夢を見せる魔法 作:二次創作しか知らないフリーレン
人間で言うメスの顔で精気を一滴残らず舐め取った妾は、満足そうにゲップを出して青年にかけた魔法を解除した。
彼が目覚めたいと思ったら即現実に戻れるが、どうやらもっと楽しみたいと考えて続行しようとしたようで、妾の命がかかっているので強制的に起こすことにしたのだ。
「あっあれ? ここは? 僕はさっきまで──」
急に意識が覚醒して驚いたようで、彼は飛び起きて周囲をキョロキョロと見回していた。
そんな青年を落ち着けつつ、首をはねられないためにも定例通りの健康診断を行う。
「体に何処か、異常はないか?」
「ええと、ちょっと疲れてるぐらいかな?
あとは、……凄く気持ち良かった」
夢を見せる魔法は成功し、精気を外に吐き出した脱力感も想定通りだ。
濃いのが出たので相当疲れているが、一発だけなので動けなくなるほどではない。
「やけにやつれているように見えるが?」
「彼が我慢を続けた結果じゃ」
冒険者が訝しげにこちらを見ているが、そんなことまで責任は持てない。
しかし、何だかんだで結構な量の精気を吸えた。
魔族特有の衝動も一時的だが解消されたので、しばらくは大丈夫そうだ。
今の妾は、たくさん出してやつれた青年とは逆に、元気いっぱいだった。
ついでにお腹も膨れて、気分は上々である。
「精気の提供、感謝するぞ」
「……魔族にお礼を言われるのは、変な気分です」
周りの村人たちは、何だか微妙な表情を浮かべている。
魔族が人間にお礼を言うのは珍しいらしいが、人間とはそういうものだと理解しているので、それに倣っただけだ。
彼らを真似ることで、これからも精気を提供してくれるかも知れない。
つまりは今後を見据えたご機嫌取りであり、それ以外の意味はなかった。
「それで、次はどうするんだ?」
妾が一息ついていると、冒険者のお兄さんが率直に尋ねてきた。
なので少しだけ考えて、彼の顔を真っ直ぐに見つめる。
「お主は、妾にどうして欲しいのじゃ?
ああ、殺すのはなしで頼むぞ。
まだ死にたくはないゆえな」
妾は弱い魔族だ。
先程の夢を見せる魔法も、青年が抵抗しなかったので上手くいった。
怪しまれたら即斬り殺されるし、縄が解かれても自由とは程遠い扱いだ。
相変わらず、薄氷を踏むような危険な状況が続いている。
妾の生殺与奪は、村人たちに握られたままなのだった。
その後の粘り強い交渉の結果、妾は村の共有財産ということになる。
これまでの行動から普通の魔族と何かが違っていて、見た目が幼女で誰も殺していないことが、プラスに働いたようだ。
けれど魔族であることには違いなく、妾以外の同族はとても危険で人間を餌としか見ていない。
まあそれは自分も同じなのだが、とにかく監視は続けるようだ。
それでも、ある程度は自由に動き回れるようになる。
すぐに斬り殺されないだけでも破格の待遇であり、しばらく人間たちが望む夢を見せてお代に精気を吸わせてもらい、地盤固めに勤しむのだった。
妾が悠々自適な田舎村生活を楽しんでいると、いつの間にか五百年以上が過ぎていた。
今では住人全員と顔見知りで、人畜無害な魔族としてすっかり打ち解けている。
世代が何度も変わった影響もあるが、向こうも妾のことを同じ人間として扱ってくれていた。
しかしそれはそれで困るため、くれぐれも自分の同族を信用するなと口を酸っぱくして忠告する毎日だ。
たまに村を襲撃してくる魔族は、どう足掻いても人肉大好きのヤベー奴しか居ないからである。
なので魔力感知を始終行い、住民に被害が出る前に処理していた。
何しろこの村は、五百年以上かけて経営してきた妾の牧場と言っても過言ではないからだ。
人間たちは手塩にかけて育てた牛さんで、自分は牛乳目的で毎日せっせと搾り取っている。
しかし外からやって来る同族は牛肉大好きであり、勝手に家畜を殺してステーキにして食べてしまうのだ。
これではもはや害獣による被害と変わらず、地盤固めの末に村から街にランクアップしただけでなく、町長に出世した妾が徹底抗戦を決意するのも無理もない話であった。
それはそれとして今日の妾は仕事が一段落したので、まだ日が高いうちに大通りを目的地に向かって移動していた。
すると巡回警備をしている冒険者の人たちとばったり出会い、リーダーのジョージに笑顔で声をかけられる。
「よう、リリーちゃん」
「うむ、そなたらも元気なようじゃな」
今の妾は五歳の幼女ではなく、八歳ほどに成長していた。
一人前のレディにはまだ遠いが、町長として立派な服を着用しているので、着こなしているとは言い難くても可愛い系として見られるはずだ。
まあ夢の世界で経験済みだし、そっちの意味では大人の女性と言える。
そして名前がないと不便ということで、リリーと呼ばれることになった。
別に深い意味はなく適当に決めたが、覚えやすいし五百年も変わらないので今では割りと気に入っている。
ともかく妾は微笑みながら挨拶をして、これ以上は話すことはないので、さっさと先に進もうとした。
しかしジョージが前に回り込んで、困ったような顔で口を開く。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。リリーちゃん。
次はいつ、お呼びがかかるんだ? もう大分ご無沙汰なんだが?」
彼の発言に妾はいつも持ち歩いている小さな鞄から、手帳を取り出してパラパラとめくっていく。
「予定が詰まっておるゆえ、お主の番は数日先じゃな」
彼は露骨にガックリと肩を落として、同じパーティーメンバーが同情している。
戦士であるジョージの他に、魔法使いと僧侶の全員男の三人組であった。
「妾は魔族じゃが、人間たちの定めた決まりに従わねば、駆除されてしまうからのう。
縛りは必要じゃし、致し方なかろう」
「それはそうなんだが、アレを一度でも体験するとなぁ」
妾の夢を見せる魔法は、とても便利だ。
今では噂は諸外国にも広がり、わざわざ遠方から足を運ぶ人が大勢出ている。
おかげで自然が豊かな以外は何もなかった村がとても賑わい、今では街と呼べるほど大きくなっていた。
(まあ妾が権力を握ったら、即刻撤廃してやるがのう)
しかし自分はクソ雑魚ナメクジなので、今のところは人間の決まり事に逆らう気はない。
時が来るまでは虎視眈々と牙を研ぎ、地盤固めに勤しむつもりだ。
幸い順調に出世しているので、町長の次は国王を目指している。
何しろ最近になって町村が団結し、国というものが生まれ始めたのだ。
立場的に流行に敏感な妾は、これは使えると考える。
貴族や王という特権階級が統治する世の中になりつつあるので、自分もそれの仲間入りをすれば、下々の者の精気を吸うぐらいわけもない。
それはそれとして、ジョージたちは他の地域から来た冒険者である。
妾の見せる夢が気に入り、永住を決めたらしい。
そして今日の妾は仕事が一段落したので、町の家々を回って《夢を見せる魔法》をかけている最中だ。
ジョージたちのように、妾のサービスを心待ちにしている人は多い。
商売繁盛ではあるが、貧乏暇なしとも言える。
「はぁ~、あと何日待てばいいんだよ」
「妾に言われても困るのう」
魔族には決して心を許してはいけないし、権限を与えたら手のひらを返して人間たちを殺し始める。
世代が何度変わっても、このような風潮は根強く残っているし、妾も消すつもりはない。
しかし自分だけは例外だと堂々と宣言できる立場にならないと、夢を見せる魔法の順番待ちは当分続くのは間違いない。
「リリーちゃんなら、同時に何人も夢を見せられるだろ?」
「禁止されてるので無理じゃ」
人間たちが定めた決まりに従っているおかげで、討伐されずに生きていられる。
ここで長年かけて築いた信頼関係を、壊すような真似はしたくない。
妾は精気を吸うほど魔力が増える体質だったようで、今では街中の人たちを一度に眠らせることができる。
それでも人間は自分より強い者を恐れるし、異種族だったらなおのことだ。
なので健康状態を悪化させないために、妾は魔力を極限まで抑制し続けている。
魔族の誇りなど犬に食わせてしまえで、自分にとっては牧場経営が第一なのだ。
本当に妾は、色んな意味で異端すぎる。
けれど、代わりに人間たちとは上手くやれていた。
(一応は人を食っておるし、魔族には違いないのじゃが)
しかし精気を吸えば魔力が増える体質といい、人肉は好きでも嫌いでもないことという一般的な魔族とは明らかに異なる。
だがそういう変化や進化について、真面目に考える気は毛頭なかった。
とにかく長年鍛えてきたことで、妾はかなり強くなる。
魔力を感知できる範囲は夢を見せる魔法の有効射程だし、同様に漏れ出た精気も吸い取れるのだ。
無駄にするのが勿体ないので、日夜こっそり吸収している。
しかし、やっぱり直接吸い取るほうが美味しい。
なので仕事の合間に定期的に巡回しているのだが、今はジョージたちに絡まれて少しだけ足が止まっていた
「そう言えば、魔族で思い出したんだが」
「ふむ、何じゃ?」
ジョージは何かを思い出したようだ。
しばらく顎を弄りながら思案し、すぐに口を開く。
「最近、動きが活発らしいぜ」
「さようか」
確かに魔族は最近になって活発化し、うちの街に殴り込みをかけてくる者が多い。
警戒しておいて損はないかと考えていると、遠くにふと妙な魔力を感知した。
(数は全部で四。エルフが一で魔族が三か?)
感覚を研ぎ澄ませて、遥か遠くを見つめるようにじっと目を凝らす。
ジョージたちが妾の雰囲気が変わったことに気づいたのか、緊張しながら尋ねてくる。
「どうかしたのか? リリーちゃん?」
「少々、面倒なことが起きたようじゃ」
急ぎ対処しなければいけないので、今日の訪問は取り止めようと思った。
なので緊急の措置として遠隔魔法を解禁し、訪れる予定の人たちに白昼夢を見せる。
そして事の経緯を伝えて今後のプランについて相談し、続行を希望した客には目覚めたあとにベッドに移動してもらい、改めて夢を見せてお代の精気をいただくのだった。