュアの頭上から崩れ落ちるような一撃。空を切った。ヴァルキュアは動かず、しかし、陽炎のように動いたのだ。着地と同時に、Dは跳びずさった。
「ふほお」
と左手が呻いた。いま、ヴァルキュアの一撃がふり下ろされたら、よけられなかったと悟ったのだ。受けてもこちらの剣はへし折られていただろう。
「退け━━奴め、実力を上げたぞ」
それはかえって、Dの突進に力を与えたようであった。凄絶な突きから右胴、地ずりで上がるや、左頸部への一刀━━そのすべてを身に受け、しかし、ヴァルキュアは幻のようにかわした。信じられぬ足の移動であり、体さばきであった。右へ薙いだ一撃もかわされ、Dはたたらを踏んだ。崩れた体勢を立て直そうとしたとき、眼前にヴァルキュアが迫った。
「よせ!」
それは、次の瞬間、ヴァルキュアに誘われるごとくに出した突きに対する叫びであった。のび切った剣はDの身体の安定も奪った。受けもかわしもできぬ弛緩しきったその首すじに、はじめて"グレンキャリバー"は打ち下ろされた。
「お見事でございます」
次々に襲いかかってくるDとメル・ゼナの連戦を無事に切り抜けた主人を背後で讃えるキマにも応えず、ヴァルキュアは肩で息をした。ひとつだけのつもりが、そうはさせじと次々と息切れが襲ってくる。こらえたら心臓が爆発しそうだ━━しかし、何とかなった。
「あれは、"迷路"の最終地点まで辿り着いたDとメル・ゼナの実力です。それを動きもせずにただの一撃で仕留められた。お見事と申し上げるしかありません」
ヴァルキュアは"グレンキャリバー"を持ち上げ、鞘に戻した。それだけで、手が抜け落ちそうだ。あの黒衣の若者は、何という敵であることか。一撃で、とキマは言ったが、あとひと打ちでも刃を噛み合わせていれば、首と胴が別々になるのは彼の方だったろう。メル・ゼナという貴族もそうだった。しかも━━
「彼奴らはまだ、最後の敵と相対しておらん。実力は未知数だ。それでも、いまのわしに勝てると思うか、キマよ?」
「あなた様次第でございます」
「絶対貴族の身体は、すでに限界に来ておる」
ヴァルキュアは胸に爪を食い込ませた。彼は咳き込み、その足下に鮮血が飛び散った。強化とはこういうことなのであった。拳で唇を拭い、ヴァルキュアは身を翻した。
「彼奴らの力は、まぎれもなく、あいつらのものだ。すると、わしとあいつらは━━ふむ、殊によったら」
ここで足を止め、真紅の長衣姿を見つめて、
「いざとなれば、おまえの頭を割って脳を調べる。だが、いまは別の手で愉しんでやろう。このヴァルキュアが自らの意志とはいえ、これほどの目に遇ったのだ。少々の嬲りくらいは神祖の罰も当たるまい」
そして、ヴァルキュアが去ると、残されたキマは、ひとり何とも形容しようのない表情で、こうつぶやいたのである。
「それよりも、一から何もかも消してしまった方が、お二人の、いまの御主人とかつての御主人のためでございましょう。この私の生命と引き換えに、出過ぎた真似をお許し下さいませ」
すでに六体の敵を斃していた。地球をテラフォーミングすることができて、武器として熱戦を吐く怪獣、貴族の科学力で魔改造されて蘇った伝説の黒龍、OSBと呼ばれた侵略者が貴族に対抗するために外宇宙から連れてきたに変えて一兆度の熱を操って攻撃してくるアンバランスゾーンの具現化みたいな生物兵器、より強力な装甲をまとって復活する寄生生物、まやかしの通路をこしらえ、自分の口の中へ導こうとする幻覚獣、獲物の体内━━DNAへと入り込み、遺伝子レベルから食らい尽くそうと企む人食いヴィールス。━━ことごとくがDとメル・ゼナの前に敗北した。
「あれで最後だろう」
と嗄れ声が、飽き飽きした風に言った。こちらもどんな神経か、手のひらに小さな口が浮かんで欠伸まで洩らした。Dは無言である。
無言のDをよそに人面瘡がメル・ゼナに話しかけてきた。
「しかしその古の龍を思い出させる赤黒い姿変化した時には驚いたぞ、お嬢さん。もしかしてそれが、貴族メル・ゼナとしての本気形態というやつかの?」
「ええ、そうですわ。まさか使うことになるとは思いませんでしたが」
メル・ゼナは余裕そうに言っているが内心、驚愕に満ちている言葉を脳内に出していた。
前世でも黒龍という存在は妖怪や神獣の伝承としてその存在を語られていて、実際に青龍と朱雀みたいな神話や伝説の存在が当然のように練り歩いているのがD世界だから、何故かモンハンの黒龍みたいな姿をしているとはいえ、この世界に黒龍が存在していてもおかしくはないと思っていました。だが、まさかあの怪獣王と宇宙恐竜がこの世界に普通に生息していたとは思いませんでしたわね。
吸血鬼ハンターD世界は何が出てきてもおかしくはない、魑魅魍魎が跳梁跋扈する魔境とはいえ、いくらなんでもあんな存在が出てくるとは思いませんでしたわ!
そっくりさんの可能性もありますがヤバいと思って形態変化したとは言え無事に撃退できて良かったですわ・・・
どれくらいの時間が過ぎたか、通路の前方に黄金の柩が横たわっているのが見えた。
「これは面白い━━ひょっとして、最後の刺客であるか」
と左手がささやいた。柩まで三メートルという地点で、Dの歩みが止まった。
「これは━━おい」
嗄れ声に、明確な畏怖がこもった。
「あいつの気じゃ。なるほど、これなら"迷路"の最後の関門にふさわしい。しかし、途方もないことを考えたものよ。さすがはダイダロス」
「まさか━━あの中にいるのはあの御方ですか?」
メル・ゼナも心当たりがある存在を声に出そうとしたら、自然に畏怖がこもった声になっていた。
"ミノス王の迷路"を製作したという伝説の工匠である。彼は鳥の羽を使って飛行装置をつくったが、息子のイカロスがそれを用い、太陽に近づきすぎたため、装置をつなぐが溶けて墜落死したという。
ゆっくりと柩の蓋が開いていった。開き終わると、黒い影が起き上がる。状況を考えれば不思議でも何でもない。だが、ただ起き上がるそれだけの動きから吹きつける妖気、鬼気の何たる凄まじさ。
「うおお」
と左手がのっぺらぼうに変わった。
「━━やはり神祖ですわッ!?」
その言葉を喋ったメル・ゼナは金縛りにあったかの如く動けなくなった。
「━━我が子達よ」
いまや柩の外に立つ影が言った。どのような姿をしているのか、何を帯びているのかもわからない。ただの黒い影だ。だが、視覚はともかく、全員の感覚は、前方にそびえる山のごとき雰囲気を感知していた。
「━━久しく会うておらなんだ。やはり、ふさわしい場所が必要だったかも知れん」
Dは地を蹴った。ふり下ろした剣は疾風とも呼べる凄絶さであったが、影はゆらゆらとDの背後に立っていた。
反転せず、Dは左腋の下から突きを放った。刺されても影は倒れなかった。Dは刀身を戻して向かい合った。
「ここは、おまえの国か?」
と訊いた。
「王の名はヴァルキュアだ」
「彼を虚空に放逐し、しかし、この王国を持たせたと聞く。おまえの刻印があまりに多い王国をな。奴は何者だ?」
影は激しくゆれた。それは精神の動揺を示しているのかも知れなかった。影の胸もとから青白い手首が現われた。右手であった。小指には大ぶりの指輪が黄金のかがやきを放っていた。手の甲にはひとかたまり黒い毛が生えて、貴族的な優美に猛々しい印象を加えていた。人さし指の第三関節から先が、招くように動いた。
その動きを見て、金縛りから復帰したメル・ゼナが動いたが遅かった。
「待ってください!何の為にわたくしを生み出したのですか!?偉大なる神祖━━」
突如、D達は大宇宙のただ中にいた。
「斬れるか?」
と左手が訊いた。聞こえるはずのない声であった。
「ヴァルキュアは斬れた。地水火風すべてを欠いておる。そして代わりになれるお嬢さんは神祖との対面で錯乱して期待出来そうにない。だが、いまこそチャンスかも知れん。"グレンキャリバー"なしでも、おまえならやれるだろう」
響かぬ声をどう聞いたか、Dは一刀をふりかぶった。見守るは虚無暗黒の大真空と千光年を隔てる銀河の星々。Dの両眼が爛とかがやいた。血の色に。声もなく、Dは右手をふった。
その時、同じように大宇宙を漂っていたメル・ゼナは、Dが剣をふったのと同時に大宇宙が輝いて、空間が爆発したように感じた。
誰が決定したのか、パフュム技官にはわからなかった。だが、命令には従うしかない。それが組織というものの理想の姿なのだ。ここでは、貴族たちとは及びもつかないが、みなうまくやっていた。すべては大過なく処理され、異議も疑問も滅多に生じないのだった。それでもパフュムは気になった。
遠く離れた大会議場のホールの一室で、首長と副首長が激しくいがみ合い、辺境すべてを破壊するつもりかと迫る副首長に対して、"絶対貴族"を斃すにはこれしかないと言い返す首長の攻防こそ知らなかったが、自分がこれから行う行為の結果は、想像力というものが根源的に欠落している彼の頭でも、容易に想像がついた。
コントロール・ルームには彼しかいなかった。こんな化物を使用することは二度とないだろうという上層部の目算と、いざという場合、責任と良心の呵責とを同時に背負う人間は少ない方がいいという良心的判断の成果である。いま、発射準備にかかれとの命令を、政庁のトップから受けた時点で、室内のライトは非常用の赤に変わっている。今度、元に戻るとき、結論はすでに出ているに違いない。すなわち、「辺境全滅」のみならず、北半球全体の絶滅か━━生存か。それは神の思し召しだろうか、とパフュムはまた自問した。
北部辺境区域に生じたという事態については、彼にも知識があった。その半分が虚報だとしても、おれはスイッチを押すだろう。何もかも、それが単なる噂にすぎなくても、これで拭い去ることができるなら、おれは押す。神よ赦したまえ。あなたを裏切るのに、私はさして苦悩もいたしませんでした。
そのとき━━照明が青に変わった。パネルの中央に位置する指示ライトが、激しく点滅を開始した。パフュムはためらいもせず、神への祈りを短く口ずさむと、ライトのカバーを拳で叩き割り、ライト下の赤いボタンを、自信をこめて押した。
地球から約一億キロ━━俗にいう"小惑星帯"のささやかなるひとつ、直径一〇〇メートル程度の小さな岩のかけらが、小さな噴射孔からまばゆい光を噴射させ、ゆっくりとその向きを変えつつあった。これから、「北部辺境区」の一地点を叩きに出かけるのだ。
どんな存在がいてもおかしくはない全世界が魔界都市化した吸血鬼ハンターD世界なのでモンハン要素だけではなくゴ◯ラとゼ◯トンも出しました。
実際にクトゥルフもいる魔境のD世界を特撮怪獣が練り歩いても違和感ありませんよね。
本音は怪獣を出したくなってきたから出しただけですけど
作中のオリ主が思ったように本人じゃあないそっくりさんな怪獣の可能性もあります。
誤字脱字、アドバイスがありましたら報告よろしくお願いします