「あ、あぅ」
カガリはカズイの問いに答えられない
何を彼が聞きたいのか分かる
だが、それに答える事は出来ない。答えがない訳ではない
間違いなくカガリ・ユラの中に答えはある
だがそれは命懸けでここまで来た彼や彼の仲間達の事を否定する答えでもあるのだ。だから口に出せない
出しては、いけないのだ
「…そうかよ」
カガリは目の前にいる彼から受ける感じが確かに変わった事を理解した
そして次の瞬間
「その程度の想いの為に俺達の世界は壊されたんだな」
彼の自分に向ける視線の質が変わったのだ
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「カズイ!やめろ
やめろって!」
「放せシン!邪魔するなら、例えお前でも容赦しないぞ!」
キラがカズイの部屋に入ってきた時に見たのは普段にない形相のカズイとそれを必死に止めているシンの姿だった
「…え?」
キラはてっきりカズイがオーブのアスハシンパに襲われていると思っていただけに虚をつかれた
「キラさん!早くカズイを抑えるのを手伝ってくれ!」
「あ、うん」
シンの必死の呼びかけにキラはカズイを抑えようとするが
「お前もか!キラ」
と物凄い剣幕でカズイが自分を睨みつけてきた
「っっ!」
それはカズイを信頼していたキラにとって余りにもキツいものとなる
「何事だ!」
「どうしたと言うのだ!」
キラが躊躇していると、ミナの護衛を務める男とミナが慌てて部屋に駆け込んできた
「ああもう!ミナさんカズイを抑えるのを手伝ってくれ!
俺1人だともたない!」
呆然とするキラは役に立たないと判断したシンはミナに声をかける
護衛を務める人物よりミナの方が身体能力や近接戦に優れている事をシンが知っていたからこその判断だった
「!分かった
カガリを暫し別の部屋に」
「はっ!」
ミナは自身の護衛にそう指示を出し、カズイを抑えにかかった
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「放せ、シン!俺はこの女をどうしても許せない!
言葉にできない程度の理由の為にこの国を滅ぼしかけたこの女を!」
「だけど!それで殴ったからって何もかわらないじゃないかよ!
いつもアンタが言ってたじゃないか!!」
(くっ、何という膂力か。これで本当にこの男はナチュラルだというのか?)
ミナはシンと一緒にカズイを抑えつけながら内心感嘆とも愚痴とも言えない思いを持った
ミナもシンもコーディネーターの中でも間違いなく上澄みの人間の筈
確かに自身もシンも全力とは言えないが、それでもそんな自分達を相手にまだ動けるというのは控え目に言っても凄まじいものがある
…だが
「いい加減はなし
っっ!!」
カズイはいきなり体勢を崩した
そして
ゴポッ
おびただしい量の血を吐いたのである
「…え?」
それは誰の言葉だっただろうか?
あまりの形相に立つ事すら出来なくなったカガリ・ユラか?
友人のあまりの激情に理解がついていけなくなったキラ・ヤマトか?
それとも
「カズイッ!
おい、しっかりしろ!ミナさん、直ぐに医者を!」
「あ、ああ」
事態のあまりの展開についていけなくなったミナはそれだけを返すと直ぐに端末を起動し、救護兵を呼ぶ事とした
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「くそっ、だから俺はっ!」
シンは恐れていた事が起きてしまった事に怒りを隠せなかった
兄であるカズイは片肺を失っている
だが、それだけではない。深刻な呼吸器へのダメージはカズイの運動機能にも問題をもたらしていたのだ
知っていた
知っていたのに何も出来なかった
あの時の様に
カズイに必死に声をかけながらシンは必死に涙を堪えていた
「邪魔よ、どいて!」
そんなシンを押し退ける手があった
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「何がどうなってるの!?」
偶々カズイの部屋に向かっていたフレイは部屋の中の惨状を見て驚愕と困惑の声をあげる
へたり込むうるさい奴とそれを立たせようとする男
呆然とするキラ
通信で何かを話しているミナ
必死に倒れているカズイに呼びかけるシン
だが
「っ!カズイ!」
そんな事よりも血の中で倒れているカズイが何よりも優先だった
そして
声をかけるだけでそれ以上の処置をしないシンを押し退けて
「気道の確保、だったわよね?」
と言ってもカズイの喉にはあきらかに血の塊がある様にフレイには見える
「悪いなんて言わないわ。私みたいなのに想われている事が不幸と思って諦めなさい
…カズイ、アンタを死なせてやるもんですか」
そう呟くとフレイはカズイに口付けた
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「これは!?」
騒ぎを聞き付けて駆けつけたオーブ国防軍に所属する男は室内の惨状に絶句した
倒れ伏した少年とその少年を助ける為に必死で血を取り除こうとする少女
少年の身体に傷がないか確認する黒髪の少年
そして立ち尽くす茶髪の少年に通信をしているロンド・ミナにへたり込むカガリ・ユラと立ち上がらせようとする男
「カガリ様!?
おのれ、ロンド・ミナ貴様っ!」
後から来たものが室内に踏み込もうとするが
「この、慮外者が!」
男はそんな者を殴りつける
「直ぐに救護兵を呼べ!
この部屋への立ち入りを禁ずる!」
「しかし、中にはカガリ様が」
「馬鹿ものが!今すべきは傷病者の救護だろうが!
いつから我々はアスハの私兵組織に成り下がった!」
抗弁する兵を怒鳴りつける
「…すまぬ」
部屋から外の騒ぎを聞き付けてロンド・ミナが出てくるなり謝罪する
「今はそれどころではありますまい
後で詳しい話をお聞かせ願えますか?」
「無論だ」
男はミナの言葉を聞き、部屋の前で警護にあたる事とした
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「何なんだろうな、私やお父様が目指したものは」
カガリはカズイの運び込まれた病室で1人呟く
オーブの中立
それが守られればオーブの平和は守られると信じていた
父や叔父は
自分はそれに反発していたはずなのにやった事といえば武器を手にザフトと戦っただけ
それが正しいとそう信じていた
「コイツみたいに目標が定まっている奴の方が少ないと思うわ
…私はアンタの事を笑えないし、笑う資格があるとも思わないわ」
カズイの看病をする為に部屋にいるフレイは私にそう言う
「なんでだよ」
「私だって多分アンタと然程に変わらなかったと思うのよ
…私のパパは大西洋連邦の外務次官だったわ。パパは私に優しくしてくれたし、今でも愛されていたって思うわ」
「いたって、お前」
フレイの言葉に私は戸惑う
「死んだのよ。私を迎えに来ようとした艦隊と一緒にね」
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「なんで、なんでお前はそんな顔をしてられるんだよっ!」
「…あのね、私がいうのもなんだけど
『戦争』してるのよ?私達は
ねぇ、カガリさん。貴女だってゲリラ組織にいたんでしょ?
それで死なないとでも思ってたの?」
「っっっっ!!」
フレイの一言に私は気圧される
そんな私にフレイは懐から鈍い光を放つナイフを取り出すと
「これなんだと思う?」
「ナイフだろう」
「そうね、あなたや他の人からすればそうだと思うわ
でもこのナイフは私にとって特別なの」
「私を殺したナイフなのよ、これ」
「…は?」
私には理解出来ない事を言った
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「生きてるじゃないか」
「そうね。でも復讐に囚われそうになったフレイ・アルスターはあの時に死んだの
今いるのはカズイに救われた女よ」
意味がわからない
「…また面倒くさそうな人を助けたのかよ」
今まで聞き手に回っていたシンはそう諦めた様にため息をついた
「そうね、我ながら面倒くさい女だと思うわ
…でもアンタだって自分の事面倒くさい奴って思ってるわよね?」
「…はぁ
『類は友を呼ぶ』だってさ」
フレイの言葉にシンはため息混じりの言葉を吐く
「なにそれ?」
「…似た様な人間が集まるって意味じゃないか?」
疑問符を浮かべるフレイにカガリは自身なさげに自分の考えを口にする
「…アンタに言われると腹が立つけど、まぁその通りさ」
「その理屈でいくとカズイも相当面倒くさい奴になるけど
…まぁ確かにそうよね」
「だよなぁ
もう少し自分を大切にして欲しいって本当に思うよ」
「あら?なら私がカズイの恋人になって公私共に支えれば良いと思うけど?なんなら『お義姉さん』って呼んでもいいのよ?」
「やなこった
アンタをそう呼ぶくらいなら、あの堅物そうな人の方が絶対良い」
シンの言葉に
「堅物そう?
え!バジルールさんとカズイ逢ってたの!?」
堅物と言われて直ぐ連想されるナタルは泣いてよいだろう
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???
「私はそんなに堅物だっただろうか?」
かんちょー
「ああ、まぁその、ね?」
たか
「いやぁ、なんて言えばいいのかね」
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「いやそんな事よりお前ら!」
「は?」
「今なんてった?このじゃじゃ馬バカ娘」
カガリが話を元に戻そうとするのだが、話の振り方が不味かった
目の据わったフレイとハイライトの消えたシンに憐れカガリは睨みつけられましたとさ
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「なんでこうなるんだよぉ」
「そりゃあ愛する人の話をしていて、ねぇ?」
「だよな、1番頼れる兄の事を話していたのに『そんな事』なんて言われたら、なぁ?」
メソメソ泣くカガリの方から視線を逸らしてフレイとシンは言い訳をする
「このナイフはね、パパの所に向かおうとする私にカズイが出したのよ
『これで俺を刺してから行け』ってね?」(乙女フィルターのせいでやや事実と異なる部分がございます)
「…あー、言うだろうなぁカズイなら」
「それでフレイはどうしたんだよ?」
「刺さなかったわ
だからカズイの胸の中で泣いたのよ」(事実と異なる部分がございます)
「…何だかなぁ」
シンは兄のした事に呆れると共に『やるだろうなぁ』と納得もしてしまった
「…」
カガリは絶句する
確かに人は死ぬのだろう。ゲリラ組織にいた時も危うい時はあった
だが
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「あんまり吹聴する事でもないとは思うけど、この際だからアンタに言っておくよ。カガリ・ユラ」
「な、なんだろうか?」
シンが改まってカガリに話を振る。それにカガリは身構えてしまうのだが
「俺とマユはブルーコスモスの過激派に襲われた事があるんだ。オーブ国内、しかも本土で」
「なっ」
シンの口から出た言葉に彼女は凍りついてしまう事になった
ザフトによる地球全土に対するNジャマーの投下はこのオーブにも少なからぬ影響をもたらした
確かにオーブでは地熱発電が大きな割合を占めている
だが、本島であるヤラファスや主要機関のあるオノゴロは敷地面積がある為に問題ないが、群島部ともなると海底ケーブルによる送電網ではどうしても保持するのが困難な部分がある
その為、規模こそ小さいものの原子力発電を導入している地域もあるにはあった
そしてその群島部がNジャマーの被害にあったのである
加えて本島の近くにある離島にも中規模の原子力発電所を建設しておりオーブ本島地域の電力供給に一役買っていたのだ
それらが停止した事でオーブ国内においても少なくない混乱が起き、それを引き起こしたプラントそしてコーディネーターに対する反発は決してコーディネーター住民にとって無視できるものではなくなってしまう
そんな中、元々ブルーコスモス過激派としては座視できない存在がオーブにいた事から彼等を国内に手引きした者がいたとしてもそこまで不思議ではなかった
そして、シンやマユにとっては忘れる事の出来ない、忘れようのないあの出来事が起きたのである
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「そんな事が本土であったのね」
「まぁ知らないのは無理もないと思うけどな
こんな事が大々的に知られたらオーブの掲げる『ナチュラルとコーディネーターの共存』が間違いなく疑われる事になるだろうし」
フレイの言葉にシンはあまり嬉しくなさそうに応える
「…」
言葉もないとはこの事だろう
カガリは当時オーブ本土にいた。にも関わらず、そんな大事について知らなかったし、護衛であるキサカや父も何も言わなかったのだから
「だから、カズイはあんな事になったのね」
「…ああ、俺がもっと強ければ
カズイがあんな事になる事はなかったんだ」
「そこまでしても、お前達を守りたかったんだな」
カガリはようやく自分の考えがどれだけ甘かったのかを理解した
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守ると言うのは簡単だ
誰にでも出来るだろう
だが、守るというのは決して『閉じ込める』事とは違う
外界から完全に隔離してあらゆるものとの繋がりを断つ
守る方法の一つとも言えなくもないだろう
だが殆どの者はそう思わないのではないだろうか?
それはこう言うのではなかろうか?
『監禁』や『幽閉』と
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オーブのルーツの一つであり、アスハやアスカなどの源流でもあるとされる日本
此処には3つもの言語が古来より存在し、日本民族はそれらを使い分けながら生きている
大陸から伝わった漢字
その漢字から派生した平仮名と片仮名
それはこのオーブにおいても今なお息づいている
守ると言う言葉がある
護るという言い方もある
衛るという表現の仕方もある
だが微妙に違う意味を持つ
衛るは外側を巡り歩いてそれをまもる
護るは助ける、庇う
守るはそれらを含んだもの
だが、身体は守れたとしても心はそうはいかない
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カズイは確かにシンとマユをブルーコスモス過激派から守り抜いただろう
…だが、それにより2人の心には大きな、大き過ぎる傷が残ったのもまた事実
更にカズイ本人にも一生消える事のない傷が残った
なるほど第三者やコーディネーターからすればこれは美談なのだろう
『ナチュラルの少年が身を挺してコーディネーターの少年とその妹を守った』
だが、その心にまで思いを馳せる者が果たしてどれだけいるだろうか?
傍目からすればカズイはシンとマユを守れただろう
…しかしそうではないのだ、彼等にとっては
守ると言うのはそれだけ難しい事
カズイはそれ以来、滅多な事で守ると言わなくなった
「…そうか」
カガリはやっと自身の目指す道の一端が見えた様な気がした
理想だけを声高に叫んだところで意味はない。それは自己満足以上の意味を持たないから
なら、自分はどうするべきか?
どうあるべきか?
カガリは何かを決意した様な顔でカズイに向かい
「ありがとう。お前達のお陰で何か分かった気がする」と呟くとカズイの部屋を出た
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「何か決まったみたいね」
「全くあんなのがトップで大丈夫なのかよ」
カガリを見送ったフレイとシンはそんな事を言いながらも笑顔だった
2人とも何も考えずにあんな話をした訳ではない
「にしても」
「お人好しが移ったのかしらね、私達」
シンの言葉を楽しそうにフレイが引き継ぐ
「誰かさんに似たのかしらね」
「そりゃそうだろ。俺にとっては兄で
アンタにとっては想い人なんだからさ」
そう本当に嬉しそうに送り出したのだ
フレイとシンとカガリという割と見ないであろう組み合わせ
まぁいつもの事
物語が進んだので改めて、本作のヒロインは?
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ナタル
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マユ
-
フレイ
-
カガリ
-
ラクス
-
シン
-
キラ
-
その他