あるのは虚しく冷たい世界のみ
「くっ、何があったんだ?」
医務室にて休まされていたアスランは不気味なほどに動きのないレセップスに違和感を覚えた
北アフリカにおいて地球軍が攻勢に出てきた事は他ならぬアスラン達がその身をもって理解している
ならば、それに対して動かねばならないはずだ
特にこのバルドフェルド隊はザフトの北アフリカ戦線における要なのだから
だが、アスランが艦内を歩いていても一向にその巨体が動く事はない
もし、ここでアスランがもう少し戦場慣れしていたなら、気が付いただろう
バルドフェルド隊に所属するピートリー級ネームシップピートリーとヘンリーカーター
その2隻の姿が見えない事に
バルドフェルドは悪化する戦況に何とか対応すべく、ピートリーとヘンリーカーターをそれぞれの戦線に投入した
両艦とも最早
…だが、その時点でバルドフェルドの判断は甘かったと言わざるを得ない。相手は『更地を作り出す空の悪魔crazy』の編隊なのだ
一部の軍関係者からは
「crazyの後に種を蒔けば畑になるのではないか?」
とすら冗談めかして言われるcrazyによる地上掃射の雨
イージス、デュエル、バスターというPS装甲を持っている機体ですら満足な抵抗を許さない無慈悲な空の女王なのだ
アスランは運が本当に良かったから、軽傷ですんだ
イザークとディアッカも運は悪くなかっただろう
もし、本当に運が悪ければ
いや、ユーラシア連邦軍がGの残骸の存在すら許さなかったならば、crazyの後に控えていた貫通弾の雨により彼等の命は失われていたのだろうから
----
なお、ザフトに協力していたアフリカ共同体政府はユーラシア連邦軍に対して全面降伏を申し出ている
ユーラシア連邦軍司令部はそれを受諾した上で、『国内の不穏分子に対する適切な処置』を行なう事を共同体政府に認めさせた
それは言うまでもなく、オーブからの支援を受けながらザフトに対して抵抗運動(という名のテロ行為)を行なっていた『明けの砂漠』
武力による紛争解決は正規軍の専任事項であり、そうであるからこそ正規軍には様々な制約が課せられる
だが、市民の中に潜みながら敵に銃を向ける
それは守るべき市民を盾にした卑劣極まる行為でしかない
その様な行為を認めたとあれば、間違いなく要らぬ禍根を残すだろう
故にユーラシア連邦軍はその様な者達を生かすつもりはなかった
…そんな者達を匿う者達も
「支配に抵抗するのは結構な事だ
…だが、銃を手にするということがどれだけ恐ろしい事なのかすら理解出来ない者達にそれは危険なのだよ」
ユーラシア連邦軍はタッシルに対する空爆を実行する1時間前に警告を発した
だが、それが彼等のした最後の慈悲
更にアフリカ共同体の正規軍に対してはタッシル周辺の封鎖を要請しており、彼等に逃げる場所はなかった
そして、タッシルは火の海に沈んだのだ
----
勿論そんな事をアスランが知るわけもなく、今の状況を知るべく彼は艦橋へと向かったのだ
そこに絶望が待っているとも知らず
「…そ、それは」
「…アスラン・ザラ
来たのかね」
そのバルドフェルドの言葉はまるで『来てはならない者が来た』と言った一種の諦観すら含まれている様にアスランには聞こえた
『ザラ?
これはこれは驚いたものだ、砂時計の狂人の1人パトリック・ザラの息子がこんな所にいるとは』
アスランの姿を認めた通信先の相手は笑う
アスランはその笑みを見た瞬間怖気を感じたのだった
----
『君の父上達の考え方は我々地球のコーディネーターには心底理解し難いよ、アスラン・ザラ
君もまたユニウスセブンで母を失ったのだろう?
その君が自分と同じ様な境遇の人間を増やすとは
…いやいやこれだから砂時計の人間は度し難い』
「…どういう事ですか?」
アスランはラクス救出の際、相手の言葉に反論しなかった事で味方であるザフトの士気がどうしようもない位におかしな事になったのを覚えていた
だから、このまま相手の言葉を黙って受け入れるべきではない
(ふ、青いな。おおかたラクス・クラインの時の事を思い出して聞き手に回るのは危険と見たのだろうが
それこそ真にこの策の悪辣な所だという事には気づかなかったか
…いや、どうやらバルドフェルド隊長は気付いた様だな。残念だが手遅れだよ)
艦隊司令を務める人物はアスラン達の反応を見ながら、薄く笑った
----
『どういう事か?とは
…これはこれは傑作だ!
君達は自分達の住んでいる大地が脆い事を理解しているのだろう?
では聞きたいがね?
君達はヘリオポリスを攻撃する前に事前通告をしたかね?』
「事前、通告?」
アスランは戸惑った
『おや?ヘリオポリスは大西洋連邦軍の拠点ではなく、オーブ連合首長国のコロニーだが?
そこに住んでいる人達の殆どは明日も普通に過ごせると信じていた者達だ
…おや?何処かで聞いた様な言葉ではないかな?アスラン・ザラ』
「…あ、ああ」
アスランの脳裏に父の言葉が思い返される
『ユニウスセブンで生活していた者達は明日をまた同じ様に過ごせていた筈なのだ!
それを卑劣なるナチュラル共が核で壊したのだ!!』
『君達からすれば、大西洋連邦軍の新型を奪うだけだったのだろう
が、奪われる側とて奪われたなどという事が認められる訳もないだろうが!
コロニー内で戦争すればどうなるかなど分かりきったものだろう!…しかも対拠点攻略用の装備まで引っ張り出しておいて、何がユニウスセブンの悲劇か!
貴様らが同じ様な目にあった人間を増やしておいて!それで正義などと良く吠えたものだな!』
アスランは今更ながらに漸く理解した
親友であるキラが何故大西洋連邦軍に属して自分達と敵対していたのか?
自分の言葉に耳を全く傾けてくれないのか?を
『遊び半分で戦場に出ているお前たちザフトと我々は違うのだ
我々は市民の命を、生活を脅かした明確な脅威であるプラントのコーディネーター達を
あの忌々しい砂時計諸共過去のものにせねばならんのだ
…そして我々もまたナチュラルへと回帰する
それが我々地球に住むコーディネーターの願いなのだ!』
『…もう良かろう、中尉
さてアンドリュー・バルドフェルド隊長
君達がこの地球でどう思われているのかについて、これ以上レクチャーは必要かね?』
「…いや何も言う事はないな」
『では早々に武装解除したまえ
…安心すると良い。我々は軍隊だ
捕虜にはそれなりの扱いを約束しよう』
「…感謝するよ」
バルドフェルドは肩をすくめながらそれでも最低限の礼儀は忘れなかった
『君はケバブやコーヒーが好きだと聞く
…同好の士として、別の形で会いたかったものだよ』
そう言って通信は切れた
「聞いた通りだ
我々はユーラシア連邦軍に降伏する。皆思う事はあるだろうが、飲み込んでもらう
それが軍隊というものだからねぇ」
その日、ザフト北アフリカ戦線は崩壊した
と、言うわけでバルドフェルド隊は捕虜となりました
彼等にはもう少しだけ役割があるのですが、それは少し先の話
本作のヒロインは?
-
大天使ナタル
-
妹系少女マユ
-
フレイ
-
猪突猛進娘カガリ
-
キラ
-
シン
-
その他