かなり悩んだけど、投下しようと思った次第
少しシンとカズイの昔話が含まれています
予めご了承ください
「おい、カズイ!」
シンは自分の前を黙って歩く兄と慕う人物に声を掛けた
…だが、どうした事か彼は振り返らない
何か自分が彼を怒らせるような事をしたのだろうか?
そう考えるがシンに心当たりはない
理由も分からずに謝るのは簡単だ
しかし目の前を歩く人物は
「…なぁ、どうしたんだよ?」
シンは弱く少し戸惑った声で兄に尋ねるだろう
だがそれでもカズイは脚を止めないし、此方を振り向く事もしない
「待ってくれ!
なんで、なんで俺を置いていくんだ!」
シンは無我夢中で走った
そして
「うわっ!」
ビチャッ
そんな音が地面に手をついたシンはする事に気づくのだ
その手を思わず見るだろう
「…え?」
その手は赤く、いや紅く染まっていた
目に映える様な鮮烈な赤ではない
それは少し
そう、それはまるで
人の血の様にシンには思えたのだ
そして漸くシンは疑問に思うだろう
その血はなぜシンの手についたのか?
を
「そう言えば、カズイ、は?」
シンは思わず口を閉ざす
何故ならば、倒れたシンのすぐそばに彼がいたのだから
倒れ伏し、おびただしい血を流しながら
「何でだよ、何でアンタがっ」
シンは半狂乱になりながらも必死に兄の血を止めようとするだろう
だが、止まらない
「なんでっ、どうしてとまらないんだよっ!!」
シンはそれでも兄の手当てを止める事はない
…まだ、微かだが兄の身体に熱が残っているのだから
しかし現実というのは時に非情なもの
「ま、待ってくれ!」
シンは兄の身体から急激に体温が失われていくのを理解してしまうのです
そしてそれは兄の死と同義である事も
「お願いだ、俺とマユを置いていかないでくれ」
シンの脳裏にカズイと過ごした日々が思い出されます
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「お、シン。今日はお残しなしか、偉いぞ」
はじめてごはんをのこさずたべたとき
「シン!喜べ、お前に妹が出来るんだ」
「いもうと?」
「そうだ。お前もこれからお兄ちゃんになるんだ。良かったなぁ」
「?でも、ぼくかずいにいちゃんじゃないよ?」
「っっ!
はっはっは、そうだな。大丈夫だシンは強いし優しいから俺よりも良いお兄ちゃんになる」
「かずいにいちゃん、ぼくのおにいちゃんじゃなくなるの?」
「んな訳ないって
シンと生まれてくるシンの妹のお兄ちゃんだ!」
まゆがうまれるときも
「何?シンが俺とちがう?
そりゃそうだろうよ?同じ人間なんて誰一人いない
…たとえ遺伝子が全部同じだとしても、一人一人違うのさ」
「そうじゃなくて、俺はコーディネーターだから」
「あっそう
…それで?」
「え?」
「いやだから、それがどうしたってお兄ちゃんは聞きたいんだが?
え、それとも何?シンは刺されても傷つかなかったり、生身で深海に潜れたり、宇宙に行けたりするの?」
「いやしないけどさ」
「あらそうなのか
じゃあ別にどうでも良いよね?」
「いやほら、何かあるだろ?」
「無いが?
それとも何か?まだミルク飲んでたころのシンのおしめとか換えてた時の話でもするか?」
「…いやそれは別に良いんだけど」
「あのなぁ
勘違いするなよ、シン」
「え?」
「俺もお前もマユもおじさんもおばさんも、俺の親父もお袋も
誰も一人じゃ生きられん。だから他者と繋がっていかなきゃならん
…んで、お前がコーディネーターなんて事俺はお前が生まれた時から知ってたけどお前はどうなんだ?」
「…俺が?」
「そう。お前はナチュラルである俺の事をどう思うよ?」
「どうって、そりゃ。変わり者だと思うけど、頼りになる兄貴だとも思ってる」
「ならそれで良いじゃないか」
「…そうかな?」
「……ふむ、どうやらシンは色々考え過ぎだな
よーし久しぶりにカズイお兄ちゃん頑張ってシンに歴史を教えるぞぉ!」
「マジかよ」
「マジだよ」
俺が自分がコーディネーターだって悩んだ時も
いつだってカズイは
俺の大切な兄は俺を見守ってくれた
なのに
なんでっ!
「カズイ!
死なないでくれ、なあっ!」
シンの必死の呼び掛けにもカズイは
いや、カズイと
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「うわああっ!!」
シンは勢い良く飛び起きた
「…随分と勢い良く起きたものだな
が、顔色が良くない。大丈夫か、少年」
「あ、え?
…夢か」
シンは声をかけてきた人物にまで気を回す余裕がなかった
何せ兄と慕うカズイが死んだ悪夢を見たのだから
「…幾らなんでもミナ様を無視するのは感心しないぞ、少年よ」
「え?」
シンが目を覚ましたのは見るからに高そうなソファーの上
そして、オーブの軍服を纏っている気難しそうな男性と黒っぽい服を着ている長身の女性がいる事に気が付いた
「…すみません
少し気が動転していたみたいで。…俺はシン・アスカといいます」
「いいか、シン
挨拶は大事だ。それこそ相手に先を越されたら負けたと思え
…そのくらい大切なものなんだからな」
と散々
勿論マユもだ
なので、近所の特に高齢者からアスカ兄妹(カズイ含む)はとても人気があったりする
「ほう、君がシン・アスカか
という事は兄君とはカズイ・バスカークの事なのだろうか?
…いや失礼した。私はロンド・ミナ・サハク
オーブの五大氏族のひとつサハク家に属する者だ」
「私はミナ様の護衛を務める者だ
先程の無礼許されよ」
「あ、いえ別に構わないですけど
というかサハクさん、カズイの事を知っているんですか?」
「…知っているも何もこのオーブ本国では割と有名な話だぞ?
まぁ名前まで知っている者はそういないだろうがな」
目を丸くして質問するシンにミナは苦笑混じりの表情で答える
「はぁ」
事実、オーブに不法入国したブルーコスモス過激派の襲撃をまだ年若い少年が阻止した
というのは中々にセンセーショナルな話題であった
「いやぁ、うちの跳ねっ返り達がすみませんねぇ
…ところで、彼等を退けたのがナチュラルだと言うのは本当なんですか?」
と当時ある人物直々に問い質された事があったそうだ
とはいえ
「…さて、どうでしたかな?
申し訳ありませんな、理事。なにぶん私も高齢なものでして最近物忘れが酷いのですよ?」
我等の父がその程度に屈する訳もなかった
そしてあっさり父コトーは家督をギナに譲り、今となっては今なお実権を持つウズミ・ナラに対する牽制を行なっているのだ
…民草の事に然程興味を持っていないウズミ・ナラどもにはこれがどれだけの事かすら理解していない様であるが
「サハクって軍の、ですよね?」
「そうだ。確かに我等は軍の中に支持者が多い」
「カズイは言ってました
アスハは夢ばかり見る
サハクは現実優先だと」
「…なるほど」
やはりカズイ・バスカーク
逃すには余りに大き過ぎる大魚だったか
私は言葉にこそしなかったが、自分達の遅さを悔いた
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特にオーブ軍に所属するか、関係するコーディネーターにとって目の前の少年とカズイ・バスカークの関係は本当に心から羨む関係だったとも聞いている
私とて、もしその様な人物が身近にいたのであればたとえギナや父が反対したとしても何としても側に置いただろう事は疑問を挟む余地などない
理解者を得るのに苦労するコーディネーター
しかも生まれたその日からの理解者ともなれば、それこそ親と同等の信をおける事だろうからな
その上我等コーディネーターがどうしても軽視しがちな過去の歴史についてかなり深い知見を持っていると聞く
これで重用しないならば、その者の見る目がないとすら思っていいだろう
「いや、それはおかしいと思うけどなぁ」
そんなミナの思考をシンの呟きが遮った
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(俺がどれだけ他のコーディネーターからすれば恵まれた環境にいるかなんて、俺自身が一番よく知っているさ)
だが、それでも
シン・アスカにとってカズイ・バスカークという人物は
いや少し言い方を変えなければ誤解が生じる事だろう
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「なぁ、カズイ」
「?どした、シン」
ある日の事だ
シンはいつも思っている事を兄に聞いてみた
『わからない事は聞け。決して1人で考え込んで結論を急ぐな
だが他人の意見に惑わされる事なく、常にそれが正しいのか考え続けろ。人の意見は参考にするべき点とするべきではない点がある
それを忘れるな
お前は人間だ。誰かの
と
矛盾だらけの言葉であった
…だが、その矛盾を解決する為には己が『知る』事を止めてはならない。
カズイの言葉は割と個々を切り取ってみると意味不明な事が多い
だが、兄の言う事や自分で知った事を繋ぎ合わせてみてその意味が漸く理解出来るものが多いのも事実
『この世界にはそう言った意味での反面教師に事欠かない
思考を止め、武力に訴えたもの
感情のままに己達の未来を閉ざす選択をした事すら解せぬもの
己が思想に酔い、周りからどう思われるのかすら理解できぬ、しないもの』
『聞けば答えが分かる
それはそうかも知れん。それは確かに手早く確実だ
だが、数式の答えは一つであっても、人生の答えは一つではないんだ
…シン、お前のこれからの未来に必ず『選択する』と言う事が多々あるだろう
その判断材料が他人任せばかりでは不安にならないか?情けなくならないか?』
カズイはそう言った
「負けるな、シン
たとえ平和であったとしても、それがいつ破られるのかなんて誰にも分からんのだから」
口にはしないが、もしカズイを誰かが否定したらシンはその人物と話し合わねばならない
…その人物の安全の為にも
因みにもしシンの妹であるマユがそれを聞いた場合、間違いなく相手は
余談ではあるが、マユとしてはカズイのファッションを控えめにして『私だけの
自分の妹ながら、どうしてこうなったのか?
と時折溜息をつきたくなるのも悲しい事に事実だった
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「違うとは、どういう意味か?」
「多分サハクさんはカズイの事を評価しているんだとは思うんです
…けど、カズイだって出来る事と出来ない事があると俺は思う」
ミナの問いかけにシンは迷いながら、しかし彼女から目を逸らす事なくハッキリと話す
ミナは護衛の者にさりげなく視線をやると
彼はゆっくりとだが、確かに頷いた
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「今日は実に実り多き話が聞けた
やはり当事者から聞くのと第三者からの話では違うものだな」
「あー、いやその
…すみません」
護衛の者が運転するエレカでミナはシンを自宅まで送り届けると言い、シンは
「そこまでしてもらわなくても大丈夫です」
との押し問答があったが、結局ミナが押し切った形となった
「…何か情報が掴めたならば、すぐに知らせよう
シン・アスカ。お前との縁、これっきりにするには少しばかり惜しいからな」
「はぁ
えっと、今日はありがとうございました」
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「…どう見る?」
シンを送り届け、行政府に戻る途上ミナは車を運転する護衛の者に問いかけた
「中々のものかと
…車に乗ってからも外に対する警戒を怠っていない様に私には見えましたからな
鍛えれば恐らく相当なものになるのではなかろうかと」
「ふむ
コーディネーターとナチュラルの架け橋となり得る少年にその少年を兄と慕う優秀なコーディネーターか
さぞやプラントの連中がこれを知れば悔しがるな」
「それとも発狂するかも知れませぬぞ、ミナ様」
護衛の者の珍しい言葉に
「…ふ、そうやも知れぬな
アレらにとって、ファーストコーディネーターの目指したものというのは決して無視できぬもの
それを自陣営どころか、居住地を潰した所から出てくるなぞ悪夢でしかなかろうよ
無事であって欲しいものだがな」
ミナも苦笑混じりで同意する
「ヘリオポリスの脱出用のポッドは多いと聞きます
キチンとした誘導がなされていたら問題ないのですが」
「さて、突然のザフトからの攻撃だけならばいざ知らずだ。自国の工場からMSが出てきたとなると状況が分からなくなったとしても不思議ではなかろうな」
「そうですな」
モルゲンレーテによる共同開発は此方から申し出た事であるし、大西洋連邦側としても我々の膝元であるオーブ本国での開発など、いつ情報が抜かれるかも知れないと気が気でないだろう
故にこそ、ヘリオポリスが選ばれた訳だが最悪の方向に歯車が噛み合ってしまったなどと言うのは流石のミナにとっても頭の痛い話だ
「確かギナが動いていた筈だが、流石にそれは言えぬからな」
「…仕方ない事かと
どの様な事情があったとしても、我等のした事が間違いなくオーブ国民を不幸にしたのは事実ですからな」
「…そうだな
私とてそれを否定する気はない」
オーブの中立を守る為にはどうしても他国が攻めて来られないだけの
攻めてきても容易く落とせず、相手との戦いに支障が出る程度の
戦力が必要なのだ
…正確には『必要となった』だろうが
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ウズミ・ナラがまだオーブの代表でいた頃に行なった
それが今のオーブの窮状に繋がっているのだ
誼は結びたい
でも、紛争などの解決には一切協力しない
そうはっきりと言われて、それでいて誼を結ぼうとする物好きがどれだけいようというのか?
プラントとプラント理事国の対立はどうしようもないところに来ていた。であれば、オーブがすべきはプラントとプラント理事国の間に立って交渉の仲介役になるべきではなかったか?
今のオーブはプラントからすれば敵性国家にしか見えず、仮にオーブの企みが露見すれば大西洋連邦もまたオーブを敵性国家と見做すだろう
オーブがもう少し力のある国家であればよかったのかも知れない
だが、仮定の話などに意味はない
そして慌てて行なったその行動のツケをヘリオポリスの住民達が支払う事となったのだ
国を守ろうとして、国民を犠牲にする
まるで自分達が忌み嫌う男の様ではないか?
「ヘリオポリスの情報収集を急がせろ
必要ならばアメノミハシラから艦隊を派遣して、脱出用のポッド回収をさせる」
「…直ぐ手配します」
ミナはそう指示すると
「…重いな」
そう憂鬱そうに呟いた
という訳で、ロンド・ミナと誼を通じましたシンでした
なお、これからしばらくしてカズイによる暴露通信の事をミナやギナは知る事になるでしょう
「…どうせよと、いうのだ」
「中々面白い事を思いつくものだ
ミナ。貴様が使わぬというなら私が使ってやっても構わんぞ?」
なおカズイは完全に大西洋連邦に取り込まれる事を狙われている模様
本作のヒロインは?
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大天使ナタル
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妹系少女マユ
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フレイ
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猪突猛進娘カガリ
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キラ
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シン
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その他