勘弁して、ほんとマジで   作:鞍馬エル

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閑話
 

皆大好きなあの人が出るよ


 extra phase 変わりゆく世界

「オーブもひとまず収まった

そう考えて良いのではないかね?アズラエル理事?」

 

「そう簡単にいきませんよ

あの国にアスハの思想は染み付いているんです。しかも面倒な事に国防を担う者達の間でね?」

 

「…面倒な事だな」

軍需産業複合体、通称『ロゴス』の会合の席で彼等は今後の方針を決定する為に代表であるアズラエルへと事態の確認を行なった

 

彼等としては損切りを良しとした以上、早々にこの騒動を終わらせて歪な形となった経済活動の正常化を望んでいたのだ

彼等は誤解される事が多いが、軍需産業にも確かに出資しているし企業を持ってはいる

だが、彼等の求めるのは『安定的な利益』であり、まかり間違っても『戦争特需』などといういつ終わるかも知れない不安定なものに頼るつもりは毛頭なかった

 

そうであるからこそ、彼等は『プラント理事国』のスポンサー(出資者)としてプラント建設にもかなりの資金を投じている

 

 

「戦争で利益を得る?

それはどんなフィクション小説ですか?

確かにそういった企業もあるでしょうが、軍需産業一本で食っていけるなんていくらなんでも夢を見過ぎですよ

軍需産業をしつつも、その一方でそれによって得た技術やノウハウを使って民生品も生み出さねば企業として生き残れません」

 

特に彼等ロゴスは企業経営のみならず、資金を動かすつまり出資などを行なう事で経済活動の調整を行なう役割も担っている

 

 

故にこそ彼等にとってこのプラントと地球の武力衝突など早く終わらせてもらいたいものでしかなかったといえるだろう

 

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「しかしオーブはまだ収まっておらんのか?

あの頑迷なウズミと傀儡のホムラは除けたのだろうに」

 

「オーブ国防軍とて、サハクが掌握しているのではないのか?」

 

「残念ですが、そう上手くはいっていませんよ

勿論サハクを中心としたグループが行政府の首脳陣を拘束しましたが」

 

「…頭を抑えた事で逆に制御し切れなくなる

そういう可能性がある、と?」

アズラエルの言葉に各員は最悪の可能性を想像する

 

「カガリ・ユラを神輿とした軍事独裁政権、か?」

 

「あり得ないとは言えませんね

ウズミの理想はあくまでも『オーブ一国』を見た場合の事

国際情勢なんて一切合切無視した絵空事でしょう。…ですが、それを良しとする者もいるのでしょうね、度し難い事ですが」

 

「…力無き市民ありきの立場を忘れた軍人や政治家か

悪い冗談にも程があろう」

 

「我等もよく忘れそうになる事ではあるが、我々だけでは何の意味もない

生産者だけでもダメなのだ。生産者、消費者。その2つのバランスが適正に保たれているからこそ商売となるのだ

…だが、国家はそうではない

市民ありきの国家なのだ。市民を守るという責務を忘れ、自分達の理想に邁進する軍隊などというものは犯罪者にも劣ろうよ」

 

彼等ロゴスにもルールがある

『自分達もまた人である』

それを忘れない事だ

 

命を悪戯に弄ぶ様な事や、戦争や紛争を誘発しない

彼等は経営者であり、投資家なのだ

 

 

それらは人が居なければ成り立たない

偶にそれを忘れる者が現れる事もある

 

その場合は不幸な事故(・・・・・)に遭ってもらうだけ

 

 

「我々は常に誤解を受けやすい立場なのです

それを自覚して行動出来ないのなら、それなりの対応をするしかないでしょう?」

 

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「しかし、少し前までは此処まで早くプラントの連中を地球から叩き出せるとは思わなんだな」

 

「最近では旧世紀のデータベースをひっくり返すのが日常的になりつつあると聞く

その上で新兵器の開発も平行して進めている

…結構な事だ」

 

「しかし、こうなるとアラスカに敵を引き込んで敵を殲滅するという総司令部のサブプランは完全に無駄となったな」

 

「サイクロプスでのアレか。確かに月面では一定の成果は出せたが今更する必要もなかろう

…ところでアズラエル。新型量産機の生産計画については予定通りで良いのだな?」

 

「ええ、構いませんよ?

現在地球軍にある鹵獲したジンに対応したビームカービンやマシンガンの生産ラインをそのままストライクダガーの装備に転用して貰えば」

 

…ザフトにとって脅威な事に既に地球軍では鹵獲され地球軍のコーディネーター達が運用する事になったジン。これに対する装備の強化や防御面の見直しなどが行われていた

ザフトでは一部のジンにしか行われていないシールドの装備を全機に徹底し、ストライクなどに採用されているビームライフルの簡易版とも言えるビームカービンも全機に装備

加えて貫通弾を使用できるマシンガンを配備してある

 

ザフトにとって目標としていた『携行型ビーム兵器の導入』を地球軍はザフトに先駆けて行なっていた

 

 

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「しかし、ユーラシアと東アジアも相当頭にきていると見えるな」

 

「東アジアはユニウスセブンの事があって、その上『新星』を奪われた挙句ザフトに使われているのだ。更にカオシュンを取られていたとなれば内心穏やかとはいくまいよ?」

 

「ユーラシアはだいぶ国内のコーディネーターのプラントに対する敵意が高いですからな。MSの動員が出来る様になるまで時間稼ぎに注力するとは思うが」

そのユーラシア連邦では既にウラル山脈付近に完成したマスドライバー『ウラル』や来月完成予定の『エウロペ』の完成を待って宇宙戦力の大幅な拡充を行う予定となっている

ウラルとエウロペの近くにはウラル工業地帯と旧ドイツのルール工業地帯が存在しており、その工業地帯で生産された兵器群がそのまま宇宙へと打ち上げられる予定だ

 

 

更にアルテミス要塞において、ユーラシア連邦宇宙艦隊と東アジア共和国宇宙艦隊には『ある装備』が試験的に導入される事となっており、この装備の完成度如何ではボアズ攻略の予定を早める事もあり得る

 

 

ロゴスのメンバーは敵意と言ったが、ユーラシア連邦軍に所属しているコーディネーター達がプラントの者達に抱いているのはそんな生易しいものではない

 

殺意であろう

 

 

 

「…しかし、こんな事を本気でやるつもりかね?」

 

「殆どの艦は無人制御とする事で可能な限り人的被害を抑えるとあるが」

 

「漆黒の殺意とでもいうべきか

恐ろしい事を考え付くものだ」

 

「まぁ問題は一度其れを使えば間違いなくプラント側は死に物狂いでそれを阻止しようとするでしょうね」

アズラエルとしてはプラントの後始末(残骸処理)に労力を割かないで済むならばそれはそれで良いと考えてはいる

 

「となると護衛の為の戦力としてMSは」

 

「必要でしょうね」

 

「ならばもう少し時間が必要か」

 

「どの道地球の情勢が定まってからプラントを攻撃した方が良かろう。さして問題にはならんよ」

 

「結局オーブをどうにかしないとならん、か」

ユーラシア連邦軍、東アジア共和国軍、大西洋連邦軍のカーペンタリア攻略軍は現在も赤道連合の基地に留まっていた

 

 

…そう、目下どう動くか分からないオーブに対する圧力として

 

流石にユーラシア連邦軍としては通常艦艇は良いとしても氷山空母の赤道付近での長時間の滞在は好ましくないとして現在ユーラシア連邦領、ウラジオストックに帰港している

その代わり、東アジア共和国はユーラシア連邦軍に発注していた多段式空母を東アジア共和国領マイヅルで受領し、テスト航海を兼ねてこの部隊に編入している

 

 

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「しかしアズラエル

アークエンジェルを一時的にとはいえ、サハクの指揮下に置いても良かったのか?」

 

「勿論あまり好ましい事ではないでしょうね

ですが、仮にオーブがアスハからの脱却を図るならば安い投資でしょう?」

 

「…ふむ」

アズラエルは自身と協力関係にある大西洋連邦軍大佐ウィリアム・サザーランドに働きかけてこの異例ともいえる事を実現させたのだ

 

言うまでもなく、それに見合うだけのものをアズラエルは見たからこそこの様な事をしたのだ

勿論、ムルタ・アズラエル個人としての興味がなかった訳ではないが

 

 

「そこは君の領分だ

我々は君のする事に口を挟むべきではないだろうな」

責任はロゴスとしてではなく、ボク個人でとれ。そういう事ですか

 

 

アズラエルは内心苦笑する

こういったある意味『損得勘定』で動くからこそ、非常に付き合いやすい

砂時計の住人の様に意味のないプライドや感情で動かれるなどというのはやり辛い事この上ない

 

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先のスカンジナビア王国仲介の元で行なわれた大西洋連邦とプラントの停戦交渉?の内容を聞いたアズラエルは呆れたものだ

 

「プラントの意思統一が難しいのは分かりますが、それ(自分達の都合)を相手に飲み込んでほしいと頼むには余りにも関係が拗れすぎているでしょうに」

 

交渉とはお互いの要求を出し合って『妥協点を見つけるもの』である

勿論そういった方法もあるにはあるが、それをするには余りにもプラントは敵を作り過ぎた

彼等が『血のバレンタインの悲劇』を主張すればする程に『エイプリル・フール・クライシス』で被害を受けた者達からの反発は酷くなる一方なのだ

 

 

そしてこの『四月危機』とも呼ばれるものによる被害を免れたのはほんの一部だ

自分達も命の危機こそなかったが、経済的被害を受けている

 

自分の傘下の企業の中にはこれのせいで危うく命を絶たねばならない程追い詰められた者もいる程なのだ

 

「被害を声高に主張するな、とはいいませんよ?

ですがそれを喧伝するにせよやり方というものがあるんです。それが出来ないからあなた達は負けるのですよ」

 

アズラエルは決して地球軍がザフトよりも戦力的に優位になったからこうなったとは思っていない

どちらかと言えばこれは『プラントの驕り』が招いたものであると考えてさえいる

 

アズラエルと同じ様な考え方をするものは軍人にも多い

 

 

故にこそ彼等は緩まない

プラントに

ザフトに付け入る隙を与える事なく、この戦いを終わらせねばならないのだから

 

 

----

 

「しかし、コーディネーターとの共存を真剣に考える時が来るとは思わなかったな」

 

「それはそうだろう

…が、良いではないか?ルールを守り、周りとの協調が出来るならばな」

 

「うむ。適材適所という言葉もある

全てにおいて我等ナチュラルがコーディネーターに劣っている訳でもないのだからな」

 

ある程度今後の見通しについての話が終わったロゴス幹部達は世間話に興じていた

 

彼等の話題の中心はやはりというべきかコーディネーターだ

 

「ところでアズラエル

少し小耳に挟んだのだが、何でもブルーコスモスの過激派からコーディネーターを守ったナチュラルがいるとの事だが?」

 

「ああ、それは事実ですよ」

アズラエルは軽く肯定する

 

「…事実か」

この答えに会議室内にざわめきが広がっていく

 

 

「…ふむ、一部のコーディネーター達から言われている『真のコーディネーター』とやらか

それは利用できるのではないか?」

 

「利用するには少しばかり大き過ぎる爆弾でしょうね、それは」

ロゴスのメンバーの言葉にアズラエルは苦笑した

 

 

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「確かに利用するには危険だな、それは」

 

アズラエルからの話を聞いたロゴスのメンバーはカズイへの認識を改める

 

「アークエンジェルのクルーであり、プラントに猛毒を流し込んだ人間でもあったとは」

 

「…アズラエル。そんな人物をオーブに戻して良かったのか?」

 

「おや?ではどこか適当なところで死んでもらった方が良かったと?」

ロゴスのメンバーから不穏な言葉が出る前にアズラエルは抑える

 

「…そうは言わんが」

 

「別に利用出来ない相手でもないでしょう?

なら腹を探りながらお互い利用し合えば良いと思いますが」

 

「…だが」

アズラエルの言葉にもまだ納得していない様子のメンバーを見て

 

(困ったものです。こうなると分かっていたから話題にするつもりはなかったのですが)

アズラエルは内心顔を顰める

 

どうしてもロゴスのメンバーは影響力を持つ範囲が広くなる

彼等は自身の勢力圏内で大きな事になりそうな事態が起きた場合、それに対応する事が多い

その時手っ取り早い方法が『排除』なのだ

 

だが、それをするにはカズイ・バスカークは余りにも多くの人脈を作り過ぎている

 

オーブ国内ならばコーディネーター間のネットワークによってオーブ本土のコーディネーターの殆どが顔こそ知らないものの、名前や噂くらいは知っている程の知名度を

 

アルテミス要塞にアークエンジェルが寄港した事でユーラシア連邦軍のコーディネーターにも名前が知られつつある

 

ラクス・クライン返還の際の件で大西洋連邦軍の有力者はおろか、自分と同じ様に軍と太い繋がりのある者もその存在を注視している事だろう。特にユーラシア連邦軍地中海艦隊はかの『砂漠の虎』を降伏させる際に彼の手法を参考にしたというのはアズラエルですら知る事だ

 

当然人であるから、人伝にその情報は更に拡がる事になるだろう

 

更に返還の際に関わったラクス・クラインやその場に居合わせたザフトの人間も名前は知らぬだろうが、その存在は強く刻み込まれただろう事は疑い様のない事

 

トドメはウズミ・ナラを始めとしたオーブ首脳陣を拘束したのも表向きはサハクの手の者となっているが、それとて調べればかの人物が関わっている事も判明する

 

 

こんな人物を除く?

下手をすれば地球に住む『真のコーディネーター』に期待を寄せているコーディネーター達の反発を招くだろう

 

何よりアズラエルにとって頭の痛いのが

 

アズラエルが直接会っていない為にカズイ・バスカークがどの様な人物なのか理解できていない事だろう

 

 

勿論アズラエルも可能な限り情報は集めているし、カズイ・バスカークの地雷が『アスカ兄妹』である事も理解している

だが、やはり人間というものは『一度面と向かって話をして』こそ分かるものがあるというものだ

 

そうでなければ『面接』などという企業側にとって時間や人員を使うものが必要となるはずもない

 

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「かの者が危険か否か、ではなく共存出来るか否か?

で考えるべきではないか?幸い件の人物はナチュラルであり、過激な思想に染まっている訳でもないだろう

アズラエルも我々がこうなると思ったからこそ、話題に出そうとしなかったのではないかな?」

アズラエルが思考の迷路に入り込もうとしていたその時、1人のメンバーがそう沸き立つ者達を嗜めた

 

「…まぁ、そうですね」

アズラエルは不承不承そう発言する

 

「であれば、この件についてもアズラエルに任せるべきではないだろうか?

情報を断片的にしか知らぬ我々よりもアズラエルの方がしっかりとした情報を持っていよう」

 

「…むう」

 

「…確かに」

室内の空気は少しずつ落ち着きを取り戻し始めた

 

(相変わらずですね

…これだからこの人は好きになれない)

 

場を収めたのは喧騒のきっかけとなったカズイの話題を切り出した人物であった

 

いつもそうだ

男は『議論のきっかけをつくった』と言えば聞こえは良いが『混乱を引き起こした』とも捉えられかねない事をしておきながら、いち早く冷静な状況に持っていく

 

 

そしていつもアズラエルに負担を押し付けておきながら、さも『自分がこの問題解決に尽力した』というイメージを持たせるのだ

 

(いつもいつも本当に上手く立ち回りますね、この人は)

とは言えアズラエルとしても望む方向だから文句も言えない

 

「では私が一度かの人物と話をしてみましょう

それでよろしいでしょうか?」

アズラエルはそう締めくくった

 

 

 

----

 

回り行く世界

変化していく状況

 

人はそれに翻弄されながらも生きていく

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で近々カズイと盟主王の会談が実現する事になりました

やったね!カズイ
胃痛の種がまた増えるよ!

物語が進んだので改めて、本作のヒロインは?

  • ナタル
  • マユ
  • フレイ
  • カガリ
  • ラクス
  • シン
  • キラ
  • その他
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