時は少しだけ遡り、サトー達がボアズ包囲網を突破すべくボアズ方面に向かっている時
「…どうやらユニウスを落とす事についてあちらは物怖じしているらしいな」
「…情けない事だ。既に尋常な方法で戦局を打開出来る時期は過ぎたというのに」
ザフト司令部では穏やかでない話し合いが行われていた
「ジュール議長も賛同出来ないらしい」
「今更取り繕って何になる?
ジェネシスの様なものを作った時点で一線を超えただろう」
「…それで?サーカスとやらから兵員を補充する件はどうなっている?」
彼等ザフト上層部はエザリア達やエザリア達を操っている者達より遥かに危機感を覚えていた
何せ
となれば、最早なりふり構っている場合ではない
現在プラント内にいると考えられる地球側のスパイの排除、それと並行してユニウスセブン落としについて作戦計画を行なっている
しかし、ユニウスセブンは『血のバレンタイン』の象徴であり、
が、彼等ザフト上層部からすれば『廃棄コロニー』の一つでしかなく、それを落とす事で地球側に致命的なダメージを与えられるのであれば何ら問題ないとしている
とは言え、現実問題として『血のバレンタイン』があったからこそザフトに志願する市民が増えたのもまた事実
故に彼等も慎重に動かねばならなかった
遺族などの反発が予想される上に、下手をすればザフト内からも予期せぬ動きがあり得なくもないのだから
「…少し煽り過ぎたかも知れんな」
「…ああ、前線の兵達の独断専行を誘発する事を期待してナチュラルへの憎悪や反発を徹底的に煽ったが、結果として軍令に対する従順さは地球軍に比べると遥かに劣っているからな」
自分達が権力を握る為に現在の『影の指導部』と連携してザフトの倫理観や理性的行動よりも自分達の感情を優先させる様な風潮を彼等は作り上げた
その結果、NJの予定以上の敷設やビクトリア基地制圧後などの地球軍に対する虐殺などが行なわれる
それ自体は彼等としても予定外ではなく、寧ろ予定通りだった
…なのだがその結果として自分達が指揮権を握った後も自分達の指揮に従わないクルーゼ一派の様な存在が出てきたのは困りもの
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現在のザフトは地上軍が壊滅状態となっており、開戦以降前線で戦い続けてきた多くのベテランをザフトは喪失する形となってしまった
勿論全滅した訳ではなく、地球各地に小規模ながら潜伏している地上軍
特に南アメリカ合衆国や大洋州連合にはそれなりの数の部隊が確認されておりそれらを宇宙に上げられれば、低下しているザフトの戦略の質の向上に繋がるだろう
それは彼等とて理解している
だが、それらの部隊を宇宙に上げるとなるといくつかの問題が立ち塞がる
まず、第一に宇宙に打ち上げるだけの設備がザフト地上軍には存在しない事
降下させるのであれば、大気圏突入可能なカプセルなりを用意すれば事足りた
以前であればカーペンタリアに用意されていたマスドライバーを利用する事で宇宙に打ち上げる事も可能だっただろう
が、そのカーペンタリアは更地となっており、今となっては大洋州連合政府指導の元、緑地化公園として運用される事が決まってしまい、地球に住む民間のコーディネーターやブルーコスモス構成員等が中心となって緑地化運動を展開している
港湾施設については復旧を急いでおり、プラントとの貿易が途絶えた以上様々なところで混乱も起きている。その為にも理事国との早期な関係修復は大洋州連合政府にとって急務といえた
しかし、プラントとの関係強化により理事国との力関係を変化させようと言う考え方もまた根強く、加えてカーペンタリアの惨状を直接目にしていない者達はザフトを自身の判断で匿っているのが現状
大洋州政府からすれば、そんなリスクを犯す愚など到底許容出来ないのだが『人は見たいものしか見ない』というある種の人間としての業ともいえる性質がその様な事を許していたのである
話が逸れたが、第二に打ち上げが出来たとしても、既に地球周辺宙域は完全に地球軍の勢力下となっており、兵員を回収する為の部隊を派遣する事自体が困難となっている事が挙げられよう
ザフトによる偽降騒動までは地球側も『ザフト兵の一部』をプラント本国に送還する事も行なっていた
これは『プラントのコーディネーターを封じ込める』という思惑と『ザフトやプラント内において温度差を発生させる事により混乱の芽を生じさせる』という目的の元に行なわれていたものだ
…しかし、偽降により『プラントのコーディネーターは信用ならぬ』という元々あった風潮が更に高まってしまい、各国宇宙軍も
「無用なリスクを犯すべきでない」
との意見を主張せざるを得なくなった
故に現在のザフトにとって、地球周辺宙域への進出はほぼ不可能となっている
勿論、ヤキンや本国の戦力を抽出すればそれなりの部隊を編成できるだろうがザフト地上軍のベテランを回収する為にヤキンやプラント本国の守りを薄くできるのか?
と言われると流石の彼等とて首を縦に振れなかった
主にこの2つの要因によりザフト地上軍の回収は不可能となってしまったのである
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なおシーゲルとパトリックはボアズ陥落とジェネシス破壊に加えて地上軍の壊滅に地上軍の残存部隊の回収すら不可能である
この事実を公表する事により、プラント市民の好戦意欲を削ると共に厭戦機運を高め、そのまま講和(と言う名の降伏)に持っていくつもりであった
言うまでもないが、戦争指導を行なっていたシーゲルとパトリックはその責任を取って死を選ぶつもりであったのだが
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「…今はもう少し時間を稼がなければならん
戦力が整い次第、動く」
話し合いのまとめ役の言葉に皆一様に頷くと、それぞれ動き出した
「…我々が負けるわけが無い
劣等種であるナチュラルどもに負けてなるものか」
彼等の望む未来を掴む為に
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「いたぞ!逃すな!!」
「地球軍の狗め!」
「…やれやれ。漸く気付きやがったか」
プラント市街地では1人の男が赤く染まった腹部を抑え走りながら薄く笑っていた
彼はエイプリル・フール・クライシスの直後にプラントへと渡ってきたコーディネーター
しかし、彼はユーラシア連邦軍に所属する諜報員であり、ザフトに潜入し諜報や後方撹乱などを行なっている
アークエンジェルによるラクス返還の際に行なわれた戦闘におけるカズイによる『口撃』
これをプラント本国に流した張本人でもあった
彼の様な地球側の諜報員や工作員はプラント内にそれなりの数潜伏しており、ジェネシスの存在を地球側に知らせた人物の様にそれこそ『血のバレンタイン』以前から潜入している者も少数ながら存在している
「…へっ、ご苦労な事だな
……もう手遅れだってのによ」
既に男は自身の命など捨てていた。元よりプラントに潜入している地球側のコーディネーターは生還など求めていない
妻や夫
息子や娘
親族や友人
自分達の近しい者達を喪ったか、或いは失う可能性があったから
彼等、彼女達は危険な任務に志願した
それ自体に後悔はない
既に自分は役割を果たしたのだから
だから
「何処だ!」
「こっちだ!血の痕があるぞ!!」
これからやる事にも躊躇いも、迷いもない
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彼等は必死に追いかけていた
ふざけた事に地球軍のスパイがプラントにいるとの通報を受けたのだ
その男の自宅を強襲したが、そこには地球軍への報告書や命令書等が存在しており間違いなく地球軍のスパイであると断定
直ぐに男を探し出し、今彼等は追跡している
(ナチュラルの狗になったコーディネーターだと?
ふざけるな!)
男を追う者達は
上官は生きて捕らえろと言っていたが、身のこなしなどから察するに自分達と同じくらいには身体能力が高いと追跡する者の指揮官は判断
射殺もやむなし
との判断を下す
幾ら身体能力が高かろうと、相手は1人
何度か銃撃が命中しているのを追跡側は確認しており、明らかに動きが弱っているのも確認出来た
そして
「追い詰めたぞ!」
「薄汚いナチュラルの狗め!」
と罵声を男に浴びせながら銃口を向けた
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「追い詰めたぞ!」
「薄汚いナチュラルの狗め!」
くだらない事を喚く連中が銃口を此方へと向ける
…俺は此処で死ぬだろう
構わない。既にあの時自分の命は捨てているのだから
「投降しろ
ナチュラルの狗に成り下がったとはいえ、貴様もまた同胞。降伏するなら命は取らない」
どうやら指揮官らしき人物はふざけた事を口にしている様だ
…どうせ死ぬんだ
なら、せめて意趣返しくらいはさせてもらうか
男は少しだけ口角を上げると指揮官らしき人物に視線を向けた
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「…同胞、ね」
投降を呼び掛けると男は指揮官に顔を向けた
「そうだ。我々コーディネーターと下等なナチュラルは違う
お前も地球で差別や迫害されたのではないのか?」
それはプラントでは当たり前の事として言われている事
『能力で劣る愚かなナチュラルが自分達コーディネーターの生存を脅かしている』
「一つだけ聞かせてほしいんだが」
「なんだ」
男の問いかけに指揮官は鷹揚に返す
「…ならよ」
結果からするとこの時点で指揮官は男を殺すなり、拘束して口を塞ぐべきだったのだ
「なら
なんで地球に住んでいるコーディネーターも一緒に殺したんだ?お前らは」
「な、に?」
男の言葉に指揮官は目を見開いて驚愕を露わにした
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『血のバレンタイン』に対する報復として行なわれた『オペレーション・ウロボロス』
それにより地球全土において深刻な電力不足やそれに伴う各種インフラの麻痺、物流の混乱、医療危機など様々な事が同時に発生した
当然と言えよう
今の社会において『電気』とは文字通り生命線なのだから
何をするにも電気は必要であり、高度な作業になればなるほどその割合は大きくなる
例えば手術中に電気が止まれば?
例えば延命中に電気が止まれば?
例えば主要道路や幹線道路でいきなり信号が消えれば?
幾ら非常電源があったとしても、それを起動するまでには少し時間がかかる。それが生死を分ける時も存在するのだ
確かにコーディネーターはナチュラルに比べて身体能力などに秀でている
しかし、
富む者、貧しき者
強き者、弱き者
善なる者、悪しき者
それらに対して平等に、無慈悲に
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男の言葉に指揮官のみならず、追跡してきた者達も狼狽する
そして、男は動揺するそんな者達を見て
「
そんな当たり前の事すら忘れたんなら思い出させてやるよ」
指揮官に飛び掛かった
そして
『おーい』
『なにやってんだよ、お前』
『コーディネーターつってもやっぱり変わらねぇじゃないか!』
「…俺もやっとそっちにいけるよ」
もう二度と聞く事の出来なかった声を聞きながら、懐のボタンを押し込んだ
その日プラントの片隅で幾つかの命の灯が消えた
その翌日、ザフトの一部で『ユニウスセブン落とし』の話が囁かれる様になり、サトーの部下がそれを聞く事になる
男について補足
彼はユーラシアのとある田園地帯に住んでおり、家族や幼馴染に近所の人達とささやかな生活を送っていた
コーディネーターではあるものの、そそっかしくまた心優しい彼の人柄故か何一つ問題なく日々を過ごしていた
プラント潜入後、カズイの事を知り密かにカズイに希望を持っていた人物でもある
『自分の失った景色をまた見せてくれるかも知れない存在』として
だからこそ、カズイが凶刃に斃れた報を聞き絶望。ザフト司令部によるユニウスセブン落としの計画を仲間が掴んだ事を知ると、自分が囮となり時間を稼ぐ間にザフト内でその情報を拡げる事を提案
最終的には仲間の信頼を強化する為に自分を切り捨てて欲しいと今回の作戦を立案するに至る
突発アンケート 本作設定の完全なお遊び回いります?
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いる
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いらん
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それより本編でしょう?
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ifstory補完しろよ