目次
第18章「バスルーム」
「なぁ、あんたはここ調べたのか?」
「いえ、そちらはまだですね。」
「もしかしたらこの棚の中に鍵があるかも知れないっすね。」
…洗面台、洗濯機、カゴ、棚。
別におかしなもんはねぇな。
まぁ、どれも綺麗なのが不気味だけどな…
「…洗面台の水道管にも洗濯機にも汚れはありませんね。」
「
棚の引き出しは3つか…
中にあんのは…紙切れだけか。
「おい、メモがあったぜ。」
「何が書かれてるんすか?」
「あぁ、広げるぞ。」
確か…アイツの予想があってたらコレで最後のメモか…
『記録No.1 6月20日 禁域観察開始時刻 午前12時
記録者 マーリン
このメモに禁域調査手記とは別に、私を含める調査員4人の状況と私の簡単な推察を記録する。
家の中に入ってから1時間が経ったが、調査は順調に進んでいる。
しかし、調査員の精神状態はあまり良くなさそうだ。
この家に入った瞬間、私達は同時に何者かの視線を感じたのだが、それからというもの私以外の皆の様子がおかしい。
調査に異常をきたす程の症状は無い為、調査を継続するが彼等の言動に注意する必要が有りそうだ。
私に何か異常が現れても正しい情報が残るように、このメモは後2回だけ書く事にする。
No.3より後のメモが見つかった場合は、私が発狂して書いたものとして扱い、そのメモの内容は無視して欲しい。』
6月20日って事は…確か今日が7月4日…14日前か。
「なんか…今までのメモより1番分かりやすいですね。」
「そうですね。そして、このメモに書かれていた通りNo.3までのメモしか書いていないのなら、これで全てのメモを集めたことになりますね。」
「確かにそうなんだが…何も役に立つ様なもんは無かったな…コレもあんたが持っててくれ、考えるのは得意だろ?」
「はい、任せて下さい!」
「もう調べられる所は調べましたよね…」
「じゃあ、こっち開けるんすか。」
「そうするしかねぇだろ。」
「ですよね。」
「それでは、私が初めに突入するので、皆さんは念の為に下がっていてください。」
「じゃ…じゃあ鍵を渡しますね。」
「はい、ありがとうございます!」
てかスイッチが無ぇ風呂場って何だ?
中は真っ暗なんじゃねぇか?
「皆さん準備はいいですか?」
「OKっす。」
「OKだ。」
「はい、大丈夫です!」
「それでは開けますね…3…2…1!」
…真っ暗で中が見えねぇな。
普通こんなに暗いもんか?
「何も…見えないですね。」
「少し待ってて下さい…今ペンライトを…ありました!つけてみますね。」
…?
「なぁ…それ、壊れてねぇか?」
「いえ…恐らく…光が吸収されているようですね。先程、鍵穴を調べる際は問題なく明かりがついていたので…」
「そ…そんな事がありえるんですか!?」
「まぁ…ここ何でもありっすからね。」
「見えないことも無いが…本当にうっすらとしか…あんたはどうだ?目が良いんだろ?」
「私が見える範囲には…人が隠れられそうな場所は1つしか見当たらないですね…シャワーも蛇口も浴槽も有りませんね。」
「そんなに見えるんすか?」
「はい、それと…この部屋は…空間が歪んでいるようですね…」
「は?それは…どういうことだ?」
「明らかに間取りが大き過ぎるんです…このバスルームの大きさは廊下のある位置まで広がっています…」
「な…なんか…ここまで来ると真面目に考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきますね…」
「それで、人が隠れられそうな場所ってのは?」
「このバスルームの一番奥に、とても広いプールのような…浴槽を広く引き伸ばしたような物が有ります。」
「…奥まで行って調べるしかねぇか。」
「ここは私が1人で調べて来るので、皆さんは待っていて下さい!」
「それはダメ…だと思います!」
「え…?何でですか?皆さんには何も見えないので危険だと思うのですが…それに、すぐに戻ってこられますよ?」
「確かに…ジョゼフィーヌさんよりもはっきり風呂場の中が見える訳じゃ無いんですけど…何かあった時に手助けできる距離には居た方が良いと…思うんです!」
「そうっすよ。」
「確かにそうだな…俺達はあんたみたいに訓練を受けてる人間じゃねぇ。訓練を受けてるあんたがやられるなんて事があったら…俺達が
「そうですね…では、私の後に着いてきて下さい。ですが…何も出来ないと思ったり、怪我を負ったらすぐに
「あぁ、俺達はそこまで馬鹿じゃねぇ。そん時はそん時だ…だろ?」
「はい!足でまといにはなりません!」
「やれる事はするっすよ。体強いんで。」
「ふふっ…頼もしいですね!では…行きましょうか。」
バスルームの間取り
第19章「水面に映るのは」
バスルームの中へ足を踏み入れると、ブーツの靴音が響くことも無く深い闇の中へと静かに消えていった。
…光だけでなく音までも吸収されるのだろうか?
部屋の中の暗闇に目が慣れると、私にとっては少し薄暗く感じる程度のものとなり、中の様子を問題無く把握する事が出来るようになった。
床は
中の広さは外から見た時よりも遥かに広く、今いる入口から1番奥の壁まで80m程は有りそうだ。
「い…いざ中に入ってみると…外から見た時と同じ様に見えるって……本当なら外から見た時よりももっと暗くなるはずですよね?」
「ちょいと不気味だが…俺達にとっては好都合じゃねぇか?…なぁ、あんたが話してたプールみたいなの以外に何か見えたか?」
「いえ…やはり何も有りませんね。ところで、床と天井が濡れているので滑らないように気をつけてくださいね!」
「てか…本当に変な感じがしますね…外から見た時と中の広さが合わないって…今までも変な事ありましたけど、ここだけ明らかに物理法則無視してませんか?」
「なぁ、まぁまぁ歩いたんじゃねぇか?…あとどんくらいでプールに着きそうなんだ?」
「ここからあと約40m程ですね。」
「結構広いっすね。」
ここには本当に何も無く、私たち以外には何も居ないということは分かっているが…なぜか、妙に緊張してしまう。
いつもならクリアリングが済めばある程度は警戒を緩めるのだが、この部屋の異常さに対して無意識な内に恐怖を感じているのか、何も無いのに周囲を見渡してしまう。
「なぁ、もうちょいか?」
「はい、目的地まであと約10m程です。」
「結構…歩きましたね。」
なぜだか分からないが、目的地に近づく度に感じている緊張感やざわめきが大きくなっていく。
目的地まで後5m…
「ここまで来たらもう見えるな。もう少しだけ近づこうぜ。」
「いえ、待って下さい。念の為に私より前に出ないようにして下さい。」
「じゃあ、俺達はここで待機しときましょうか。」
近づいて分かった事だが、このプールの様なものの外見はテルマエに近いものだった。
これも壁や天井と同じように朽ちた大理石でつくられていて、外見だけ見ると本当に古代ローマのものではないかと思うほどに古く、異質な雰囲気を
やけに中の水が黒く
…ん?
何か…白く光る物が…
「皆さん、何かが有りましたよ!」
「あぁ…本当だな。」
「でも…この中に手を入れるんですか?」
「……これは少々危険ですね。」
「え…星次さん何やってるんですか!?」
彼は自分の髪を1本抜いて、引き抜いた髪を濁った水の中に入れた。
「…髪入れて何も起きないって事は、手突っ込んでも溶けねぇってことだよな。」
まさか…
「星次さん!待って下さい!!」
彼は自分のジャケットの袖を捲り、医療箱を床の上に置くと、右腕を水中に入れた。
「え…えぇえ!?ちょ…ヤバいですって!」
「いや、結局こうするしかねぇだろ?だったら武器持ってねぇ俺が……!?」
私は言葉を出すよりも先に身体が動いた。
何が起きているのかは正確に分からないが、彼の体の傾き方から確実に分かったことがある。
それは、
私は急いで彼の右腕を掴み、後ろへ引っ張った。
「皆さん!手伝って下さい!流輝さんは水面を見て他に敵性個体が出てこないか見張ってて下さい!」
「あ…はい!」
「春喜さんは星次さんの腰を後ろから引いて、星次さんが引きずり込まれないようにして下さい!」
「OKっす。」
「クッソ…何なんだよコイツ!!」
「腕は大丈夫ですか!」
「あぁ……今は引っ張られてるだけだ!…コイツどんだけ腕の力強いんだよ!!」
どうするべきだ?
銃とカッターは使えない…水が濁っていてターゲットが補足できない上に、彼の腕に当たれば一大事だ。
おおよその位置を撃ってみるか?
いや…相手の情報が無いまま銃撃するのは
「おい…あんたのカッター貸してくれ!」
「で…ですがそれは…!」
「自分の腕の場所は…俺が1番分かってるに決まってんだろ!!…さっさと貸してくれ!!」
「分かりました!」
「ちくしょう…利き手じゃねぇが…やるしかねぇよな…!しっかり俺の体掴んでてくれよ?」
彼は左手でカッターを逆手に持つと自分の右腕の近くの水面に全力で振り下ろした。
次の瞬間、彼を引きずり込もうとしていた何かの力が突然弱まり、危うく後ろへ倒れかけた。
「皆さん!だ…大丈夫ですか!!」
「腕を見せて下さい!」
私はすぐに彼の右腕に怪我が無いか確認した。
「こ…これは…」
彼の腕には…少し長い爪がくい込んだ痕と、
「…何だよこれ。」
考えるのは後だ。
「腕は動かせますか?」
「…あぁ、大丈夫だ。」
幸いな事に彼の腕に大した傷はなかったが、擦りむいたように赤くなっている部分があり、小さな傷ができていた。
「血が…今すぐに止血を!春喜さん、医療箱を持ってきて下さい!」
…?
急に周りの闇が完全に無くなった…?
視界に映るものがより鮮明に見えるようになったような…
それに…いつもより頭が
「なぁ…あんた…目が…」
「医療箱っすよ。」
「腕を動かさないで下さいね…」
小さな傷でも止血は絶対に行わなければならない。
…良かった、医療箱の中にエタノールも入っている。
「アルコール系の消毒液を使用して
「いや、ねぇ。」
「少し痛みますよ!」
「あぁ…っつ!」
「包帯を巻きますね…もう大丈夫です!」
「…あぁ助かった。にしても
「医療箱持ってきてから10秒も経ってないっすよ。」
「今は話している場合ではありません、構えて下さい!敵性個体が水面に浮上してきます!」
「あ!本当です!!何かが……」
水面が大きな波を立て、水が床にこぼれ落ちる。
水面から両腕が飛び出し、身体を支えようとしている。
その腕は灰色に近い、薄い青色の肌で、大量に鱗が着いており、手には水掻きと爪がついていた。
指と思われる部分は円錐状で人間のものとは程遠いものだった。
片腕には傷を負っており、その傷口からは赤い血が流れていた。
そして、
それは、紛れも無い怪物だった。
あとがき
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!
この物語はあと6章で完結します。
現在、第二部の方も執筆中ですので、第一部の投稿が終わってもすぐに投稿できると思います!
感想・コメントもお待ちしております!
次回もお楽しみに!
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