「…しかしアレだな」
「オーブが平和の国と言う奴もいるらしいが」
「『平和ボケ』或いは『偽りの平和』を享受しているだけだろう」
ドミニオンのクルーは出港準備を整えながらぼやく
当初の予定ならばドミニオンはあと半月程はオーブに待機する事となっていたが、アズラエルからの連絡がありクルーが忙しく動き回っていた
「患者のデータは?」
「…それがまだ届いておりません」
「ふざけるな!もう一度連絡しろ!!」
割と穏やかな空気のドミニオンクルーの中で最も
アズラエルの連絡を受けて
医療クルーは患者が意識不明の重態と聞いている。それ故に受け入れ態勢は万全にしなければならないと判断しているだけにオーブ側のいっそ呑気ともいえる対応に苛立ちを隠せなかったのである
実のところ、アズラエルの要請に対してオーブ政府は難色を示していた為と、カガリやミナの知らないところで片肺ながらにナチュラルとして考えれば中々の身体能力を持つカズイのデータを取ろうとしていた病院側も時間稼ぎに終始していた為であった
「1人の
とはカズイのデータを収集している研究員の言
その様な要因からカズイの転院はまだ正式に決定しておらず、受け入れ先のドミニオンの医療クルーの苛立ちだけが募っていた
「なに、あれ?」
「知るかよ」
「ま、ボク達に構う暇も無いみたいだし
別にいいんじゃない?」
そんな修羅場となっている医療クルーを呆れた様に見ている少年が3人いた
…そう
本来年齢的に考えるならば戦闘艦の中にいる事が不自然な少年達
彼等はブースデットマンと呼ばれる薬物にて身体能力を強化した者達
アズラエルの傘下企業が
とは言え『本来の歴史』とは異なり、地球軍にもかなりの数のコーディネーターが所属している事もあってか彼等に対する梃入れはそこまでではない
アズラエルが計画に気付いた時点でそれ以上の研究を停止させており、彼等は『標準的なナチュラルより身体能力が少し優れる』程度のものとなっていたりする
ただ、彼等に身寄りがない事もありアズラエルの私兵としてドミニオンに配属されているのだが
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「誰か来るのかよ?」
「ああ、サブナック少尉か
君達は聞いた事ないか?『真のコーディネーター』というものを」
「…そう言えば誰かが言ってた様な気がするが、詳しくは知らねえな」
私に声を掛けてきた少尉は首を傾げた
…無理もないと思う
彼等にとって件の人物は関わりのない人物であるのもそうだろうが、彼等はこのドミニオンでも周囲との温度差に苦しんでいる
自分の様に何かきっかけがあれば或いは少尉達とも話をする事はあるのだろうが、軍隊である以上中々意識しなければそういう機会に恵まれる事はない
それは仕方ない事だと思う
少尉達の境遇を考えれば
「まぁ誰かが来るっていう事はシャニとクロトにも伝えておくぜ」
「お願いします」
なんだかんだいって少尉は他の2人よりもコミュニケーション能力が高いのは素直に言ってありがたい
私は少尉との会話を切り上げるとある部屋に向かった
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「何故こんな国を放置するのですか!」
「放置する訳ではない。勿論然るべき処置を行なう
…だが、それは今ではないのだ少尉」
部屋に入室するとやはりというべきか予想通りの光景が広がっていた
シェリー少尉が隊長に抗議していたのである
シェリー少尉はコーディネーターであり、叔父をグリマルディで喪っている
それ以降『プラント殲滅派』と呼ばれるブルーコスモス強硬派ですら霞む様な強硬論を主張する様になっていた
この『プラント殲滅派』と呼ばれる者達の多くは地球に住んでいてあのエイプリル・フール・クライシスやその後の混乱の中で家族や親しい者達を失ったコーディネーター
彼等、彼女達はS2インフルエンザ等により地球の住民から白い目で見られる事なく過ごした者や、それでも親しい者達との繋がりを持ち続けた者達
彼等の中ではプラントにいるコーディネーターは『宇宙の化け物』であり、既に同じ人類ですらないと定義する者も少なくないと聞く
「力を誇示し、振り翳すならば力によって虐げられる事も受け入れなければならない
借り物の大地で、自分達の国家を作りたいというのならばそれ相応のやり方があるはず
それすら出来ないならいっそ滅んだ方が世界の為」
とは彼等の主張
些か以上に極論な気がしなくもないが、ある程度賛同できてしまうからブルーコスモスや政府も困っていると耳にした事がある
しかしシェリー少尉がここまで怒りを露わにしているのは恐らく
「何故ですか、隊長!
あの人物は仮にもオーブの中途半端な政策によって人生を狂わされたんですよ!一度オーブ本土で襲われているにも関わらず、二度も同じ事を繰り返す!これはオーブが彼を排除したいと考えてないとどうして言えましょうか!」
…やはりそうなのだろう
室内にいる者達は苦い顔をした
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『真のコーディネーター』ことカズイ・バスカーク少尉。…いや今の彼はオーブ国防軍の人間であるからバスカーク一尉になるのだろうか?
彼はオーブ本土出身でヘリオポリスのカレッジに通っていたとの事
シェリー少尉から聞いた話によるとオーブのコーディネーターによるコミュニティで俄かに注目されているとの事。そして同じ地球に住み苦労しているであろう他国のコーディネーターにも彼の噂は少しずつ、だが確実に広まっていったらしい
なんでも一時軍で噂になっていたブルーコスモス過激派がオーブ市民の連絡を受けてオーブに住むコーディネーターの少年を害そうとした件の当事者の1人だそうだ
呆れ果ててものも言えないが、その時自分の身を顧みる事なくその少年を守ったのが彼の声望を高めるきっかけだったらしい
それを聞くと納得するほかない
何せ今でこそ理事国ではナチュラルとコーディネーターの関係は徐々に良くなりつつあるが、それまでは犬猿の仲などというのも生温いものであるというのが一般的だったのだ
そんな時期にたとえ歳下であろうとも、コーディネーターの少年を身を挺して守るというのは中々出来る事ではないのは明らかなのだから
加えてそのコーディネーターの少年との付き合いはそれこそ件の少年が生まれて直ぐからになるという
身体能力において彼が少年に勝るとは思わない。…恐らく色々な事があって
それでもなお、その少年を守ろうと命すら賭けたのだから1人の人間としては頭の下がる思いだ
そして彼と少年の在り方は地球で肩身の狭い思いをしているコーディネーター達にとって、大きな希望となっていたのだろう
…事実、整備班の整備班長から聞いた話だが、准尉は何かに取り憑かれた様な鬼気迫る表情で新型機の草案や新しい戦闘用のプログラムなどの開発に没頭しているとも聞く
准尉はプラントから地球に渡ってきた数少ないコーディネーターだけにかなりショックだったのだろう
恐らく少尉や准尉の様に地球で苦労しているコーディネーターの中には自分よりも心を痛めている人が多いのだろう
「…これからどうなるのやら」
思わずため息が漏れた
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「少尉、君の気持ちも理解は出来る
…だが、我々は軍人だ。感情の赴くままに武器を振り回してはならないのだ。憎悪に憎悪でぶつかり続ければ果てのない殺し合いの未来しかない」
「し、しかし!」
隊長の言う事も尤もな事だろう。士官教育を受けた時にもその様に言われていたのは彼女とて覚えている
…だが、余りにも理不尽ではないかとシェリーは思うのだ
1番安全である筈の自分の住む国で理不尽な理由で襲われて、学生生活を送っていたらザフトが襲ってきたから生きる為に最善を尽くそうと軍に志願し、やっと本土に戻ったと思えば上の都合で国防軍に異動させられた
挙句、その国防軍が守る事を放棄した結果、生死の境を彷徨っている
シェリーは父と母をS2インフルエンザで亡くし、その後しばらくユーラシア連邦に住んでいた叔父に育てられた
彼女は両親がナチュラルであり、自分がコーディネーターである事に不満があった。だが、そうでなければ今の自分は死んでいたかも知らなかったと叔父から聞いた時やっと亡き両親に感謝したものだ
その叔父もエイプリル・フール・クライシスの後にユーラシア連邦軍に志願。グリマルディで帰らぬ人となった
叔父は彼女と同じコーディネーターであったが、ブルーコスモスの人達とも仲良く出来る程の人格者で、両親を喪った彼女にとって頼れるそして誇りに思える人物だった
聞けば混乱する戦線を立て直す為に、艦隊旗艦をはじめとする残存艦隊を守る為にその命を散らしたとの事
彼女は悲しみに暮れながらも、叔父の考えもまた理解できた
だからこそ、叔父を亡くした彼女は軍に志願し、生まれの事から大西洋連邦軍への入隊となり、今新鋭艦ドミニオンのMS隊の一員として此処にいる
そんな経歴があるから彼女とて軍に属するというものがどれだけ危険なものかを理解している。ましてやヘリオポリスから敵陣を突破する様な形で地球へ降りてきたアークエンジェルともなれば激戦は必至だっただろう
マトモな教育すら受けていない民間人がその過酷な環境に適応出来たとはシェリーには思えない。それを本土に着くなり自分達の都合で国防軍に配属し、クーデター騒動にも動かした
そこまで利用しておいて、不要になったから護衛を削るという手を使って排除するなどと、吐き気すらおぼえる
「それに少尉
…まだ確定してはいないがその人物を本艦で本国に移送する事になっている
今貴官がすべき事は、分かるな?」
「っ!」
それはまだドミニオンの中でも医療クルー以外殆ど知らされていない事。MS隊の隊長であるが故に知ってこそいるものの、本来ならばそれは公言してはならない
だが、彼女を案じたから敢えてそれを彼女に伝えた
「…取り乱して、申し訳ありません」
「構わんさ。本音を言えば私や部下達も今回のオーブの件は明らかに問題だと思っているのだからな」
シェリーの謝罪の言葉に隊長は苦い表情を隠そうともせず答えた
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「!バジルール中尉
…その、大丈夫ですか?」
「…ああ、皆が忙しくしているのにいつまでも塞ぎ込んではならないからな。心配をかけた
…ラミアス艦長。ナタル・バジルール中尉、任務に復帰します」
ドミニオンで少し騒ぎが起きていた頃、同じくオーブに停泊していたアークエンジェルもまた出航準備を整えようとしていた
その最中、艦橋に体調不良で伏せっていたナタルが戻ると操舵手であるアーノルド・ノイマンがそれにいち早く気付き、心配そうに声をかける。ナタルはそれに対して艦橋クルー全員に詫びると共に艦長であるマリューに申告した
「…分かりました
ではバジルール中尉は任務に復帰して下さい」
「はっ」
マリューやノイマンをはじめとしたブリッジクルーの誰1人とした彼女がまだ本調子でない事は理解していた
だが、部屋で休息していても恐らく彼女の心の傷が癒えることは無いのだろうとも
予定ではオーブでの任務が終了し、オーブから出航する際には僚艦であるドミニオンの艦長にナタルが就くとされていた
マリュー自身、それは寧ろ妥当な人事だと思っていたしアークエンジェルのクルーの中でそれを不当な人事と思う者はいないだろう
だが、カズイがオーブで凶弾に斃れた事を知った彼女のメンタル面を考慮してその話は流れている
マリュー個人としてはカズイとの思い出が多いこの艦では彼女の心の傷が癒えると思っていないのだが
カズイと関わり地球に降下する位から彼女の雰囲気が少し和らいだというのがマリューも含めたクルーの感想だ
…まぁ、少しばかり人間関係が複雑骨折しそうな雰囲気はあったもののその辺に無頓着なカズイと恋愛には少し奥手であろうナタルに積極的ではあるが、周りをしっかり気にしていたフレイ
チグハグな様で上手く噛み合いそうな雰囲気があった事から、暖かく見守ろうとの意見があった
だが、それは突如として理不尽にも奪われた
アークエンジェルクルーの中には現在のオーブのトップであるカガリがカズイを排除しようとしたとは思っていない
複雑な事情があったのだろうとは思うのだが、それでもマリューは思ってしまう
(何とかならなかったのかしらね)
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マリュー・ラミアス個人としてはカズイの事は苦手である
初対面の事もあったが、どうにも波長が合わなかったのだろう
勿論頼りにしたり、気に掛けたりと最低限の付き合いはしていたと思うがその苦手意識は結局彼が艦を降りるまで消えなかった
何というか、チグハグな印象を受けたのだ
先を見ているのかも知れないが、その割には足元が疎かになっている
…そんな感じを
一技官でしか無かった自分が戦艦、しかも最新鋭艦の艦長を
その上多くの避難民や第三国の志願兵を抱えた状態での艦の運用は実のところかなり精神的に負担となっていた
特にキラ君については、彼の意思をほぼ無視する形で戦争に巻き込んだ事は今でも情けなく思っている
その負担を多少なりとも軽くしたのが彼である事は重々理解しているし、今思えば幾らでもあの時出来る事があったと後悔しかない
彼がオーブ軍の一尉となってアークエンジェルを訪れた時、やっと彼の顔をマトモに見れた気がした
だからこそ、キラ君もフレイさんもトール君もミリアリアさんもサイ君もカガリさんも
そして彼にも彼なりの幸せな生活を過ごしてほしいと願ったのだ、あの時
なのに
彼は意識不明の重態だと聞く
カガリさんも苦労しているのは分かっている
アズラエル理事からはキラ君やフレイさんに彼の弟さんはそれぞれ事情があって護衛できなかったと
その為オーブ軍が護衛にあたる事になったと聞いている
「カズイの奴が襲われるかも知れないんです!」
決して彼と仲が良かったと言い難いサイ君が、それでも取り乱した様にフラガ少佐に連絡をした
それを私は直ぐにカガリさんに連絡して、何とかなると
防げるものと思っていた
『何だって!
…だが、ミナからはカズイにはしっかり護衛を付けていると聞いてはいる。が、念の為に部隊を動かす様にミナに伝える
ラミアス艦長、フラガ少佐。連絡感謝する』
カガリさんの話を聞いた時、私達は最悪の事態は免れたと安堵したものだ
…でも、そうはならなかった
あの時の様子を見る限り、カガリさんやミナさんは動いていたのだとは思う
カガリさんはそもそも表裏のない素直な人だと言うのが私達の持つイメージだし、ミナさんは彼をオーブ国防軍に入れる時にも複雑そうな顔をしていた事から察するに本心はどうあれやるべき事はしっかりする印象を受けた
「…多分一尉の事をよく思っていない連中が絡んでいるんだろう
ったく、それが無かったら今のオーブは焼け野原になってたってのに」
彼がオーブで襲われた事を聞いた時少佐は苦い表情を隠そうともせずそう呟いたのをよく覚えている
「…難しいとは思っていましたが、まさか一尉が」
キャリー少尉やその部下達も険しい顔をしていた
コーディネーターであり、地球軍に協力している少尉達からすれば彼の存在は心強いものだったのだろう
あまり嬉しい事ではないが、軍内部においても私達が地球へと降下した時期くらいから彼の噂は流れていたとドミニオンの艦長から聞いている
「…まぁ、看板でしょうね
流石にこれくらいは我慢せにゃならんでしょう。階級が分不相応に上がった訳ですからね」
と当時それを知った彼はナタルにぼやいたと聞いた
そこまでしたからこそ、軍は今回のオーブの失態を許容できない
…してはならないのだろう
ナタルも明らかにショックを受けているのに、それでも何とか前を向かうとしている
「…本当に儘ならないものね」
自分の無力さが嫌になる
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私にとって初めての部下であり、色々な意味で大きな存在となっていたカズイ・バスカークという少年
出会った当初の印象は最悪とまではいかないものの、決して良い印象を抱いたわけでは無かった
勿論周囲の害意に対しても向き合い、言うべき事をはっきりと言う
中々出来る事ではないだろう
正直、厄介な人物を部下にしたと当時は思ったものだ
だが、彼は不器用でそれでも何かを守ろうと必死になっていた唯の少年だった
人を殺す決断をして、実行しながらもその命の重みを、痛みを理解していた
必要なら、自分の身を投げ出す事すら厭わない
少々客観的に物事を見る
特に人間関係についてのそれは苦手であった様だが、人間である以上完璧な訳がないとナタルは苦笑混じりで思ったものだ
決定的に事態が変わったのは恐らくあの時だろう
『プラントの歌姫』ラクス・クラインを返還しようとしたあの時
今思い返せば、返還しなければ良かったのだ
そうすれば
…そうすればあんな事にならなかったのに
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『親愛なる蛮勇を愛するザフトの兵士達にご挨拶を申し上げる
ユニウスセブンの悲劇を嘆きながら、民間人のコロニーヘリオポリスを崩壊させた君達の事
…さぞや気分がよかった事と思う』
『君達はこう言うだろう
『ヘリオポリスで地球軍の新型が開発されていた。だから我々はそこを攻撃したのだ
…悪いのはヘリオポリスでその様な事をした大西洋連邦とオーブなのだ!』と』
ラクス嬢をザフトに引き渡した結果、自分達をザフトが見逃す理由は無くなった
想定して然るべき事だったのだ
その結果、彼はザフトにプラントに猛毒を流し込む事となる
ザフトの足並みは明らかに乱れ、ヤマト准尉のストライクとフラガ大尉のメビウスゼロは無事帰還
私達は窮地を脱する事に成功した
だが、その結果彼は軍から有用と判断され少尉にまで昇進させられる事となる
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彼が日に日に疲労を溜め込んでいたのは私も理解していた
キラ・ヤマトはどちらかと言えば彼に頼る事が多い。私達もそうだっただろう
きっかけについては私もそこまで詳しく知る事は無かったが、フレイ・アルスターがどうにも彼の事を気にかける様になった
だから私は彼女に頼んだのだ
『彼を支えてほしい』
と
無論私とて彼をしっかり支えたいとは思っていたが、どうしても軍人でしかも彼の上官ともなると出来ない事も多い
私も出来る限りの事をするつもりだったが、それでも手の届かないところが出てくる事は容易に想像出来る
その辺りはアルスターも理解していたらしく、同意してくれたのは幸いだった
第八艦隊に合流し、やっとアラスカに降下出来る
彼を自由にしてやれると思っていたのに、アークエンジェルに与えられた任務は『北アフリカで要人の保護』
しかも、その要人は彼にとって好ましくないオーブの人間だと言う。北アフリカならば、地中海を縦断しユーラシア連邦領から大西洋を横断すれば大西洋連邦の勢力圏に入る
なのに、オーブに立ち寄らねばならないとなると氾ムスリム同盟領や赤道連合領を通過して行かなければならなくなるだろう
言葉や態度にこそ出さなかったが、アークエンジェルクルーの殆どはその任務に好意的ではなかった
当然だ。我々正規のクルーだけならばいざ知らず、ヤマト少尉やバスカークにアルスターに何を考えたのかホフマン大佐に志願してきたアーガイル二等兵達がいたのだ
先ず大西洋連邦本土で彼等を解放して向かえばいいだけの話
正直なところとして、北アフリカなどという明らかな危険地帯に態々行く様な物好きよりも彼等を守るべきだと思っていたのだから
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オーブの前代表の娘、カガリ・ユラ・アスハ
私からすると彼女のしている事は意味不明だったし、護衛についている人物については彼が言う様に全く理解出来なかった
確かに護衛だから守らねばならないのは事実だろう
だが、危険地帯から遠ざけるのも護衛の任務の一つではないか?
確かに必要なら危険を承知で行かなければならなくなる事もあるだろう。が、それはあくまでも国内での話
国外の紛争地帯に足を踏み入れ、しかもそこでゲリラとして武器を取ると言うのはナタルにとって理解し難い事であった
しかも、彼女はあの時ヘリオポリスにいたと言う
戦闘に巻き込まれる事がどんな悲劇をもたらすか、それを身をもって体験したはずの彼女がその様な軽挙妄動をする理由がナタルのみならずマリューやノイマン達アークエンジェルブリッジクルーには理解出来なかった
「立場ある人間がその自覚なく動き回る
それがどれだけの人間を不幸にするか、分からんのだろうな
お前も立派なアスハの人間だよ、カガリ・ユラ」
と心底不愉快そうに吐き捨てた彼を誰も咎める事は無かったのだからフラガもそうであったのだろう
必要でもない
そして最後に彼の信頼と命を奪おうとしたのだ
勿論そこに至るまでの原因は自分達にあり、誰よりも一番責任を感じなければならないのは彼のそばに居ながら、上官でありながらそれを止める事の出来なかった愚かな自分だろう
部屋に置いていたレシピ本や彼と共に語り合った書籍類は全てしまった
彼との思い出に耽り、嘆き悲しむのは後で良い
今は唯やるべき事をやるだけだ
そうナタルは決意したのだから
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ドミニオンやアークエンジェルが出港の為に動き出していた頃、プラントでは北アフリカの戦闘によって重傷を負ったディアッカ・エルスマンは心底呆れかえっていた
「アンタらさ、戦闘に出た事はあんの?」
「…何が言いたい」
ディアッカは同じくプラント本土に移送されたイザークとは別の医療施設に
…そう、収監
ディアッカにせよイザークにせよ親であるダッド・エルスマンやエザリア・ジュールを動かす為に必要な人質として現在のプラントを操る者達の部下によって監視されていた
ディアッカはその話を聞いた時、思わずらしくないと思いながらも笑ってしまった
『バカらしい』と
人質の監視とは言え、ディアッカの所在は秘しておかねばならない関係上あまり人員を回せない
何せイザークもまた同じなのだから、単純に考えて人員は倍必要となる
加えて最高評議会のメンバーとしての実績のあるダッドとエザリアに対して反発する者はそこまで多い訳ではない
その為直接ディアッカを監視するメンバーは固定されていた
幾ら監視とは言え、何も話一つしないとなればディアッカやイザークにも不満が溜まり、反発されてしまう
それでは面倒だからとある程度の世間話くらいは許容されていたのである
「そう構えなくてもいいだろ?
気になったから聞いただけなんだよ」
「…我々はプラント本土における任務を任されている」
軽く笑うディアッカに監視役を纏めている男は言葉少なく答えた
「だよな」
「…なに?」
「だから分からないんだろうって納得したんだよ」
ディアッカは心底愉快そうに笑う
「アンタらプラント本土にいる連中の認識は未だに開戦当初のまま
『ザフトが地球軍に負ける訳ない』…そんなとこだろ?」
「負ける理由などなかろう」
男は不快そうに答えた
「…負けるんだよ、ザフトは」
「なんだと?」
ディアッカの言葉に男だけではなく、他の男達も顔を見合わせ戸惑った
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クルーゼ隊長の元で俺達が強奪した地球軍の新型
確かにOSは不出来にも程があったさ、けどな?
あれだけの性能を持つMSをあの時ザフトは持っていなかったんだぜ?
今の状況は知らないけどさ、マトモに考えたらアレを元に作った機体が、しかもジンに対抗する為に作られただろう機体がさ
ジンより弱い、なんて考えっかよ?
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「そ、それは」
「そりゃ地球軍お決まりの数で圧してくるやり方もあるだろうけどな
それにあっちも何もしていない訳じゃないんだぜ?」
ディアッカは自分の言葉に狼狽する男を見ながら続ける
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新型を強奪したのは良かったけど、残りの1機とその母艦を取り逃したって事で追撃した訳
隊長が念を入れて待機していたガモフも動員した
こっちはヴェサリウスとガモフ
あっちは足つきだけ
戦力的にも奪った新型4機と多数のジン
あっちは新型とメビウスのカスタムタイプだけ
…なのに墜とせなかった、どれもな
それどころかヴェサリウスは足つきの攻撃を受けて中破、ジンもがなりの数が落とされた
そして地球軌道での戦闘では惨敗
詳しい事が知りたきゃお仲間さんにでも聞けばいいんじゃない?
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ディアッカの言葉に誰もが言葉を失っていた
「地球軌道での戦闘には地球軍のジンもいた
…どういう意味か分かるよな?」
「…地球軍に協力させられている同胞がいる、と?」
「違うっての
地球軍に進んで協力してるんだよ、そいつらは」
男の言葉をディアッカは真顔で訂正するとまた口を開く
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ザフトによる地上侵攻は順調
俺達も最初はそう思ってたさ
…けど、違ったんだよ
アイツらは機会を待っていただけだったんだ
北アフリカに降下したアスラン・ザラ
元国防委員長の息子だけどな?とイザークに俺
俺達は北アフリカ戦線のバルドフェルド隊に合流した訳
ま、当時の俺達は地上の作戦なんて楽なものだと甘く見てた
だがそうじゃない
そうじゃなかったんだ
『じょ、冗談だろ!ナチュラルは何考えてやがる!』
『イザーク、これは無理だ』
『くっ、くっそぉ!』
今でも夢で魘される事のある悪夢
鉄の雨、いや死の雨と言っても過言ではないアレの事を
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「アンタら想像できるか?
瞬きする前に無事だった筈の味方機が瞬きしたら残骸に変わっている。そんな地獄みたいな光景を、さ」
あの時自分もアスランもイザークを必死に逃げた
抵抗しようなんて気すら起きない。暴虐という表現すら生温い
何とか逃げおおせたと思った自分達を嘲笑うかの様に別の編隊が自分達に死の雨を降らせた
一応近くの基地施設の中に避難していたが、何の慰めにもならない
僅か数分でその天井が崩落し、自分達は瓦礫の下敷きとなった。それでもPS装甲が機能していたから安堵していた自分達を待っていたのは
先程の大型機とは違う爆撃機の編隊だったんだ
ザフトに関する全てを消滅させるとばかりの猛爆撃により、俺達が頼りにしていたPS装甲のバッテリーが尽き、気が付けば此処って訳さ
…なぁ、今の話を聞いてもアンタらはザフトに勝利の芽があると思うのかよ?
ディアッカは冷め切った目で自分を監視する者達を見据えた
突発アンケート 本作設定の完全なお遊び回いります?
-
いる
-
いらん
-
それより本編でしょう?
-
ifstory補完しろよ