カズイとシン達の過去
「また海を眺めてるのかよ」
「…ん?
ああ、シンか。どうした?」
俺は今、カズイを探しに家の近くの海岸に来ている
やはりと言うか、カズイは海を眺めていた。憂鬱そうな顔をしながら
カズイ・バスカーク
俺の母さんの昔からの知り合いであるバスカーク夫妻の一人息子で、俺やマユにとって心から信頼できる家族以外の人だ
…まぁ気恥ずかしいので絶対そんな事をカズイに言うつもりはないけどな
良く俺やマユと親しくしようとする者達からはこう言われる
「
相手は選ぶべきじゃないか?」
と
そんな事を言う奴なんて、此方から願い下げだけどな
ただ、俺の事つまりコーディネーターである事を知っている近所やオーブ国内のコーディネーターから言わせると『本当に羨ましい』
そう言われる事が殆どだ
確かに見た目はぱっとしないし、カズイ自身がファッションに無頓着だ。面倒だからと、私服の多くはスウェットかワイシャツにスラックスという極端なチョイス
加えて、いつも無愛想であまり物事に対して熱を持つこと自体が稀
…だけど、俺は
俺やマユ、父さんと母さんは知っている
カズイが誰かの為に本気で怒れる事を
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「シン、マユ
お前らは隠れてろ」
「う、うん」
「アイツらの狙いは
だったら俺が」
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ザフトによるNジャマーの地球全土に対する投下作戦
ただでさえ地上において度重なるプラントのコーディネーターの
確かに被害にあったユニウスセブンは農業用コロニーだとは俺も聞いている
…けど、プラントというのはその名の通り『生産拠点』であり、宇宙で採掘できる鉱物などを工業製品などに加工して、それを地球と
個々の身体能力においてはどうしてもコーディネーターが優ってしまう
だからこそ、それに対する安全弁として『プラント独自の食糧生産拠点』を持つ事は禁じられているらしい
全部カズイの受け売りだけどな
だから本来、『農業用コロニー』なんてものがある事自体問題なのだ
プラントはザフトと呼ばれる民兵組織を独自に整備していた。更にそこへ地球からの枷といえる食糧の自給自足への動き
これでプラントを危険視しない訳がない
寧ろプラント側はそれを知っていたんじゃないか?とすら俺やオーブにいるコーディネーターは思っている
そして、東アジア共和国によるユニウスセブンへの核攻撃
プラント理事国はそれより前にプラント最高評議会に対して『農業用コロニーの稼働の中止』を求めていたのはニュースになった事からも俺でも知っている
だが、それに対するプラントの返答が
『地球全土に対するNジャマーの敷設』だ
俺たちの住むオーブにも数は多くないが、原子力発電所があり地熱発電が良く言われているけど、発電量としての割合は原子力発電がトップだった
その原子力発電が突如としてストップ
4月だったとはいえ、北半球ではまだ寒い時期であった事もあって大西洋連合やユーラシア連邦などでは凍死者が出たと聞いている
元々プラントのコーディネーターを支持する連中は横暴であった事もあってか、コーディネーター排斥の動きは地球各地にあった
そして、それらに対する不満がエイプリル・フール・クライシスとのちに呼ばれる事となる一件で爆発した
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「馬鹿抜かすな。そんな事をしたところであの連中はお前を殺してマユやおじさん達を狙うだけだ」
それは比較的コーディネーターに寛容なオーブでも起きてしまう
いつもの様にマユとカズイと一緒に出かけていた俺達だったが、そこにいきなり銃を持った者達が現れる
そして
「青き清浄なる世界にコーディネーターは不要なのだ!」
と叫びながら、銃を撃ってきたんだ
咄嗟にマユを物陰に逃し、カズイは元々警戒していたのかそこに一瞬遅れて飛び込んできた
そしてさっきの会話だ
「でもそれじゃあ、どうしろって言うんだよ!」
どうしようもない。そう思って小声で叫ぶ俺に
「…今、警察に連絡を入れた。軍が動いてくれるらしい
……シン、マユ。お前達は
分かったな?」
カズイはとても怖い声でそう言った
「う、うん」
「でも!」
「マユを守ってやれ。お兄ちゃんなんだろうが」
「…分かった」
あの時俺はカズイが何と言おうとも引くべきでは無かったんだ
そうしたら、あんな事
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「…随分子供1人に過剰な事で」
「奴等はこの世界を壊しかねない癌なのだ!
だが力はあるからこそ、これだけの装備を整えている。貴様はコーディネーターの味方をするつもりか?」
「…冗談。
「なら地球に居る奴等はどうなる!?」
「そいつ次第だろ?
ルールに従うなら、共存できる。従わないならどうしようもない
それは俺達だろうが、コーディネーターだろうが変わらない
…違うかよ」
「…あくまでコーディネーターを庇うつもり
そういう事だな?」
「アイツは俺にとって弟も同然だ
兄が弟を守るのがそんなにおかしいか?」
カズイと話をしていた者達の中で1人が動いた
パァン!
カズイを
滅ぼすべき者達の味方をする
カズイを撃った男はそう判断したのだ
そこに
「誰か倒れているぞ!」
「遅かったのか。全火器使用自由!速やかに制圧しろ!」
警察から連絡を受けたオーブ国防軍が到着
直ちに無法者を排除した
だが
「いやぁぁっ、お兄ちゃん!
カズイお兄ちゃんっ!!」
「おい!カズイ
なぁ、起きてくれよ。まだアンタには何も返せてないんだ
…起きてくれよ、兄さん」
相手の放った銃弾はカズイの胸に直撃、おびただしい出血を引き起こしていた
それでもシンとマユはカズイの側を離れようとする事なく、倒れ伏したカズイにひたすら声をかけ続けていた
不幸中の幸いとでも言うべきか
オーブには大勢のコーディネーターが住んでおり、カズイの手術を担当する人物もまたコーディネーターだった
人によってはコーディネーターの診察や手術を受ける事を拒否する者もいたが、病院に同行したシンとマユにとっては
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結果から言えば、カズイの命は助かった
だが、そのかわりカズイの片肺は永遠に失う事になったのだが
それ以来、カズイはシンとマユと過ごす時間を少し減らし、何処かへと向かう事が増える様になった
シンも
マユもそれが不安だったものの、だからといって兄の行動を制限する謂れもないと内心複雑であったがそれを口に出す事はなかった
オーブの一部からは美談として言われているこの出来事
だがシンやマユにとっては兄と慕うカズイとの関係が変わってしまった悲しい物でしかなかったのである
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「…ヘリオポリスだっけ?
いつ帰ってくるんだよ」
「分からん。どうにもウチの親は何か焦っている様にも思えるんだが、何も話してはくれんからな」
カズイの言う通り、カズイの両親は焦っていた
カズイがシンを守った事で、一部の反コーディネーター組織からカズイは『コーディネーターに味方する人類の裏切り者』と認識される様になったのだ
加えて戦闘シミュレーターを使う許可を申請した事でモルゲンレーテやオーブ国防軍からも注目される事になりつつあった
それらから息子を守る為に、カズイの両親は急遽カズイをヘリオポリス行きに同行させる事としたのである
両親としても、信頼できるアスカ夫妻に息子を任せたかったが下手をすればそれによりシンやマユにまで危険が及ぶ可能性すらあったのだから
「なるべく早く帰ってきたいもんだ」
「…そうしてくれよ」
シンはカズイのヘリオポリス行きに言い知れない不安を覚えながら、それでも自分の我儘を言うべきではない
そう自身に言い聞かせて、兄を送り出す事にした
ヘリオポリス崩壊から約半年ほど前の話である
一話には満たない文量なので記念投稿