貴族メル・ゼナ   作:一般通過龍

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原作の文章を引用している部分が結構あるからそれが原作コピーに当たっている可能性があって怖いです。


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スー達が豪奢な一室に落ち着いたのは、それから三十分ほど後だった。『砦』というのが、こんなにも贅を尽くした王宮のような場所ならば、たとえば『都』に残る貴族の宮殿などはどれほど絢爛たるものなのか。スーは考えてみたが、これから先どうなるかは、とりあえず考えないことにして、スーは窓から外を眺めた。

 

伯爵とメル・ゼナと話しているDを見てスーは窓から離れた。他人の話を立ち聞くような躾を母から受けてはいなかった。それでも胸の高鳴りは一向に消えなかった。自分がどんな立場にいるかは承知しているつもりだ。そんな中で、胸が熱くなるような想いを抱けるのがうれしかった。━━人間も貴族も同じだな。誰かが口にしたそんな言葉が身体を横切った。

 

 

「とりあえず、上空に敵はおらん」

 

と伯爵はDに言った。

 

「一〇〇キロ四方を走査して、偵察機も使い魔のキュリアも飛ばして確かめましたわ。もう、何処かに着陸したと見ますわ」

 

とメル・ゼナもDに言った。

 

 

「刺客はまだ残っている」

 

とDは答えた。伯爵もメル・ゼナもうなずいた。

 

「だが、いくら彼奴とはいえ、このラモア砦の内部にまで侵入はできんぞ。御神祖の技術の粋を集めたセンサーが、一秒の休みもなく、砦から一〇キロ以内の地上と空と地下とを監視しておる。おかしなガスの一塊も潜り込めはせんよ」

 

「ヴァルキュアは神祖の技術とは無縁だったのか?」

 

「そんなはずはあるまい。我々が貴族の生活を維持していられたのは、御神祖の技術あったればこそだ。ヴァルキュア大公━━絶対貴族とて例外ではあり得ぬ。しかし、奴に与えられた技術の成果は、御神祖の怒りを買った瞬間に、機能を停止させられておる。百度甦ろうとも、この砦をどうこうできはせん。ここにあの兄妹を置いて、どうだ、わしとメル・ゼナと三人でヴァルキュア退治に出かけぬか?」

 

「よかろう」

 

「ありがとうございます!」

 

「おお!」

 

Dの返事にメル・ゼナだけではなく伯爵の巨顔も喜びにかがやいた。大貴族たる彼にとっても、この月さえかすませる秀麗な若者は、ひどく謎めいた魅力的な存在だったのである。

 

伯爵がDとメル・ゼナに対してもしや神祖の血を継いでいるのではという疑問を出す前に警報が鳴り響いた。伯爵は眼を空中の一点に据えて

 

「何事だ?」

 

と訊いた。頭の中に機械の声が広がった。

 

「西より飛行物体が接近中。高度一五〇〇、時速二〇〇キロ、気球船と思われます」

 

「迎撃して撃ち落とせ」

 

砦からミサイルは発射された。命中もした。彼方の闇に青い火の花が咲いた。それでも気球船は墜ちず、悠々と近づいてくるのだった。夜空を真紅の光条が切り裂き、飛行体を直撃した。レーザー・ビームと粒子ビームの乱舞であった。一〇〇メートルの岩盤を瞬時に貫くエネルギー照射も、気球船の突進を阻止はできなかった。次々に繰り出す手段もことごとく無効となり、砦の最上階にある戦闘指揮所でモニターを見つめる伯爵の渋面にもかかわらず、標的は砦の上空にさしかかろうとしていた。

 

「かくなる上は、あの船に乗り移って」

 

「わたくしも行きます」

 

手にした長槍をひとふりする伯爵とマントを変形させて翼のようにしたメル・ゼナの背後で

 

「好きにさせろ」

 

とDの声が言った。いつの間に、と眼を剥く伯爵へ

 

「向うも、神祖の技術を応用してある。無駄な攻撃をつづけるよりも、内部で仕留めるがいい」

 

「敵を砦内に入れるつもりか?バリヤーを張れば、誰も入れんのだ」

 

「その代わり、こちらも出にくくなる。放っておけば、ヴァルキュア自身が乗り出してくるかも知れん。あの二人を不必要な危険にさらすわけにはいくまい」

 

「もっともだな」

 

巨人は腕組みしてうなずいた。

 

「でもヴァルキュアが出てくる前に素早く刺客達を皆殺しにしたら問題ないと思いますが・・・」

 

メル・ゼナがそう不満を零した。

 

「砦内にも迎え撃つ準備は完璧だ。メカの手は借りぬ。この槍でどいつもこいつも串刺しにしてくれる」

 

それを伯爵は無視してにやりと笑った唇から、鋭い牙がのぞかせていた。約束の日が来るまで辺境の領地で人間に迷惑をかけずに隠居同然の暮らしをしていたとはいえ彼も貴族なのだった。

 

『砦』の敷地の真ん中に達するや、気球船は急速にしぼみはじめた。ガスを抜いたのである。原形を失い、皺だらけになりながら、しぶとく降下してくる全長一〇〇メートルの気球船は、奇怪な空中生物のように見えた。

 

「ふざけた奴めが――空気を抜いて降下するとは。見つけ次第、わしが仕留めてくれる」

 

気球船の残骸が神殿のすぐ前――大階段にも少し触れるように地上にわだかまるのを確かめ、伯爵は長槍を手に指揮所を出て行った。エレベーターへ向かって廊下を歩きながら、伯爵はようやく、指揮所にDとメル・ゼナがいなかったことに気がついた。

 

 

 

「敵はあの説教師じゃろうな」

 

左手の声は風に流れた。長い廊下をDは移動中であった。どう見ても石づくりの廊下は、しかし、かなりのスピードで前方へ流れた。別の方角へ行きたければ、廊下の交差点で別の流れに乗れば済む。

 

「コンピュータすら、説教に従わしめる男だ。人間などひとことで刺客に仕立てられるだろう。加えて、奴め、シグマの端末に乗り移られている恐れがある。このままでいくと、血の一滴も流さぬうちに、砦は乗っ取られるぞ。気がつくと、周りはみな敵じゃ。耳栓の用意はいいな?」

 

Dの耳孔をふさいだ栓は、クールベの言葉には効果があったようだ。キュリオの説教にも効くだろう。だが、キュリオに憑いたシグマの刺客には。死者を甦らせる能力は耳栓ひとつで防ぐわけにもいくまい。

 

「キュリオと分離すれば、敵は二人になる。ふむ、なかなかに厄介な話だぞ」

 

Dは答えない。戦闘指揮所を出てから十分以上が経過していた。彼は何処へ行こうとしているのか。さらに五分ほどして、それは明らかになった。流れる廊下は巨大な扉の前で停止した。扉の表面は滑らかな黒曜石のかがやきを放っているが、周囲の壁には、奇怪な生物や世界を描いた彫刻が飾られ、それが扉の無機質ぶりとその奥に潜むものの不気味さを強調していた。Dが辿り着いた場所は砦のシステムを管理する反陽子コンピュータ・ルームであった。

 

反陽子コンピュータに使用されている情報伝達物質は光よりも早いマイナスのタキオンとも言える不思議な物質で出来ていた。

そこでDは『砦』のシステムに侵入したシグマの端末と戦っていた。

 

「流石はシグマ。プロテクトも凄いの。こちらの方が伝達速度が早いはずなのに自壊せよという指示をブロックして既にいくつかの端末をこちらに侵入させてある」

 

 

そう左手が呟いた瞬間に白い水晶のようなコントロール・パネルを長槍が破壊した。

長槍でコントロール・パネルを破壊したのは伯爵に化けた砦のアンドロイドであった。

 

「治せるか?」

 

「わからんが━━やってみよう」

 

Dは左手を分離させてコントロール・パネルに置くと敵の術中にはまった伯爵もどきのアンドロイドとコントロール・パネル防衛戦を開始した。

 

「ところでマシューとスーの護衛はどうしたんじゃ?」

 

「メル・ゼナに任せてある。」

 

 

 

 

 

その頃、メル・ゼナはマシューとスーがいる部屋の前でキュリオの説教を聞いたのかシグマの憑依体に取り憑かれたのか分からないが電子脳が汚染されたもう一つの伯爵アンドロイドと戦っていた。

 

はぁ、本当にブロージュ伯爵はナルシストですね・・・幾つ自分そっくりのアンドロイドを作ったんですか?

しかし原作と違ってわたくしという貴族が増えたから外で戦わずに中に誘い込んで戦闘するいうD様の案はより正しくなったかもしれませんね。

こうしてマシューとスーから目を離さずに護衛することが出来ますから。

 

 

そう思いながら伯爵もどきが繰り出す長槍をメル・ゼナは翼で受け流しかわしていた。

パワーは充分、まともに受ければメル・ゼナを翼ごと貫き吹き飛ばす迅速さも兼ね備えた槍術であった。

だがいかに高性能のアンドロイドとも言えど貴族を完全にコピーするのは難しかったようだ。死力を尽くして限界を超えていた伯爵もどきだが体がついていけなかったようで両手が痺れた━━機能不全に陥ってしまってのだ。

その隙を見逃さずにメル・ゼナは流星の如く超スピードで自身の体を回転しながら突進で電子脳を貫いてアンドロイドを沈黙させた。

 

奇しくも倒したタイミングはDが伯爵もどきのアンドロイドを一閃して倒すタイミングと一緒だった。

 

 

 

「やったぞ!」

 

半ば溶けた水晶の上で、黒い手首が絶叫した。

 

「見たか”シグマ“━━これでおしまいだ、覚悟せい!」

 

 

 

 

 

近くで、地面が揺れている。巨大なものが近づいてくるのだ。歌って迎えようかと思ったが、身体も喉も動かなかった。地響きはすぐに熄み、何か巨大なものが、上から覗き込む気配が降ってきた。誰かが名前を呼んだ。

 

「カラス」

 

閉じていた瞼が、徐々に開きはじめた。

 

「そのお声は━━」

 

嗄れてはいるが、声も出た。

 

「ヴァルキュア様」

 

「いかにも、ヴァルキュアだ」

 

と声は言った。

 

「私のみではない。スーラもここにおる」

 

「それは……」

 

額に何かが触れた。手であるべきだと思う。しかし、それは虚無の大深淵の一部であった。

 

「よい、休め」

 

と声はやさしく言った。

 

「そこにいるのはキュリオか。ふむ、既に死んでいて体は今にも死にそうなシグマが動かしているな。スーラのエネルギーにしよう」

 

「・・・・・」

 

「Dに惚れて並び立って近くにいるメル・ゼナに嫉妬したか、あの美しさに━━隠すな、無理もない」

 

静謐といってもいい口調である。いたわりの精神もこもっている。それなのに、カラスは胸の底から湧き上がってくる不安と恐怖を抑え切れなかった。

 

「私も興味がある。既にメル・ゼナもDも、彼奴ら、あまりにも強すぎる。恐らくは、私の戦う最強の敵となろう。だが最後には私が勝つ」

 

途方もなく濃密で分厚いものが全身を包み、カラスは窒息しかけた。わかっている。ヴァルキュアの精神の「動き」そのものだ。

 

「故にひとたび死ね、カラスよ、クールベよ」

 

と絶対貴族の声は宣告した。

 

「そして、また生きよ。新たなヴァルキュアの刺客となって。その間に、私は砦内の奴らにひと泡吹かせてやろう」

 

闇がカラスの脳を埋めた。

 

 

 

 

 

「何だ、おまえは?」

 

伯爵は、指揮所に現れた巨大な影に声をかけた。影は足を止め、ふり向いた。

 

「ほお」

 

思わず声が出た。伯爵とほぼ同じ体格を、影は戦闘士の定番ともいうべきブルーのシャツと黒いベストに包み、腰のベルトからひとふり━━長剣をさしていた。スラックスも、手袋も黒だ。

 

「何者だ?」

 

「スーラと申します」

 

巨漢は両足を揃え、軽く頭を下げた。眼だけは伯爵から離さない。

 

「ヴァルキュアの七人のひとりだな?」

 

その名に記憶があった。

 

「さようでございます。あなたはブロージュ伯爵様。ちょうど、ようございました。ミサイルの爆発に乗じて侵入しましたものの、肝心の子供たちがどこにいるか、わかりかねていたのです。お教え下さい」

 

「ふむ。嫌だと言ったら?」

 

「やむを得ません。剣にかけて」

 

巨漢の右手に刀身が光った。いつ抜いたものか。ヴァルキュアの七人━━最後のひとり、スーラ。ここで大貴族とまみえる。

 




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