貴族メル・ゼナ   作:一般通過龍

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2024年もよろしくお願いします。
高評価をくれて色を着けてくれた皆様ありがとう・・・
そして6話でスピイネの魔改造を勢いでやり過ぎたせいでインフレが凄いことになりました。


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Dが”シグマ”との戦闘を制して下した二日間、マシューとスーを護衛して『砦』まで向かう道程は予想もしないほどの平穏だった。ヴァルキュアの刺客が全然現れなかったのである。シグマがDに倒された際に生み出した置き土産も現れなかった。

 

刺客の変わりにD達の目の前に現れたのは現れたのは大気圏突入して宇宙から地球に帰ってきたメル・ゼナであった。

 

「ほう、”シグマ”によって強化されたあの刺客と戦って帰ってきたのか。Dよ、このお嬢ちゃんはもしかしてお前と同じくらい強いもしれないぞ」

 

メル・ゼナが手に持っていたスピイネの燃えカスを見たDの左手がそう言って評価をした。

 

ミランダ公爵夫人やブロージュ伯爵はまだ戻ってこないが貴族メル・ゼナが合流しても何もない平穏な道程が続いたのを見て人面疽が

 

「こうも順調に行きすぎると不気味じゃ」

 

と言ったがDは答えもせずうすい笑みを浮かべた。

平穏にマシューとスーは大喜びとは行かなかった。

 

病弱なスーの容態が伯爵の馬車の中で悪化してしまったのである。弱い身体に貴族の車に充満する妖気が悪影響を与えたのは明らかであった。幸い、これはDが左手を当てると、すぐに回復したものの、本来の病弱さは変わらず、ほとんどの時間を幌の内側で過ごす羽目になった。

 

マシューがますます暗く不機嫌になっていったのは、このせいもあった。父の一件で苦しめられてはいたものの、母を中心に兄妹は立派に農場を経営していたのだ。そこへおかしな連中がやって来て、過去も過去━━五千年も前の因縁話を持ち出し、三人を守ると言い出した。その言葉に嘘がなかったのは、これまでの道中が証明している。しかし、自分とスーを守る代償のように母は死に、スーは息も絶え絶えの状態に陥った。D達のせいではないと知りながら、マシューの想念は、こいつらさえやって来なかったら━━と収束していく。その先に広がる世界には、母も無事で農場は大きくなり、やがてマシューとスーは別々の結婚をするのだ。ただし、スーの結婚相手の男はマシューよりずっと見映えが悪く、力も頭も大分劣る若者だ。少しの間、二人は家を出て結婚生活を営むが、スーの方で愛想を尽かして母と自分と妻のもとへと帰ってくる。

そして、ここが肝心だが、無意識にメル・ゼナと結婚したい願望なのかマシューの結婚相手はメル・ゼナ似の美しさを持つ女性でそんな人が自分達と仲良くして暮らすという誰にも口にできない、マシューだけのひそやかな想いがあった。それが激しく胸をときめかせるものであればあるほど、元凶ともいうべき四人への暗い怒りは一方的に募って、今や腐臭さえ放ちはじめていた。

 

 

ヤバいですね。マシューさんがDに惚れている妹と自分に嫉妬していますわ。原作知識では邪な思いを向ける対象はスーだけだったはずが私にも向けられていますね。このまま放っておくと拗らせてヴァルキュアの傀儡になりますからメンタルケアをしないといけません。

 

「マシューさん、不満はあるのは分かりますが我慢をしてください。後、一時間で『砦』に着きますよ」

 

そう言いながらメル・ゼナは自身の美貌から繰り出される笑顔を活かしてマシューのメンタルケアをした。

 

マシューはすでに間違いを悟っていた。男も女も関係ない。何という美しさか。見つめられているうちに、マシューの脳は妖しい霧に閉ざされ、心臓は激しく打ちはじめる。血管の中を巡る血の流れさえ彼は意識した。それよりも━━真っ向から吹きつけてくるこの妖気は。マシューは血も凍った。それでいて、精神はなおメル・ゼナの美貌に陶然と溶けていた。

 

そんなマシューに駄目押しと言うばかりにDの言葉が来た。

 

「おれは、おまえたち二人を守らなくてはならん。そういう契約だ。破棄できるのは契約者だけだ」

 

二人の美貌が繰り出す言葉によってマシューはついに陥落して不満が無くなった。Dにその気があったのか分からないがメル・ゼナが取った手段は美しいモノを見せて対象のメンタルケアをするという方法と言えるだろう。

 

いつの間にか馬車のメンバーにサラッと三メートルある巨大な人影がまざっていたことにマシューとスーは驚いた。

 

「ブロージュ伯爵!?」

 

まさしくそこに立つ巨人は、ブロージュ伯爵に間違いない。だが、マチューシャの村外れでキュリオと戦い塵と化したはずの彼が忽然と登場してきたのか。

 

「驚いたかな?」

 

と巨人は嘲笑した。兄妹の驚いた顔を見て愉しくて堪らないようである。

 

「わしはヴァルキュアを斃した男だぞ、その木っ端のような部下どもの術にかかったくらいで、おめおめと滅びると思ったか?灰と血がある限り、わしは何度でも生き延びる。自力でも蘇れるが灰は自然にメル・ゼナ嬢のキュリアが貯蔵してある血潮を浴びたのよ。わかったか?」

 

伯爵が復活のカラクリを自慢しているところにメル・ゼナが感謝を求めた。

 

「復活する手間を省いた私に感謝は?ブロージュ伯爵様」

 

「おお、すまん。感謝するぞ、メル・ゼナ嬢」

 

震えるのを通り越して、陶然となるしかない美貌に、マシューとスーが熱いものがふくれ上がって涙が頬を滑り落ちるのを感じていたら、いつの間にか伯爵が馬車の手綱を手に取り、D達を砦へ導いていた。

 

「待たせたな」

 

と彼は黒衣のハンターに声をかけた。

 

「橋を渡せ」

 

とDは言った。

 

「気配がするな」と伯爵は空の方を向いて言った。

 

「空から来た。気球船だろう」

 

「ふむ━━話は後だ。開門」

 

巨腕が上がった。右である。門はゆっくりと左右に開き、そこから長い黒い橋がのびてきた。

 

「先に行け━━この砦はヴァルキュア大公を倒した関係者しか入ることを許可しない砦だがおぬしなら誰も文句は言わん。ミランダでさえも、な」

 

Dは黒馬を橋へと進めた。伯爵の言葉など意識もしていまい。近いものが先に入った方が手間取らぬ━━それだけだ。

 

地上三〇〇メートルに浮かぶ迷彩塗装を施した不可視気球━━その底部ゴンドラの内部で、探査鏡のファインダーを覗いているのは、伝道師クールベであった。背後にいるのは朋輩二人━━説教師キュリオと歌姫カラスに間違いない。キュリオ達がDに襲いかからなかった理由は辺境の武装村に細工をしようとしたが村人達と村を守る警備システムが死を賭して仕掛けた小ブラックホール発生装置による攻撃を受けたのである。

 

その身がいかに瀕死の傷を負っていたかは、いま、ゴンドラの隅のベッドに、ひとり横たわっていることでわかる。そんな彼の方へは眼もくれず、

 

「神祖の技術が入っている砦に逃げ込まれた。ブロージュ伯爵も殺したはずなのにいつの間にか復活している━━厄介だな」

 

と、眼は憎悪に燃やしながら顔をしかめていた。マチューシャの村でDに浴びた一撃をクールベはまだ覚えている。復讐鬼といっていい。

 

「城攻めの準備をするぞ」

 

神祖の技術が使われている並の貴族より砦を攻略する覚悟を決めたクールベは横たわったキュリオにDにやられたはずの”シグマ”を憑依させたのであった。




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